96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2016シーズンの浦和レッズ:2年半前と比べて

こんにちは。

 

2年前の記事を読み返したところ、バックラインのビルドアップがうまくいかず、川崎のプレスにハマり失点、いったんは追いつくものの敗戦、、、という内容だったようです。覚えてません。ともかく、せっかくなので2年前のこの川崎戦と、今年の最新試合であるACL広州戦を比較してみます。

 

2013 Jリーグディビジョン 1 第32節 vs. 川崎フロンターレ

        興梠

       原口 柏木

宇賀神 阿部 鈴木 平川

  槙野   那須 森脇 

       山岸

懐かしい名前が入っている一方、関根はデビューすらしていません。

レッズの失点はコーナーからジェシ、槙野のOG、中央抜け出した大久保にスルーパス、山岸をかわしてゴールに流し込まれ3失点。

一方レッズは槙野の仕掛けのこぼれをかっさらった元気が突破しエリア内槙野に折り返し、そのまま滑りながらシュートを決めたものでした。

浦和レッズ × 川崎フロンターレ ハイライト 2013 11/23 - YouTube

 

当時の自分の記事を読むと、ビルドアップがうまくいかなかったことに納得がいっていなかったようです。特に当時は後方からの展開が少なく、攻撃は主に槙野・元気の突破を中心とした左サイド柏木・興梠への縦パスからの中央でのコンビネーションが軸だったように記憶しています。

問題点としては、安定しないビルドアップ比較的頻度の少なかった右サイドからの攻撃、そしてバランスを崩した状態からの後半の失点、それに起因する試合運びの拙さがあげられるかと思います。

 

一方で最新試合。

AFCチャンピオンズリーグ2016
2016年04月05日(火) 19:30 KICK OFF vs.広州恒大

      ズラタン

    武藤 梅﨑

宇賀神 阿部 柏木 関根

   槙野 遠藤 森脇

      西川

サッカーにおいてスターティングメンバーの定点観測にどこまで有意性があるのかわかりませんが、実に6人が入れ替わりました。1トップ2シャドーのユニットは総入れ替えとなっています。(興梠は途中出場)

前回の記事の川崎戦時点でのチームと、その特徴を比較してみたいと思います。

 

強み①:左サイドからの突破

昨シーズン終盤~今シーズンにかけて、当時よりも槙野の攻め上がりを起点とした左サイドからの突破の回数は減りました。元気の移籍も大きな理由の一つですが、リーグ終盤の守備崩壊を原因に失速を繰り返した当時からの失敗を踏まえた攻めがありの自重と、後述するポジションの適材適所によるところが大きいように感じます。その代わり、右サイドには関根のドリブル突破という新たな武器が加わりました。結果現在では右サイドからのクロスの本数が飛躍的に増えており、攻め筋に変化があることは間違いありません。

強み②:コンビネーションからの中央突破

ミシャサッカーの根幹である中央突破ですが、その熟練度は時間の経過とともに向上しているように思います。ただし、前線のユニットを構成する選手は常時入れ替わっており、選手同士の相互理解だけが向上の要因ではありません。一つには、コンビネーションの起点となる後方からの縦パスの質の向上が考えられます。当時はチームで一番縦パスがうまい柏木が縦パスの受け手というある種歪ともいえる構成となっていましたが、現在では柏木はボランチにほぼ固定され縦パスの配給役となりました。また、縦パスを収める役がチームに興梠一人だけだった2013年に比べ、現在ではズラタン、李、(石原)と前線で体を張れる選手が複数いることも大きな強みです。これだけのクオリティを持った選手を1チームに複数用意できているのは浦和だけではないでしょうか。柏木がボランチに落ちたことで空いた縦パスの受け手役には、今シーズンから9番を背負う武藤が定着しました。彼のシャドーとしての一番の資質はターンの速さだと思います。受けて、前を向く。これだけの単純な動作ですが、あの元気でさえシャドーの位置で背負った状態から前を向くことにはかなり苦労していました。シャドーが前を向けない限り、中央突破は成立しません。これが淀みなく、しかもプレッシャーがかかってもできることが彼のシャドーとしての最も根本的な強みといえます。

弱み①:安定しないビルドアップ

不安定なビルドアップについては昨シーズンまでも断続的に発症し痛い目を見ているため、現時点で劇的な改善と太鼓判を押すことはできませんが、前述の柏木のボランチ転向、今シーズン新加入の遠藤の存在が非常に有効に作用しているようです。阿部、柏木、遠藤のセンターラインからは、それこそ一瞬でもスキがあればサイドチェンジ、縦パス、一発ロングフィードなど局面を大きく変えるパスが出せます。相手を押し込みきった状態では疑似3ボランチ、もしくは柏木が大胆に前線に絡むことで3シャドー+阿部、遠藤のダブルボランチといった形を作ることもできます。(甲府戦の決勝ゴールの起点は遠藤の縦パスでした。)ミシャサッカーにおけるリベロを加入10試合満たない中でこれだけのレベルでこなす遠藤は正真正銘の化け物であり、阿部2世の呼び声に足るどころか阿部すら超えてしまうのでは?と思わせる逸材です。この遠藤の加入こそが、浦和版ミシャサッカーのラストピースだったのではないかと思えるほどです。

弱み②:右サイドからの攻撃

これについては前述のとおり関根を見出したことにより劇的に改善され、今や左依存の時代を忘れてしまうほどの主力武器となりました。また、このことが間接的に浦和の守備力向上の基礎となったことは見逃せません。関根の台頭と浦和が終盤の守備崩壊で優勝を逃し大きな失望を経験した時期が重なるため、どちらが先かと断定することは難しいものの、槙野が攻撃を自重し、守備に比重を置くことができたのは関根の突破が信頼できるからに他なりません。つまり、関根がその爆発的な運動量に加え最前線でWGとしてのドリブル突破の役割を担うことでよりリスクをかけずにサイドからのドリブル攻撃を展開できるようになり、槙野が攻め上がるリスクを負う必要性が薄れたと考えられます。これが明らかに全体の守備の安定感に繋がっていると考えられます。

弱み③:終盤の失点・試合運びの拙さ

甲府戦の最後の失点のように、まだまだ終盤の失点の悪習を完全に払しょくしたとは言い難いですが、この点についても向上が見られます。これは、これまで高い高い高い授業料を払ってきた手前当然といえば当然なのですが、前述のリスクをかけるポイントの変化や遠藤の加入、昨シーズンから取り組んでいる前からの守備の向上などが要因として挙げられます。サッカー界のトレンドとも言えますが、前に人数をかける戦術上前で守備をしたほうが有利なのは非常に論理的な結論です。これがハマらなかった場合に失点することはあるでしょうが、ことJリーグにおいては浦和は相手チームから非常に(過剰に)リスペクトされ守備的な戦術を相手にすることが多いこと、一部チームを除き前線に強力な個を持つ外国人選手を揃えたチームが多くないことから、今のところ大きな破たんは磐田戦以外にありません。逆に言えば、強烈な個を前線に配置できる広島(ウタカ・浅野)、ガンバ(宇佐美・パトリック・アデミウソン)、名古屋(シモビッチ・永井)、マリノス(カイケ・マルティノス中村俊輔)、磐田(ジェイ)が今シーズンの浦和にとっての要注意チームと言えます。どのチームと戦っても五分以上にゲームを支配しコンビネーションから得点チャンスを作ることは今の浦和にとってそこまで難しいことではありません。ただし、被カウンター時やセットプレーなど試合に数回訪れる相手FWと浦和DFの1on1からの失点リスクはケアしきることができません。特に前線からの守備を徹底したもののそれを突破された場合はカバーがほとんど間に合わない(特に柏木の裏を取られた瞬間など)ので、他チームよりもその点のリスクを浦和は負っているといえます。

 

まとめると、2年半前(2013シーズン)から浦和は劇的に進化を遂げ、多くの問題点を改善してきました。柏木のボランチ転向や関根の台頭、西川、武藤、遠藤の加入など適材を獲得しミシャサッカーに組み込むことで大部分のバランスを改善し、現在のJで構成できる最高レベルのチームを作り上げているといえます。一言で言えば、現在のメンバーが考えうる浦和版ミシャサッカーの完成版に非常に近いといえます。前述のように唯一ともいえる問題は前線からの守備が外れた場合、そしてセットプレーでの個の対処です。これについて劇的に改善するにはさらに良い選手を買ってくることしかありませんが、チームから8人以上が日本代表に選出(世代別含む)され、所属選手の全員が世代別代表経験者というナショナルクラブともいえる現有戦力から劇的な改善は望めません

つまり、2016シーズンはミシャ政権におけるピークのシーズンと考えられ、今年優勝できなければ本当にこの先ミシャでは優勝できないと言わざるを得ないほど充実した状態です。

とにもかくにも、けが人なくシーズン通して良いパフォーマンスを見せ、ぜひタイトルを掲げてほしいと思います。

 

終わり。