96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

だからこそ結果を:Jリーグ第22節 vs柏レイソル 分析的感想

前節鳥栖戦に劇的な勝利を収め連敗を脱出したレッズは、前半戦の対戦で大敗を喫した柏にリベンジして上昇していきたいところ。一方の柏は前節神戸戦を4-3で勝利し3連勝中。ただオルンガ、江坂、そして復活したクリスティアーノを擁する一方でけが人が多く、今季は強みと弱みがどちらも顔を見せるような戦いが続いています。また今節は高橋峻希も出場停止と十分なメンバーがいない中での対戦となりました。

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ゲーム前のリーグテーブルを確認しておきます。レッズは鳥栖戦までに連敗が続き、内容のわりに少ない印象だった黒星もついに9まで積み上がり、中位らしい中位という順位に。一方の柏も前線の強みが出る一方で最終ラインの脆さが露呈する試合もあり、オルンガが得点ランキングを独走しているわりにはその爆発力が活かせていないような印象でしょうか。浦和としてはここで柏を叩けば少なくとも勝ち点で柏に並び、再び上位へ、特に今季の現実的な最高到達点であろう3位~4位の争いにギリギリ追いつけるかどうかの足掛かりを掴めそうな試合です。

今季ここまで浦和にとって重要だった試合がいくつかありますが、ブレイクスルーが出来そうな試合、ここで結果が出れば上昇気流に乗れるのではないかという試合を落とし続けてきたというのが僕の印象です。ルヴァンカップセレッソ戦で負けたもののプレッシングからゲームを作る自分たちの戦い方の片りんを見せたものの次のリーグ名古屋戦で大敗、ガンバ戦でファストブレイクから得点を重ね、望む形での勝利を得られたものの次の神戸戦で打ち合いを結果につなげられず敗戦、大分戦で勝利を収めたものの続くセレッソ戦では3-0の完敗―などなど。そういう意味では鳥栖戦に劇的な勝利を収めた後のこの柏戦は、前回の大敗のリベンジというだけでなく、これから突入する終盤戦に向けて内容と結果の両方が欲しい試合だったと言えるかもしれません。

両チームスタメンと狙い

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柏は4-3-1-2で戦う江坂システムを観たかった。

浦和ベンチ:彩艶、鈴木、山中、柏木、柴戸、健勇、レオナルド

柏ベンチ:滝本、山下、仲間、小林、山崎、細谷、鵜木

浦和側のメンバーで印象的なのは汰木、マルティノスのスタメン起用で、これは間違いなく前節の劇的ゴールの勢いを続けて欲しいということだったと思います。関根が連戦の中スタメン起用されていて単に順番だったとも言えるかもしれませんが、今季の大槻監督はゲームで印象的な活躍を見せた選手を素直に続けて使う傾向があるように思いますし、その関根がベンチ外だったこと、ベンチにSH起用できそうな選手を置かなかったこと(柏木はもはやCHとして数えていると思います)、マルティノスは3連戦全てでスタメン入りし長時間出場していることからも、スピードのある両SHへの期待の大きさは伺えるものと思います。ほかには、柴戸が久しぶりにベンチ入りしたことはポジティブな材料で、青木が故障で戦線離脱している中で運動量と球際の部分を表現できる柴戸が使えることはチームとしてのオプションを確保するという意味でも重要なことと思います。

一方の柏はスタメンにはだいたいなじみのメンバーですが、ベンチには意外というか面白いメンバーが多く入りました。ギュンギュン、柏にいたのね。ただベンチ入りにFW登録が3枚、しかも細谷と鵜木は非常に若い選手で、DF登録は山下だけというところを見ても、台所事情が苦しそうという印象は否めません。

それでも柏が上位で戦えているのは間違いなく前輪駆動のチームを支える大駒アタッカーを継続して起用出来ている点で、オルンガはもちろん江坂がほとんどフル稼働しているのもチームにとって大きいはずです。今季の柏は弱みを突かれると脆い一方で相手がミスをしてアタッカーにチャンスが訪れればそれを決め切る力を持っている、しかも一発のパンチが非常に重いというのがポイントで、そうしたハードパンチの威力が柏が昇格組であるという事実を観る人の印象から消してしまっている感があります。

というわけで、ネルシーニョ采配をベースに相手の弱点をあぶり出し、そこを強く殴るという意図の柏に対して、浦和は連戦もあって柏木を起用しなかった中で、今季のテーマであるトランジションでの戦いに加えてここ数試合継続して採用しているSHが大外から攻める攻撃、さらには柏木不在の試合で取り組みが良く見える「全員でボールを前進させる」という部分の機能性をぶつけていく、という試合になったと思います。

2トップの人選とオフェンスの構築

浦和ボールでキックオフ後、25秒で浦和に決定機。左サイドから中央を経由して内側に入った宇賀神から大外の汰木へ。興梠のボールに寄る動きで大南を引き出すと、リターンを受けた汰木がダイレクトで武藤へ。大南が興梠についていったスペースを謳歌した武藤が縦に運び、入れ替わって中央へ入る興梠へラストパス。シュートは枠に行きませんでしたが、浦和はいきなり良い形を作ることが出来ました。

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柏側の視点で言えば三丸が絞っていて欲しいのだけど、実は画面外でマルティノスが大外に逃げていて影響を与えているのもポイントかもしれない。あとは単純に、古賀が武藤を逃がしすぎで、ボールを受ける瞬間にフリーになる興梠、武藤のボディフェイントのうまさが活かされた形。

ここまで良い形でいきなり決定機が作れるとまでは思っていなかったと思いますが、大槻監督としてはこうした形が出来ることはある程度想定内だったと思います。4-4-2同士でマッチアップする場合に動き出しの豊富な浦和の2トップがお互いの作ったスペースを使いあうという部分は期待の一つだったでしょうし、縦のパス交換から一つ奥の選手へダイレクトでボールを付けるプレーは今季狙いの一つにしているプレーですから、人を見る柏のディフェンス、そしてその割に柏のCBが浦和の2トップとは経験に差がある中で、こうしたシーンが出るであろうことは十分に予想できていたと思います。

このシーンを見てようやく理解できたのは、ここ数試合興梠と武藤の2トップを優先して使っている大槻監督の狙いでした。たらればの世界の話なので断言はできないですが、おそらくレオナルドが先発していた場合にはこのシーンは起こりえなかったのではないかと思います。どこかで話をしていると思いますが、レオナルドの弱点というか彼の強みである決定力の裏側には、崩しの局面にほとんど関与しないという負の面が存在しています。このシーンで肝となっているのはボールに寄ることで結果的にでもディフェンスを引き付けた興梠の動き、そして汰木の縦パスを受けてエリア脇の深い位置にボールを運んだ武藤のプレーで、この一連の崩しには2トップの両方が一度ゴールから離れる動きが含まれています。「スペースを使いあう」といえば簡単ですが、そのためには相方を活かすために自分が一度、ゴールに一番近い場所でプレーする選手としては死ぬという関係があるはずで、相手の守備が最もケアするゴール前を二人で狙っていてもこの崩しは出来ないし、片方だけが勝手に死んでも意味がありません。試合後に宇賀神が語っていたように経験や阿吽がある二人であることは大前提ですが、それによってピッチに現れているのは2トップの両方が崩しの局面に関わることが出来る、そしてお互いがゴールから離れたスペースをお互いが埋め合うことが出来るという補完関係なのでしょう。

少し古い話ですが、前半戦の9節名古屋戦、大敗した試合で起きていたピッチ上のコンフリクトが思い出されます。あの試合でも汰木が左SHで出場しており、なんとかサイドから突破しようとするもののフィッカデンティ式のSHのプレスバックでサイドで1on2が出来てしまい、サポートが必要なのにも関わらずレオナルドはゴール前で待っているので手詰まりになり、それに対して汰木が大槻監督に修正を求めるというシーンがありました。その名古屋戦後に浦和に何が起きたかというと、明確にSHを中に入れてトップと近い位置でプレーさせ、(今から考えると一時的にでも)SHに大外を使わせるシーズン当初の戦い方を捨てたわけですが、そこから10試合以上を経て、再びSHが大外で勝負する形を増やしている中で、トップにはSHのサポートに入りつつスペースを使いあえる組み合わせを選びたい、という考えがあるのかもしれません。

これをもう少しチームのプレー原則に照らし合わせる形で整理すると、誰がハーフスペース(内側のレーン)を使うか、という部分の変化とも言えます。変化というか、その割合の変遷とも言えるかもしれません。例えば大分戦なんかでは明確にSHが内側のレーンに立ち、そこをどれだけ使えるかという攻め方をしていましたが、今はSHは7:3で大外を取り、その代わりに2トップが降りながら内側を使う、もしくは内側でボールを受けるというシーンが多くなっており、それが上手く出来る2トップの序列が上がっていると考えればわりと納得がいきます

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SHを中に入れて★の位置を取らせる場合、大外に立つのはSBになってビルドアップに使える枚数が減る。というか、ビルドアップが気になってなかなか良いタイミングで大外を使えていないのが実態だった。このやり方ならビルドアップも安定するし、そもそも変形が少ないのでネガティブトランジションの対応も安定する。どれが決定的な理由になったのかはわからないけれど、相手が4バックでこの2トップが使えるならこれが一番安定するのは間違いなさそう。

第20節の名古屋戦では興梠と健勇の組み合わせだったことと相手の守り方もあってそこまで劇的な変化ではなかったですが、鳥栖戦、そして今節とトップの選手の動き出しからボールを前進させ、ゴール前に迫っていくという面は見えてきているのではないかと思います。もちろんその裏側としてエリア内の枚数は減ってしまうし、シュート決定率というのは落ちていく(いる)はずですが、その分SHが大外で勝負してチャンスメイク出来れば良いとも言えるし、少ないチャンスを決めると言ってもそのチャンスが90分で1回か2回というゲームよりは印象が良くなっているのは事実です。

これ、別にレオのことが嫌いでこの話題を取り上げているわけではないのですが、こうした論点で言えば彼でなくても「最後の瞬間に仕事をするためにゴール前に居座る」というタイプのFWを使うには相性の悪い戦い方にシフトしているのは事実だと思います。「崩しが貧弱になるけれど高い決定力が発揮できるやり方」と「崩しは豊富だけどゴール前に人数とパワーが足りなくなりがちなやり方」の二律背反があるとすると、ここ最近は後者を選んでいるのは明らかです。ちなみにこれが何を引き金にしてこうなっているかというのは今の時点では難しくて、それはマルティノスの活躍かもしれないし、SHを中に入れて崩しに関わらせるには最終ラインのビルドアップがまだまだ貧弱で難しかった、ということなのかもしれません。おそらく横浜FC戦の後半~FC東京戦がターニングポイントだったのではないかという気がしますが、いずれにしろこのやり方を選ぶのであればレオナルドにはゴール前の勝負だけではないプレーが求められるでしょうし、彼が自分のスタイルに固執すれば今後の出場は限定的になるかもしれません。これはやり方と個性の話なので誰かを批判するわけではなく、10人でボールをエリア内に届けられるのであればレオナルドは今のままでも20ゴールを狙えるでしょうし、もしくは興梠や武藤の動き出しをしながらゴール前の決定力を維持できればこのやり方でもエースとして君臨出来る、という話ではないかと思います。というわけで、名古屋戦では「守備時に計算出来ない選手はピッチにひとりまで」という考えでレオナルドの出場が減っているのかも?と書きましたが、今節を観た限りではボール保持時の全体のやり方の変化と2トップの評価軸の変化の割を食っているという部分も要素としてあるんだろうなあという印象です。その意味でこうした部分に強みを持つ武藤がトップのスタメンを勝ち取っていること、そして実際にシャドーのように振る舞えることで彼の良さが良く出ているここ最近の状況は納得できるかなと感じます。

こうした凸凹があるから人間が組織でやるゲームは難しいし、面白いのだと個人的には捉えているのですが、まあとにかく今節は柏の守備の方法と浦和の最終ラインのビルドアップの向上という要素も噛み合って、こうした2トップに求める能力の変化と人選の背景にある考え方に仮説を持つには十分な現象、つまりゴール前に入り込む回数の増加とその方法論の変化がはっきりと見られたゲームだったのではないかと思います。

良い展開ともったいない失点

まだ25秒しか試合が進んでいないのでざっくり時間を進めると、ゲームはお互いに激しいボディコンタクトを伴いつつも一進一退の展開。興梠のファーストシュート以降は柏がボールを保持し、浦和のゴールに迫る展開が続きました。柏のボール保持、セットオフェンスの特徴はオルンガよりもシャドー化する江坂とクリスティアーノで、彼らがライン間でボールを受ける動きを繰り返すことで相手の守備を揺さぶっていくのが強みの一つではないかと思います。柏も、少なくとも今節のメンバーでは、浦和と同様に最終ラインのビルドアップが素晴らしいというわけではないと思いますが、ビルドアップであまり貯金が作れなくても少々厳しいパスなら収まってしまう前線の質が強みで、特に江坂はボールの引き出し、楔を受ける技術、それを繋げるプレーの連続性、単純なボールタッチとパスの質(正確さとボールスピード)、そしてオルンガとの連携において別格のプレーを見せていたのではないかと思います。長澤が試合後に語っていましたが、江坂が浦和のCHの背後や間を出入りする動きが気になり、なかなか捕まえづらかったというのは正直な感想だと思います。

--1失点はしたが、ボランチとしてキーマンの江坂(任)選手にそこまで仕事はさせなかったのでは?
2トップということでしたけど、江坂選手がトップ下のような、ボランチとCBが突きにくいポジションを取っていましたし、(柏の)ビルドアップの中で、ボランチ2枚が江坂選手が気になって前にプレッシャーに行けないという、中盤での一時的な数的不利な状況は作られていたので。そこは難しいところでいたけど、相手のストロングである前線の選手への(ボールの)配給の部分で、ボランチも相手にスペースを与えないところと、江坂選手のところはしっかりとプレッシャーに行って自由にさせないというところは、エヴェルトン選手と試合前に話していたので、そこはある程度表現できたかなと思います。これをしっかりと結果につなげていかなければいけないと思います。

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このせいか、序盤~20分くらいまでの浦和はブロックのコンパクトネスを維持するあまり2列目が低い位置で構えることが多く、カウンターに出ようにも前の駒が足りない、ポジティブトランジションが繋がっていかないというシーンが多く出ていたと思います。ただこの現象を裏側から観れば、低い位置でコンパクトな4-4ブロックを構築できるほどにSHが守備に参加していたとも言えるわけで、この部分に成長が見えることで浦和側からこの時間帯を観たときにそこまで悪い印象にならなかったということはあるかもしれません。というか、僕はそうでした。

守備から入る序盤を過ごしつつも、次の決定機も浦和に。10分にはビルドアップから槙野のフィードが深さを取った武藤へ。武藤が収めると反転して走り出した汰木と興梠が絡み、ゴール前で興梠のシュート。今度こそ完璧に決まったかと思われたシーンでしたが、この場面でもネットを揺らすことはできず。興梠としては最初の決定機とこのシーン、どちらかは決めなければいけないシーンでした。どちらも30mか40mくらい走った後でシュートしているので影響があったかもしれませんが、彼の実力と役割からすれば、浦和としてはこの二つのシーンを作った時点で1.5点分くらいの仕事をしたと言っていいと思います。それほどのシーンでしたが、まあ決めなければいけなかったのは興梠が一番わかっているはずなので、アシストがつかなかった武藤と汰木に牛丼でもおごってあげればいいと思います。

18分に川口のクロスにオルンガが合わせたシーンあたりから、浦和が低くコンパクトに構えていたことを踏まえてかアーリー気味のクロスが増えていく柏。浦和の2トップがそれほど追い回さないこともあってか落ち着いてビルドアップが出来る柏は、三原が降りて3バック化し、CB→大外高い位置のSBという形で浦和のブロックの外から前進し、そのままクロスを放り込むという形を見せていました。このあたりは当然スカウティングがあるでしょうし、もしかしたらベンチからの指示もあったかもしれません。

こうした流れからいくつかCKを献上したものの最後の部分では身体を張って守れていた浦和は、飲水タイムを経て再び攻勢。28分のエヴェルトンの運び出しから左サイドが絡みつつの突破、そこからの波状攻撃が印象的でした。この辺りは全員でボールを前進させることのメリットが出たと言えるのではないかと思っていて、後ろからの持ち運びに応じて受けての選手が立ち位置を徐々に上げ、裏のスペースを狙いながら前進できれば自然と相手のラインも下がり、セカンドボールを拾う確率が高まり、厚みが生まれるということなのかなと思いました。

ただ、全体としては両チームがマッチアップの噛み合わせをベースに厳しくボールに寄せ、それをワンタッチや動き出しで躱しながらゴール前への侵入を狙う鍔迫り合いのような展開が続いたのがこの時間帯でした。柏も浦和のビルドアップを引っ掛けてのショートカウンターを狙ったり、大外から早めにクロスを放り込んでオルンガやその背後で合わせようとする狙い、また35分のクリスティアーノのシュートシーンのように縦パスから江坂やクリスティアーノのワンタッチを使ってのシュートチャンス創出など強みとする部分の多くは出ていたと思います。

そうした拮抗した展開の中で、先制点を手にしたのは柏でした。40分、マルティノスがロストすると裏へのパスに江坂が独走。ゴール前にはオルンガ、必死に戻る岩波という状況の中で、カットインから股抜きシュートをニアに突き刺して西川の逆を取る見事なゴールでした。

このシーンは浦和のエラーがいくつか重なっていて、まずはマルティノスが縦を切られて中のサポートとともに対処されたときに次の選択肢を持てなかったことで、僕は最初リアルタイムで観ていた時にはサポートが無いのが悪かったかなと思いましたが、ゴール前は数的同数で武藤が受ける準備をしていたし、アーリー気味にクロスが入れば汰木は優位に反応できる立ち位置を取れていました。もう少しボールに近いところでパスコースを作れれば良かったですが、前に前にエネルギーを使うゲームでしたし、マルティノスがボールを持っていたので決定的な展開を待ったということもあったと思います。この場面ならマルティノスは早めに縦につけた方が良かったですが、かといって左足を使うことはヒシャルジソンに読まれていたような気もします。パスを出せなかったことで選択肢がなくなったマルティノスがターンするとプレスバックしたクリスティアーノと挟まれてしまいました。次のエラーは橋岡のサポートの位置で、マルティノスが選択肢を失いつつある中で大外深い位置を取りにボールから離れてしまっています。早いタイミングでの攻撃参加をするにはボール周辺の状況が良くなかった気がするので、サポートに行きつつもマルティノスの斜め後ろをカバーするような位置が取れなかったかなという気がします。最後はネガティブトランジションの最終ラインの対応で、ボールを受けようとする江坂に対して岩波が食いついた裏を使われてしまいました。積極的なネガティブトランジション対応の裏側なので難しいですが、槙野がオルンガを消さなければいけないのはこの試合の守備の大原則なので、それを踏まえるとカバーのいない状況でここまで飛び出すのはリスクが大きすぎたかもしれません。ネガティブトランジションでは奪い切ることも重要ですが遅らせることも重要で、非常に悪い判断とは言いませんが裏を取られるよりはあえて足元で受けさせて長澤を使いながらディレイするという判断のほうがベターだった気がします。だいたいエラーが3つ重なるとかなり危険な状況を招くというのがサッカーだと思いますので、浦和としては良い展開が作れていただけにもったいなかったですね。ただまあ、裏を返せばこのトランジションで一つも間違えずにカウンターを完結した江坂が凄いわけですが。

お互いに…

失点直後にマルティノスに惜しいチャンスがあったものの、ゲームは1-0で折り返し。

後半も両チームさほど戦い方を変えず、前半の延長戦のような後半の立ち上がりになったのではないかと思います。浦和は前半から見せていた4-1-2-1-2プレッシングとコンパクトな4-4ブロックを比較的低い位置に構える二つの守備でリズムを作っていきました。46分には槙野のインターセプトからカウンター、48分にはマルティノスがボール奪取からサイドチェンジ→汰木のクロスに武藤がフリーでヘッドと続きます。50分にも槙野のインターセプトからエヴェルトンが持ち上がり、武藤を使いながらエリア内に侵入、あとはシュートだけというシーンを作るもヒシャルジソンのスライディングが一瞬早く、このCKを槙野が合わせるもキムスンギュがセーブ。53分にはゴールキックを槙野→宇賀神とつないで縦パスをハーフスペースに降りた興梠が落として長澤へ。再度興梠に預けて武藤がゴール前に飛び込みますが惜しくも枠外。こうした前向きな流れから得たCKのこぼれ球から興梠が肩で押し込んだゴールが57分と、前半の流れを継続して同点に追いつくポジティブな展開を作ることが出来ました。興梠のゴールシーンは汰木がオフサイドだったかもしれませんが、現場ではどちらかというと興梠のハンドが論点になったようで、主審、副審の協議の末ゴールが認められました。浦和としては名古屋戦のマルティノスのPK判定の分が返ってきた感じだったでしょうか。

追いつかれた柏は60分に神谷に代えて山下を投入。柏はこれで中盤にアンカーを置く5-3-2にシステム変更しますが、この辺はネルシーニョ監督の対処の速さが良く出ています。前半の展開と後半の15分間を観て、柏のボール保持時には浦和のディフェンスが嵌っている一方で浦和のボール保持時には間をうまく使う形に対してズレを作ってしまっていたことへの対処を施し、5バックで2トップに対して、そして3枚の中盤によって浦和の中盤にも数的優位を作り、浦和の選手が出入りするハーフスペースを封鎖してしまおうという作戦だったと思います。これに対して大槻監督も、交代の瞬間に5-3-2になることをピッチに伝達。特に中盤の選手に相手の3枚のうち1枚が余ることを注意させていましたから、浦和としてもネルシーニョ監督が5-3-2をオプションとして使うであろうことは想定内だったのでしょう。

柏は67分に川口に代えて鵜木を、浦和は70分に武藤に代えてレオナルドを投入。柏がフォーメーションを変えてから数分は、ゴール前で数的優位を確保できたことで柏に安定感が生まれ、それまでの浦和ペースを若干引き戻された感があります。江坂を中盤の組み立てや守備に使うことはもったいなさもある気がしましたが、割り切って5-4-1で構えたことが正解だったのでしょう。江坂の立ち位置によって中盤が3枚になったり、前線が1トップ2シャドーになったりとバランスを調整しつつ、WBとなって深い位置からクロスを放り込むことが出来るようになった三丸からのオルンガという形が多かったのがこの時間帯の柏でしたが、浦和は槙野とその両隣の選手の連携でよく対処できていました。

柏がフォーメーションのズレと最終ラインの安定をベースにペースを掴みつつあった展開を受けて、浦和は75分に2枚交代。興梠、汰木を下げて健勇、柴戸を投入し、長澤が右SH、マルティノスが左SH、中盤は柴戸とエヴェルトンのCHという構成に変更。おそらく柏がFW登録の鵜木を右WBに置いていたので、その裏をマルティノスに使わせようという判断だったと思います。この辺り、柏の配置変更や選手交代に対するリアクションが非常に早く、また狙いが明確だったので良い采配だと思いました。SHをベンチに置かなかったことで采配が難しくなるかと思いましたが、体力面を別にすればユーティリティな選手をうまく使って戦術的な幅を出すことも自然になってきているのかなという印象があります。ただ現象としてはマルティノスが鵜木の裏をぶっちぎるみたいなシーンは出なかったので、裏表のうち期待した目が出たかというとそうではなかったとも思いますが。実際78分ごろに宇賀神が大槻監督に確認しているように、マルティノスが前残りすることでWBに宇賀神が出て行く形となり、そのまま後ろもスライドするためにゴール前が同数になってしまうという現象が起きていました。体力的にもきつい時間帯に危うい状況になっていたのは事実で、宇賀神のいうことは最もなのですが、それに対する大槻監督の回答が個人的には印象的でした。

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一言で言えば大槻監督が試合後に語っていたように、「オープンな展開を受け入れていた」ということなのでしょう。鳥栖戦で起きたことを考えてもそれ自体は特に悪い賭けではなかったように思いますし、そのために柴戸を入れて中央のカバーリングはケアしているよという説明もよくわかるものでした。

80分に健勇のキープからマルティノスが走りこむ形を合図にしたかのように、一気にゲームがオープンに。お互いに中盤がなくなり、ゴール前の攻防が増える緊張感のある終盤となりましたが、83分のマルティノスのFK、アディショナルタイムクリスティアーノのFKが不発など、お互いにゴールを割れずに試合終了。浦和としては内容的には今季ベストゲームと言える試合をしましたが、結果の面では勝ち点3、連勝を達成することは出来ませんでした。

3つのコンセプトに対する個人的評価と雑感

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は6.5点。個の能力という意味で目立っていたのは武藤と槙野でしょうか。武藤は1.5列目でプレーする役割においてチーム随一であることを証明するかのように躍動していたと思います。ポジションの取り直しや相手から一瞬浮いてフリーになり、ボールを収める、落とす、預ける、またはターンするといった選択肢を的確に選べる彼の良さが存分に出た試合でした。興梠にも言えますが、今節の柏の若いCBコンビに対しては経験というか、キャリア、個人としての積み上げの差みたいなものを見せつけたプレーだったのではないかと思います。チームのやり方、特にハーフスペースをFWが取ることを基本にするのかSHが取ることを基本にするのかという部分でチームの色が若干変わっている感のあるここ最近ですが、これが監督の試行錯誤でこういう形になったのか、もしくは武藤や興梠のパフォーマンスの良さがこうしたチームの形に導いたのかは気になるところです。もう一人言及しないわけにはいかないのは槙野のパフォーマンスで、オルンガを潰す、ゲームから消すというところで出色の出来だったと思います。失点のシーンはその裏側としてカバーリングに出れないことが影響してしまいましたが、マークがオルンガだったことを踏まえれば、それで彼の評価が下がるというわけでもないでしょう。本人もコメントしていたと思いますが、前から嵌めに行く以上最終ラインで同数を受け入れることはほぼ必須の生命線であり、それゆえに全体のパフォーマンスを押し上げるのはCBのクオリティになりますから、個人の対応、周囲との連携、チームへの声掛けという部分で他にない良さと安定感を見せ続けている槙野の存在はチームにとって非常に大きいと思います。あとは長澤、エヴェルトンのコンビの良さについても延々と語りたいのですが、それはまた先の試合でも機会がありそうな気がするので、次回以降に取っておきたいなと思います。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は6.5点。いつもそうですが、体力的消耗が比較的大きいサッカーを志向している中で、消極的だなあと思わせるようなプレーが結果に関わらず少ないことは素晴らしいなと思います。相変わらずもう一個丁寧にできれば…というプレーはありますが、それでも裏へのボール、サイドチェンジ、最終ラインからの楔を起点にしたレイオフからの中盤の前進など、やってほしいプレーに取り組んでいるシーン、それが成功して実際に狙っている局面がピッチ上に表出するという場面が明らかに多くなっていると思います。およそ2年ぶり近いシュート20本以上という今節のスタッツからしても、前向きで積極的なプレーを90分間継続出来ていたと考えるのが妥当でしょうし、願わくば今節くらいのパフォーマンスが基準になってほしいところです。それを踏まえて、後はこれをどれだけ続けていけるか、毎試合見せることが出来るか、という次の課題に取り組んでいくことになると思います。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は6.0点。ちょっとちゃんと確認していないですが、この評価項目に6.0点を付けるのは初めてではないかと思います。今節柏がフォーメーション変更をしましたが、ゲームの展開を踏まえて相手を困らせ、配置を変えさせるほどのパフォーマンスを見せられたのは非常にポジティブだと思います。やはりオフェンス、しかもボール保持時の取り組みが注目されがち、評価されやすいのがサッカーだと思いますが、今節は前からのプレッシングにしてもライン間を狭く保つ4-4ブロックの構築、特にSHの守備参加にしても、特に前半~65分程度までは非常に良い展開で目指すサッカーを体現出来ていたと思います。ボール保持にしろボール非保持にしろ、その両方でチームが目指す取り組みを体現できてこそトランジションの強さに繋がるわけで、そうした全局面で質の高いプレーを連続することが「攻守の切れ目のなさ」であり「相手を休ませない」プレーに繋がっていくので、この項目を評価できる試合がやれたこと、そしてここに至るまでいろいろと試行錯誤しつつここまで続けてこれたことはチームにとって非常に大きいのかなと思います。

ただ大切なのはそれを結果に結びつけることです。これだけ良い流れの中でも先制できず、決定機を逃すうちにリスクのほうに目が出て失点を許すというのは簡単に言えば負けパターンですし、どれだけ良いプレーをしても勝てないなら別のやり方にすれば?と言われていつでも取り組みが崩れてしまうのがプロの世界だと思います。そういう意味では、これだけ良いプレーをしたんだから勝たせてやりたいと思うと同時に、これだけ良いプレーをしたんだからこそ結果を掴まないと、ちゃんと勝たないと自分たちを守れないよ、と言いたくなる気持ちもあります。鳥栖戦で劇的な勝利を収め、今節これだけ良い内容を見せられたということで、次節の仙台戦では内容を結果に反映させること、ホームでしっかりと勝ち切って、上昇気流に乗っていくことが重要になると思います。過密日程の中で紆余曲折、かなり苦しい大敗や連敗も経験してきた今季ですが、ここにきて内容面では取り組みが現象に繋がっており、それが試合を通じて継続してきている感覚もある中で、次節はやはり、本気でブレイクスルーを目指す、それを印象付ける勝利を掴みに行く試合にしたいところです。それを実現するには、大槻監督がフラッシュインタビューで悔しさを滲ませながら宣言した通り、「続けること」が引き続き必要なのでしょう。

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というわけで、浦和は柏と勝ち点1を分け合って9位を維持。維持と言えば聞こえは良いですが相対的な立ち位置は上位にさらに離されるような結果となり、勝ち点的には川崎は別としても8位までの上位グループと、浦和から大分までの中位グループという塊が見えて来ている感じがします。ここから連勝が詰めれば上位グループの背中を追いかけられる可能性がある中で、10月後半の戦いはシーズンの順位を考えても非常に重要なものになっていきそうです。

今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。