その1・その2では、長々とレッズのオフェンス、そしてディフェンスについて僕の考えるところを書きなぐりました。要約すると、
- 外人FWを獲るのはいいが興梠以上にフィットするのを見つけてくるのはほぼ不可能ではないか
- 興梠に点を獲らせたいならもっとチャンスの質を上げるべき。興梠の形を作るべき
- セカンドボールを拾えない弱点の克服はこのまま見られないかもしれない
- 別の手立てとして前から奪う、プレスに行くディフェンスをしているがまだ90分は無理
と言ったところです。このような課題を克服できるのか、もしくはこのような課題がありながらも勝ち続けることができるのか。ミシャサッカーは勝てるサッカーだと証明できるのか、ということがセレッソ戦の注目点でした。なのですが、セレッソ戦の感想を書こうと思ってるうちに鹿島戦まで終わってしまったので、この2試合はまとめて考えます。本当は今月末の仙台戦までで一区切りなのですが、セレッソ戦→鹿島戦の戦い方の変化も含めていろいろと考えたいと思います。
セレッソ戦も鹿島戦、もちろん印象が良いのは鹿島戦です。興梠のゴールは今後語り継がれるでしょう。僕の席からはあのゴールをほぼ真横から見れたのですが、最初の0.5秒くらいはみんな喜んでいいのかちょっと迷っているような感じでしたね。ただ、得点が認められたわけですしゴールはゴール。佐藤さんはそれまで鹿島にとってかなり甘い笛吹いてましたから、(2ちゃんねる情報だとここ2,3年鹿さんにとっても相性の良い審判みたいです。)あれでおあいこみたいなものと思います。前半後半で2回もPK疑惑を流れてますしね。個人的にはウメちゃんのゴールで3-1で勝負をつけたのは非常に嬉しかったですが、むしろあのまま2-1で試合が終わったら20周年記念試合がいろんな意味で伝説になるなーと思っていたので、ちょっと複雑でした。笑
さて、試合の中身についてですが、印象とは別にセレッソ戦も鹿島戦もさほど変わりありません。もちろん1週間やそこらで何かが目に見えるレベルで改善されることはないので当然ですが。セレッソ戦と鹿島戦を振り返るうえで、ポイントを3つに絞って考えようと思ます。
- "レッズの形"をどう止めるか?-対戦相手の試合運びについて。
- "レッズの形"はいつ出るのか?-レッズの試合運びについて。
- ミシャサッカーの進化はあるか?-ボランチ柏木について
まず、相手チームの試合運びについて。ミシャサッカーの特殊なやり方とレッズの選手の精度をもってすれば、何の対策も立てずに丸腰で向かってくる相手であれば、局面の勝負で負けない限りかなり優位に試合を進めることができます。ミシャサッカーの原点は現代では典型的な4バックのプレッシングシステムをズタズタにすることですから、4バックを採用しているチームは特にミシャサッカーのメカニズムを研究分析していると思います。そもそも、ミシャほど長く指揮を執っていればやり方なんてほとんど丸裸にされているのですが。ミシャサッカーへの対応という意味では、セレッソと鹿島の考え方はほとんど真逆でした。セレッソは最低限の約束事以外は対策という対策をとっていないように見え、鹿島はミシャサッカーをそこそこ分析してきているようでした。両チームとも2トップにダブルボランチなので注意点はほとんど一緒で、レッズのビルドアップを2トップが戻ってケアすること、(しっかり戻って壁をつくるだけでも楔一本を防げるので大きい)、啓太のことをFWのどちらかが捕まえておくこと、そして、ボランチが背中のスペースをレッズの2シャドーに自由に使わせないことです。セレッソはこれ以外にチームとしての対策は取らず、キックオフからずーっとレッズのワイドが完璧に余っている状態でした。ただし、セレッソ戦には元気とウメというレッズの誇る2大ドリブラーがいませんでした。ワイドの展開まではほとんど思い通りにいきましたが、そのあとの具体的なチャンスにはあまりつながらず。流れからは一度平川から興梠が合わせたシーンがありましたが、あれが決まっていれば勝てていたと思います。あれを決めないのは興梠の責任ですね。彼にとってはベストに近い展開で崩しただけに。一方の鹿島ですが、基本的にはセレッソと対応は同じだったのですが、セレーゾ監督が非常に気にしていたようなのが、センターバックの持ち上がりです。鹿島戦は20周年記念、興梠の古巣初対決など様々な要素もあって、普段の鹿島戦以上にピリピリした雰囲気で進んでいたのですが、とにかくレッズのセンターバックがボールを持ちあがろうとするところには鹿島の前4枚が神経質なまでにチェックにきていました。冷静に戦っているようにみえる鹿島といえどやたらびびってるなあと思っていたのですが、あとでセレーゾ監督のコメントを読むと、「サイドにWBが張って前に5枚並ぶのはそこまで問題ではない。それよりもセンターバックが持ち上がると中央で数的不利になり、ずれが生じて結果サイドまでやられてしまう。そっちが問題だった」という趣旨のコメントをしていました。実際、レッズのオフェンスはサイドに高い位置をとれていましたが、前半は相手のスライドも早くあまり具体的なチャンスにはなっていませんでしたね。元気、ウガ、槙野の左サイドも数的同数をしっかりと作られて、元気の単騎突破からウガの決定機を作るのが精いっぱいという感じでした。(そういえば宇賀神があわやのクロスを2本ほど中に送っていました。ただ合わせたのは興梠のみで潰されてしまってましたね。。。)右は平川からいいクロスが何本か上がっていましたが、鹿島が中を非常に固めていて、興梠も不発。得点はできませんでした。僕はこの2試合、レッズは前半無得点だったわけですが、セレッソ戦はレッズの決定力の無さ、鹿島戦は鹿島の守備の良さが理由だと思っています。はっきり言ってセレッソ戦は元気とウメが最初から出てれば前半で点が入っていたと思いますね。試合運びは良いものの、具体的なチャンスの質となるとイマイチというレッズのオフェンスの課題がそのまま出ていたと思います。さて、相手チームの攻撃に関しても、守備と同じような傾向が見えます。つまり、セレッソはあまりレッズ相手ということ関係なく試合を進め、鹿島はレッズの弱点を突くように攻めていたということです。セレッソ戦では枝村のアーリークロスからバー直撃の大ピンチをもらったり、バイタルから山口蛍のボレーを2,3発もらったりとかなりヒヤヒヤさせられました。ただ、これはおそらくセレッソがいつもやっている攻めの形で、ボランチやサイドバックまで含めて人数を前に掛けて波状攻撃を仕掛けるやり方です。特にレッズの弱点をついたわけではないでしょうし、セレッソはもともとそういうチームではないでしょう。そういった攻撃に耐える中で、レッズのディフェンスが孕む問題点が明確に浮かび上がったのだと思ってます。2失点の内訳が自陣でのパスミスとクリアボールをバイタルで拾われてズドンですから。他方鹿島は、明確な狙いを持ってレッズに攻め込んできたイメージです。とにかく低い位置から早めにFWにあてて、FW2枚に競り合いをさせていました。そのこぼれ球をジュニーニョや野沢がケアし、レッズをサイドから押し込んでいくような組み立てです。こうすることでレッズの左右のストッパーとWBを強制的に守備に戻らせることができます。これも基本的には鹿島の普段のやり方なのかもしれませんが、この組み立ての方法が功を奏して、鹿島は今シーズンレッズと対戦したチームの中で一番自分たちの攻撃を組み立てていたと思います。それと、この試合鹿島に非常に多くのFKが与えられたのも一つの要因でしょう。さすがに鹿島の選手が転びすぎだと思いましたが、前々からレッズの選手が手を使って止めたときにファウルを多くとられるというのはあったわけですから気を付けてほしかったですね。野沢に蹴らせたらえぐいのくるとわかってるわけですから。ただし、鹿島の選手の平均年齢もあってか、後半は鹿島の運動量が落ちてスライドが遅くなり、後半頭からでたウメの1対1を起点にしてレッズが流れを掴みました。西はさすがにウメをフリーにしすぎでしたけど、あれはやり方の問題でもあるので、難しいところでしょうね。それがミシャサッカーの強みといえばそうなんですけど。結論としてはこの2チームでは鹿島の方がより具体的にレッズを止めにきていました。最終ラインと中盤のラインを絞ってシャドーのプレーゾーンを狭め、さらにレッズのセンターバック陣の攻め上がりをFWがケア。サイドに張るWBはスライドで対応していくというやり方でした。最終的には運動量が勝負の分け目となったわけですが、前半はしっかり機能していたと思います。新潟ほどではありませんでしたが、攻めにくい相手でした。
次に、レッズのやり方について。結果的にこの2戦で5得点したわけですからレッズのオフェンスは十分機能したと言えます。ですが、その内訳をみるとコーナー2(那須2)、カウンター2(原口、梅﨑)、その他1(興梠)となっています。コンビネーションで崩した得点は0なんですね。はっきり言って具体的な得点の原動力になっているのは那須と原口の能力の高さです。まだまだ、ミシャサッカーの目指すオフェンスを表現できているとは言い難いと思います。僕は結局以前から気になっている、ワイドにボールをつけるところまではうまく運べても、その先から具体的なチャンスにならないというところが気になっています。鹿島戦も相手ペナルティーエリア内でのプレーはミスが多かったですね。普通にワイドにつけても相手もそこはスライドで対応していく約束事があるわけですから、見た目ほど脅威ではないですし具体的なチャンスにもあまりつながりません。レッズがコンビネーションで相手を崩せるようになるのは、相手にスペースが出来てくる終盤か、レッズがリードを奪った場面です。レッズがゼロベースでオフェンスを組み立てて相手をゆさぶり、自分たちの形で得点するということは今のところできていません。結局、主導権を握るサッカーにも関わらず、自分たちの一番の狙いを出すための形は自分たちでは作れていないのです。これでは本末転倒というか、まだ未完成だということになります。僕はやっぱり最初からワイドにつけるのではなく、まず興梠のところを一本で狙うような、相手ののど元に迫るような攻撃をまず狙うべきだと思います。ワイドにつける以外での攻撃の組み立てとしては、裏一本で狙うか、CBが持ち上がって数的有利を作ることがあげられます。ですが、今現在相手DFラインの裏に蹴り込むようなボールはでてきていません。実は興梠だけでなく元気も柏木もマルシオも宇賀神も裏をとる動きはみせているのですが、どうも後ろの5枚からボールが入りません。たしかにうまく通すには今まで以上に精度が必要ですが、やはりそういうボールは必要だと思います。レッズの後ろの5枚から裏にボールが出てくるという意識付けが相手にできれば、うかつにラインを上げてこれなくなり、そのぶんレッズの一番のストロングポイントであるシャドーの2枚が活きるスペースができるわけですから。シャドーにプレーするエリアが与えられれば、今のところレッズは相手ディフェンスをズタズタにできると思います。現状はこのような狙いで裏に出すボールはほとんどありません。なのでセレーゾもCBの持ち上がりをケアするだけでレッズの攻撃を停滞させることに成功したわけですね。こういうやり方は、より若く訓練されたチームであればより効果的に実践してきます。こういった相手に対して、今レッズが持っているカードは2枚。元気、ウメの個人技とセットプレーです。このオプションをチームとして持っていることは間違いなくレッズの強みで、それがこの2戦の得点の内訳に現れているのかなと思います。だたし、この2枚のカードも毎試合確実に結果につながるわけではありませんし、結局個人技とセットプレー狙いであれば、ミシャが指揮をとる意味が全くありません。ただし、ここで僕が言っているようなコンビネーションによる攻撃をするには、まだまだ時間が必要でしょう。興梠もチームにきてまだ15試合程度。時間にして半年程度ですから、6年近くコアメンバーを変えずに戦った(J2でも貫いた)広島のようなコンビネーションを期待するにはまだまだです。自分たちで自分たちの形をつくり、試合を文字通り支配できるまで、もう少し見守る必要があるかな、と思います。
第3に、ミシャサッカーの進化について。前段の裏へのパスとも関係している話なのですが、僕は柏木は今後ボランチ起用が増えていくのかな、と思います。鹿島戦でも平川に代えてマルシオという思い切った交代で柏木が一列下がりましたが、その後のマルシオへのキラーパス2本は正直しびれました。左足でのノールックだけでもすごいのに、右足でもラインの裏に抜けたマルシオにぴたりと合わせていました。この2本のような裏へのパスが入れば、レッズのオフェンスに一気に幅が出るんですよね。実際、柏木がボランチとしてとても機能していたセレッソ戦前半と鹿島戦前半は、非常にスペクタクルで、選択肢がたくさんあって観ていても楽しかったですね。いまのところ中盤の低い位置から長短織り交ぜて精度の高いパスを出すという役割で柏木以上の選手はいません。守備時の役割の整理など課題もありますが、ボランチ柏木は今後レッズの攻撃を組み立てるうえでかなり重要なパーツになるのかなと思っています。本人も、なんとなくですが、プレッシャーが少なく前後左右遠近いたるところに選択肢のあるあの位置でのプレーは非常に楽しそうなんですよね。今のシャドーの位置でアシスト狙いももちろんいいのですが、あの位置でやるには局面勝負での選択肢やスピードが足りません。さらに副次的なメリットとして、選手起用に幅が出るんですね。マルシオや元気だけでなく、矢島、関口、梅﨑、直輝などあの位置で輝けるタレントは豊富ですから、柏木が1列降りることで、チームがよりうまく回るのではないかなと思います。実際、現時点でも2シャドーに置くなら矢島のほうが柏木よりも良いパフォーマンスを見せるのではないかと思います。現状スペースの無い中で局面を変える勝負を求められているわけですから、柏木の特徴はシャドーでは出にくいでしょう。むしろ、前述の個性豊かなアタッカーたちをまとめあげるレッズのレジスタとしての役割は、柏木にしかできない、彼にうってつけのポジションだと思います。ディフェンス面では多少デメリットもあると思いますが、そこをクリアすることができれば、もう1段階進化したミシャサッカーを観ることができるのではないかと期待しています。
セレッソ戦と鹿島戦、レッズはやり方としては大きく変えずにいつも通りやっていたと思います。点も入って、2試合で勝ち点4を獲ったのですから十分な結果です。ただ、元気やウメが出ているときに勝って、二人が欠場した試合では負けるというのは、「一人の圧倒的なストライカーを擁するサッカーではない」と自ら断言したミシャ監督のサッカーとしてはいただけないと思います。結局外人じゃなくても、勝負できる二人を欠くと点が獲れないということになってしまいますから。そういった意味でも、もう1段階進化を見せて、後ろの選手がゲームを作り、前線の選手が試合を決めるようなサッカーを期待します。現実的にはもう少し時間が必要だと思いますが、そこまでできればJだってアジアだって獲れると思います。なんたって、1年と2ヶ月でミシャ・レッズはここまできたのですから。「浦和の進む道は正しいか?」という命題への僕の回答は、現時点では正しいということになります。ただし、完成に至るまではまだまだ長い道のりでしょう。現状、細かい部分の注文は多々ありますが、コアとなる部分でのチームの抱える課題も非常に明確で、改善の手がかりもいくつかつかんでいる状態です。しかもそんな状態でも勝ち点をしっかりと奪えている。この状態を維持したまま、まずはどんな相手にも自分たちのオフェンスで点をもぎ取れるようにしていくことが必要だと思います。ここまで形になってきたミシャ・レッズですが、ここからさらにもう1段階進化できるはずです。その進化がいつ訪れるのか、僕は非常に楽しみです。