96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

新しい浦和:迫力のファストブレイクと露呈した課題 ルヴァンカップGS第1戦 vs仙台 分析的感想

Jリーグ開幕に先んじて、ルヴァンカップグループステージが開幕です。ここ数年はなんやかんやでACLに出場することが多かったのでなんとなくルヴァンカップへの出場が新鮮なのは僕だけですかね。2018年も出場していた気がしますがもう忘れました。今シーズンのルヴヴァンカップ、浦和が参加するグループBはセレッソ大阪ベガルタ仙台浦和レッズ、そして唯一J2から参加する松本山雅の4チームのH&A総当たりとなります。Jリーグ開幕前ということでプレシーズンマッチのような感覚になりますが、れっきとした今シーズンの公式戦初戦。はりきっていきましょう。

両チームのスタメンと狙い/個人的な注目選手

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浦和は2トップにレオナルドと健勇を起用。興梠は軽度と思われる負傷でベンチ入り。個人的に注目していたボランチとSHのいわゆる2列目には、左から汰木、柴戸、柏木、関根と若いメンツ+4-4-2でどのような役割を担うか期待される柏木という組み合わせになりました。一方の仙台はキャンプ中の負傷の影響で思うようなスタメンが組めなかったとのこと。補強したクエンカらに加えて長沢などの主力もおらず、2トップはジャーメイン良と佐々木匠、左SHには19歳の田中渉など若いメンバーでこの試合に臨みました。

浦和はキャンプ時から報道されていた通り、4-4-2ブロックでの守備からの速攻を主体に、3つのコンセプトの達成を目指すのが新しいスタイルですので、まずはそれを実践できるかどうかがポイント。仙台は4-4-2でシステムが噛み合うため、キャンプ中のTMのイメージで試合に入れることはポジティブな点です。仙台については、彼らのキャンプからの積み上げについては詳しい情報を持っていなかったのですが、試合での振る舞いを見る限りは浦和に似たようにあまり手数を書けない攻めと、相手に圧力をかけていく守備を標ぼうしているようでした。

お互いの狙いが似通っていることから、プランニングの段階ではどちらも必ずしもボール保持にこだわらないゲームだったといえるかもしれません。一方で、試合を通じて両チームとも全くボールを保持しないということはあり得ないため、守備から仕掛けたいチーム同士が、逆説的にボール保持の完成度を問われるゲームとなった気もします。

ところで2020シーズンからはエントリのフォーマットに少し手を加えようと思っていまして、これまではスタメンの確認と両チームの背景、プランニングの考察だったこの最初のパラグラフに個人的な注目選手を記しておこうと思います。基本は浦和の選手になるはずですが、場合によっては相手チームのキープレーヤーが出てくることもあるでしょう。ちなみに、必ずしも戦術的なポイントとなる選手という意味の注目ではありません。この試合に関しては、浦和の杉本健勇と柴戸海に注目していました。二人とも今季に懸けるものがあるという境遇もそうですが、浦和レッズの4-4-2システムの完成形と理想のサッカーを考えたときに、二人のパフォーマンスが欠かせないと思うからです。

プレッシング設計が表現できない仙台

試合は前半から動きました。9分にビルドアップから浦和が先制。岩波から橋岡を経由して仙台の左SB常田の裏に抜けた関根の仕掛けから、マイナスにシュートスペースを作っていたレオナルドが右足を一閃。グラウンダーのシュートは外に巻きながらスウォビクの手をすり抜けてゴール。新潟時代の映像でも、ゴールに突っ込まずにあえて立ち止まることで自分のシュートエリアを確保し、右足さえ振れれば枠に飛ばせるというプレースタイルはよくわかりましたが、それを新シーズンの一発目、初めてフリーでボールが入った場面で見せるのが凄さですね。強烈なまでの落ち着きと自分の武器への自信が伺えるオープニングゴールでした。その後、18分には柴戸が痛んで少しプレーが止まったところで健勇のビューティフルミドルが決まって追加点。35分にはカウンターから山中のクロスにレオナルドがダイレクトで合わせて3点目。おおまかに区切れば、ここまでが試合の序盤と言えるでしょうか。

前半で3得点と浦和にとっては望外の滑り出しとなったこの序盤ですが、なるべくフラットに考えればこれは仙台側の負の要因が大きな影響を与えたかなと思います。先制点からさくさく見ていきましょう。

前述の通り、浦和も仙台も前目のプレッシングから素早い攻撃を仕掛けたいというのが試合前の意図であったと思います。しかし、仙台は試合前に設計したであろう前線からのプレッシングが表現できていませんでした。

まず、2トップは浦和の2枚のCBの前に立ち、チャンスがあればボールホルダーにプレッシャーを仕掛ける姿勢。左の道渕も高い位置でプレッシングをかけていきたいという意思が強いのか、2トップとほとんど並ぶような高い位置をとって浦和の最終ラインへ積極的にプレッシングをかける姿勢を見せていました。一方で左サイドの田中は少し冷静なのか、浦和右SBの橋岡を気にしつつ、自分の目の前、橋岡が高い位置を取ることで空いた右SBのスタートポジションに落ちてくるボランチも気にしていました。下の図のように仙台のプレッシング体系は右肩上がりとなっており、ボランチは中央のパスコースを防ぐのに加えて、浦和のボランチが中央に入る場合はマンマーク気味にアプローチに行くという感じです。

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問題は最終ラインで、前4人(正確にいうと3人)が前から出ていきたいのに対して最終ラインが上がりきっていません。これはレオナルドがキックオフ直後から常に裏に抜ける姿勢を見せ続け仙台の最終ラインと駆け引きをしていた影響だったでしょうか。これが要因となって、前と後ろに引っ張られる形で仙台の2枚のボランチはそれぞれの距離感が徐々に開いていきます。さらに浦和は健勇がボランチの両脇に積極的に落ちていき、中盤のセカンドボール保持や楔の受け手として存在感を発揮したことで、仙台の中盤は殊更前に出ていくのが難しくなっていたようでした。

突きつけられ増え続けえる選択肢のしわ寄せの被害者となったのは若い田中渉でした。逆サイドの道淵がヒャッハー状態で前へ出ていくのに対して、田中は高い位置をとる橋岡という自分の守備の基準を持ちつつも、仙台のボランチが2重3重の選択肢のストレスを抱える中で中盤から降りてくる浦和のボランチを気にしています。失点シーンでは流れでマークについた柏木が降りていくのにそのままついていった田中ですが、岩波がひとつ飛ばしたミドルパスを橋岡に合わせるとこれで仙台の守備組織がドミノ状に崩壊。結果的に左SB常田の裏を関根が使い、一気に6人が裏返されてエリア内に持ち込まれ、最後はレオナルドがフリーで先制点を沈めました。

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仙台の根本的な問題は、どこでボールを奪いたかったのかが明確でなかったことでしょう。それは言い換えれば、奪いどころのためにどのリスクを負うのかの判断でもあります。前へ出ていく前線2枚+道渕に対して、2枚のCBは裏を取られるリスクを嫌っていました。また左SBの常田は本来ストッパーの選手なので高い位置に起点を作る橋岡や関根にどこまで出ていくのか迷っており、ボランチと田中はそのしわ寄せとして常に突きつけられる選択肢にアドリブで対応していました。迷う田中でしたが、失点後にはある意味でふっきれたようで、落ちていく浦和のボランチに安易についていくよりも高い位置に張り出す橋岡を気にして下がり目のポジションをはっきり取るようになります。これでこの後試合中盤までの仙台の守備体系となる左右にズレた4-3-3-構造が明確になっていきました。

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新しい浦和の武器、ファストブレイク

浦和の追加点はある意味で事故的なもので、仙台としてはちょっと納得いかないかもしれませんが、それは浦和も1失点目に似たような状況から失点しているのでおあいこですかね。注目すべきは3点目で、新しい浦和が掲げる3つのコンセプトを具体化した形からの得点となりました。

ファストブレイクとは僕の知る限りサッカーではなくバスケで良く使われる言葉だと思いますが、この試合の浦和を観ているとこの言葉を使いたくなります。

ファーストブレイク(速攻)は、ゴール下で相手チームとの競り合いで攻撃を凌いでいる場合に、ボールが味方のものになった瞬間一転変わって相手陣のゴールへと素早く攻めたてる攻撃方法となります。ディフェンスからオフェンスへの変換を素早くすることで、相手チームのディフェンス陣が構築される前に得点することが目的になります。ファーストブレイクのファーストは、「fast(早さ、時間がかからないこと)」のことであり、1番という意味ではありません。

https://chouseisan.com/l/post-37161/

上記、ファーストと言っていますが、僕は口語でも伸ばさずにファストブレイクと言います。要は速攻なのですが、サッカーで良く使われるショートカウンターとは何が違うでしょうか。ショートカウンターはその名の通り高い位置で奪って相手ゴールに近いところから速攻を仕掛ける行為(したがってロングカウンターという言葉も成り立つ)ですが、ファストブレイクにはShortもしくはLongの感覚は織り込まれていないのが大きな違いですね。さらに言えば、上記の説明にあるようにファストブレイクには「相手チームのディフェンス陣が構築される前に得点すること」が強く織り込まれている気がします。もちろんこの辺はショートカウンター/ロングカウンターにも「カウンター」という言葉の前提として織り込まれているとは思いますが、「攻め切る」という感覚がより強いのは、個人的にはファストブレイクです。

また、一般的なファストブレイクの定義とは別に、浦和がこの試合で見せた速攻の特徴はその発動に反応する人数でしょう。例えば3点目の場面ではカウンターが発動した際に反応して前線に参加するかフルスプリントを掛けた選手がレオナルド、汰木、健勇、山中の4人、その後では柏木と関根が最前線を追いかけています。実に計6人が反応した速攻で攻め切りました。このように複数人(4人以上)がポジティブトランジションに反応し、相手の守備が整う前に(数的不利であっても)攻め切ってしまうことを当ブログでは新しい浦和の武器、ファストブレイクと定義したいと思います。このように4人以上が反応してフルスプリントを仕掛けて攻め切った場面は前半少なくとも4,5回あり、単純計算で10分に1回程度の頻度で出ているので、チームの狙いとしてはまずまずもしくは十分な回数表現できていると言えるのではないでしょうか。

ファストブレイクと言えるほどの速攻を表現するためにはとにかくまとまった人数がそれに反応しフルスプリントをしなければなりません。これは仙台と比べるとわかりやすいと思うのですが、この試合で仙台はいわゆるショートカウンターを浦和のミスを発端に仕掛けることがあっても、速攻で4人以上が関わりフルスプリントを見せるという場面はほぼありませんでした。両チームビルドアップのミスや純粋にボールを蹴る技術のミスが多く攻守の入れ替わりが多いゲームだったので、条件的には仙台にも速い攻めを出せる場面はあったはずですが、仙台はポジティブトランジションに入った場面での2トップの動き出しに方向づけがありませんでしたし、誰がどこまで速攻に関わっていくのかという意識も原則もなかなか見えませんでした。

一方で浦和は、ボールを刈取った瞬間にまずトップを見ます。2トップのポストプレーやボール周辺の状況から味方が前を向けた瞬間に周囲の選手がフルスプリントで中央3レーンを埋めつつ相手ゴールに殺到。なるべく少ないタッチでシュートまで持ち込むというような原則がはっきりとみて取れました。相手ゴールまでの距離(Short/ Long)ではなく相手の守備が整っているかどうか、味方が前を向けているかを優先する発動の条件付け、ポジティブトランジションに入った瞬間に狙うポイントの優先順位付け、フルスプリントをかけながらどこに入っていくのかの走るコースの優先順位づけ、そして可能な限りシュートまでやり切ってしまう、つまり数的優位やゴールの可能性よりも相手の守備が整っていない状況を利用することへの優先順位づけ、こういった判断基準がチームに織り込まれているからこそ、迷いなく状況に反応することができ、それが新しい浦和の武器、迫力あるファストブレイクに表れたのではないかと思います。前半に複数回見られたファストブレイクは、まさに浦和が3つのコンセプトとして掲げるサッカーの目玉となるものであり、大槻監督がキャンプでチームに原則を与え、設計してきた部分が出ていたと言えると思います。

仙台の修正/露呈した負の側面とリスクオンの考え方

34分までに3得点と浦和にとっては申し分のない滑り出しとなった前半ですが、30分に汰木が顔面シュートで傷んだ場面を使って修正をしていた仙台は、34分の失点前後から少しずつビルドアップを整理していきます。

キックオフ直後から彼らのビルドアップはボランチを1枚落として3バック化し、両SBを高い位置に上げて浦和の4-4-2ブロックの外に基点を取り、両SHもしくは2トップが浦和のSB-CB間のチャンネルを取りに行くというものでした。序盤は技術的なミスや連携不足が頻発してほとんど形になっておらず、また受け手が最初から浦和のSB-CB間のチャンネルでボールを受けようとしていたこともあって効果的とは言い難いものでしたが、修正後は浦和のSBが前に出て守備をする裏をまず使うようになり、そこから形が見え始めたように思います。

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仙台の右サイドが基点となることが多かったのは仙台の左右のSBのキャリアの違いと、もしかすると187cmの常田を起用した強みを発揮するためだったかもしれません。いろいろな媒体で多くの方が指摘している通り、4バックがスライドするためにボールと逆サイドのSBがエリア内中央まで絞って守備をする必要があり、その大外の対応が難しいという事情があります。右サイドの蜂須賀と道渕のSB裏抜けで基点を作れたことで、逆サイドのSBである常田が高い位置をとってファーサイドでその高さを活かすことができる状況が整った仙台は、ここから田中渉の連続ゴールで一気に2点を返します。

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放送を見直したら清水○彦氏がさんざん指摘していましたが、実際に最初の失点の場面では橋岡はファーサイドに常田がいることを認識していなかったのか簡単につぶされてしまっています。その前の38分のシーンでも同じようにファーを使われており、仙台に常田という高さのある特殊なSBがいたこともありますが、ここは浦和のセット守備の泣き所になります。とはいえ、これは4-4-2に対して4-4-2でゾーンディフェンスをする際の原理であり、それを選ぶ以上受け入れるべきリスクであるとも言えます。これを嫌って橋岡を絞らせなければエリア内で2CBは2on2に晒されますし、外に人を置こうとすればそれは5バックで守るかボランチが最終ラインに加わるということで、バイタルが空いてしまいます。

一方で今後修正できるポイントは関根の立ち位置、もう少し抽象化すればボールと逆サイドのSHがどこまで絞り、下がれるか、という課題です。2失点目は状況が状況なのであれですが、1失点目では関根が下がり切れずに、バイタルで構える田中を放置しています。この場面に限らず浦和はSBの裏に走りこまれる場合にボランチがついていく原則があるようで、柴戸もしくは柏木が引っ張られてボランチ1枚が残るという場面がこの試合多く、すると必然的にバイタルをケアしきれなくなります。この時に逆サイドのSHが中央まで絞り、ボランチとして振る舞う必要があり、田中をマークするとは言わないまでもせめてボールがこぼれたときに素早く反応できる立ち位置をとっていなければいけません。2失点はいろいろ不運な状況もありましたが、基本的に関根がこれに対処していなければ同じような形から何度でもピンチを招くことになってしまいます。

一方で関根は、前述のファストブレイクの発動への関わりに加えてボールを失ってしまった直後のネガティブトランジションにおけるゲーゲンプレッシングにおいてチーム1とも言えるパフォーマンスを見せていました(これは2016年の経験が活きているかもしれません)。仙台の道渕ではないですが、浦和の両SHも前へ前への意識が強かったわけですね。これからこのサッカーを積み上げていくにあたってSHはスプリント回数でも走行距離でも相当にハードな仕事を課されるため、毎回毎回このタスクを完璧にこなすというのは現実的には難しいかもしれません。このゲームでは仙台の両SB の特徴の違いもあって浦和の右サイドが晒されましたが、対戦相手によっては左サイドが同様の問題に晒されることも起こるでしょうし、その場合はファーサイド対応が山中と汰木やマルティノスという場面もあるはずです。これはファストブレイクを軸にした4-4-2を採用するにあたってある程度受け入れざるを得ないリスクであり、そこにリスクをオンしてでも取りたいメリットがあるということなので、ここは明確に弱みになり得るものの、付き合っていくしかない負の側面とも言えます。

喫緊かつ根源的な課題-相手の攻撃の方向づけについて

とはいえ、このまま負の側面を晒しっぱなしでは馬鹿試合量産チームになってしまいせっかくの武器が勝利に結びつかなくなってしまうので、これには何か別のアプローチで対処する必要があります。

組織としてこの問題を考えるのであれば、ファーサイドの課題が露呈する前の段階、ファーサイドにクロスを上げさせない対応というのが必要です。このゲームでも結果的に汰木のプレッシャーが遅く、または弱かったところから仙台にアーリー気味に前線を使われています。また相手のSBが高い位置で基点になった場合の浦和のSBとボールサイドのボランチの挙動も洗練されておらず、人についていくのかスペースをケアするのか曖昧であったり、それが隣の選手の挙動と連動していなかったりします。

ですがそもそも、片方のサイドに横幅を圧縮して4-4-2を組んでいる以上、相手に大きくサイドチェンジをされるとどうしてもSHの対応は遅れます。前述の通り逆サイドのSHにはボランチの役割が部分的・瞬間的に求められているわけで、逆サイド大外を捕まえに行くには移動距離があります。

となると、重要なのはファーサイド対応の2場面または3場面前、相手に簡単にサイドチェンジをさせない守備が出来るかどうか?ということになります。この点において浦和のパフォーマンスは正直微妙で、試合を通じてセットした守備では相手の攻撃の方向づけは非常に弱く、また原則があるようにも感じませんでした。主にこの役割を担うのは2トップの振る舞いですが、この課題は彼らの個性を問題にするよりもチームからどのような原則が与えられているかが重要だと思います。その意味では例えば片方のサイドに入ったらサイドチェンジをさせないように2トップが中央に壁をつくって簡単にサイドチェンジさせないようにするとか、極端ですがサイドではなく中央を使わせるように誘導するとか、原則が見えるような守備を見たかったのですが、今のところはそういった相手の攻撃の方向づけを守備側が主体的に行うような仕組みはみられず、それが曖昧であったのは極めて重要な課題だと思います。

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良い攻撃は良い守備からというのは使い古された格言(?)ですが、新しい浦和がファストブレイクを武器にする以上、その発動回数や発動地点に関わるセットのディフェンスの構築というのは本質的、根源的に重要な論点です。このゲームでみられたように、浦和のボール保持におけるビルドアップはいくつかの基本原則があるものの洗練された型はなく、リスクをとるよりも危なくなったら蹴り出してしまえということでボール保持にはこだわっていませんでした。するとなおさら、自分たちがボールを保持していない状態からいかに相手のボール保持を方向づけ、関与するのか、そこから質の高いファストブレイクを発動させるためにどこでボールを刈り取っていくのかというところが重要な攻撃の組み立てとなります。みんなボール保持におけるビルドアップを語るのが好きですが、浦和にとっては良いセットディフェンスはビルドアップに匹敵する要素であり、ゲーム全体で自分たちの武器を示すための土台になるのだと思いますので、セットディフェンスについては今後早い段階で改善されることに期待したいです。また欲を言えば、相手にプレッシャーをかけるようなセットディフェンスというところまでいくと「相手を休ませない」というコンセプトの実現にも近づいてくるのではないかと思います。

勝負を決めた4点目/競争というもう一つの武器

連続2失点後、続く43分に橋岡のエリア内でのハンド見逃がされというこのゲームを左右するラッキーがありつつも前半を終え、後半に入って49分に関根がPKを獲得。仙台のビルドアップが形を見せ始めていた中でファーサイドの戦術兵器となっていた常田ですが、肝心の守備面で関根のクオリティが出た形でした。この2つのプレーでほぼ試合は決まりで、そう考えると浦和の2点目、仙台の1点目と併せて主審のコントロールがどうだったかなという試合になった感じもあります。

後半はゲーム全体の構造はあまり変わらず、お互いミスが多いものの一進一退といった展開だったかと思います。どうしても仕方ないことですが、浦和は60分に差し掛かるころから明らかに疲れが見え始め、全体の動きが後手になっていったことに加えて、ファストブレイクへの反応も落ちていきました。後半ファストブレイクが形になった場面は1,2本あったかどうかという感じだと思います。SHを中心に中盤には大きな負荷かがかるサッカーなのでこれは仕方ないとして、今後に希望が持てたのは交代出場したマルティノスのゴールや、柏木に代わって入った青木がしっかり中盤を締めたこと、実質的にはまともにプレーしていないものの最後に入った荻原がベンチコートを豪快に脱ぎ捨ててピッチに入るなど試合に関わった全選手が出場意欲、アピールへの意欲を強く見せたことでしょう。

このサッカーを続けていくにあたって、勢いだけでは絶対にシーズンを戦えません。ここ数年の開幕と比べれば格段にコンディションの良い状態だったにも関わらず、前半のペースは後半に引き継がれませんでした。そう考えるならば、交代選手のパフォーマンスは非常に重要ですし、場合によってはコンペティションごとのターンオーバーでの起用も方法の一つになります。おそらく、多くの選手が入れ替わり立ち代わり活躍することでこのサッカーを年間通じて機能させるというのが大槻監督の戦略でしょうし、それが故にビルドアップをはじめとした各フェーズにおける原則の設定は極力シンプルなものに抑えているはずです。シンプルな戦術とシンプルな原則でチームのリソースを最大限活用し、そうすることで年間を通じた競争を担保しようと考えているのではないでしょうか。

ちなみに、仙台は後半途中で左SBの常田を交代し新加入のパラを使いましたが、個人的には前半終盤から浦和のファーサイド対応の問題となっていた彼の交代はちょっともったいない気もしました。とはいえ上下動と関根のプレー強度に参っていた感じもあったので、限界だったのかもしれませんが。

3つのコンセプトに対する個人的評価/選手個人についての雑感

ということで、ゲームは5-2で浦和の勝利。未熟な部分を見逃がせない内容でしたが、これからの新しい浦和のコンセプトの根幹となるファストブレイクを(特に前半)複数回見せつけ、2得点したことはシーズン最初の試合としては非常にポジティブであったと思います。ここで今シーズンの新しい試みとして、クラブが「3年計画」の下に3つのコンセプトを掲げるのであれば、それを軸にチームとゲームを評価しようということで、やってみます。各項目は★10点満点で、基準は★6つくらいに置きたいと思います。

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ちょっと辛めかもしれませんが、まだまだはじめの一歩ということで。個人の能力を最大限に発揮という部分では、レオナルドや健勇を中心に期待通りのパフォーマンスを発揮した選手がいる一方で、もっとやれると思った選手がいたのも事実で、期待を込めて★4つ。前向きにプレーする姿勢は意識としてはファストブレイクの発動など強く見られたので、これを基準にしてほしいという意味で★6つ。最後の「相手を休ませないプレー」については、言及した通りセットした状態での守備で、下がるにしてももっと相手の選択肢を限定させていくようにしなければいけないと思いますので、辛めの評価です。あくまで個人的な評価であって、長期的な視点を忘れないようにしようという意味でやっていきますので、軽い気持ちで皆さんの感想と突き合わせて頂ければと思います。

注目選手だった健勇と柴戸ですが、健勇はかなり良かったですね。相手ボランチの脇に降りて基点となり、安定したボールコントロールで落ち着きをもたらしたことに加えて、しっかりと2得点を稼ぎ、レオナルドに負けない存在感を発揮していました。2トップになれば活躍できるだろうことは昨年から言い続けてきましたが、こんなに良くなるんだというのが正直なところです。ていうか、健勇お前1トップでも2トップでもそのプレーしかやる気ないだろ、という感じもしますが。降りてきてリズムを作り、ハイボールの的になり、ゴール前で勝負するという彼のプレーは常に相手ディフェンスラインと勝負し続けゴール前の仕事に集中するレオナルドとの相性は非常に良いですし、他のFWにない高さという武器は貴重です。今シーズンは興梠と同じかそれ以上の出場機会を得ても不思議ではないと思わせる活躍でしたが、仙台の2枚のCBがレオナルドに引っ張られたのかあまり強くアプローチに来ていなかったのも事実で、例えば3バックの相手であれば1枚は必ずついてくるため、その時にもこのゲームと同じパフォーマンスを発揮できるかどうかが重要ですね。

柴戸は、やはりこのサッカーを続けていく上での中長期的な最重要人物の一人になる可能性を秘めていると思います。そもそもカバーすべきエリアの広い4-4-2にあって、SB裏に流れる選手についていくタスクも与えられ、攻撃ではビルドアップに動き回るなどその役割と運動量はこのチームの肝になります。タスクの多さと彼の責任感のある性格が相まってかあらゆる局面に関わろうとしてバランスを崩したり、シンプルにプレーすればよいところでまごついたりとまだまだチームの幹になるプレーは出来ていませんが、逆に言えば彼の成長がチームの伸びしろであるとも言えます。大槻監督の期待も大きいようなので、ルヴァンのスタメン、リーグではベンチからというような起用になるのかな?と思います。

仙台の選手で言えば、2得点の田中渉が印象に残りました。浦和の先制点の場面では難しい2択に晒されて結果的に失点の起点に絡んでしまいましたが、その後ははっきりと自分の守備に優先順位をつけて橋岡の対応を重視していました。2択を迫られたのは彼の責任ではなくいわば全体のしわ寄せと浦和の狙いでしたし、逆に言うと状況に応じて悩めるというのは冷静にピッチ上の状況を把握できているということだと思います。ゴリゴリ前に行っていた道渕が悪いというわけではないですが、ああやって状況を把握して悩める選手は個人的に好きです。とはいえ、海外帰りの関根には球際で負けまくり、オンザボールでもものすごいプレーを見せたわけではないので本人は反省も大きいとは思いますが。視野が広くポジショニングが良くて左利きで柔らかいパスも出せるので、もう一つJ1で戦える武器を身に着けると良い選手になりそうです。SHというよりはIHやシャドー、サイズはないですがボランチもできるかなという感じがするので、ミシャが気に入るかもしれませんね。

ということで、終わります。湘南戦は初めての対3バックということで、噛み合わせへの対処がポイントになりそうです。

 

今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。