96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

浦和の進む道は正しいか?-その1

Jリーグ第10節 浦和レッズvsセレッソ大阪

 4月の怒涛の連戦。選手たちはよく戦ったと思いますが、結果を見ればACLは予選敗退。リーグ戦も大宮、清水オレンジ連中に連敗を喫し、負け方も終始ゲームを支配しながら一本のシュートに沈むという内容。支配しながら決定機を決めきれず敗れる"いつものパターン"が今季も露見し始め、公式戦での具体的な結果がなかなか得られなかったレッズ。

ただし、大宮線以来の帯同となった原口・梅﨑、ACLムアントン・U戦で実力をアピールした矢島などポジティブな雰囲気を取り戻しつつもあります。

 

 そんな中迎えたアウェーでの一戦。

相手は若手の有望株が多く、攻撃的な試合を展開するセレッソ大阪です。

 

 今節の(個人的な)非常に大きな注目ポイントは、

  • レッズのサッカーで勝っていける事を本当に証明できるのか?

 ということでした。

 冒頭に書いたように、レッズは今季優勝を目指す中で連敗脱出・勝ち点3を是が非でも取りたい状況です。さいたまダービーにしろ清水戦にしろ、試合運び、失点の仕方の両面で一目瞭然の問題点がありました。この問題点を修正することなくリーグ戦を戦っていけば優勝争いから遠ざかるのは当然のこと。修正が見られず問題点が放置されれば"ミシャ監督のやり方"に非難が集まっていくのは容易に予想できます。つまりミシャ監督には今節での内容の改善が求めらるわけです。さらに、セレッソのように全体を押し上げて人数をかけてオフェンスをしてくるようなチームに対しては、こちらのコンビネーションのためのスペースが比較的広く空いてくるので、本来のミシャサッカーの狙い・戦い方は出しやすいはず。加えてGW中の試合ということでセレッソはレッズよりも厳しい中2日での試合というおまけつき。いつも以上のサポーターが参戦することはもはや目に見えている状況で、はっきり言ってアウェーといえど負けることは許されません。

 このような状況の中で、現在"レッズのサッカーが抱える問題点"をどのように克服してみせ、そして勝つのか。求められるのはまさに内容の伴った結果。難しいタスクではありますが、僕はこの部分に非常に注目していました。

 

 さて、"レッズのサッカーが抱える問題点"とは一体何なのでしょうか。細かく挙げていけばキリがないので、大きく2つに分けました。

  • 得点力不足
  • 不用意な失点

結局のところ、こっちが点をとれて相手にとらせなければ勝てるのが得点数で競うスポーツです。攻撃の目的は点をとることにあり、守備の目的は点をとらせないことにあります。当たり前のことですが、これが難しいのでしょう。ただし、なぜこのような状況に陥っているのかは考えなければいけません。

 まず攻撃についてですが、第一に挙げられる修正点は個人の能力不足でしょう。これは今まで浦和を観てきた方々にとっては非常にナイーブな問題、つまり、強力な外国人FW獲得の是非が絡まってくるように思います。得点力不足を語るとき、一番手っ取り早い結論は新しいFWを獲ってくることです。今季のレッズに当てはめれば、興梠では不十分なのでレアンドロやバレーを獲るべきだということですね。僕自身はこの考えにはあまり同意していません。同意していないというより、実行不可能であると思っています。確かに興梠は毎試合決定機を外していますが、興梠のおかげでオフェンスを作れているのもまた事実。興梠は守備時のチェイシングから始まり、裏を狙ってラインの押し下げ、苦し紛れのロングボールの処理、相手DF(たいていは興梠よりも大きく強い)との体のぶつけ合いを制し、楔の受け手になり、その後のWBへの捌きと一通りのタスクを一人でこなしています。その後にやっと千載一遇のチャンスボールが来る。これだけのタスクをこなしたうえで決定機を確実に沈めるFWを獲得するのに、レッズはいくら用意すればよいのでしょうか?興梠は基本的に80分近くは毎試合プレーしています。日本に慣れている場合はともかく、ミシャ経由で連れてきた外国人FWがこれだけのタスクを日本の暑さの中で忠実にこなしてくれるかは疑問です。つまり、それだけやってくれる選手がいるのであれば、そして安いのであれば是が非でも獲得すべきでしょうが、現実的とは思えないのです。現実的な選択肢の中で、たとえ外国人を合わせたとしても、興梠慎三という選択肢はベストに限りなく近いものであると思います。では、得点力不足は興梠がスペシャルなFWになるまで改善されないのかというと、そうではありません。

 得点力不足に関して、もう一つの修正点を挙げることができます。それは、チャンスの質です。チャンスの質について考えるときに参考になるのが、ミシャサッカーの先輩である広島です。僕は広島のサッカーを毎試合チェックしているわけではありませんが、浦和と広島のサッカーには、一つの大きな差があると思っています。それが、チャンスの質です。つまり、フィニッシャーにどれだけ精度の良いボールを供給できるか、という問題です。この部分に関して、広島は圧倒的に質が高いです。佐藤寿人のスタイルに合わせたチャンスボールを供給している。具体的には、DFラインのGKの間に速いクロスを合わせることであったり、DFラインをブレイクする斜めのスルーパスであったりするわけですが、この質が非常に高い。おそらく誰にどうやって点を獲らせるかというイメージがしっかり共有されているんですね。そして、その数も多い。佐藤寿人に点を獲らせるための決定機を作るのがまず第一のプライオリティで、その後状況によってオフェンスを組み立てていくというようなイメージの共有が見て取れます。では、レッズの場合はどうでしょうか。レッズのオフェンスの組み立ても基本的には広島と同じ考え方のはずです。真ん中に縦パスを通し、コンビネーションで崩すことで、相手DFを収縮させ、コンビネーションが難しくなれば、そこからワイドに開いたWBに展開し、チャンスを作っていく。ですが、そこからフィニッシュに向けたイメージを広島ほど感じることはできません。ワイドに展開まではしますが、そこからはエリア内に張り付いた相手選手の壁の前に崩し切れず横パス連発や苦し紛れのミドルなど、、、つまり、広島と比べたときに圧倒的にフィニッシュのイメージが共有されていないことが、レッズのサッカーの問題点だと僕は思うのです。興梠がフィニッシャーならば、どうやって彼に点をとらせるかという部分に関して、観ていて感じるものがあまりにも少なすぎます。確率が低くてもアーリーを入れたほうが彼にとってはやりやすいのでしょうか?それともえぐりきってマイナスのクロスに合わせるのが良いのでしょうか?鹿島時代の興梠の必殺技といえば反転シュートですが、レッズに来てから一回でも公式戦で反転シュートを観たでしょうか?確かに興梠はどフリーの場面を何度か外しています。大分戦の外し方とかはっきり言ってありえないです。ですが、レッズの得点力不足、決定力不足の十字架をすべて彼が背負う必要はないと思います。レッズのオフェンスが興梠に点を獲らせる準備をしきれていないことが最も修正すべき点だと思うのです。レッズのオフェンスの最初の狙いとして、興梠を使っていかにフィニッシュに持っていくか、それを確立したときに初めて、元気やウメのドリブル突破、槙野や宇賀神、マルシオのミドルという"オプション"の位置づけと使いどころがはっきりするのではないかと思います。ミシャが自身のことを、「私は攻撃を教えることのできる監督です」と言ったことをよく覚えています。レッズのオフェンスにその狙いをはっきりと見いだせたとき、レッズのサッカーの進化と、得点力不足という永遠とも思える課題の解決を期待できるのではないかと思っています。

 

②につづく