96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

秩序をもたらすもの:Jリーグ第18節 vs横浜FC 分析的感想

前節清水に1-2で勝利した浦和。終盤にまたしてもクロスからの失点を喫しましたが、ひとまず後半戦を勝利でスタートすることができました。今節はホームに横浜FCを迎えての対戦。次節がFC東京との上位を伺う対戦ということを踏まえても今節の取りこぼしは避けたいところ。

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得失点、勝ち点ともに浦和を下回っている横浜FCですが、ビルドアップを中心に下平監督のデザインを強く感じさせる論理的な戦いぶりは健在で、前節は川崎を相手に敗北したものの2-3とスコア上は浦和よりも健闘したということも出来ます。ちなみに、前回対戦時は3-1-4-2を採用していましたが最近は4-4-2で戦っています。

両チームスタメンと狙い

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試合後の下平監督のコメントによると、皆川の1トップにレドミのトップ下という、4-4-1-1気味の配置だった模様。個人的には、4-4-1-1になっている時間は多くなかった気がするけど。

浦和ベンチ:彩艶、宇賀神、マルティノス、汰木、長澤、興梠、武藤

横浜FCベンチ:南、田代、斎藤、瀬古、佐藤、斉藤、一美

浦和は前節から5枚のスタメン変更。橋岡の代わりにトーマスが先発し、中盤は川崎戦に先発した4枚を起用。トップには健勇が入りました。ベンチメンバーには大きな驚きはなく、前節メンバー外のトーマスがスタメン入りした分武富が招集外となった程度でした。連戦の中でもメンバーが変わらないということは、単純に考えればゲームの質を担保するにあたって信頼できるメンバーがこの18人程度に限られている、という考え方もできますね。

横浜FCは前回対戦時から大きくメンバーが変わっており、最終ラインには伊野波の名前が。浦和ユース出身者では松尾は先発したものの前節J1初ゴールを決めた佐藤謙介はベンチスタート。2トップは今季あまり見たことのない皆川とレドミの組み合わせ。レドミを観るのは久しぶりですが、前節川崎戦のパフォーマンスを見る限りトランジション強度やスピードは落ちているとしてもオフェンスの質に関しては警戒が必要です。

 結果的に横浜FCが4-4-2を採用したため、上記のツイートは参考以下にしかなりませんでしたけど、まあこういう情報もあったよ、ということで。まあでも、「戦術で外された」とも言える試合だったかもしれませんね。

次の課題

サッカーを観ていく上で、キックオフの振る舞いはチームがやりたいことを端的に示すことが多いと教えてくれたのはらいかーるとさんの『アナリシス・アイ』ですが、今節はその通りになった試合だと思います。浦和のキックオフで始まったゲームは、横浜FCがその直後からプレッシャーに出てこず自陣に構えたことで、浦和は相手を見つつボールを保持し、最終的には岩波が健勇に長いボールを入れる形でゲームは動き出しました。

結論から言えばボールを持たされることになった前半ですが、これにはいくつかの見方があって、横浜FCが「自分たちがボールを保持しそれを浦和が狩る」展開を嫌ったともとれるし、レドミをスタメン起用していたことでプレッシングが難しいため、消極的に構えるしかなかった、と考えることも出来ると思います。

僕が試合中に上記のようにツイートした一方で、試合後のコメントでは下平監督が「レアンドロが先発なのでプレッシングは難しいというのはわかっていて」とコメントしており、これを素直に受け取れば消極的に構えたということになるのでしょうが、それにしても浦和と戦う上でプレッシングを浴びるのかボールを持たせて困らせるのか、どちらの方が効果的かは明らかなので、結論としてはつまらないですが、両者の状況やパワーバランス、特徴がそうさせた、というのが妥当なのでしょう。

どういう意図であれ、ボール保持を問われることで浦和が苦しむというのは予想出来たことで、今季の対戦で言えばFC東京セレッソ大阪との対戦で同様浦和は困っていましたし、これまでの時間の短いトレーニングの中でも主に攻守が移り変わる局面、トランジションを重視した意識づけが行われ、それに沿って激しいトランジションに耐えうる選手を中心に今季を戦ってきたのが浦和です。その過程でボール保持の練度については後回しというか、優先順位が低くなっていたのが現実だと思いますし、それはチームがここまで勝ったり負けたりする中で現象としても結果としても現れてきていたと思います。というわけで浦和としては、横浜FCが自陣から繋ぐビルドアップを追い立てる展開を作りたかったはずですし、その通り横浜FCボールの際は前から追いかけていました。ただ実際にはゲームの大部分で構える相手をどう動かしゴールに迫っていくのかという「トランジションの次の課題」を問われる前半となり、従って順当に困っていく浦和なのでした。

ゲームの展開を追うと、3分に槙野が運び出すも近くの選択肢を失い、狙っていたのかわらないフィードを前方へ。健勇は特に動き出していなかったものの素早い反応で抜け出すと、小林と競り合いつつ絶妙な位置に流れたボールをフリーでミートするも枠外。6分には関根からパスを受けた健勇がエリア内のレオナルドへ合わせようとしますが繋がらず。その2分後には柏木の「らしい」浮き球をレオナルドがヘッドで合わせようとするも、これも繋がらず。11分に中央を突破した安永のミドルシュートがポストに直撃するまでの時間帯は、浦和がぎこちないながらも横浜FCのゴールに迫っていくという展開だったと思います。

ボール保持の原理:先手を確保する重要性

両チーム同じ4-4-2を採用していた今節、浦和と横浜FCがやろうとしていたことは基本的には同じで、4-4-2のブロックの大外に選手(主にSB)を配置し、SHはハーフスペース付近に入り込み、ライン間で縦パスを待つ形。そこまでボールを届けるのはCBとCHの役割で、CHの一枚が最終ラインをサポートすべく降りていくのもほぼ同じです。

違ったのは機能性の部分で、如何に効果的な、原則的に正しいポジションをとってもそこにボールが入らなければ相手は動かせないし、また相手を動かすのにパスだけでは不十分です。この点で最も端的に違いが表れていたのは最終ラインからの持ち運びでした。これは大槻監督が今季かなり意識的にコーチングを行っているのが聞こえてきますが、相手のブロックがどういう並びであれ、相手が塞いでいるスペースを空けさせるためには相手を引き出す必要がありますが、自分が相手にとって脅威でなければ相手はわざわざ動いてくれないので、自分からアクションを起こす必要があります。

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この運ぶドリブルのスムーズさが、ビルドアップの質に大きく関わる。CHが最終ラインに降りるのは2トップに対して数的優位を作り、最終ラインの誰かの前方を空けることと、味方が運んで行った際のカバーリングも兼ねる。

横浜FCはさすがJ2をボール保持戦術で勝ち抜いて昇格しているだけあってこの辺りはかなりスムーズで、ボールホルダーの前進によって対面の守備者をその場に釘付けにすることから攻撃がスタート。最終ラインからの持ち上がりをベースに全体が押しあがり、対応が後手後手になる浦和がブロックを崩したところにパスを付けることでブロックの中に侵入、パスを受けた選手が素早くターンして前への選択肢を持つことで同様に対面の守備者―ここまで前進できればそれは浦和の最終ライン―に仕掛けていく、といった感じ。自らのアクションで先手を打つオフェンスが成立していました。

では浦和はどうだったかというと、頻繁に発生していたのは以下の状況でしょう。

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ちなみに、比較的ボールを運んでいく意識が高いのは槙野だが、槙野が運んでいるときに受け手になるべき味方の選手が降りてきたり、立ち止まっていては効果が半減する。せっかく相手の守備者に影響を与えたのなら、そのすきに有利な立ち位置を取らなければいけない。

浦和の最終ラインは、CHがサポートして相手の2トップに対して3枚の数的優位の状態になってもドリブルで相手の2トップのラインを越えていくことが出来ません(もしくは回数が少ない)。従って相手のブロックを組んでいる選手たちは浦和の最終ラインを脅威に感じておらず、相手の対応のためにその場に立ち止まっている必要もなく、パスが出そうなポイントに早めに対応することが出来ます。つまり、守備側が先手を打てる状況です。で、この状況ではパスも出てこないので、前線の選手がボールをもらいに降りていきます。するとパスは出せますが、このオフェンス側の選手が勝手に攻めるゴールから遠ざかっていく状況は基本的に怖くないので、横浜FCのブロックは結局動きません。するとボールが次の選手にわたっても状況は変わらず、それどころか前線の選手が一枚減っているので攻撃側の選択肢が少なくなってしまいます。さらに悪いことに、ここでボールを受けた選手(大抵はCH)もボールを運んでいけない場合は最初と同じことが起きるので、さらに前線の選手(SH)が降りてきます。ここまでくると前線にはFWしかいない上に相手のブロックは全く動いていないので、ブロックの中に攻めることも出来ずサイドにパスを出すわけですが、状況は何も変わらないので攻撃の選択肢はそのまま前線にボールを放り込むかボールを下げてやり直し、となるわけです。

で、これでは埒があかないのでサイドを変えるわけですが、そもそも相手が迫ってこない状況で先手を打てるのは守備側ですから、長いボールには素早く反応できるわけで、サイドが変わっても大してボールホルダーは優位を得られない…ということになります。

これはお互いのゴールを狙う球技全般に言えますが、ボールを持っている方が自動的に先手を打てるかというとそういうことではなく、ボールホルダー、特にサッカーの場合はオフェンスを組み立てる最初のボールホルダーになることの多い最終ラインの選手がボールを運び出すことが出来なければ、ここまで観てきたようにブロックを組む相手には効果的なアクションを起こせない、という原理があります。

もちろん自分の後ろにほとんどサポートがいない状態でドリブルで前進していくのはボールホルダーにとってはリスクですが、そのリスクを負わなければボール保持から攻撃を組み立てることは難しいわけで、それがまさに、今節浦和が陥っていた構造的な苦しみでした。このリスクを負わないのであれば、相手のブロックの外から完璧なボールをフォワードに通すか、相手が自分から形を崩してボールを奪いに来るときに出来る隙をうまく突くしかなくなるわけです。

窮地

そうこう苦労していると、浦和は15分に失点。ゴールキックからのリスタートをCBに繋いだところから、リターンを受けた西川のフィードが手塚に直接渡ってしまい、前方の松尾へ。岩波が対応しますがコースを消しきれないでいると、鋭いミドルシュートがファーへ突き刺さってしまいました。松尾のシュートは素晴らしかったですが、単純に西川のキックミスからの流れなので失点として安すぎるし、ボールを持たされて苦しんでいる試合の流れからしても絶対にやってはいけないミスをしてしまった、という感じです。あの場面で西川がどういう判断をしたのかわかりませんが、もしかするとこれまでの展開の中でブロックを組まれてしまうと崩せないとわかっていたので、多少のリスクを負っても横浜FCの守備を前に誘い込んで間延びさせたいという考えがあったかもしれません。それにしてもデータとして今季の浦和は先制点を許すとほとんど勝てないという事実がありますから、失点という形で顕在化したこのプレーの孕むリスクは大きすぎたというほかありません。

これで試合はかなり苦しくなってしまいましたが、追いつくために浦和も攻勢を強めます。18分には4-1-2-1-2プレッシングで相手のビルドアップを狩ったところからレオナルドがエリア内でターン、シュートまで、21分にはクリアボールを拾った関根が自陣ゴール前から運び、柏木へのサイドチェンジからクロスに健勇が飛び込んだシーンなど、やはり今季これまで浦和の強みとなっていたトランジションの局面をベースに攻撃を仕掛けていきました。

もっとも、ゴールに迫れたのはこのくらいで、基本的には先制した横浜FCペース。上述の最終ラインからの運びに加えて、ブロックの間、間に立つ選手を積極的に使いボールを出し入れするオフェンスで浦和のゴールに迫る、という時間が続きます。ただ浦和としてはブロックが多少動かされた程度であればゴール前で粘って防ぐということはこれまでもある程度できていましたから、展開としてはゲーム前の予想通りの展開が表出してきた時間帯だったとも言えると思います。

しかし飲水タイムを挟んで、34分にまたも松尾。左サイドに流れたレドミのとんでもない質の右アウトサイドキックが裏抜けを狙った松尾の足元へ。西川との1on1を冷静に制した松尾がゴールを決め、浦和は枠内シュート2本で2失点を喫することとなりました。この場面、柏木が直前に目元を負傷してピッチを出ており、大槻監督の指示で健勇が右SHを埋めていた場面でした。まさかそれを狙ってではないと思いますが、流れで下がってきていたレドミがこのゲームでほぼ唯一この時だけ大外に開き、健勇が彼に時間を与えたたった2秒程度で仕事をしてしまいました。個人的にはこれはちょっと相手を褒めるしかないと思っていて、たしかに健勇は寄せるのが遅いしこのゲームで一番キックを警戒しなければいけない選手をフリーにしているのですが、じゃあこれが柏木ならこのパスを消せていたのか?というとそれも想像出来ないというか…。事実としてフィールドプレーヤーが9人になっている時間帯に失点してしまっているので、評価としては稚拙なゲーム運びということになるのは間違いありませんが。大槻監督が健勇に右SHを埋めるように合図したシーンがDAZNに抜かれているので、チームとしては健勇にちゃんとケアして欲しかった、という評価になるんですかね。一方で、パスが出てからのトーマスと岩波の表情を観ていると、単純にスピード勝負で負けたということのほかに、二人でカバーリングし合えるやり方があったのではないか?という気もします。

で、これで浦和は完全に窮地に陥ることとなりました。ただでさえ先制されると勝てない中で、厳しすぎる前半での2失点。今季前半で複数失点を喫するのはいろいろと無茶苦茶だった名古屋戦、札幌戦しか前例がないことを考えても、この2失点が浦和のゲームプランを考えたときにどれだけの重みを持つのかが想像できます。それが浦和ユースで大槻監督の教え子だった選手の得点だったというのは後半の戦術選びには関係なかったでしょうけど、いずれにしろ浦和にとっては、そして大槻監督にとっては後半に向けて非常に厳しい展開の前半となってしまいました。

浦和の太陽①:圧巻のパフォーマンス

後半に向けて浦和はエヴェルトン→汰木、岩波→宇賀神の選手交代。これによって最終ラインが山中、槙野、トーマス、宇賀神の並びになるとともに、中盤は汰木と関根のSH、柴戸と柏木のCHという構成になりました。

これがHTの僕のツイート。同じようなツイートをされていたのが轡田さんで、轡田さんはあくまで前向きに捉えていたようでしたが、同じように柏木CHに注目されていました。

僕のツイートの真意を説明するには少し文章量が必要ですが、今後の浦和を観ていく上でも重要なポイントになると思うのでここは無視できません。

柏木は今節が6試合目の出場でしたが、今季再開後は主に右SHで起用されていました。本人が常々語るように、彼は本来中央の選手ですから、ミシャサッカーの時代にそうだったように4-4-2であってもCH(ボランチ)で起用する時に彼の特徴が最も発揮されることは大槻監督も承知していたでしょう。一方でそもそも大槻サッカーはトランジション第一のサッカーであり、今季これまで観てきたように相手のビルドアップを嵌めていくプレッシングと4-4-2でセットするゾーンディフェンスの間で、特に中盤の選手には非常に大きな負担がかかり、単純な走力やスピード、球際の競り合いの強さといったインテンシティ(強度)が求められます。大槻監督のサッカーは浦和レッズが昨年定めた「3年計画」とも整合する(はずの)ものですから、ここは簡単には譲れません。だからこそ関根や長澤、汰木、武藤といった選手がSHで、柴戸、青木、エヴェルトンがCHで重用されてきたわけであり、柏木は根本的に目指すサッカーに適正がない中で、探り探り使われてきたというのが実情だと思います。SHであればオフェンス時に中央に入り込んでプレーすることが許容されますし、守備でもSBが負担を一部肩代わりすることで全体の調整が少なく済みます。これが柏木SH起用の根本的な要因であり、大槻監督からすれば自らの志向と適正のないチーム最高のボールプレーヤーを起用する折衷案だったとも言えます。

それが今節でついに今季初の柏木の「本来のポジション」での起用であったことに注目していたわけですが、ピッチ上の現象から言えばこれは効果抜群でした。

後半開始から、柏木が入ったことで浦和はボール保持、セットオフェンスは著しく可能性を見せ始めます。前半なかなかボールを前進させることが出来なかった最終ラインからボールを引き出し、ピッチのあらゆるところで素早いターンから間を取っている前線の選手にボールを付ける。相手のブロックが中に絞れば大外を、自分についてくるならその脇を使いながら、柏木を中心に浦和のボールは前へ前へと進むことになり、前半に比べれば格段に2トップにボールが入るようになりました。柏木にボールが入れば縦パスがあるわけですから相手の2トップや中盤の選手は必然的に柏木をケアするようになり、それによってスペースを得た選手がドリブルで前進することも出来るようになり、こうしたボール循環と前へのパスが出てくるようになったことで横浜FCのブロックは自陣へと下がり始め、結果的にオフェンスが失敗に終わっても高い位置で浦和がボールを回収できるようになっていきます。

前半48%だったボール保持率は後半64%まで向上し、エリア内シュートは3から7へ倍増、クロス数も前半の7から後半18へ2.5倍増、一方でチームのパス本数成功数は前半242本から後半302本へ1.25倍程度しか増えていませんから、いかにゴール前の局面へ繋がるパスが増えたかがわかります。その中で柏木はゲームを通じて81回のタッチで63本のパスを通し、成功率は91%。前半のみの出場だったエヴェルトンが35回のタッチで24本のパス成功、成功率が86%だったことと比べても明らかなパフォーマンスの違いを見せつけました。

www.sofascore.com

具体的なシーンとして印象深いのは、51分のトーマスのパスを受けてからのターンからレオナルドへの縦パス、54分にはビルドアップから中央が消されると素早く大外の山中へ一発で展開しアーリークロスを演出、55分には最終ラインに降りてビルドアップをサポートし、自分に寄せておいて槙野を押し出すプレー、70分にはセットディフェンスからのクリアボールをダイレクトで柴戸に落とし、そこからロングカウンター。78分には浦和のボールロストからの縦パスを読み切ってカットし、そのまま相手のブロックを切り裂く縦パスをレオナルドへ、フリックから興梠のシュートまで、などなど、浦和が相手ゴールに迫るほとんどの場面で柏木が関わっているという、まさに圧巻のパフォーマンスでした。

浦和の太陽②:強すぎる引力

「自分がボールをいっぱい触ってリズムを作れた。リズムは出たけど、得点に絡めなかったのが課題。0―2から1点でも取って、チームとして行くぞというところに持って行くのが、できる選手。まだまだ足りない」

news.yahoo.co.jp

本人が試合後に語った通り、結果的にゴールには繋がらず、ゲームは0-2で終了したものの、後半のオフェンス面でのパフォーマンスの向上は明らかであり、これは認めるしかありません。一方で、この後半を観ていた方の中には、僕と同じような感覚を抱いた方もいたかもしれません。

今後今季の浦和を振り返る上で、この感覚は非常に重要になるかもしれないので、しっかり書き残しておきたいと思います。たしかに柏木のCH起用で浦和のオフェンスは飛躍的に向上し、ゴールを奪うことは出来なかったものの、彼の配給を前提としてチームが機能性を見出していったと言えます。ただこの後半のパフォーマンスが中長期的に正しいものであったかには、大きなモヤモヤが残ります。

そもそも大槻監督の目指すサッカーの一部、ボール保持の局面で今季強調されていたことは、ピッチを縦に割った5つのレーンが前後で被らないように立ち位置を取り、相手のディフェンスのリアクションに合わせて空いた場所に入り込みつつボールを前進させていくことでした。そのために、今節の前半で見たような最終ラインからのボールの持ち出しへのチャレンジが必要であり、そこにはプレーの原則がありつつも、「必ず誰かを経由し、出来る人に任せる」という約束はありませんでした。

これが、後半になって柏木がCHに入ったことで、ピッチ上の王があるべき場所に帰ったことで、今季これまでの取り組み―もちろん上手くいっていたわけではないものの―を凌駕し、ピッチ上で、公式戦のゲーム中に、柏木陽介を中心としたサッカーが組み上げられていったのでした。

柴戸は柏木に攻撃の全権を任せるために彼をカバーする位置取りに入り、前に出た柏木が突破されてボールを追わずとも、自分が走って彼の背後をケアする。山中は中よりの立ち位置をとらず(もしかしたらこれは汰木がずっと中央にいたからかもしれない)、柏木が中央で受けてからの展開を待つ、最終ラインは自らラインブレイクにチャレンジせず、柏木にボールを預けて組み立ててもらうことを選ぶ。その全てによって後半の浦和のパフォーマンスが発揮され、相手ゴールにより多く迫る状況が表出していきました。

ただそれは柏木陽介の存在が前提にあるのであり、彼を基準にしてピッチ上の選手たちが自分の出来ること、出来ないことをベースにそれぞれの役割をアドリブで定義し、ピッチ上で最適化を図った結果です。これは、本質的に「3年計画」の目指すサッカーではないのではないか、と思います。もし今節のように上手くいったとしても、例えば今節起きたようにミシャの時代に部分的に回帰することに繋がる「誰かのサッカー」は、「3年計画」の大義である「浦和レッズのサッカーを作り上げる」ことに反する気がしてしまうのです。

もちろん、良し悪しで言えば今節の後半のパフォーマンスは前半よりも良いし、柏木が中央に入ることで発揮されるセットオフェンスのスムーズさや縦パスの質は今季最高のものでした。彼の特別な能力がチームに組み込まれるべき要素であることは間違いないですし、僕はこの点においてはSHでもCHでも、「3年計画」のサッカーの秩序の中に組み込まれるのであれば素晴らしいことと思います。期待もします。ただこのパフォーマンスは強烈すぎるし、彼のプレーは引力が強すぎます。これが成功体験になってしまえば、今後大槻監督のサッカーを信じていけるでしょうか?守備的で、負担が大きく、何より「今までやってこなかった原則」に基づく、新しいサッカーにチャレンジし続けられるでしょうか?それも、目標にしていたほどの結果がついてきていない、この難しい状況で。

それとも、柏木を中心に据えた今節後半の内容を成功体験に、この陣容―柏木がチームの重心であること―を前提に、「3年計画」で掲げられたサッカーが作られていくのでしょうか。

秩序をもたらすもの

正直、自分でも答えが見つかっていないことについて書いているので、自信があまりないのですが、上で書いてきた僕の「恐怖」はおそらく、「誰か秩序をもたらすのか」というテーマへの理解に基づいています。
今節の後半に見せたレッズのパフォーマンスは、明らかにこれまでのボール保持のクオリティを超えていました。それが柏木が中央で、彼のいるべき場所でプレーしたことに起因するのは間違いありません。僕の恐怖は、この現象が、そして彼のプレーが持つ異常な引力が、これまでの取り組みを全部なかったことにしてしまうのではないかという恐怖なのでしょう。

今季これまでの浦和は、特に再開後は、2トップの質の高さとトランジションの局面に強みを見出すため、中盤の選手に非常に高い負荷がかかるチーム作りをしてきたと理解していることはこれまで書いている通りです。この流れで行けば今年で33歳になる、スピードやインテンシティに欠けトランジション耐性がない選手であることが隠せなくなってきている柏木を起用するのは優先順位が落ちるはずだし、また鳥栖戦で見られたように、彼をSHに置いたとしてもそのスキルをサイドで活かすにはSBのビルドアップ能力が求められ、それをチームが確保できないというジレンマもあり、今季の彼はローテーションを構成する選手という立ち位置なのだと理解していました。

そうした難しさの中で、CHで彼を起用しオフェンスの全権を任せるというのは、僕の中では、今季これまで「3年計画」の方向性に沿って大槻監督が作ってきたと僕が理解してきた秩序、つまり中盤の選手には強度を求め、オフェンスは立ち位置の原則に従って特定の誰かに頼らないビルドアップを行うというチームの根幹的な価値観を自ら乱す行為のように思えました。
僕がこれにナーバスに反応するのは、2006年、2007年の成功の後にフィンケのサッカーを推進した挙句に放り出し、その後の2011年の地獄を招いた方向性のブレ、選手の意見やサポーターの結果への要求がクラブの取り組みよりも強くなってしまったことによる苦しみ、その後はミシャのサッカーに乗っかることで勝ち点を稼ぎ、ポスト・ミシャにまたも右往左往してきた、そうした歴史の欠片を、このゲームの後半に見たからに他なりません。

「3年計画」の発表に合わせて以下の記事を書いた通り、浦和レッズのこれまでの歩みは、様々なプレッシャーの中にあってクラブが「誰かのサッカー」に乗っかってきた、というのが僕の理解です。

www.urawareds96.com

「3年計画」を策定した昨年末以降の浦和は、これまでの「誰かのサッカー」を乗り換えてきた歴史を反省し、「浦和レッズのサッカー」として、ミシャサッカーとは全く違う、ファストブレイクを看板に掲げるサッカーを目指し始めました。こうした背景があって浦和レッズは今季の戦い方を選んでいるのであり、この理解こそが僕が今季の浦和を観ている根幹にあります。
昨年、一昨年の途中就任では3バックで戦っていた大槻監督は、今季から4バックを導入しました。大槻監督はユース時代4バックをベースにしたプレッシングサッカーを採用しており、今年のサッカーこそが大槻監督のサッカー初年度と言えるでしょう。一方で暫定監督だった一昨年はまだしも、昨年なぜ3バックで戦っていたのかは、公式には語られていないと思います。これはあくまで僕の推測ですが、その真意は浦和の編成と大きく関わるのではないかと考えています。
ポスト・ミシャの時代を託されたオリヴェイラが監督に就任して以降の浦和は、その方向性の大転換とは裏腹に、クラブがミシャを全面的に支えた時代に集めた選手が引き続き主力を張っており、彼らはプロキャリアの大部分を通じて3バックで戦い、守備では5-4-1による人海戦術に慣れていました。また4バックで必要になるSB、SHの選手が少ないという都合もあって、鹿島時代に4バックでリーグを席捲したオリヴェイラですら「暫定的に勝つために」3バックを採用していたという経緯があります。こうした中で、昨年オリヴェイラ体制を引き継いだ大槻監督も「今の浦和の選手で一番やりやすいこと」に迎合する形で残留という必達ノルマをギリギリで守り切ったのが昨シーズンであり、ここに積み上げていくものはもう何もない、だからこその「3年計画」、新しくクラブが定義した「浦和レッズのサッカー」を突き詰めることが必要なのだ、という理解がありました。
簡単に言えば、こうした文脈の中に、今節の後半を無造作に並べることが非常に難しいというのが、僕の恐怖の正体なのでしょう。突然チームのパフォーマンスが変わるほどに影響力の強い、引力の強い柏木を中心にしたサッカーを目の当たりにして、僕はある秩序の中に全く別の秩序が持ち込まれたような感覚に陥りました。これは、「3年計画」の大きな取り組みの中では異常事態です。僕に言わせれば、0-5で負けてでもこれまでの取り組みを続けて欲しかったし、そうであれば大きな取り組みの過程として受け止める準備もありました。もし愚直にも大槻監督のサッカーを貫くのであれば、チャレンジするのは柏木のCH起用ではなく、最終ラインからボールを運んでいくプレーだったはずだし、もしくは横浜FCにボールを持たせてプレッシングからファストブレイクを狙うサッカーだったはずだと思っていたのです。ところがそこに持ち込まれたのは、トランジション耐性が足りない選手であるはずの柏木のCH起用という「禁断の采配」だったのです。

これは、突き詰めれば大槻監督の、「3年計画」のサッカーをやるのか、柏木陽介の、おそらくミシャの色に近いボール保持を好むサッカーをやるのかのせめぎあいとも考えられました。編成に合わせて今いる選手のやれるサッカーをやって何にもならなかったのは去年もう観てきている中で、「3年計画」としてミシャのサッカーとは真逆のものを打ち出した浦和レッズには、もう柏木陽介のサッカーをやる理由はないはずだと思っていたのです。

結果が出なくても、「誰かのサッカー」への依存から変わろうとする浦和を信じて見守ってきた今季なのに、ここにきてこれまでの取り組みと全く違うことをするのは明らかにこれまでの論理と我慢に反します。やろうとしていたことをやめてしまうのではないか、そうして、結果的にしても、「やっぱり今の浦和の選手で一番やりやすいことをすべきだね」という風潮が強くなっていくのではないか。それによって、「3年計画」を策定した意味が失われ、歴史が繰り返されるのではないか。

こうした理解のもとに、ある意味で僕の今季の浦和レッズを見る目は秩序の中にありました。すでにベテランの領域に入っている「ミシャサッカーの申し子」が活躍できないのは、世代交代とともに「誰かのサッカー」から抜け出して、インテンシティとファストブレイクのサッカーを目指す今季のチームにあってはある程度論理的だし、彼のクオリティを活かすにしても、監督の作り上げるサッカーの歯車として、その秩序と、それを担保するSHという囲いの中でプレーするのが当然であると、そう理解していました。

だからこそ今季のデータからすれば勝てる見込みがほとんどない0-2という状況、しかもホームで昇格組のチームに負けているという窮地にあって大槻監督の選んだ道は「あるべき道を踏み外す」ものだと感じたし、その結果として太陽の強い引力にひかれて整理されていくピッチを観て、これまで保たれてきたクラブの方向性と監督のマネジメントによる秩序が、一人の選手のパフォーマンスとその影響力がピッチ上にもたらす秩序に凌駕されてしまうのではないかと感じ、そういった危惧が、ナーバスな反応となって表れたのでしょう。

結局、この文章を書いている時点で答えはわかりません。自分の中に結論らしきものすらありません。「クラブのサッカー」を掲げたところで、現場を取り仕切るのは監督ですし、ピッチ上に監督の色が出ないことなどあり得ません。同じように、ピッチ上の判断は選手によるものであり、選手の色が出ないことなどあり得ません。そう考えれば今節の後半のサッカーもまた、監督や選手の個性というフィルターを通して見えた「3年計画」で目指すサッカーなのかもしれませんし、僕が危惧した通り、それとは違う何かなのかもしれません。もしくは、たった一人の選手がポジションを移しただけであまりに変貌したチームの姿に僕がショックを受けるほど驚いただけ、とも考えられます。

一つ現時点で言えることがあるとすれば、柏木陽介はそれだけ特別な選手だということです。サッカーの世界ではほとんどどこにでも王様と呼ばれる選手がいますが、今節の後半に、僕はその具体例を見ました。彼は間違いなく、ピッチ上に彼の秩序をもたらせる選手です。

彼の影響力のもとに構成される秩序と、「浦和レッズのサッカー」が想定しているであろう秩序が今のところ別のもののように思われることが引き続き懸念点ですが、これらが組み合わさることで、何かが生まれるのかもしれません。それが「3年計画」を観ていく上で歓迎すべきものなのか、それともクラブと監督による秩序が特別な選手によって覆されてしまう危機なのか。今節の後半をまだうまく意味づけ出来ていませんが、僕はただ、浦和レッズの歩みを見守ることしかできません。

採点

 今節は採点不能!後になってみないと今節に意味を与えられない気がします。

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 というわけで、レッズは9位に後退。今季は6番目から10番目くらいの実力ではないかと各所で言っている僕ですが、さすがに10位が見えてくると背中がスース―してきます。次節はFC東京、その次は名古屋と、前半戦で完敗を喫した上位陣との連戦が待っていますが、果たして浦和はどのように戦うのか、勝ち点を奪っていくことが出来るのか。混沌の状況にあって、ゲームは待ってくれません。

 

今節も長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。