96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

待ってたぜ直輝。 さいたまシティカップ2013 - アーセナルFC戦

実に40日ぶりの記事。。。決してレッズがいい試合をしないから書きたくなかったわけではありません。。。

 

ひさしぶりのさいたまシティカップが開催

 対戦相手のアーセナルは実に45年ぶりの来日とか。ジルー、ウォルコットウィルシャーチェンバレン、アルテタ、サニャ、コシェルニー、メルテザッカー。。。そうそうたるメンバーでこの試合に臨んでくれたことに感謝感謝。レッズとしても、ミシャがこの試合での直輝のスタメン復帰を明言したことで注目度の高い試合となりました。

 レッズは元気、槙野、森脇が代表に招集されていること、また花試合ということで8人まで交代できるということで、普段はあまりプレー機会のない選手を観る事ができました。ミシャの交代もだいぶ思い切ったものでしたね。レッズはミシャの宣言通り直輝が実に一年四か月ぶりにスタメン入りマルシオとシャドーを組みました。また槙野のところには阿部を下げてボランチに小島を起用しました。

     興梠

  直輝  マルシオ

梅﨑 小島 柏木 宇賀神

 阿部  那須  坪井

     山岸

3人も代表にとられた上に、啓太がケガで離脱しているため、リーグ戦のスタメンからは実に6人替わっているわけですが、A代表の経験が無いのは宇賀神と小島、マルシオのみという豪華な『1,5軍』です。両チームにとって、花試合とはいえど公式戦に向けた大事なテストの場ということで、コンディションの問題はあるにしてもなかなかガチ試合に近い雰囲気だったと思います。

 

注目のポイントとしてはやはり直輝。

ミシャ就任2ヶ月でケガをしてしまったために、その才能をミシャ政権下ではほとんど発揮していませんが、本来であればまさにミシャサッカーの"ハート"になるべき選手です。直輝のストロングポイントと言えばチームを活性化させる運動量、アイデア溢れる魅力的なプレーイメージ、そしてそれを具現化するオンザボールでの基礎技術の高さだと思うのですが、ミシャサッカーにおける2シャドーは彼の良さを存分に発揮できるポジションでしょう。同じような特徴は柏木もまた持ち合わせています。ただし、直輝の場合は「パスを捌いて自分がまた受ける」という意識がより高いように見受けられます。また、狭い局面を打開する能力も直輝のほうが上でしょう。一方で、ピッチの奥まで見通して、フィールドを広く使う点では柏木のほうが優れていると思います。個人的なイメージでは、直輝は縦の意識、縦に速いプレー、柏木は幅を広く使うプレー、ワンテンポずらしたプレーが得意という感じです。何が言いたいかというと、直輝こそが柏木を自由にできる唯一の存在なのでは、ということです。今日はそんなおもいについてだらだらと。

 

柏木陽介という絶対的選手

 ミシャ・レッズにおけるオフェンスの全権を担う柏木ですが、それは、柏木がオンリーワンの選手だからです。ミシャサッカーでは前の5枚が5トップ気味に選手が張り出します。序盤はこの戦術に相手DFが戸惑うシーンも多くみられましたが、2シーズン目も中盤戦を迎えたあたりからはミシャサッカーに対する攻略法も確立された感があります。ミシャサッカー攻略法を(少々乱暴に)定義すれば「2シャドーをガチガチに囲んで絶対に自由に動けないようにする」というものです。このブログでもさんざん書いていますし、もはやレッズのサッカー、Jリーグを日常的に追いかけている人にとっては常識に近いほど認知されていますが、ミシャサッカーのオフェンスは2シャドーが相手DF組織の隙間で受けた瞬間に一気にスイッチが入ります。5トップ気味に人数を配置している分、相手DFラインが4枚であれば、シャドーにボールが入った瞬間にどちらかのサイドが必ず余ります。中→外と相手を揺さぶれば、1トップ、2シャドー、逆サイドのWB、時にはボランチまでもゴール前に飛び込んでチャンスを作ります。このスイッチたる2シャドーにボールを入れさせず、自由にさせないことで攻撃を停滞させることがミシャサッカーに対する攻略法というわけですね。この攻略法が高確率で機能するのは、ミシャ・レッズの選手の特徴と大きな関係があります。ミシャレッズの前5枚は、ほとんどの試合で固定です。興梠、原口、柏木、梅﨑、平川。控え選手としてはマルシオや宇賀神が絡みます。この5枚の中で柏木がオンリーワンなのです。その理由は、「味方の選手を使える」選手だから、ということです。興梠の落としや原口のドリブルしながらの視野の広さを知らないわけではありません。ただ、彼らは基本的に自分のプレーゾーンでボールを受けたときに輝く「使われる選手」です。WBは戦術的にも両サイドに張りだし、サイドチェンジを受け取ることで「使われる」ことが大きな役目です。これらの選手を「使う」、別の言い方をすれば、後ろの選手が持ち運んだボールをワントップ、両WB,原口に「届ける」ことができる選手、それこそが柏木陽介であり、これがミシャレッズでの柏木の大きな責務なのです。つまり、柏木が彼らにボールを届けることができなければ、レッズの攻撃は機能しないのです。ミシャ・レッズ対策の「2シャドーをガチガチに囲む」というのは、こういった意味で非常に合理的です。2、3人なら個人技で躱してシュートまで行ってしまう原口と、ボールをもって前を向くことで回りの選手を「使い」、クリティカルなオフェンスのスイッチ役になっている柏木だけは絶対に自由にやらせない。そこに人数を割くことである程度サイドにボールを振られようと、後ろから槙野や森脇が上がってこようと、中で人数を掛けていればたいてい対処することができますから、二人の2シャドーをとにかく潰す、これがミシャ・レッズの攻略法なんですね。ちなみに、広島はミシャから森保監督に代わって以来、シャドーの選手がCHの位置まで下りてくるようにしているようです。ミシャはシャドーがボールを受ける位置を落とさないようにこだわりがあるようですが、その辺森保監督のほうが柔軟にやっているということでしょうか。もしくは、広島の選手の場合は、自分たちで考えて実行しているかもしれませんが。もう一つは、ワントップの選手の特徴が少々違うため、浦和で通用する戦術が広島相手ではうまくいかないということも多少はあるようです。そういう意味で、ミシャ・レッズ攻略法と書いています。

 柏木がミシャ・レッズの戦術においてオンリーワンであること、そしてオンリーワンであるが故に柏木を止めるために相手が作戦を立てること、これは柏木にとってはものすごくプレッシャーだと思います。戦術的な理由でケアされていることを理解していないわけがないので、頭ではわかっていることと思いますが、それでも試合で思い通りのプレーができないというのは苦しいものがあります。素晴らしい能力を持つ相手選手の個の力で止められてしまうのであればまだ切り替えもできるでしょうが、どんなチームと対戦しても同じように2、3人にケアされ続けるのです。ボールを受け取ることもままならず、ボールを受けても囲まれて思い通りのプレーができない。ミシャは自身の戦術を貫き通す監督ですから、ポジション変更以外では違う役割を任せられることはほとんどありません。今までは柏木の代わりのプレーができる選手などいませんから、罠があるとわかっているところに突っ込まないといけない。そこに罠があると知りながらも、シャドーの位置でボールを受け、散らすことが柏木の戦術的存在価値ですから、簡単にプレーを変えることは許されません。90分間出場して、ボールを持って前を向けるチャンスは数えるほどしかないわけです。その少ないチャンスでボールを通せなければ、オフェンスのコンダクターとして批判を一身に浴びることも。。。自分が良いプレーをしなければチームのオフェンスが機能しない。それをできるのは自分しかいない。それゆえ毎試合相手選手に囲まれ、思い通りのプレーがほとんどできない。。。

 

直輝は柏木を助けられるか?

 柏木にとって泥沼とも言えるようなこの状況を変えることができる選手こそが直輝だと思うのです。直輝の特徴は、柏木のように味方選手を「使い」ながら自分も活きるプレーをする部分です。さらには、直輝のほうがより狭いスペースでプレーすることができますから、厳しいプレッシャーの中でもボールを収め、相手を躱し、味方を使ってまたボールを受けるという連動性をチームにもたらすことができます。また、直輝が入ることによって柏木を一列下げるオプションもより現実的な選択肢に上がります。今までは柏木を一列下げてマルシオを投入する形でしたが、マルシオもどちらかと言えばスペースがあったほうが活きる選手で、狭い局面を俊敏性で打開するようなプレーは得意ではありません。柏木を一列下げてプレッシャーから解放することで柏木に前を向かせて、前では直輝がポイントポイントでボールをつなぐ。ミシャ・レッズは前の直輝と下がり目の柏木という二つのオフェンスのスイッチを持つことになります。柏木がレッズに来たころ、直輝とはシャビとイニエスタの関係でやりたいと話していた記憶があります。あれから3シーズンもかかりましたが、もしかして、ついに、そういう関係性でオフェンスを組み立てる二人が見られるのでは。。。そんな期待さえ抱いてしまうのです。もちろん、ディフェンス面では啓太の代わりに柏木を使うわけですから怖い部分もありますが、守りを考えてオフェンスの重要なスイッチャーを失うようなことをするのであれば、レッズがミシャサッカーを続ける意味はありません。あくまで攻撃を良くすることでリーグを獲りに行く。これこそがミシャ・レッズの唯一の姿勢であるべきですから、柏木殺しともいえるミシャ・レッズ攻略法のメタを張るには、直輝のシャドー投入こそが最善策ではないか。。。直輝のプレーが純粋に見たいという願望だけでなく、僕は真面目にこう考えているのです。

 そんなことをだらだらと考えながらアーセナル戦を観ていたのですが、相手も相手ですし期待してた連携やプレーはあんまり見られずでした。シャドーの位置からボールを引き出すのも、レギュラー陣と長い時間プレーしないとすぐにはタイミング等々合わないでしょうし。。。というか、アーセナルがレッズに対してべた引きするわけもないですよね。ですが、要所要所で、主にカウンターのシーンではワンタッチで味方を走らせたり、自分がスペースに走り込んでボールを受ける動きをしたりとらしい動きが観れたこと、あとはボールタッチのひとつひとつが「直輝らしい」ものだったことで、個人的には満足です。公式戦の中で直輝がどんなプレーをするのかはまた観ていかなければなりませんが、あのケガからこれだけの状態まで戻ってきたことに感動ですね。まだまだターンひとつとってもスムーズにいかないところもありましたが、それはこれから上げていってくれるでしょうし、直輝が後半戦を戦っていく上で最も重要なピースであることには誰も異論はないでしょう。

 

雑感とアーセナルについて

 その他の選手ではやっぱりスゴい暢久、高質クロス連発の野田(ケガ大丈夫でしょうか。。。)、テクニカルで落ち着いたボールタッチを見せ、スピードで宮市をシャットアウトしたツボ、一流のシュートストップを見せてくれたギシなんかが良かったですね。あと阿部ちゃん。リーグ戦でもゴール見たいっすねー。中断前の2戦は槙野森脇が相当疲れていた&動きのパターンも研究されていたのもあって、ストッパーの控えも後半戦のキーポイントだと思うので、坪井、野田、岡本あたりにはアピールを続けてほしいですね。

 アーセナルの選手でやっぱ違うなあと思ったのはウォルコットウィルシャー、あとはコシェルニーです。ウォルコットはやっぱりあのスピード。あとは僕のイメージだとサイドをドリブル駆け上がるプレーばっかりかなと思ってたんですが、中でもプレーしていたし、3人目の動きで裏に抜けたりとプレーの幅が広くて、やっぱすげーんだなと思いました。しかもまだ24歳って。ウィルシャーはパス捌くだけじゃなくて、自分で持ち上がって引いたゾーンに突っ込んでDFを寄せてチャンスメイクできるのが印象的でした。15分か20分くらいに初めてドリブルで縦に仕掛けたんですが、それが有効とわかってからは隙あらば正面突破を図っていましたね。ボランチが柏木小島だったのもあってかなり対応しにくそうでした。柏木や直輝があのプレーを見習いたいとコメントしてましたけど、本当にその通りですね。Jでは相手が引いてくることがおおいので、今度はレッズの選手がああいう仕掛けをしても面白いはずです。DFラインから那須が持ち上がるパターンはすでに持ってますけど、3列目で柏木あたりが持たせてもらった時にぐんぐん前に仕掛けていけたらもっとおもしろいと思います。というか、あの基礎技術、判断力、フィジカルをもってまだ21歳。直輝より年下どころか世代的には矢島のほうが近いくらいとは。。。世界のレベルはやっぱり半端じゃないですね。

 そんな感じで楽しい試合でしたが、最後のミッツのミスはもったいなかったですね。本人はあんまり気にしていないみたいで、それが良いのか悪いのかはわかりませんが、試合により絡んで行ってもらうにはああいうミスは許容できません。どうしても那須のプレーとの比較になりますから、もっとコンディション上げて試合勘を取り戻さないと永田はなかなか出番が回ってこないかも。那須もミスがないわけではないので、競争の中でプレーの質が上がればいいですね。

 若手の中でプレー機会が無かった野崎と大谷は残念でした。特に野崎は海外サッカーかなり好きみたいですし、出たかったでしょうね。練習を良く見に行く人の中では野崎のプレーを評価する人も多いみたいなんで、この悔しさをまた練習でぶつけてほしいですね。僕は個人的に野崎のプレーや雰囲気が好きなんです。ボランチの若手ってレンタルに出しても出場機会を得るのがかなり難しいと思うので、もうちょっとレッズでじっくりがんばって、どうにか出場機会を手にしてほしいです。

 さて、明日の代表戦が終わればすぐに代表組も戻ってきて、磐田戦です。代表での3人のプレーとか、磐田戦の展望とか、前半戦の総括と後半戦のこととか、ナビスコ川崎戦のこととか、書きたいことはいっぱいありますが、今回のチラ裏はこのへんで。