96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

優勝と、このチームの、行方。

96です。久しぶりにチラシの裏

 

 残り3節となって迎えたホームでの川崎戦。これで川崎との対戦は今季4回目となりました。0-4で完膚なきまでに蹂躙されたアウェイでのリーグ川崎戦、2点を先行しながら大久保のスーパーミドルが飛び出すなど川崎の反撃を堪えきれなかったナビスコ準決勝第1戦、決勝進出を目前に萎縮した川崎を圧倒し、興梠の”らしい”ゴールで紙一重の差で決勝への切符を掴んだ第2戦。。。過去3回の対戦では勝利したものも含めてすべて苦戦しています。ミシャサッカーをよく知るレッズサポであれば、今節も決して楽には勝てないだろう、と予想するのが当たり前のことです。もちろん僕も、かなりの苦戦を強いられることは覚悟して臨んだ試合でした。

 

 結論から言ってしまえば、今季何度も何度も見せてきた、”チームの若さ”を例のごとく露呈した試合となりました。前節の仙台戦も含め、ミシャ監督就任後、幾度となく高ーい授業料を払い続けるだけでは飽き足らず、タイトルへの挑戦権までも半ば手放してまで、このチームは自分たちの若さを再確認することを選びました。サポの目線からすれば、何度やれば気が済むんだ、という感じです。僕も本当にそう思います。試合後にブーイングが起きなくて意外だったと思うほどです。序盤のあまりにもあっさりとした失点、同点に追いついた後のオウンゴール、焦って攻め急いだところにカウンター。あまりにも、勝てないチームの試合運びの典型、と言う感じで、もはや笑えてすらきます。。。と、愚痴を書き連ねるのもチラシの裏の使い方としては正しいのですが、今日の試合はいくつかポイントを見つけて観戦できたので、書き残しておこうと思います。

 

 試合を振り返るにあたって、川崎についていくらか整理したいと思います。基本的には、川崎の狙いはカウンターです。奪って攻める、それが川崎の狙いです。ただし、バカ正直に体力が無くなるまで敵チームを追い掛け回すわけではありません。川崎フロンターレというチームは、大久保やレナトなど、前線の破壊力がクローズアップされますが、司令塔の中村憲剛を中心に、中盤にインテリジェンスのある選手が多いのがチームの特徴のひとつだと思います。前から奪いに行くのか、後ろで固めるのか、チームの重心をどこに置くかの判断ができる選手が中盤にいるというのが、川崎の強みではないかと思います。リーグでのアウェイ川崎戦では、レッズのビルドアップに大して川崎は前から奪ってカウンターを徹底してきました。ナビスコカップでの1戦目はシステムを揃えてがっちりと守る形で入ったものの、うまく機能しないと判断するや4バックに戻し、レッズの攻撃を引っかけてから素早いカウンターに出て逆転に成功しています。ナビスコ第2戦はレッズが川崎を攻略できていたと思いますが、今節ではまたも川崎の守備を崩し切ることができませんでした。

 

 今節はというと、あるポイントを過ぎると一斉に連動して動きだし、レッズのビルドアップを引っかけて奪うことを狙いとしていたように思います。これまでの試合経験の中でわかったことなのか、川崎はチームとして最初からこうなのかわかりませんが、川崎のプレスは見ていて面白いほどスイッチの入るタイミングがわかります。というのも、大久保やレナト、大島、憲剛と言った選手が複数人、多くの場合3人同時にプレスを始めるのです。レッズのビルドアップ時の4バックに対して、その3/4を確実に1対1で潰すプレスをかけてきます。レッズのビルドアップは基本的に二人一組を両サイドで作り、そこに啓太を絡めて作っていきます。ただし、最近の浦和のビルドアップにはボランチがいないため、高さのズレがほとんどなく、真横のパスコースを切られると一気に苦しくなることが多々あるのかな、と思っています。

最近の浦和のビルドアップ

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宇賀神      平川   ←両WBは基本的に落ちないため、最終ラインと距離がある

              ←中盤が無いため、最終ラインは前につけるパスが出せない

 

      啓太          ←啓太は安全にパスをつなぐため頻繁に降りてくる

槙野 阿部 那須 森脇    ←結果、4(啓太入れて5)人のうち3人に人がつくと、ボールの出しどころがなくなる

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つまり、最終ラインの選手たちは縦にパスコースを持てないままボールを前に運ぼうとしているため、両脇のパスコースだけ切ってしまえば、後ろに戻すしか手がない状況が頻発するんです。こうなると、サイドに追い込むだとか、ボランチが連動して動くだとか、ほとんど関係ありません。前3人がタイミングを見てレッズの最終ライン3人にプレッシャーをかけるだけで、レッズのビルドアップは機能不全を起こしてしまいます。本来であれば、啓太はより高い位置をとらなければいけません。最終ラインと前線の5枚の真ん中あたりで待ち構えて、中継役を果たす必要があるはずなのですが、現在のレッズのやり方では、啓太はあるべき位置をとることができないのです。なぜ、あるべき位置をとれないのか。その答えは、阿部と那須が持っています。アウェーで2-3と敗れたナビスコ準決勝1戦目、前半レッズは圧倒的な強さを見せて試合を支配しました。その時レッズは、意図的に両ボランチを最終ラインに落としてストッパーを中盤に押し上げるビルドアップを図りました。

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宇賀神       平川

   

森脇        坪井   ←中盤の真ん中は0人。

              

  阿部 暢久 那須      ←3人で回すので、通常より選択肢は少なくなる。。。

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このビルドアップも、ボランチを0にしてしまうという意味では、すぐに機能不全を起こす先ほど紹介した状態と同じに見えます。しかも、最終ラインは3人で回すので、一見選択肢は少なくなってしまうように思えます。実際はこの形は非常にうまくいったのですが、その理由は、リベロの暢久にあります。この形で戦った前半、暢久から中盤に押し上げられた両ストッパーへ、一人飛ばしたパスが非常によく通りました。ボランチの位置に人がいないので、一見選択肢は少なく見えますが、暢久が両隣に降りたボランチだけでなく、一つ飛ばして両ストッパーにもパスをつなぐことができたことで、3人でのプレスをことごとく回避することができていたのです。(つい数日前に戦力外になった暢久の能力の高さを再認識できるようで切ないのですが。。。)重要なポイントは、一つ飛ばしのパスです。ミドルパスと分類しても良いと思います。これが、今のレッズのビルドアップには決定的に欠けている。阿部からも、那須からも、このようなパスは最近全くと言っていいほど出ていません。最終ラインを何枚で構成しても、ビルドアップが各駅停車のパスのみでは相手は崩れません。阿部から森脇へ、那須から槙野へ、そのような一つ飛ばしたパスによって、最終ラインの選択肢は広がります。もちろんリスクはありますが、そこまで守備側がケアしようとすれば、3枚では絶対に足りません。つまり、プレスにかける人数を増やす=必ず啓太のところが空いてくるんです。必然的に啓太はリンクマンとしてより効果的なポジションがとれる。。。はずなのですが。そんなわけで、レッズは現在絶賛各駅ビルドアップ中のため、後ろから効果的なボールを入れることがほとんどできていません。もちろん川崎は高すぎず低すぎずの良いバランスで守っていましたから、今節の状況で一つ飛ばしのパスを狙えるタイミングもそう多くは無いのですが。(ちなみに、また愚痴ですが、今日みたいな風の無い日でも最近はサイドを斜めに切り裂くパスがあまりも少ない気がします。せめて阿部→平川、森脇→宇賀神のようなパスをもっと使わないと、この手詰まり感は最終節まで改善されないような気がします。)現実的な対処として、今までできているのが2パターンあります。一つは、宇賀神が前線に張らずに、槙野と近くでサイドから組み立てるパターン。宇賀神も槙野もそれに絡む元気も足元の技術があるので、狭いスペースでも前を向いてボールを運んで行けます。もう一つは、柏木が降りてきて捌くパターン。柏木はミドルパスがJリーグでもトップクラスにうまい選手なので、とりあえずはボールを密集から逃がして展開することができます。ただし、どちらも根本的な解決には至っていません。左サイドはすでに目立ちすぎているため相手も人数を掛けて重点的に守りますし、柏木が降りてしまうと展開はできてもその後のアタッキングサードでの崩しの枚数、アイデアが足りなくなってしまいます。今節も、レッズが左サイドの崩しや柏木の展開でチャンスを作り、シャドーにボールを当てるところまではできていました。ただ、冒頭述べた川崎の中盤の修正力が上手でした。ダブルボランチの形をしっかり作って、シャドーに蓋をすると同時に、右ボランチのスライドする距離を短くして、レッズの左サイドからの攻撃に素早く対処できる形にしたのです。そうなってしまうと、今のレッズは手詰まりです。右サイドへ展開して打開を図りますが、平川のクロスは決定的なものにはならず。なぜか埼スタで今日最も浮き足立っていた森脇良太のミスからのコーナーで”いつも通り”速い時間に先制点を献上した意外に失点しなかったのがラッキーなくらいだったと思います。交代するまで終始グダグダだった森脇は、どうしたんでしょうか。プレッシャー?正直今日の出来ではミシャも怒って当然、優勝争いをするチームで使える選手のプレーではありませんでした。リスクを犯すなら思い切ってやらないと。中途半端に安全を考えたパスが、何本川崎に引っかかったことか。守備のリスクマネジメントもおろそかで、お前はブラジル人とマッチアップするの始めてかと聞きたくなるような守備。勝てなかった理由の8割は森脇だというくらい悪い日でした。疲労やプレッシャーが溜まってるのはわかるのですが、シーズン中盤までは安定した活躍で信頼に値しただけに。。。最後、ふんばってほしいです。(Jsゴールのコメントにある「監督は本当に思ってることは言わないのも仕事のうち」というのは、森脇のことを指していると思います。それくらい、悪い日でした。)

 

 ただし、森脇を戦犯にするつもりはありません。今日レッズが負けたのはチームの抱える問題のせいだと断言できます。森脇が出場している間に、レッズは1-1に追いついているのですから。問題はそのあと、誰も試合をマネジメントしようとしなかったことです。それは、ミシャも含めて。槙野が元気と一緒にサイドを半ば強引にこじ開け、同点ゴールを奪ったのが57分ごろ。その時点で30分以上試合は残っていました。0-1から追いつく時間帯としては上出来です。そこから30分かけてゆっくり1点とれば勝っていたのです。川崎は明らかに消耗していました。前述のとおりプレスをかけつつ、状況に合わせて中盤の重心を後ろに下げたため、中2日の体力が消耗しかけていました。憲剛の前と後ろでチームが分断しかけていました。同点にされて焦る川崎に、なぜ付き合ったのか。一度2分でも3分でもキープして、後ろでボールを回して川崎を悩ませても良かったはず。同点に追いつき5分5分の状況(むしろ浦和有利)に戻しながら、あんなにばたつくチームが優勝できるわけがありません。単純な若さ(未熟さ)なのか、本当に勝ち方を知らないのか。ミシャだって一言「ステイ」と言うこともできたはずです。攻めきるサッカーはもちろん歓迎ですが、それがペース配分もせずに猪突猛進し結果は出たとこ勝負ということであれば、正直・・・。順位表の上では、優勝は7割以上マリノスの手中に収まりそうなところです。今の浦和はあまりにも若すぎる。

それでも、残り2節に期待しないということはあり得ません。若いということは、伸び白があるということ。まだまだ未完成の未熟なサッカーですが、それでもリーグで最もゴールを奪って2位につけています。ひさしぶりに勝ち点60達成の可能性もあります。広島のそれとはまた違う、浦和版ミシャサッカーの輪郭も見えてきました。そしてその完成形は、どうやら究るに値する魅力的なサッカーのようです。それには、いくつもの課題をクリアしなければならないでしょう。とにかく直近の問題で言えば、ビルドアップでビビりすぎているので、その修正。一つ飛ばしのパスを使えない限り、後ろで相手を1枚はがした状態(数的有利で畳み掛けられる状態)を能動的に作り出すことはできません。もし、一つ飛ばしのパスを使わないのであれば、ショートパスのスピードを1段も2段も上げなければなりません。現状、ショートパスのスピード不足が原因で相手のスライドが間に合ってしまっています。なので、ブロックの外でボールを回しているだけで、揺さぶりにも何もならず、自分たちの時間を消費するだけになってしまっています。より速いパスを使えれば、スライドが追い付かなくなったギャップを突くこともできるのです。そして、ゲームを支配する認識の共有。ポゼッション率を上げる事が試合を支配するわけではありません。ポゼッションをベースに、試合のペースをもコントロールするサッカー、”支配的なサッカー”こそ、浦和版ミシャサッカーの完成形のように思います。その完成にはまだまだまだまだ遠いようですが、それだけの伸び白を持ちながら優勝争いを続けられることを幸せに感じながら、あと2戦、全力でサポートしたいと思います。