96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズの試合の分析的感想を書いたりするチラシの裏です。 twitter: @urawareds96

『異文化理解力』の感想と外国人監督とのコミュニケーションについて考えたこと。

今回はいつもと趣向の違う記事になります。

 

イントロダクション

96はいわゆる「海外事業部」で仕事をしていまして、顧客や仕事のパートナーとしてアジア、欧米、中東を中心に様々な国の人と働きます。で、働いていると結構いろんなことが起こりまして、エジプトで一緒に仕事をするパートナー会社を探している時に、2週間前に合意した報酬が契約直前に60%も値上げされるようなことがあったり、ベトナム人顧客と信頼関係を築くために文字通り朝から晩まで一気飲みをさせられることもあります。

そんな96の日々の業務についてはどうでも良いのですが、これに関連して面白い本を見つけたので最近読んでいました。

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

 

 邦題はいかにもビジネス書って感じですが、英題は『THE CALTURE MAP - BREAKING THROUGH THE BOUNDIES OF GLOBAL BUSINESS』となかなかカッコいい感じです。

内容としては、主要各国の文化についてビジネスに関連する8つの指標においてマッピングを行い、各国の文化がどの程度何を気にするのか、何に重きを置いているのかについて相対的に明らかにした上で、自分の文化と全く遠い特徴を有する文化の人々とのビジネスにおけるコミュニケーションにどのように対処するか考えましょう、的な本です。

例えば、日本におけるリーダーシップとは世界でも有数の階層主義的特徴があると分類されていて、平たく言えば「強い上司」が求められている、という説明がされています。一方でデンマークでは平等主義的な価値が強く根付いており、上司はファーストネームで呼ばれることを好み、自転車で通勤し、自分の部屋を持たず、掃除のおばちゃんよりちょっと偉いくらいですよ、という感じで振る舞うのが良い上司とされるとのこと。で、こんなデンマークの文化で育ったデンマーク人が階層主義的な日本や中国、ロシア等の国で上司になり、デンマーク流で「私は皆さんの上司だけど実質ほぼ同列だから意見は絶対じゃないよ〜みんなガンガン上司の私を全否定して意見を出してくれ!議論しようぜ!」とやり始めると、日本人や中国人、ロシア人の部下は非常に戸惑い、会議では意見は何も出ず、部下困惑、上司は絶望、となる。ではどうすれば良いか。という感じで話が進んでいきます。

ビジネス書としても非常に面白く、実際アマゾンのレビューも高評価ですので、この時点で面白そうだなと思う方は是非読んでみてください。著者はフランス拠点のMBAスクールのアメリカ人教授ということで、MBAの授業でもこんな話がされるのだと思います。とはいえ文章は半分エッセイのように著者やMBAスクールの生徒である企業の重役たちの「異文化コミュニケーション失敗談」が頻出し非常に読みやすくなっていて、実際、日本のビジネススクールの教科書にもなっているようです。

 

異文化理解力とスポーツ界

で、個人的にはビジネス書としても十分面白かったのですが、ちょうどこの本を読んでいる最中にハリルホジッチが代表監督を解任されサッカークラスタではプロライターもサッカー好きのおじさんも誰も彼も巻き込んだ大論争となっているところでした。96は、あえて分類すれば「サッカーファンである前に浦和レッズサポーター」でして、日本代表や海外サッカーよりもとにかくレッズの試合が大事です。ただそれでもハリルホジッチがW杯本番で何を魅せてくれるのか非常に楽しみにしていましたので、単純に解任にガッカリするとともに、日本サッカーの根幹を為すJFAの意味不明な決断と説明に大きな不快感がありました。ハリルホジッチの解任の真相的な記事はあらかたプロライターの方々や野生のプロ的な方々にまとめ尽くされていますが、96としては最近読んだ『異文化理解力』(以下、「本書」)のエッセンスを紹介しつつ、サッカーの監督という職業、特に日本チーム(クラブ単位だけでなく日本代表も含む)が外国人監督を招聘する際のことについて考えてみました。

書きたいことはたくさんあるのですが、本書の内容全てを紹介するわけにもいかないので、ネガティブ・フィードバックとハリルホジッチ解任、文化による信頼関係構築の違いとオリヴェイラ監督の2点について書いてみたいと思います。

ネガティブ・フィードバック

ネガティブフィードバックとは、要は同僚や部下に直して欲しいことを伝えたり、議論において論理や決断が間違っていることを伝えることなのですが、この部分で思い出すのは、「ハリルホジッチに対する槙野からのメッセージ」でしょうか。

ハリル解任の理由について田嶋会長が「コミュニケーションの問題」とした一方で、槙野がインスタグラムのメッセージで「たくさん怒られたがおかげで上手くなれた」と感謝を示していました。この「たくさん怒られた」から、ハリルが非常に直接的なネガティブフィードバックを実施していたことが伺えます。ここで、ハリルがキャリアの大部分をフランスで過ごし、フランス文化が彼の無意識に作用しているであろうことを踏まえ、フランス文化も属する直接的ネガティブフィードバックを好む文化について本書を引用してみます。

直接的なネガティブ・フィードバック

同僚へのネガティブ・フィードバックは率直に、単刀直入に、正直に伝えられる。ネガティブなメッセージをそのまま伝え、ポジティブなメッセージで和らげることはしない。顕著な例では、批判する際に、「間違いなく不適切だ」や「まったくもってプロフェッショナルとは言えない」といった言葉が使われる。批判はグループの前で個人に向けて行われもする。

このような文化の人々にとっては、このようなネガティブ・フィードバックは極めて誠実な行為であり、贈り物と認識され、ネガティブ・フィードバックを受けた方も感謝こそすれ怒り出すことはないそうです。もちろん想像できる通り、日本は世界有数の間接的ネガティブ・フィードバックを好む国であると説明されています。

ここで考えたいことは、槙野が受けたように、他の選手もこのような直接的なネガティブ・フィードバックを受けたのではないか、もしそうであれば、それを正しく「贈り物」として理解出来ただろうか、というところです。もちろん、海外リーグで長年戦っている海外組であればほとんどは理解出来たと思いますが、あまりに直接的な言及に戸惑った選手もいたかもしれません。

同時に、ハリルがJFA関係者からの、極めて日本的な、間接的ネガティブ・フィードバックをどの程度認識出来ていたかも気になるところです。多くの関連記事で紹介された通り、ハリルは「JFAから文句を言われたことはない、全て上手くいっていた」という旨のコメントをしています。一方でJFAは昨年からずっとハリルのパフォーマンスに不満があり、解任は思いつきでないことを強調しています。もしこの両者のコメントがどちらも本当であれば、「JFAは以前からネガティブ・フィードバックを実施していたが、ハリルはそれを認識していなかった」ということもあり得るのではないでしょうか。実際に、本書ではこのようなことが起こり得ることをその方法論とともに紹介しています。

遠回しに発言する文化では 「ダウングレ ード 」の機能を持つ言葉 、批判を和らげる言葉を使う傾向にある 。たとえば kind of(とも言える )、sort of(多少 )、a little(少し )、a bit(やや )、may be(かもしれない )、そして slightly(若干 )といった言葉だ 。ダウングレ ードする人々のなかには 、実際には強く抱いている感情を抑えて慎重で控えめな表現をする人もいる ─ ─たとえば 「まだ解決に至っていない 」と言いながら 、実際は 「解決には程遠い 」という意味だったり 、 「たんなる個人的な意見です 」と言いながら 、実際は 「この問題に関わる人なら誰しもすぐに同意するだろう 」という意味だったりする。

このような表現を使ったネガティブ・フィードバックは、日本人としては非常に共感できる部分だと思います。これが、直接的ネガティブ・フィードバックを使う文化の人々には、全く理解できない表現として説明されています。そして当然ですが、間接的なネガティブ・フィードバックを理解するのはとても難しく、大きな誤解を招く事になるということでした。うーん、さもありなんという感じです。

ちなみに、本書で散々強調されていることとして、異文化同士は相対性によって理解されるべきである、ということです。例えば、日本人からすればアメリカ人は全くデリカシーが無いほどにガンガン人の文句を言うと感じたり、そのようなイメージがあったりしますが、そのアメリカ人よりもさらにゴリゴリ直接的なネガティブフィードバックを行うドイツやフランスの人々を見て、アメリカ人も同じ感想を持つという具合です(で、逆にいうと日本人にその差は理解しにくい。)。

 

関係性の構築 - 頭で信頼するか、心で信頼するか。

本書では、8つの指標の一つとして、信頼関係の構築についても触れています。大別すると

・頭で信頼する(タスクベース) - プロフェッショナルとして与えられた役割や機能を十分に果たすことができるかどうか。ビジネスライクな信頼関係。認知的信頼。

・心で信頼する(関係ベース) - 仕事だけでなく、プライベートも含めて、人間として信頼できるかどうか判定する。人間として信頼されなければ、ビジネスに立ち入ることは難しい。感情的信頼。

と説明されており、ちなみに日本はやや関係ベース、フランスは日本よりタスクベースであるとされています。関係ベースの国々では、ビジネスパートナーに対する信頼は認知的信頼だけでなく、感情的信頼をも必要とするとされています。

ここでも、ハリルの件に想像を巡らせることができるかもしれません。ただ私はハリルがどのような関係性を周囲と築こうとしていたかについて詳しくありませんので、これについてはハリルの件と無理やりに結びつけることはやめておきます。何方か本書を読んで、持論を展開して頂けたら有難いです。

そのかわり、レッズの新任監督であるブラジル人のオリヴェイラ監督について感じたことが思い出されました。オリヴェイラ監督は就任以降、完璧な成績を出しているとは言い難いものの、彼のチーム作りには彼らしさや彼の長いキャリアから来る経験を感じる部分がよくあります。例えば下記の監督会見の記事。オリヴェイラ監督がチームスタッフを集めて食事会を開こうとしているという記事です。

(今日の練習後にスタッフだけを集めて話をしていたが?)
「スタッフと集まっていつも仕事の話をしています。基本的にスタッフと話すときは仕事の話が多いですが、我々もリラックスする時間が必要ですし、ピッチ外の関係も重要だと思っています。お互いを信頼し合って、自信を持って関係を築いていくために、仕事以外の話も必要です。もちろん私たちには言語の問題もありますが、仕事がスムーズになるように話し合っていきたいと思います。

本日スタッフと話したのは、どこかのタイミングで食事にいきたいということと、サッカーをして楽しみたいねということです。(メディアの)みなさんも同じかもしれませんが、私たちは来日してからまだ1日もオフの時間がありません。水曜日と週末という連戦が続いていますので、余暇を過ごす時間がありませんので、そういった時間が生まれたときに、ピッチ外の関係を築いていく必要があると思います。

オズワルド オリヴェイラ監督会見(5/4)|URAWA RED DIAMONDS OFFICIAL WEBSITE

このような信頼関係構築の手法は、まさに「心で信頼する」関係ベースの文化の特徴として本書では紹介されています。この信頼の指標において最も関係ベースを重視する文化は、まさにブラジルや中国などBRICsの国々に特徴的なのだそうです(逆にタスクベースの信頼の最たる例はアメリカ。契約が最も重視される社会なのでビジネスパートナーとの人間的信頼は不要。)。これは、法体系や周辺環境が安定しない(もしくはより一層の安定を望んだ)国々では、信頼関係こそが契約の役割を果たすものであり、信頼関係の構築に時間をかけることがその後のトラブルを避ける最も効果的な手段と考えられるため、あえて時間をかけて信頼関係を構築することが最も効率的な手法になり得るのだと説明されます。上記の記事も、内容としては大したものではありません。日本人だって食事会はよく開くし、ヨーロッパでもパーティが開かれているのを時々目にします。面白いのは、この記事のようにオリヴェイラ監督が「関係ベース」の信頼関係の構築を試みているという記事を目にして、自分自身がポジティブな感想を持ったことです。彼の行動の狙いがわかる、自然と 理解できるというのは、我々がまた関係ベースの信頼を基礎にしていることの証拠かなと感じます。

ちなみに、おそらくサッカー界をはじめとしたプロスポーツ界にも独自の「文化」があり、おそらく「サッカー界の文化」は認知的信頼と感情的信頼が微妙なバランスで渦巻いているのではないかと思います。サッカー界にはゴシップ記事や移籍の噂など関係性を脅かす外的要因が極めて多く、また契約は様々な要因で解除されることが日常茶飯事であり、選手起用はそれまでの選手の成績(認知的信頼のベース)だけでは決まりません。このようなあやふやで不安定な環境の中で結果をだすためには、自然と人間同士の付き合いや信頼関係の構築が求められるため、スポーツ界の中でも「サッカー界の文化」は、「関係ベース」の信頼構築を重視しているのかもしれないと思いました。

 

泳いでいる水を味わう

本書はビジネス向けに書かれた本ですが、ビジネスにおいて異文化理解が必要とされない方々でも、上記のように自分の好きなスポーツを通じて異文化に触れている例はままあると思います。外国人監督が自分のチームにやってきたときに、外国人として理解するか、彼の文化的な背景を理解しようとするかという姿勢の違いは、目の前の言動や仕事の成果を測る上でも役立つかもしれません。

本書の導入で個人的にすごく好きな表現があります。

あなたの泳いでいる水を味わう

火に油を注ぐの危険を承知で、ある有名な話を紹介したい 。二匹の若い金魚が 、向こうから泳いできた年寄りの金魚とすれ違う 。年寄りの金魚は彼らに挨拶して言う 。 「おはよう 、坊やたち 、水の調子はどうだ ? 」 ─ ─すると若い金魚の片方がもう片方に聞く 。 「おい 、水ってなんだ  ? 」あなたがある文化のなかにいるとき ─ ─金魚が水のなかにいるとき ─ ─その文化を見ることはしばしば難しく 、不可能なときすらある 。ひとつの文化でしか過ごしていない人は 、地域差や個人差にしか目がいかないことが多く 、そのため 「この国の文化はハッキリとした特徴を持っていない 」と結論づけてしまう 。

文化は水のようなもの。まさにその通り。本書をかなり楽しく読み進めることができる理由の一つに、日本の文化についての記述の多さが挙げられます。本書では8つの指標についてそれぞれ説明するため、各章において特徴的な文化に関するエピソードが紹介されます。ほとんど各章で、日本人の感じ方や日本でのビジネス文化について説明がなされ、それに対する対処方法が示されます。著者が日本人から聞いたコメントや解説が紹介され、それらは日本人として読んでいてほとんど違和感のないものばかりです。ほとんどの項目において日本文化とその対処法が紹介されるということは、それだけ日本の文化が特徴的であり、他の文化と違うということだと思います。96は海外の仕事をしているために異文化理解なんて得意分野だと思っていましたが、本書を読み進めるなかで自分が思っている以上に日本文化に染まった日本人であり、他の文化についてほとんど理解できていなかったことを思い知らされました。でもこれこそが「泳いでいる水を味わう」ことであり、本書を読んだ一つの収穫でした。

こういう異文化への適応は外国で仕事をするという意味でサッカー選手や監督にも必要不可欠なことで、日本に仕事をしに来る外国人監督にも本書は役立ちそうです。そして逆に、異文化を受け入れる立場の我々もまた、本書の内容を知っていれば理解し対処できるシチュエーションがあるのではないかと思います。

 

異文化との接点が多ければ良いわけではない。

最後に、本書が「異文化交流」や「異文化理解」を盲目的に推し進める道徳教科書的な本でないことを紹介しておきます。本書はあくまでもビジネス書であり、ビジネスの効果的、効率的な成功が目標です。そのため、ビジネスにおいてはむやみに多文化チームを作らないこと、出来る限り異文化の接点は少なくすること、それぞれの文化の相対的な強みを理解した上で必要な場合は単一文化チームを使いこなすことを紹介しています。つまり異文化理解は必要な時だけ的確にやりなさい、ということです。たしかに、単一文化のチームを作ることは期日が近い作業やチームにおいては効果的です。特に日本を含む東アジアの文化は同種民族の結束を重要視するため、単一文化チームを組成することで誤解なく計画的に作業を進めることができ、多くの日本人は多文化チームよりも日本人だけチームを望むことでしょう。つまり、W杯直前にハリルを解任し日本人単一文化チームを作り上げたJFAの「英断」は、本書の内容をよく勉強してあるということかもしれません。

 

深い内容ですが難しい文書ではないので、興味があれば是非読んでみてください。

長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養