96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

赤い悪魔の目覚めの予感。 -第12節・サガン鳥栖戦

 6ー2。両チーム計8選手がゴールを揺らし合う、まさに殴り合い。お互いの良さを出しながらゴールに迫るめまぐるしい展開。最終的に大差がつきましたが、スタジアムの空気は最後まで張りつめたまま。見ごたえのある攻防が90分間続いた熱い試合になりました。勝負を分けたポイントは何だったのか、まだ映像を確認していませんが、試合を観ていて感じたポイントを忘れないうちに書きなぐります。

 サガン鳥栖は、"自分たちのサッカー"を全面に押し出してきました。個人的には予想通りというか、それ以外の可能性は考えていませんでしたが、どうやら試合前のレッズの選手たちのコメントを読むと、鳥栖が5バック気味に引いてくるという予想もあったようです。結局昨シーズンの対戦と同じやり方で真っ向勝負を挑んできたわけですが、この真っ向勝負こそがレッズの弱点を突く最も効率の良いやり方ですから、鳥栖の選択は正解だったと思います。

 今節鳥栖の取った守備の方法は次のようなものです。4バック、2枚のボランチサイドハーフのどちらかの7人が自陣でしっかりと待ち構え、残りの3人がレッズのボール回しにプレッシャーをかけます。中にボールが入った瞬間に激しく寄せて網にかけ、ボールを奪い取るやりかたですね。見た目では4-3-3-のスリーラインを作っている時間が長かったように思います。また、槙野・森脇の単純な持ち上がりには必ずどちらかのサイドハーフがついてサイドの数的不利を作らないように意識していたようです。そして、1トップ2シャドーのユニットはCB、ボランチの4枚で自由を与えないようにがっちり固める。最終ラインも高めに設定されていて、とにかく中盤にはスペースの無い状態をキープしていました。こうすることで槙野、森脇、柏木、原口に仕事をさせず、レッズのリズムを作らせないという狙いだったのでしょう。ただし、鳥栖は浦和と対戦するうえで必ず押さえなければならないポイントをケアしていませんでした。

 まず、啓太をフリーにしすぎたこと。啓太自身もコメントしていますが、この試合では予想以上に啓太にボールがつけられたんです。前半の早い時間から、中盤で泳ぐ啓太を鳥栖の選手が全くケアしていない場面が多々見られました。啓太へのパスコースを塞ぐわけでもなく、マンマークをつけるでもない。中盤で自由に泳ぐ啓太に簡単にパスが入ります。そこから鳥栖の選手がプレッシャーをかけるわけですが、それではもう遅い。啓太が中盤で受ける事で、この試合では那須と阿部ちゃんと作る三角形が機能していました。常にパスコースのある状態でビルドアップが可能になり、そこから両ストッパー、ウイングにパスを供給できていました。このビルドアップを許すと、左ではウメ、槙野。右では平川、森脇のコンビがサイドを制圧し、チャンスを作り出してしまいます。ある程度レッズにボールを持たれても良いと割り切るのであれば、攻撃のスイッチ役である啓太は確実に潰しておくべきだったでしょう。

 次に、中を固めるあまりサイドをケアしきれなかったこと。レッズの攻撃を止めるうえで、最も大切なのは1トップ2シャドーのユニットにスペースを与えないことです。ここにスペースを与えれば、2節の名古屋のように一瞬で自陣の守備網を切り裂かれてしまいます。なので、真ん中をしっかりと締めることは大前提なのですが、そうするあまり鳥栖はレッズのウイングにスペースを与えすぎました。特にボールと逆サイドでウメ、ヒラの前に広大なスペースが空いていて、サイドチェンジのボールから一瞬で大ピンチを招くというパターンを繰り返していました。鳥栖のディフェンスは基本的にボールホルダーが自陣の守備網に入り込んだ瞬間に人数をかけて潰すのが狙いですが、もしかしたらこれも悪い方に作用してしまったのかもしれません。とにかくボールのあるほうに全体が寄るので、逆サイドで虎視眈々とビッグチャンスを狙うレッズのウイングを監視できていなかったのです。浦和のビルドアップの基本ともいえる最終ラインからウイングへのラインをほとんどケアしてなかったために、序盤からウメ、ヒラの両サイドからバンバン質の高いクロスが上がっていました。前述のように槙野や森脇の単純な持ち上がりは阻止できていましたが、結局そこを飛ばしてウイングにボールが渡り、その間に槙野や森脇がフォローに上がっていたので、結局サイドを押し込まれてしまったんです。ただ、鳥栖もレッズがサイドを起点に組み立てることはわかっていたはずで、特にレッズの左からの攻撃は警戒していたようです。最初はウメにボールが入っても鳥栖のDFも素早い反応で人数をかけて対応していました。誤算だったのは、レッズの右サイドも高いクオリティで起点をつくれていたことでしょう。とにかく森脇からボールを奪えない。しかも平川の冷静な切り返しからのクロスの質も高い。左に重点をかけて守り、右からの攻撃は中で弾き返すといったプランだったとすれば、予想以上に左右のバランスのとれたレッズのサイド攻撃が一枚上手だったということになりますね。右も左も無視できない威力と精度のレッズオフェンスに、鳥栖のディフェンスは中で弾くのが精いっぱいという状況に陥ります。前述のとおり啓太をケアしていないためサイドへのパスの供給源を断つこともできません。前半から早くも鳥栖ディフェンスの決壊は時間の問題となっていたのかもしれません。

 同時に、レッズのオフェンスの質が高かったことも見逃せない事実です。鳥栖の切り替えの早さに呼応したかのように隙あらば速攻を仕掛け、両サイドの選手が積極的に裏のスペースを狙う。クロスボールには必ず3人以上の選手が詰める。具体的にどうやってゴールを奪うのかとう部分に関して、意識の統一が図られていました。サイドからのクロスに対してもニア、ファーに加えて、後ろからも飛び込んでくるなど工夫が見られましたし、クロス自体も低くて速いボールをDFラインとGKの間にという狙いがはっきりと見て取れました。2シャドーがボールを受ける機会が少なかったのは残念ですが、そこは鳥栖がかなり厳しくケアしていましたし、そこで無理に突っ込まずにオフェンスの選択肢を幅広く持つことができていました。元気はドリブルで引きつけながら時間をつくったり、柏木は積極的なフリーランでスペースをつくったり。本来の彼らの輝きからすればかなり地味なタスクだったと思いますが、そのおかげでサイドの選手が活躍したわけですから貢献度は大きいでしょう。前3人で仕掛けるカウンターにも迫力がありましたし、(柏木がコケなければ。。。笑)この試合では真ん中のコンビネーションで崩す場面が無かっただけで、今後もかなり期待が持てる浦和のストロングポイントです。やはり1週間じっくりとトレーニングできたことが大きいのでしょうか、こういったオフェンスをしていればどんなチームでも止めるのは難しいだろうなと感じる内容だったと思います。

 鳥栖のオフェンスに関しては、完全に普段通り。前回の記事で書いた通り、ロングボール、サイドへの展開、はやめのクロスを愚直なまでに繰り返すという攻め方でした。ただしクロスには逆サイドまで人数をかけて飛び込むこと、セカンドボールを素早く拾うことなどのルールは本当によく徹底されていて、しかも判断に迷いがない。とにかく前へ直線的に攻める。守から攻への切り替えの瞬間にスタートポジションの良い選手が全力で駆け上がっていくわけですから、サイドに人数をかけていた(かけることができてしまっていた?)レッズが戻る前にもうクロスが上がっているような場面もあり、特に前半は大ピンチを何度か迎えてしまいました。クロスが単純に通らなくても、セカンドボールをことごとく拾ってまたサイドへという繰り返し。あれだけやりきれば、そりゃあ0で押さえるのは難しい。試合前からかなり注意はしていたようですが、結局ミシャサッカーの構造的な問題(浦和の進む道は正しいか?-その2参照)もあって、セカンドボールへの対応ではレッズはほとんど後手に回ってしまっていましたね。

 結局蓋を開けてみれば予想通りの殴り合いで、お互いの長所を全面に出す攻撃的な試合内容となった今節ですが、勝負を分けたポイントはおそらく2つあると思います。1つは、レッズのチャンスの質が上がったこと。それぞれの選手の強みを活かすようなチャンスメイクができていました。さまざまなパターンのチャンスを作りましたが、一つ一つのチャンスに明確な狙いがありました。特に速いクロスをたくさん上げることができていたのは今後につながると思います。サイドまでつけてもその後決定機になっていないのが問題点だとこの間書いたばっかりなのですが、こんなに簡単に修正しちゃうんだと驚いたのが正直なところです。今節のような速いクロスに興梠が合わせる形はどんなチームにとっても脅威となるはずで、それを恐れてサイドの選手の縦を切れば後ろから両ストッパーが攻撃参加してくる。そこにも人数を掛ければ今度は真ん中で1トップ2シャドーが空いてしまう、、、と、どんどん攻撃のサイクルが回っていくことでしょう。そのうえうかつにセットプレーを与えれば那須のヘディング炸裂ですから手に負えない。まさに特定の選手に頼らないチームとしてのオフェンスができたと思います。もう1つは、攻めきって勝つんだという強い意識を持てたこと。2-0から2-1、3-1から3-2とこちらの得点の直後に失点を喫するというもやもやする展開が続きましたが、それでも前に出続けた。自分たちのサッカーでチャンスをつくり、それをゴールに結びつけた。あれだけ勢いよくキック&ラッシュをしかけてくる突撃サッカー相手に、一歩も引かずに前に出たのはチームとして大きな成長だと思います。去年の同じカードでは1点獲られただけでビビってしまい、そのまま圧倒されてしまいました。命からがら逃げ切った去年と比べると、やっているサッカーに相当自信が持てるようになったんだなと感じます。前の選手、後ろの選手がお互いに信頼し合いながらやれているんでしょうね。僕は、こういった部分が6-2というスコアに反映されたのではないかと思います。

 鳥栖も決して悪いチームではありません。どこかのコピペじゃありませんが、やっているサッカーは悪くない。ただ、ミシャ・レッズの積み上げてきたものが、戦力に劣る小クラブにはなかなか止められないような赤い悪魔の新しいオフェンスが、少しずつ完成に近づいているということです。

 今日、浦和が勝ったのは必然だったように思います。