96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

積み上げたいもう一つ:Jリーグ2020 vs清水エスパルス 分析的感想

前節勝利したチーム同士の対戦となる今節。17位の清水は前節まで開幕6節勝利なしで既に5敗と苦しいシーズン序盤を過ごしていましたが、前節大分戦で一気に4得点と勢いに乗っていきそうな雰囲気。6位の浦和はFC東京、柏と自分たちと同じように守備からカウンターに出ていくタイプのチームに敗れたものの、ビルドアップにこだわる横浜FC相手に勝利し連敗をストップ。早くも独走しそうな川崎は別として、まずまずのポジションにつけているため、上位について行くためにも、近年相性が良い下位チーム相手には負けたくありません。

両チームスタメンと狙い

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スタメン

浦和のベンチメンバーは福島、鈴木、荻原、柴戸、武藤、涼太郎、武富。武富がレンタルから復帰直後の怪我からようやく戻ってきました。清水のベンチメンバーは大久保拓生、奥井諒、岡崎慎、中村慶太、鈴木唯人、ティーラシン、川本梨誉。

両チームの狙いは結構はっきりしていて、昨シーズンまでマリノスでコーチを務めていたモフモフスキーみたいな名前の監督が就任した清水は、マリノス式のボールポゼッションを重視した4-2-3-1。マリノスほど起用な選手はまだ揃っていませんが、ゲームの組み立てや崩しにかかる部分のセンスは近いチームだと思います。それに対して浦和はしっかりとブロックを固めてロングカウンターに出るというのが大まかな狙いと考えてよいと思います。

清水はモフモフスキーみたいな名前の監督が就任する以前から、ビルドアップではボランチが落ちて3バック化し、両SBに高い位置を取らせると同時にSHが中央に入り込んでいくというサッカーを実践していました。大分戦をざっと眺めた感じではビルドアップの構造はあまり変えていないものの、アタッキングサードでのスペースの使い方、ボールを運んでいくべきポイントについて整理されたという感じに見えました。前節大分戦では7本のCKから3得点を含むセットプレー4発で勝利し、191cmの立田をはじめとした空中戦の強さとセットプレーでの迫力が話題になりましたが、それよりも7本のCKを獲得できるほどアタッキングゾーンで前向きにボールを繋げているというのが清水にとってはポイントな気がします。もちろん、高身長の選手も揃っていることに加えて西澤という良いキッカーがいますので、アタッキングサードでチャレンジをして、ゴールに至らなくてもCKを得られればOKという考えが清水にあることは間違いないと思いますが。というわけで清水はうまくいった前節のメンバーをそのまま今節もピッチに送り込みます。勝ってるなら変えない、の基本通りですね。

で浦和の方ですが、マリノス戦同様にある程度ボールを持たれるであろうことはわかっていたはずで、そこからのロングカウンターまで設計しようという考えがあったはずです。ということで、マリノス戦で機能した4-4-1-1守備への適正が高く、ポジティブトランジションでのボールキープが期待できる健勇を、ロングカウンターで必須となるロングドリブラーとして右SHに関根を、クロス対応や声出しも含めてCBのコンビには総合力の高いトーマスと、リーダーシップとコーチング、対人の強さを発揮できる槙野を抜擢するというのは理に適った大槻監督らしい起用だったと思います。ちなみにボランチマリノス戦では柴戸と青木のコンビでしたが、今節は青木とエヴェルトンを起用。個々の起用の意図はよくわかりませんが、この二人は前節横浜FC戦でよい活躍をした二人なのでそのまま使うということだったでしょうか。そもそもGKと両SB以外は毎試合入れ替えながら起用していますし、トレーニングでのパフォーマンスの良し悪しも起用に大きく影響しているのでしょう。

さて、基本的に今節は清水がスタイル通りボールを保持し、浦和が構えたディフェンスからカウンターを狙っていくという構造でした。得点や疲労などで多少状況は変わりましたが、特に前半戦はその傾向が顕著であったと思います。このようにゲームの構造が明確にピッチ上に現れる要因は少なくとも2種類あると思っています。一つめは明確な実力差がある場合、そしてもう一つは、片方のやりたいことと、もう片方のやらせても構わないことが噛み合っている場合です。言うまでもなく今節の構造は後者でした。具体的には、清水がどこでボールを保持したいか、そしてそのためにどのエリアからの攻撃を捨てるか、そして浦和がどこを守りたいか、そしてそのためにどのエリアは清水に明け渡すのか、この二つの意図が噛み合っていたということになります。

ゲームの構造①:浦和が捨てたサイドでの数的同数

清水のボール保持から見ていきます。清水のビルドアップはCBからスタート。2枚のCBが立つ位置は若干幅が広めでしたが、その前列の2枚のボランチが積極的に最終ラインに落ちるということはあまりありませんでした。ただ両SBの立ち位置は高めで、特に左SBに入ったファンソッコの立ち位置は浦和のSH関根よりも高い位置が基本です。右SBのエウシーニョは中央に入り込んだり大外に開いたりと立ち位置にバリエーションがありましたが、ファンソッコはボールスキルの問題もありタスクが単純化されているかもしれません。で、前半は左CBの立田が起点になることが非常に多く、このファンソッコの立ち位置が清水の攻撃の重要な起点となります。浦和の2トップは普段から基本的に中央を塞いで最終ラインからボランチへの縦パスを切っていますが、そもそも清水には中央から前進するという考えはなかったように見えました。ファンソッコにボールが入った瞬間に、左SHの西澤かトップ下に入っている後藤が橋岡の裏、つまり浦和の4バックのSBの裏のスペースにランニングします。ここでボールが出せるならばワンタッチなどでシンプルに、素早く裏を攻略、それがだめならいったんキープしてやり直します。

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清水のビルドアップ(左)初手

やり直しの際には、同サイドのボランチ、つまり左での組み立てであれば竹内が素早くファンソッコの斜め後ろか横に立って逃げのパスコースを確保、同時にファーストアクションでSB裏を狙ったSHの西澤かトップ下の後藤が頂点となり、裏抜けしなかった方の選手がファンソッコの横か斜め前に立つことでサイドでダイアモンドを形成します。

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清水のビルドアップ(左)ダイアモンドの形成

右の場合はカルリーニョス・ジュニオがサイドに流れることもありますが、構造は右でも同じで、SB裏抜けをまず狙うことと、やり直しではサイドにダイアモンドを作ってボール保持、パス交換から突破を狙います。基本はこれだけ、シンプルな仕組みなんですが、やりたいこととその手順が明確なので各選手に迷いがないのが厄介です。ファンソッコはボールスキルに特筆すべきものがあるわけではないですが、彼にボールが入った瞬間に西澤なり後藤なりが動き出しており、ファンソッコ自身もそれが起こることを知っていますので、狭い局面でも慌てている様子はなく、この形から数回ゴール前に入り込まれるシーンを作られてしまいました。浦和は4-4-2、もしくは局面で4-4-1-1を形成して守っていますが、このフォーメーションではサイドの守備に割けるのはSH、SB、そしてサポートにはいるボランチの3枚です。ただ清水はワンタッチでSB裏が取れなくても素早くダイアモンドを形成してボール保持に入りますので、清水の初手を防いでもサイドの攻防では浦和からみて3on4の数的不利が出来てしまいます。浦和がこの局面で数的同数に持ち込むにはレオナルドが戻って守備に参加する必要があり、実際に何度かそのような場面がありました。しかしレオナルドを守備で疲弊させてゴール前で勝負させられなければ彼を起用している意味がなくなるので、浦和としてはあまりこれはやらせたくない、そうすると、浦和としてはサイドでボールを保持される分には黙認せざるを得ません。清水のオフェンス・シークエンス(攻撃の順序)の初手であるSB裏抜けはしっかりケアしつつ、その後のサイドでの4枚でのボール回しはある程度やらせてもOKという姿勢、これが前半の清水の高いボール保持率を表出させた基本的な構造だったと思います。

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後藤のプレーエリアには明確にサイドに流れるスタイルが現れる。
ゲームの構造②:清水が使えないエリア、そして浦和が捨てなかったエリア

で、これで清水のボール保持がめっちゃ強いので浦和は手も足もでずボールを回されてしまったのでした、という話にならないのがサッカーの面白さ。清水はダイアモンド形成でボールを安定させて、そこから崩しに入れれば良いのですが、毎回毎回うまくいくわけではありません。また、あまりのんびりしているとさすがに浦和の2トップの選手が戻ってきて数的同数が出来てしまい、ここでひっくり返されると最終ラインはCB2枚のみですから危険です。ということで清水は局面を変えていきたいわけですが、ここで問題が発生します。

清水のサイドでの数的優位の根本は、自分たちの最初の狙い、オフェンス・シークエンスの初手でサイドに動かしたトップ下の後藤の存在です。SB裏を狙うにしろ、中盤でボール保持に関わるにしろ、最初の配置が中央の後藤がサイドに顔を出すことで(浦和からみて)3on4の数的優位が確保できます。しかしこの局面から攻撃のやり直し、展開を図ろうとすると、物理的な問題に直面します。

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清水のビルドアップ(展開)逆サイドでの問題

簡単に言ってしまえば、ボールを素早く逆サイドに展開しても、後藤はボールに追いつけないので逆サイドでは後藤の存在をベースにした数的優位を作れません。つまりこのやり方、サイドからサイドへの展開を行っても、同じ形を2連続で作ることが出来ないやり方になっています。いやいや逆サイドで2on2もまあまあ脅威でしょうと言われればそうなのですが、清水の両SHはともにトップ下に近いタイプで、1on1で仕掛けていくWGタイプではありません。 これがマリノスであれば逆サイドで待っているのはシーズン得点王の仲川ですからアイソレーションからの1on1が十分脅威となるのですが、金子、西澤はタイプが違います。これは別に彼らが悪いというわけではなく、特性と起用の問題なわけですが、今節の清水の場合はサイドチェンジからの1on1は比較的脅威ではないし、そもそも彼らもあまり狙ってこない、そうなると浦和からすればダイアモンドを作られたサイドをしっかり塞いで、逆サイドには振られてから対応でOK、同サイドでボールを戻させればbetterと考えることができます。

マリノスでポステコグルー監督の下チームを指導していたモフモフスキーみたいな名前の監督だけに、基本的なオフェンス構築はポステコグルー監督のそれに似ていると思うのですが、このあたりからやり方の違いが見えてくるのがとても面白いポイントだと思います。スカッドの特性が原因なのかモフモフスキーみたいな名前の監督の描く攻撃の理想がこれなのか、そのあたりはもっと継続して観察しないとわからないでしょうけど。

で、マリノス戦同様自分たちのSBの背後に走り込んでくる中盤の選手はSBとボランチでなんとかすることにしてCBをエリア内の守備に専念させることで、サイドを使われても最後の場面ではやらせない守備ができる、浦和にはそういう考えがあったかもしれません。実際のところ、清水は逆サイドに展開しての1on1あまり仕掛けてこなかったのですが、展開されたボールをダイレクトで素早く中央に折り返すという狙いはあったようでした。これは右サイドで構築してから左サイドの西澤が狙うという形で前半に2度(13分と16分)観られました。この狙いは惜しかったと思いますが、浦和も中央は固めていますのでなんとか弾き返すことが出来ていました。

ということで、サイドに人数をかけて攻める代わりに逆サイドはそれほどうまく使えない(使わない)清水と、サイドは使われてしまうが中央を固めておけばなんとかなるの浦和、両チームの思惑が合致する形で、特に前半は清水のボール保持でゲームが進んでいきました。

割り切っていた前半

前半のスタッツをSofaScoreで調べてみると、ボール保持は浦和が34%:清水66%、シュート数は浦和の1に対して清水7、CK数に至っては浦和が2のところ清水は10と、まさにけた違いに清水が攻めたゲームになっています。構造はこれまで見てきた通りで、清水がサイドでつくるダイアモンドがポゼッションを安定させた大きな要因でした。浦和にしてみればここで起点を作られても、最終ラインで跳ね返してカウンターに出ていければよかったわけですが、ポジティブトランジションにおいては清水の即時奪還プレスに手を焼いたのと、健勇のところでボールを収めたいという狙いに対してヘナト、竹内がかなり早くチェックに来ていたことが厄介だった気がします。特にヘナトは、浦和がビルドアップする際に楔を受けに落ちてくる健勇をマンマークで潰す役割も担っており、ここで健勇に収まらなかったことで浦和の数少ないビルドアップのパターンが潰されてしまったことも清水が圧倒的にボールを保持することに成功した要因だった気がします。

一方で清水のボール保持は、前述の通り素早く逆サイドに展開しても自分たちの意図するダイアモンドを連続して形成できないためにサイドチェンジのインセンティブが低いのが特徴で、やり直しは基本的にバックパスを使います。大槻監督はこのバックパスをスイッチにしてCB、GKまでプレッシングに行く約束を用意していたようで、今節はこれまで以上に狙いを定めたプレッシングが出ていたと思います。

8分過ぎのシーンはバックパスを合図に関根、健勇が立田にプレッシャーをかけ、苦し紛れの縦パスを青木がインターセプト。素早く反応した関根が中央に侵入し、あわやGKと1on1を作り出しました。他にもいくつかバックパスに対するプレッシングから清水の最終ラインとGKに難しい判断を迫るシーンを作れており、かなり保持されてはいたものの、狙いの一部は出ていたのではないかと思います。

浦和のもう一つの狙いはブロックで相手の攻撃を受け止めてからのロングカウンターで、10分の汰木の単騎カウンターから健勇のミドルで終わったシーンが象徴的でした。バックパスに対するプレッシングからのショートカウンターもこのようなロングカウンターも、どちらもファストブレイクからゴールに迫る部分までは出せていたと思いますが、一方で最後の部分でパワーと正確性を出し切れなかったとも言えます。

前半を通じて押し込んでいた清水にとって惜しかったのは、前述の組み立ての逆サイドからダイレクトでの折り返しを狙ってうまく西澤のクロスが入ったシーン、トーマスのファールで得たゴール正面のFKを西澤が直接狙ったシーン、浦和のカウンターにカウンター返しでゴール前の1on2を作って後藤がヘディングを狙ったシーンの3つではないかと思います。特にトーマスがファールをしてしまった22分のシーンの崩しはおそらく清水の狙い通りで、前述のサイドでのダイアモンド形成から中央ゴール前に侵入していくプロセスが出た場面でした。トップ下の後藤がサイドでのボール保持に積極的に関与する一方で、トップに入ったカルリーニョス・ジュニオは基本的に中央で構え、最終ラインと駆け引きをしています。彼はダイアモンドでの組みたてから浦和のマークを外し、前を向けた瞬間に少し降りてボールを受け、ダイレクトで落としてレイオフ気味にシュートチャンスを創出するプレーをよく狙っていました。ミシャ・レッズでいう興梠のようなプレーですが、キープ力もあるしワンタッチで落とすイメージも良かったと思います。これが合ってくると清水は流れの中からの得点が増えていくような気がします。

ゲーム前に注目されていた清水のCKについては、さすがに前半だけで10本も浴びることになるとは思いませんでしたが、よく対処出来ていたと思います。西澤はニア、中央、ファーそしてショートコーナーまで様々な狙いを持って質の高いボールを蹴りこんできましたが、槙野、トーマス、橋岡を中心に跳ね返すことが出来ていました。前節CKから3失点した大分はそもそもゾーンの作り方が浦和程堅くなかったので、浦和はもう少し堅い対応ができるとは考えていましたが、期待通りやってくれたと思います。

全体としては押し込まれ続けたことで印象が厳しくなりがちな前半でしたが、浦和としては守りたいポイントではしっかりと跳ね返せていましたし、前述の通りプレッシングやブロックでのボール奪取からのファストブレイクも全くなかったわけではなく、観るに堪えない45分間というわけでもなかったかと思います。ただ「3年化計画」のテーマであり大槻監督が度々コメントで協調する「主体性」という言葉を踏まえると、これがサポーターの期待する「主体性」とは言えないだろうなという感はあります。中盤では中央を締めて、最終ラインは崩さずに入ってきたボールを跳ね返すという守り方は機能していますが、サポーターを盛り上げるサッカーなのかというとそうではない。別に間違ってないけどこれじゃないというか、そういう物足りなさを感じるとしても仕方ないのかなと思いました。

采配の明暗

そんなわけで前半を凌ぐと、55分にレオナルドが先制ゴール。

やっぱりレオナルドはこういうエリア内でシュートが撃てそうな場面での一瞬のプレーを間違えませんね。彼の異様な落ち着きとエリア内でのプレー選択に慣れると、他の選手に「なんでできないんだ」と言いたくなりそうで怖いです。清水の対応は健勇への縦パスにCBが2枚とも反応してしまったのがミスと言えばミスですが、レオナルドがそれを奪い返したのはほぼ偶然、もしくはアドリブでしょう。あのプレーに関わった全員が準備不足の場面で、レオナルドだけは冷静でした。ヴァウドが飛び込んでくるのを感じて切り返し、ヴァウドを滑らせて無力化すると利き足である右に持ち替えて身体を開き、ファー(レオナルドからみて右)に蹴る体勢を作り、梅田がファーを消しながら前に出たところで、冷静にがら空きのニア(レオナルドから見て左)に転がす。技術的に難しいことはそんなにしていないのですが、ゴールまでの流れが予めき決められていたかのような、そんなゴールでした。このようにゴールに繋がらなかったシーンでも、ゴール前を塞ぐために下がっていく相手選手を見ながら自分はその場に立ち止まることでシュートスペースを作るなど、彼は最小の動きで相手を大きく動かす(そして無力化する)のがとにかく上手いです。超人タイプではないので自分の型を出せる状況を待つ必要がありますが、それが来た時は確実にゴールを決める、こういうタイプのフォワードはJリーグには多くないので、観ていると本当に勉強になります。

で、なんでもかんでもファストブレイクだったと言うのも憚られるのですが、この得点シーンを作ったのは関根の良い狙いでした。得点はクイックスローからでしたが、浦和は49分にもほぼ同じ場所で早いスローインから相手の最終ラインに仕掛ける速攻を仕掛けていました。どこまで仕込みかわかりませんが、清水はビルドアップ時に最終ラインと前線の距離を長く取る(深さを取る)傾向にあったので、最終ラインのボールをひっかければ清水の中盤より前が戻ってくるのには時間がかかるというのはわかっていて狙っていたのだと思います。というわけでこのゴールは、設計されていたとは言わないまでも広い意味では狙いに沿ったゴールだったのかなと思います。以降はゲームの進め方が整理された浦和に対し、清水があの手この手で同点弾を狙うという展開になっていきます。

両チームの高対策を振り返ると、まず大槻監督がハーフタイムで青木→柴戸の交代。個人的には前半の青木が酷かったというわけではないと思いましたが、早い時間でイエローカードをもらっていたのと、彼のここ数年のプレースタイルとしてスペースを埋めることを優先する傾向があるので、たしかにボールホルダーへのプレッシャーという面では足りない部分があったと思います。この面では後半は柴戸が入り球際に強く行ってくれるようになったので、中盤の守備を締められたという効果はあったかもしれません。

清水は61分に2枚代え。トップ下の後藤を下げて中村慶太、右の金子を下げてカルリーニョス・ジュニオを右へ、トップにはティーラシンを投入します。清水のことをずっと見ているわけではないので交代の意図は読みにくいですが、清水のトップ下はビルドアップの構造上両サイドに関わるためにかなり動かなければならないため運動量が求められるということと、前半のやり方では浦和の最終ラインに跳ね返されて結果的にゴールが取れていなかったので、もう少しパワフルにゴールに迫るためにトップ下とトップの選手の役割を少し変えたのではないかということが想像できます。実際、中村投入後の清水は前半拘っていたサイドでのダイアモンド形成をあまりやらなくなり、中村はSB-CBのチャンネルに走りこむよりもボランチの位置に落ちてサイドを変えるような配給をしていました。これが中村の個性なのか監督の指示なのかはわかりませんが、清水は組織的なパス交換よりもダイレクトにゴールに向かうような攻撃に傾倒していったように感じました。またこれに呼応するように、右SHに入ったカルリーニョス・ジュニオとエウシーニョのコンビネーションを狙う形が増えたようにも思います。ただこの展開はもしかすると浦和にとっては好都合で、サイドでの数的不利を我慢せざるを得なかった前半に比べて、柴戸の投入もあって後半は中盤が安定したような印象を与えたのではないかと思いました。

63分には浦和が汰木に代えて荻原、70分には清水がエウシーニョに代えて岡崎を投入。80分には浦和が関根を下げて武富、82分には清水がヘナトに代えて川本、西澤に代えて鈴木を投入。このへんはお互いに疲労や新しい選手にチャンスを与えるという意識もあったように思いますが、ゲームはどちらが優勢ということもなく、オープンな展開を呼び込みつつ推移していきました。

同点ゴールのシーンは、浦和側にいくつかミスが続きました。決定的なものはレオナルドが大きくクリアできなかったこと、ボールを拾われた後にサポートに出た健勇がセルフジャッジしてしまいボールを追い切れなかったこと、ファーサイドに上がったクロスに対して一番大外にいた荻原が危険なヴァウドに身体を寄せることが出来ず、橋岡に対してフリーで後ろから飛び込ませてしまったこと、でした。ミスが3つ重なれば得点になってしまうのは仕方なく、それぞれの選手にもう少し出来たよねと言いたくなるのは仕方ないかなと思います。

選手個々の対応の是非は別として、采配の面でこの失点は防げたかもしれません。清水が5枚の交代枠全てを使って前線4枚のうち3枚を入れ替えた一方で、今節の大槻監督は両SHをいつも通り交代させたものの、2トップを2枚とも90分間プレーさせました。2トップを両方とも90分間プレーさせたのはおそらく今季初めてでしたので、ここには明らかに通常とは違う考え方があったのだと思います。おそらく2点目を取るためにレオナルドを残し、CK守備での高さを担保するために健勇を残したのだと思いますが、結果的にはこの二人が失点に絡んでしまい、一方で清水は交代で投入した中村慶太がアシストと、両者の采配には明暗が分かれることとなりました。個人的には健勇を残したいであろうことはわかったので、プレッシングを頑張っていたレオのほうは武藤あたりと代えるかなあと思いながら見ていましたが、まーまさかこういう形でレオナルドが失点に絡むとは想像もできませんでしたから、采配については何を言っても結果論なのですが。

というわけで、ゲームは引き分け。今季のチームが最も勝ちパターンにしていきたいであろう、守りながら先制点を奪う展開でゲームが推移していただけに残念な勝ち点1となりました。

3つのコンセプトに対する個人的評価/選手個人についての雑感

採点です。

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は6点。レオナルドの良いゴールや、初めて実戦でコンビを組んだトーマスと槙野のコンビが個性を発揮してくれたと思います。一方で橋岡は連戦の疲れか75分以降ジャンプするのがかなり苦しそうだったり、チームトップクラスのスプリント数を記録する山中のCK、FKの精度が後半落ちてきてしまったりと、なかなか休ませられない選手のパフォーマンスが少し心配な部分もありました。
それと、別に批判する気はないのですが、前半のチャンスになったシーンであと一歩を見せることができなかった関根と健勇、そしてまだ無得点の汰木を加えた3人の得点数、攻撃の質は今後も大槻レッズの完成度を評価していく上では重要なポイントになると思います。レオナルドに比べて攻守にわたって仕事量の多い選手たちですが、すべてをこなした上で彼らが得点に関わっていけるかどうかがこのチームを「守って守ってレオナルド頼み」と呼ばせるのかどうかに大きく影響するのではないかと思います。9人のフィールドプレーヤーが守ってエースFWが決めるだけのサッカーがダメとは言いませんけど、これがファストブレイクで前線の4枚が相手の最終ラインに何度も襲い掛かるサッカーになると全く印象が違います。すごく高くてキツい要求なんですが、兆しは見えているので期待したいところです。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は5点。相手のバックパスをスイッチにしたプレッシングは何度か機能しており、前向きな守備という意味では多少の改善が見られたと思います。一方で、やはりサイドはある程度やらせる代わりにゴール前で跳ね返すというやり方は押し込まれやすく、今節の前半のようにポジティブトランジションがうまく行かないとゲーム全体としての印象は悪くなってしまうかなという感じです。ゴール前で跳ね返す守備自体は悪くないと思うので、ポジティブトランジションからファストブレイクに入る形にもう少し再現性や迫力が出ると良いのですが。狙いがあるのはわかるので個人的にはついていけるんですが、これが観ていて熱くなる試合なのか?と言われるとそれも違うよねという、もどかしさがあるのは事実なんですよね。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は5点。上記2.と同様で、うまく行った面もありつつ、やはりセットでボール保持された際に相手を限定できた印象がないことが大きいかなと思います。ただ今節は清水がサイドに人数をかけてボールを保持する形をもっていたので、その噛み合わせも大いにあったとは思います。夏の連戦で体力的にもキツい中ですので、このテーマを評価できるようなサッカーはなかなか難しいかもしれません。

チームとしての清水は、浦和と同じく今季から新監督のスタイルに取り組んでいるチームですが、目指すボール保持の形という意味では悪くない出来ではないかと思いました。前半の平均ポジションによく出ていましたが、右サイドと左サイドに選手の平均ポジションがぱっくり割れているのがその特徴をよく表していたと思います。課題は片方のサイドで詰まった際に逆サイドから素早く仕掛ける形が限られる点、そしてサイドで崩してから中央・ゴール前でのコンビネーションをどのように実践で決めていくかという点のように思いました。弱点としてはCBがそれぞれのサイドに大きく開いてボールを運ぶわりに、ボランチがそれほど落ちないので途中で奪われると大ピンチになる点と、トップ下、ボランチの選手の移動距離が結構求められるので、ここに強度が無くなると立ちいかなくなる点ではないかと思います。

清水の選手では立田が非常に印象に残りました。特に攻撃の起点として、SB経験者らしい推進力でボールを運んでいけるのは彼の強みだと思います。前半のプレー回数は彼が両チームで一番多かったのではないかと思います。ただ右足のパスの成功率が低いので、彼の左足を消して右足で蹴らせるような守り方をされたときにどうなるのかなという感じもします。プレー回数の多さも相まって彼の左足を消されると清水は急に呼吸困難になるかもしれません。

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立田は両チーム最多の88回のボールタッチを記録

他にはカルリーニョス・ジュニオとヘナト・アウグストの助っ人コンビも印象に残りました。カルリーニョス・ジュニオはジェネリック興梠的な、ポストに入ってワンタッチで流すプレーができるのが面白かったです。日本的な3-4-2-1でもプレーできそうな選手だと思います。ヘナトは良い悪いというよりも、仕事量の多さが面白かったです。ビルドアップやサイドでの崩しに関わり、守備では中盤で唯一の大型選手として中盤の強度を担保して、CKでは攻め残ってゴールを狙うなどなど、ピッチ全域で仕事をしていた印象です。一方で60分くらいにはガス欠気味になっていたので、彼の代わりは誰になるんだろうか、というのも気になるところでした。

そんなわけで、両チームにとって「狙ったことは出来ていたけどもう一つ積み上げが欲しかった」という試合だったような気がします。

今節も長文にお付き合いいただきありがとうございました。