96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

ブレイクスルーにはまだ早い:Jリーグ第14節 vsセレッソ大阪 分析的感想

早いものでJリーグも14節。10月に入るころには20節を超えていくペースで連戦が続く9月ですが、浦和はルヴァンカップ敗退の結果ミッドウィークの試合がなく、水曜日に試合のあったセレッソよりはコンディション的に若干有利という中で迎えたゲームです。

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ゲーム前の順位をおさらいしておくと、浦和は勝ち点23で5位。セレッソは27で2位という上位対決となります。リーグ全体でみるとコロナウイルス感染者クラスターが出てしまった鳥栖をはじめとして消化試合数がまばらですが、両チームはともに予定通り13試合を消化しているという状態です。ディフェンスを重視しているという意味で似たようなスタイルと言えなくもない両チームですが、浦和は柏戦や名古屋戦の大量失点の影響で得失点差は-2、一方セレッソは+5なので、セレッソと浦和の間には定量化できる力の差として勝ち点で4、得失点差で7くらいの差があるということになります。これがどの程度大きい差だと認識するかは人それぞれだと思いますが、セレッソは川崎戦を消化済み(しかも5-2で敗北)、浦和は第17節に予定しているという状況を踏まえると、得失点差で10くらいの差があるとも考えられ、勝ち点はともかくとしてチームの完成度や安定感では1段階、2段階くらいの差があると言えるかもしれません。

両チームのスタメンと狙い

スタメンはこちら。

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先月のルヴァンカップの対戦からは両チーム半分くらいの選手が変わっている

浦和側ベンチ:彩艶、岩武、岩波、青木、汰木、武藤、健勇

セレッソ側ベンチ:茂木、丸橋、奥埜、喜田、西川、鈴木、藤尾

浦和はベンチ入りする選手も同じということで、ケガの情報が入っている阿部や宇賀神を除けばこの18人が現在のベストメンバーと考えて差し支えないと思います。大分戦ではどのチームにも狙われている大外からの攻撃で失点したものの、ボール保持の部分でもぼんやりと狙いらしきものを見せ逆転勝利を飾ったメンバーですので、その手ごたえをセレッソ戦に繋げ、上位対決を制することで一段上のステージへチームとして登っていきたいという考えや雰囲気があったのではないかと思います。

対するセレッソはデサバトが故障で代わりに木本がボランチでスタメン。CBで出場している選手という印象が強いですが、ボランチも出来るんですね。CBをボランチで起用するのはサポーターの妄想トークでは定番という印象ですが、実現することはそこまで多くない気がするので、なんだか珍しいものを見た気分です。また前線ではブルメンやルヴァンカップで決勝ゴールを決めた豊川がベンチにもおらず、どうやら故障で使えない状況だったようです。試合前に報道が出ていた通り20歳のユース卒、喜田が初ベンチ入り、まだJリーグ出場のない藤尾、そして先月のルヴァンカップでJデビューとなった西川など、かなり若い選手がベンチに入っています。

上記、スタメン発表段階のプレビュー的ツイートですが、まあ考え方としてはだいたい合っていたのではないかと思います。ただ試合の見積もりとしては妥当だったと思いますが、実際のゲーム内容としては浦和が武器に出来そうだったセレッソのビルドアップに対する4-1-2-1-2プレッシングを見せる場面は少なかった気がします。この辺りはセレッソの考え方がどうだったか、ゲームを見ていく中で観察したいと思います。

仕方なく

前半がどちらのゲームだったかと言えば、概ね浦和のゲームだったように思います。開始直後に松田のクロスがゴールを横断して少しヒヤッとしましたが、その後はどちらかと言えば浦和の方がやりたいことを見せていました。浦和はセレッソがGKからビルドアップする局面ではルヴァンカップと(そしてこれまでの他の多くの試合と)同様にエヴェルトンが前に出て中盤がひし形となる4-1-2-1-2プレッシングで嵌めに行きます。これまでのゲームを振り返る中でも度々言及していますが、このプレッシングはボールを奪いきるというよりも後追いになってもサイドに追い込みつつ相手のボールホルダーの時間を削ることで苦し紛れのパスを出させ、中央で回収で回収するのが狙いです。セレッソは何か特別な対策を準備してくるかと思いましたが、あまりそういったものは観られず、無理につなぐなら蹴ってしまおうということでキムジンヒョンから前線に蹴ってしまうシーンがルヴァンカップよりも多かったと思います。それ以外の場面ではセレッソのつなぎに対して浦和のプレッシングがそこそこ嵌っており、前線に蹴らせて回収、中央で回収といったシーンを前半だけでも数回作れていたので、前からの追い込みという意味ではリスク以上のリターンを得ていたと思います。

浦和のボール保持ではセレッソの堅いディフェンスが目立ちました。基本的に前からは追わず、ブロックを作って待ち構える守備ですが、逆サイドのSHのスライド、サイドにボールが出たときに生じるSB-CB間のチャンネルをCHが埋める原則の徹底など、ゴール前を固めることについてはJリーグで随一と言って間違いないでしょう。

こうなると浦和が問われるのはオフェンスの質ということになりますが、これまでやってきたことは見せられたものの、そうでない部分には引き続き課題を見せたという内容だったと思います。前半5分には4-1-2-1-2プレッシングから山中が中央でボールを回収し、エリア内の関根に鋭いスルーパス。6分には大外を取った橋岡からインサイドに入っていた長澤へ、長澤が前を向けると2トップと関根が中央へ入り込んでゴールへプレー、10分には攻め込んでからのネガティブトランジションで清武に素早く寄せてボールを奪って長澤がシュート。12分には大外でボールを持った山中から中央→外の動きで抜け出した関根へのスルーパスが通り、折り返しにレオナルドがシュートできればというシーンを作るなど、特に序盤はボール非保持の状態から前向きにプレーすることで相手ゴールに迫るという部分や、これまでも形として現れていたレーンを意識したオフェンスはある程度発揮できていたのではないかと思います。加えて、浦和と違ってセレッソは相手GKまでFWがプレッシャーをかけることはほとんどないので、西川からのフィードで一気に中盤まで前進することが出来ました。レオナルドが毎回毎回GKにプレッシャーをかけて外されるのを観ているとどうなんだろうと思うこともありますが、行かなければ行かないで相手GKの配給能力を制限できないというデメリットがセレッソ側に出ていた気がします。まあその後はディレイからブロックを作り、守れてしまうのがセレッソの良さなのですが。

セレッソのチャンスは25分~29分のFKが3本続いた時間帯。25分に柿谷が落としたボールを都倉がトーマスを背負いながらキープして1本目のFK。坂元にシュートを撃たれるもののブロックするも、そのこぼれ球を清武にキープされて2本目。これをやり過ごすと、今度はセレッソのビルドアップで松田がボール保持、清武が裏に抜ける動きで浦和のディフェンスを中央に集めると、松田がサイドチェンジ。ボールを受けた片山がドリブル突破し3本目のFK獲得という流れでした。

このピンチを凌いだ浦和は、再びボール非保持から仕掛け、オフェンスに過度なリスクをかけないセレッソからボールを奪い攻めていくという展開でゲームを進めます。セレッソも上手くいかなければ自分たちが得意なセットディフェンスでやり過ごせばよいので、このあたりは両チームの間で利害関係が一致していたとも言えるかもしれません。浦和は序盤のようにファストブレイクから攻め込みたいところでしたが、ボール保持において過度に配置を壊さないセレッソはネガティブトランジションの対応が整理されており撤退とディレイが早く、浦和はそれを上回るものを見せることが出来ませんでした。従って、ある意味で仕方なく浦和のボール保持の時間が長くなっていくことになります。

清武と興梠―同じ役割と組織としての機能性の違い

4-4-2を基本としたブロック守備がチームのベースになっているという意味では似たようなスタイルを掲げるチーム同士の対戦ということで、逆に言えばお互いにボール保持で何を見せることが出来るかが問われる対戦であったわけですが、両チームが見せた回答もまた似たようなものだった気がします。

セレッソ側に今節用の特別な対策はなかったように思いますが、ルヴァンカップでの対戦との違いを挙げるとすれば清武の先発でしょうか。ルヴァンカップでも後半途中から出てきて浦和を苦しめた清武ですが、この試合でも先月と同じように中盤の、長澤と柴戸の間のポジションに降りることでマークから浮いてビルドアップを助けるシーンが非常に多く出ていました。浦和もそれはわかっているので、特に柴戸が意識的に清武を捕まえるようなマークをしていましたが、単純に枚数の不足が起きる分はカバーのしようがなく、セレッソのボール前進を引っ掛けたい浦和にとっては非常に厄介だったかなと思います。

清武が頻繁に中盤に降りてボール保持を助けていたように、浦和のボール保持ではこの試合相当な頻度で興梠がトップから降りる、またはサイドに開いてボールを受ける動きを繰り返していました。武藤や健勇がレオナルドの横でプレーするときと比べても相当に多い頻度と移動距離だったので、興梠の中である意味での割り切りがあるのかもしれません。実際、彼が中盤に降りることで最終ラインのパスコースを一つ増やし、難しい繋ぎになった場面でもボールをキープし、マイボールを維持していくというプレーがセットオフェンス、速攻の場面に関わらずに頻出していました。

セレッソにおける清武にしろ浦和における興梠にしろ、単純に言えば一番上手い選手がこの役割をこなすという構図だと思います。ボールを受けてキープする、そこから遠いところ、近いところにパスコースを見つけてオフェンスをデザインできる選手というのはやはり特別で、誰にでも出来るものではないのだろうなと思わさせられます。ただ両者の違いを挙げるとすれば基本ポジションで、清武はSHで出場していますから中盤でゲームメイクをするにしても役割の範疇と言えますが、興梠はトップから降りてきて中盤の仕事をするわけで、浦和としては興梠が降りることで前線が少なくなるし、それを補うためにまた別のポジション移動が必要になってバランスを崩すというか、本質的に何が重要なんだっけ?という状況になってしまうのは痛いところです。

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他にも、興梠が左サイドの大外に流れるパターンも今節は何度かあった。

たしかに、配置のバランスから言えば、2トップの片方(つまりレオナルドではない方)とSHの選手で、相手のボランチの脇を取る意識が強いあまり同じポジションで被ってしまう現象はここ数試合何度か観られていました。また中盤の構成はCHの2枚とSBの選手のどちらかが中央に入ることで逆三角形を作るような立ち位置が基本として目指すものと思われますが、興梠が降りることでこの形が上手く形成される場面は多かったと思います。なのでやっていることは悪くないのですが、その代わりに興梠がゴールから遠ざかるというのは今季の浦和の持つ最大の強みであるトップの質を手放すことに繋がるわけで、これが本当に良いのだろうか?という疑念は拭えません。もちろん興梠はその辺も分かっているので、パスを捌いた後は素早く前線に入っていくのですが、これによってセットオフェンスにおいて全体を機能させるために興梠だけ他の選手と次元の違うタスクをこなす、という状況になっていたように思います。これが出来る選手を保有していると理解するのか、もっと違うやり方があるのではないかというのはなかなか難しい命題です。

例えばレオナルドは今季のチームにおいて明らかに限定的な役割を負っている選手で、基本的にゴール前で勝負する、得点するという部分に彼の役割とプレー原則の大部分が割かれています。中央から移動はしないし、最後に自分がシュートを撃つためにプレーするので、ビルドアップに加わることはほとんどありません。それでも驚異的な決定力でゴールを量産しているわけですから彼のプレーに関する収支は取れていると言えますが、その分他の選手が彼にボールを届けるまでの部分に貢献しなければならないという構造を浦和は抱えています。本来であればSH、CH、SBの選手がチャンスメイクを出来れば良いのですが、14本のシュートを放ってブロックされた数が8、枠外シュートが5、枠内シュートはわずか1という結果から言えば、セレッソの堅牢な守備組織を崩すにはこのメンバーでは足りなかったということでしょう。

ちなみにセレッソのシュート数は11、枠内は3、枠外が4、ブロックされたものが4という結果になっています。3-0になるゲームのスコアとは思えないスタッツが両チームに出ていることを考えても、こういうサッカーを志向する以上このくらいの結果になることが多いというのは理解する必要がありそうです。一方で数字に表れない印象の部分で浦和が攻め手を欠いたように感じられるかたわら、セレッソのオフェンスはある程度機能していたように思われます。これは同じ4-4-2をベースにしながらもセレッソには両サイドにドリブルで勝負できる選手を置いており、1on1を大外で作って勝負という選択肢を持っていたことが要因ではないかと思います。セレッソは右SHの坂元が基本的に大外を、左サイドでは中央に入る清武の代わりにSBの片山が大外からドリブルで勝負できます。両サイドにドリブルで勝負できるポイントを用意しておくことで(数が多くはない)オフェンスがパスだけにならないようになっていたセレッソに対し、浦和の今節のメンバーを見ればドリブルを期待できそうなのは関根のみ、その関根も上述のように中央に入り込んでプレーするという状況でしたので、停滞感の違いもさもありなんという気がします。

強みと弱みの噛み合わせ

前半ラストプレーで山中のアーリークロスがあと少しでレオナルドに合うかという場面を作ったものの効果的なシュートを撃てずに前半を終えると、後半開始直後にセレッソが先制。浦和は直前でボール奪取からファストブレイクを仕掛けたいという場面でしたが、橋岡のパスミスでロスト、それを後半から登場した奥埜→清武と繋がれてサイドチェンジを許すと、浦和の左サイドでの坂元vs山中の1on1からファーにクロス、高い打点で都倉が難しいヘディングを合わせてゴールというものでした。この場面、結果的にセレッソの強みと浦和の弱みが噛み合ってしまった場面だったと思います。セレッソの右サイドの勝負役である坂元と守備に不安を抱える山中とのマッチアップはもちろんのこと、橋岡のファーに来たクロス対応の課題が出てしまいました。清武のサイドチェンジが出てから浦和の最終ラインが逆サイドにスライドするわけですが、橋岡はクロス対応のためにゴール前に入っていく過程で一度も都倉を目視していません。クロスが入った瞬間の橋岡の対応はヘディングでクリアが30%、残りの70%はボールをスルーしてゴールキックを得るという考えだったように思いますが、橋岡としては突然都倉が出てきて競り合うことも出来なかったという状態だったように見えました。橋岡は柏戦でも逆サイドから自分のファーに飛んでくるクロスに対してマークマンを確認せずにヘディングを決められていますが、彼の対応とゴールを決められたという結果において言えば柏戦の失敗と同じような形でゴールを許してしまいました。ヘディング自体は何人のJリーガーがあれを決められるんだろうという感じの難しいゴールでしたし、試合後に都倉が語っているようにセレッソにチームとしてファーにクロスを上げようという設計はなかったように思われるためあくまで「結果的に」なのですが、あのファーへのクロス対応は今すぐにでも改善しなければいけない課題だと思います。

--ファーサイドで、坂元 達裕選手のクロスをヘディングで合わせたゴールの形については?
あの形に関しては、タツ(坂元)は1対1の勝負だったら、何かしらの仕事をしてくれる。あの角度では、おそらくクロスが来るというのがあって。ハーフタイムでも、僕がいるので「シンプルにセンタリングを上げよう」という話があった中での一発目のプレーだったので、タツも割り切って、自分の得意な左足で上げてくれました。僕自身、タツの特長は分かっていたので、あの瞬間は、ファーサイドにクロスを上げる体の向きで、その特長をあの瞬間に感じ取れたので、良い準備をしながら、自分のストロングを生かすことができました。ヘディングも、自分自身のコンディションが上がっている中で、自分の強さ、滞空時間、体幹の強さ、そのすべてをあのヘディングに凝縮できたかなと思います。

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 ロティーナ監督をはじめとしたセレッソベンチがどこまで、そしてどのように浦和の弱点を分析していたかわかりませんが、トーマスのサイドに都倉を配置し槙野との勝負を避けたように、誰の眼にも明らかな浦和のチームとしての取り組み以外にも、選手の特性の部分もだんだんスカウティングされているような気がします。トーマスは素晴らしいディフェンダーですが背負われるプレーに対して大人しい対応になることが多く、今節も都倉に何度も起点を作らせてしまいましたし、橋岡に関してはこの失点のようなファーサイドへの対応(もしくは視野をリセットされた場合の対応)にまだ課題があります。

これらは細かいポイントですが、こういう部分を意図して狙える選手がいるチームには今後も狙われるでしょうし、大外をあえて捨てているチームとしてはクロス対応に課題を残したままでは失点数はなかなか減りそうにありません。

浦和は58分にネガティブトランジションでボールを奪いきってからの長澤のクロスにレオナルドがゴール目の前でヘディングを空振りという非常に惜しいシーンを作りましたが、これが不発に終わると61分に選手交代。興梠→健勇、関根→武藤を投入し状況打開を図ります。先制後のセレッソは少し引いて構えている部分もあり、同点に追いつきたい浦和が押し込む構図が多くなってきた時間帯でした。浦和は珍しく左のSHに入った武藤がボールを引き出し、山中からのクロスというシーンを何度か作りましたがこれに合わせることが出来ず、状況を打開するために大槻監督は70分に長澤に代えて汰木を投入。武藤を右に回し、左サイドは汰木-山中ラインで攻略を図るという考えだったと思います。

しかしここでセレッソが追加点。汰木の交代直後のセレッソボールのスローインからボールを保持されサイドチェンジが2回入ると、またしても坂元vs山中の1on1。先制点を演出した左足でのクロスを意識させてからの必殺の深い切り替えしに山中がバランスを崩すと、そのままエリア内に侵入した坂元のクロスがトーマスに当たってゴールイン。オフェンスに課題のある浦和とディフェンスに絶対の自信を持つセレッソの対戦においては決定的となる2点目が決まってしまいました。

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ただこのサイドチェンジまでのプレーに浦和側の間違いはあまりないのがつらいところ。強いて言えばプレーがはっきり切れるまでは武藤を左サイド、汰木を右サイドでプレーさせるのが正解だった?ちょっと改善策は難しい。なので、山中抜かれんなと、汰木ちゃんとサポート行け、が指摘としては全うかなと思う。

このシーン、浦和は本来であれば少なくとも2本目のサイドチェンジはもっと制限すべきでした。汰木が交代で武藤の代わりに左サイドに入る前にリスタートしていたことから浦和の2列目は並び順が混乱しており、プレッシングに行くことが出来ずにボールをフリーにして構えてしまいました。ちなみにボールに一番近かったのは健勇でしたので、中盤がついてきていなくてもここは健勇にプレスバックして限定してほしかったということも言えます。で、サイドにボールが出ると汰木がサポートに行くのですが、2on1で挟み込むでもなく、山中に縦を切らせて中は自分が埋めるでもなく、中途半端に近づいただけとなってしまい、人数で勝っているのに1on1で勝負するというゴーストオブツシマのモンゴル兵みたいな状態でやられてしまいました。

実質的に試合を決めたこのゴールの後は、槙野を上げてのパワープレー等で抵抗を見せたものの最後は途中出場の岩武と西川がルーズボールの処理でミスコミュニケーションし、この試合がJリーグデビューとなった藤尾に流し込まれてジ・エンド。

ゲームの構造としてはこれまで積み上げたてきたものを武器に戦ったものの相手の質が高く、強みと弱みの噛み合わせの部分から劣勢に立たされたという意味では妥当とも言える敗戦です。しかし、今季ここまで明確な改善の芽がなかなか出てこないボール保持の質を問われ続けた上にいつもと同じような形からの失点、最後は安っぽいミスからの失点もおまけでついて、非常に印象の悪い試合になってしまいました。

3つのコンセプトに対する個人的評価

採点。

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は3点。今節はセレッソのブロックが堅かったことで特にオフェンス面の課題が強調されることになりました。本文で触れた通り、「立ち位置を取る」ことと「ボールを繋ぐ」ことの間で、そして出場している選手の出来ることと出来ないこと、役割の関係性の中で、得点するために今の形が最善とは思えない状況です。攻撃面で期待できるキャラクターを持つ選手がいる中で、彼らの良さを引き出せていないという面では「個の能力が最大限に発揮された」とは言い難いところです。もちろん今季のチームは守備、そしてトランジションの部分で連続性をもって戦えることの優先度が高いわけですから、今節の結果を以て強度の足りない選手を使おうという話にはあまりならないのではないかと思いますが、大槻監督、そして槙野の試合後のコメントを見るに、さすがに守備とポジティブトランジションの強調だけで今後も戦っていくとは考えづらく、時間のない中ですが徐々に大槻レッズも得点、ボール保持の部分に手を加えていくような気がします。

[ 大槻 毅監督 ]
先に(点を)取られて難しい試合になりました。(C大阪の)1点目、2点目の対応も含めて、われわれのほうで難しくしてしまったところがありました。攻撃のところで言うと、セレッソさんの質の高い守備の前で、もう少しわれわれも質の高いところを出せなければいけないなということを感じたゲームでした。また次のゲームがやってきますので、しっかりとやりたいと思います。

DF 5 槙野 智章

--トレーニングでやってきたことが試合の中で発揮できているか、もしくはうまくいってないかの感覚は?
正直、僕たちはアクションよりもリアクションサッカーをしていますので、どちらかというと自分たちで相手を崩す練習よりも、今日に限ってはC大阪がどういうふうに攻めるかというのを抑える練習をやってきたつもりです。相手のしてくることを抑えることはできましたけども、自分たちがボールを保持する中で、どうやって崩すか、どうやってゴールに向かっていくかのアイデアが少し足りないのかなと思いますので。相手がどういうふうなことをするかを抑える力は持っていると思います。次のステップに向けて、自分たちがどうしないといけないのかというところが1つの課題かなと思っています。我慢強さとかそういうところはできているかなと思います。

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「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は5点。オフェンスが枠内シュート、そしてゴールとして報われることはなかった今節ですが、4-1-2-1-2プレッシングを通じたボールの回収や、攻撃後のネガティブトランジションで相手を囲み即時奪還から相手ゴールに迫るという今季の浦和のコンセプトの根幹に近い部分のプレーは複数回観られました。この面では前向き、積極的なプレーが出来ていたと思いますし、試合を重ねるごとに平均的なプレーの精度やコンセプト通りのプレーが出る回数は増えているような印象があります。ボール保持の部分での停滞感や何度も同じ形で失点してしまうというあからさまな課題と安定しない結果がネガティブな印象となって細部を覆っている感じがする今季のレッズですが、コンセプトの根本、中心に近い部分と思われるプレッシングや切り替えの部分で優位性を取りに行くことについては強みと言えるようになりそうなところまで来ていると思います。問題は、この積み上がりつつある、しかしいびつな土台にオフェンス面の課題克服という建屋を乗せられるかどうかで、今のメンバーはトランジションやディフェンスの部分、そして単純にプレー強度の部分で信頼されているメンバーですから、これらをある程度犠牲にしてまでオフェンスの機能性や能力を取るのかどうか、というのが大槻監督の次の悩みになるかもしれません。守備も最強、攻撃も最強を実現するには圧倒的に格の違うタレントを用意するしかありませんが、それが叶わない中で大槻監督がどんなトレードオフを受け入れて最終的にどんなバランスのチームを作り上げるのかというのは今後興味深いポイントだと思います。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は4点。 基本的には上記2.の部分と同じ評価ですが、失点の時間帯が悪かったことで、前半一定程度は浦和のサッカーにめんどくささを感じていたであろうセレッソをかなり落ち着かせてしまったのではないかと思います。また2失点目も交代でオフェンスのカードを切った直後ということで、エンジンをかけ直してギアチェンジをしようというタイミングで突き放されてしまったのはセレッソをかなり楽にさせてしまったでしょう。3失点目はもちろん、2失点目も防ぐことができた類の失点だと思いますが、同じような戦い方を自分たちより長く継続している相手に対して多少の無理をしながらもなんとか食らいついていた中でああいうミスをしては勝ち点は取れないですし、まして守備から入っていこうというチームでは起きてはいけない失点でした。

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というわけで、浦和の順位は7位に後退。これをどう見るかですが、個人的にはまあまあの位置につけていると思います。前半戦残り3節の対戦相手は鳥栖、札幌、川崎ですが、少なくとも自分たちより下位の2チームに勝てばACL圏内を目指すのも現実的な順位や勝ち点の積み上げペースに追いつくことが出来るのではないかと思います。リーグ全体の順位としては、独走の川崎に加えてセレッソFC東京が2位グループとして抜け出すような形になってきました。4位の名古屋も含めた4チームの立ち位置は今季の試合を観ていても今のところわりと妥当な順位だと思います。浦和としてはこの次のグループとして後を追いつつ、チームの完成度を高めて上位争いに絡めれば最高という感じでしょう。

依然としてわかりやすい課題を残したまま戦うしかない状態のレッズですが、ここまでの文脈を僕なりに考えると、ルヴァンカップセレッソ戦→名古屋戦の大敗、ガンバ戦の勝利→神戸戦の敗北、そして前節大分戦の勝利→今節の敗北と、何等かの手応えを得られた次の試合が上手くいかない、負けてしまうというパターンが多いように感じています。それぞれ対戦相手や日程などいろいろな要素が絡み合っての結果なので何とも言えませんが、チームとしては掴みかけたものを手放すというか、新しいステージに踏み入るための最後の壁を破れないというような感覚があるのではないでしょうか。相手を嵌めるプレッシングやブロックで中を固めてからの大外対応のスライド等、課題を抱えた中でも同じ戦い方を続けることでピッチ上の現象は徐々に改善されている気がするのですが、結果として連勝がなければ勢いはついてこないですし、何より結果が続かない中で今節のようにあからさまに課題となっている部分を問われると、特に選手たちの中で自分たちのやり方そのものに疑念が生じてもおかしくありません。

何か突き抜けたような成長や前進を示すブレイクスルーは、それを起こすことが難しいだけに価値があるわけですが、まさに今節の浦和は「ブレイクスルーにはまだまだ早いよ」と言われてしまったような敗戦だったと思います。試合後のコメントでは槙野がはっきりとオフェンス面の課題を口にしましたが、おそらく選手がオフェンス面の課題に言及したのはこれが今季初めてだと思います。選手たちの間でもそろそろ攻撃がやりたいというか、いい加減手をつけませんか?という雰囲気が出ているのかもしれません。

こういったことを踏まえると、今後の浦和を観るうえではいかにブレイクスルーを起こすのか、という部分が気になってきます。攻撃のために守備のバランスを崩しては元も子もない中で、どうやってディフェンスとトランジションというここまでの土台にセットオフェンスの質を加えていくのか。大槻監督は簡単にはぶれない人なので基本的にはこれまでと同じ戦い方を続けていくのだとは思いますが、浦和は今後どのような戦いを見せていくのでしょうか。そして、連戦の中で進化する姿を見せることは出来るでしょうか。

次節は中3日でホームに鳥栖を迎えます。

 

今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。