96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。 twitter: @urawareds96

噛み合わせのズレをめぐる攻防:Jリーグ2020 vsサンフレッチェ広島 分析的感想

もしかするとこの試合は、このチームの行く末を大きく変えるゲームになってしまうかもしれないと思っていたので、内容はともあれ勝ち点3を手に入れたことにホッとしています。

スタメンと両チームの狙い

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浦和にとってはJリーグ開幕節湘南戦以来久しぶりの3バックとの対戦となる。

レッズのベンチメンバーは彩艶、岩波、山中、柏木、青木、武富、健勇。

広島のベンチには林、井林、東、茶島、藤井、野津田、ドウグラスヴィエイラ

個人的に今何がどうなっているのかよくわからないチーム第1位の広島ですが、ベンチメンバーは結構面白い顔ぶれで、林や野津田といった名前のある選手がいる一方で、東、藤井あたりの若手、そして井林、茶島はJ2を主戦場にしてきた中堅選手という構成。城福監督体制になって3年目らしいですが、さすがに3連覇時代の顔ぶれは少なくなってきたようです。たしか4バックで戦うことも普通にあったと思いますので3-4-2-1にこだわっているわけではない気がしますが、今節は3-4-2-1で浦和の4-4-2に対して噛み合わせのズレを作ってきました。単純に言えば、大外にWB置いておけば簡単に起点が出来るよね、というはなしです。

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4-4-2ブロックは大外に人を置かれてもあらかじめケアできない。特に浦和の4-4-2はまず中央を固めたいので、なおのこと。

結果から言えば広島の3-4-2-1が作る噛み合わせのズレ、つまり浦和の4-4-2ブロックの外に立つWBの存在は浦和にとって非常に厄介だったわけですが、これを以て4-4-2に対する3-4-2-1の優位性とは考えない方が良いのかなと思っています。ミシャサッカーも4-4-2崩しみたいな言われ方をしますが、ミシャ・レッズの例で考えても、実は枚数を合わせられる(つまり相手も3-4-2-1で挑んでくる)ミラーゲームよりも、4-4-2で真っ向から攻められる方が内容的に厳しい試合が多かった気がします。

3-4-2-1(3バックシステムの多く)は基本的に両サイドを担当するのが1枚(WB)だけですから、4-4-2が攻めてくると相手のサイド担当はSHとSBの2枚なので、構造的に数的不利に陥ってしまうことになります。このとき、3バックのチームが5-4-1を形成しているのであれば、4の外側の選手(たいていの場合はシャドーの選手)が守備でどれだけWBを助けてくれるか、そして後ろに立つ3バックのサイドの選手が適切にポジションを取れるかが求められます。

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ミシャ・レッズが完成に向かったのは、オフェンスで興梠と絡みながら守備でこの「4」の役割を比較的担える選手―武藤雄樹李忠成の組み合わせを発見できてからだと思います。

ただこれが結構難しくて、シャドーに入る選手は気持ち的にはフォワードなので毎回毎回SHみたいな守備やってらんないし、後ろにいる3バックのサイドの選手も特に引いた場面ではエリア内を埋めたくてなかなか出てきてくれません。すると結果的に「WBちゃんよろしく」状態となり、自分たちのWBvs相手のSHとSBという数的不利が発生します。こうなると基本的にサイドから深い位置に侵入されるので、クロスを跳ね返していくだけのゲームになったり、3バックのサイドが釣りだされればそこから割られて失点、みたいなことになります。

というわけで個人的な理解としては、ズレはあくまでズレであって、有利不利ではないと思うことにしています。で、そうするとこのズレを「自分たちの優位性」に変えていくために何が必要かという話ですが、セットオフェンスの話ですから、やはりボールを持たなければ始まりません。で、今季の浦和がボール保持にほとんど形を作れていないことを考えても、前節の6失点から立ち直らなければいけないことを考えても、今節この優位性を活かせそうなのは広島であろう、というのは両監督のコンセンサスであったと思います。となると大槻監督は何かしら準備が必要なわけですが、今季の浦和として3-4-2-1を使う広島との対戦を考えるうえで役に立つのは今季の鹿島戦でしょう。

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鹿島は基本ポジションから言えば対3バックではないが、両SBを高く上げて大外に基点を作るのは4-4-2ブロックに対する3-4-2-1の構造的優位の踏襲と言える。

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鹿島戦では右SHに入った長澤が最終ラインに入り込むこともいとわないほど下がり目でディフェンスすることで一時的に5-3-2で守る形を採用していました。この前例があったので個人的には長澤がスタメンではないかなと思いましたが、外しちゃいました。ただ考えてみれば関根もミシャ・レッズでは不動の右WBとして戦っていましたからこの役割での起用は問題ないし、気温やロングカウンターをやりきることを考えても、走力を信頼できドリブルで前に行ける関根の起用は論理的な選択の範疇だったかなと思います。

ゲームの構造①:1/1の先制点と「ズレ」をめぐる攻防

というわけで、浦和としては上記のように5バック化することも念頭に置いたうえで、前節の6失点から立ち直る意味でもしっかり守って無失点で進めてカウンターを決めたいというゲームデザインがあったのではないかと思います。まあまさか、最初のチャンスで決まるとは持っていなかったかもしれませんが。

3分に浦和がカウンターで形を作り、フリーでタメを作っていたレオナルドから汰木へのスルーパスがエリア内に届くとハイネルがスライディングし汰木が倒れてPK獲得。ちょっと詰まるかなあと思ったシーンでしたが、ゲーム序盤だったこともあり汰木が裏にスプリントを仕掛けてくれたのが大きかったと思います。レオもフリーだとあんなパスも出せるんですね。非常に質の高いスルーパスでした。タイミング的にも、ハイネルがちょうど汰木への表へのパスを警戒して右足に重心を載せたタイミングで汰木がスプリントを開始し、それに合わせて裏にスルーパスを出したもので、攻撃側と守備側が完全にヨーイドンになりましたし、汰木の加速の速さが有利に働きました。

この先制点、広島側からするとゲームモデルの弱点が出てしまったように思います。広島はこのゲームではほぼ一貫してネガティブトランジションでは早いカウンタープレッシングを仕掛けてきていましたが、このシーンでは一度浦和のクリアボールを拾おうとしたエヴェルトンに川辺が、そのこぼれ球を柴戸がダイレクトで武藤につけたところに青山が襲い掛かり、一度はボールを奪取しています。ただそこに関根が素早く反応してプレッシャーをかけ、苦し紛れの前へのパスがトーマスに転がり、トーマスが再びエヴェルトンにつけたボールにまた川辺がアタック、ここで外されたボールが降りていたレオナルドに転がってカウンターが発動という流れでした。この間、広島の選手たちを観ると、最初にクロスを上げた柏と1トップ2シャドーは最前線に残って浦和の最終ラインへのプレッシングとショートカウンター準備、2枚のボランチは浦和のカウンターの起点潰しと前に前にプレーしていますが、その割に最終ラインは降りてきたレオナルドを放置してラインを下げています。結果的にレオナルドにボールが転がったのは運の悪さもありますが、ボール保持からカウンタープレッシングをやり切りたいなら最終ラインも思い切って前に前にプレーすべき、少なくともレオナルドをあそこで浮かせてはいけなかったような気がします。これ以外のシーンでも広島の最終ラインは中盤より前の意識とは裏腹にセーフティを選んでプレーしていたところがあり、おそらく選手のキャラクターの問題だと思いますが、フィールドプレーヤー全員が広島のやりたいゲームモデルに適応しているかは若干疑問があるのかなという感じです。まあ、これ以外に危険なシーンが頻発したわけではないので、それで破綻したと言うほどではありませんでしたが。

結果から言えば、今節の浦和の枠内シュートはこのPKの一本だけ、シュート数で言っても全体で3本しか撃てていないので、まさに最初の一回に当たりが来たというべき先制点となりました。事前の準備からしても広島のボール保持、浦和が構えてカウンターという構図になりそうなゲームでしたが、この先制点によって開始5分でこのゲームの構造は決定づけられたと言えるでしょう。浦和はそもそも前節の反省から思い切り前からプレッシングをすることは考えていなかったと思いますが、ここからは、ひたすらに浦和が守り、広島がそれを崩そうとする形で時間が進んでいきます。

前述の噛み合わせのズレへの対応で言えば、ゲーム序盤の浦和はやはり鹿島戦とほぼ同様のやり方を採用していたと思います。特に広島は左WBの柏を起点にゲームを作りますが、彼に高い位置でボールが入るまでは4-4-2を維持し、広島の右サイド、浦和の左サイドにボールがある場面では大胆に逆サイドを捨てるコンパクトな陣形で守っていました。そこから、広島のオフェンス・シークエンスの一つである大きなサイドチェンジで左WBの柏にボールが渡ると、関根が下がって対応し4バックをスライドさせないことで疑似5-3-2となるイメージです。実際これはそれなりに機能していて、先制直後の広島のセットオフェンスでは広島が3回サイドを変えましたが守り切って柏のトラップミスを誘っています。

途中若干の浦和ボールを挟みながらも広島のボール保持が続いていくと、広島は徐々に浦和のブロックを押し込んでいきます。広島の狙いはWBにボールをつけて相手の守備ブロックを大外におびき寄せ、隙間が出来るポイントにシャドーの選手を走らせるのが基本だと思います。

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佐々木は最初は自重気味だったがウォーターブレーク後は徐々に上がってくるようになった気がする。

ここで詰まればボランチのサイドチェンジで展開し逆サイドで作り直すかクロスをぶち込んでレアンドロペレイラ、略してレレイラ(今造りました)に合わせる形を持っていたと思います。浦和はやはり鹿島戦で見せた4-4-2から右SHが大外対応で一時的に5バックになる形で対応していました。16分のハイネルのクロスからレレイラ、少し前から嵌めに行って裏返されてしまった21分の右サイドでシャドーを追い越した川辺のクロスからレレイラのオーバーヘッドなど、いくつか危ないシーンはありましたが西川が素晴らしいセーブを見せて凌ぐことができました。ただこの守備、やはり関根の負担がかなり大きく、30分を過ぎたころにはさすがに大外に出ていくのが間に合わなくなってきていたと思います。暑さもありましたから関根はむちゃくちゃ辛かったと思うのですが、関根が遅れたときには橋岡が大外に出て関根がSBの位置で守備をしたり、柴戸がチャンネルランについて行ってクロスを阻止したりと右サイドでは守備での助け合いがうまく出ていたと思います。鹿島やマリノス、清水といったボール保持からペナ角を崩そうとしてくるチームとの対戦で見せていた守備の約束事や相手のチャンネルランへのケアがここでも活かされており、その意味では積み上げが観られた部分だったかなと思います。ただやはりキツイものはキツイので、37分から浦和は関根をWBにしてしまう5-3-2に守備陣形を変更。攻撃時は結局4-4-2に戻るので上下動的には関根はやはりきついのですが、ボールが出るたびに背走して柏につくよりは後ろで構えてから出ていく形の方が精神的にも少し楽になったのかなと思います。

4-4-2と3-4-2-1の噛み合わせのズレという意味で言えば、体力的にかなりつらく不格好ではあったものの浦和がそのズレをなんとか埋めたという前半だったと言えるのではないでしょうか。ただその分押し込まれる形になり、ポジティブトランジションにおいては苦労していくことになりますが、なんとか前半リードを守り抜いて折り返しました。

切れなかった集中の糸

後半はいきなり広島のチャンスから。キックオフからのロングボールを拾われて素早く右サイドの背後を取られてカウンター、中央でのレレイラのシュートは槙野がブロック。CKをクリアしたボールを右サイドで繋がれると、ハーフスペースに入り込んだハイネルのスルーパスにレレイラのシュートは西川がシャットアウトと立て続けにシュートシーンを作られてしまいました。広島にしてみればここで一点が欲しかっただろうなあと思います。浦和はこの後はまた割り切ったブロックで耐える形に入っていきますが、このシーンでは後半開始直後ということもあってトランジションが連続して発生していました。浦和は基本4-4-2からブロック時5-3-2まで変形するための時間が(特に関根と中盤の選手のスライドに)必要になりますから、このような形でトランジションから早い攻撃を仕掛けられると最終ラインが晒されやすく、スルーパスが繋がるか事故がおきれば一点というリスクを負うことになります。なによりも、下手なトランジションから速攻をかけられるシチュエーションは名古屋戦の2失点目を思い出すので良くないです。この後半最初の時間帯のピンチを槙野と西川の守備で守り切ったのは大きかったと思います。

このピンチを凌ぐと、浦和は武藤も中盤に落とした5-4-1を形成してゴール前にバスを停めます。これによって大外対応にスライドが必要なくなった上に中盤も一応埋まりましたので、守り方としてははっきりして良かったと思いますが、その分広島の最終ラインは広大なスペースと自由を享受し、浦和はクリアをマイボールにして陣地を回復する機会を捨てることになりました。

ちなみにこの5-4-1、まったく練習していないスクランブルだったようで、しかも一部の選手にはうまく伝わっていなかったとのことで、やっぱり綱渡りだったんですね。

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50分のCKからハイネルのヘディングは心臓止まるかと思いましたが西川の右手一本とトーマスの高速カバーリングでなんとか凌ぎ、55分の森島司のミドルも枠を外れると、城福監督は2枚代え。ハイネル→茶島、浅野→東を投入。右のシャドーとWBのユニットを代えたのは右サイドに不満があったんでしょうか。まあ実際、茶島はハイネルと比べて細かく動けるのでサイドで宇賀神を突破してクロスなどチャンスを演出していたとは思います。浦和は5-4-1で構えたもののボールへのプレッシャーになかなかいけない感じになってしまい、かなり押し込まれることになりました。レオナルドに代えて健勇、武藤に代えて武富の2枚替えの直前の宇賀神のエリア内でのスライディング対応など、エリア内に侵入されてしまう場面が多かったので交代は適切なタイミングだったと思います。広島は64分に柏→藤井。この時間帯はもう浦和は撤退しゴール前で構えるしかなく、その分広島のバックラインやボランチの選手がかなり前線に関わっていくようになっており、このゲームの中でもかなり危険な時間帯だったと思います。66分の茶島のクロスに飛び込んだ東のヘディングでまた心臓が止まりかけたものの、健勇の投入で浦和も少しずつボールが落ち着くポイントが出来るようになり、シュートまでは至らないものの守備の時間を減らすことができました。

73分に広島はレレイラ→ドウグラスヴィエイラ、青山→野津田で5枚のカードを全て使い切り勝負に。これとほぼ同時に浦和は汰木に代えて岩波を投入し、武富を左SHに置いた5-4-1。結果的に言えば、この岩波の投入は浦和にとって大きかったと思います。WBの勝負に比較的脚を使っていない橋岡を持っていくことが出来ましたし、エリア内のCBとしての守備は岩波が入ったことで安定しました。関根が5-4-1の「4」に入ることで大外勝負のサポートも増え、広島が使いたいスペースは早い段階で消すことが出来ていたと思います。もちろん、ポジティブトランジションの局面で何かが変わるわけではないので、押し込まれている時間が長かったのは事実ですが。

この岩波の投入で5-4-1で耐えきるのに必要な後ろの高さや強さを補強した浦和の集中力が途切れなかった一方で、広島は特に野津田とドウグラスヴィエイラの投入以降攻撃がトーンダウンした感があります。左WBに投入した藤井は関根、橋岡に縦を切られたことで個で打開するシーンは少なかった(とはいえ中のシャドーとの壁パスで抜け出すスピードは見せていましたが)と思いますし、茶島はクロスを上げる部分では良かったものの中の枚数が多くて2枚と、浦和の5バックに対しては枚数不足であったことに加えて、ピンポイントで合わせてくるような精度ではありませんでした。この時間帯、広島は暑さもあって攻め疲れた感がありましたし、5-4-1で埋められたスペースを使うことが出来ずに攻撃が単調になっていました。広島が悪いチームだとは思わないですが、変化をつけられたり理不尽な質を見せる選手がいるわけではないので、広島にとってはこういう展開は嫌だったと思います。また浦和が5-4-1で引きこもり、割り切ってボールをクリアし続けたことで、広島の武器であろうボールロストからの即時奪還を実行する機会が失われていたことも広島のオフェンスオプションを削いだのかもしれません。

最後は宇賀神の足がつったこともあって青木を投入して柴戸を左WBに置き、ゲーム終了のホイッスル。浦和レッズがなんとか逃げ切り勝利を果たしたのでした。

3つのコンセプトに対する個人的評価/この試合、そしてこれまでの浦和レッズをどう評価するか

というわけで採点!

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は4点。西川のスーパーセーブや槙野、トーマスのギリギリの守備能力、関根の走力などに代表されるように、主に守備の場面で選手たちの特徴は発揮されたと思います。暑い中でのプレーだったので、トーマスから繋いでレオナルド→汰木のスプリントで得た最初のPK獲得は本当に大きかったです。全体を通して振り返っても、今節はあそこで点を取るしかなかった試合でした。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は6点。決して内容が良かった試合ではなかったですが、最後まで集中を切らさずに与えられたミッションを完遂した選手たちのプレーを評価したいと思います。何を言われようと、今節は勝ち点3が何よりも必要な試合でした。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は3点。先制点のシーンをはじめとしたロングカウンターの意識は観られたもの、さすがにあれだけ押し込まれて相手を休ませなかったとは言えないですね。やはりもう少しボールを動かしたいし、相手を動かしたいところです。

今節については、内容に満足する人がほとんどいないのは当然として、それを良しとするかどうかの部分で意見が割れるようです。この勝利を素直に喜びきれない人からすれば、要は「今節は勝ったけれどこんなのは良いサッカーではないし、こんなサッカーで勝ち点3を取って意味があるのか、また今節は広島のシュートが入らなかっただけで、浦和が勝ったというより広島が負けた試合ではないか」という感じでしょうか。

まあ、その通りだと思います。戦術的に今節を振り返ってみても最初から5バックで引きこもろうとしていたわけではありませんでしたし、5バックに移行すると決めたのも試合の駆け引きの中というよりは関根のタスクが実行不能になりつつあったからでしょう。後半は5-4-1でセットしていたのでその頃にはある意味で腹は決まっていたと思いますが、これまでのチームからの発信を見てもここまで守備に傾倒するというか、攻撃を放棄するような割り切ったサッカーしかないと諦めているようには感じません。

要はやりたいことはあったけれど出来なかったというのが今節の実態であり、その代わりに手に入った1点を死ぬ気で守り切ったというのが実情だと思います。その意味でこのサッカーがやりたいサッカーには程遠いというのはその通りだと思いますし、それに対して何かを言いたくなるのは当然だと思います。ただ今節に臨むうえで、前節の大敗を考慮に入れるとすれば、まずは守備を安定させて無失点を目指す、そのうえで勝ち点3をホームでつかみ取ることで組織としてもう一度まとまっていくことが最も重要だったと思いますし、現実的にそれが手に入る状況にあれば、今節のような戦い方をベンチが選ぶのはプロとして正しい仕事だと思います。

問題はなぜこんなことになっているかですが、これは戦術的な視点だけでなく戦略的な視点から理解する必要があると思います。戦術的な要因としては、今節はボールの収まりどころをうまく作ることが出来ませんでした。特にポジティブトランジションの局面で武藤がボールを失うことが多く、なかなか攻撃に出ていくことが出来ませんでした。即時奪還を掲げる広島のゲームモデル的にも、カウンターの起点となる浦和のトップにボールが入った瞬間は勝負所であり、この局面で対人に強い広島のCBに武藤が負けてしまったことはチームとしては痛かったと思います。守備でももう少し走ってくれるかと思いましたが、暑さや疲れか、またはベンチからの指示か、期待したほどのプレーは出なかったかなという印象です。この点、健勇が出てきた後半は多少改善したので、結果論ですが今日は健勇をスタメンにすべき日だったのかもしれません。

もう一つ戦術的な面では、ボール保持においてフリーランニングのスイッチになるポイントが作れていないということが言えます。今節の広島であれば左WBの柏やボランチの選手が前を向いた瞬間、前節の名古屋で言えば金崎のポストプレーやIHでボールを引き出すSH、ルヴァンカップで言えば後半から出てきてリズムを作り出した清武など、どんなチームにもオフェンス面で起点となるポイントが必要です。オフェンスの連動性を増やせと言うのは簡単ですが、現実には攻撃のために自分の基本ポジションを捨てるのがフリーランニングであり、相応のリスクを伴います。ボールが確実に出てきそうであるとか、もしボールが出なくても攻撃をやり直せるような安心感と信頼がなければボールを持っていない選手のランニングは出てきませんし、フリーランなくしてオフェンスにダイナミズムと連続性は生まれません。今の浦和は、この動き出しの起点となる選手やポイントがなかなか見つからず、そのためにボールを持っていない選手の動き出しが少なく、前が動かないので後ろも手詰まりになり、最終的にダイレクトプレーの成功に賭けるかセーフティにロングボールを蹴りだすしかない、という展開が多く見られます。

この問題はなかなか根深いと思います。簡単に解決するにはこうした起点になれる選手を起用する、または補強するということが考えられますが、一方でその選手にはこのサッカーで求められる守備の役割を果たしてもらう必要があり、単に凄いパスを出せる選手を使いましょう、獲りましょうという話ではありません。攻撃が出来ないから攻撃的な選手を入れて、監督のコンセプトの土台である守備が出来なくなりました、ということになっては、それこそ大槻監督にこのクラブを任せる理由ごと失われることになります。そもそも「3年計画」始動時に土田SDが語った通り、前年からの複数年契約の選手が多く昨シーズンからの選手の入れ替えをほぼしていないチームですから、こういうリソース面の(≒「3年計画」実現に向けた戦略という意味での)苦しみはフロントとしてはある程度想定内ではないかと思います。

もう一つの解決策は戦術的にオフェンスの方法をデザインして、ある意味でパターン化することで(選手の能力と精度は別にして)形を作ってしまうというやり方が考えられます。僕自身、これは是非、シンプルなものでいいのでやってほしいと思いますが、この過密日程ではなかなかそういった時間も取れないのが現実なのでしょう。先週は6失点の後で守備を確認する方が優先だったのではないかと思いますし、今週も大阪アウェーへの移動を考えればリカバリーで終わりでしょう。

まあそもそも、これまで監督としてチームを率いたこれまでのゲームを観てきても、大槻監督には「守備側が秩序を作り、攻撃側がそれを打ち破る」というサッカーというゲームへの理解が根本にあるように思います。だからこそチーム作りとしてまずは守備を安定させたいという志向になるし、守備には注文をたくさん付ける割に攻撃の最後の部分は選手に任せる(つまり相手が作る秩序を見て判断してほしい」という考え)ことになるのではないかと感じます。そうすると、ファストブレイクを志向するのも、相手が守備の秩序を作る前に攻め切ってしまうのが一番簡単である、という考えからなのかな、とも理解できます。これは全くの想像ですし、最近で言えば北九州の小林監督のように守備的と思われていた監督が攻撃的なサッカーを好感していたということもあるので言い切ることはできませんが、大槻監督は論理的な人なので、何かしら芯になっている彼なりのサッカーへの理解があるのだと思っています。オフェンスを無視しているわけではないでしょうが、「まずはディフェンス」である理由が、彼のどこかにあるはずです。

これは良し悪しではなく好き嫌いの範疇だと思うので、サッカーはシュート撃ってなんぼだろ!という考えの人にはつらいかもしれません。ただ大槻監督が今作ろうとしているサッカーは「3年計画」を踏まえれば正しい方向性だし、その実現のためにまずは秩序ある守備をベースにチームを作っていきたいというのは正しい道のりだと思います。だからこのサッカーを受け入れろと言う気は全くありませんし、嫌いなら嫌いで堂々と嫌いだと言えば良いと思いますが、この方向がレッズ に最も長く関わった人たちが見出した方向性であり、これを白紙に戻せばまた0からのスタートになってしまいますので、個人的にはこのやり方をベースに仕上げていく方向を見つめなければいけないと思っています。

一方で、プロスポーツリーグであるJリーグがエンターテイメントであることを踏まえれば、このまま85分守り倒すサッカーだけでやっていくことを受け入れづらいのも事実です。で、そうであるとすれば、そしてクラブの現状を踏まえれば、ある程度は個人の力でなんとかしていく、逆に言えばなんとかしてくれる個人の力が必要になっていくはずです。例えばオフェンスの起点になれる選手を今のスカッドから見出し、その選手を使えるようなシステムを取り入れるというのも一つの手ですし、外からそうした選手を連れてくるというのも一つの手です。そうすると気になるのは夏の移籍市場ですが、今の浦和の経営状況では簡単に言えば誰かを売らなければ新しい選手を買えないということではないかと思いますので、もし何かあるなら出入りが同時かなと思っています。具体的にどういう選手が、という話は、また今度にしておきますが。

というわけで、敗れた広島にも、そして勝った浦和にも、もやもやした感情を残すことになった今節でしたが、とにかく勝ち点3は浦和の下に転がり、順位は暫定6位となりました。次節ガンバ戦は水曜日のアウェー戦。厳しい日程ですが、現在暫定3位のガンバに勝てば、今季の目標のACL圏内に暫定的に返り咲くことになります。

今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。