96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

交錯するスタイル:Jリーグ2020 vs鹿島アントラーズ 分析的感想

 この導入部分に書くことがいつも思いつきません。

スタメンと両チームの狙い

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スタメン

浦和のベンチメンバーは福島、マウリシオ、岩武、柴戸、関根、マルティノス、健勇。鹿島は曽ヶ端、杉岡、遠藤、荒木、レオシルバ、白崎、上田。曽ヶ端ってまだ現役でしたね、そういえば。

浦和はスタメンを前節から4枚変更。右SHに長澤を持ってくるのはある程度予想できましたが、両ボランチのターンオーバーと興梠・レオナルドの2トップは個人的には予想外でした。この試合の後は1週間空くことを考えて再開後2試合連続でフル出場だった柴戸を継続して使うかと思っていましたが、エヴェルトンと青木のコンビを起用。現在の浦和のスカッドで言うと中盤でのボールキープで信頼感のあるコンビと言えるでしょうか。最前線ではトップの片方を守備時に少し落とし、縦関係にすることがここまでの2試合でのやり方でしたが、その役割を献身的にこなしてチームに貢献していた健勇をベンチに置き、守備よりもゴール前でのクオリティの発揮を期待したい2トップを起用。

鹿島は新外国人FWのエヴェラウドがベンチ外で、伊藤が先発。レオシルバをベンチに置いてボランチコンビは永木・三竿。高卒ルーキーの染野が右SHでの出場となっています。

両チームの選手起用からお互いのゲーム設計を想像すると、鹿島は得点がとれていないこともあって前線を少しリフレッシュしたものの、やり方を大きく変えようという雰囲気はなし。一方の浦和は鹿島と4-4-2でフォーメーションが噛み合うこと、そして鹿島がかなり人についてくるディフェンスを採用していることもあって、中盤で安易にボールを失わないように、という人選でしょうか。FWの起用方針は、もしかしたらプレータイムを標準化するような感じなんでしょうか。2トップの片方が担う守備時の配置とトップ下ロールをこなす選手の重要性は浦レポでの轡田さんのプレビューでも言及されている通りで、守備時にあまり体力を使わせたくないゴールハンター二人を先発で起用するのは少し意外でした。

ゲームの構造①:鹿島のビルドアップの仕組みと大槻監督の長澤起用の意図

鹿島はザーゴ監督の下欧州的なサッカーに取り組んでいると言われていますが、今季の鹿島のオフェンスの仕組みは簡単に言えば4-4-2→3-3-2-2シフトでの前進とクロス攻撃、それに中央ではコンビネーションでのエリア内侵入が根幹と言えるのではないかと思います。

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鹿島の基本ビルドアップ

ボランチが最終ラインに入り込み両SBを押し上げ、SHは中央に入り込んで2トップ2シャドーのような感じで前線に4枚が集まるのが良く見られた配置でした。前線中央に4枚用意するので、相手が4バックだろうと3バックだろうと相手の最終ラインとは1on1の駆け引きがしやすいのが構造上の特徴です。また、大外に立つ両SBを起点にしつつ、前線の4枚のうち近い選手がボールに寄ってサポートする形もあります。それでも前線には3枚を用意できるので枚数不足は発生せず、大外からのクロスにもバイタルエリアでのパス交換にも対応できる、という設計に見えました。基本的に前4枚のうち2枚はオフザボールでラインの裏、チャンネルに抜け出ていく動きが求められており、(ボールホルダーの状態にもよりますが)なるべく複数の選手が同時に動き出して相手のディフェンスラインを崩すのが狙いかもしれません。このゲームでは時には3枚同時に同じ方向に動き出すなど連携という面では工事中の感がありましたが、質の高い4枚を揃えられる鹿島なので、ハマってくればやっかいになるでしょう。この3-3-2-2攻撃は、全く同じではないもののオリヴェイラが率いていた2018年の浦和が採用しており、大外に基点を作ってから2トップ2シャドーがスペースに入り込みながら攻撃に関わるというデザインはなんとなく見覚えのある方も多いかもしれません。浦和があまりポジションを動かさない4-4-2で戦って、鹿島がボール保持で大きく立ち位置を変えてくるという構図はこれまでのこの2チームの対戦とは真逆の構図で、なんだか不思議な感じがしましたね。

で、こうなると浦和が気になるのは大外に張り出す鹿島の両SBで、横幅を圧縮して守っていきたい浦和は逆サイドの大外が気になるうえに、深い位置まで入られてしまうと中央で鹿島の2トップ2シャドーをケアする枚数不足が起きかねません。クロス対応は今季ずっと付き合っていかなければならない課題ですから、ここにはケアが必要ということで、浦和は右SHに入った長澤が最終ラインまで落ちて守備する方法をとっていました。

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長澤が永戸対応で最終ラインに入る浦和の守備組織

こうすることでクロスが怖い鹿島の左SB永戸のケアがはっきりしますし、中央は橋岡、トーマス、岩波で固めることが出来、ファーサイド対応を山中に任せる回数を減らすことができます。左SHの汰木をあまり低い位置まで下げてしまうとポジティブトランジションでの推進力が失われてしまうため、彼はなるべく前に残すというのも理に適ったやり方だと思います。守備ブロックの基本位置は4-4-2を保っていたと思うので、スタメン発表時の長澤DF登録が5-3-2で守ることをそのまま意味したとは考えにくい(そんな決まりがあるとも思えませんし)のですが、結果的には5-3-2になることを最初から織り込んでおくことで鹿島の攻撃の仕組みに対処するという狙いだったのではないでしょうか。ちなみに、長澤が大外の永戸のケアに神経を使う分、浦和の2列目は3枚~3.5枚のような形でラインを形成しなければなりません。2トップの片方がアンカーをケアするポジショニングも今節は特に見られなかったので、なおのこと中盤のフィルターは目が粗い部分がありました。特にボランチと長澤の間にできるチャンネルをパスコースとして使われる場面が多く、例えば伊藤翔が前線から降りてきて最終ラインやボランチからの楔を引き出す、という風に使われてしまうことがありました。

ゲームの構造②:浦和のオフェンスの狙いどころと鹿島の守備組織

で、鹿島の攻撃を跳ね返せば、もちろん浦和は攻めていかなければなりません。各所で指摘されている通り鹿島の守備は基本的に前から人を捕まえるやり方で、基本フォーメーションが同じ浦和との対戦ではほとんどマンツーマンに近い構図となります。特にマッチアップが激しかったのは浦和の2列目に対する守備で、浦和のボランチがボールを持てば鹿島のボランチが飛び掛かってチャージするというシーンが多く見られたと思います。エヴェルトンと青木という大槻監督の人選は、今節はマンツーマン気味のマッチアップになるということと、鹿島のボランチの陣容を見ても浦和のボランチがあまり自由を得ることは少ないだろうという読みからのものだったと考えると自然かなと思います。

浦和のビルドアップに対する鹿島の守備はわりとオーソドックスなもので、最終ラインのボールホルダーに対して鹿島のトップは内側から外に向かってアプローチをかけることが多かったように思います。するとボールは自然に浦和のSBに流れていくので、そこで鹿島のSHがアタック。浦和のSHがサポートに下がれば、鹿島の両SBは多少遠くても高い位置までボールにチャージします。それを支える鹿島の最終ラインはなるべく高い位置を保ち、守備組織全体が前へ前へ圧力をかけてくるという形です。

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鹿島の守備組織

これに対して浦和側のセオリーは高い位置へ出ていった鹿島のSBの裏を狙うランニングと、最終ラインを高く保つ鹿島のCBの裏のスペースで2トップに勝負させるボールということになりますが、これを考えると興梠とレオナルドという2トップの人選にも納得がいくような気がします。ここ2試合での健勇は、守備時のトップ下ロールからポジティブトランジションでもシームレスにトップ下の位置でボールをキープする役割や、相手のアンカーの脇に降りてきてボールを引き出す役割など、下がり目でプレーすることで良さを発揮していたと思いますが、もしかすると大槻監督は中盤のマッチアップが激しく、降りてきてもボールを受けるスペース、落とす見方があまりいないことや、下がり目でプレーするよりも相手の裏を狙うことの優先度が高くなることを見越していたかもしれません。単純にプレータイムを平準化するためのローテーションが理由だったという考えが自然と思いつつ、相手の背後に勝負したいなら健勇よりは興梠・レオナルドだったかもしれません。まあそうすると、武藤も観たかったと思うのがサポーター心理なわけですが。

もう一つ、浦和が狙っていたのはSBの攻撃参加でした。特に左サイドでは汰木・山中のユニットでの崩しが浦和の強みですが、右サイドでも橋岡の攻撃参加は意識されていたと思います。これに対して鹿島は、マッチアップする両SHの守備での貢献が求められます。山中や橋岡が攻撃参加した際にマークをどう受け渡すのか観察していましたが、スイッチする場合とSHが自陣深くまでSBについていく場合は半々くらいでした。ただ守備でSHがサボると順番に全部崩れてしまうので、守備での役割はかなり強くインプットされていたと思います。自分たちのオフェンスでは立ち位置に変化を加えながら前進し、理論的に攻撃を構築しようとするザーゴ監督ですが、守備はわりと気合で戦う武闘派スタイルなのが面白いですね。鹿島は欧州化を狙って彼を招聘したということですが、スタイル的にはミシャに近い監督なのではないかという印象を受けました。

お互いに決め手を欠いた前半

ゲームは序盤、やや鹿島優勢でスタート。マッチアップがはっきりするので守備時に前へ前へ圧力をかけられることと、最終ラインの裏、そして特に右SBの裏を狙う浦和の攻撃を迎え撃つCB犬飼のパフォーマンスが印象的でした。いくつかファールはありましたが、スピード勝負でも負けていませんでしたしカバーする範囲も広く、最後のポイントで犬飼が潰す、消すというシーンが結構多かったと思います。

浦和はエヴェルトンが試合後にコメントしていた通りもう少しボランチにつけてから攻撃をスタートさせたかった気がしますが、CBにボールが入った局面での鹿島の2トップのプレッシャーと後ろの出足の良さ、そして裏を狙えるという事前のスカウティングもあってロングボールの選択が多くなかったかなと思います。鹿島の守備組織も同様に浦和が自分たちの裏を狙ってくることは想定内で、最終ラインの裏へ蹴られたボールを跳ね返した後のセカンドボール対応等のために、主に三竿は少し下がり目の位置で構えていることが多かったのですが、逆に言えば浦和のビルドアップに対しては永木は積極的に潰しに来るものの三竿はそこまで出てこれないということでもあったので、うまくボランチにつけてからもう一つ前へボールを運ぶことが出来れば、もう少し良い局面を作れたのではないかと思いました。

逆に鹿島はビルドアップで最終ラインを3枚にすることで浦和の2トップに対して数的優位を安定して作ることが出来ており、2トップの脇からのCBの前進であったり、大外に張ったSBへのパスから相手陣内に侵入していくビルドアップが機能していたと思います。そこから2トップ2シャドーの1枚が下がってきてボールを受け、前を向ければ残りが浦和の最終ラインと1on1で動き出し勝負を仕掛けるという狙いはよく表現できていたと思います。数えてはいませんが、鹿島のビルドアップは右から始まって左に展開する回数が多かったように思います。前半の30分以降によく見られたのは右から組み立てて伊藤翔に楔、伊藤がターンから左サイドの永戸に展開して大きく前進というパターンでした。

浦和の守備は、大外への展開をある程度捨てつつも、最後の部分で決定的な仕事をさせないという意味では設計通りに機能していたのではないかと思います。長澤は永戸に仕事をさせないためにかなり深い位置まで献身的に戻り、橋岡とのコンビで鹿島の左サイド和泉・永戸のコンビに仕事をさせていなかったと思います。鹿島は組み立ての部分ではある程度設計通りに出来ていたものの、最後の崩しの部分で浦和の最終ラインを脅かすことが出来なかったという感じでしょうか。前半35分くらいにはアラーノと染野のポジションを交換していますが、これはゴールに近い場所で染野に効果的な仕事をさせることと、左が最後のところで止められていたのでアラーノを右に出して広瀬と右での崩しを試したいという意図があったかもしれません。

実際、43分にはビルドアップからアラーノが抜け出して惜しいクロスを供給していました。ちなみに、DAZNでも戸田さんに指摘されていましたが、前線4枚の斜めのランニングに難しいボールを供給する一方で、シンプルにゴールに直結しそうなパスやクロスを上げずに繋ぐ場面が散見され、明確に目指す形がある故に鹿島らしいソリッドにゴールに向かうようなプレーが減ってしまったのかなという感じがしました。

マッチアップから激しいボール際の攻防、相手の守備組織の設計をうまく崩したところからお互いゴールに迫りますが、平たく言えばお互いに決め手を欠いて0-0で前半は終了。

 浦和の先制点から動き出す盤面

後半立ち上がり、52分に山中のFKからエヴェルトンが押し込んで浦和が先制。流れの中でうまくフィニッシュまで持ち込めない展開の中、セットプレーでゴールを決められたのは非常に大きかったと思います。このFKを奪ったのは汰木で、逆サイドから戻ってきたボールを大外で受け、詰めてきた広瀬を躱してからのドリブルが発端となりました。4-4-2同士のマッチアップ対決ですので、結局のところ局面でできる1on1を制したことが得点機会に繋がりました。素晴らしいボールを蹴りこんだ山中、冷静に折り返した岩波、バックヒールで華麗に押し込んだエヴェルトンも素晴らしかったですが、目の前の相手選手を抜き去ってゴールに向かうプレーをした汰木が基点となった先制点だったことはしっかりと記録しておきたいところです。今季の汰木はオフザボールの動き出しの速さと頻度の多さ、オンザボールでのボールスキル、ドリブルに入ったときの何かやってくれそうな姿勢...と、いよいよ「浦和の24番」らしさが出ている感じがしますね。

56分に両チーム初めての交代。この時間帯での交代は、5枚枠ルール以降どのチームもセオリーの一つとしているようです。浦和は左サイド汰木に代えて関根を、興梠に代えてトップに健勇を投入。この二つの交代カードはほぼ決まっていたものだと思いますが、結果的に先制後のこのタイミングで健勇を入れられることはトップ下ロールを考えても好都合という感じでしょうか。汰木は毎試合のことですが上下動激しくプレーしていた上に、攻撃のポイントとしてかなり厳しい球際のバトルを演じていましたので、怪我のリスクを考えてもフル出場させずに早めに交代させ、代わりに多くの試合に先発してもらうというのは納得の采配と言えるのではないかと思います。一方の鹿島は途中からトップに入っていた染野に替えて白崎を投入。ただこの時点ではお互いに選手をフレッシュにしただけで盤面やゲームの構造が大きく変わるような変化はありませんでした。

すると65分にザーゴ監督が2枚替えで盤面を動かしにかかります。ボランチの永木に代えて遠藤を投入、さらに伊藤翔に代えて上田綺世をピッチに送ります。この試合僕はスタジアムで観戦していましたが、このタイミングで大槻監督は長澤に「形が変わるからしっかり確認しよう!」という声をかけていました。その言葉の通り、鹿島は上田をワントップ、三竿をアンカーに置いた4-1-4-1にフォーメーションを変更します。通常であればここからピッチ上は少し混乱がありそうなものですが、直後に後半の飲水タイム。ここで両監督がピッチ上に浮き上がるであろう新しい盤面とゲームの構造に対して選手たちにインプットが出来るのは相当大きいと思います。バスケで言うタイムアウトといううか、ほとんど4クォーターで戦うゲームのようになりましたね。

ただ鹿島は、ゴールに迫るコンセプトはあまり変えないようで、72分のシーンのように大外でSBがボールを持ち、ボールサイドのWG、このシーンでは和泉、そして両IHの白崎とアラーノ、そしてトップの上田の4枚がゴール前に関わって行くというのが基本的な設計のようでした。配置は変わっていますが、2トップ2シャドーの4枚で崩しにかかっていた時とエッセンスは同じです。逆サイドの遠藤が大外から突っ込んでくる分、+0.5枚くらいは前線に枚数を増やせるという感じでしょうか。

このクロスボールが流れた後、大槻監督は72分にエヴェルトンに代えて柴戸を投入。相手の中盤が3枚になったこともあり、中盤の強度を担保したいという意図だったように思います。

その鹿島のビルドアップは根本的にはそれまでと変わらず、4バックからアンカーの三竿が降りて3バック形成と両SBを高く上げる配置が基本。ただ前線が2トップ2シャドーから3トップと2枚のIHに変わった分、前線の引き出しは5枚ということになります。現地で観ているとこの形は3-4-3にしたのかと感じましたが、IHがボランチのようにふるまうと丁度そのように観えたということのようです。実際には、最終ラインの3枚が安定してボールを持てる場面ではIHも前線の攻撃に関わるため、鹿島の攻撃の配置は3枚の最終ラインに2枚のワイド、そして5枚の前線...と、浦和サポーターにとっては仄かな懐かしさが香る配置となっていたようでした。

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どこかで見た気がする配置

浦和はこの時間帯さすがに疲れが出たのか、マイボールの時間を作ることがなかなかできなくなり、両サイドのクロス攻撃に晒されることになりました。相手のやることはわかっていたと思いますが、疑似3バック+両SBの5枚の大外回しに全部ついていくわけにもいかず、かといって中央は4バックに最大5枚が突っ込んでくるので下手にスライドもできず、という状態だったように思います。75分に上田がトーマスの上から惜しいヘディングを叩きましたが、結果的に鹿島が最もゴールに近づいたこのシーンに代表されるように、両サイドからのクロスに対して受け身になってしまったというのが浦和のこの時間帯でした。

79分に鹿島・ザーゴ監督がダメ押しの2枚代え。左サイドからクロスを供給し続けた永戸に代えて杉岡を、和泉に代えて荒木を投入。左サイドのユニットを入れ替えて活性化を図るという考えだったでしょうか。

すると、87分に大槻監督がリアクション。大外をかなり使われていたのでどうするかと思いましたが、レオナルド→マルティノスの交代でした。マルティノスが右WBに入る5-4-1を形成し、サイドに蓋をする配置に変更。守り切りたい場面でのマルティノスWBはなかなかエキサイティングでしたが、疲れが出ていた橋岡をフレッシュな杉岡にぶつけるよりは勝負になるという判断だったでしょうか。

これを受けて鹿島は最終ラインを3枚から2枚にして中盤を厚くし、さらにボールを握って押し込みます。ロスタイムに入るとCB町田を前線残して犬飼と三竿の2バックを明確にし、最後はなりふり構わず町田大作戦を決行したものの不発。鹿島は開幕から無得点・未勝利でクラブワースト記録を樹立、逆に浦和は開幕から負けなしで勝ち点10のリーグ2位と望外のグッドスタートを切ることとなりました。

ザーゴ監督の鹿島とは何なのか

巷では(?)なぜ鹿島が勝てないのかと話題になっていたりなっていなかったりするようですが、僕がこの試合で観た限りの鹿島は「弱いチーム」という印象はありませんでした。一方で、「鹿島らしい鹿島」でもないというのは事実です。浦和レッズファンの僕が鹿島を語るのも何かおかしい気がしますが、この鹿島は僕たちの知っている鹿島ではありません。「鹿島らしい鹿島」であることが良いことかどうかは別にして、僕なりの表現を使えば、今の鹿島はミシャサッカーを取り入れ始めたころの浦和に近いのではないかと思いました。

この試合でも見られたように、選手の立ち位置を替えながらビルドアップし、大外で起点を作ってからゴールに迫るという明確な方法論は示されています。2トップ2シャドーの選手が降りてきてボールを受け、ポイントを作ることで前線の他の選手が反応するという攻撃のシークエンスもはっきりしています。従って、ここまでゴールこそありませんが、全く手立てがなくて選手が困っているという感じもありません。一方で、前線で2トップ+2シャドー(4-1-4-1にしてからは3トップ+2シャドー)の動き出しのタイミング、攻略するエリアが選手同士で噛み合っていない様に感じることや、せっかくクロスを上げてもターゲットになる伊藤翔が楔のために中盤に降りていてゴール前に入れないこと、かと思えばゴール前で勝負できそうなタイミングでも繋いでしまうこと等、ピッチ上の選手同士の役割分担や相手を攻略するための相互理解の部分で最適解が見えていないのが、ゴールに迫れていない一因ではないかと思います。今節もゲーム開始時点ではトップで使っていたアラーノを途中から染野と交換で右サイドに出してみたり、最終的にはトップの選手を両方とも交代させたりと、前線の選手の組み合わせをいろいろと試しながら戦っていた印象です。攻撃の起点になる形を作ってから、どうやって具体的な決定機を作り出すのか、の部分で選手同士のケミストリーがなかなか出てこないというのはザーゴ監督も悩んでいるポイントなのかもしれません。

浦和も、ミシャサッカーを取り入れ始めた2012シーズンは原口元気をトップで使ってみたり、マルシオがトップに入ってみたりといろいろ苦労していました。起点になる形を構築しても最後はボールをゴールに入れなければいけないわけで、この部分でうまくフィーリングを共有できる選手の組み合わせが見えてこなければ鹿島は今後も苦労することになりそうです。逆に言えば、ゴールと言うきっかけさえあれば変わってくるのではないか、という気もします。このあたり、ミシャの場合は柏木陽介という絶対的な理解者が既にチームにいましたので、彼を基軸に練習でワンタッチの崩しを何度も反復練習するとともに、コンビネーションに対応できる選手を次々に獲得することでチームの完成度を高めていきました。鹿島の場合は当時の浦和よりも選手層は厚いと思いますが、ザーゴ監督のサッカーにおける攻撃面の最大の理解者が誰なのか、そういった存在を見出すことができるのか、それともクラブが我慢できずに解任するのか、鹿島はそういったチキンレースの最中にあるのかもしれません。

一方の浦和は、相手の攻撃をはじき返しつつセットプレーで一点を奪い切るという、ソリッドなゲームを見せてくれました。内容が素晴らしいとは決して言えないゲームでしたが、相手の戦術的な強みや攻撃の仕組みをしっかりとケアしていたこと、マークがはっきりしており強く当たってくる相手にも怯まず戦い切ったこと、最後の部分でやらせず、逆に自分たちはワンチャンスをモノにすることなど、ある意味で大槻監督の浦和らしい勝利だったと言えるかもしれません。

その意味では、両チームの選手の配置も含めて、浦和が過去の鹿島的に、鹿島がミシャの時代の浦和的に、志向するスタイルを交錯させているような印象を受けた一戦でした。

3つのコンセプトに対する個人的評価/選手個人についての雑感

というわけで、採点です。

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は、6点。今節も期待通りの仕掛けを見せてくれた汰木と山中、そして攻守にわたってかなりハードな役回りをこなした長澤の特徴が光った試合でした。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は5点。基本フォーメーションが噛み合う対決でしたので、特に浦和の攻撃面やトランジションの場面でバチバチと体をぶつけあう対戦となりましたが、全く引けをとっていなかったと思います。一方で、スカウティングが頭に入りすぎたのか、ロングボールを簡単に蹴ってしまう部分があり、試合の主導権を握るという意味では良い試合とは言えませんでした。大槻監督の志向するサッカーには、もう少し勇気をもって積極的に一枚ずつはがしていくようなポゼッションも織り込まれていると思いますので、時間はかかるでしょうが今後に引き続き期待です。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は、上記と同じような理由で控えめの採点。相手の戦術的な狙いにはしっかりと対応出来ていたと思いますが、相手を圧倒するような盤石さが見られたわけでもありませんでした。この辺りは浦和も新しくチームを作り始めたところですから、完成度の低さは仕方ないとも思っているのですが。

ちなみに今節のMOMは、あえて選ぶとすれば長澤にあげたいと思いました。大外高い位置を取る永戸に仕事をさせなかったのはもちろんですが、最初から5バックになるのではなく、あくまで最終ラインまで守備をするSHとして、かなり強度の高い上下動をこなしてくれたと思います。最初から5バックを作れば押し込まれるし、かといって橋岡を大外のケアに使えば中央のクロス対応がいっそう怪しくなるのはわかっていた中で、相手の狙い目を抑えつつ自分たちも前にプレーするという意味で攻守のバランスを支える戦術的な肝をよく務め切ってくれたと思います。

余り予想していなかった無敗でのリーグ2位に若干くすぐったくなりつつも、次節は昨シーズンの王者マリノスを粉砕したFC東京の本拠地、調布市西町に乗り込みます。

 

今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。