96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。 twitter: @urawareds96

襲い掛かるレオナルドと大槻監督の植えつけているもの :Jリーグ2020 vs大分トリニータ 分析的感想

前節は狙った形を表現しゴールチャンスを作ったものの決めきれずに神戸に競り負けた浦和。なんとか上位にくらいついていくためにも連敗は避けたい今節は大分トリニータを迎えてホーム連戦となります。

以下が今節直前の順位となりますが、消化試合数がまちまちなのは仕方ないとして、浦和は勝ち点20前後の2位グループになんとかついていっているという感じでしょうか。13節ともなるとシーズン前半もだいぶ進んできた印象がありますが、浦和は上位チームとのファーストマッチは2位のセレッソ(第14節)、首位の川崎(第17節)を除いて消化してしまっているので、それ以外の大分、鳥栖、札幌との試合は負けられません。

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 暫定14位と下位に沈む大分ですが、片野坂監督の明確な戦術をベースに戦うチームの評価は概ね高いチームだと思います。3バックからボランチを落としての4バックへの変形をベースにビルドアップに力を入れているチームという意味で言えば、流派としてはミシャのものに近いと言えますが、相手を引き込んで間延びさせてから縦にパスをつけ、大外のWBを絡めて広いスペースをミドルパスを使って攻略するという部分にフォーカスしているのが特徴です。浦和時代には押し込んでからの崩しに、そして今の札幌ではよりダイレクトなプレーにフォーカスしているミシャの戦術的な変遷を考慮すると、もしかすると片野坂監督のサッカーの方がミシャサッカーの源流に近いものを残しているのかもしれません。浦和は4試合ほど3バックを採用する(採用できる)チームとの対戦が続いていますが、神戸は大外からの1on1よりも整理されたビルドアップで中央の底を取っていくことに強みがあると思いますし、ガンバは最終的には中央突破がしたいチームでしたので、浦和どうこう関係なくWBに大外を取らせてからの勝負という狙いを持っているという意味では、スタイルとしては広島にやや近いと言えます。そういう意味では4-4-2ブロックの外側への対処が引き続き問われる試合になったと思います。

 両チームスタメンと狙い

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浦和ベンチ:彩艶、岩武、岩波、青木、汰木、健勇、武藤

大分ベンチ:吉田、刀根、羽田、田中、町田、渡、知念

このゲームは過酷な日程の今季にあってはオアシスのようなゲームで、浦和にとっては前後に1週間空くことになります。怪我がなければ体力的な面はあまり考慮しなくても良い珍しいゲームとなるので、戦術的な大分対策でなければ基本的にベストメンバーを起用できる試合です。そういう意味でスタメンには注目していましたが、ここ数試合で起用され良いパフォーマンスを見せていた選手が順当に起用されたという印象です。

浦和の選手起用を考えるうえで、重要なキーワードは「主体性」という言葉だと思います。主体的=ボールを握るというような話ではないので、少しわかりにくいのですが、大槻監督の考えは以下のようなものではないかと思っています。

  1. 基本的には自分たちの形を大きく崩さず、相手になるべく付き合わずにサッカーをしたい(今の浦和は守備から入るのが基本的なゲームデザインだが、サイドを使われるから5-4-1にするという安易な対応では攻められなくなるので、そのためのリスクは負う)。
  2. 多少のリスクを背負いながらも守れていれば、ファストブレイクからの得点チャンスが得られる。得点チャンスを得るという意味では、ファストブレイクの威力と回数を増やすために構えるだけでなくできるだけ前から嵌めこんでいきたい。
  3. ボール保持が必要な局面でも、相手に合わせた特別な準備を毎回するのではなく、空いている場所に立ち(どんな形で守られても必ずどこかは空く)、そこからボールを運んでいくことで攻撃を組み立てたい。

網羅的ではないと思いますが、大槻監督の考え方の一部は指摘できていると思います。サッカーのフォーメーションで最もバランスよくスペースを埋められるとされている4-4-2を基盤にボールを奪って素早く攻める、ダメならボール保持から相手ゴールに迫る、ということを相手に押し付けたいというのが今のレッズの考え方なのかなと考えています。もちろん、相手によって選手の特徴やリスクの割合も違うので、音響を調整するイコライザーのように高さや幅、積極性は毎試合調整されるし、選手起用もその時々なわけですが、もしかするとこの調整のしやすさが4-4-2で戦う最大の理由なのかもしれません。基本なだけに拡張性が高いと言えばより前向きでしょうか。

で、選手起用の話に戻ると、上記1.~3.をピッチで表現できる選手が必要になるわけです。

  1. 中央に絞る4-4-2ブロックを中心に考える以上、中盤の選手はスライドに対応できる走力が必要。また、SHとSBには特に激しい運動量が求められる。
  2. ファストブレイクの威力を大きく左右する前線の決定力は最重要ポイント。また、2トップには最初の守備者としての守備での献身を求めたい。
  3. 各選手必要な立ち位置を常に取り続けることが求められる(練習中)。またビルドアップの起点にはボールを運ぶ能力が、中盤の選手には内側に入ればターン、外側で受ければ1on1を仕掛けるドリブルが、トップの選手には中盤に降りてターンすること、裏に抜けること、コンビネーションでゴールを奪うことが求められる。

で、シーズン前にどの選手を中心と捉えていたかはわかりませんが、やはり今季の中心選手はレオナルドということになります。ずば抜けた決定力はもちろんのこと、「最初の守備者」として試合のほとんどの時間で前から追い込んでいく守備をこなしてくれるとわかったことは大槻監督には非常にポジティブな驚きだったと思います。ということで、上記の1.~3.のゲームデザインとそれに対応する求めたい能力を最低限として、レオナルドによりチャンスを供給できそうな選手、彼とうまくやれる選手が多く(長く)起用されることになるのではないか、というのが僕の仮説だったわけです。長くなりましたが、そういう意味で「序列が見えてきた」のではないかと思いますし、今後もこうした秩序を基本に、コンディションに合わせていくような形で選手が起用されるのではないかと考えています。

話がだいぶそれた気がしますが、浦和としては今節のメンバーがほぼベストメンバーという起用でした。対して大分は、ベンチに田中、町田、渡、知念とレギュラークラスのアタッカーを揃えており、もしかするとゲームの進行に合わせて変化をつけていくことを狙っていたかもしれません。

片野坂監督のデザインと…

序盤はトランジションの少ない展開。両チームともビルドアップからチャンスを狙おうとする局面が多かったと思いますが、この部分の完成度を競うのであれば優位なのは大分でしょう。大分はポジティブトランジションで速攻を狙うチームではないので、一度GKに戻すことも厭わずに自分たちの形でスタートすることを優先します。

最終ラインまたはGKにボールがあるときはボランチの1枚、基本的には島川が最終ラインに降りて3バック化、そしてもう一枚のボランチである長谷川も最終ラインをサポートして4-1の形で出口を探すのが基本です。これに対して浦和は「いつも通り」なるべく前からプレッシャーをかけていきたいところです。

2トップで大分のGKの近くに立つCBとボランチを見ること、アンカーを浦和のCHの一枚が前に出て消すこと、その外側の選手には距離があってもSHが出ていくことを前提とした4-1-2-1-2の形で前に出ていくいつもの形の浦和。レオナルドがGKにプレッシャーに出るとそこから順番に選手が空いてしまうという現象が良く見られましたが、これは浦和もある程度織り込み済みで、後追いになってもボールホルダーの時間を削っていくというのが浦和にとっては重要です。で、大分のボールサイドのWBにはSBがなるべく前に出ていくことも含めて、浦和はボールマンを順番に追いかけて徐々に選択肢と時間を削るわけですが、大分はここにさらにシャドーの選手が中盤に降りてきてボールの逃がしどころとなります。ここまでされるとさすがの浦和もリスクを負いきれるかどうかの選択を迫られることになり、多くの場合は大分のビルドアップを成立させることとなっていました。

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レオはほぼ全てGKまでプレスをかけていたが、場合によってはGKにボールを持たせてFPを全部潰した方が大分には嫌だったかもしれない。

浦和としては、ボールをサイドに逃がしつつボールマンの時間を奪っていくことでタッチラインと挟んでボールを直接奪うか、危険を感じたボールマンがクリアのような形で前線に蹴ってくれることを期待しています。プレッシングの初手の部分で数的不利にも関わらずプレッシングを仕掛けることで最終ラインでの数的有利を享受している浦和は、中央にゆるいボールが入ってくれば自分たちが回収できる可能性が高いだろうと考えられるわけです。これが上手くいったのがルヴァンカップセレッソ戦でした。

ただ前線の選手が中盤の底まで降りてくるようなことになると、ついて行けるのはCBしかいません。序盤に槙野が三平をファールで潰した場面のようにせめて取り逃がさなければ良いですが、万が一中盤でCBまで裏返されてしまうと広大なスペースと数的同数を相手にプレゼントすることになりますからなかなか怖いと思います。一枚余っているCHがケアできれば一番良いですが、ただでさえ数的不利を受け入れてプレッシングを始めている手前、この選手は中盤の広大なスペースを一人でケアする必要があり、まして背中から降りてくる選手を毎回捕まえるわけにもいきません。中途半端に(センターサークル付近に)降りる程度であれば浦和のCBもついて行きやすいのですが、さらに深い中盤の底にまで降りて行かれてしまうとなかなか捕まえられない、といった感じに見えました。というわけで大分のビルドアップvs浦和のプレッシング対決は、ひとまず大分が優位を取ります。

次の段階で大分が狙うのは浦和の4-4-2ブロックの大外ですが、形になったのは大分の左サイドでした。右サイドの底から大きなサイドチェンジで香川にボールが入ると、グラウンダーのクロス。橋岡に当たってファンブルしたボールを小塚がイマジネーションあふれる折り返しで中央に入れると、後ろから走り込んだ三平がゴール。序盤に狙い通りの形で大分が先制となりました。

大槻監督のコメントにもあるように(そしてクラブ公式コメントで橋岡が語るように)、本当は橋岡が香川に出ていった方が良かったとは思いますが、サイドチェンジに合わせて浦和の2枚のCBは戻りながらマークを変える必要があり、特に槙野は自分の(新しい)マークとなる伊勢にかなりポジション優位を取られていましたので、マークをずらすのを嫌って橋岡を中で構えさせたいという判断は仕方ないかなと思います。

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自陣でブロックを作った大外ではなく、相手陣内からビルドアップに入るトランジションのフェーズで大外を使われたパターンで、これまでの失点とは若干パターンが違った。

ゴールを奪った三平のマークは(ずれた結果)山中ですが、ちょっとこれは山中どうこうの失点ではないというか、小塚があのパスをあそこに出せたことを褒めたほうが良いのではという気がします。直前に片野坂監督が小塚と香川にポジションを高くとるように指示したように、シャドーを中に入れてSBを絞らせること、WBを相手の最終ラインと同じ高さに立たせて裏に抜けさせること、そこから1トップ2シャドーをゴール前になだれ込ませる早い攻撃まではデザインしていたと考えて間違いがないと思うんですが、だからと言って小塚はあそこであのパスを出せますかね?後ろから三平が走り込むのを知っていたのか、見つけていたのか、それとも声を聴いたのかはわかりませんが、あのパスはなかなか出せないと思います。チームメイトから天才と評される小塚だけに、感覚で出しているような気もしますが、とにかく監督のデザインと小塚の素晴らしいプレーで完璧な形を作った狙い通りのゴールであったと思います。

襲い掛かるレオナルドと大槻監督の植えつけているもの

ここ数試合同じような形での失点が続いていることもあって、浦和はともすればネガティブな雰囲気になってしまうのかと思いましたが、その後前半のうちに逆転できたことはチームの成長なのでしょう。30分にレオナルドのヘディング、33分には山中のFKを橋岡がこすって一気に逆転します。

FC東京戦(●0-2)や柏レイソル戦(●0-4)、名古屋グランパス戦(●2-6)といった失点をかなり重ねた試合から比べると、チームはものすごく成長しているかなというふうに思います。

 メンタル的にどういうふうにゲームを描きながらプレーしないといけないかということが、センターラインの選手だけではなくて、若い選手を含めていろいろな選手たちからもそういう声が出ているということは前進している証拠だと思います」

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この逆転劇には、試合後に槙野が語ったようにひとつは浦和側のメンタルが崩れなかった(もはや大外から1失点することには慣れてきた?)ことが要因にあると思いますが、もう一つはこれまで取り組んできたもの、大槻監督が植えつけようとしているものが多少の影響を及ぼしたのではないかと思います。

ゲームの流れが変わったのは28分。それまではボールを保持しつつもチャンスクリエイトが出来ていなかった浦和ですが、徐々に相手を押し込むとエヴェルトンからレオナルドにスルーパス。相手をブロックしながらエリア内で放ったシュートは惜しくもサイドネット(ポスト?)。その後のゴールキックを関根が拾ってファーのレオナルドにフィードすると、後ろから走り込んだ長澤に落として惜しいシュート、こぼれ球を興梠→レオナルドと繋いだシュートはブロックされるも、そのスローインからのセットオフェンスで興梠のフリックをレオナルドが収め、長澤→橋岡と繋いでクロスからレオナルドのゴールと続く展開でした。レオナルドにボールが入り始めたことで一気に彼のクオリティが出ることになった一連の場面ですが、2トップにボールを入れる部分を見ていきたいと思います。

まずはエヴェルトンからレオナルドへスルーパスを出した場面。中にドリブルしていった山中からエヴェルトンにボールが渡るわけですが、ここのマークは小塚です。このとき小塚の背中側で長澤がパスコースを作るように外に開いており、これを確認した小塚は長澤への対応のために二歩外側に。するとエヴェルトンからレオナルドの中央のパスコースが空きました。

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長澤の動き直し、ポジションを取りなおし続けるプレーは非常に重要

次に、同点弾に繋がった槙野から興梠へのパスの場面。ここで槙野の対面は三平ですが、三平もまた、自分の背中側で外に開いてボールを要求していた関根を気にして外側に立っています。関根が外に開いたことで空いたスポットに興梠が降りてくると、フリックでレオナルドに繋がり…という展開でした。

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この場面では関根が三平に影響を与えている

もちろん、この細かい2つのプレーが戦術的にデザインされたものだと言いたいわけではありません。ただこれの一連のプレー、特に大分の選手に与えた影響は大槻監督がこのチームに浸透させようとしているポジショニング(もしくはポジションを取り直し続ける意識)によるものだと思います。長澤、関根がボールの状況によってスペースを使おうとすることで相手のディフェンスの立ち位置に影響を及ぼす、そうすることでボールホルダーに選択肢が出来る、選択肢が出来ればボールを繋ぐことが出来る、もし2トップにボールが入れば、チームの武器であるFWの質を振りかざすことが出来る。もしかすると、大槻監督が攻撃面で考えているのはこのようなことかもしれません。これまでも書いてきた通り、特定の形をデザインしているなと思えるシーンは少ないのですが、フィールドプレーヤー10人でピッチ全体を守り切れない以上、どんなディフェンスにも必ず穴はあるものなので(たいていの場合は守備側がそれを隠せているか攻撃側が使えていない)、ボールの位置に応じてポジションを取り直し続けることが出来れば選択肢を作り続けることが出来る、という考えなのかもしれません。

とはいえ、少なくとも今節はレオナルドの素晴らしいエリア周りでの質があってこその結果なので、大槻監督の取り組みはなかなか評価が難しいところがありますし、コンセプトは良いとしてもボールホルダーがまだまだ使うべきところを使えていないのも事実です。

例えば、今節浦和のオフェンスで非常に多く見られたもったいないポイントは「大分のボランチの逆サイド脇」でした。先ほど取り上げた槙野から興梠にボールが入る直前のシーンがそうですが、浦和の右サイドでエヴェルトンがボールを持った場面で、大分の5-4-1の中盤4枚、特に真ん中のボランチ2枚は近い距離間のままスライドしています。ここで逆サイドの関根がCHの脇に降りてエヴェルトンを呼んでいるのですが、ここを一発で使えると浦和のセットオフェンスの印象は大きく変わると思います。

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後半54分の柴戸がここで待つ関根にパスを出せた場面では、しっかりエリア内に侵入しシュートまでいくことが出来ていた。

ここで関根がボールを受けて前を向くと、彼には5つの選択肢が与えられます。ドリブルでの仕掛け、近くにいる興梠へのスルーパス、ファーで待つレオナルドにアーリークロス、大外に上がっていくであろう山中を使うこと、そしてミドルシュート。これだけの選択肢を関根が、もしくは長澤や興梠が持つことが出来ればお尻も浮いてきそうなのですが、今節では全くと言っていいほどこのポイントを使えませんでした(後半54分の柴戸→関根で関根がエリア内に侵入したシーンくらいでしょうか)。相手の組織を斜めに切り裂くパスなのでたしかにリスクは高いのですが、前半だけでも5回以上確認できた(暇だったら数えてみてください。一見パスコースがなくても浮き球で狙えそうな場面もありました。)このポイントにチャレンジできなかったことが今節の浦和のボール保持の停滞感に繋がっていた気がします。相手のフォーメーションにもよるので毎試合こういうポイントが出てくるわけではないのですが、オフザボールの選手、特に関根や長澤がこのポイントを意識的に取ってボールを呼び込むところまでは見えてきたので、あとは勇気をもってチャレンジする機会を作っていくのが重要ではないかと思います。

ちなみに逆転弾に繋がったシーンで指摘するべきことがあるとすれば、大分GKのムンキョンゴンにプレッシャーをかけ続けた利益がここで得られたと言えると思います。彼のキックミスで得たスローインを素早くレオナルドに入れて、一連の流れから焦った島川が遅れて対応したことで得たファールからのFKでした。ムンキョンゴンは良いセーブを見せてはいましたが、繋ぎの場面では右足に持ち替えられない弱点がところどころに出ていましたし、プレッシングからボールを奪えなくても(そして負っているリスク分のピンチを招いても)こういうシーンからチャンスを作り、得点をしていることを考慮すると収支はプラスなのかなという気がします。あとは、長澤に素早くボールを渡してくれたボールボーイさんのアシストのアシストのアシストもナイスプレーでした。

大分はこの時間帯レオナルドに連続してプレーさせてしまい、最終的には島川のファールから逆転されるということになりました。やっぱりレオナルドがゴールに向かってプレーしてたら独特の怖さがあるんだと思いますが、できれば大分としてはどこかで流れを切りたかった時間帯でした。

強いて言うならば素直だった大分

後半開始時に小塚に代えて町田を投入した大分。その後も前線を中心に選手交代を通じて攻めのカードを切ってきましたが、ゲームの構造は基本的に前半と同じであったと思います。前半との違いは左CBの三竿兄が積極的にWBに絡んでいくような高い位置を取っていたことでしょうか。前半も右サイドで岩田が高い位置を取ることが何度かありましたが、リードされた状態からスタートの後半は両サイドでCBが高い位置を取る場面がより多く見られたのではないかという印象です。

一方の浦和は、リードしているということもあり、後半に入ってからは比較的はっきりと右SHの長澤が最終ラインに入って守備をしていたように思います。ただし、大分の両サイドのCBが高い位置を取ると後ろが5枚になっただけでは数的不利に陥りますから、浦和はどこかからもう一枚を持ってくる必要があります。基本的にそれを担っていたのは柴戸やエヴェルトンで、4-4-2でセット→長澤が最終ラインに落ちる→3枚になったCHのうち2枚がサイドの攻防に加わる→バイタルは関根だけという状態が、特に後半の早い時間帯で多く観られたと思います。後半開始直後の三平の強烈なヘディングはバイタルエリアで浮いているポジショニングから遅れてゴール前に飛び込む形でしたが、442ゾーンディフェンスの原則からするとあの場面は関根がもう少し絞ってバイタルを埋めておき、三平が自由に飛び込めないような制限をしておかなければいけない場面でした。

後半開始直後~50分くらいまでの時間帯に大分の攻勢を受けた浦和ですが、最終ラインに入る長澤や高いカバーリング、対人能力を見せた柴戸等の活躍もありここを凌ぐと、50分~60分までは一進一退。浦和が2つ(柴戸が相手CHの逆サイド脇をとった関根にパスを通し、関根が興梠に当てつつエリア内へ侵入したシーンと、西川のパントキックから興梠が抜け出し、エリア内に飛び込んだレオナルドに合わせたシーン)、大分も2つのチャンスを作りましたがお互いに決めきれず、その後両チームは競うように互いに交代枠を使って「次の一点」を狙いました。

結果的には大分は同点に追いつくことが出来なかったわけですが、浦和側からすればヒヤッとする場面は大分が交代枠を使う前も後も作られていたと思います。ただ時間が経つにつれてはっきりとエリア内を固めだした浦和に対して、フルタイムまで大きくバランスを崩すことなくプレーしていた大分の姿はやや意外性に欠けるといった印象でした。左右のCBを高い位置に出すことでサイドで数的優位を作り、面白いクロスをいくつも上げるという面では狙い通りの攻撃が出来ていたとは思いますが、やはり何度も同じ形を狙ってしまうと受けるほうも慣れてくるので、浦和も最後の場面では槙野を中心に枠内にシュートを撃たせないような守備が出来ていたのではないかと思います。ブロックされたシュート6、枠外シュート9という大分の苦しいスタッツは、浦和の守備陣が最後の場面で破綻しなかったことの証明でしょう。

大分としては、90分でシュートを18本放ちながら枠内シュートは3つのみ、しかも三平の先制点を除くと町田の59分のヘディング(GK正面)と79分の半分クロスのようなボレー(難なくキャッチ)という内容ですから、やはり最後の局面が物足りないという印象になってしまいます。ただレオナルドが大分にいればどうだったかという話をしても仕方ないと思いますので、片野坂監督が今後考えていくのは最後にもう少しバランスを崩すならどこか、という部分かもしれません。特に後半は大分が左右のCBを前に出すことで最終的に浦和のバイタルが空くという現象が起きていましたから、ここからもう少しバランスを崩してボランチのうち片方を高い位置に残し、浦和のバイタルエリアで数的優位を作って波状攻撃を仕掛けるとか、マイナスの落しからミドルというような形があると浦和は本当に苦労したと思います。後半の大分が惜しかったのは後半直後の三平、59分の町田のドフリーのヘディング、そして88分の松本のマイナス気味のクロスを渡がシュートできなかったシーンだと思いますが、大分としてはこの3本のどれかは決めたかったところでした。大分が物足りないチームと言うつもりはありませんが、監督の戦術が整理され浸透しているチームにありがちな通り、やや素直すぎたのかもしれません。

浦和の方は、70分に左右のSHを交代してからの停滞感が強く印象に残りました。SHに入った両選手だけが悪いということではないのですが、噛み合わないとここまでボールが動かせませんというサンプルのようなプレーになってしまったのかなという感じがします。逆に言えば、前半の浦和はボール保持で圧倒した印象こそ皆無ですが、しっかりボールを動かせていたと言うべきなのかもしれません。レオナルドと健勇の特徴の問題、大外からスタートしたいSHの特性、そしてゲーム展開上高い位置を取っている場合でもない両SBの判断というのが重なって生まれた停滞感だとは思いますが、人が変わったことで(つまりうまくいく組み合わせでないと)ビルドアップやセットオフェンスが停滞してしまうということになると、選手を入れ替えて戦っていくのも億劫になってきますから、多少メンバーが変わっても空いているポジションを取り続けてボールホルダーに選択肢を与えるプレーを出していかなければなりません。これに向けて手っ取り早いのは健勇のプレーをもう少し整理することだと思いますが、詳細は後述します。

ということで、最後はなりふり構わず6バックで大分を跳ね返した浦和が勝利を収め、「なぜ勝てるのかよくわからん」という印象を各所に与えつつも、順位を暫定5位とし、勝ち点は23まで積み上げることに成功しました。

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3つのコンセプトに対する個人的評価

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は6点。何か戦術的な取り組みで選手の個人能力を解放したというわけではなない試合でしたが、特に前半のボールを動かしつつ最終ラインで勝負という局面を連続して作り出していた時間帯はエリア内の質勝負を相手に押し付けることが出来ており、浦和としては自分たちの勝ち筋に持ち込むという意味で良かったのではないかと思います。細かい部分を見るといろいろ語ることが多い試合でしたが、一言でまとめると個人能力の差が出た試合、となってしまうのは浦和側からしても大分側からしてもある程度は仕方ないかなと思います。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は5点。外されて前進されることが多かったですが、一方で大分GKムンキョンゴンのミスを誘って逆転弾へと繋げたことで4-1-2-1-2プレッシングの今節の収支はプラスと言えると思います。ゴールを決めた上に後半ロスタイムにフルスプリントで相手を追いかけたレオナルドや、中盤の数的不利をワンオペでなんとかしていた柴戸(走行距離今節1位)とエヴェルトン(同3位)の中盤コンビ、最終ラインでまさに壁となった槙野等々、戦う姿勢はしっかり出ていたのではないかと思います。今節僕が特に推しておきたいのは長澤で、今節はレオナルドとの連携、連動において新しい段階に入ってきたのではないかと思わせるプレーを見せてくれたと思います。同点ゴールの一つ前のレオナルドの落しに飛び込んだシーンで決めきれていれば完璧でしたが、その後の同点ゴールのシーン、そして逆転に繋がったスローインでのシーンと長澤とレオナルドが隣でプレーすることで新しい関係性が育ってきているのかなという気がします。長澤は今季のチームにおいては特にトランジションの面で強度と連続性を発揮できる選手として貴重だなと考えているのですが、崩しの局面でゴール前に関わってくれるとなるとだんだん外せなくなりそうです。逆サイドの関根も相手の中盤の脇で受けるポジショニングや大胆に中央に入ってレオナルドの近くでプレーする新しいスタイルが馴染みつつあるように感じますし、SHにゴールへ向かう積極性が出てくると攻撃に迫力が増してくるのかなという気がしています。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は4点。上記の一方で、ブロックを組んだところから相手を限定していくような、ボール非保持でのプレッシャーによる主導権は今節もなかなか見ることが出来ませんでした。やはりサイドチェンジしホーダイを許しながらも逆サイドは後追いで対応するというのは、J1で採用するにはちょっと無茶というか、難しいのかなという印象です。

このやり方、今節の大分で言う長谷川のように、もしくは神戸のサンペールのようにバシバシサイドチェンジが通せる選手を有さない水準の相手と、つまり下のカテゴリーで戦うなら非常に有効だと思います。例えば相手がフリーでも50%しかサイドチェンジを成功させられないとしたら、そんなプレーに対応するために予め選手を配置しリソースを割くのは単純にもったいないですから、大外を捨てるという判断は非常に合理的だと思います。しかし近年のJ1のレベルはフリーであればサイドチェンジの失敗はほぼあり得ないというレベルの選手がいても全くおかしくないわけですから、後追いで対処するのは仕方ないとしてももう少し出てくるところを制限したいよなあという印象は拭えません。今節は逆サイドに逃げられるというのが大分の選手たちのある種の自信のように作用した部分があると思いますし、実際にまたしても失点してしまったわけで、やはり何かしらの制限をつけたくなります。

例えば今節の先制点の場面では、香川へのサイドチェンジを蹴った岩田の対面は関根、本来のマークはレオナルドという立ち位置でしたが、ボールロスト後キープされてしまったからか誰もチェックに行けませんでした。立ち位置的には関根が詰めやすかった気がしますが、誰かうまくプレッシャーをかけられなかったかなという気がしています。そもそも、相手がセットしていれば4-1-2-1-2プレッシングにトライしてくれるレオナルドと興梠の2トップですが、トランジション、特にネガティブトランジションへの反応はかなり甘いと言わざるを得ません。本当は天を仰いでる暇があれば追えよ!って感じなんですが、あの二人の決定力と、それを支えるエリア内で使う分の体力は何物にも代えがたいので言えません。この辺に今季の浦和のジレンマがあるのかなあという気がしますが、まあ最終的には収支がプラスであればそれを受け入れれば良いのかなという気もします。理念上「2点取られても3点取って勝つサッカー」がしたいわけですし、もとよりリスクは承知の上でしょう、みたいな考え方が出来れば良いんですが、それにはもう少し攻撃力に信頼できるものが欲しいところですね。

攻撃力が試されるという意味では、次節はアウェーのセレッソ戦は大きな試金石になるのではないかと思います。順位的にもシーズン前半も終盤を迎える中で上位に留まるには非常に重要なゲームですが、浦和はルヴァンカップのリベンジを果たせるかどうかが見ものです。前回対戦時は1.5軍といったメンバーだったセレッソですが、次節はリーグ戦と言うことでフルメンバーに近いのではないかと思います。堅い守備とポジショナルなオフェンスという意味では今期の浦和が学ぶべきポイントを多々持っているチームだと思いますので、浦和がどういうゲームをするか、期待したいと思います。

 

今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。