96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

大槻浦和組最終章はミシャとの戦術戦に。 Jリーグ第9節 vs北海道コンサドーレ札幌 分析的感想

 4月2日に急遽「暫定監督」として就任してから約20日。大槻監督は得意とする相手チームのスカウティング明快な戦術に加えて、自軍の選手への情熱的なモチベーティング、「大槻組長」と呼ばれたオールバック・メガネ・ダークスーツというスタイルの強烈なインパクトで降格圏に沈んでいたチームを上向かせ、サポーターを勇気付けてきました。そんな大槻組長との「共闘戦線」も今節が最後となり、次節以降は新監督に就任するオズワルド・オリヴェイラが指揮を取ることが決まっています。今節の対戦相手は、昨年途中まで5年半に渡って浦和を指揮し、現在の浦和のベースを構築したミシャ率いる札幌。暫定監督としての大槻監督のラストマッチとなった試合を振り返ります。

ミシャへの最大限のリスペクト(守備編)

今節の両チームスタメンは下記の通り。札幌はもちろんミシャの代名詞、3-4-2-1フォーメーション。ワントップに入った都倉はJリーグ3試合連続ゴール中で、負傷離脱中のジェイの不在をまったく感じさせないほどに活躍中。都倉のパワーとキープ力にシャドーの三好とチャナティップのドリブルとラストパスを織り交ぜてのワントップツーシャドーの攻撃が札幌の基本となります。なお、右WBは本来浦和からレンタル移籍中の駒井が絶対的レギュラーですが、契約上レンタル元の浦和と対戦する全ての公式戦に出場不可となっていますので、今節は代わりに荒野がスタメン出場しました。

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浦和控え:福島、武富、柴戸、青木、菊池、李、ズラタン

 

一方の浦和は、左WBに宇賀神がスタメン復帰。マウリシオが前節の負傷を引きずっているのかベンチ外で、代わりに岩波が遠藤とともに水曜日のルヴァンカップから中2日での連戦となりました。今節の浦和のフォーメーションは、これまで大槻監督がスタンダードとして採用していた3-4-1-2で臨むというのが大方の予想でした。しかし、今節は浦和もまたミシャ時代に回帰したかのように3-4-2-1を採用していたようでした。これにより、今節は完全に鏡写しの両チームが激突する完全なミラーゲームとなりました。

 

ミシャは対戦相手によってフォーメーションを変更することはまずありません。従ってミラーゲームを作るかどうかの選択肢は浦和が、大槻監督が持っていたと考えて良いと思います。そんな中でミラーゲームを仕掛けたのは、選手のマッチアップを明確にすることで選手の個人個人の質の差の勝負に持ち込み、球際の局面勝負で勝つことでボールを奪い、ミシャサッカー特有の自動化されたコンビネーションの発動を阻もうとする意図があったことは誰もが予想したところでした。しかし、レッズはミシャに勝つため、ミシャサッカーを攻略するために、メディアや外野が予想していた以上のリスペクト(=ミシャ対策)を以って今節に臨んだ様に感じました。

 

まずは浦和守備時のミシャ対策。ミシャサッカーは、ほとんどの浦和サポーターにはもはや常識となっている通り、攻撃時に3バックの間にボランチが1枚降りて擬似的に4バックを形成することで両サイドのCBに高い位置を取らせ、その前方の両サイドのWBを最前線まで張り出させます。最前線に5トップを形成することで攻撃時の幅を確保し、中央に入った1トップ2シャドーのコンビネーションで突破を狙いつつ、相手が中央に収束すれば逆サイドに張り出したWBへサイドチェンジというのが基本的な攻撃面の狙いの概要となります。

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これに対して浦和は、ミシャ時代と同じく、5枚の最終ラインの前に4枚の第2プレッシャーライン、最前列に興梠が入る5-4–1の配置を採用していました。これまでの浦和は基本的に3-4-1-2システムを採用しており、前線の3枚が横に並んで中央のパスコースを消し、その後ろに2枚のボランチ、5枚の最終ラインを置く5-2-3の配置でセットのディフェンスを行なっていました。この守備戦術は、自陣中央への相手の侵入を明確に制限するものであり、中央に前線の3枚を残すことで前線の運動量をセーブし、カウンターを狙えるポジションを取ることができるという強みもありました。逆にいうと、サイドや最終ラインへのプレッシャーは弱いため、サイドに起点を作られると相手の前進を制限できないという弱点がありました。これをミシャ時代の5-4-1に変更することで柏木と武藤を中盤第2のプレッシャーラインまで落とし、サイドに起点を作らせない守備を実施していました。

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さらに浦和は、セットで守るだけでなく、札幌のビルドアップを破壊するべく最終ラインへのプレッシングについても準備をしていたようでした。札幌の両ストッパーに浦和の2枚の2シャドーが、中央のキムミンテには興梠が、そしてボランチから最終ラインに降りる選手(主に宮澤)に対してはボランチの位置から長澤が最終ラインまでついていくことでマッチアップし、中央に残る遠藤を含めて札幌のビルドアップの局面で5on5のマッチアップを作り出していました。

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これは選手の試合後のコメントからも浦和が用意していた明確な狙いであったとわかります。槙野がコメントしている、ミシャ時代にやられて一番困った対策をそのまま今節にぶつけたのが上記のビルドアップに対する数合わせでないかと思います。これによって、ビルドアップで相手の第1プレッシャーラインに対して数的優位を作り、後ろが安定して持ち出すことで前の5枚のコンビネーションや積極的な突破に繋げるというミシャサッカーの大前提が制限されてしまいます。実際に札幌はビルドアップの逃げ場を見つけられずに前に蹴り出さざるを得ないというシーンが前半から多く見られました。ミシャスタイルが完全に浸透し成熟した浦和時代後期であれば、個人能力を前提にした意地のボール保持からGKの西川を使うか、シャドーを1枚中盤に落とすことで強引に数的優位を確保しボールを前進させるか、低い位置からの阿部、西川、森脇の高精度フィードで相手最終ラインの裏を一発で狙うか、これらに連動してWBが中央に入り込むサイドでのローテーションを使うなど多彩なギミックと連携で安定してボールを前進させていましたが、現時点で札幌にそこまでの成熟を求められるわけもなく、「ミシャ以上にミシャサッカーを知る」とも言える浦和の選手たちとその対策を戦術的に整理し採用した大槻監督が、札幌を一歩上回った感がありました。

だからと言って簡単にビルドアップを諦めるわけにもいかないのが札幌。J1残留という十分な結果を出した四方田前監督をコーチに降格させてまで攻撃的スタイルを構築するためにミシャを招聘したのですから当然です。札幌は苦しみながらも福森の高精度の縦パスやロングキックをベースに前線へのボール供給を図っていました。札幌の1トップ2シャドーは浦和時代のミシャサッカーとは違い、都倉の下に2枚のシャドーという配置が明確だったのは興味深いポイントでした。

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浦和では1トップ2シャドー(主にKLM)は相手の最終ラインに入り込み、ほとんど横一線の状態から前後左右にアクションし、後ろから絡む柏木や両WBと連携しダイレクトパスを通すことで相手の最終ラインを破壊するコンビネーションアタックが真骨頂でした。一方今季の札幌は、あまりダイレクトパスに固執せず、福森を含めた最終ラインから都倉へ、都倉が落としたところからシャドーに入った2枚のドリブラーが侵入していく、というのが基本的な攻め方になっています。そういう意味で、札幌の2枚のシャドーは都倉の落としを最初から前向きで受けるために、若干低い位置で都倉ボールが入るのを待つ必要があるのかもしれません。

札幌のチャンスクリエイトにおいて最大の期待を背負うのが川崎からレンタル加入している三好です。彼が中央でドリブルをすることは、基本的にどんな状況であっても是とされているようです。KLMがリスキーなフリックやダイレクトパスを全面的に肯定されたように、三好のドリブルを止めるために相手が収束することは戦術上の前提であり根幹なのだと思います。この意味で、ミシャは3-4-2-1スタイルに固執し攻撃的サッカーを貫きますが、それはKLMスタイルへの固執ではなく、「中央で相手を収束させ、開いたサイドを使い、相手DFを混乱させ、再度中央で仕留める」という攻撃原則を追求しているのではないかと感じたのは新たな気づきでした。そうであれば、相手の中央を収束させるならドリブラーの三好とチャナティップで良いということになります。というわけで、三好は基本的に単騎で仕掛けて相手を集めなければいけないので、ボールを持ったらゴリゴリ仕掛けていきます。34分の単騎突破からの無回転ミドル等は彼の質を現したプレーでした。しかし、三好は槙野の壁を超えられたというわけではありませんでした。槙野を抜き去ってシュートやラストパスまで行くシーンはなく、その前に遠藤や長澤のプレスバックに合ってしまい囲まれるというシーンが多く見られました。ミシャが試合後にコメントしたように、駒井が右サイドに入っていれば三好に集まったプレッシャーを良い意味で共有できたかもしれません。しかし荒野にその役割はあまりに重く(というか特徴的にそういう選手ではないと思うので、荒野は攻撃よりも守備で宇賀神をなんとかしろという役割だったかも)三好が囲まれて潰されるというシーンが多くなったのかなと思います。

というわけで、札幌はビルドアップとファイナルサードでの崩しの両局面で狙いを出しきれない展開となってしまいました。しかしこれは、如何にミシャをよく知るとは言えこれだけのミシャ対策を浦和が採用したということであり、浦和がそれだけミシャをリスペクトしたのだと言えるのではないでしょうか。これは浦和がミシャシステムの破壊力を一番よく理解しているというだけでなく、チームが前進していることの証明のためにも、大槻監督最後の試合で「過去の監督」であるミシャに絶対に勝って終わりたいという強いモチベーションもあったかと思います。

 

ミシャへの最大限のリスペクト(攻撃編)

札幌のミシャサッカーは、守備面でも浦和時代からのマイナーチェンジが見れます。今節の浦和が採用したような5-4-1で、セットディフェンスではリトリート人海戦術で守り倒すというのが浦和でのミシャ戦術でしたが、札幌では1トップ2シャドーが3枚並ぶ5-2-3でのプレッシングディフェンスを採用しています。

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今節はミラーゲームなので当たり前ですが、前線3枚が相手の最終ラインにガンガンプレッシングを仕掛け、相手が4バックであれば札幌のWBは最前線まで出て行って嵌め込みに走るということもあるようです。ミシャは浦和後期にも「90分を相手コートでプレーする」と言い出して鬼のゲーゲンプレスを採用していましたが、札幌でも似たようなコンセプトでのショートカウンターを狙っているようです。おそらくこれは札幌の場合ビルドアップで再現性のある持ち出しを構築するのは最終ラインの技術面で難しいという判断があるのかもしれません。

で、このような5-2-3守備の弱点はこれまでの大槻サッカーで浦和にはお馴染みとなっており、ボランチの脇のスペースを狙うということになります。ここは単純に第2プレッシャーラインはボランチの2枚のみのため、どうしてもスペースが空く上に札幌の2枚のボランチは浦和のボランチとマッチアップしており、対面を簡単に捨てることが出来ないという制約もありました。

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今節では上記の狙いを担ったのは左サイドの武藤でした。原則的には右サイドの柏木も同じようにボランチ脇で起点になれるはずなのですが、エリアの活用という意味では武藤が降りてきて左サイドで起点になることが圧倒的に多かったように感じます。それがレシーバーの質(武藤と柏木の質の差)なのか、札幌のCBの質(進藤と福森の差)なのか、浦和WBの質(宇賀神と橋岡の質の差)なのか、はっきりとした要因はわかりませんでしたが、事実としては武藤がボランチ脇に降りてくることを前提に、宇賀神は大外で非常に高い位置を取る傾向にありました。想像するに、ボランチ脇でボールを受けて素早くターンし札幌の最終ラインにアタック、高い位置をとった宇賀神と二人で札幌右WBの荒野を攻略し、サイドからのクロスを興梠が仕留めるか、中央で柏木が受けてラストパス、というような組み立てがあったようです。この狙いを出すには大前提としてボランチ脇でボールを受けたシャドーが相手に寄せられる前か、寄せられていても素早くターンして前に仕掛ける必要があり、その意味では武藤が適任ということだったかもしれません。これにミシャサッカー定番のボランチの最終ライン化(これ、「サリーダ・ラボルピアーナ」という名前が付いています。ググるとボリスタの記事が出てきますので詳細はそちら参照。1970年代にメキシコで確立されたこの動き、個人的には「ミシャ・ギミック」です。)で札幌前線の3枚に対し数的優位を築くことで再現性のある組み立てを展開できていました。やはり、5年半の月日が構築したビルドアップにおける連動とオンザボールでの質においては浦和に優位性があったと思います。

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一方で、浦和もまた札幌の急所に迫れなかったことは認める必要があります。要因として考えられるのは武藤がターンした後の攻撃の構築で、宇賀神にボールを入れて単純な1on1に持ち込めた7分のシーン等は良かったものの、札幌の2枚のボランチのスライド対応や三好、チャナティップのプレスバックが早く、宇賀神や武藤が少しでもまごつくと札幌はすぐにエリア内に人数を揃えてゴール前を固めていました。また、武藤が中盤に降りた分最前線の崩しは興梠と柏木の2枚が担うことになっていましたが、この二人の距離感が遠く、クロスへの入り方の工夫も薄かったように感じました。ゴール前でのレシーバー、フィニッシャーとしての動きの質を重視するのであれば、やはり柏木が中盤に降りて武藤がゴール前に入り込む形が良かったと思いますが、ターンで前を向けるというところを重視したでしょうか。また、ビルドアップでは岩波が彼の良さをよく表現出来ていたと感じました。遠藤が最終ラインに落ちたことでより高い位置で自由を得た彼の球出しは札幌もなかなかケア出来ていませんでした。岩波はサイズがあるので中央で使いたくなりますが、特徴を活かすなら森脇のようにサイドで前目に立たせて球出しをさせてあげたほうが輝きそうです。

札幌を押し込むことに成功すると、次の浦和の狙いはサイドからのクロスということになっていました。ミシャ式の狙いを踏襲したということもありますが、札幌の弱点をうまく活用するという意図もあったのではないかと思います。札幌の3枚のCBは中央に絞ってゴール前を固める意識が非常に強く、単純なハイボールの競合いは強くエリア内のシュートブロックに対する反応はとても早いのですが、サイドから早いクロスが入った際は対応が曖昧になることがあり、15分に右サイドから橋岡がインステップで入れた真っ直ぐで早い横パスに武藤がダイレクトで合わせたシーンは非常に惜しいチャンスでした。また、札幌はCBだけでなくチーム全体として、サイドからクロスが入るシーンやエリア内に侵入されるシーンといった緊急時にゴール前を固める習性が強いのですが、それが逆にクロスが入った後にバイタルを大きく開けてしまうという弱点にも繋がっているように感じました。浦和はクロスを入れた後のこぼれ球を遠藤と長澤が回収し二次攻撃に繋げることができており、これが決定機となったシーンもありました。

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画像のシーンは33分、橋岡のクロスが流れたところから。こぼれ球を宇賀神、長澤と繋ぎ、高い位置に出てきた岩波へ。岩波が柏木を使ってワンツーでエリア内に侵入すると武藤へラストパス。あと30cm武藤の足が長ければ、、、という、この試合最大とも言える決定機を作り出しました。このシーンでも札幌はエリア内を固める選手と戻りきれない選手で分断されており、バイタルでフリーの選手を複数つくっていました。

このほか、浦和は局面勝負で遠藤や長澤がボールを絡め取ったところからカウンター気味に攻めがあるシーンが多く見られ、特に長澤は多少のチャージであれば相手をいなし、その分推進力に変えて前に持ち出せるので、札幌は非常に苦労していました。長澤はドイツやACLの経験からか局面での身体の使い方ではJリーグでも抜けていると思います。また札幌は浦和の選手のプレースピードが早かったか、上記の武藤が降りてくるビルドアップに苦労したか、球際で常に一歩二歩遅れてプレーしている印象があり、アフターチャージのファールが非常に多かったことも彼ら自身のフラストレーションになったかもしれません。長澤へのチャージと武藤へのスライディングの2枚のイエローは札幌が守備時にどこで苦労していたかを如実に表しているように感じました。

 

ミシャの盤面整理と悩ましかった浦和の交代

札幌はハーフタイムで深井に変えて早坂を投入。サイドであまり機能しなかった荒野を本職のボランチに入れることで浦和の中央攻略を阻止しつつ、宇賀神への対応をケアしようと考えたようです。

後半は前半同様の両チームの狙いが継続される中で、浦和が興梠のポストプレーや長澤、遠藤のボール奪取から攻め込む展開へ。最大のチャンスは58分に遠藤のボール奪取から長澤を経由し柏木から興梠へのスルーパスのシーン。副審は自信を持ってオフサイドを宣言しましたが、本当にギリギリのシーンでした。

これを受けてかミシャは60分に更にカードを切りました、三好に代えて兵藤の投入。浦和サポーターとしてちょっと信じ難かったのですが、これによって札幌は守備の修正を図りました。

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武藤が散々使い倒していた5-2-3の脇のスペースを消すために兵藤は守備時は中盤まで下がってスペースを埋め、5-3-2の配置でセットの守備を構築した札幌。三好を下げることで攻撃の迫力が落ちることは承知の上だったでしょうが、三好のコンディションの問題もあり代えざるを得なかったようです。いずれにせよ、この交代で、試合はよりミラーゲームらしく硬直していくこととなりました。浦和は興梠、札幌は都倉の収まりの良さをポイントに攻撃を構築しようと迫ります。特に浦和は相手が5-3-2に守備の配置を変えたことにすぐに反応して3枚回しを始めるなどの戦術的な対話が出来ていた点は素晴らしかったと思います。一方で札幌も数を合わせて守っているということで、浦和前線の興梠、柏木、武藤、宇賀神にボールが入ったところに反応してしっかりと人とスペースを潰すことができていました。また、試合の展開上大きな影響を持つことはありませんでしたが、浦和の右サイド、札幌の左サイドの菅、橋岡のWB対決も見応えがありました。両者とも攻撃で違いを見せることは出来ませんでしたが、元々の得手不得手を考えると橋岡が菅を完封したという表現が相応しいかと思います。浦和としては武藤が札幌の3バックの裏をついてクロスを上げたシーンや、中央で人数をかけて攻撃し長澤の中央からのミドルシュートに至ったシーンなどですゴールを割ることが出来ていれば、という感じでした。一方札幌は困った時の都倉への放り込みということで都倉にボールを集めます。結構入れ替わったら危ないというシーンがありましたが、そこは阿部がギリギリでクリーンアップしていたのは流石でした。この阿部の起用は中盤の運動量の担保から遠藤をボランチ起用するためのものだと思いますが、結果的に都倉を完封するのだから素晴らしい出来だったと思います。札幌は76分に都倉へのクロスを阿部にクリアされたところに兵藤のミドルが枠を外れたシーンが最大のチャンスとなりました。

札幌は80分にチャナティップを宮吉に代えて交代枠を使い切ると、浦和もようやく長澤に代えて青木、宇賀神に代えて武富、興梠にかえて李と立て続けに選手を交代させてきました。大槻監督はこれまでの試合では終盤運動量が落ちたところをケアする交代をする傾向にあり、その手当は試合をする毎に的確に、決断も早くなっていましたが、今節は試合が噛み合っておりチャンスも無いわけでは無いということで、整った盤面を自ら崩して点を取りに行くという決断が難しかったのかもしれません。なかなか試合を変えることが出来ないまま、試合はスコアレスドローとなりました。

 

大槻監督の大きな功績と新しい体制

これにて、大槻監督は公式戦4勝2分けの負けなしで完璧に自らの責任を果たし、正式に新監督に就任するオズワルド・オリヴェイラへの引き継ぎを完遂しました。彼のチームを立て直した手腕は本物であり、自らの攻撃コンセプトは期間が短い中でなかなか出せなかったものの、守備面の整理と相手の弱点を突く戦略的な試合への準備、選手のモチベーティングに置いて傑出した能力を見せつけました。試合後に密やかにピッチを去る大槻監督へ、サポーターから感謝の拍手が暖かく降り注いだのが印象的でした。

今後、オリヴェイラ体制ではヘッドコーチとしてトップチームに残るようですが、クラブとしてはこれだけの仕事が出来ることを示した大槻監督を手元に置いておきたいということでの決断かもしれません。ユースの選手たちは割りを食う形になってしまいますが、プロクラブとしてトップチーム人事は最優先事項。大槻さんが将来正式に監督業を目指しているのであれば、彼は自らのパフォーマンスで3冠監督の右腕として学ぶ機会を得たのかもしれません。個人的にはオリヴェイラが今のJリーグの各クラブの戦力や特徴をすぐに把握することは不可能なので、戦い方の一貫性や選手の不安解消の面でもこの体制は妥当かつ最善ではないかと思います。これでユースには上野コーチが戻り、監督をやってくれればユースの不安も多少は軽減されるのではないでしょうか。

 

ミシャ札幌に思うこと

最後に、ミシャ札幌について。試合展開を見ても引き分けが妥当な試合であり、選手の能力や年俸を考えれば彼のチーム作りはポジティブに進捗していると言って良いと思いました。札幌側からすれば、駒井がいれば、とたらればも言いたくなる試合だったといえるでしょう。もっとも印象的だったのは三好に代えて兵藤を投入し、浦和の戦術に対応する采配を振るったシーン。あれはミシャの判断なのでしょうか、四方田コーチの進言なのでしょうか。浦和でのミシャはサポーターの常勝を要求するともいえるプレッシャーの前に攻撃、勝利を目指す采配に傾倒していましたが、この兵藤投入は明らかに引き分けで十分という意図が見える采配で、浦和のミシャを見てきた人間としては驚きがありました。ただ、これだけ冷静な采配が出来るとなると、ミシャは本当に有能な監督ですから、札幌にとっても素晴らしい事。おそらく札幌というクラブの立ち位置と、サポーターやフロントの雰囲気も含めて、ミシャも肩肘貼らずに身の丈に合ったチーム作りや采配が出来るのかもしれません。広島、浦和に、そしてJリーグに攻撃的3-4-2-1を浸透させた偉大な監督ですので、札幌の地で彼が気持ちよく、そして少しでも長く仕事が出来るのであれば、それは見る側にとっても幸せなことかもしれないと思いました。

 

今節はいつもよりもさらに長文にお付き合い頂きまして、ありがとうございました。