こんにちは、96です。Jリーグも佳境ですね。第32節は昨年途中まで浦和を率いたミシャことミハイロトロヴィッチ監督率いる札幌との対戦です。新監督の下でも「ミシャの遺産」とも言える3バックをベースに戦うことで復調を遂げた浦和と、ミシャ初年度ながら過去最高の勝ち点を積み上げている札幌。両チームの今季2回目の対戦は、リーグ戦でのACL枠を争う上位直接対決、お互いが同じような弱点を抱えることを理解しあう2チームの対戦は、お互いの現在地を問い合うような試合になったのではないでしょうか。
両チームスタメンと思惑
両チームのスタメンは下図の通り。
浦和控え:福島、茂木、荻原、森脇、柴戸、ナバウト、李
ホームの札幌は浦和からレンタル移籍中の駒井が契約上浦和との公式戦に出場できないためベンチ外。またエース・ジェイが累積警告で出場停止。先日、野々村社長がフットボール批評でのインタビューで「行けるなら行きたい」と断言していたACLを賭けた上位対決で、主力二人を使えないのはミシャにとっては大きなハンデとなったものと思われます。また、深井も怪我?でベンチ外となっており、ボランチのコンビは兵藤と荒野が務める形。ミシャは自らの代名詞とも言えるミシャ式3-4-2-1の大枠を外すことは滅多になく、今節も基本的にはいつも通りの札幌を浦和にぶつけようというマインドセットでこの試合に臨んだものと想像します。
一方の浦和は、前節を腿裏の張りで欠場した青木が間に合わず、前節同様阿部がアンカーに。またこれまでu19代表の活動でチームを離脱していた橋岡が先発復帰。森脇に変わって右WBに入りました。これをどう考えるかですが、個人的には戦術的な理由で橋岡を起用したのかなという印象です。札幌の攻撃の起点はやはり左CBの福森で、彼からのパスがチャンスメイクの起点になり得る。またWB菅は運動量が豊富でマッチアップする選手も必然的に激しい上下動を強いられる。この札幌の左サイド=浦和の右サイドに森脇を置いて浦和も攻撃の起点を作れば、おそらくお互いの攻撃の起点が同サイドに偏ることで試合の出入りが激しくなり、安定したゲーム運びが出来なくなることをオリヴェイラが嫌ったのかなという風に考えています。前半戦の埼スタでの試合でも札幌の左WB菅と浦和の右WB橋岡はマッチアップしており、橋岡は菅をほぼ完封していたこともあって、リアリストのオリヴェイラとしてはまずは硬い采配で入っていくという意図があっても不思議ではありません。
浦和は新監督にオリヴェイラを迎えてからも、予想外にも?3バックを継続しており、守備時5バックになる形は札幌と同じです。ということで両チームほぼミラーゲームのようにマークがはっきりした試合になります。
黄色の線が基本的なマッチアップ関係です。浦和側は割とはっきりしたマッチアップを組んでいました。もちろん札幌のポジションチェンジ等で多少入れ替わることはありますが、基本的にはこの形。特殊なのは阿部で、黄色の丸が阿部のケアゾーンですが、札幌の1トップ2シャドーと浦和の最終ラインが同数でマッチアップするため、余ってサポートする役割を果たしていたように思います。またこれは浦和のビルドアップでは3on3の逃げ場としても機能するので、攻守のバランシングとスペースケアを最大の武器とする阿部にとっては最適なポジションと役割だったように思います。他方札幌側は、荒野と進藤の2選手が柏木に繋がっています。柏木が中盤で受ける動きには荒野と進藤が両方出て行くようなシーンが多く見られ、もしかすると柏木には2枚のうちどちらかが当たることで絶対にフリーにしないように、という指令が出ていたかもしれません。もしくは、進藤が柏木を見て、荒野が余る形をとっていたかもしれませんが、流動的だったのではっきりとはわからず。札幌のボランチは左右入れ替わることもしょっちゅうなので、あくまで基本マッチアップということで参考程度にご理解ください。ミシャは浦和時代、「基本的に相手チームは関係ない。いつも自分たちのサッカーを表現できるかが大事。」という趣旨のコメントを一貫して残してきましたが、実際はそれなりに相手への対策を準備していたりします。特に相手のレジスタ的な選手、パスの出所になる選手にしっかりアタックに行かせるような整理をしていることが多いので、その整理でいけば柏木への二重監視は論理的かなとも思えます。ま、対策といっても本当に「それなり」なので、外されちゃったら終わりなんですが。
というわけで、局面局面でマッチアップのはっきりする「ほぼミラーゲーム」となった今節。もちろん両チームともこの基本構造は想定済みということで、お互いに欲しいものはただ一つ、先制点となります。
絶対にやってはいけないこと
どんな試合でも先制点は大事ですが、個人的にはミラーゲームにおけるそれは殊更大きな意味を持つような気がしています。ミラーゲームはお互いが得点を目指し合う状況においてはピッチの各所でマッチアップが発生し、互いの喉元に牙を突きつけ合うような激しいバトルが見られます。1on1で誰かが負ければ基本的には後ろは数的同数。トランジションで対応を間違えれば得点のチャンスも失点のピンチも紙一重です。しかし、どちらかがリードを奪い、自軍に撤退して相手を待ち構えるようになると、途端にゲームはリズムを失います。これはお互いに基本構造が同じゆえに、片方に撤退されてしまうと攻撃側が守備ブロックの隙間を使いにくく、相手を動かしにくいことが一つ原因としてあるのではないかと思います。従って、先制点は簡単に与えてはいけません。例えば、前半の5分には。
札幌のビルドアップ構造から整理していきます。札幌のビルドアップは、ミシャがレッズを率いていた頃のものと同じく、両サイドのWBが高い位置をとって5トップ化する形からスタートします。
で、浦和ではその後、4-1-5と称されるようにボランチの一枚が最終ラインに降りることで両サイドのCBを開かせ、擬似的な4バックを作り、中央に一人だけ残るボランチを経て前線にボールが入ればコンビネーションで…というふうに攻撃を展開していきました。札幌でも基本構造は同じで、福森と進藤は早い段階で両サイドに張り出し、SB化します。札幌も4-1-5を基本に構成していると思うのですが、狙ってか狙わずか、ボランチが2枚とも最終ラインに落ちてボールを受け取りに行く、ボランチの2枚落ちが頻繁に発生します。
さらに面白いのが宮澤の動きで、ボランチの2枚落ちに加えて宮澤が一列上がり、ボランチのように振る舞うことも度々見られました。もともとボランチ・トップ下の選手ですし、最終ラインに留まるよりも上下のポジションチェンジをした方が良さが生きるということなのかもしれません。普段の札幌を見てないのでいつもこの形なのかはわからないのですが、個人的にはこのボランチの2枚落ちはある程度狙ってやっているような気がします。
このボランチの2枚落ちは浦和でも一時期取り組んでいた時期があり、時々発生することがあったのですが、基本的に「その後」を準備していないと全く機能しません。ボランチが2枚落ちることで相手の守備の基準点を大きくずらし、相手のプレッシングを躱すことができる一方、中盤にいるべき選手が誰一人としていなくなるために、その後のパスコースとボールを前進させる術を準備しておかなければ相手のプレッシングを躱しても結局ボールが進まない!という本末転倒な状況を迎えてしまいます。ところが、札幌の場合は比較的スムーズに「その後」に移行し、実際にボールを前進させることが出来ていました。
ボランチ2枚落ちの「その後」は、シャドーのボランチ化です。ここからは浦和の先制シーンを同時になぞっていきますが、札幌右サイドからのスローインの流れで、ボランチの2枚落ちに加えて上述の上下のポジションチェンジで宮澤が中盤に上がっています。浦和は基本マッチアップの通り宮澤のケアに興梠が一度中盤まで下がり、また本来の位置に戻っていく場面です。赤枠が札幌のボランチの本来の仕事場です。ここに、この場面ではチャナティップ、また別の場面では三好が躊躇なく降りてきます。対する浦和は基本マッチアップに則って岩波が中盤まで上がっていってチャナティップをケアします。チャナティップからのリターンボールを最終ラインで受けた荒野は浮き玉を三好へ。しかし、いきなり悪い面がでてしまいました。これが槙野のヘディングでインターセプトされると、こぼれ球を拾ったのは柏木。素早く長澤へ繋ぐと、逆サイドの武藤へ。胸トラップで兵藤と入れ替わった武藤が勢いそのままに左足を振り抜き、開始5分で貴重な先制点をゲットしたのでした。
線がごちゃごちゃしていますが、上図が浦和が得点した場面です。まさにミシャサッカーで典型的な失点シーンという感じで、最終ラインの大きな(距離の長い)ポジションチェンジによって、3バックのうち進藤と福森は両サイドに張り出し、黄色の四角、最も危険な中央のゾーンが広大に空いており、しかも数的同数となっています。この状態でトランジションが発生すればいかに切り替えが早くてもほとんどリカバリーは不可能ですので、シュートまで持っていかれることは覚悟しなければいけません。このシーンでは長澤が前向きにボールを持った瞬間に興梠が左サイドのハーフスペースを一気に駆け抜けて裏を狙い、荒野を一瞬引きつけています。右の武藤もまた一度外側に膨らんでボールから距離をとり、長澤からのロビングを受ける瞬間に入れ替わりました。この2トップのランニングによって札幌の最終ライン(というかボランチの2枚)はそれぞれ左右にも分断され、もちろん福森の戻りも間に合わず、武藤のトラップからのがってんシュートが炸裂しています。
この失点の原因は誰にあるでしょうか。そもそも論を含めて意見はいろいろあると思いますが、ミシャサッカーのロジックでは、荒野のパスミスがあってはならなかったということになります。ミシャサッカーの最終ライン可変システムは基本的な守備位置を表した3-4-2-1から大きく持ち場を離れて攻撃することが前提であり、それ故に変形中のネガティブ・トランジションには基本的に対応できないため、これは絶対に発生させてはいけません。
札幌のミシャサッカーの現在地
ではなぜ、こんなにもリスキーな変形をしなければいけないのか?という議論になるのですが、個人的に好きな解釈は、「選手の個性を、特に攻撃面で、最大限発揮させようとするサッカー」がミシャサッカーの本質ではないか、というものです。
現在の札幌でいえば最大のストロングの一つは左CBの福森の攻撃性能、彼からの質の高いクロスということになりますが、これを発揮させるためにはDFの福森を高い位置に置く必要があります。また、その福森に時間を与えるために、まずは中央を使うことで相手ブロックを収縮させる必要があります。浦和ではこの中央収縮の役割は1トップ2シャドーへの縦パスからのコンビネーションが担っており、従って高い距離感でプレーするためにシャドーが簡単に中盤に降りることを制限している節がありました。一方で札幌では、2シャドーの機動力とドリブルスキルがそれにあたり、これを活かすために中盤にスペースを空ける必要があり、それが積極的なボランチの2枚落としに繋がっているのではないかとも思います。一方で、本来であればミシャサッカーが各ポジションに求める能力・個性を持つ選手をより多く確保したいのも本音で、特に1on1でサイドから仕掛けられるWBとゲームをコーディネートできるボランチについては、駒井の不在などこの試合にベストを用意出来なかったとは言え、今後の補強を考えているのではないかと思います。
前半5分で変形途中のロストからの失点という典型的かつ基本的なミスをおかした札幌ですが、その後は不安定さこそありながらも上記の狙いを発揮していきました。前半24分、西川のゴールキックを拾うとチャナティップを経由して兵藤→荒野とつないで持ち上がります。札幌のボランチはこのようにかなり近い距離感でプレーすることが多かったように感じますが、これが意図的なのかただ(ミシャ式的な)バランシングを考えていないのかはよくわかりませんでした。右サイドの進藤へ展開した直後が下の図です。
ここから三好が降りて槙野を躱したところから柏木、阿部もやりすごしながらバイタルを横断。岩波の飛び出しまで引きつけてから左サイドの菅を使い、菅のクロスに逆サイドから飛び込んだ進藤が合わせて同点となります。このシーンでもやはり、中盤に降りてボールを落ち着かせたチャナティップ、個人技で浦和の守備を収縮させた三好と2シャドーの機動力とスキルが重要な役割を果たしています。また最後飛び込んだのは右CBの進藤ですが、左サイドからクロスでチャンスを演出する福森とは対象的に、進藤はこうしてエリア内に飛び込んでクロスに合わせるプレーで得点を重ねており、これもまたミシャ戦術に「解放」された結果なのかなと感じます。
ということで、限られた戦力の中でも選手の個性・強みを最大化させるために浦和時代よりも大きなポジション変形(トランジション・リスク)を容認していること、相手のDFを収縮させる中央での脅威を2シャドーの機動力と個人技に依存すること、WBは突破力に物足りなさが残ること、またボランチとCBに絶対的な選手がおらずポゼッションによるピッチの支配や、変形中の軽率なパスミスをしないなど基本的な部分での改善点が見られることなどなど、ミシャ・レッズを前提とすれば道半ばといった感は否めないというのが札幌の現在地でしょうか。ですがその一方で、狙いがハマれば上述のシーンのように自分たちの形で得点ができることに加えて、何よりもジェイや駒井といった主力級を欠いても堂々と上位対決を戦っており、実際に彼らの個人能力もあってシーズンを通して上位を争うことが出来ているということそのものが、札幌の今季の前進を示しているという感じもします。今後の補強、移籍によって伸びしろは大きく変わりそうですが、浦和で言えば既にミシャ2年目の2013年くらいのイメージでしょうか。個人的には予想よりも戦術やコンセンサスの浸透は早く、伝道師として駒井を連れて行った甲斐もあったのかなという感じです。もちろんそれ以上に、札幌の選手たちの学ぶ意欲というものもあったのでしょうけども。ミシャも札幌でも長く指導できそうですしやる気も萎えていなさそう(情熱が冷めることは彼に限ってなさそうですが)なので、今後の進化には引き続き注目していきたいと思います。
勝ち越し〜前半終了まで
ということで、ずいぶん長く札幌について言及してきましたが、ここからは浦和の戦い方を中心に整理していきます。基本マッチアップを再掲しますが、浦和は基本的にはこの形を基本に人を見つつ、なるべく高い位置で追い込んでいきたいという感じでした。
しかし、札幌がボランチを2枚落とす形には結構苦しめられました。浦和としては自分たちのミシャサッカーのイメージがあるため、最終ラインにボランチが一枚落ちることで4バック化しボールを保持するだろうという前提で追うわけですが、両サイドCBはビルドアップに参加する気があるのかないのかよくわからないくらい最初から高い位置で外に開くし、ボランチが最終ラインへ逃げていくので追いかけると背後に大きなスペースを生んでしまい、そうなるとわりと簡単に一番ボールを持たせたくないはずの2シャドーにボールが入ってターンされるしということで、なんだか上手く行かないという感想になっていたようです。
強固な最終ラインがあるため崩壊とまではいかないもの、札幌の攻撃をしっかりと受け止められていたわけではなかった浦和。その意味では、同点弾を食らった後に札幌が若干落ち着いてくれたのは助かったかもしれません。前半30分を過ぎていましたので、札幌としてもミラーゲームをベースに追いかけ続けるのも苦しい時間帯だったというのもあったかもしれません。前半30分に宇賀神のクロスを武藤が合わせて勝ち越し。この得点はTwitterでも言及したのですが、ウガの特徴的な相手から遠ざかる突破が効いた得点でした。
ウガの、1on1で縦に仕掛けるときにあえて外に膨らむことでマークを外してクロスを入れるプレー、誰か名前つけて。
— 96 (@urawareds96) November 10, 2018
これですね。
— おけん (@inunookensan) November 10, 2018
96さんが言っていたウガが縦に抜くときに外に膨らんで相手との距離を取ってクロスをあげやすくしている技術というのは。(浦和のサイドのプレイヤーで確かにクロスが相手に引っ掛かる回数少ない気がする) https://t.co/PywdqbMG23
札幌は前からハメていけなくなったために撤退守備をしていた時間帯でしたが、5バックが並んでいるだけの状態でサイドにボールにプレッシャーがかかっておらず、少し油断というか、注意できていなかった感じだったでしょうか。5バックでもサイドにボールが出ればWBがしっかりボールに詰めて残りは4枚でエリアを固めるスライドは必要だと思いますが、そこまで手が回っていないのか、集中力の問題か。結果的にはこれが決勝点になるわけですから、これで勝ち点3を失うには安い失点だったと言わざるを得ません。
浦和は、勝ち越し後に改めてプレッシングを強めます。35分前後に槙野が都倉と競り合って倒れこむ場面、給水を兼ねてベンチ前に中盤の選手が集まったタイミングで指示があったのだと思いますが、札幌の2ボランチが降りていく動きにIHの長澤と柏木がはっきりとついていき、その背後は阿部が高めの位置でスペースを消す、というような守備を試していました。実際これは機能していて、36分に2回のカウンター、37分にも奪ったところから素早い攻撃で柏木のクロスという場面を作っています。勝負師オリヴェイラですから、ここで一気に3点目をとって試合を終わらせたかったのでしょう。しかしスコアは動かず、1-2のまま後半へ。
撤退の一長一短:試行錯誤する浦和
後半に入るにあたり、札幌は兵藤に変えてキムミンテを投入。宮澤をボランチに一列あげて、おそらくキムミンテは興梠を潰すマンとしての投入だったでしょうか。キムミンテはファーストプレーで興梠を潰してしっかりゴール前でFKを献上していました。浦和も若干の変化を加え、柏木が右シャドー、武藤が左シャドーの3-4-2-1、というか重要だったのはおそらく守備時の5-4-1でしたが、とにかく少し形を変更しました。
浦和のこの変更は、前半うまく捕まえきれなかったボランチの2枚落ちと、それによって札幌が狙っている2シャドーのプレーエリア確保への対応だったのかなと想像します。後半の浦和の守備は基本的に5-4-1撤退守備で、札幌の最終ラインでのビルドアップへのプレッシャーを放棄する代わりに、2シャドーがプレーする中央エリア、バイタルエリアを2ボランチで制限するような守り方をしていました。
前半部分で言及した通りですが、2シャドーが落ちる際には浦和のCBは基本的に中盤まで付いていきます。それでもターンされたり収められたりと、機動力とスキルを武器に戦う札幌の2シャドーにはなかなか手を焼いていましたので、さらに降りてくるエリアに2ボランチを置いておくことで札幌の変形のキモとなるシャドーを完全に沈黙させようという作戦だったと思います。
この作戦は論理的に正しい作戦だったと思います。上図にも赤い矢印がいっぱいありますが、ボランチの2枚落ち、シャドーのボランチ化を軸にして札幌の選手は大幅にポジションを入れ替えながら攻めてきます。しかしどれもこれも結局は中央で起点になる2シャドーがボールを収めてこその話なので、そこを潰すというのは非常に正しい選択なわけです。一方で浦和はこの代償として最前線の守備、第1プレッシャーラインが興梠のみになりますので、札幌の最終ラインにはほとんどプレッシャーがかからなくなりました。それを見た荒野がドリブルで持ち上がって中盤に進出するなど、結果として後半浦和は押し込まれ続けるわけですが、それでも2シャドーを消したいというオリヴェイラの判断は十分理解できるところです。
しかし、これらは守備だけを考えてのこと。浦和は3-4-2-1の完全ミラーゲームとしたことで、逆に自分たちのビルドアップにおいても札幌に捕まりやすくなってしまったようでした。ホームでビハインドの札幌はバチっとミラーゲームとなったことで自分のマークを捕まえやすくなり、しかも浦和の守備が押し込まれたことから浦和のポジティブ・トランジションの位置が低くなったこともあって、浦和はビルドアップで苦労することとなりました。50分、53分に攻撃が詰まったところからチャナティップ、55分には橋岡のミスから都倉のクロス、57分にも縦パスが詰まってチャナティップと、3-4-2-1にすることで2シャドーを抑えたかったはずが、自分たちの攻撃のミスからの被カウンターで結局2シャドーに躍動されるというよくわからない展開になってしまいました。ならばと59分には前から追っていくそぶりを見せますが、ミラーゲームで前から追えばその分後ろは数的同数になるわけで、チャナティップにワンタッチでサイドの裏に展開されてピンチを迎えるなど、オリヴェイラの采配にしては珍しく混乱が続きました。
60分以降は、浦和はビルドアップをほとんど放棄し、奪ったら興梠を走らせてワンチャンいけるっしょ!wという大学生の悪ノリみたいな可能性しかないような単発攻撃を繰り出していました。それでもパサーが柏木でレシーバーが興梠だとギリギリオフサイドじゃなかったら一点ありそうな感じがするので個の質は正義とも言えるのですが…。この時間帯、できれば岩波にマウリシオや阿部が絡んで右サイドでボールを保持してもらって少しでも落ち着く時間が作れたらなあと思いましたが、やはり森脇と橋岡では明らかにビルドアップの気の利き方が違いますし、リスクを追うよりは蹴っ飛ばすという感じで岩波も割り切っていたので、さすがに求め過ぎでしょうか。2シャドーを中心に人数をかけて攻めて来る札幌に対して、浦和はエリア内での人海戦術でなんとかボールを掻き出すというような、なかなか苦しい時間帯でした。
72分に阿部に替えて柴戸を投入。阿部の体力的な部分と、柴戸に明確な役割を与えて守備の整理を図る交代と思います。クローザーとしての地位を固めつつある柴戸ですが、今日の役割は非常にはっきりしており、簡単に言えばチャナティップ番という感じでした。札幌の攻撃は2シャドーを中心にハマれば怖さがあるもののバリエーションは多くないため、さすがに攻め疲れの気配もあったチャナティップ(と時々三好)をフレッシュな柴戸がしっかりとケアすることで、これ以降はようやく状況が改善され、試合が落ち着いたという印象です。
ただし、柴戸の評価自体は少し難しいかなと思いました。チャナティップ番というタスクはしっかりとこなしていましたが、中盤で三好に躱された場面や都倉へのファールなど、まだプレースピードに慣れきっていないのかなという気もします。また攻撃面でも、ルヴァンカップ予選でのプレーを見る限りオンザボールの質など本来持っているものを出しているとは思えず、遠慮と逡巡を感じるプレーもありますので、やはりもう少しプレータイムが必要だと思いました。ただ彼、イメージよりも身長が高くて、中盤の底でもなかなか良い存在感を出せており、これからフィジカルがついてくれば青木みたいなダイナミックなボランチに成長していくのではないかと思います。
それぞれの現在地が確認できた試合
両チーム交代カードを切りつつも、試合はそのまま1-2で終了。上位対決、そしてミシャとの再会の試合となった今節は、浦和が武藤の2ゴールで勝利を収めたのでした。とはいえ、後半の浦和のチャンスといえば数えるほどしかなく、71分の興梠の左足ミドル、81分の武藤のドリブル突破、その後のコーナーに槙野が合わせたシーンくらい。各選手の個人能力の高さをベースに、札幌のミスもあって勝点3を奪い取った試合でしたが、内容としてはここまで押し込まれて守備をさせられたのは川崎戦以来ではないかと思います。さまざまな要因が絡みますが、押し込まれる中でも自分たちの時間を作るとか、カウンター一発を実現する策を用意するとか、勝ったものの今後に向けた課題が出た試合となりました。
札幌は前半で言及した通り、道半ばながらもミシャ・レッズとは違う形のギミックを用意し、個人能力で勝る浦和を相手に攻撃的に戦い抜いたことは評価されるべき部分でしょう。一方で絶対にやってはいけないミスと軽い守備であっさりと2失点してしまい、その後は押し込むものの決め手を欠いて敗北するというあまりにもミシャらしい敗戦だったことも事実なのですが。リーグ上位を争うクラブとしての実力は示したものの、アジアの舞台にはもう一歩二歩のバージョンアップが必要になって来ると思います。また、2シャドーは現在の札幌のミシャサッカーのキモになっており、彼らが退団することとなれば来年は抜本的に攻撃を再構築することになるかもしれません。三好は川崎へのレンタルバックが十分あり得ますし、チャナティップは今季後半のパフォーマンスを観ていると本格的に助っ人級のレベルになってきている感じがするので、札幌はすでにプロテクト済み?のようですが、欧州や国内クラブからのオファーがあっても不思議ではないと思います。その意味では、このオフシーズンにクラブがどれだけミシャに戦力を確保できるかどうかが札幌にとっての非常に大きなポイントとなりそうです。
今期のミシャとの対戦は1勝1分と、浦和としてはまずまず望み通りの結果を得られたと言って差し支えないかと思います。それぞれの現在地が見えた今節、今季の戦いを経て、今後も両チームが伸びていければ素晴らしいですね。とにもかくにも、これで勝ち点を48として、他力本願ながらもリーグ3位への可能性を維持することが出来ました。
残りは2試合、このまま勝ち切って天皇杯に勢いを繋げ、ACLストレートインを勝ち取りたいところです。次節はルヴァンカップを制したものの残留争いに苦しむ湘南戦。J1屈指のインテンシティを誇る湘南相手に、今節4枚目のイエローカードを受けて次節出場停止となる柏木の穴をどう埋めるのか。次節も楽しみたいと思います。
今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。