96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

積み上げの差と小さな一歩。 Jリーグ第4節 vs横浜Fマリノス 分析的感想

ここまで公式戦5試合でわずか1勝、全試合で失点中と浮上のきっかけがつかめないレッズ。Jリーグ第4節は開幕から新監督のもとで取り組むポゼッション&ハイラインサッカーが注目を集めるマリノスとの対戦となりました。

 

 

両チームの先発はこのような形。

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控え:福島、岩波、阿部、直輝、マルティノス、荻原、ズラタン

 

新たなスタイルを構築しつつあるマリノス

レッズはこれまでと異なる4ー4ー2を採用。武富が興梠の横でトップの役割。中盤の中央は青木と柏木が並ぶ形となりました。一方、マリノスはこれまで先発していた中町に変えて中盤IHにバブンスキーを起用しました。また、アンカーの位置には開幕先発で素晴らしいパフォーマンスをした喜田が怪我のため前節と同様扇原が起用されました。レッズはこれまでの基本フォーメーションである4ー1ー2ー3を「捨てて」、4ー4ー2を採用したわけですが、このマリノスとの一戦、最大の注目点はレッズがどのような形と狙いでマリノスと対戦するかというところでした。マリノスの新監督ポステコグルーの基本的なフォーメーションは4ー1ー2ー3。並びの上ではレッズと同じ形ですが、その大きな特徴として注目されているのはいわゆる「アラバロール」。ビルドアップの状況に合わせてSBが中央よりにポジションを取り、ボランチに近い役割を果たすというSBの戦術的配置です。発案者はマリノスの属するシティ・フットボール・グループの総本山クラブであるマンチェスター・シティを率いるグアルディオラ。彼がバイエルン・ミュンヘンを率いていた際に採用した戦術です。本家「アラバロール」はその名の通りアラバが元々CHでプレーできる選手であったことに端を発する戦術で、CHがSBの位置でスタートしつつ、局面に合わせてCHの役割を果たすというものでした。一方マリノスでは山中、松原のサイドプレーヤーが中央に入ってプレーしています。また、マリノスは極端なハイラインを採用しており、これまでの堅守のマリノスからコンパクトな陣形をベースにしたポゼッション/パスサッカーを志向しています。このマリノスに対して、レッズが通常の4ー1ー2ー3で対応する場合、いくつかの問題点が発生しそうです。

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もっとも基本的な問題はアンカー青木の脇どうすんねん問題です。浦和のIH2枚は基本的に守備でも前方方向への意識が強く、アンカーの扇原についていく動きは得意ですが、その裏に入ると青木の脇のスペースでマリノスの2枚のIHに自由を与えてしまいます。また、SBが幅を広くとる場合、浦和の3枚のFWでは基本的にどちらかのSBが自由を得てしまうため、そこを突かれるとマリノスの最終ラインの前進を許してしまうことになります。これは浦和の4ー1ー2ー3が抱える大きな問題で、今のところ中盤でのフィジカルの強度と前線へのパス精度、FKのキッカーを考えると長澤と柏木を外すことが出来ないことに起因するため、わかっていてもなかなかドイスボランチを採用できない、または堀監督の志向として明確に手当をしてこなかった部分です。

さらに難しいことに、特に扇原が2CBの間に落ちてビルドアップを助ける場面では、マリノスの両SBが前述の通りボランチのポジションを積極的に取ります。

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このような盤面においては主に二つ危険なポイントがあり、まずは浦和のFWがボランチ化するSBに中央までついて行く場合、マリノスのCBはある程度自由を得ることができ、さらにSBが浦和FWを中に引き込むことでCBから幅をとったWGまでの直接のパスコースを開けてしまい、簡単にファイナルサードへの展開を許してしまいます。ならばとボランチ化するSBをIHに任せても、サイドでWG、IH、SBのトライアングルからのコンビネーションで浦和SB裏の攻略を図るプレーがデザインされています。このSBのボランチ化を含めたマリノスのオフェンスにどのように浦和が迎え撃つのかが、試合前の大きな注目ポイントとなっていました。

 

浦和の攻守の狙い

結局浦和は前述のように4ー4ー2を採用したわけですが、浦和としてはポゼッションを志向するマリノスにポゼッションで対抗しようという意図は薄かったのかなと思います。どちらかというとマリノスのハイラインの裏に広がる広大なスペースをショートカウンターで突いていくというのが基本的な戦い方だったのではないでしょうか。具体的には、セットの守備においては2列目の4枚はおおよそペナ幅をキープするようなスタートポジションを取り、マリノスのSBが中央に絞ってきた際のプレーエリアを制限しようという狙いがあったように思います。また、マリノスのSBが中央に入らず通常のポジションでプレーする場合には、そのまま両SHの位置に入った武藤・長澤がサイドまで出て行ってSBをケアすることでファイナルサードへの侵入を阻止するように整理されていたようです。

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また、FWを2枚にすることでマリノスの両CBへプレッシャーをかけ、WGの待つファイナルサードへの直接のパスを制限し、マリノスのビルドアップの落ち着きどころを消していきたいという狙いもあったかもしれません。このような主に中央のケアを通じて、高い位置でボールを引っ掛け、なるべく早く裏のスペースへ走り込み、GKとの1対1に持ち込んで行くというのが基本的なプランだったのではないでしょうか。この狙いは、マリノスゴールキック時にもショートパスを繋ごうとする場面で、同様の布陣を維持したまま最前線からのプレッシャーをかけていたことからも読み取れます。

また、これまでうまくいかなかった攻撃面においても堀監督は修正を施していました。これまでは浦和の両WGはなるべく幅を取り、相手のDFラインを広げ、そのスペースにIHが侵入することで中央での興梠とのコンビネーションをはじめとした決定的な場面を作り出すというのが主な狙いとされていました。一方で今節は2トップとして初めから興梠の隣でプレーする武富に加えて、武藤も攻撃時には中央に入り込み、ミシャサッカーにおける1トップ2シャドーに近い位置を取りました。中央に3枚のFWを並べて近くでプレーさせることで最前線でのコンビネーション発動を促す狙いがあったのだと思います。実際、WGとして幅取りのタスクをこなしながら武藤が最終的に中央に入り込んでゴールを奪うという形はこれまでの今季の試合ではなかなか機能せず、サイドでなかなか機能しない武藤を起用する意味自体がほとんど失われているような状態だったため、この配置は武藤の特徴を活かすという意味では得策です。では堀監督の重視する攻撃の幅取りは誰が行うかというと、今節では両サイドバックにその役割が与えられていました。

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浦和の今節の両SBである宇賀神と菊池は、マリノスの極端なハイラインによって中盤が圧縮され非常に早い展開が続く中、その走力を活かして上下動を繰り返し、すきあらばマリノスの最終ラインの裏のスペースをサイドから攻略する高い意識が見られました。実際の展開の中でも、圧縮された中盤の影響か中央の3枚に加えて柏木や長澤が最前線近くに顔を出すシーンが多くあり、副次的に中央に絞って守備をせざるを得ないマリノスの最終ラインをサイドから一気に突破してクロスを狙うシーンがありました。従って、浦和が今節狙いとしたプレーは概ね良くデザインされており、またこのようなやり方に合うよう、トップに裏抜けと守備ができる武富、右SBに走力を武器にできる菊池を起用したことも合理的であったと言えると思います。

 

勝負をきめるべきだった前半

今節の前半は、上述のようなお互いの狙いが相互に作用する形で非常に慌ただしい展開を見せました。マリノスは自分たちの狙いを強調すべく極端なハイラインで中盤を圧縮、浦和のプレースペースを消しつつ、両SBや扇原を使いながら主にサイドのトライアングルを使いながらの打開を狙います。対して浦和も中央のスペースを4枚の中盤でケアしつつ、マリノスのビルドアップを引っ掛けるために高い位置からボールを追いかけて応戦します。どちらが主導権を明確に握ったというわけでもなく、目まぐるしい攻守の入れ替わりを経てお互いが急所を付き合う前半のゲーム展開は、水曜日のルヴァンカップでの凄惨な敗北を目にしたサポーターにも希望を抱かせたのではないでしょうか。実際、前半の浦和は狙い通りのインターセプトやポジティブトランジションの素早い切り替えを利用しマリノスのハイラインの裏を脅かします。ただ、今節の浦和には運と流れが足りませんでした。裏を狙ったパスの多くはオフサイドの判定。dazn の映像で確認した限りでは少なくとも10分の興梠、26分ごろの武富の2回のオフサイドはオンサイドと判定されても違和感の無いものだっただけに、ここで先制点を奪い取ることが出来なかったことは浦和にとっては痛恨というほかありません。運が無かったで済ますべきでは無いのかもしれませんが、今節のメインスタンド側副審は試合を通じて高いラインでの攻防に神経質で、怪しい判断はオフサイドにしてしまうような雰囲気もあり、それがアドバンテージに働くこともディスアドバンテージとなることも踏まえると、負けが続いているからなのか、運と流れをここで持ってくることが出来なかったのが非常に悔やまれます。もちろん、オフサイド判定を受けなかった攻撃でも良い形は作れており(特に菊池の右サイド突破からのアーリークロスはおしかった)、これらの攻撃がどこかで点に結びついていれば、試合は違ったものになったかもしれません。ただ、これも流れが悪いからなのか、中央で久しぶりに活き活きとしたプレーを見せた武藤や、前線で得点を任された武富、二人のサポートを近くで得た上に高いラインで特徴を多く活かせる場面のあった興梠など、我慢できずにオフサイドに引っかかったり、トラップミスをしたり、一発で狙いすぎて結果的にコンビネーションのタイミングを逸したりと、どうも早く点が欲しいが故に攻撃が雑になってしまったことは否めません。このあたりは難しいところですが、今回のような2トップや4ー3ー2ー1気味の並びで中央に枚数を準備しておくやり方自体は選手の特徴を踏まえても間違っていないはずなので、今回限りで終わらせず、継続的に選手がより活かせる近い距離感でのプレーを整理してほしいと思います。

 

飯倉とバブンスキーの貢献

試合はその後、浦和の先制攻撃が不発に終わる中、徐々にマリノスがビルドアップの精度を高めていきます。これに対して浦和は、特にセットで守れる場面では、上述の4ー4ー2をベースとしつつも高い位置までプレスを掛けに行くことを選択していました。具体的には下図のように両CFが中澤、デゲネクをマークし、武藤と長澤のSHはマリノスの両SBをケアします。そして時に最終ラインに落ち、時に3列目でボールを受けて長いパスを展開できる扇原は、柏木が基本的には中央で待ち構えつつも、扇原にボールが入るタイミングで比較的高い位置まで追いかけていく整理をしていました。これはおそらくマリノスの前節鳥栖戦を踏まえたスカウティングがあったのではないかと思います。開幕節で新たなマリノスのけん引役として名乗りを上げた喜田と異なり、扇原はマリノスの2枚のCBからボールを引き出す動きが比較的少なく、パスコースを作るポジショニングが時折不十分なため、CBの前のスペースを漂うだけになってしまい、なかなかアンカーからリズムを作り出せないというマリノスとしては非常に歯がゆい現象を引き起こしていました。浦和としてはこれを踏まえ、前述の通り数を合わせて追いかけるビルドアップ潰しでショートカウンターを連発する作戦だったのではと思います。

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これを根本から破壊したのがバブンスキーと飯倉のビルドアップへの貢献でした。今節のバブンスキーは持ち前のオンザボールの技術をベースに、扇原が最終ラインをサポートしきれない場面で悉く顔を出し続けました。ボールを受けてはターンし前へボールを付ける、もしくは一発で宇賀神の裏へ遠藤渓太を走らせるなど展開するパスは豊富で、簡単にはボールを取られないスキルがあるのでファールももらうことができる。このようなスキルの高いバブンスキーが、一見フリーマンのようにサイド、中央に顔を出しながら扇原とアンカー役を分け合っていました。これが浦和にとっては非常に厳しく、ビルドアップ潰しに加えてバブンスキーまでケアすると完全に2列目の4枚がバラバラにされてしまいます。

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しかもバブンスキーはサイドのタッチライン際だろうとアンカーの位置だろうとあまり関係なく必要なところに落ちて行くので全てを追えるわけではない、にも関わらずフリーにすると少ないタッチで決定的なパスやドリブルが出てきてしまう、という状況を突きつけられてしまうのでした。さらに悪いことに、ゴールキックやCBへのプレッシャーの場面で2トップとSHと使ったプレッシングを狙った浦和でしたが、最終ラインの飯倉があれだけの精度でビルドアップをサポートできるとは予想外だったのではないでしょうか。ゴールキックの場面でも数を合わせて追い回そうとする浦和にとって、高い位置で余らせざるを得ないマリノスのSBに飯倉から直接ロングボールを合わせられてしまうことが心理的にどれだけ負担になったかは想像に難くありません。

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結局、浦和はマリノスのビルドアップに激しいプレッシングをかけていくつかのチャンスを生み出すものの決めきれず、逆にマリノスバブンスキーと飯倉を使ってボールを落ち着かせ、次第に確実な前進を繰り返すようになるのでした。前半はスコアレスで折り返すことになりましたが、前半で先制点を上げることができなかった浦和には、後半それ相応のペナルティが課されることになっていきます。

 

マリノスの更なるビルドアップの工夫と、選択肢を失っていく浦和

お互い交代選手なしで始まった後半戦。マリノスは更なる工夫をビルドアップに施します。前半は基本的に飯倉+4バック+アンカーでの6枚でのビルドアップでボールを前進させていましたが、浦和が捨て身とも言える数合わせでビルドアップを潰しにきた前半を踏まえ、後半は中盤3枚の流動性をさらに高めて応戦していました。具体的には、中盤をアンカー+2枚のIHから、2ボランチに近い形に再整理。一方で選手とポジションはあまり縛らず、扇原、バブンスキー、天野の3人がポジションを変えつつもビルドアップをさらに安定させていきます。

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少し大げさですが、このようにマリノスバックラインを繋いでいくといかにパスコースを多く確保出来ているかがわかります。もはや浦和のCF+SHの4枚に柏木を加えた程度では到底捕まえられません。これによって前半は出入りが多く忙しかった展開が、徐々に、しかし確実にマリノスボールで落ち着いていく展開となっていきます。また、上図でもわかるように、この状態で前半と同じように柏木、青木の真ん中2枚がマリノスの中盤底に食いついていくと、必然的に浦和の4バックの前のスペースが完全に空いてしまうことになります。マリノスは、ビルドアップの安定化によって生まれた時間を使い、このエリアを積極的に攻略していくとともに、前半と同様に山中、松原の両SBのハーフレーンの侵入やオーバーラップを駆使して浦和を押し込んでいくのでした。このようにまとめていくと浦和が窮地に立たされているように感じますが、一方で、浦和も最後の局面では非常によく守れていたと言って良いと思います。ビッグセーブを連発した西川を始め、槙野や菊池も一度はスペースを突かれながらも必死に食らいついてギリギリでピンチを防いでいたことはこの試合にかける選手のモチベーションがよく出ていたと思います。しかし、どうしてもボール奪取できる位置が最終ラインまで下がってしまったことと、ボール奪取後にマリノスのハイラインを意識しすぎたのか裏に素早く攻めるばかりで攻め手が雑になり、休む間も無いままディフェンスを強いられてしまったことや、大ピンチを迎えてしまったことで浦和の最終がなかなかラインを上げられなくなってしまったこと、それに伴い中盤に大きくスペースが出来てしまい、カバーするエリアの広がった武富、武藤、長澤、柏木に疲労が蓄積してしまったこと等の要因により、確実に浦和の4ー4ー2は破壊されていってしまうのでした。

個人的には、この時点で浦和は戦い方を再度整理すべきだったと思います。マリノスはビルドアップの安定とともに前への積極性が増しており、もはや浦和が前からハメられるような戦況ではなくなっていました。であれば浦和は割り切ってブロックを作って後ろの個人能力を含めて跳ね返す戦略を取り、カウンターは長い距離の突破に強みがあるマルティノスを投入、一撃必殺のロングカウンターを狙う手もあったはずです。しかし、堀監督はあくまで試合前のプランを変えず、選手を変えることで状況の打開を図ります。

最初に体力的にきつくなったのはおそらく柏木でしょう。中央マリノスの2枚のIHのスペースを消しつつ最終ラインに降りる扇原を捕まえる役割を担った柏木は、50分を過ぎたあたりからトランジションについていけない場面が散見されるようになりました。その影響を受けたのが長澤で、上下動の激しい山中に対応しつつ柏木が空けたスペースを埋める中で次第に山中についていけなくなっていきます。後半、マリノスの右サイドからの攻撃が増えたことはおそらく長澤の体力的な問題ではなく、ユンイルロクと山中のオフザボールを含めた距離感と連携が左サイドよりも高質だったことからではないかと思います。が、堀監督はこれを見かねて長澤を交代。ひさしぶりの埼スタでのプレーとなった直輝を投入します。同時に柏木を前に出し、直輝を中央へ、武富を左、武藤を右に配置転換することでマリノスの攻撃に対応する運動量を担保しにいきます。

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堀監督としてはセットプレーのキッカーとしても唯一無二の柏木を交代することは難しかったのでしょう。また、カウンターでのパスの出し手としても柏木を前に残す采配はそれなりに理に適っているように思います。中央ではやる気十分の直輝が運動量豊富にサイドまでカバーし、ギリギリのところでヒビだらけの4ー4ー2を維持していました。堀監督はその後武富に変えてズラタンを投入。個人的には、この交代が試合の展開を決定的にしてしまったと感じました。武富を退げた理由は不明ですが、それにしても交代で出場すべきはマルティノスであるべきだったと思います。これによって浦和は柏木とズラタンの2トップ、興梠がSHに位置に下がってポジションを取ります。この時間帯になるとマリノスは完全にビルドアップが安定し、浦和が前半からの目まぐるしい展開も祟って走れなくなったこともあり、一方的に浦和を押し込むことに成功します。そして、試合も残り10分ほどとなった82分、マリノスがついに浦和の4ー4ー2をこじ開けることに成功し先制するのでした。

先制のシーン、結果的にスイッチになったのはユンイルロク。幅をとる山中へパスを送ると、一気に大外へ走り出し山中とスイッチします。ここで最初山中についていた武藤は同じスペースを埋めるためステイ。そのため、山中が中央へドリブルで侵入するのに付いて行く役割は菊池が負うはずでしたが、周りは柏木と青木が「いた」ためか菊池もステイ、これにより山中がバイタルエリアで時間を得ます。これと同時に、マリノスの前線に入っていた途中出場の吉尾、ウーゴ、遠藤が同時多発的に浦和最終ラインを揺さぶります。吉尾はシンプルへ同レーンの裏抜けでマウリシオを連れていき、逆サイドの遠藤はレーンをまたいで逆サイドの裏へフリーラン。これに宇賀神がついて言ったことで逆サイドに大きなスペースが広がります。これを活かしたのがウーゴで、ウーゴだけが山中のドリブルに合わせてバックステップ。ゴールから距離をとる動きと侵入してくる山中の両方を見ることができない槙野が中央でステイすると、遠藤が空けたスペースに入り込んだウーゴにパスが通り、危険を察知して戻った興梠も及ばず試合を決めるゴールを流し込んだのでした。

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この失点について、浦和の守備がどうなっているんだという声もありましたが、個人的にはこれはもうしょうがないと言うか、結果的であったとしてもバイタルへのドリブル侵入に併せてこれだけのフリーランが同時に発生し、しかも一度ゴールから離れて味方が作ったスペースを使うと言うウーゴの素晴らしいポジショニング感覚を発揮されてしまうと、時間帯も考えて浦和はちょっとしょうがなかったというか、ついに決壊したというのが妥当な表現になるのではないかと思います。強いて言えば菊池には山中についていってほしかったですが、菊池も菊池で他の選手との連携というか約束事がなかったのでしょうし、やはりこの失点について改善というよりは、戦い方を試合途中から再整理出来なかったことがこの決壊に繋がってしまったのかなと考えます。その意味では、最初から4ー4ー2ではマリノスのアンカーが空くことが分かっていながら、4ー4ー2をやり通すと決めた時点で、ビルドアップを引っ掛けてゴールを奪うことが出来なかったのが浦和にとっては全てなのかなという印象です。こうして、マリノスは今シーズンのリーグ戦初勝利を手にし、一方の浦和はこれまでブーイングで叱咤激励していたサポーターがブーイングを止めるほどの深刻かつ長いトンネルを突き進むことになったのでした。

 

堀監督は解任されるべきか?

この敗戦を持って、堀監督は終わりだろうという論調がこれまで以上に高まっています。これまでのこだわりだった4ー1ー2ー3を捨ててまで相手に合わせた戦い方をしたのに結果が出ないのだからもうこれ以上何もないという意見です。しかし、一部の報道では淵田社長は即座に堀監督の続投を明言したとされ、その去就は不透明なままとなっています。個人的には、堀監督は今回本当に相手に合わせたのだろうかという部分が気になります。今回、4ー4ー2を採用することは試合前から決まっており、選手とも共有されていたことが選手のコメントからわかります。ただ、4ー4ー2ではマリノスがビルドアップで使うアンカーのポジションは基本的に対応が難しくなることは試合前から十分分析できていたはずです。むしろ、いつもの4ー1ー2ー3でほとんど数を合わせるようなポジションのほうが、ビルドアップ潰しという意味では浦和にとっては採用しやすかったのではないかと思います。これを踏まえると、4ー4ー2はむしろ攻撃時に興梠とWGの距離が遠くなりコンビネーションがなかなか発動されない部分を気にしての採用なのではないかという気がしています。実際のところ、前線からのプレスによってマリノスのビルドアップを困らせることが出来ていたのは数を合わせて追い回せていた前半のみでしたが、3トップを中央に集めてのコンビネーションや収束した相手バックラインの空けた大外のスペースをSBに使わせう形など、攻撃においての狙いはこれまでの試合よりよく出ており、また出場した選手の特徴にも親和性の高いサッカーを志向していたという印象です。今後どのような戦い方を志向するのか、つまり4ー4ー2をこのまま継続するのかどうかはわかりませんが、今節で選手の特性に合わせた戦術を採用したのであればそれは小さくも見逃せない前進であるのではないでしょうか。一方でこの場合今節出場のなかったマルティノスの使いどころが見出せないことは大きな課題となる上に、結局結果が出ていなければ周囲のサポートにも限界があります。特に試合中の采配には疑問が多く残っており、堀監督は自身に与えられた猶予をほとんど使い切った状態と言えると思います。一方で後任人事も含め、W杯までは堀監督、その後はそれまでの成績次第で監督交代というのが現実的なストーリーなのかもしれません。

 

総括すると、マリノスのやり方が新鮮だったために注目を浴びていますが、浦和も4ー4ー2の形(もしくは応用的に4ー3ー2ー1の形)に可能性が見出せたことは良かった点だと考えられます。今節も結果は出ませんでしたが、この2週間の中断期間でどのように修正されるのか、また4ー1ー2ー3にこだわらない戦い方を採用できるのか、注目したいと思います。

 

今節もお付き合い頂きありがとうございました。