96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズの試合の分析的感想を書いたりするチラシの裏です。 twitter: @urawareds96

オリヴェイラ・イズムの片鱗 Jリーグ第12節 vs川崎フロンターレ 分析的感想

オリヴェイラ体制となってから未だ勝ち星に恵まれていない浦和。今節は昨年のリーグチャンピオンであり、今季も今節までに3位となっている川崎フロンターレとの対戦です。今節は大雨もあり得るという天気予報でしたが、幸い大きく降ることもなく、ゴールデンウイーク中日の試合という事もあり上々の客入りとなりました。

 

両チームのスタメンと配置の考え方

オリヴェイラ体制への移行が連戦の真っ只中となってしまった事もあり、最近のレッズは毎試合スタメンに変化を付けています。今節は連戦中ほぼ不動のスタメンだった武藤をベンチに置き、前節途中出場からチームを活性化したアンドリューナバウトを加入以来はじめてスタメンで起用しました。また中盤には柏木、長澤、青木の3枚をチョイス、両ワイドは宇賀神、橋岡を起用しました。

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浦和控え:福島、岩波、荻原、マルティノス、直輝、武藤、李

 

川崎のフォーメーションは4-2-3-1。憲剛の立ち位置をどう定義するかで並びについてはいろいろな意見がありそうですが、ここでは4-2-3-1との理解で統一します。浦和は前節と同じく2トップの下に中盤3枚を逆三角形に並べる形。あえて形容すると3-3-2-2もしくは3-1-4-2ということになるかと思います。両チームを並べるとわかりやすくなりますが、この両チームの配置は基本的にばっちりと噛み合うため、各所に明確なマッチアップが発生します。浦和の選手、監督のコメントを読んでもわかる通り、これはオリヴェイラ監督の狙いであり、ゾーンプレスで嵌めるというよりはマッチアップを明確にすることで人に素早く当たれるように整理したという事になるかと思います。

 

浦和のマッチアップはめ込み作戦と攻撃時の狙い

オリヴェイラ監督は上述の通りわかりやすいマッチアップ作戦で今節に臨みました。浦和の現在のスカッドは対人に強い選手が多く、Jリーグの他クラブに対してマッチアップ戦を挑めば基本的に優位に立ちやすいというのは戦力レベルや選手の陣容を考慮しても妥当かつ現実的な考えと言えます。ということで、守備時は基本的にマッチアップを意識し、時には守備の開始地点(5-3-2の配置点)を逸脱してでもマッチアップする相手選手について行き潰して帰ってくるという意気込みで5バックゴリゴリ迎撃守備を実行していました。

一方で攻撃の部分についてはオリヴェイラ体制では2試合無得点という事もあり、狙い目を整理してこの試合に臨んだものと思います。浦和は前節同様攻撃時も3-1-4-2の配置を崩していませんでしたが、湘南戦とは明らかに違う工夫が見られました。前節までは中盤の逆三角形を構成するシャドー2枚のうち1枚が興梠の近く、1枚は最終ラインのビルドアップの出口になるという大まかな役割分担が見られましたが、今節は2枚のシャドーが2枚とも2トップの近くでプレーしていました。そうするとその分4選手が待つ勝負エリアへのボール供給ルートが必要になりますが、これはWB、特に左WBの宇賀神が担うという整理だったようです。

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前節湘南戦ではこのポジションに入った菊池はミシャサッカーよろしく最前線に張り出し、後ろからの持ち上がりを待つ様なポジションを取る事が多かったのですが、今節の宇賀神は高い位置から降りてきて最終ラインからのパスを迎えに行く事がとても多かった様に感じます。ボールを受ける際は背中にマッチアップするエウシーニョを背負う難しい体勢になるのですが、特に慌てる事もなく柏木が作ったパスコースにダイレクトで通すか、興梠やナバウトの待つ中央へボールを供給するといったプレーが何度も見られました。オリヴェイラ監督の第一の問題意識は興梠の近くに人を置く事でコンビネーションを発揮させるという事だと思いますが、そのためにわざわざ中央からビルドアップで崩す必要は確かにありません。そうであれば奪われても比較的リスクの少ないサイドから中央にボールを供給するという考えは合理的であり、難しいことはしていませんが、考える人が変われば新しいやり方が出来るという事だと思いました。

ちなみにこの宇賀神ビルドアップ、3回も4回もやっていれば当然次に中央にボールが入ることはバレバレなので、普通に中央のパスコースを閉じられていました。ただ、その際は宇賀神にボールが入った瞬間にマウリシオがポジションを上げて宇賀神からの落としを拾いに行く動きを見せており、それはそれで面白いアイデアと感じました。

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CBのマウリシオが中央から持ち上がることはリスキーですが、うまくデザインできればマウリシオの縦パスやサイドチェンジの能力をより活かせる形が見つけられるかもしれません。

浦和の先制点はこれと類似した展開から。青木の中盤での良いパスカットからカウンターを仕掛けた浦和。カウンターは失敗したものの再度プレッシングで中途半端に蹴らせると、こぼれ球を柏木がダイレクトで宇賀神へ。宇賀神が中央にボールを供給すると興梠がスルー。後ろで受け取った長澤が川崎の最終ラインにつっかけつつ裏をとった宇賀神へリターンすると、宇賀神からのクロスボールは必死に戻ったエウシーニョに当たりながらもエリア内興梠の元へ。最後は興梠がボレーで仕留めたナイスゴールとなりました。トランジションの流れからなのでデザインし切った形ではないものの、サイドから中央にボールを供給しコンビネーションを使って崩すという狙いが発揮されたという意味では十分なファインゴールだったと思います。

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ちなみに、宇賀神のペネトレイトに呼応してナバウトが大外からニアに入り込んで川崎のDFを引き付けているのがもう一つナイスなポイントです。今節のナバウトはかなりチームにフィットしてきた印象で、彼はオンザボールだけでなくオフザボールも献身的にやってくれるので興梠もやり易いのではないでしょうか。

 

川崎の浦和攻略の考え方

一方の川崎について。上述の通り、浦和の守備の基本的な考え方はマッチアップを明確にすることでボールホルダーへのプレッシャーをしっかりとかけていくというものです。攻撃に絶対の自信を持つ川崎としては監督交代でバタつく浦和程度であれば軽く叩いておきたいところということで、得意のパスサッカーで浦和攻略に掛かります。

川崎の攻撃の考え方は極めてオーソドックスなもので、まずは定石通り浦和の3バックの脇のスペースを攻略するのが第一だったようです。マッチアップ上も浦和の両サイドのCBを連れて行きやすい阿部と家長が主に3バック脇の攻略タスクを担っており、川崎の両SBが高い位置でボールを持つとマッチアップ上浦和のWBが出て行くことになるため、その裏のスペースに川崎のSHが侵入しサイドから攻略を図るというものでした。また、このムーブで浦和の3CBの間が広がったところで中央裏に小林悠が走り込むところまでがセットになっていました。

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もちろん川崎は攻撃時の流動的なポジショニングには寛容ですので、例えば阿部が左サイドで起点になったところに家長が橋岡の裏に流れるといったパターンもありました。試合開始直後から川崎はこの3バック脇を使う形を頻繁に見せており、それなりに機能していたと言って良いと思います。一方でこの形は3バック崩しの定石であり浦和は浦和で全然節の柏戦でもこのスペースを執拗に突かれて苦労していましたので、このスペース攻略への対応は十分頭に入っていたものと思います。ゴール前に飛び込むのが小林一人というシーンが多かったこともあり、浦和は特に慌てる様子もなく、いくつか際どいシーンを迎えながらも守りきることが出来ていました。

第二は、浦和のマッチアップをうまく剥がすか数的優位を構成してボールを前進させ、川崎らしくファイナルサードでの質で勝負というところでしょうか。これは特に浦和対策ではなく川崎が普段から取り組んでいるビルドアップだと思いますが、中盤の構成を厚くしてボールを引き出していきます。

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浦和がマッチアップを意識しつつも守備の基本陣形を中盤逆三角形の5-3-2で保っていたこともあり、浦和のボランチ脇に川崎の選手が降りてくると浦和は基本的に困ります。憲剛がボランチ脇に降りる場合は青木がついて行くのが整理となりますが、青木が中央を離れればもっとも危険な中央レーンの縦パスのコースを開けることになってしまい、青木にはなかなか勇気のいる選択肢となります。同様に川崎の両SHがボランチ脇まで降りてくれば、浦和は槙野や遠藤といったCBがついて行く事になりますが、これもまた最終ラインに穴を開けるためなかなかやりたくありません。マッチアップと浦和の選手の人へのプレッシャーが機能していたこともありビルドアップが安定しない時間帯もありましたが、上記のような中盤の構成を厚くできるシーンではやはり質の高いチャンスメイクが成されていたと思います。運も含めてここで失点しなかった事が浦和にとっては重要な要素となりました。

この川崎の狙いが非常に良く出たのが前半20分のシーンでした。トランジション後、最終ラインから持ち上がる大島に呼応するように憲剛がトップ下のポジションから中盤に降りて行きます。これに対して、青木は憲剛とのマッチアップを維持してついて行くことを選択します。すると必然的に中央のレーンにぽっかりと縦パスのコースが開け、中央に入り込んでいた家長へ。直前に中盤に降りる素振りを見せ、マウリシオを中盤まで連れて来ていた小林悠が縦パスに反応して一気に裏を取り、壁パスを受けてゴールに迫ったという場面でした。

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最後は戻ったマウリシオと遠藤にコースを阻まれてシュートは枠外となりましたが、この様な崩しを川崎は意図していたのではないでしょうか。川崎のクオリティであればもう少しこのようなシーンがあっても良さそうでしたが、ピッチのほぼあらゆる場面でマッチアップが発生しており時間的にも空間的にも余裕を見つけにくかったのか、なかなか同様の崩しが綺麗に出る事は少なかったと思います。それにしても、他の場面でもエリア内ギリギリの守備をノーファールでやりきった遠藤航の今節のパフォーマンスは特筆すべきものだったと思います。というわけで川崎はいくつかゴール前まで迫るシーンを作り、CKも多く獲得していましたがゴールが遠い前半となりました。浦和を舐めていた訳ではないと思いますが、川崎はふわっとした試合の入りをしてしまったかもしれません。川崎としては悔やまれる前半というところでしょうか。

 

追いつきたい川崎と迎撃を強める浦和

後半、一刻も早く追いつきたい川崎は大島が前半よりも高い位置でプレーする場面が増えていきました。後半は阿部が左サイドで幅を取り、空いたスペースに大島が3列目から侵入することで前線に厚みのある攻撃を展開するというところだったでしょうか。大島はボールスキルというかボールタッチが本当に良い選手で、浦和の選手が待ち構えるエリアでもトラップや細かいタッチで躱してゴールエリアに侵入を図るプレーはさすがの一言でした。

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これに対して浦和は前半同様に人への意識を保った5バック迎撃体制で出迎えます。大島の侵入に対しては同世代の遠藤が橋岡と連携しつつよく潰してくれました。後半開始直後に大島絡みで2回チャンスを作られましたが、そのどちらも不発に終わったのは浦和にとっては助かりました。特に2回目のエリア内への侵入を遠藤が紙一重のスライディングで止めたシーンは素晴らしいプレーでした。

守備で良いプレーが出ると攻撃に返ってくるということで、直後の50分に遠藤の縦パスを起点に浦和が追加点をあげます。中盤でボールを受けようとする長澤に谷口が食いつくと、長澤は隣の橋岡へ落としのパス。橋岡のダイレクトパスに谷口の裏で反応したナバウトが抜け出すと最後は興梠が2点目をゲットしました。

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川崎は逆サイドでエウシーニョが残ってしまっていました。奈良がラインを気にしてかかなり高い位置に立っていましたがエウシーニョは全く連動していなかったは何だったんでしょうか。以前の浦和もそうでしたがパスで攻め込むサッカーを志向するチームが中途半端に前がかりな守備をしてしまい裏を取られるという展開になっていました。浦和はナバウトの抜け出しからのドリブルでの侵入がナイスでしたが、地味に興梠の走るコース取りも素晴らしかったと思います。早めにエウシーニョの前に入り、半身分エウシーニョを抑えながら前をキープし続けました。エウシーニョとしてはスタート位置から不利だったので、ピンチを認識した時には出来ることは殆ど無いという状況だったでしょうか。また、橋岡もよくダイレクトでパスを出したと思います。最近の試合では脚を攣っている感じもないので、かなりJ1のレベルにも慣れてきたでしょうか。

この追加点によって試合はより攻勢を強める川崎と迎撃からカウンターの浦和という構図が一層明確になっていきました。

 

采配の明暗

この失点を受けて、川崎鬼木監督は次々と交代カードを切っていきます。失点直後の52分には阿部に代えて斎藤学。その5分後の57分に憲剛に代えて大久保嘉人を投入。オフシーズンの2大目玉補強を惜しみなく投入し追い上げを図ります。配置は流動的でしたが、大久保と小林が前線で並ぶ様な形、斎藤は左でプレーし、家長は下がり目のポジションを取りつつ幅の確保はエウシーニョに任せるという感じに見えました。浦和が65分に柏木を代えて岩波を投入し、遠藤を一列上げて守備を強めるとその4分後には川崎がネットに代えて守田を投入し交代枠を使い切っています。このネットの交代だけは意図がよくわかりませんでしたが、最近の川崎では普通なんでしょうか。たしかに浦和が5バック迎撃で人に強く当たる守備をしていたこともあり川崎流「外す」シーンは少なかったかもしれませんが、ネットが見えているパスコースの豊富さやキックの質、身体の強さなどを考慮してもあまり彼を外す要素はなかった気がします。いずれにせよ浦和は、憲剛、ネットと川崎の攻撃サッカーの起点となる二人をゲームから追い出す事に成功しました。

川崎としては不運というほかありませんが、このネットの交代直後、中盤でパスが流れたボールを奪った興梠から裏へ抜けたナバウトへロブパスを送ると、チョンソンリョンがエリア外に飛び出しクリアを図りますがナバウトと交錯し一発レッドを受けて退場してしまいました。中盤でなんでも無いところからのロスト、ネガトラで対応が難しかったかもしれませんが、ナバウトの反応に比べてその瞬間の川崎の最終ラインである奈良、守田、谷口の反応の緩さが目に付きました。このレッドカードを受けて川崎は奈良がGKにコンバートされ、より厳しい展開となりました。

浦和はこの交錯で肩を痛めたナバウトに代えてマルティノスを投入。9人+急造GKで攻めダルマとなる川崎に対してカウンター狙いを明確にします。

 

川崎の意地で済ませたくない終盤の展開

個人的には、ここ数試合終盤の運動量の低下とトランジションへの反応の悪化が目に付いた柏木の早めの交代とカウンター狙いの場面でのマルティノスの投入は希望通りのオーダーでしたので、この時間帯での3点目に非常に期待していました。しかし結果としては10人の川崎にこれでもかと押し込まれ、あわや失点のシーンを少なくとも2回は作られることとなりました。

個人的に非常に残念だったのはマルティノスで、明らかにカウンター要員で出てきたにも関わらず1枚少ない相手にプレッシャーをかけずに攻め残りするようなポジションを取っていたのにはガッカリでした。チーム全体としては終盤で疲労が出る時間帯であることや川崎の前線のタレントを考えると簡単にマンツーマンで追いかけられないという事情はわかります。しかし交代で出てきたFWが前線からプレッシングせずにボールラインよりも後ろで相手の攻めを眺めているというのは正しいプレーではないと思いました。たしかにカウンターでドリブル勝負からクロスというシーンを見せてはいましたが、個人的にはあの場面で守備をしないなら15分で1アシストしっかりと決めてくれないと収支が合わないと思っています。

浦和ベンチは相手が10人ということもあり前から追いかけて嵌め込むようにと指示をしていたようで、長澤や終盤出場した李が相手の最終ラインを追い回す素振りが見られましたが、リスク承知でパスアンドゴーを繰り出す川崎に手を焼きました。たしかに川崎の選手とすればホームで為すすべ無く負けるわけにもいかないということで気合いの攻撃だったと思いますが、10人の相手に苦労する浦和の伝統芸がまたも発揮されてしまった試合終盤でした。しかし川崎も1点が遠く、試合は0ー2のままタイムアップとなり、浦和が連敗を2で止める等々力での勝利を収めました。

 

徐々に見えそうなオリヴェイライズムと次節鹿島戦

終盤は10人の相手にかなり苦しみましたが、それでも非常にポジティブなのは、試合後のコメントでオリヴェイラ監督が今日のような展開を含めたシナリオ別の試合運びのトレーニングを今後考えていると明かしたことでしょうか。中断期間のチーム作りの中にこのようなシナリオ別の共通認識を構築するようなトレーニングには非常に期待したいと思います。まだ連戦でトレーニング時間も確保されず、なかなかオリヴェイラ監督の色が出ているとは言い難い戦いが続いていますが、例えばスローイン等はこれまでよりスムーズになっていると思いますし、今日の人に強く当たっていく迎撃守備にしてもチームに共通認識を植え付ける手腕はさすがベテラン監督という感じもあり、興梠はもちろん他の選手も手応えを感じているのではないでしょうか。選手別で言えば前線で収まり、ドリブルからパス、ミドルも持っているナバウトを上手く使いこなせそうなこともポジティブな要素です。Jリーグへの慣れもあると思いますが、途中出場よりもやはりスタメン起用の方がリズムが作りやすくパフォーマンスが出そうですので、興梠との2トップの連携を深めていってほしいと思います。

次節はオリヴェイラ監督の就任でこれまでよりさらにブーブーなりそうな鹿島戦。オリヴェイラ流とは到底名乗れない現在の浦和ですが、監督が交代が重なったこともありこれまでのシーズンに比べてかなり多くの選手が出場機会を得ており、コンディションの良い選手が多い事は強みと言えます。鹿島も今季はチーム構築に苦しんでおり、勝ち点でも降格圏の少し上を彷徨うライバル同士ですので、ここは一つ鹿のツノをボキッと折るような豪快な鹿狩りを期待したいと思います。

 

今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。