96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

ロシアに行かずとも、日本を代表する選手であることに変わりはない。 Jリーグ第15節 vsガンバ大阪 分析的感想

96です。少し記事をお休みしていましたが15連戦最終戦にして再開です。よろしくお願いいたします。

さて、W杯イヤーということで中断期間を作るための怒涛の15連戦J1デスロードもついに最終戦。浦和はパナソニック吹田スタジアムに乗り込みガンバ大阪との一戦となりました。

 

両チームスタメンとロシアオリンピック日本代表候補

両チームのスタメンは下図の通り。

f:id:reds96:20180519174203p:image

浦和控え:福島、岩波、武富、マルティノス、阿部、菊池、李

 

浦和はルヴァンカップ等中断期間を待たずに4バックに着手していたものの、今節では3バックを採用し、鹿島戦と全く同じスタメンを起用。ガンバは長澤駿とファンウィジョを並べる2トップで、ボランチマテウスというゴツい人、最終ラインにファビオというゴツい人が入っており、すでに今季3回目の対戦ですがこちらは結構人が変わっています。

さて、今節は15連戦の最終戦であると同時に、来月に控えたロシアW杯の代表候補が発表されて最初の(といってもここから中断なので最初で最後の)Jリーグの試合となりました。浦和からはもはやレギュラーと言って全く差し支えのない槙野と、後ろが3枚でも4枚でも対応でき、ボランチでの起用も考えられる遠藤航が候補に残っている一方、長澤や興梠、競争の激しかったGKでは西川が落選と、それぞれの選手が安堵と悔しさという全く性質の異なるモチベーションを持って臨んだ試合となりました。ちなみにガンバからはその西川を差し置いて東口が唯一候補に残っています。

 

主導権の握り方、ガンバ大阪の場合

両チームとも下位に沈んでおりチーム状況は改善の余地ありという中で、ガンバはホームということもあり積極的に主導権を握ろうと戦っていたと思います。ガンバは前半5分に倉田を追い越した藤春がグラウンダーのクロス。ボールは少しズレたものの長澤が落とすと中央に入り込んでいた藤本が合わせます。

f:id:reds96:20180519181139j:image

シュートは逆足の右足だったこともあり力なく枠外へと飛び大事に至りませんでしたが、ガンバは今節両サイドバックに藤春と米倉が起用されたこともあり、両SBに高い位置を取らせてクロスから得点を奪うという狙いがはっきりと現れていたと思います。

また、守備においてもガンバの狙いはゴリゴリ主導権を握ること、ということで、浦和のビルドアップ対しても積極的にボールを追いかけプレッシングを敢行します。

f:id:reds96:20180519184837j:image

浦和の最終ラインのビルドアップは、基本的に3枚回しに青木を加えたビルドアップ。相手が2トップですので基本的にはここの3+1対2でボールを落ち着かせて前進していきたいところですが、ガンバは前線4枚で浦和のビルドアップを潰しにかかります。遠藤航には倉田、マウリシオに長沢駿、槙野に藤本が突撃し、バックラインをサポートする青木にはファン ウィジョがマークに付くことで浦和の選手とのマッチアップを明確にして追いかけていました。このように4on4の状態が出来るということで、その後ろのFPももちろんマッチアップが明確になるため、基本的にはこのように捕まえる人を明確にして球際勝負に持ち込み、主導権を握りたいという考えがあったものと思われます。この手法は守備戦術の定まらなかったここ最近の浦和でも頻繁に見られた手法で、単純に選手の能力に優位性がある場合は手っ取り早いやり方と言えます。15連戦で修正する時間がとれないのは苦ピー体制でも変わらないということで、このような手法を採用したのだと思います。しかしその反面、このようなマッチアップに10回勝ったら試合に勝てる方式は、マッチアップが一度剥がされると順番に最後の局面までマークがズレていき、最も重大な局面ががら空きになってしまうというのが泣き所になってしまいます。

上記のやり方で追いかけてくるガンバのプレッシングに対して、浦和の3バックはビルドアップ時に横に大きくひろがってボールを回し、青木のサポートを得つつ、ときにWBや降りてきた柏木や長澤を出口に前進を図るのが基本形で、浦和の8分のビルドアップでは、まさに上述の「ズレ」を生み出すことに成功します。

f:id:reds96:20180519191143j:image

浦和は最終ライン槙野からボールを受けるために宇賀神が降りていきます。マッチアップの原理で宇賀神には必然的に米倉がついていきますので、その裏のスペースへ柏木がフリーラン。同じく柏木を捕まえておく役割のガチャがついていきサイドに流れると、ぽっかりと空いたスペースに武藤が降りてきます。槙野からボールを受けた宇賀神が中央武藤へダイレクトパス、と同時に槙野にパスを出していたマウリシオが最終ラインから猛然と駆け上がり、武藤の落としをキャッチするとサイドに開いていた柏木へスルーパス。クロスは三浦にブロックされて最終局面までは至らなかったものの、マウリシオのランに長沢駿が反応出来なかったことからガチャがマウリシオに立ちはだかろうとしたところを柏木が裏をつく、という美しい展開。構造的にはゴール前で一枚ずつマークがズレていく完璧な前進が出来たシーンでした。このマウリシオの前進によるサポートは川崎戦で宇賀神から中央へのパスが読まれた後にも見ることが出来ましたが、鹿島戦ではなかなか見られなかったことを考えると、マウリシオ個人の判断で実施されているレベルなのかなと思いますが、マウリシオの上がったスペースのケアまで含めてチームとして仕込むことが出来ると面白いのかなと思います。まあ、4バックが標準になるとビルドアップの方法も多少変わってしまうのですが。

 

主導権の握り方、浦和レッズの場合

上記のような完璧なビルドアップはなかなか見せられなかったものの、レッズは最終ライン+青木+WBに前線からのサポートを使うことでガンバのプレッシングをかいくぐって行きます。ガンバの2トップ、特に青木を監視していたファン ウィジョは浦和の攻撃がセンターラインを超えると戻って守備せずに前線に残っていたため、浦和は一度ボールを運んでしまえば青木がボールの落ち着きどころ兼中継ポイントとして機能していました。

青木がフリーでボールを受けられることで落ち着きどころを得たことで、レッズは能動的な攻撃の組み立てが出来ていたと思います。

f:id:reds96:20180519195526j:image

浦和の攻撃の狙いが、まず第1に中央の2トップ+2シャドーへのボールの供給であることはこれまでの試合と同様です。4バックのチームにとってはこの中央の4枚に対処するためにCBとボランチを使う必要があり、中央の4on4で対応を間違うと即失点に繋がるというプレッシャーを突きつけることが出来る攻撃的な配置となっています。ガンバの守備はビルドアップへのプレッシング時と変わらず基本的には人を基準にした守備をしていたものの、両SBは押し込まれた場面では中央の攻防を気にしていたのか中央に寄っていたことが印象的です。浦和はこのせいか中央の質勝負に持ち込む場面は少なかったものの、上述の状況でフリーになることの多かった青木を起点としたサイドチェンジからチャンスを作り出すことに成功していました。このように浦和は、相手が中央の4枚を気にするのであれば両WBに高い位置を取らせることで逆サイドを攻略するという、いわば第2の狙いが機能していたと思います。

また、守備においても浦和は安定感を見せていたと同時に、ガンバに楽に試合をさせないだけの積極的な姿勢が出せていたと思います。浦和のセットの守備は5-3-2となりますが、今節非常に良かったのはガンバの攻撃のポイントとなる両SHに入る前の段階、ガンバの両SBがボールを持った場合のアプローチで、SBにボールが入った瞬間に浦和のWBが猛然とチェックに出て行き、それに連動してCBや2トップなど他の選手がポジションを調整することでサイドから簡単に前進させないように守備が出来ていました。

f:id:reds96:20180519201727j:image

ガンバは4-4-2システムでサイドにSBとSHの2枚配置している一方、、浦和は専らWBにサイドを任せており、浦和のWBがガンバのSHに(下がって)対応するような状況では浦和の守備の重心が下がり押し込まれてしまいます。すると後ろに5枚割いているだけに前線の枚数が不足しカウンターに繋げられず、守備機会や守備の時間が増えると最終ラインの一つ前の3枚のボランチがピッチの横幅を埋めきれずにスライドに遅れたところからバイタルエリアでピンチを招く…という風に悪循環が生まれてしまいます。浦和の両WBはもちろん、チーム全体としてガンバのSBへのチェックを意識出来ていた事も前半の主導権を握った要因の一つだったのではないでしょうか。

 

見応えのあったサイドアタックと演出家

大まかな試合の趨勢という意味では、上述の通りボールをある程度運んだところからボールの落ち着きどころを見つけられていた浦和が優位に試合を運んだという事で概ね良いかと思いますが、今節はそれとは別に両サイドで非常に見応えのある攻防が続きました。

浦和は前半ガンバの右SB米倉の周辺のスペースを攻略するような動きが多く、宇賀神が何度が1on1からクロスを供給するシーンを作っていました。個人的に注目したいのは宇賀神が1on1に入る前の段階なのですが、この試合では特に柏木が何度も何度もガンバの最終ラインのCBとSBの間にフリーランでアタックを繰り返していたことが印象的でした。ビルドアップが成立しボールがハーフラインを超えるあたりまで前進すると、柏木は基本的には左サイドの、流れや場合によっては右サイドのCB-SB間へのフリーランニングを繰り返していました。これによってガンバの最終ラインが押し下げられるだけでなく、CBのフォローにSBが絞りますので、必然的に大外が空き、大外に開いた宇賀神が時間と空間を得る、というシーンが繰り返し見られました。

f:id:reds96:20180519204011j:image

上述の柏木の狙いが意図的とわかるのが画像の21分のシーンで、中央で武藤がボールを収めて前を向くと、柏木は三浦と米倉の丁度中間にポジションしてボールを受ける体制を作りながら、武藤に手で宇賀神を指さします。つまり、自分がCB-SB間に位置することで米倉が寄らざるを得ないので、宇賀神が空くからそこを使えという意図を明確に表現しています。結局武藤は柏木にボールを入れてしまうのですが、柏木はダイレクトで宇賀神にボールを渡そうとします。これも米倉に引っかかりますが取り返して大外の宇賀神を使うと、宇賀神から中央の長澤へ、長澤が落としたボールに柏木が前向きに絡む形を作り出しました。

要するに柏木がやっていたことは今流行りの解釈でいくと5レーンの考え型に基づくハーフレーンの活用なのですが、その効果が非常にわかりやすいので、今節を見返す場合は是非前半の柏木をはじめとした中央の4枚の動きに注目されると良いかと思います。柏木が何故米倉からファールを受けているのかが分かれば、大外にいる宇賀神の1on1が誰の演出によるものか分かります。前半少なくとも3回は際どいクロスを供給した宇賀神の1on1の突破力も素晴らしいものでしたが、その前段でオフザボールにおいても浦和の攻撃を演出した柏木をはじめとした中央の選手のハーフレーン攻略の動きも「見応えあるサイドの攻防」の一部でした。

 

あと一歩が合わなかった両チーム

上述の通り概ね浦和は狙い通りの攻撃を作り出すことが出来ており、特に中央の4枚のフリーランから大外のWBが絡んでいく攻撃などでチャンスを作り出していました。浦和の最大の決定機は36分に宇賀神のクロスに興梠が合わせたシーンと、39分に武藤と柏木がワンツーでペナ角を攻略しクロス、こぼれ球に柏木が合わせたものの右足のシュートが枠外だったシーンでした。

f:id:reds96:20180519211646j:image

特に39分のシーンではガンバの守備は完全に押し込まれており、浦和のWB橋岡に対応するために倉田が最終ラインに吸収されており、にも関わらず武藤と柏木のコンビネーションに藤春とファビオが釣り出されて突破されあわやのクロスが入っています。浦和としてはこのあたりの時間帯で先制点を挙げることが出来れば勝ち点3にぐっと近づいたものと思うのですが、日本代表候補に選出された東口のナイスセーブもあり、最後の部分で枠内に蹴り込むことが出来ませんでした。

一方のガンバはプレッシングからボールを引っ掛けた切り替えの早さとサイドからのクロスでいくつかのチャンスを作り出しており、32分の米倉のミドル、38分のクロスからの長沢駿のヘディング、前半アディショナルタイムにはマウリシオのロストからのカウンターでのマテウスの駆け上がってのクロスなどで浦和ゴールを脅かしていました。

後半に入ってもお互いあと一歩で味方に合わないシーンが多く、一進一退のまま試合が進んでいく展開。ガンバは前半の守備時に作っていたマッチアップが壊れだしてマーキングが曖昧に、浦和も前半の守備でWBがケア出来ていたガンバのSBに行けなくなりガンバのSBが浦和の5-3-2の2トップ脇から前進しやすくなり、お互いにゴール前でプレーする機会は増えて行きますが、それと同時に15連戦の最後ということで蓄積した疲労もあったのか試合は膠着して行きました。また、今節は選手が転倒するシーンがあり、おそらく芝が濡れていてかなり滑ったのだと思いますが、踏ん張りがきかないなど細かい部分も影響したかもしれません。

浦和は70分過ぎに宇賀神に変えてマルティノスを投入、その5分後には柏木に変えて阿部を投入し、間延びしつつあったチームを引き締めるとともに両チームの疲れから出来るスペースをマルティノスに使わせるというような狙いを出していたように思います。

f:id:reds96:20180519222241p:image

お互いに間延びしていた後半半ばの時間帯は、浦和がクロスから興梠が合わせる形でいくつかのチャンスを作ったものの不発、一方のガンバも目立ったシーンを作り出せないままで、やはり連戦の最終戦ということでこの辺りは両チーム疲れが出ていたと思います。

 

ロシアに行かずとも、日本を代表する選手であることに変わりはない

試合は80分を過ぎたところから一気にガンバ側に流れが傾き、83分には左サイドのクロスから食野がフリーでスライディングシュート、85分にはエリア内で長沢が槙野ともつれ倒れるもノーファール、その直後の86分には右からのクロスに長沢が足で合わせるなど、立て続けに浦和ゴールを脅かしました。結局、今節は引き分けに終わりましたが、浦和は西川の二度のビッグセーブが無ければこの時間帯に失点していたかもしれません。

試合後、西川は東口とユニフォームを交換し、日本代表の最終候補に選ばれた同い年のライバルを笑顔で激励しました。浦和サポーターとして、西川が浦和に来て以来のクラブや代表での彼のプレーをよく理解しているだけに、彼がどれだけ悔しい思いを持っているか想像に難くないのですが、今節、15連戦の最後の10分という最も集中力が切れてしまいそうな時間帯においてもビッグセーブを連発しゴールと勝ち点を守った西川のプレーに感服するとともに、彼がロシアに行かないとしても、自らが日本を代表するGKであることを示してくれたことを嬉しく思います。

前回大会が終わってから日本代表に呼ばれ、少なくとも具体的にチャンスを与えられた選手は両チームに多く在籍します。初の選出が苦い思い出になってしまった宇賀神や、代表への思い、W杯への思いを持ち続けて来たはずの柏木、ガンバでは倉田や長沢など…。最後は疲れて試合のペースが上がらなかったこともあり、内容全てを評価出来るわけではないですが、最終候補に残らなかったという悔しさがありながらもクラブのためにプレーした両チームの選手の多くが日本を代表する選手であることは揺るがないと思います。なので、それを証明するためにも、中断明けの後半戦の巻き返しに期待するところです。

ということで15連戦みなさまお疲れさまでした。

今節もお付き合いいただきありがとうございました。

 

追伸:中断期間中の話

これにて15連戦も終了し、いよいよW杯に向けた中断に入ります。中断期間中にはこれまでのレッズの振り返りや、その他今まで下書きしてきた試合分析以外の記事を投稿する予定です。