96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

「浦和レッズらしい」ホームでの勝利。 Jリーグ第8節 vs清水エスパルス 分析的感想

Jリーグ魂の15連戦はようやく中盤戦に差し掛かったところ。浦和が第8節を迎える時点では勝ち点8が6チームと相変わらず大混戦の様相を呈し始めたJリーグ。勝てば一桁順位も夢ではないものの、負ければ即降格圏の危機という大事な一戦となった清水戦の感想です。

 

 

見破られつつある大槻サッカー

両チームのスタメンは下図の通り。浦和は大槻サッカーのスタンダードということが判明した3-4-1-2システム。清水は前節の神戸と同じくフラットの4-4-2を採用しています。

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浦和控え:福島、岩波、マルティノス、青木、柴戸、ナバウト、李

 

正直、今節は直輝が少なくともベンチ入りすると予想していたのですが、思いっきり外しました。3-4-1-2システムではトップ下があるので、適正的にも良いかと思っていたのですが、ベンチ外とは驚きました。他にも、武富が地味に出場機会を減らしており、マルティノスもベンチを温める日々が続いています。ズラタンにおいては存在を忘れられたか、既に「消されて」しまったのではと一部で心配されています。冗談は置いておいて、この辺のメンバーはルヴァンカップで起用する方針なのでしょう。就任以来いきなり全てのFPを起用し競争を煽った大槻監督ですが、ここ2試合は同じようなシステム、メンバーの起用が続いています。

一方の清水は前節長崎戦から3枚入れ替え。CBのフレイレは怪我とのことで二見がスタメン。また2トップは白崎、鄭大世のコンビから北川、クリスランのコンビにチェンジされています。ただ、この辺りの交代は特別な浦和シフトではなくコンディションやパフォーマンスでの選考というところでしょう。実際、予習のために土曜日に前節長崎戦を確認しておいたのですが、長崎戦と今節で狙いを大きく変えている雰囲気はありませんでした。ただ、清水にとっては、前節の神戸の取り組みが非常に参考になったことは間違い無いと思われます。前節のレビューでも取り上げた通り、浦和の3-4-1-2システムは中盤中央のボランチの脇のスペースに入り込む選手のケアが最大の悩みどころとなります。基本的にはボランチがスライドして面倒を見続けることになるのですが、後半になって体力が落ちると強く当たれなくなり、中央で前を向かれたところからピンチを招く流れが3-4-1-2システム採用以来の定番となっています。

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清水としては神戸がお手本を示した通りこの部分から攻略を狙うというのはプランに入っていたはずです。今後の対戦チームも基本的にはこのスペースを誰にどう攻略させるかというのが浦和対策の根幹を成すものと思われます。ということで、清水がこのスペースをどう攻略するのか、そして浦和はこれにどう対応するのか、というところが試合序盤のポイントとなっていきます。

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浦和のディフェンスは5-2-3の3つのライン。肝となるボランチの両脇はこれまで通り2枚のボランチの気合のスライドで対応していました。また、清水の攻撃の特徴は両サイドバックの攻め上がり。身長182cmの左SB松原と同189cmの右SB立田の攻めがありは文字通りの大迫力で、清水の攻撃戦術の前提となるストロングポイントです。浦和はこのSBの攻め上がりをWBがガチンコタイマンマークすることで対応していました。試合開始から10分ごろまではお互いにボールを落ち着かせられず、どちらも主導権を握ることの出来ない時間帯が続きました。これは上述の狙いを突きたい清水と、それが分かりきっている浦和の対応がかち合ってお互いの狙いをぶつけ合う展開となったのだと理解しています。

そんな中でも11分ごろの金子のクロスは上述の危険エリアで金子がボールを持ったところ、菊池がマークしますが後ろから猛然と追い越した立田のカバーのため菊池が下がり槙野とスイッチした瞬間を狙われたもので、マウリシオがクリアすることが出来たものの清水の狙い通りの攻撃だったと思います。狙いが出ていたという意味では、若干清水の時間だったと言えるかもしれません。

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この場面では左サイドでのビルドアップからダイレクトパスで中央を横断され、阿部の対応が間に合わずボランチが中央で置いていかれたことが発端となっており、やはり2枚のボランチのスライドが遅れればピンチを招いてしまうというのはこのシステムの泣き所なのだなと再確認したシーンでした。

一方で清水のディフェンス、浦和の攻撃については、清水の4-4-2を浦和がどのように攻略するかということになります。

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浦和の狙いとして、まずは長澤or阿部が中央のギャップに入り込むことが合ったようです。これは試合後の選手コメントからも確認できます。どちらかというと長澤が清水2トップと2ボランチの中央でボールを受けて清水のディフェンスを収縮させるか、寄せて来なければそのまま前を向いて中央から前線3枚へという感じでした。もう一つは、これは確信できるコメントは見つかりませんでしたが、興梠がやたらと左サイドに流れてボールを受けていました。これは配置(システム)の問題というより、人の問題で、19歳と若く経験の少ない清水右SBの立田を狙っていたのかな?と思います。この動きも結構効いていて、清水のSHは前への意識が強く後ろのスペースを空けており、その割に立田は前に出て行ってボールへアプローチするというよりは裏をやられないこと優先(?)し、目の前で持たれる分には強く来ていなかったので、興梠がこのスペースでボールを受けていたシーンが多く見られました。浦和はこの形からいくつかクロスを中に入れるシーンを作りますが、決定機とまではいかず、試合序盤は互角の展開で進んでいきます。

 

流れを引き寄せた“ファイター”と自決した清水

流れを大きく引き寄せたのは、前節に続いてWBでスタメン起用された橋岡のナイスプレーからでした。前半20分、高い位置でロブパスを受けようとした松原の着地点でボールを引っ掛け、武藤がそれを拾うとそのまま前線へ駆け上がり強烈なミドル。このシュートは外れますが、この試合最初のファインシュートを放つと、浦和イレブンはこのプレーに反応し全体のリズムと積極性が出てきます。23分には前述狙い目の中央のギャップゾーンに阿部がボールを持ち運ぶと、一時はプレスバックしたクリスランに当たったもののこぼれ球を隣の長澤へと繋ぎ、柏木→菊池とダイレクトで展開。菊池が更にダイレクトで鋭いクロスを放り込むと、二見とファンソッコの中央に走り込んだ興梠がネコ科特有のしなやかさで身体を捻り強烈なヘディングを突き刺し先制点を奪いました。f:id:reds96:20180416050934j:image

このプレー、直前のプレーとなったネガティブトランジションで、高い位置でボールを回収した所から始まった二次攻撃だったこともあってか、それとも清水最終ラインの特徴か、清水の1列目、2列目のプレッシングラインの高さに対して、最終ラインが低い位置に留まっており、柏木、興梠に時間とスペースを与えてしまっていたことは清水にとっては痛かったかもしれません。ただ一方で柏木はボールが入る直前にアイコンタクトとジェスチャーで菊池の場所を確認しており、菊池も柏木からボールが入ることを想定して高い位置をとっているため、浦和としては狙い通りだったと言えるかもしれません。

この失点で、清水は非常に焦ったようでした。それまでは遮二無二ボールを追うことはしなかった清水の前線の選手たちが、失点した焦りからか浦和の最終ラインに猛然とプレスをかけ始めました。ただ、後ろの選手が連動して付いてくる感じは無かったので、主に金子や石毛といった若い選手が焦ってしまったのかもしれません。

3バックでのボール回しには一家言のある浦和レッズ。先制点の直前に怪我で交代となってしまったマウリシオに代わって入っていた岩波を中心に、カミカゼプレスを選択した清水の若手を翻弄していきます。方法論は主に2つで、単純に清水のSHが浦和の3バックにプレッシャーをかけるなら高い位置に張ったWBへパス。

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中央で既に数が合っていれば阿部の判断で槙野の脇へ降りていくことで擬似4バックを形成し、結局高い位置で余っているWBへ。

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結局のところ、2トップでプレスに行けば3枚で外され、3枚に揃えて追えば4バック化されて打つ手なし、いずれにしろWBが出口となってサイドから前を向かれてしまう。さらに清水のSBは浦和WBを捕まえられるほどの高さまでは出て来れず、かといって清水のボランチは中央を塞いでいないと危険な前線3枚へボールが入ってしまう、、、結局この清水のカミカゼプレスは悪手でしかありませんでした。これで浦和はビルドアップから無限に清水を殴れるモードに突入。間も無くして石毛が不用意に(もしくは自決を覚悟して)遠藤にプレスに行ったところをガラ空きの橋岡へ通され、松原が中途半端に寄せてしまった所をトラップ一発で剥がされてしまいます。橋岡は気合ダッシュでサイドを突破すると、「ワイルドな」クロスを中央に供給。ニア→ファー→ニアの動きで19歳立田を翻弄した興梠がこのボールを鮮やかに仕上げ、2-0と試合の趨勢を決めたのでした。

試合はその後も完全な浦和ペース。守備の意思統一が出来ないのか、中途半端に追ったり追わなかったりする清水を、縦パス空母と化した岩波が蹂躙していきます。岩波は上述の数的有利を踏まえたWB活用に加え、ツータッチで逆サイドのWBへサイドチェンジ、体の開き方と逆方向にいる柏木へ30mの縦パスなど、最終ラインでの数的優位さえあれば見えたところに全て通せると言わんばかりの鬼パスを連発し、試合を完璧に支配。追加点こそなかったものの、浦和は2点のリードでファンタスティックな前半を終えたのでした。

最終ラインの岩波と中央でターンから持ち上がる長澤にボロクソなまでに組織を破壊されてしまった清水でしたが、清水とすれば失点以降自らペースを崩してしまった感があり、失点後の試合運びがもったいなかったかもしれません。また、チームのストロングポイントである松原が浦和ユースから昇格したばかりのルーキー橋岡に沈黙させられるというのもかなり痛かったと思います。それ故、橋岡が作った前半の流れの価値は非常に高いものだったと言えるのですが。

 

清水の真の姿と浦和の課題

前節と今節を観ただけですが、清水はなかなか不思議なチームです。ヤン・ヨンソン監督は守備に重点を置いたチーム作りをしているとの情報が聞こえてきますが、特に守備が強いチームという印象はなく、前節長崎戦でもそうでしたが4-4-2のブロックの間でボールを受けられるとなかなかボールにアタック出来ないまま侵入を許してしまうという印象があります。さらに、今節では若さ故か連動がないままボールを追いかけて組織を破壊されるという悪癖を露呈してしまいました。ただ、ヨンソン監督について経歴等を調べると、故郷スウェーデンでは有数のパスサッカーを構築した攻撃思考の監督として知られているそうです。また、4-4-2信仰や若手起用からの売却など、ベンゲルとは意見が一致するところが多く、古くからの友人ということだそうです。浦和サポには結構どうでも良い情報ですが、そんなヨンソン監督が授けたかどうか知りませんが、清水は後半キャプテンの竹内を中心に真の姿?を見せていきます。

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まずは竹内の活用法。前半の浦和が擬似4バックを使ったのとほぼ同じ方法で、竹内が左サイドバックの位置に降り、その分松原がより高い位置をとって相手を押し込みます。これは長崎戦でもチャンスを作っていたビルドアップの方法で、清水の得意パターンのようです。得意パターンのようですが、オートマチックに発動するわけではなく、あくまで竹内の判断で実行されているような印象を受けました。現在の清水のほぼ唯一の縦パス供給元である竹内は、実は前半から縦パスを供給しまくっていました。ただ、前半は浦和の守備(特にボランチ)に運動量があり、最終ラインもうまく迎撃出来ていたためか、清水の前線の選手はほとんど彼の縦パスを収めることが出来ていませんでした。後半は、このギミックを中心に竹内がよりボールに絡み、影響力を強めていったように感じました。清水が勢いをつけた後半の得点も、彼の上述のギミックが起点となっていました。54分、竹内のビルドアップを起点に、松原が開いたスペースの裏に同サイドに寄っていた石毛と金子が猛ダッシュ。ラインが押し下がったところで中央のクリスランに放り込み、落としたところ逆サイドからゴール前に金子が突っ込みゴール。清水が一点を返しました。失点のシーンでは橋岡がボールウォッチャーとなってしまい金子をフリーにしてしまっているのですが、金子の予測と飛び込みが素晴らしい上に、クリスランの落としの高さと質の高さに加えて、上述の石毛と金子のダブルスペースアタックに対応するために浦和はマークをスイッチしていましたので、橋岡も混乱し易い状況だったかもしれません。

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試合はその後、浦和の中盤が空き出すと竹内の縦パスが面白いように入るようになり、それに呼応するかのように清水にフリーランが生まれ始めます。さらには途中出場ミッチェルデュークのエナジー満タンプレッシング等で中盤にスクランブルを作られ、浦和は防戦一方に。前節も思ったのですが、清水としては身長とパワーのあるFWと、小回りが効いてドリブルもシュートもうまい金子や石毛を擁する訳ですから、やはり整然と整理されたパスサッカーよりも、ある程度のカオスを許容して勢いでゴリゴリやっていくサッカーの方が真の姿ではないかと思いました。竹内からバシバシ鬼の縦パスがでて、前線はそれを半分程度しか収められないとしても、ゴリゴリプレッシングでスクランブル状態を作り、溢れたボールを搔っ攫ってゴール前で勝負!の方が対戦相手としては怖いのではと思いますが、ヤン・ヨンソン監督の考えは如何に。兎にも角にも、浦和としてはかなり苦しい後半だったと思いますが、埼スタの雰囲気、サポーターの応援を背に受けた選手たちは最後まで戦い抜き、終盤は鄭大世大作戦feat.クリスラン&ミッチェルデュークという清水のゴリゴリ感をなんとか凌ぎ、久々の、そして大槻体制では負けなし継続となる3連勝を果たしたのでした。

浦和の課題としては、やはり失点後は浦和のインテンシティが一気に落ちてしまいました。ボランチの2枚は誰が起用されていようと基本的に60分すぎから動きが鈍くなっているのが大槻サッカーの特徴となっており、これはもうシステムの泣き所のためどうしようもないのだと思います。今節の走行距離を見ても、結果論とはいえボランチの2枚は上位となっていますので、今後は交代のタイミングや3ボランチの採用など、いくつか対応策が観られるかもしれません。また、途中出場でナバウトを起用する交代が連続していますが、彼はあまり足が速くないみたいなので、カウンター要因としてはどうなんだろうという気がしなくもありません。正直、4-4-2で興梠とマルティノスにロングカウンターやらせた方が相手も怖いんじゃないかと思ったりもするのですが、、、。

 

橋岡の活躍に思うこと

最後に、皆さん嬉しかった生え抜きのニューヒーロー橋岡について。彼の熱いプレー、最高でした。同じユース卒の荻原も爆発力があって人気が出ましたが、やはり世代別代表に時に飛び級で選ばれ続けてきた橋岡の実力は一味違うというところが観れたのではないかと思います。何より、ファイタータイプで人に強いのが良いですね。今節の埼スタは日曜16時にも関わらず3万人を切るというかなり苦しい動員でしたが、彼の人に負けないプレー、キツい時に一歩足を出せる頑張りに感化されたのか、スタジアム全体に凄く熱い雰囲気を感じました。

最近、ハリル解任に関連する議論の中で「自分たちのサッカー」とは何なんだという話がよくあります。そして同じく、クラブチームにも自分たちのフィロソフィーとは何なのだという議論が絶えません。これについて、本当に個人的な意見ですが、「浦和のサッカー」、「浦和らしい選手」というのは、熱く、目の前の相手に負けない、戦う姿勢をプレーで表現するサッカー、それができる選手なのではないかと考えています。理由は単純で、埼スタが一番盛り上がるのは、選手の戦う姿勢を観た時だと思うから。システムや選手のポジション、ドリブラーディフェンダーに限らず、戦う姿勢を出せる選手こそが埼スタに最も求められているのでは、と勝手に考えています。その意味で、まだまだ期待優先の若手とはいえ、ユース生え抜きの橋岡から今節のようなプレーが観れたことが、96はとても嬉しかったでした。

 

今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。

 

次節、ミシャ再び。