96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2020シーズンの始動、新システムとスカッドについての雑記。

2020年シーズンが始動しました。

昨年の総括記事とか特に何も練ってないのですが、2020年シーズンの展望を語る中で適当にまとめる感じで済ませようかと企んでいます。もうあんまり思い返したくもないっしょ。

 

補強の評価

昨年末に新強化部から語られた「3年計画」、(通称:土田談話)。個人的な感想は以下の記事に書いた通りですが、2020年シーズンはこれを実行する初年度、いわゆる改革元年となります。

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当面は、『3つのコンセプト』に語られた新しい浦和レッズのサッカーというものがどのように具体化されていうのか、またその中で誰が中心選手として台頭しチームを引っ張ってくれるのか、というのが主な注目ポイントになるでしょうか。

その意味では新生浦和レッズを象徴するような新戦力の補強に期待が集まっていたわけですが、結果的にはかなり苦しいオフを過ごすことになりました。以下の記事に浦和がオファーしたと報道のあった選手について去就がわかる前の段階の感想を書いていますが、まさかこれだけ報道があって実際に加入したのがレオナルドだけ(+伊藤遼太郎のレンタルバック、新卒加入の武田英寿)とは、さすがに寂しいものがあります。狙ってるところは良かったと思うんですけどねー。

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とはいえ、ここはプロの契約社会。こちらが良い条件をだし、我々と仕事をすることが魅力的だと感じさせなければ良い選手は来ないわけですから、現在の難しい状況では苦戦するのは予想通りとも言えます。上位を狙える既存戦力に加えて、立地や知名度、サポーターの数、金銭的なインセンティブで勝負出来ていた過去数年とは異なり、下降気味の成績や横浜FマリノスやFC東京といった東京首都圏クラブの好成績、そして何より今シーズンの浦和の迷走とも言える戦いぶりを見れば、魅力的なクラブという印象を与えるのは難しいであろうことは想像に難くありません。

また最近の傾向として、2010年代前半までに比べてJリーグクラブにおける監督の重要性、特にチームコンセプトや戦術の落とし込みが契約にあたって重要視されているのを強く感じます。選手の移籍にあたってもクラブの「ガワ」だけでなく中身、自分がどんなサッカーの中でどんな役割を求められているのかという部分の具体性、明確さがオファーの魅力に繋がっているのではないいか、とも感じるところです。

ということで寂しい結果となってしまっている今季のストーブリーグですが、前向きに考えればパニック・バイに走らなかったのは良かったのかもしれません。土田談話で語られた通り既存選手の多くが複数年契約を結んでいることから動きようがなかったのかもしれませんが、アレがダメならコレ、という感じで買い物のグレードを下げ、しかも競争力のあるオファーにするために複数年契約を乱発するというのでは、これまでの繰り返しですし。

そういうわけで、「3年計画」の初年度は既存メンバーを軸にした構成となり、必然的に今年は彼らをいかにBrand-new Urawa Redsにアジャストさせていくのか、というところがテーマになりそうです。

 

始動:4バックでのスタート

例年浦和調神社への参拝からスタートする浦和レッズの始動日ですが、今年は大原サッカー場からのスタートとなりました。マウリシオやエヴェルトンが姿を見せていなかったことで「まさか」がよぎる微妙な雰囲気でしたが、個人的な事情ということでとりあえず一安心です。

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記事にもある通り、初日から紅白戦、それも両チーム4-4-2でスタートしたというのが最大のポイントになると思います。いきなり4バックでのいろいろを仕込み始めるわけではないでしょうから、一種のパフォーマンスだと思いますが、これは明確なメッセージとして受け取って良いのではないかと思います。「3年計画」に示された『3つのコンセプト』を達成するための方法論として4バックを考えているよ、ということなのでしょう。

3バックとの決別(もちろんこれで3バックを完全に捨てるということでもないでしょうけど)という意味で思い出されるのはオリベイラ氏が率いた昨年のキャンプでしょうか。オリベイラ氏も鹿島での3連覇時代の4-4-2に象徴される「私のシステム」を導入するかと注目されたわけですが、結局キャンプ中には前年を戦った3バックをメインにトレーニングし、シーズンが開幕してもそれを堅持しました。個人的には山中や杉本など、4-4-2で力を発揮できる選手を獲得したこともあり、どこかで4バックに着手するのではないかと思っていたのですが、結局オリベイラ式4バックは浦和レッズでは日の目を見ることなく彼の退任を迎える結果となりました。

個人的な想像なんですが、おそらく彼は3バックと4バックの併用を考えていたのだと思います。前年を3バックで戦い天皇杯を獲得するなど結果を出していたわけですし、既存スカッドの3バック適性はよく理解していたはずです。そこを無理に崩すことなく、4バックで力を発揮できる新戦力との融合の中で4バックというオプションを身に着け、ACLと国内を平行して戦いきるだけのリソースを組み上げるというのが昨年当初の戦略であったと思っています。徹底的なリアリストですから、チームが戦い方を見つけていく過程にあるシーズン序盤と、必ず結果を出さなければ終盤に大きな影響を与えるACLのグループステージを3バックで安定して戦い、中断期間を使って4バックをオプションに加える。連戦が厳しくなってくる夏場以降に新戦力がチームに馴染んだところで相手と展開によって4バックを実践投入…というと、もはや妄想の域ですが。

ちなみに、レッズはその前年の堀監督時代に4バック(堀監督の4-1-4-1/4-1-2-3システムの採用)に取り組んでいますね。堀氏はオリベイラとは異なり、クラブからはミシャの3-4-2-1をベースに守備の安定を施した森保一的なアプローチを期待されていたと理解していますが、それを思いっきり自分のサッカーで上書きするアクロバティックな4バックの採用でした。当時の堀サッカーのコンセプトは、今年以降の『3つのコンセプト』とは異なりボール保持とWGからの仕掛けを狙ったものでしたが、ハイラインを敷いてコンパクトネスを得ようとするという狙いは近しいものがありそうです。

堀サッカーでは、実質的に3トップとなった前線は距離を保つため、1トップの興梠が孤立する場面が多くなってしまうのがよく見られた現象でした。そのため中盤で逆三角形を構築する2枚のIHがサポートに上がっていく必要があるのですが、この2枚をビルドアップに使わなければボールを前進されられなかったことに加えて、ビルドアップの出口としてというよりもプレッシングからの逃げ場としてWGを活用したことでボールがあまりにも早く前線についてしまい、IHが前線に飛び出す時間を確保できなかったという構造がありました。本来であればSBをビルドアップの出口として活用し、全体を押し上げながらWGに勝負の場面を作る必要があったのですが、ビルドアップの方法論の仕込みが不十分であったり、SBの人選に苦労したこともあって完成とは程遠いまま崩壊となっています。

というわけで、浦和レッズと4バックというのはどうにも良い思い出がないというのが正直なところで、大槻監督がどのように4バックシステムを構築していくのかはこのキャンプシーズンの最大の注目となります。また、4バックによるゾーンディフェンスへの挑戦という意味では、上野コーチがどれだけシステム構築に関与するのか、どんな役割を果たすのかも気になるところです。

 

システムとスカッドの話:SHの役割と中盤の構成

システムと人材の面で言えば、これから台頭する選手、特徴を発揮できない選手というのが出てくると思いますが、全体的なスカッドの4バック適性については、上記で観た通りキャンプの時期に限定して言えば過去2年間4バックを視野にいれた監督の下でチームが始動していることもあってか、実は4バックで活躍の場が期待できる選手が一定数いるのが現在のスカッドの特徴ではないかと思います。特に3バックではWBとして数えられるサイドの選手は特徴によって前後にポジションが明確化するので、本人たちとしては居心地が良くなる方向ではないかと思います。汰木はSHに、岩武はSBに数えるという感じですね。

一方で悩ましいのは中央の選手たちで、柏木や長澤、エヴェルトンはIHが適正ではないかと思いますし、3-4-2-1でシャドーに数えられていた選手(特に武藤や武富、伊藤、池高)がトップに入るのかSHに数えられるのかというのは今後徐々に見えてくるのでしょう。

また、個人的にはSHの役割と使い方に注目しています。もし上野コーチの師匠である松田式ゾーンディフェンスを採用するのであれば、SHの守備への貢献は非常に重要なポイントです。加えて、現在のスカッドでは特に左SBに攻撃的なタレントを擁していますから、彼らをオフェンスでどのように機能させるのかは重要な課題です。例えば昨年までの清水はSHが中央に入り込み、その分SBが高い位置で大きく開くことをスタンダートにしていましたが、その場合はマルティノスや関根よりも長澤や武藤をSHに起用するほうが理に適っている、とか。浦和のサイドプレーヤーというとドリブル勝負できるタイプかタッチライン疾走型の選手が思い浮かびますが、その特徴を新しいシステムでも残していくのか、どうなのか。

今のところ個人的には、『3つのコンセプト』に基づくシステムでは、SHは攻守においてこれまでの浦和レッズのサイドプレーヤーに求められたものとは異なる戦術的タスクを担うのではないかと思います。これに誰が適応し台頭するのか、もしくは僕の予想とは違う形でSHにWG的な役割を求めるのか、そうであればSBの挙動はどのようになるか…SHの使い方でチームの色が大きく変わるのではないかと思います。

上記のSHの役割の考え方にも影響しますが、この辺は4-2-2-2的にSHではなくOMとして中央に人を置いて、サイドはSBの運動能力に任せてしまうという考え方もあり、「4バックをやるようだ」というだけの今の時点でははっきりした予想は立ちませんね。4-2-3-1というアイデアもあるかもしれませんが、前から追い込んでいくというコンセプトに従うのであれば2トップをベースに構築するのではないかと予想します。

 

前年がどんなにひどいシーズンだったとしてもなんやかんや新しいシーズンの始動はわくわくするもので、トレーニングの状況などからこれからどう戦っていくのかが具体的に見えてくることを期待しているところです。

 

今回もチラ裏にお付き合い頂きありがとうございます。また次回!