96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

アジアへ。オリヴェイラ・レッズの充実。 Jリーグ第30節 vs鹿島アントラーズ 分析的感想。

はいお久しぶりです、96です。諸般の事情でまたもレポートを書けていませんでしたが、宣言通りこの今節より通常営業です。信じられないことにこの試合で第30節。今季もラスト5試合に突入してしまいました。早いものです、ということで、ホームに宿敵・鹿島アントラーズを迎えました。

 

両チームスタメンと思惑

スタメンは下記の通り。

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浦和側控え:福島、茂木、武富、阿部、柴戸、ナバウト、李

 

浦和は代表で離脱した橋岡に代わって森脇が右WBでスタメン復帰となりました。荻原も同様に代表ということでベンチメンバーは真ん中が本職の人ばっかり入っています。菊池はたしか怪我だったはず。

対する鹿島は先日のA代表の試合でも良いプレーを見せていた三竿が出場停止で欠場。ボランチの一角には小笠原がスタメンに。やっぱり森脇に合わせて小笠原投入なんですかね、これって。という冗談はさておき、ほかには最終ラインに昌子が戦列復帰とのこと。鹿島はACL準決勝に勝ち残っていますが、その影響でけが人続出、紅白戦もままならないような状況のようです。すぐに準決勝2ndlegもありますし、この時期のリーグとACL連戦のキツさは浦和が最もよく知るところです。

さて、両チームの思惑ですが、浦和としては今節はシンプルに必勝といったところ。一時期は降格圏に片足を突っ込むほどに低迷した今季ですが、稀に見る大混戦に乗じてなんとかここまで順位を上げてくることができました。とはいえもはや毎年のノルマとも言えるACL出場権獲得には、3位に滑り込まねばならず、その3位の座を直接争う鹿島との対戦となる今節はなにがなんでも勝つしかなく、戦い方はこれまでと変わりません。

一方の鹿島は難しいところで、クラブ史上最高の舞台となったACL準決勝2ndlegを控え、この試合に全てをぶつけることはできません。一方で3位争いのライバルである浦和には少なくとも負けたくない…ということで、最低限引き分けのあわよくばカウンターでちゃっかり勝ち点3を持って帰りたいといったところでしょうか。

このような思惑の差、この試合へのテンションの差を反映してか、試合開始から浦和が仕掛けます。開始1分、浦和は鹿島GKクォンスンテまでプレッシャーに走ると、クォンスンテのキックを宇賀神が高い位置で引っ掛け、そのままクロス。ファーで待っていた興梠がこれを収めると、大外からバイタルに走り込む森脇。興梠の完璧な落としに左を一閃、強烈なミドルシュートを放ちます。惜しくも枠外でしたが、森脇のこの試合にかけるテンションと積極性、そして橋岡とは違い大外から中に入って左足でプレーできる強みを早速見せつけました。

そんな森脇に引っ張られてか、試合序盤から浦和の選手の動きの多さ、連動性がよく見られたゲームでした。

 

森脇の復帰で洗練される浦和右サイドでのボール保持

浦和のポゼッション時の基本的な構造を整理しておきます。浦和の3バックに対して、4-4-2の鹿島は2トップでビルドアップを阻止する必要があります。そうでなければ、浦和は左右のどちらかのCBがボールを前進させることで簡単に鹿島を押し込むことができます。そこで、鹿島はSHの選手が自分のサイド側のCBにボールが入ったときに前に出て行くことで擬似的な3on3を浦和の最終ラインに仕掛ける戦法を取ります。浦和の最終ラインは基本的に岩波がビルドアップ隊長となっており、必然的に対面の安西が岩波を止めに行こうと前に出て行く場面が増えます。

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すると、安西が岩波に出るのとほぼ同時に、森脇は大外に開いて岩波からのパスコースを確保します。ここで重要なのは、森脇がパスコースを作る動きと同時に、安西が空けた鹿島のボランチ脇のスペースを長澤か武藤が活用することです。これで岩波は①森脇へのパス②長澤or武藤へのパス、安西が①、②を嫌って出て来なければ③自分で前進という3つの選択肢をベースにビルドアップを展開できることになります。

ここからが森脇の真骨頂で、森脇は右サイドのタッチラインを背負ってボールを保持した状態でのボールキープと視野の確保が抜群にうまい選手です。簡単にボールを取られないので周囲が安心して動き出せる、そして取られない故により遠くを確認することができる、したがってパスが出てくる、つまり、右サイドで森脇がボールを持つことが攻撃のスイッチになります。

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上図はこの状態の森脇が持つ主要なパスコースです。注目すべきは、森脇がポジションを取ると同時に武藤と長澤が使うハーフスペースです。安西が岩波をケアしに出て行くことで、安西の裏を長澤か武藤が使うことができますが、武藤が下がるとこれに昌子が付いてくるというのがこの試合よく見られました。となると、森脇のケアに山本が、武藤のケアに昌子が、という具合に鹿島の最終ラインはバラバラにされ、背後に大きなスペースを晒します。これを長澤や青木など中盤の選手が使うことで攻略していくというのが、森脇を中心にした浦和のポゼッションでした。

この森脇起点のボール保持と武藤・長澤をはじめとした中盤のスペース攻略で特筆すべきは、ゾーン2(いわゆるミドルサード)でのスペース攻略、ボールと人の前進の構造と役割が、そのままゾーン3(いわゆるファイナルサード)でのゴール前の崩しにシームレスに移行する点です。ゾーン2では、森脇のボール保持から武藤がハーフスペースに降りてくると同時に、中盤の3枚がSB裏、鹿島のCBとSB間にできるチャンネルといったスペースにアタックする役割を担っていることには上述の通りです。鹿島としては、このスペースに降りてくる武藤を昌子が捕まえに行きますので、その裏に走り込む浦和の中盤の選手にはボランチが付いて行かざるを得ません。試合でよく見られた現象でいえば、武藤が降りた裏にアタックする長澤についていく小笠原、そして必然的にバイタルを一人で埋める永木というものです。

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浦和のゾーン2の崩しに対応するために鹿島のボランチが動けば、それはバイタルエリアに隙を作ることを意味します。上図で示す通り、永木が1枚でケアするバイタルエリアに柏木を浮かせて、柏木からのラストパスを狙うというのが浦和のゾーン3における狙いではなかったかと思います。ここで後ろから飛び込んでくる武藤がもう1アクション起こして永木を釣ることができれば、バイタルエリアで柏木がフリー、エリア内には背番号30が待ち構える―ホットラインへの完璧なおぜん立ての完了となります。

しかし、結局のところ、上記のようなロジカルな、そして美しい崩しが見られた開始直後の20分間で浦和はゴールを割ることができませんでした。森脇の開幕シュート、武藤の落としからの長澤のポスト直撃、宇賀神のクロスからの大外森脇など右サイドを中心に多くのチャンスを作っていましたが、浦和はゴールを決めることができませんでした。鹿島が耐え抜いたのは、永木がバイタルを1枚で埋める必要のある場面で素早くサポートに戻って柏木を監視した遠藤の貢献や、完璧に崩されながらも最後の場面までプレッシャーを掛け続けた鹿島守備陣の奮闘によるものですが、これをさすが鹿島というのか、浦和が決めるべきだったかというのかは見方が分かれるところかもしれません。

 

主体的にゲームの流れを引き戻せる鹿島。

どのプレーがきっかけだったのか、明確に指摘するのは非常に難しいところですが、鹿島は20分以降、浦和に支配されていたゲームの流れを引き戻し始めました。個人的には、きっかけは20分のチャンスンヒョンによる興梠へのアプローチではなかったかと思います。チャンスンヒョンはそれまで興梠を一度も止めることが出来ておらず、ポストプレーや裏抜けなど、武藤とともに浦和のビルドアップの起点となる興梠への対処に非常に苦労していたように見受けられました。また鹿島が、チーム全体としても、開幕からアグレッシブに相手ゴールに向かいボールを失っても球際に激しく来る浦和のペースに飲まれていたような印象でした。ひとつの要因は荒木主審のジャッジで、浦和寄りではないものの、この試合では激しいチャージを容認する、簡単に笛を吹かないという基準を序盤から打ち出していました。この基準が浦和の開幕からのアグレッシブさを後押しし、鹿島が勝負したいトランジションやカウンターの局面でリズムをつかめなかったのではないかと思います。

その意味で、20分のチャンスンヒョンのプレーは印象的でした。プレー自体は場合によってはファールとなってもおかしくない腕の使い方で、体格で勝る彼の腕と肘が興梠の肩から顔に入り、興梠はひじ打ちをアピールして倒れます。しかしノーファールの判定で鹿島がボールを奪うと、これ以降鹿島はじっくりボールを保持するようになり、ポゼッション率も回復、ゲームのペースを落ち着かせることに成功します。このチャンスンヒョンのプレーが、意図的に荒木主審の基準を確認し、線引きをさせるようなプレーだったかはわかりません。しかしこのプレーを境に、鹿島は主審の判定基準にアジャストしていったように感じました。

このプレーに前後して、鹿島は守備を若干変更しています。まずは浦和にビルドアップの起点を提供していた安西のプレッシングを整理し、岩波の前進をハーフライン程度までは受け入れる形に修正。これにより浦和に押し込まれますが、序盤ほどハーフスペースを使われることは減りました。安西の立ち位置によってハーフスペースに蓋をしたと言えるかもしれません。同時に、このハーフスペースを使いに降りてくる武藤への昌子のアプローチが明らかに弱まりました。逆に言えば、昌子は最終ラインからあまり離れず、武藤を中盤に放しても最終ラインとバイタルエリアへの密度を優先したようにも見えました。

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この守備の変更は、構造的にはまらない鹿島の4-4-2と浦和の3-5-2を、鹿島が現実的に受け入れたもののように思います。つまり鹿島はゾーン2での浦和の崩しをある程度許容する(とはいえ自動ドアにならないように安西という蓋を用意する)ことを選んだのではないでしょうか。その一方で、これにより鹿島が得たものもあります。それはゴール前で弾き返せる限りの守備の安定と、浦和の強みの裏に隠された弱みのあぶり出しです。

23分、山本が攻め上がると左SHの安西へ。安西はスライディングチャージしてきた岩波を軽くかわすと、コーナー深部へ侵入。森脇が必死に追いかけますが、カットインからミドルを許します。西川が正面で受け止めて問題にはなりませんでしたが、浦和の華麗なビルドアップの裏に隠された構造的な弱みが明らかになった場面でした。非常に高いビルドアップ能力を備える岩波-森脇という右サイドのラインは、その反面二人とも機動力に難があり、スピードのあるSHへの対応に不安があります。また、中盤右の長澤を武藤とのスペースアタッキングの駒として前線に使っているために、特にトランジションの局面ではこの二人が相手SHに晒され、中盤のサポートを得られにくく、また無理にアンカーの青木を動かせばバイタルが空いてしまい失点のリスクが高まります。つまり、ビルドアップの起点となる浦和の右サイドは、その反面守備時に晒されれば、スピードに不安があるにも関わらずサポートを得にくいという、まさに失点の入口でもあるという二面性を有します。

26分には、鹿島が中盤を譲歩したことによって得た、逆説的なチャンスが訪れます。浦和は3バックの幅を活かしてビルドアップ、一時的に岩波と立ち位置を入れ替えていたマウリシオの縦パスが長澤を経由して興梠に渡ると、完璧なタイミングで上がっていた森脇へ展開。森脇のクロスは阻まれますが自ら拾ってやり直し。ここに素早くサポートに上がった岩波、柏木が絡んでマウリシオから中央にできたスペースに入った青木へ。青木から槙野を経由して左サイドへボールが回ると、最後は興梠がクロスを狙うもまたもエリア内で阻まれ、チャンスンヒョンの苦し紛れのクリア。これをセルジーニョが槙野と競って残すと、ぽっかりと空いた中央で安西が爆走。森脇が必死に追いかけるも追いつかず、最後尾で一枚余っていた岩波がヘルプに入りなんとか防ぎましたが、これもまた最終ラインで浦和の攻撃を防ぎ、攻め上がってきた浦和の裏を突く形。この場面の根本的な問題は青木が攻撃にでていった際に他の選手が適切なセーフティをとっておくべきではなかったかという点ですが、人数を掛けてスペースを攻略し敵陣に攻め込めばその裏に相応のリスクを抱えるという意味で、ミシャ時代を想起させるシーンでした。

そして36分、セカンドボール争いを土居が制すると山本に預けて森脇の裏へアタック。岩波がフォローに走り、同時に青木がサイドのケアに走ります。それを見た山本は中央のスペースに安西を走り込ませるパス。これをマウリシオが飛び出して対応しようとするも、一歩早く安西がボールを流し、セルジーニョがキープに成功。すかさず駆け上がった山本を使うと、山本のクロスに後ろから西が走り込んで右足アウトサイドボレーで突き刺し先制。やはり浦和の右サイドを起点に、アンカー青木が動かされた中央からの失点となりました。一試合に幾度とあるわけではないのでリスクの取り方が難しいのですが、このシーンは鹿島のクリアがうまく収まった場面で、柏木、長澤、武藤が前目に残った状態で攻め込まれたために森脇・岩波が晒され、青木がサポートに走れば中央を使われるというのは失点につながりやすいパターンです。

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ちなみにこの失点、山本のファーへのクロスの前に遠藤が全力でニアに飛び込み宇賀神を釣りだして西のスペースを作っているのは見逃せません。オンザボールではあまり活躍の無かった遠藤ですが、守備ではバイタルのケア、攻撃ではこうした囮のランニングなどクレバーさが光りました。また、柏木としてはなんとか西についていく必要があった場面でした。

 

継続した浦和の形。鹿島は理想を追い求めたか?

先制を許したものの、全体として浦和が悪かったとは言い難い内容で前半は終了しました。基本的には、高精度フィード&縦パス砲台『いわなみ』と、長澤・武藤のスペースアタッカーを発射する戦艦『もりわき』を右サイドで展開し、鹿島の4-4-2の2トップ脇からサイドのWBを起点に攻撃を組み立てる形。これに万全の回答を用意できない鹿島がブロック守備でやり過ごし、最終ライン、またはエリア内で弾き返すという展開でした。

Jリーグの公式レポートでも触れられている通り、ハーフタイムでのオリヴェイラの判断と言葉、つまり前半のやり方を踏襲し焦らず鹿島を追い詰めていくという判断が、素晴らしい後半を導いたことは言うまでもありません。

「前半は、失点はしたけれど、良い形ができていた。後半は、前半にやっていたことを落ち着いて継続することができた。ハーフタイムには、落ち着いて続けなさいと選手たちには話しました」(オズワルド オリヴェイラ監督)

浦和は戦況をしっかりと見つめることができていた。この試合の前まで連戦が続いて「鹿島は、疲労がたまっているのが分かった」(宇賀神)。徐々にスペースができ始めた後半は、浦和がさらに攻め込んでいく。

https://www.jleague.jp/match/j1/2018/102008/live/#recap

不思議だったのは、前半途中から中盤へのプレッシャーを弱めて最終ラインで受け止める形で(チョンスンヒョンの危うい対応など脆弱性はあるものの)一応の安定を得た鹿島が、再び序盤のやり方に戻したことでした。浦和は前半同様に森脇の起点に武藤がハーフスペースに降りる形でビルドアップ。これに昌子が食いつくと、その裏を長澤や青木が狙います。47分にはまず長澤が、うまくボールが出ずに一度左サイドを試した後に今度は青木がロングランで裏に抜け出します。早い攻撃には映らなかったものの、落としを受けた森脇のクロスを興梠が落として走り込んだ長澤が狙うという場面でした。同じようにしてチャンスを作ったのが同点弾の直前のシーン、ビルドアップから岩波→森脇で鹿島の左SB山本を釣り出すと、武藤が逆サイドにいたこともあり長澤がハーフスペースへ降りて昌子を釣り出します。ここに興梠が走り込むと、全て見えている『もりわき』の完璧なデリバリー。チョンスンヒョンを引き出した興梠のクロスに武藤がどフリーでまさかの空振り、しっかりとフォローしていた宇賀神のボレーはGKの正面を突いてしまいましたが、完璧な崩しで鹿島の守備を無力化した場面でした。

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続くコーナーで岩波の美しいヘディングで同点とされた鹿島ですが、せっかくある程度安定していた撤退気味の守備を戻した理由はよくわかりませんでした。本当は食いついて潰したかったが前半は疲労で徐々に食いつけなくなっただけなのか、それとも意図があってわざと戻したのか。本当のところは聞いてみないとわからないのですが、個人的には鹿島は意図的に戻したのではないかと想像しています。やはり鹿島は「良い守備から良い攻撃」が信条のチーム。前半は打算的に多少撤退したとはいえ、後半はライン全体を高めに上げることで昌子が武藤に付いて行きやすい形を作ろうとしていたように感じます。連戦の疲労も気になる中で、鹿島は、理想的な「はめ込む守備」を実践し早々に試合を決めようとしたのではないでしょうか。しかし、4-4-2で3-5-2を守る際に必ず生じてしまう3バックへのギャップとWBへのギャップをどこでどう処理するかの整理がないまま守備を戻したことで、結果的には自ら主導権を浦和にプレゼントする格好になってしまいました。

実はこのシーンだけではなく前半にもあったのですが、この岩波・森脇を起点にした攻撃の組み立てに呼応して、浦和はより広いエリア(=逆サイドまで含めたピッチ全体)でも連動が起きていました。再び上述の47分のシーンですが、森脇が興梠へフィードを送る前の段階で、逆サイドでは柏木が長めのランニングで永木を押し込んでいます。また宇賀神は逆サイドに大きく張ることで大きく幅を取っており、この場面で鹿島の右SBの西と右SH遠藤は最終ラインの数的同数をケアできていません。他にも、前半9分のシーンではビルドアップに参加するために最終ラインに落ちていた柏木が、森脇にボールが入り右に起点ができた瞬間にダイアゴナルに30m以上のフリーランを見せて鹿島の最終ラインにアタックし永木を引き連れることで鹿島の守備を大きく右に寄せ、森脇の落としを受けた岩波の宇賀神へのサイドチェンジを引き出すというプレーもありました。

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右を起点にしつつも、左サイドでも同様にスペースへアタックする動き、また鹿島の選手を連れて行く動きは、59分に武藤の逆転弾という形で結実します。青木の縦パスを受けた武藤がターンで小笠原を躱すと左足を一閃。豪快なミドルシュートで一気に逆転しました。この場面でも注目すべきはその前の作りで、右サイドで粘った長澤がファールを受け、「全て見えている男」森脇が興梠の抜け出しにクイックフィードで反応したところから。宇賀神が外でボールを受けると、槙野が後ろからサポート。柏木にボールを預けると、そのまま最終ラインに抜けていきます。ここで槙野を引き取ったのが永木で、これにより永木は鹿島最終ラインに吸収されており、そのおかげで武藤がバイタルエリアで青木からのパスを受けた時点で小笠原との1on1、ターンで躱した瞬間にシュートコースが開けたのでした。では、なぜ永木が槙野を引き取る位置にいたか。興梠が抜け出した時点で、後方から猛然とロングランを仕掛けて永木を連れ出していたのが柏木でした。柏木のロングランと、ロングランを始める瞬発力。森脇がクイックでフィードを送り、興梠が抜け出した瞬間には柏木はエリア内に飛び込んでいます。武藤のスーパーゴールの活躍の裏にあるこの中盤からのランニングの貢献を見逃してはいけないのかなと思います。

 

武藤の覚醒の要因は何か?

試合は、終了間際に武藤の鬼のドリブルシュートで鹿島を突き放した浦和の勝利。鹿島は逆転された後に小笠原に代えて鈴木、負傷の遠藤に代わって小田を投入し西を前線へ投入するなど状況の打開を測りますが浦和は強かに5-4-1に形を整理しブロックを築き、森脇に代えて柴戸、長澤に代えて阿部など中央を締めてやり過ごしました。70分の長澤のPK未遂の判定でゲームが変わったような部分は正直ありますが、全体としては浦和は勝つべきプレーをしていたと思います。

この試合で目立ったのはなんといっても武藤の覚醒とも言える2ゴールでしょう。今シーズンは特に得点が取れておらず、ミシャ時代の輝きは失われ、ミシャ専用機なのかというほどの悪評を受けたほどでした。今になって思えば、武藤のゴール欠乏は彼に任せられたあまりに多すぎるタスクがゴール前でのパワーを奪っていた結果なのかもしれません。武藤は、基本的にはFWとしてプレーしますが、守備時には5-4-1気味にSHとしての守備タスクを負っています。基本的に3バック(=5バック)を採用してきた浦和にとって、この5-4-1のSHは極めて重要で、ここが守備をサボると相手SBの前進を許し、その分5バックのWBがサイドでの数的不利から攻略されるか、引き出されてCBが晒されるといった形で失点の要因となってしまいます。さらに武藤は攻撃時には今季は橋岡がWBに入るために独力突破を期待できないため、橋岡に寄ってサポートする役割や、ファブリシオが出場していた時期はファブリシオをゴール前に置くために中盤まで降りて組み立てに参加するタスク、さらには相手のプレスを外すために自ら持ち上がるドリブルに、コーナーキック…そのプレースタイルゆえに重宝される一方で自らのタスクの多さゆえにゴール前に絡む機会を減らしてしまう一面がありました。

ここ数試合の武藤の活躍に見る要因、その一つは長澤和輝の存在ではないかと思います。もちろん、ナバウト、ファブリシオの負傷によって半ば消極的に3-5-2を採用した結果、武藤が2トップの一角に収まったことでうまくタスクが整理されたという見方もあるのですが、どちらかというと長澤の完全稼働によって、主に中盤の組み立て、トランジションに関わるタスクを分担出来たことが武藤のゴール前での存在感を際立たせているのではないでしょうか。例えば、中盤の組み立てにおいては、森脇を中心としたビルドアップの構造を確認した際に出てきたように、WBに起点を作ったところからハーフスペースや相手のSB裏を使う役割を武藤と長澤が分担し、また同時にアクションを起こすことが出来るようになっていることで、二人が頻繁に、しかも前後と左右を入れ替えるフリーランを連発することでお互いがプレーするスペースを作りながらゴールに迫ることが出来ています。これによって武藤は持ち前のスペースを作る動き、スペースを使う動きが長澤との連動によって複雑化し相手に捕まりにくくなったことに加えて、長澤がつくったスペースをまた武藤が使うという連続性によってさらなるコンビネーションとボールホルダーへの選択肢を提供し、浦和の攻撃にバリエーションが増えていっています。

また、長澤は相手から奪ったボールを前線までドリブルで運んでいくプレーに特徴があり、相手のチャージをいなしたり、スペースにボールを置き続けることで前進していく運ぶドリブルによる陣地確保、そしてフィジカルと機動力を活かしたセカンドボールの回収など、トランジション面での貢献も大きく、これが武藤をより攻撃的な役割に集中させているという見方もできます。このような長澤の底上げを得て、またオリヴェイラがコメントしているような精神面での充実も加わって、武藤のゴール前での迫力、攻撃面での突き抜けが現象としてピッチに現れているのではないでしょうか。

 

アジアへ。オリヴェイラ・レッズの充実

今節の勝利を以って、ACLストレートインの資格を得る(追記:96の勘違いでした、浦和が今後ACLストレートインの権利を得るのは天皇杯優勝のみですね。ただリーグ3位を確保すれば万が一天皇杯で敗退してもACLプレーオフに出場できるため、重要なことには変わりありません。)3位まではついに勝ち点1差。1試合消化が少ない札幌が若干有利ですが、その札幌、そして現在3位のFC東京との直接対決を残す浦和はもはや完全に自力でアジアの舞台へ切符を掴み取れる位置まで戻ってきたと言えます。

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もちろん鹿島が過密日程からの故障者続出等で万全の状態ではなかったことは事実ですが、今節の戦いぶりを観るとオリヴェイラ・レッズの充実を感じずにはいられません。ファブリシオは離脱中、ズラタン、ナバウトは復帰明け、マルティノスは不調とほとんどの外国人選手が使えない状況で、充実しているというのが良いのか悪いのかはわかりませんが、さすがオリヴェイラと言うべきか、シーズン終盤になって戦えるチームを仕上げてきました。今節確認したように、華麗な連動性や強みがあれば、その裏に課題や弱みが隠されているのがサッカーの本質ですので、オリヴェイラ・レッズももちろん構造上の弱みや課題を抱えていることは間違いないのですが、シーズン序盤の苦戦と、オリヴェイラが今季3人目の監督であるという今季の苦しみを思えば、ここまで戻ってきたことは信じがたい成果ではないでしょうか。

目標とする3位以内を決めるまであと4試合。曹貴裁、ミシャ、長谷川健太、そして宮本恒靖。個性と因縁に溢れたライバルたちに、オリヴェイラ・レッズが挑みます。

 

今節も長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。