96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

「型」と「攻略」、構造的な矛盾と舞台の差  Jリーグ第18節 vsベガルタ仙台 分析的感想

遅くなりましたが、書きました。この試合のレビューはいろんな人が書いているので、なるべく他と被らないような視点で書いたつもりですが、それが面白さに貢献していると良いのですが。

 

スタメンとかみ合わせ

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浦和側控え;福島、鈴木、山中、マルティノス、阿部、ファブリシオ、杉本

浦和は前線の形がどうあれ3バックであることは間違いないので、それを見越して仙台がどうするのかが今節のポイントだったと思います。4-4-2で結果が出ている仙台ですが、一般的に考えれば噛み合わせ上3バックでのビルドアップやWBのポジショニングに苦労する可能性あるのが理由です。ただ仙台は前節札幌戦で3バックを使う相手に勝利しており、戦い方のイメージはしやすかったかもしれません。

一方の浦和側は、前任のオリヴェイラ体制から継続しているボール保持場面、特に相手を押し込んでからの攻撃の形をどのように表現できるのかがポイントでした。大槻体制下で試合を重ねるにつれて徐々に改善の傾向が伺えるものの、「これが特徴だ」と言える形はまだサポーターに広く認知されるまでには至っていないかもしれません。また、ボール非保持の場面においては仙台の攻撃の形にどう対応するかがこの試合のポイントだったかなと思います。仙台は攻撃時にSHが中央に入るなど、レーンを意識した攻撃を持っていますので、受け渡しに失敗したりディフェンスラインをずらされたりすると浦和の失点パターンに持ち込まれてしまう可能性がありました。

 

意図を持ってゲームに臨んだ両チーム(1)

今節は序盤から両チームの戦術的な狙いの断片が良く見える試合だったと思います。

試合の立ち上がり、仙台はキックオフのボールを浦和陣地の左サイド奥へ蹴ってスタートします。直後から浦和の最終ライン3枚のボール保持を2トップと浦和のCBが余ったサイドのSHが追いかけるプレッシング。ボールサイドから順に2トップが仕掛け、逆サイドの3枚目にSHを使う形に加えて、SHの道渕がスイッチ役となり、それに2トップが反応する形も多くみられていました。結局後から考えると、この仙台のプレッシングが今節のゲーム展開に大きな影響を与える要素だったのではないかと思います。

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仙台のプレッシングについては追って深堀していくとして、浦和の立ち上がりについて確認しておきます。浦和はスタート直後から仙台のプレッシングを受けたわけですが、そこまで慌てているようには見えませんでした。たしかにタイミングがハマると数的同数で蓋をされてしまうのですが、おそらく仙台がプレッシングを仕掛けてくることは事前にスカウティング済みだったのでしょう。

序盤の浦和は、仙台のプレッシングへの対処に加えて、仙台のボール非保持時の挙動を確認していたように思います。2分の槙野、5分のマウリシオ、6分のエヴェルトンと序盤の6分間で3回、仙台の左SBである永戸の背中に橋岡が走りこむ形を試しています。残念ながらどれも良いボールではなく攻撃の形にはならなかったのですが、この試みによって、仙台が守備時に4バックの横幅を狭くしており、大外の対応にはSH(この場合は関口)を最終ラインに降ろして対応することを浦和は確認できました。浦和はこれを確認しつつ、特に空中戦に強みのある浦和の右サイド=仙台の左サイドでは、関口が5バックを形成するタイミングが遅れるようなら同様に永戸の裏を狙ってくという考えを持っていたのではないかと思います。

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ということで、仙台のボール非保持をまとめると、以下のような感じでしょうか。

  • 2トップは最初ボランチを見ながら、浦和の最終ラインにバックパスが入ったところでプレッシング
  • 浦和の3バックが横につなぐと、2トップとSHが順番にアタック、うまく同数ではめ込めれば中盤もフォローに入ってそのままショートカウンターを狙う。
  • 浦和のポゼッションでセットする場合、関口と道渕は浦和のWBをケアして最終ラインに入ることを厭わない。
  • SHのハードワークの恩恵を受けて、仙台の4バックはペナ幅を守り、チャンネルを空けない。CBの大まかな役割は前に出るシマオマテと、カバーリングの平岡。

 

意図を持ってゲームに臨んだ両チーム(2)

次に、仙台のボール保持の形について見ていきます。

仙台は今節でも採用した4-4-2システムを見出してから一気に良い流れを掴んだわけですが、要因は選手の質にあっているやり方が見つかったということなのかなと思います。ボール非保持での守備タスクとの兼ね合いの中で、上下動が求められるSHをボール保持でどう輝かせるかが仙台のスカッド構築のポイントであるように思いました。その点で運動量が担保できる道渕と関口の両SHは、ボール非保持時のタスクをこなしたうえで相手ゴールへの迫力を見せており、(不動のレギュラーなのかどうかわからないのですが少なくとも今節は)良いパフォーマンスを見せていたように思います。

具体的なボール保持の形は、ボール保持では両SHがハーフスペースに入り込んで2トップ2シャドーのような形を作る2-4-2-2。両SBはいつでも前に動き出せる位置をとってはいるものの、浦和の最終ラインを広げる効果を狙っているとは言えない少し控えめな立ち位置でした。

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仙台のビルドアップはGK+2CB+サポート役として2枚のCH。CHは常に最終ラインに落ちることはせず、立ち位置を大きく動かしたり、自分のマークを意図的に引っ張ったりするような特徴的な挙動も見られませんでした。浦和のボール非保持はおなじみの5-4-1で、中央では仙台のCHと浦和のボランチが2on2なので、もしかすると少し下がり目に立つことで浦和のボランチの裏にスペースを空けておくくらいの意図はあったかもしれませんが。

というのも、特徴的なのは前線の2トップ2シャドーで、この4人がボックスを作った状態が仙台のオフェンスのスタート地点です。仙台としてはハーフスペースに立ちシャドー化するSHのプレーエリアを確保するために浦和のボランチを少しでも前に出したいという意図はあったかもしれません。このボックスへのボール供給は基本的に後ろの4枚+2CBからのロビングで、これに長沢、石原と落としが上手い2トップが中央で反応、2シャドーが前向きにボールを拾えば一気にスピードアップしてゴールに迫るか、そもそも2トップが厳しくマークされてロビングに反応できなさそうな場合は2シャドーが1.5列目からサイドの裏に走り込み前進を狙います。

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この攻め方が素晴らしいのは、2シャドーに相手ブロック内でのターンを求めなくても良いことと、2シャドーを用意しているエリアでセカンドボール争いを意図的に発生させられること、もし相手ボールになっても仙台の選手の多くが前向きに守備を始められること等でしょうか。要は2トップの特徴、2シャドーの特徴、チームとしてのリスク管理の少なくとも3つの要素において仙台にメリットがあるやり方と言えると思います。

関口も道渕も運動量がある上にアジリティとゴールへの勢いを出せる選手で、9分の道渕から石原へのスルーパスや、28分の石原の落としから道渕のシュート等、前向きにゴールに仕掛ける怖さを持っています。一方で狭いスペースでのターン一発で局面を変える選手ではないので、競り合える2トップを使って彼らに前向きにプレーする機会を提供し、シンプルにゴールに向かう中で2トップへのクロス、フィニッシュワークへと持ち込む形を明確に用意するというのが仙台の意図だったでしょうか。最後は空中戦を含めてエリア内で勝負できる2トップにクロスなりラストパスを供給する意図は変わりませんが、SBを深い位置に立たせてカウンターのリスクを無理にとることもしなくてよいという点も理にかなっています。

理想を言えばシャドーにはターンができる選手を置いて、SBにもっと明確に幅を取らせることで相手の最終ラインにチャンネルを作り、後方からのロビングだけでなくボランチやSBとの関係性で相手を動かし…と作っていきたいのかもしれませんが、上下動ができてゴールに迫れる上に間で受けてターンもできるという選手は希少ですし、ターンのために最終ラインのサポートを削るという選択肢を取らなかったとも考えられます。降格がちらついていた中で見出した苦肉の戦術なのかもしれませんが、「やり方」で選手の特性を最大化し、コストパフォーマンス高く手持ちのカードを使う戦術は個人的には好印象でした。

 

意図を持ってゲームに臨んだ両チーム(3)

このような仙台の攻撃の形に、浦和はどう対応していたでしょうか。最も面白かったのは、WBの運用です。仙台の2トップ2シャドーに対して、浦和は3バックで2トップを監視し、2シャドーはWBが絞って監視する形をとっていました。

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DAZNの解説で戸田さんが指摘していた通り、仙台のSHが中に絞るシャドーの立ち位置は浦和の守備の泣き所になり得ます。5-4-1で守る場合は2列目のシャドーの守備意識と果たす役割が守備ブロックの生命線の一つとなっており、ここから順番にポジションをずらされると3バックの脇かバイタルエリアのどちらかまたは両方、さらに言えばバイタルのケアに3バックが飛び出すことでできた最終ラインのギャップ―などと致命傷になり得るスペースが開いてしまいます。上述の通り仙台の2枚のCHに対して浦和の2ボランチがマッチアップする形なので、シャドー化する仙台のSHが浦和のボランチの脇に立ったり、その背後でスペースを使おうとする動きをすれば浦和のボランチはどうしても気になります。これを嫌ってボランチがポジションを下げたり、シャドー化する仙台のSHの面倒を見れば今度は仙台のCHが自由を得てゲームを支配されるうえにカウンターの迫力がなくなる…と浦和にとっては痛し痒し。そこで最初の立ち位置ではWBを絞らせてシャドー化するSHについていかせるような考え方だったのかなあと想像します。このやり方ならもともとのマッチアップを変える必要もないし、中央の3バックは仙台の2トップに数的優位を維持して対応できることになり、5バックの強みである迎撃守備の前提を維持することもできます。ある意味基本的な対応だったのかもしれませんが、こちらも理にかなったやり方だったと思います。

そう考えると、やはり仙台はSBをもう少し高い位置に置く運用ができればもっと面白かったかもしれないと考えたくなりますが、そうすると最終ラインから最前線まで上下動するSH・SBの役割が重すぎるし、せっかくSHを下げてまで固めている最終ラインと守備ブロックに影響が出ればゲームプランの前提に亀裂が及びかねません。仙台時代にコーチとして同僚であった両監督の今節への準備勝負は、長年の試行錯誤をベースに合理的な戦い方を整理した渡邊監督と、積み上げでは及ばないものの仙台をしっかりと分析して対策を用意した大槻監督といった様相だったかもしれません。

ということで、15分以降は仙台の順番プレッシングも落ち着きを見せ、ゲームは膠着気味になっていきます。どちらかというと浦和がボールを保持する展開が多かった印象ですが、仙台も時折2トップ2シャドーが浦和ゴールに迫る場面を見せました。

 

先制点について

 試合は、41分に浦和が先制。ハーフラインを超えないところで浦和がボール保持している場面で、5バックに入る位置から関口が岩波へプレッシング。これを受けて永戸が橋岡のケアに外へ、同じずれ方で平岡が武藤の対応に出ます。岩波が縦パスで中央の武藤を使うと、スーパーターンがさく裂し平岡だけでなく挟みにきた椎橋も躱し、シマオマテを引き出すと、抜け出した興梠へパスが通る。最後は興梠が完璧なループでシュミットの頭上に虹をかけ、クラブ歴代トップの公式戦92点目となる先制点。

このゴールシーンの解説は戸田さんが直々にYoutubeにアップして濃ゆーく語ってくれていますのでそれでもう十分かなという感じですが、個人的な感想を書き残しておきます。

戸田さんは動画では、関口があのタイミングでプレスに出る必要があったか?という疑問を前提にした上で、関口のプレスに出ていく角度が悪かったために中央のコースがわずかに空いており、パスのうまい岩波がそこを逃さずに武藤に付けて、武藤のターンで勝負あり、また後ろは、その角度の悪さを見て、その瞬間に外をあきらめて中に絞るべきだったし、ボランチももっとスライドして中央を締めておくべきだった(意訳)と解説されていました。

解説されていることは全部論理的に理解できるんですが、正直その判断ってめっちゃレベル高いなあと正直思います。そもそも構造上関口があそこに出ていく役割があること自体がちょっとキツいというか、関口の判断の悪さを招くような役割の重さは、あれで良かったのかなあという気がします。やっぱり戸田さんが暗に前提にされている通り、あそこで出ていく必要なかったよね、というのが感想です。

これまで見てきた通り、仙台の守備は2トップ+SHによる浦和の3バックへの同数プレッシングと、SHが時に最終ラインまで戻って守備をすることでSBをペナ幅にしまい込む5バック(時に6バック)化が基本です。ボール保持時のシャドー化も含めて仙台のSHは戦術的な重要性が高いポジションなんですが、なぜ重要性が高いかというと、仙台の二つの守備戦術の矛盾を繋いでいるのがこのポジションだからではないかと思います。だって、プレッシングのスイッチが入れば前に出て相手の最終ラインにアタックする必要のある選手が、その直後には自陣の最終ラインまで戻る必要があるのですから、これは単純に厳しいです。要は、今節の仙台のSHは根本的に役割に矛盾を抱えている状態だったので、それをカバーする機能がどこかに用意されているか、ある程度の諦めが必要だったのではないかと思います。つまり、まとめるとあの時間帯でプレッシングに行く必要なかったね、ということなのですが。

ちなみに、4分台に同様に関口が前に出た場面で永戸が反応できずに橋岡をフリーにしている場面が仙台の失点場面との比較としてよく語られていますが、これは単純に永戸の判断ミスではなく、永戸が橋岡に出ようとした瞬間に裏にアクションした武藤に引っ張られたのだと思いました。考えたら当たり前ですが、スライドやマークの受け渡しではどうしても一瞬のスキや「被り」が生まれるわけで、その瞬間に相手が良いアクションをすると守備組織の綻びにつながります。相手の大外をSHに見させて4バックをペナ幅から動かさないやり方も、発想としてはスライドや受け渡しを最小化するものです。仙台で言えば関口や道渕が最終ラインに入り込むセット守備ではこの考え方ですが、一方で浦和の最終ラインにアタックする順番プレッシングでは全体のスライドとマークの受け渡しが重要になります。先ほどSHの戦術的負担と書きましたが、SH個人の戦術的負担に加えて、プレッシングに出る際は3ヵ所以上の受け渡しが発生するはずなので、なるべくスライド・マークの受け渡しをしないようにしているセット守備から、スライド・受け渡しなしではどうしようもないプレッシングへの移行は、守備組織全体の隙が大きくなるというのもデメリットですね。

また、仙台のセット守備の構造を紐解くと、戸田さんが言及するようにシマオマテの前への強さを活かした4バックが根本にあるように思いますが、同時にカバーリングマネージャーとしての平岡の役割の重要性にも気づきます。関口が5バック化を放棄して浦和の最終ラインのプレッシングに出れば、必然的に浦和のWBを永戸が見る必要があり、永戸が監視していた武藤には平岡がつくことになりますが、この時点でカバーリングマネージャーとして仙台の守備組織の裏、致命的な弱点を隠し続けていた平岡を引き出したこと自体が浦和の勝負のポイントであったのかもしれません。もちろん、岩波を右CBで起用しセットオフェンスの起点としたのは浦和のスカッド構成(左CBの槙野を外すことは現実的に考えにくい)の事情があるからなのですが。

 

椎橋の退場と「舞台の差」について考える

試合は後半、仙台のCH、椎橋が前半の終盤に続く2枚目のイエローカードを受けて退場したことで一気に浦和のポゼッション・ゲームに傾きます。

仙台はこの退場を受けて石原を削って富田を投入。試合後に渡邉監督が語った通り、セット守備での4-4ブロックを維持する必要があったのだろうと思います。逆に言えば、5バック化、6バック化は許容するものとすれば、前半から作っていた4-4ブロックの守備にはある程度の手応えを感じていたのでしょう。

椎橋の退場は、前半終了間際に一枚目のイエローカードを受けていた状態でしたのでまあ軽率というほかないのですが、仙台のファールは全体的にアフター気味に無理にチャージして受けるものが多かった印象があり、そこにはある程度共通の理由があるのではないかと思います。

構造的な面でいえば、これまで見てきた通り仙台の使う二つの守備戦術は根底に矛盾を孕んでいます。最初にプレッシングをかけて、それがハマらなければセットして5バック、6バック化を許容するという順番であれば良いのですが、失点シーンで関口が見せたようにそのスイッチは曖昧で、一度セットした状態からプレッシングが始まる場面もたびたび見られました。この場合、仙台の両SHを筆頭に仙台の選手たちはそれまでの持ち場を離れて新しいマークを掴みに行く必要があります。この「移動時間」中にも浦和の選手たちは立ち位置を変え、パスを交換していくわけですから、スイッチのタイミングが悪ければ状況はどんどん「後追い」になっていくわけです。

しかも、仙台の選手たちは後追い状態になってもプレスをやめることができません。一度受け渡し、新しくつかみに行ったマークをまた捨ててセットディフェンスに戻る時間はありません(基本的に後追いになっている時点でプレスはいなされているため)。4バックをペナ幅に収めて中央を固めたくても、SHは浦和の最終ラインにアタックしている状態ですので難しい。仙台からすれば、この状態を個人の能力で支えられる存在がシマオマテということなんでしょう。ということで、仙台の選手は後追いでもやり切るしかありませんし、もしかすると彼らもやり切るつもりしかないのかもしれません。

飯田主審の判定の基準の善し悪しはなかなか僕には語れないのですが、試合を観ていて感じたのは、ボールへのアタックであれば多少激しいコンタクトでもOK、ボールがないところであればファールを取る、という部分は明確にあったと思います。仙台のファールが多く取られたのはボールが離れた後のチャージであったからで、逆に言えば浦和の選手たちは仙台の選手にチャージされる前にボールを逃がすことがよく出来ていたと思います。一般的に考えればボールを逃がせるのは守備側がパスコースを十分に切れていないからであり、ボール保持側の選手がそのパスコースをしっかりと認識してボールを逃がすだけの能力があるとも言えます。

浦和の選手たちに関しては、アフター気味のファールを多く受けてはいたものの、とりたててナーバスになっている印象はなく、エヴェルトンの怪我は死角からのチャージだったので別としても、プレーを見ていると仙台のチャージが来ることを認識したうえで身体や脚でボールをブロックするか、チャージを受ける前にボールを逃がせていたように見えました。つまり、浦和の選手たちには仙台のプレッシングやチャージがそれほどのプレッシャーになっていなかったということだと思います。

これについては個人的にはACLの経験が活きているのではないかと思いました。今年に限らず、2015,16,17年とアジアの強豪と戦ってきた選手たちですので、フィジカルなゲームへの耐性は出来ていると思いますし、万が一ファールが取られなかった場合のためにボールを逃がすというプレーも問題ない。何よりもプレースピードの面で余裕があったのではないかと思います。このあたりはもしかすると、これまで戦ってきた舞台の差、経験の差を良い方向に活かせたのではないかと思いました。

一方で、ボールを守り、逃がせてはいたものの、浦和が頻繁に、効果的にゴールに迫れたわけではなかったのも事実です。後追いをするしかないとしても、わざわざボールを逃がされているのに深くチャージする必要はなかったですね。後半早々に2枚目をもらった椎橋は論外として、前半からうまく嵌めきれていないなという感覚はやっている選手たちが一番持っていたはず。4連勝の勢いか、なかなか浦和に勝てていないというのがプレッシャーになったのか、いずれにしろ仙台はコントロールを失っていたように思いました。

 

「型」と「攻略」:大槻レッズのサッカーについて

ということで、後半は一枚少ない仙台にほとんどそれらしいプレーをさせず、浦和が勝ち切った試合となりました。2点目が取れなかったというのは無視できない事実なのですが、杉本にいくつか惜しいシーンが作れたりしていたので悪くはないと思います。仙台は一人減っても4-4ブロックという名の5バック化を続けていましたし、途中で武藤が下がったことで、間受けでブロックを攻略できる人材がいなくなってしまったというのもあると思います。

今シーズンの浦和はボール保持でセットした状況からの打開の形がなかなか見えづらいのですが、何試合か見ていると、それぞれの試合で少しずつ狙いが違うことがわかります。例えば鳥栖戦はWBを少し高めに出して鳥栖の4バックの外で起点を作り、そこから中央を使っていく攻撃を狙っているように見えましたし、ACL蔚山戦では山中と宇賀神のファーへのクロス爆撃、大分戦では正直あまり形は見えませんでしたが、この試合でも仙台の形を逆手に取った攻め筋を用意しているように見えました。

わかりやすいところで言うと橋岡が仙台の左SB永戸の裏に走り込み、対角クロスで勝負する形。これはおそらく橋岡のヘディングでの折り返しで仙台の2枚のCBの視野を外して最終的に中で合わせるというところまでがセットだったと思います。次に、ここにスカウティング通り関口が下りて5バックを作ると確認した後は、関口が本来立つべき4-4ブロックの左SHのスペースに岩波を上げてビルドアップの起点にする形。天皇杯流経大戦からの選手起用の考え方はわかりませんが、鈴木大輔ではなく岩波を起用したのはここまで予測出来ていてのことだと思います。

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仙台は時々、あまりにも岩波がフリーの場合には2トップのどちらかがこのポジションまで降りて岩波をケアしていましたが、基本的には岩波には十分な時間とスペースがある状態で視野を確保できていました。彼のサイドチェンジでの展開からの宇賀神の勝負や、シャドーへの縦パスが今節の浦和の組み立ての肝だったように思います。このように大槻監督は、対戦相手の特徴と戦術を分析したうえで、試合ごとに狙いを変えて、それに合う選手を起用する形でゲームを設計しているようです。これは裏を返せば、試合を超えてシーズンの単位で準備する「型」があまり見えないということでもありますが、大槻監督の用意する戦術の前提となる相手の仕組みを理解していなければ浦和の狙いは十分に解釈できないよ、ということなのかもしれません。

一方で今節なかなかうまくいかなかったのは、岩波がオープンになった後の展開だったでしょうか。前半の早い時間でエヴェルトンが負傷退場してしまったことで、浦和はシャドーで先発していた長澤をボランチに落としてファブリシオを投入しています。大槻監督も試合後に言及していましたが、これによって長澤をシャドーにおいてやらせたかったこと、エヴェルトンに期待していたこと、つまり大槻監督の用意してきたボール保持でのプランが発揮されきる前に状況が変わってしまったのは残念でした。

ちなみに、ファブリシオが入った後の浦和は、少し狙いどころがファジーになってしまったように思います。一般的に考えれば、試合前のプランではファブリシオの投入は後半の予定だったと思いますので、噛み合わせや「やり方」に対策を被せ合い戦術戦となりやすい前半のデザインはファブリシオまで仕込めていなかったのかもしれません。基本的にはファブリシオはボール保持の局面では低い位置まで降りてボールを引き出し、ボールがサイドから前進すればエリア内に入っていくという動きでした。ここで1トップの興梠と狙っているエリアが被ることが多くなってしまいクロスへの準備という意味で少しもったいなく見えたことと、ファブリシオが下りるタイミングが早いためにサイドに起点ができた場面で使いたいスペースに走りこむ枚数が足りなくなるというような現象が多く見られたことは少々残念でした。このあたりがボール保持でセットしてからの閉塞感につながってしまったかなという印象で、短絡的に言えばファブリシオは2トップの動きをしており、シャドーで求められる役割に対応しきってはいないように感じます。それでも高い決定力とパンチ力のあるシュートで局面を変えてくれる選手なので、そのあたりは個人の能力と戦術理解のすり合わせがトレーニングの中で必要な部分かもしれません。

ここまでの大槻監督のサッカーを見るに、やはり分析→対策が得意な監督なのだろうと思います。「レギュラーはない」と選手に言わせるほどに頻繁なスタメン変更や幅広い選手起用は、おそらくかなりの部分戦術的意図があってのものだと思います。中でどのように話しているのかはわかりませんが、それを「競争」という言葉で隠しながら選手のモチベーションに変える手法もさすがです。まあもともと分析→対策に定評があった方ですし、選手のコメントでもそれを示唆する内容は多く出ているので、観ている方としては選手起用から浦和がどこで何をしたがっているのかを考えるのも楽しみかもしれません。

浦和がボールを保持した状態で相手にセットされてしまった時のスタック感はまだ否めませんが、セカンドボールを拾うための工夫や勝負するポイントの設計など、今回の記事では触れられなかった部分でも狙いが見えてきています。相手の特徴によっても浦和のやることが結構変わるので一貫性を示しにくいのですが、このまま進んでいけば戦術的な積み上げや選手の対応力も伸びていくのかなという印象です。

最近の浦和ではやはりミシャのサッカーを観てきた影響か、僕も独特で特徴的な戦術を探してしまうのですが、ある意味で、最近のJリーグは型ブームとも言えると思います。型の良いところはピッチ上に共通認識を作りやすいこと、練度を測りやすいことだと思います。つまり、自分たちのサッカーというものが明確に共有できるので意思統一がしやすく、また向上度合が測りやすい。一方で悪いところは、型が目的となってしまうことがあることと、そうなると型以外のやり方に怯えること、以てゲームに勝つという本質から離れてしまうことではないでしょうか。

浦和は今、特徴的な型を持っていないと思います。しかし、ゲームに勝つという本質を共有し、選手の能力と相手に合わせた対策で一試合一試合を攻略していくという戦い方も、それはそれでありだと思います。緻密に計算されていて、派手ではないけど明確な狙いが設計されているのが大槻サッカーだとすれば、選手たちが徐々にそれに呼応し、監督の狙いの表現度が上がったときには「相手を完璧に攻略する」試合を見せてくれるのかなあと期待しています。その意味では、明確な型を磨き上げて上位を走る次節マリノス戦は、型vs対策という意味で非常に興味深い試合であり、もしかしたら大槻レッズの試金石となる試合かもしれません。

 

長文にお付き合いいただきありがとうございました。