スタメンと両チームの狙い
前節から1週間空いての試合ということで、両チームほぼベストメンバーではないかという布陣。ただ浦和はトーマスがコンディションの問題でベンチ外。浦和のサブは福島、宇賀神、槙野、関根、エヴェルトン、マルティノス、レオナルド。FC東京は波多野、ジョアン・オマリ、中村帆髙、アルトゥール・シルバ、高萩、アダイウトン、紺野。
このゲームは戦前から各所で指摘されていた通り、守備から攻撃を仕掛けたい両チームの一戦。両監督の基本フォーメーションも同じ4-4-2ということで、単純にぶつかり合えばガチンコのマッチアップが各所で発生し、個人能力とインテンシティが勝敗を分けるゲームになることは誰もが予想できる、という性質のものでした。
これスポナビのFC東京vs浦和のレーダーチャートなんだけど、あからさまにスタイルが似てて面白い。ただその中にも特徴はあって、東京はボールを奪う守備がしたいのかタックルとインターセプトで勝り、奪ったらガンガン仕掛けていく。一方の浦和はがっちり守ってからのビルドアップ→クロス攻撃が主。 pic.twitter.com/0jqpB8syPw
— 96 (@urawareds96) 2020年7月17日
なので、ファストブレイク対決というと東京がそれをよく体現していると言える。実際浦和は再開以降ファストブレイクからのゴールがない。ただ、お互い詰まった展開なら浦和の方がこじ開ける力は少し上だと思う。どっちもボールはいらないです対決を両監督がどのように設計するかが重要なゲーム。
— 96 (@urawareds96) 2020年7月17日
とはいえ、就任3シーズン目となり昨年はリーグ2位でフィニッシュした長谷川監督率いるFC東京と、暫定時代も含めれば2度目、既に通算1年以上指導経験があるものの「自分のチーム」を作り始めたのは今季からの大槻レッズでは熟練度は比べるまでもなく、単純に言えば浦和が同じようなサッカーを志向する先輩チームに挑む、という構図とみるのが妥当なゲームだと言えるのではないかと思います。で、浦和はまだチームを構築し始めたところですので、基本的にはフォーメーションは4-4-2一択。相手のビルドアップを含めた戦術に特徴がある場合はゲームの中で選手の立ち位置を合わせる傾向があるものの、今節はガチンコ勝負を覚悟しての基本フォーメーションで臨みました。
一方のFC東京は4-3-3(もしくは4-5-1)でゲームに入りました。4-4-2よりも個人で戦える選手が必要になるフォーメーションですが、昨シーズンを2位でフィニッシュした主力に加えて今季加入した戦力を各所で活かせる形と言えるでしょうか。両監督が試合前のコメントで「局面の勝負(で負けないこと)」と言及した通り、基本フォーメーションもやりたいこともほぼ同じ、お互いの選手の個人能力が高いことも分かっている、という中で、真っ向勝負を挑んだ(というかそれしかない)大槻レッズと、少しズレを作りたかった(それだけの選択肢を持っている)長谷川監督のFC東京、という構図があったように思います。
ゲームの構造①:個の強みをベースにしたFC東京の4-3-3
結果的に、ゲーム全体のスタッツを見るとFC東京がボールポゼッション43%、浦和が57%となったゲームですが、前半に限ればそれぞれ49%、51%とほぼ互角でした。というわけで、両者がボールにこだわらなかったこの対戦は、逆に言えばお互いのボール保持の質が問われたということでもあります。
FC東京のボール保持から見ていくと、両サイドのWGは中央に絞って、永井と合わせて3人のCFのような振舞い。大外は基本的にSBが大きく開きますが、どっちかというと室屋の方が高めの位置を取っていたと思います。左の小川も攻撃面に特徴がある選手だと思いますが、このへんは年功序列というか実績の差みたいなものがあるんでしょうか。それで、肝心の中盤は基本的に逆三角形を維持し、このゲームを最後にロシア・ロストフへ移籍が決まっている橋本拳人が最終ラインと中盤を行ったり来たりしながらビルドアップを安定させ、2枚のIHは大外のSB、そして前線中央から降りてくる3トップと絡みながら前線に顔を出す、という感じに見えました。
今季ここまで浦和との対戦で4-3-3で攻めてきたチームはマリノスと仙台がありますが、この2チームはWGの基本ポジションは大外でしたのでFC東京の4-3-3とは少し趣が違います。どちらかというと3-3-2-2を作って中央に人を集めてきた前節の鹿島に近い、ボールに人数をかけながら裏を狙うという攻めに見えました。鹿島との違いは、FC東京は両サイドに入ったWG、外国人選手が攻撃のスイッチ役となっていることで、懐が非常に深く簡単にボールを失わない彼らにボールが入ったところからSBやIH、そして常に裏を狙う永井が連動してオフェンスを仕掛けます。鹿島は前線4枚の誰かにボールが入ったら、という感じだったのに対して、FC東京は「誰が」ボールを受けたら、つまり個人レベルで攻撃のスイッチが決まっているのが特徴だと思います。この二人の外国人選手のプレーエリアの広さ、自由さと相まって、これはこれで厄介なオフェンスとなります。つまり、彼らにボールが入ったところはピッチのどこであってもFC東京のオフェンスの起点となるわけです。マリノスのように使われるエリアが決まっていて、それがある程度予想できれば事前に対処を準備できますが、FC東京のオフェンスの場合、ディエゴ・オリヴェイラが現れたところ、レアンドロがボールを受けたところで対処しなければならず、マークするのがCBの時もあればSB、そしてSHが対処しなければならないときもあり、しかも簡単に1on1でボールを奪えない選手ですから、ボールをキープされて人数をかけているうちに他の選手が動き出している…という状況が頻発することになります。
これに対して、浦和も最終ラインと2列目の距離感を非常に狭くして、かなりコンパクトな守備組織を構築することでなるべくFC東京の3トップに良い形でボールを持たせないように、という守備を実践していたと思います。実際FC東京の両WGにはかなりボールをキープされ、なかなか潰すことはできませんでしたが、最後のところで守りきることはできていました。一方で、自分たちの守備組織の中でボールをキープされてしまうと、守備側が主導権を握ることはなかなか難しかったように思います。今節に限らず再開後の浦和によくみられることですが、相手のビルドアップを限定できずに守備組織全体が下がってしまい、守りきることはできているもののポジティブトランジションから素早い攻撃、今季の狙い目であるファストブレイクに移行できない、という弊害がこの試合でも出ていたと思います。
浦和のビルドアップとFC東京の堅い中央
なかなか速攻に持ち込めない浦和は、必然的にビルドアップから攻撃を組み立てることになります。浦和のビルドアップはいつも通りで、大外は汰木と橋岡、長澤がハーフレーンに入り込み、ビルドアップは山中が中央に入るのが基本。対するFC東京のセットディフェンスは並びから考えると少しいびつな形で、ディエゴオリヴェイラは下がり目で山中を監視、その代わり落ちていくボランチには東が浦和の最終ラインまでプレッシャーをかける形。逆サイドでは中に入る長澤を安部がマークしする、というような形が基本だったようです。
FC東京の守備は人についていくのが基本です、と言われれば「はいそうですね」となるんですが、これを破綻せずに実行するのは結構大変だと思います。特にFC東京の右サイド、浦和の左サイドでディエゴ・オリヴェイラが山中を監視して時に最終ラインまでついていく役割、これを9番つけてる外国人選手に任せて、それを前半45分やりきってしまうって結構凄いと思います。ここが破綻すると浦和のストロングである左サイドから突破、クロスが入ってきてエリア内の勝負になるので、東京としてはしっかり潰さないといけないポイントだったと思います。守備でこの役割を全うしつつ、攻撃ではボールキープからオフェンスのスイッチを入れる役割を平然とこなすディエゴ・オリヴェイラは素直に凄いです。この凄さ、昨年は気づきませんでした。
で、FC東京がうまく守ったというのもその通りなんですが、浦和は人を潰されたときにどうやってオフェンスを構築するのか、つまり自分たちの立ち位置に相手がついてくるならどのエリアが空くから、そこにどうやってボールをつけて、どういう形でゴールに迫っていくのか、の部分に、あまり良い回答を提示できなかったのかなという印象です。これまでの試合で見てきた通り、浦和のビルドアップは前線、大外の配置初期配置は明確なんですが、そこにボールを届ける手段はあまり多くありません。またボランチの人選によってビルドアップの時の立ち位置が結構変わるので、チームとしての細かい仕込みはまだされていないのだと思います。今節は青木も柴戸もボールを持つCBを助ける意識が強く、二人ともよく最終ラインまで降りていたんですが、そうすると前線との間に距離が出来てしまい、結局詰まって苦しくなるというパターンに陥ってしまっていました。2枚のCBと2枚のボランチの4人でボックスを作ってパス交換し、どこかで前を向いて前線までボールを運ぶというのが理想なんですが、このビルドアップの最初のステップで考えながらやっている感じもあり、このあたりは発展途上感が否めません。こういう時に健勇あたりが降りてきて一度楔を受けてもらってサイドに展開、というのが狙いの一つなんでしょうけど、2枚のCBに加えてアンカーの橋本を含めたfc東京の2列目5枚がしっかりと縦パスを監視していることもあり、やはりまずは最終ラインで優位を作ってから前線にもっていかなければFC東京のブロックを崩すことは難しかったのかなと思います。
というわけで浦和はボールと相手を動かしながらゴールに迫るという部分は発揮できないながらも、23分の健勇のシュートシーンのように最終ラインから長いボールでFC東京のラインの裏を狙う形が多くなりました。32分のシーンのように、大外の橋岡にボールをつけて、小川が出てきた裏を長澤が狙うといった動かし方がもう少し出せればよかったんですが、橋岡にボールをつけるために青木が降りるとレアンドロがついてくるというのが厄介で、なかなかこの形も出ませんでした。
ゲームの構造を決定づけた先制ゴール
お互いカウンターは警戒する→攻撃時に無理してリスクを犯さない→多少持たれても中央を固めて守れる→一方がボールを保持するとしばらくそれが続く。お互いに同じ狙いを持っていると双方狙っていることができないので狙いと全く違うゲームをしなければいけないという、たぶんあるあるなゲーム展開のまま、後半の43分にFC東京が先制。展開はFK崩れからボールを保持され、浦和がブロックを作って守っていたところ、森重の鋭いサイドチェンジで大外の室屋を使われ、クロスを上げられると西川が被り、誰もクリアできなかったボールがディエゴ・オリヴェイラの胸に当たってゴールイン、というものでした。森重のサイドチェンジも室屋のトラップからクロスも素晴らしかったですが、浦和は西川が飛び出して指先で触っていなければその後ろで橋岡がクリアできるイメージを持っていたようでした。西川の判断ミスと言えば簡単ですが、いろいろともったいない失点でしたね。西川はここ数年はクロス対応に大きなミスが目立たなくなってきていましたが、室屋の質の良い逃げるボールに対して難しい判断をしてしまったということでしょう。
FC東京からすればある程度狙っていた形のゴールで、30分にもレアンドロから大外の室屋を狙うサイドチェンジでゴールに迫っており、この先制点の場面ではそれが形になったと言えると思います。浦和の最近の守備はボールにプレッシャーをかけるというよりも、ブロックの内側かアタッキングゾーンに相手が入ってきたところから強く守備にいくというやり方です。従って今回のような相手CBの森重からブロックの外側の室屋へというパスは、ある意味でやらせても構わないパスで、そこから失点してしまったのは「設計上捨てているから仕方ない」というほかありません。この失点は浦和の守備の構造上どうしても起き得るものなので、それを決められてしまったら相手が上手だったと考えるしかないと思います。しいて言えば、1on1で対応した山中に良いクロスを上げさせないように守備してほしかったということになりますが、だとしても守備リスクを考えて山中を起用しているわけで、やっぱり室屋がうまくやったという方が妥当な気がします。
ちなみにFC東京はこの少し前の39分ごろの浦和のボール保持のタイミングでディエゴ・オリヴェイラが左サイドに、レアンドロがトップ、永井を右にと前線の配置を変更していました。流れで結局レアンドロが右、永井が真ん中に落ち着いていましたが、室屋からのクロスにファーサイドから入ってきたディエゴ・オリヴェイラが合わせたというのは直前のこのポジションチェンジが功を奏したと言えます。結果論ですが、このあたりを考えてもピッチ上の応用と工夫はFC東京の引き出しの方が多かったですね。
浦和としては自分たちのやり方とゲームをデザインする上である程度やらせても良いと考えていた、捨てていた展開からの、しかも若干アンラッキーな失点でしたが、いずれにせよこの先制点でゲームの構造は決定づけられました。そもそもボールはいらない両チームですから、先制したほうが守備からカウンターという自分たちの形に持ち込めるわけです。両チームがボール保持にこだわらない故にお互いにボール保持が問われる構造となった前半戦は、最後の最後でFC東京がこのゲームの主導権、つまりボールを持たない権利を勝ち取ったのでした。
打ち手の限界
これまで見てきた、ゲームの構造を左右する「ボールを持たない権利」をめぐる前半の戦いは、お互いの監督が試合前から強く意識してきたポイントだったと思われます。大槻監督は後半スタートから汰木に代えて関根を投入。構造が変わった後半戦に向けて、はやくも初手を打ちました。この交代はおそらくアタッカーの質を変えるという狙いで、後半はFC東京が構えて守るために自分たちが押し込まざるを得ない、好む好まざるに関係なくそうするしかない中で、狭いスペースでも静止状態から勝負をしかけられる関根を投入してゴール前にボールを届けようという意図があったのではないかと思います。
構えたところから前向きに守備に出ていくFC東京の良さは、後半その色を強めていきます。48分には室屋が素早い出足からインターセプトしゴール前へ走りこんだ永井へクロス、49分の浦和のビルドアップも縦パスを潰し、浦和の作り直しで岩波が山中に横パスをした瞬間にレアンドロと東が囲んでボール奪取。54分の浦和の攻撃もアタッキングゾーンまではボールを運んでも決定的なクロスは上げられない。4-4または4-5のブロックが浦和の使いたい中央のエリアをふさぎ、大外へのサイドチェンジには素早くSBが出ていきフリーでプレーさせないことで、浦和に決定的なシーンを作らせませんでした。
大槻監督は早い時間帯で追いつきたいのか、55分にさらに2枚替え。健勇に代えてレオナルド、長澤に代えてマルティノスを投入します。両SHを代えてサイドから崩したい浦和ですが、FC東京は相変わらず中央を堅く固め、ボールが入るところには一人が強くアプローチ、一人がカバーに入るという関係性で浦和の選手に自由を与えず、このあたりの時間帯からは攻撃に転じても攻め込む人数は3トップ+SBなどと枚数を制限してセーフティも完璧と、追いつきたい浦和をよそに試合を自分たちの色に染めていきます。
極めつけは65分、60分に永井と交代で入ったアダイウトンが青木のトラップミスをかっさらってそのまま突進。マウリシオと岩波の寄せた間を突破してゴールに流し込み決定的な2点目。失点の決定的な要因は青木のミスですが、自陣に構えたところから奪って速攻という、お互いのチームの目指す形が鮮やかに表れたゴールでした。
浦和からすると、早めの交代を使って前線を早めに入れ替えたものの、前半から困っていたビルドアップの部分でミスが出ての失点となってしまいました。先制して以降、最終ラインとブロックの設定を多少下げて自陣に構えていたFC東京ですが、トップの選手に浦和のボランチをケアさせることだけは意識させていた長谷川監督の狙いが十二分に出た形でした。岩波はヘルプに入って一度アダイウトンを挟んで潰せるタイミングがあったんですが、既にペナルティエリアにかなり近いところだったのでPKを恐れたのか結局潰せませんでした。
これを受けて大槻監督は67分にエヴェルトンを投入。橋岡を下げて柴戸を右SBに回し、中盤にボール保持と前進が期待できる選手を投入します。結果論ですが、この交代は1点差のうちにしておくべき交代だったかもしれません。前線を入れ替えて攻撃を活性化させようとしたものの、そこまでボールを届けられないのが今節の根本的な問題であり、そこをケアできなかったので思ったほどFC東京を押し込むこともできていませんでした。早い段階でエヴェルトンがいれば青木のミスがなかったとはさすがに言えませんが、ビルドアップの初手で苦しんでいたことが攻撃全体に影響していた今節の構造的な問題は、これまで機能してきた両SHの交代による上下動の活性化では解決できなかったということですね。
エヴェルトンの登場でボールを運べるようになったことと、FC東京もクリアが多くなって最終ラインが上がらなくなったことで試合終盤にかけて浦和がFC東京を押し込みますが、サイドにつけてからのサポートがなく、ゴール前にボールを放り込んで弾き返されるだけのような展開となってしまい、そのまま試合終了。交替枠でチームを活性化させることが出来ず、先制点でゲームの主導権を握ったFC東京が順当に勝利をつかみ取ったゲームとなり、浦和は今季初の敗戦となりました。
突きつけられた現在地:しかし、ポゼッションが課題なのかという疑問
平たく言えば力負けの印象が強いこのゲームですが、ゲームの構造、戦術的な観点から言えば、前半の最後に決められてしまった先制点でゲームの主導権、「ボールを持たない権利」を持っていかれてしまったことが大きく響いたゲームだったと言えます。特に前半の序盤はお互いに集中したプレーが続き、浦和も決定機とは言わないまでも狙った形からゴールに迫る部分を表現できていただけに、捨てていたポイントからこじ開けられてしまった先制点が重くのしかかったゲームでした。
で、これからも先制点を奪われるゲームはあるわけで、また今節のように「ボールを持たない権利」を奪い合う構造になるゲームもあることでしょう。そうなったときに、ボール保持からゴールに迫れるのかどうかが浦和の課題である、というのが大方の戦評のように思います。
たしかに、記事にあるように、守備から主導権を握るにしてもボール保持が問われる展開はなくならないので、今後は連戦の中でこの部分にどれだけアプローチできるのかが問われることは覚悟しなくてはなりません。この部分の改善が必要なことも、普通に考えれば間違いありません。
ただ個人的には、ボール保持に課題がある、ボール保持を改善していく必要があるというのが浦和の今の姿かといわれると、本質的にはそうでないと考えています。浦和の現在地は、長期的な目標に対する現在地という尺度で測られるべきです。これまで何度も確認してきたように、浦和が長期的に目指す姿とは、「3年計画」で示されたそれであり、土田SDが語るサッカーです。
「浦和らしいサッカーってなんなのかと考えた時に、勝てばすべてOKではないと思っているんですね。あの埼玉スタジアムで、どういうサッカーで喜ばせられるのか。サッカーをよく理解している人が観に来る雰囲気の中で、どういうスタイルが良いのかという時に、イスから自然に『ガタッ』とオシリが浮くような。そうやってピッチと観客席で同時にスイッチが入るようなサッカーをしたい、やるべきだと思っているんです。ということは、スピード感や攻守の切り替えが必要。ボールを奪ったところから一気に数的優位を作って、最短でゴールに迫るプレー。そういうサッカーが、一番オシリが浮くと思うんですよ」
これを踏まえたとき、浦和レッズの課題は、本当にポゼッションの質なんでしょうか?その前に改善すべきこと、表現できていなければならないことを忘れていないでしょうか?「3年計画」を通じて作り上げたい浦和のサッカーの根幹は守備から素早く攻撃に転じて一気に攻め切る速攻、ファストブレイクであるはずです。そうであれば、再開後にファストブレイクからなかなかゴールに迫れていないことの方が課題としては根源的で、これこそが「深刻な課題」ではないでしょうか。
ファストブレイクがなかなか形として現れないのは守備から攻撃に素早く転じることができていないからであり、それは前向きにボールを奪うシーンが少ないことが原因です。前向きにボールを奪えていないのは相手のビルドアップを限定できないために狙いどころが定まらず、ブロックを深く組んで全体が後ろに下がって守るためにトップとの距離感が開いていること、また追い詰められたところで守備をしているのでクリア以外の選択肢を持てないことが関係しています。
この引いた守備は、今節が3連戦の初戦であることを考えても連戦で疲れているからではなく、先に失点しないという部分に意識が向きすぎていることが要因ではないかと思います。これまではこの守備で耐えているうちに先制点が入り、また後半お互いがオープンになる時間帯を迎えることが出来ました。しかし今節は、そうなる前に失点してしまい、結果的に打ち手が無くなってしまいました。この試合に関して言えば先制点を取られたことが悪いと言ってしまえばそれまでですが、もう少し根本的に今の浦和のやり方を反省するなら、やはりこのやり方では、主体的にファストブレイクに持ち込むことは難しいのではないか、という話になります。
そうであれば、むしろ浦和が取り組むべきはビルドアップではなく、前向きに相手を追い込んでいく守備の徹底であり、どこに狙いどころを定めて「主体的な」守備を実践するか、という部分ではないかと思います。そう考えると、ゲームの趨勢を大きく左右したあの先制点の場面も、もっと全体を押し上げてボールにプレッシャーをかけられなかったのだろうか、そういうデザインでゲームに入れなかったのだろうか、という考え方が正しいのかもしれません。
もちろん、今季開幕当初からレーンを意識した立ち位置の仕込みがみられるように、ビルドアップからの攻撃も大槻監督のサッカーの重要な要素の一つであり、今後の課題であることは間違いありません。ただもっと大切なもの、チームの哲学や表現すべきものをどこに設定したのかを思い出せば、この試合の反省はビルドアップからの崩しではなく、前半互角の段階で相手ボール時に構えて守ってしまってよかったのか、もっと前からいけたのではないか、という部分を突き詰めるべきということになるのかもしれません。
もう少し実務的に考えると、今からボール保持に約束事を仕込んでコンビネーションをどうこうしていくというよりも、そうでなくとも攻められるような形をもう少し用意しておく方が現実的かつ論理的ではないか、とも言えます。もっと言ってしまえば、ボール保持がうまくいかないのであれば、クロップ監督時代のドルトムントよろしく最終ラインからSB裏に蹴っ飛ばして、そこからゲーゲンプレスで囲い込んだほうが哲学には近いのではないか?というアイデアもあるでしょう。
これまで、特にJリーグ再開後の試合は特徴的なやり方を持っている対戦相手が続いたこともあって、相手のやり方に蓋を被せるような大槻監督らしい分析と対策、そして後半オープンになってきた中での個人の能力で結果を出してきました。
しかし今節は、お互いに似たようなスタイルのチーム同士の対戦だったこともあって、またFC東京のスタイルが比較的シンプルに個人の力を活かしてくるサッカーだったこともあって、相手への対策よりも自分たちがどうプレーするのかが問われた対戦だったと思います。こうして自分たちの姿勢を問われる相手と対戦したことで、そして同じようなスタイルを標榜し我々よりも長く高く積み上げてきたチームと対戦したことで、結果として浦和レッズの現在地が晒されることとなりました。突きつけられた現在地は、理想からはまだまだ遠い。だからこそ、長期的な目標がどこにあるのか、我々はどうあるべきなのかを忘れずに戦うことが大切なのではないかと思います。
3つのコンセプトに対する個人的評価/選手個人についての雑感
というわけで、採点です。
敗戦したということもありますが、どの項目も過去最低の結果となりました。ゲームの構造上攻守に切れ目がないプレーというのは難しかったと思いますが、再開後結果に隠れてなかなか見えなかった長期目標に対する課題があらわになったという意味で、戒めとして厳しめの採点です。
選手個人としても、ミスのあった青木をはじめ、苦しいプレーになった選手が多かったという印象です。ただ選手の質やコンディションよりも、監督の采配の部分でもうすこしアグレッシブなプレーをさせられたのかなという気がします。例えばエヴェルトンがもう少し早めに起用できていれば中盤でボールを持つ部分が改善された気がしますし、マルティノスと関根はサイドを入れ替えて起用したほうがうまくいったような気もします。大槻監督の分析と対策でゲームをデザインすることで勝ち点を拾ってきたのが再開後のレッズですから、自分たちと同じような形で個の力を前面に出すFC東京はシンプルがゆえに対策がしづらかったということもあるかもしれません。何度も繰り返しますが、先制点を取られたことで後半難しくなり、あの状況を采配で打破しろというのもかなり難しい注文だと思います。
そうでなくともFC東京の選手たちのパフォーマンスは、僕がこれまで見てきた中で最も力強く、強いチームだなと思わせるプレーだったと思いますので、まあやっぱり力負けかなと思います。
凄い、サッカー見てて初めてFC東京の選手の方が力強いと感じてるいま。
— 96 (@urawareds96) 2020年7月18日
今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。