1週間前の1stレグを0-2の完敗で折り返し、ホームに帰ってきた2ndレグでは完璧な試合運びが求められる浦和。J2からの参加ながら、完成度の高いサッカーで快進撃を見せる甲府を逆転出来るのか、という2ndレグでした。
両チームのスタメンとフォーメーション
スタメンは下記の通り。
浦和控え:福島、萩原、森脇、武富、柏木、菊池、李
浦和は菊池に代わってトゥーロンから帰国した橋岡が右SB。また李と天皇杯で肩を脱臼した長澤がスタメンから外れ、代わりに阿部ちゃんと直輝がスタメン入り。形としては4-4-2か直輝が下がり目の4-2-3-1でしょうか。
甲府は怪我の影響かJ2がW杯期間中も中断にならずにリーグ戦が続くことの影響か、金園とエデルリマがベンチ入りすらしていません。1stレグでは金園がボールをキープしたり、起点としてプレーすることで甲府のリズムが出来てしまいましたし、エデルリマも対人の強さや前への推進力など脅威となるプレーを見せていましたので、浦和としては1stレグよりも条件の良い試合となったことは確かです。1stレグと同じく3-4-2-1を採用。
勝ち上がりの条件は、甲府が2点リードですので浦和は3-0や4-1など3点差をつけての勝利が必要で、2-0では2試合合計で引き分けとなり延長戦、PK戦と続きます。それ以外は甲府の勝利ということになります。つまり浦和は攻めて点を取ることが、甲府は堅く試合を進めることが求められる試合となりました。
浦和、1stレグの反省と今節の狙い
1stレグから1週間。天皇杯を挟んでいるものの、スカウティングやゲーム分析という点においては十分な時間があったと言えます。浦和は前節、完敗と言って差し支えない0-2での敗戦を喫しており、その改善と対応策をこの試合にどう落とし込んでいるかがポイントとなります。まずは前節非常に苦労したビルドアップは、前節は長澤が興梠のサポートのために高い位置に張っていたことや、両SBとCBの距離感に問題がありましたが、今節ではSBが高い位置を取りすぎずにCBからのパスコースを確保するとともに、中央では岩波、マウリシオ、阿部、青木の4枚がボックスを作ることでパスコースを確保することで甲府のプレッシングをコントロールすることがある程度は出来ていたと思います。
さらに、2トップ(トップ下)に入った直輝が自由に上下のポジション移動をしていたことが印象的でした。後述しますが、甲府のプレッシングの作法が1stレグと異なっており、ボランチの島川が浦和の最終ラインにプレッシングをかけていてこともあり、直輝が一列降りることで中盤の数的優位が確保されるという展開になりました。
直輝が中盤でプレーすることに連動して、興梠による最終ラインの攻略も1stレグからの変化が見られました。中盤に直輝が降りると、甲府の3バックは3枚で興梠1枚を見る形になります。ここでさらに興梠も中盤に降りたりサイドに流れたりすることで甲府最終ラインから離れ、ボールがサイドに出たり中盤で浦和の選手が前を向いた瞬間に3バックの隙間、に仕掛けていくという動きを徹底していました。
反撃の狼煙、興梠の2ゴール
浦和の前節からの反省は試合の展開に大きく影響したのではないかと思います。中盤の枚数が確保されたことで甲府の中盤に対するプレッシングが機能し、小塚から阿部がボールを奪うと素早いトランジションでマルティノス→直輝→興梠とつないで興梠の鮮やかなミドルで先制。その5分後には興梠が甲府最終ラインのギャップに仕掛けて抜け出し、最後は鮮やかなループシュートを決めました。特に今節での浦和の狙いを表していたのが2点目で、浦和がやるべきことを実践したことが得点に繋がったと言って差し支えないと思います。起点となったのは岩波で、甲府陣内から高くあがったクリアボールを森と競り合い、マイボールに。こぼれ球がハーフスペースでマルティノスに入って前を向くと、小出と今津の間にできたギャップを興梠が完璧なタイミングで陥れます。マルティノスのパスは完璧な精度ではなかったものの、興梠がボールをキープすると甲府GK河田の飛び出しを見た興梠は冷静にターンからのループシュートを決めました。岩波が最終ラインの競り合いにしっかりと勝利したこと、1stレグに続いてハーフレーン、中央レーンでもプレーしていたマルティノスに前向きにボールを供給したこと、1トップに入った興梠が甲府の若い最終ラインのギャップを突いたこと、そして前半23分という、逆転を考えても完璧な時間帯。このゴールを目の当たりにした埼玉スタジアムが、あまりに予想以上の展開に驚くとともに、昨年のACLを思い出し始めていたことは想像に難くありません。
上野監督の勝負
さて、改心の出来だった1stレグの貯金をあまりにもあっさりと使い果たした甲府のゲームプランはどうだったでしょうか。甲府側の細かいコンディション事情はわかりませんが、上野監督の采配と甲府の強みと弱みからゲームプランを想像したいと思います。
甲府は1stレグでハイボールを収め続け攻撃の起点として抜群の出来だった金園が不在。ここには1stレグではシャドーとして出場していた若い森を起用しました。森は身長170cm台中盤で、スピードとキレ、攻撃での積極性に特徴を見せるタイプで、ハイボールの競り合いを引き受けていた金園とはタイプが異なります。浦和の2枚のCB、岩波とマウリシオが180cm台であることを考えると、1stレグと同じくハイボールを前線でFWが競り合い、運動量豊富な中盤がセカンドボールを拾いまくる、という戦法はなかなか描きにくなります。また、最終ラインでは1stレグでマルティノスを抑え込み、守備での強さを見せた上に得意の持ち上がりで攻撃での迫力を見せるなど絶好調だったエデルリマが不在でした。エデルリマの不在はマルティノス封じだけでなく、特にセットプレーや押し込まれてのクロス勝負に影響が大きくなります。「飛車角」とは違いますが、甲府は攻守にチームを支えていた柱を失ったような状況でした。
一方で、甲府の最大のストロングポイントである中盤のメンツは健在だったことが甲府の拠り所となりました。特にボランチの佐藤と島川は運動量豊富なチームのエンジンで、攻撃では二人が近い関係でサポートし合うことでパスコースを確保し前進、守備では島川が浦和CBへのプレッシングを担当するなど膨大な運動量でチームのダイナミズムを担保しています。上野監督としては、中盤の4枚を継続して使うことで「甲府らしさ」を担保したのだと思います。特徴的だったのは7分の下図のビルドアップでした。
このような甲府の状況の中で、上野監督は明らかに「守らない」試合を仕掛けていました。カップ戦の2ndレグで、しかも2-0でリードしている状況ですが、甲府は守ってはいけない試合でした。ラインを下げて人海戦術で守ろうにも空中戦で頼れるエデルリマはおらず、低い位置でボールを奪ってもハイボールを収めて起点になってくれる金園はいない。この状況で守れば一方的に浦和に殴られることになり、敵地で2-0を死守するのはあまりにも困難と判断したのではないでしょうか。上野監督は、森を1トップに起用し、中盤の運動量と併せて1stレグのようにプレッシングを仕掛け、攻める試合を仕掛けました。おそらく、甲府が1トップに入った森を活かす方法はただひたすらの裏抜けしかなかったはずです。1点を取られ、同点に追いついかれても上野監督は森に裏抜けを指示し続けていました。ちなみに森は最初から競り合いのタスクは重要度が低いからか、中央に留まらずサイドに流れてプレーすることも多かったです。これが小塚や堀米を1トップ気味にプレーさせる構造なのか、森の趣味なのかはよくわかりませんでしたが。
起死回生のアウェーゴールとなった得点も、構造的には甲府の戦術的根幹である二人のボランチが並び合うビルドアップと、ひたすらに繰り返されていた森の右裏抜けからのものでした。
島川、佐藤がサポートしあう事で最終ラインのビルドアップを安定化させ、この場面では右CBのビョンジュンボンが大外でフリーに。阿部がアプローチする素ぶりを見せるも、フリーの状態で裏へのロブパスを許します。これに「今日の裏抜け担当」森が反応し粘ると、こぼれ球をシザースで中に入っていた小塚が押し込んだのでした。結果的に、前半早々に2点のリードを使い果たしたのですから上野監督の攻め続ける戦術を手放しで評価することは難しいところです。ただ事実として、直後に2戦合計タイスコアに沸く埼玉スタジアムを鎮めるアウェーゴールが決まったことは、紛れも無く浦和の選手たちの士気を大きく沈めることとなりました。
紙一重に泣く
甲府の得点シーン、マウリシオが一度奪いかけたボールが脛に当たって溢れたところを森に入れ替われたのが大きな要因でした。マウリシオ自身がミスだと認めているようなので、ミスはミスなのでしょうが、甲府は狙い通りに欲しかったアウェーゴールを手に入れました。浦和は得点シーンと同様の興梠の抜け出しに加えて、上述のボックス型ビルドアップからSBが張り出してのサイド攻撃、また直輝がパスワークに絡むことでの中央突破といくつかチャンスを作り出していました。
画像のシーンが流れて得たCKが浦和にとっては勝負を分けたシーンだったかもしれません。ラストプレーとなったセットプレー、ニアに入り込んだ直輝のヘディングがクロスバーを直撃、跳ね返りをマウリシオがなんとか触りましたがこれもポスト角。ここで2点差をつけて入れば後半あと1点で勝ち抜けという状況を作れただけに、このCKが決まらなかったことはとてもとても残念でした。
もう一つ勝負を分けたシーンは後半5分、CK崩れのボールが武藤に入ったところをミドルシュートするもこれもポスト。前半最後のCKといいこのシーンといい甲府はセットプレーの対応が弱化あやふやだったので、時間帯も最高だったこのどちらかのシーンで点が決まって入れば…、たらればは尽きません。
オリヴェイラ采配…最適解はまだ見つからず
オリヴェイラからすれば、まだまだこれからだよ、というところだとは思いますが。
浦和は後半開始からマルティノスに変えて柏木を投入。前半最後の良い流れを繋いで攻め込むためには良い交代だったと思います。一方で気になったのは選手の配置で、柏木はセカンドトップ/トップ下の位置に入りました。前半この位置でプレーしていた直輝を右に移動させたのですが、この配置は良くなかったかなと思います。前半で体力があったとはいえ、パス交換と動き直しの質を見る限り興梠と直輝のプレーの感覚は非常に合っていましたし、直輝の上下動の運動量がミドルサードでの安定性を、受け手にも出し手にもなれる彼の特性がアタッキングサードに躍動感を生み出していました。そこに柏木が入ることで、彼からのパスを受けるという狙いがはっきりとしすぎてしまったかなという印象です。この2節で採用している4-4-2がオリヴェイラの基本フォーメーションだとすると、ミドルサードとアタッキングサードを行き来できる攻撃選手が鍵を握るのは間違いなく、その意味では直輝が最も輝けるポジションだと思います。ちなみに守備については前線にいると直輝も柏木もボール追いかけてないと死んでしまう病なので、どっこいどっこいかなという感じです。チームとして整理すれば多少は良くなるところだと思います。
守備面の不安はあれど、やはり柏木はボランチ(というかCH)で使う方が活きるのではないかと思います。試合後にいろいろと苦言を呈していた様ですが、要約するとミシャサッカーじゃないんだからダイレクト狙いすぎずに落ち着いて崩そうよ、ということでしたので至極真っ当というか、こういう視点はやはりゲームを作る側の選手の発言だよな、と思います。オリヴェイラは球際に強く推進力のある青木と長澤のユニットが好みの様ですが、ゲームメイクという意味で突出している彼を今後どう組み込んでいくかは楽しみです。
その後の交代は武藤に変えて李、阿部に変えて武富。李のサイド起用は、クロスに強い李がクロスを放り込むという整理されていないチームにありがちな混乱で頓挫。武富の登場とともに興梠と2トップ気味にプレーしていましたがあまり効果はありませんでした。武富は加入以来前線のいろんなポジションで使われていますが、本来の彼の性質を考えると2トップのFWで使うのが一番良いのだと思います。そうすると李とモロ被りなので、ちょっと使いづらいのですが。この2枚の交代は試合を停滞させてしまったかなという印象が強く、得点が必要な時間帯で若干残念な采配でした。オリヴェイラは度々コメントで語るように直輝の良い時を知っている監督で、今日の出来を考えても、彼の良さを活かすトップ下での起用を今後も考えていくのではないかと思います。FWにはファブリシオの加入も決まっていますので、オリヴェイラが今後前線の構成をどのようにしていくかは悩ましいところではないでしょうか。オリヴェイラのチームは攻撃面の約束事をたくさん用意するよりも、4-4-2守備を機能させることが攻撃面にもポジティブな影響を与える印象があり、守備の約束事を守れる選手が起用されていくのではないかと思います。
甲府におめでとうを。印象の良いチーム
結局、試合は2-1で終了。浦和は2ndレグでの勝利を収めたものの、アグリゲートスコアで2-3の敗退。甲府がベスト8に駒を進めることとなりました。
J2ながらベスト8進出となった甲府ですが、非常に良いチームでした。監督交代によってチームの方向性がうまく統一されたのか、選手のプレーにほぼ迷いがなかったのが印象的です。強みはなんといっても中盤の献身性と全員がプレー原則を理解している点だと思います。基本的にはパスサッカーを前提としており、ボランチの島川がすべての中心。島川をサポートするボランチの相方はこの2試合では佐藤でしたが、他の選手が起用されても島川と近い距離でお互いをサポートし合う原則は保たれるはずです。攻め手は選手起用によっていくつかのパターンがあるようですが、ジュニオール・バホスか金園が先発出来て入れば甲府は継続して強みを発揮できると思います。逆に、怪我して困るのはボランチの島川と攻守の数的優位を支え続けている両WBではないかと思いました。最終ラインは若いけれどアグレッシブな選手が起用されていて、特に真ん中の小出は今後経験を積んだらJ1でプレーするようになるのではないでしょうか。湘南とかが好きそうな選手です。
これで浦和の今季のルヴァンカップは終了してしまいましたが、この甲府がどこまでやってくれるのか、楽しみに応援したいと思っています。
それでは今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。
W杯を楽しみましょう。