代表ウィークによる2週間の中断を経て臨む第5節。相性の良いエコパスタジアムでの磐田戦を振り返ります。
スタメンは下図の通り。浦和は前節マリノス戦で見せた4ー4ー2の形を継続するか、堀監督の形である4ー1ー4ー1(4ー1ー2ー3)に戻すのかがまず注目されました。
控え:福島、岩波、菊池、直輝、マルティノス、ナバウト、李
浦和は前節と同じく4ー4ー2を採用。前の6人は変えず、代表で怪我をしてしまった宇賀神が欠場し左SBに槙野、マウリシオが左CBとなり、右に阿部、右SBに遠藤を起用しました。また、控えには今節ついに新加入アンドリューナバウトがベンチ入りしました。一方の磐田は3ー6ー1のフォーメーション。怪我の影響でアダイウトンを欠き、川又、山田大記、松浦の1トップ2シャドーでこの試合に臨みました。ちなみに、同じく怪我で戦列を離れていたシュンスケナカムラはベンチ入りしています。
4ー4ー2を軸に進んだ序盤
今シーズンの浦和は当初4ー1ー2ー3で試合に臨むことが多かったものの、もともとWGタイプの選手は多くないことから中盤や中央の選手をWGで起用しており、4ー4ー2でも4ー1ー2ー3でも起用する選手がほとんど変わらないという特徴があります。今節は前節と同じく4ー4ー2で試合に臨みましたが、DAZNのフォーメーション予想でも4ー1ー2ー3が想定されていました。おそらく磐田も、浦和が4ー1ー2ー3に戻して今節に臨むと考えていたのではないでしょうか。磐田の3ー6ー1と浦和の4ー1ー2ー3は局面でマッチアップとなる上ため、この組み合わせであれば前線にプレスをかけてショートカウンターを仕掛けるのが合理的です。磐田は試合の序盤は浦和の4バックに対して1トップ2シャドーが積極的にプレッシャーを掛ける形で試合に入りました。しかし、浦和は中央の底に青木と柏木が構えており、磐田の3枚でのプレッシャーを受ける最終ラインからボールを引き出すことでプレッシャーを無効化することに成功。磐田の試合前の目論見を鮮やかに破壊することに成功します。
もし浦和の中盤の底が青木1枚であれば、あるいは磐田のプレッシングももう少し機能し、浦和の試合内容はより悪いものになったかもしれません。柏木と青木が頻繁に最終ラインを助けに降りてくるため、磐田の2枚のDHである田口と上原は最序盤から厳しい選択の連続となってしまいます。すなわち、自分のエリアを守るために柏木を放せばプレッシングが無効化されてしまう、かと言って柏木や青木について行けば自らの後ろに浦和の前線がプレーするエリアを与えてしまう、という二者択一です。さらに磐田にとって悪かったことに、この浦和の4ー4ー2の基本コンセプトは興梠を孤立させないためのものなので、SHとしてプレーする武藤と長澤は基本エリアからして中央に寄ってプレーします。磐田の最終ラインはWBが最終ラインに入って5枚で構成されていましたが、浦和が4枚とも中央によって磐田の真ん中3枚にアタックするため、序盤はビルドアップを外されて2ラインの間に頻繁にボールが入り、4枚の連携で前を向かれて武富、興梠が裏を狙うという形が多く繰り返されました。試合が動いたのはそう言った流れからの前半8分。興梠に入った縦パスに武富と武藤がすかさずフォローにはいり、武藤が前を向くと武富が連動して追い越す動き、武藤のパスを受けた武富の深い位置のクロスに飛び込んだ大井がハンドしてPK。これを興梠が冷静に決めて今季初得点。磐田が混乱していた時間帯に浦和は鮮やかに先制点を決めたのでした。おそらく浦和としては4ー1ー2ー3を前提に対策するであろう磐田に対して、このような形は狙っていたのかもしれません。ここまで具体的でなくとも、4ー4ー2で試合に入ることを決めながらも、4ー1ー2ー3をチラつかせるような狙いはあったものと思われます。そういう意味で浦和としては中断期間が実った得点であり、ここまでは非常に良いムードで試合を進められていたと思います。
磐田の割り切りと流れを手放した浦和
失点後も磐田としてはしばらく混乱を引きずっていたようでした。前からプレッシングに行っていいのか、頻繁にDHの裏へボールが入る浦和の攻撃をどう潰すのか、前へ出てしまった時に積極的に裏をとる武藤、興梠、武富をどうするのか。この間に浦和は左SBに入った槙野の持ち上がりから武藤が2ラインの間でボールを引き出す持ち味を出した動きで磐田の最終ラインへのアタックを強めました。この間、磐田はなかなかボールを前線でキープできず、良い攻撃を構築できていませんでした。
が、20分ごろから磐田がやり方を整理し始めます。まず2シャドーの山田、松浦が柏木、青木の前に立つことで浦和の前線へのパスコースを消し、プレッシングを自重。その分後ろの2枚のDHは最終ラインの前のスペースを消しにかかります。いわば、浦和の最終ラインでのボール保持は割り切って捨ててしまい、もっとも危険な2ライン間のスペースを潔く埋めるやり方に方針転換したのでした。また、同時に名波監督自らが最終ラインに細かくラインの上げ下げを指示することで浦和の前線4枚のプレースペースを消すとともに、分裂しかけていた3ラインの距離感を直接整理していたようです。
この整理は、全く派手さはないものの、浦和に甚大なダメージを与えました。
それまで気持ち良くプレッシングを剥がし前線へボールを繋げていたことをベースに、コンビネーション、個人技、後ろからのバックアップ、時には単発で裏狙いなど様々なバリエーションを見せられていた攻撃が、その前提となっていた前線へのパスコースを失ったことで繰り出せなくなります。磐田はラインの高さ自体はある程度保っていたものの最終ラインのボールは譲歩していたため、ボールを保持することに苦労はなかったはずですが、浦和の選手はそれまでと同じペースで前線にボールをつけたがり、「特に苦しくもないのに苦し紛れのロングボール」をコンパクトな磐田最終ラインへ放り込み始めてしまうのでした。また、磐田は中央を安定させたことで5枚の最終ラインを有効活用し、サイドでも優位を取りにいきます。浦和としては中央が締まったのであれば久々に左に入った槙野を使って押し込んで行きたいところでしたが、磐田はWBが大きくスライドすることでサイドでも枚数を合わせて対応にかかります。
このスライド守備自体は5バック(3バック)でサイドに出て行く際は基本的なものですが、一手目で中央にボールが入ってしまう事態を整理できたことで磐田としては落ち着いて対応できるようになったのでしょう。スライドにも迷いがなく、特に左サイドでの槙野と武藤の連携によるサイド突破に適切に対応できていたと思います。浦和としては、ここであまり焦れることなく最終ラインでボールを回し、また時にサイドチェンジを使いつつ、我慢比べに持ち込めていればもう少し違うゲームができたかもしれません。すでに先制しており、磐田のシャドーもそこまで我慢強くポジションを守り続けていたわけではなかったので、我慢比べで焦れるのは磐田だったのではないかと思います。中央、サイドと手詰まりになってしまった時に、前にボールを付けたいばかりにボールを蹴ってしまい、相手にボールとペースを渡したことが試合の流れを大きく変えることとなってしまいました。
押し込む磐田、晒される浦和
良い守備の整理からボールを握った磐田は、徐々に浦和陣地への侵入を強めて行きます。シャドーが下がって守備をする分速攻は多くないのですが、その分配置の有利をしっかりと活かした侵入を再現できるようになっていきます。
浦和の4ー4ー2に対して、磐田が作った局面の優位は磐田の左サイド、浦和の右サイドでした。磐田の3ー6ー1はミシャ式と違い、WBは極端に高い位置を取らずに幅を確保していました。中央は川又、山田、松浦の1トップ2シャドーで攻略していくのですが、心なしかこの3枚は浦和の最終ライン右のユニット(右SBの遠藤、右CBの阿部)にアタックをかけていたように思います。もちろんこれは左のユニットであるマウリシオ、槙野とのガチンコ勝負を避けたというごく普通の理由もあるでしょうが、それと同時に左WBの宮崎のフォローが得られやすかったことも大きかったのではないでしょうか。掘り下げると、浦和の守備は(どこまで整理されているかは別として)基本的に前から追いかけていくプレッシング志向ですが、磐田の最終ラインはベーシックに3枚で構成されており、武富、興梠の2枚で追いかけるとどうしてもどちらかのストッパーが余ってしまい出口になってしまいます。ここで磐田の左ストッパーに持ち上がられると、長澤がそれに対処し、WB宮崎がそれを受けて押しあがる、という構造があったように思いました。また、こういったシーンに限らず、柏木が前から追いかける意識が高くボールに寄っていくので、青木がそのスペースを1枚でカバーせざるを得ず、結局4ー1ー2ー3の時と同じような守備の穴を開けてしまっていたことも気になったところです。怪我明けの遠藤も万全のパフォーマンスとは言えず、38分にはこのサイドを突破されマイナスのクロスが上がったところバイタルにフリーで飛び込まれて田口にハーフボレーを枠に蹴りこまれています。これは西川の安定した神セーブでなんとか攻撃を凌いでいたものの、再現性の高い攻撃に晒され続けた浦和は、その後幅をとった磐田右WBの櫻内から中央に繋がれてロビングでのスルーパスであわやGKと1対1のシーンを招くなど、奪いどころを見つけられないままズルズルとラインが下がってしまいます。そしてついには、エリア内まで入り込んでしまった最終ラインでロブパスをフリックされると、ゴール前、阿部の目の前に溢れたボールを後ろから川又に攫われてそのまま左足で技ありゴール。前半のうちに同点に追いつかれてしまうのでした。
両監督のプランB
後半は両チーム交代なくスタート。少し意外に思われたのは、磐田の後半の入り方でした。磐田は同点においついた流れのようにボールを保持しようとせず、構えたところから浦和にボールを持たせることを選択したのでした。これでは浦和が前半に流れを手放したように磐田も良かった流れを手放してしまうかのように思えますが、振り返ってみれば名波監督からすれば、「浦和の攻撃でやりたいことと自チームのリスク管理は整理できたので、逆にボールを持たせてミスを誘った方が良い」という判断だったのでしょう。実際、この迎撃スタイルをとった5バックと4枚の中盤の高さとコンパクトネスは非常に整理されており、例えば浦和の前線の選手がボールをもらいに落ちてきたところにしっかりとついて行って一人一殺よろしくしっかりと潰すことができていました。最終ラインからのパスコースを切られ、サイド攻撃も有利にならず、浦和は出しどころなく裏を狙うか、サイドからの侵入を試みては跳ね返させるような展開となってしまいました。時折、磐田の迎撃ディフェンスとうまく入れ替ってゴール前へ入り込むシーン(興梠のシュートをカミンスキーがセーブ)、セットプレーからスクランブルを作る(遠藤が蹴りこめず、最後はカミンスキー)などのシーンがありましたが、ゴールが遠いまま時間だけがイタズラに過ぎていくのでした。
両チームの交代は60分過ぎから。最初に磐田が動き、松浦に変えてJ1デビューの中野を投入。後ろの形は変えずに川又との2トップを組ませ、山田をトップ下に配置します(ただ、守備時は中野が降りて1トップ2シャドー)。対して浦和は武富に変えてアンドリュー・ナバウトを投入。苦労の末オーストラリア代表に選出された助っ人の一発に賭けます。さらに磐田はトップ下の山田に変えてシュンスケナカムラを投入。終了間際のセットプレーも考慮した采配だったと言えるでしょう。実際、槙野が自陣コーナーフラッグ近くで不用意にファールして中村にFKを与えると、川又にあわやのシーンを作られてしまいました。
一方の浦和はナバウトを投入しても前半と同じく中盤はボールを引き出せず、ナバウトもなんとか裏抜けを狙いますがオフサイド。ならばと繰り出すサイド攻撃も磐田のスライドで数的同数または数的不利で不発。柏木はなんとか最終ラインから前線にボールを付けようと広いエリアを駆け回りますが、それに連動する動きがない。武藤や興梠も前半から裏に抜けるだけでなく中盤に落ちてのボールキープやサイドに開いてのチャンスメイクなどかなり広いエリアを走り回っていて、この時間帯にはすでにほとんど体力を使ってしまっていたように感じました。これに業を煮やした堀監督は75分過ぎに長澤に変えて李を投入。李とナバウトの2トップに興梠を左、武藤を右に配置し、4枚のフォワードで満を持して特攻。2011年以来、懐かしの春のフォワード祭りの開催を堀監督は選択したのでした。
失点は上記の状態から。西川まで戻ったボールを青木が降りて預かると、焦ったのか磐田の人垣が待ち受ける中央へリスクの高い単純な縦パス。当然のごとくカットされ、川又に繋がられると、青木と阿部が二人でカットを狙い二人とも不発の大惨事。川又にドリブルで侵入され、阿部が必死に追いかけるもシュートが阿部にディフレクション。これまで神セーブを連発していた西川も見送ることしか出来ず、あまりにも決定的な逆転ゴールが生まれてしまいました。その後も浦和は春のフォワード祭りで前線での一発勝負にベットし続けますが、リードを奪いあとは試合を終わらせるだけの磐田は5バックでの迎撃を貫くばかりか、途中出場でJ1デビューの中野を再度ベンチに下げるという名波監督のリアリズム采配も飛び出し、当然のごとく試合を締めくくったのでした。
結局、堀監督にはプランBは無かったのだと思います。例えば今節であれば、フォワードを投入する前に相手の迎撃ディフェンスと入れ替わって外せる選手(要は直輝)の投入が面白かったのではないでしょうか。もしくは、もはやボールを繋ぐサッカーにこだわりもないのですから、早めにパワープレーにはっきりと移行してしまっても良かったと思います。磐田の迎撃5バックへの攻略の糸口を掴めないまま後半の45分間を使ってしまったこと、さらにはその間に3枚の選手交代のカードを使い切ってすらいないことは、この2週間での改善に期待していったサポーターにとっては辛すぎる内容だったと言えるでしょう。
「最悪」の浦和
これで今季の浦和は5試合で勝ち点2、順位は17位とガンバ大阪とともに降格圏へ沈んでいます。5節で勝ちなし、勝ち点2は1994年と2005年に続くクラブワーストタイのスタートということですから、まさに今の浦和は最悪の状態であると言えます。
これまでの試合を振り返ると、前半のうちに良い時間があり、狙いとするであろう攻撃が見られるものの、全体としては攻撃パターンは整理されていない為に前線の選手の無駄走りが異常に多く、また守備においても、「コンパクトであれば気合いでイケる!」の世界のため、未だに90分デザインされたゲームを実行できた試合はありません。もちろん90分理想通りに試合を勧められることはないのですが、明らかに試合中に問題点を整理、修正出来ておらず、特に前線の選手の気合いエネルギーが尽きるとあとは成すすべなく敗北していく傾向にあることは非常に危険です。堀監督の修正力、試合中のゲームプランの作り方には多くの疑問がある上に、 選手側でも誰がどこで何をすべきかの認識が共有されているのかは非常に疑問です。例えば柏木はピッチ上の(特に攻撃面の)問題点を全て自分で解決しようとあらゆる局面に絡んでいく傾向があり、それがチームのオーガナイズに貢献しているのか疑問です。もしかしたら、キャプテンであることが彼の責任感をより強く、必要以上に強くプレーに反映させてしまっているのかもしれません。もちろん辛い時も良い時もいっしょに戦ってきた柏木を叩きたいわけではないのですが、他の選手が責任を果たし、チームとして連携して、11人の正しいオーガナイズを一刻も早く見つけなければ、チームが何を信じるのか見失い、真の意味でのチーム崩壊を見ることになってしまうかと思うと本当に心配です。
まあ、愚痴を言っても仕方ありません。具体的な総括はプロに任せるとして、サポーターはどんな時も一緒に戦っていくことしか出来ないのです。
今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。