96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

正面衝突を制する/未来への芽:Jリーグ第23節 vsベガルタ仙台 分析的感想

前節、シュート数で柏を圧倒する非常に内容の良い試合をしながらも1-1と勝利を逃した浦和。3試合ぶりにホームに帰ってきた今節は、相性の良い仙台を埼玉スタジアムに迎えました。

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リーグテーブルを見るたびに今季10回も勝っているのか…と感じてしまうような煮え切らない展開の今季ですが、浦和とは比べ物にならないほどの苦しみを味わっているのが下位3チームで、仙台はそのうちの一つ、16位に位置しています。得失点差が-20近く、勝利数はわずかに2、下位2チームに比べれば敗戦数はマシですが、21試合を終えて勝ち点13はかなり苦しい、というか、ほとんどJ1レベルの勝負が出来ていない状態と言えます。けが人が多く十分なスカッドが使えないという印象の上に、経営的にも苦しい状況に陥っている仙台ですが、Jリーグで最も苦手とする埼玉スタジアムでの勝利で流れを掴みたいところだったでしょう。

両チームスタメンと狙い

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浦和は「良い流れは変えない」の法則だったと思うが、トーマスのベンチ外は意外だった。CBに控えを入れないのは橋岡の存在があるからだろうが、なかなか贅沢だと思う。

浦和ベンチ:福島、山中、柏木、柴戸、関根、健勇、レオナルド
仙台ベンチ:川浪、平岡、蜂須賀、関口、松下、長澤、山田

浦和は前節と全く同じスタメンを起用。柏戦の出来を考えれば、そして大槻監督がピッチ上でのパフォーマンスを次の試合のメンバー選考にかなりダイレクトに反映させる傾向があることを踏まえれば、連戦ですがメンバーを変えずにこの試合に臨むというのは予想しやすかったかなと思います。連戦と言っても今節の後は1週間空く日程なので、そういう部分も反映されたのでしょうけど。また、ベンチには関根が復帰し、前節交代カードがなかったSH要員が補充されたのがポイントでしょうか。

仙台は若いメンバー+前線に外国人選手というメンバー。正直ベンチメンバーの名前のほうが"仙台感"のあるメンバーが並んでいます。要素はいろいろあるのでしょうが、降格が無いなかで今シーズンに何か意味を持たせるには若手の成長という部分に舵を切ったとも考えられますし、そもそもこれが今のベストメンバーという話なのかもしれません。連戦の中でけが人が多く出ているのも今季の仙台の苦しいところで、例えば第2節だったアウェー仙台戦と今節の両方にスタメン出場している選手は飯尾、柳、椎橋、ゲデスの4選手のみとなっています。単純にターンオーバーだったのかもしれませんが、土台になるべき選手を固定できないというのも成績の悪さに繋がっている要因…というと安易すぎるでしょうか。

で、各チームに短期的、中期的、長期的な文脈と目の前の試合への取り組み方があるのは当然のこととして、それらを無視してこの試合のことだけを考えるのであれば、個人的には仙台は3バックで臨むべきではないかと思っていました。戦術的な要素もいろいろありますが、単純に浦和の前節柏戦を観ても4-4-2に近い形で噛み合った状態では浦和の個人の強さやプレーの連続性、2トップがマークを動かしてスペースを使い合う攻撃の部分が出やすくなるのは明らかで、柏は展開を観てミラーゲームを避け、後半途中から3バックに変更しています。仙台の選手たちの格やレベルみたいなものをどうこういうつもりはありませんが、単純にリーグで最も結果の出ていないチームとして、勝ち点が20も上のチームがやりたい形でわざわざ戦うのは得策ではありません。また柏戦をみれば、柏が3バックに変更してハーフスペースを消すようになって以降、オープンな展開になる試合終盤まで浦和は効果的なオフェンスを多く繰り出せなくなっていましたから、単純にその方がゲームが安定するだろうという予想は出来たはずです。

柏戦を全く観ずにこのゲームに臨んだとは考えにくい中で、こうした単純な予想通りにゲームに入らないということは木山監督にはそれよりも優先したいことがあったのでしょうし、それが何かを語るには仙台のチームとしての取り組みを線として理解する必要があるので僕には難しいですが、平たく言えば「自分たちのサッカーに取り組む」ということになるのではないかと思います。

仙台のサッカー、その取り組みと歪さ

ものすごく雑な言い方かもしれませんが、今節の仙台は今季の浦和のうまくいっていない頃、例えばアウェー名古屋戦で大敗した時と重なるような気がします。結果的に6失点で大敗した今節の仙台とあの時の浦和は、自分たちの戦術に取り組む以上抑えなければいけないポイントを押さえられず、失点が続いたことでゲームのコントロールを失い、メンタルが続かなくなりゲームが壊れてしまうという状態に陥っていたのではないかと思います。

木山監督の目指す仙台のサッカーがどういうものかというのは正直よくわからないのですが、少なくとも今節取り組んでいた攻撃の形は分かりやすいものでした。今季で言えば鹿島や鳥栖、4バックで戦う時の清水、そして一時期の浦和が取り組んでいたSBを高く上げてSHを内側のレーンでプレーさせる変形が基本で、オンザボールでというより立ち位置とパス、とくにワンタッチのパスを混ぜて相手ディフェンスとのズレを作り、深い位置まで突破していくというのが狙いの一つだと思います。

で、この戦術を実行するにあたってまず必要なのが、ビルドアップ隊となるCBおよびCHの選手の配球、展開と運び出しの能力になります。基本的にSBはビルドアップに関わらず高い位置で相手SHを外れる位置を取ろうとしますし、SHは中央で縦パスを待っているので、CB+CH、もしくはチームによってはここに加わるGKがしっかりと相手を動かしつつ前にボールを付けていく必要があります。この意味では、特指選手であるアピアタウィア久の起用は理に適っていたと言えると思います。彼は身体が大きい選手ですがボール保持とパスに特徴がある選手で、実際に右サイドで汰木の背中側をうまくとりながら高い位置に張る飯尾への彼からの右サイドのパスは仙台が浦和のブロックを押し込むキーポイントになっていたのではないかと思います。

逆にうまくいっていなかったのが左サイドとCHの関わり方で、シマオマテに左足での安定した展開のパスを期待するのはどうかと思いますし、左SBの柳もボールを保持して何かをする選手ではないので、全体として仙台のビルドアップは右サイドで深い位置が取れ、左サイドは機能不全、という感じだったと思います。であれば、CHが中央から動かすという部分に期待したいわけですが、浦和がブロックを組んで中のスペースを消していたこともあって、椎橋と田中のCHコンビも浦和の2トップもしくは2CHを動かして縦にパスを付けるとか、ターンして自分でブロックの中に侵入するドリブルを選択するという部分で効果的な働きが出来ていなかったように思います。

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右サイドからの前進は良かったが、その先はあまり整理されていなかったのが残念だった。特にブロックの中でプレーする選手たちに相手を剥がせるプレーヤーがいないことで、少ないタッチでの崩しを狙うことになっていたが、それはそれで簡単ではない。

仙台が狙うのは大外に立つSBにボールを入れて浦和のブロック、特にSHの選手を動かしながらハーフスペースを取るSHやトップの選手とのコンビネーションということになりますが、基本的にオンザボールで相手を剥がす選手は道渕くらいしかいないので、ワンタッチ、ツータッチでの早いボール回しを合わせていかなければなりません。数字で言えば前半のポゼッションは仙台63%ですから、ほとんどの時間帯で仙台がボールを保持していたわけですが、その割にサイドにボールを付けた後は難しいワンタッチのコンビネーションを狙ってボールをロストするというシーンが多くなっていました。じゃあ誰かにボールを預けたいとなってもなかなかそうした役割を見つけられず、ボール保持からのオフェンスを狙うというのは、出場している選手の特徴や出来ることからして厳しかったかなという印象です。おそらく前半でうまく崩せたシーンは10分、11分のものだけではなかったかと思います。

もう一つ厳しかったのは構造的な問題で、上述のボール保持時の配置を作るために両SB、特に右サイド高い位置で良いポジションを取っていた飯尾はポジティブトランジションの際の移動距離が長くなります。浦和の先制点のシーンがまさにそうですが、この配置を取るための移動の途中でボールを奪われると彼の背後に大穴が空きます。これは仙台がセットオフェンスでやりたいことを実現するには避けられないリスク(ミシャサッカーにおける変形リスクと同じ)なので、そもそも配置とボールが落ち着くまではうまくプレッシャーから逃げる必要があります。手っ取り早い方法はトップの選手に速くて強い選手を置くことで、厳しい状況になったら裏にボールを蹴って収めてもらうというやり方が楽ですが、少なくとも今節の仙台はそういうタイプをトップに使っていませんし、従って足元で縦パスを受けようとするも浦和のCBに潰されてしまう、というシーンが多く出ていたと思います。

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じゃあどこで時間を作れば良いかというと、 それを任せる選手も、ボールの逃がしどころも明確ではなかった印象。 狙いとしては素早くトップの選手へ、ということだったと思うが、 裏に走る選手を使っているわけではないので、前向きな守備に強い 浦和のCBにとっては対処がしやすかったはず。

そんなわけで、セットオフェンスの配置のためにトランジションにおける移動距離が長い選手がいるもののその時間をうまく稼げず、そうするオプションもないために浦和のカウンタープレッシングをもろに浴びるリスクに晒され、セットオフェンスにおいては右からの前進という形はあったもののその先が定まらないためにボールロストの確率が高くなる少ないタッチでのコンビネーションを選び、結果的に浦和が狙うポジティブトランジションの場面を多く作り出すことになってしまう、というのが今節の仙台の戦いだったのではないかと思います。このゲームだけ考えれば仙台は5-3-2でスペースを埋めつつ、長いボールを使ってリスクを削りながらワンチャンスを伺うという今節の彼らの選択とは真逆の戦い方も選べたとは思いますが、仙台側の文脈を考えればこうした難しさに取り組むことこそが今季の意味なのかもしれません。ただそれにしても「連敗や大敗がチームを壊す」という原理を踏まえると、さすがに無謀というか、あまりにも歪さを受け入れ過ぎていたのではないかなという気がします。

どうしてこうなるかというのは難しいところですが、浦和との違いで感じるのは前線の選手にどれだけ頼れるかという部分かもしれません。浦和は今節の仙台ほどボール保持に傾倒する戦いは今季していませんが、うまくビルドアップが出来ず苦しくなった時にトップに蹴りこんでなんとかしてもらうだとか、低い位置で守らざるを得なくなったときにスピードのある選手を走らせて陣地を回復するだとか、一発で局面をひっくり返せる要素があればこそ我慢が出来るわけで、そういう要素が無いチームはそれなりのリスクを負わなければいけないというのは厳しい現実です。とはいえ、同じ選手で戦うにしても、ゲデスもクエンカも狭いスペースで使うよりもサイドでプレーさせたほうがのびのび出来そうな感じはするので、アウェーで戦った時のように奪ったら素早くWGへ預けて運んでもらう、というサッカーのほうが浦和は苦しんだかもしれません。

浦和としては45分で1,2回の確率で成功するコンビネーションに神経質になる必要はありませんし、それ以上の確率でボールロストをしてくれるのであれば、今季の基本コンセプトである奪ってから縦へ早い攻撃、ファストブレイクを狙っていけば良いことになります。そういう意味では今節は、特別な工夫をせずともやりたいことが表現しやすいゲームだったと言えると思います。WGタイプの選手を使ってもカウンタープレッシングが多く出せるようになってきましたし、4-4ブロックが作れなくなる時間も減ってきた最近の浦和ですが、これまで積み上げてきたやり方を普通に出せば、それだけで相手が苦しんでくれる、という感覚で今節を戦えていたのではないかと思います。そう考えると、1-2で勝利したものの内容的には仙台にもかなりチャンスがあったリーグ戦第3節アウェーでの対戦からすれば、今節は今季ここまでの浦和の積み上げを感じる試合だったと言えますね。

正面衝突を制する

時系列でゲームを追っていきます。8分、橋岡がロストしたボールを自ら追いかけ田中のパスを引っかけると武藤を経由して興梠、興梠のスルーパスに汰木が反応し、ヒールでの落としに長澤が仕上げ。美しいファストブレイクを完結しました。浦和側で言えばこのゴールはカウンタープレッシングがハマったことと、2トップがゴールから離れることで作り出したスペースを他の選手が使うという部分においてこれまでの取り組みや狙いが出たゴールでした。仙台側から見れば飯尾がセットオフェンスの配置につく際の背中側を浦和に使われ、その際に全力でカバーすべき周囲の選手がディフェンスに戻りきれず、するするとエリア内に入っていく長澤を誰もケアしていないところから失点してしまった、と言う感じでしょうか。ポゼッション率が示す通り、6-0になるとは想像できないほど守る時間が長かった今節のレッズですが、やはり大きかったのはこの先制点だったと思います。今季は先制した試合にめっぽう強いというデータが出ているらしい浦和レッズさんですが、柏戦で取れなかったゲーム開始直後の先制パンチ、この一点があったことで仙台のオフェンスに無駄に食いつくことなく構えて守ることが出来た、という部分があったかなと思います。飯尾に右サイドの高い位置を取られるのはやっかいでしたが、クエンカとゲデスが狭い局面で一枚躱してシュート、という場面があったわけでもないので、エリア内にボールが入っても危険な選択肢を消しつつ上手に対処できていたという印象でした。

先制点による心理的な優位をベースに堅くゲームを進める浦和に対して、なんとかボール保持からセットディフェンスを攻略したい仙台という構図の前半は、その後は比較的静かな展開。浦和はビルドアップがうまく行っていたとは言い難く、ボール保持の時間は短かったですが、2トップがハーフスペースを取りに降りる過程で仙台の最終ラインを引っ張り、入れ替わるようにSHが裏を狙うという形や、西川のフィード一発で汰木が抜け出したシーンなど、前からボールを奪いに来る仙台の裏を使う、という狙いを基本として持っていたと思います。

35分の追加点もカウンタープレッシングから。武藤のクロスをアピアタウィアがクリアしたボールを拾った田中にマルティノスが背後からアプローチ、こぼれ球を拾ったエヴェルトンが得たFKをマルティノスが沈めて追加点。

マルティノスは柏戦でもほぼ同じ位置からかなりカーブがかかった惜しいボールを蹴っていたので、蹴り直しのような意識だったかもしれません。ほぼ正面の位置からサイドネットに吸い込まれるゴールですから、GKにはノーチャンスでしたね。ただ仙台の壁は内側に身長が低い選手、外側に身長が高い選手が並んでいたのはよくわかりませんでした。身長が高い選手が作っていた外側の壁、ストレート系のボールじゃないとゴールに入らないのではないかという位置でしたし、実際内側に壁を作っていたシマオマテの頭上を巻いてゴールに入る軌道のキックが来ているのですが、どんな狙いだったんでしょう。チームが上手くいっていないからかもしれないですが、ミスが起きるのは良いとしても、戻りが遅いとか壁の作り方が甘いとか、細かい部分が突き詰められていないことが気になりました。まあ、そんな余裕はないんでしょうね。

で、畳みかける浦和は直後のディフェンスから追加点。仙台のビルドアップの場面でシマオマテが中央でボール保持していたのですが、高い位置に張り出す柳へのパスコースがなく、サポートに入るべきCHもシマオマテの動きを待ってしまい、かといってボールホルダーのシマオマテも自力では運び出せないという状況が起きてしまいスタックすると、ボールを引き取った椎橋の右サイドへのパスを読み切っていた汰木のインターセプトから裏を突いた興梠へのスルーパス、スウォビィクが飛び出してPK獲得。冷静にPKを沈め、一気に3-0と勝負を決めることとなりました。

前半の3失点について仙台の木山監督は以下のように語っています。

非常に厳しい結果だと思います。ミスや判断のところで、直接失点につながっているのが現状なので、そういうところをなんとかしなければいけません。あとは、粘り強く戦うことが重要ですけれども、いろいろなところの質をもうちょっとでも上げていかないと厳しいのかな、という思いは持っています。

--この試合のターニングポイントについて。
前半の3失点に関しては、ある程度自分たちの技術や判断のミスをしたところが失点につながっているので、そこです。

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 実際最初の2失点はトランジションでの浦和のカウンタープレッシングに晒された田中がボールを逃がせずに奪われてという形から、3点目はビルドアップで詰まって椎橋のパスがインターセプトされてからの失点という形からでしたから、まあその通りです。ただ個人的には、このコメントが「やり方は合っていたがミスが出た」という意味だとすると若干違和感があります。

仙台からすれば今節は、カウンタープレッシングやセットディフェンスからの速攻を狙う浦和に対して、まさに相手が狙う部分にリスクを晒しながらも正面衝突を挑み、それを上回れなかったという感じのゲームだったわけですが、こうした正面衝突を選ぶにしても勝負の肝となるトランジションの部分の整理が雑で無防備に感じました。そもそも勝負というよりも自分たちがどこまで出来るかやってみようという要素が強かったのかもしれませんが、それにしても勝負事なので、相手の狙いを全くケアしないで正面から突っ込むのは当たって砕けろ以下の戦い方のように感じます。台所事情がある中でどんな戦い方を選ぶのも監督の自由ですが、今季の浦和の通ってきた道のりを思い返しても、「負けながら積み上げる」というのはかなり厳しい、難しいことだと思いますので、「自分たちのやりたいこと」に取り組むにしても、勝負事である以上結果を左右するポイントに最低限の手当てをする、取り組みに濃淡をつけるというのは大事なのかなと感じる今季、この試合でした。

浦和としては柏戦で取れなかった早い時間帯での先制点を取れたことで良い流れを引き寄せることができ、セットディフェンスで耐えながら相手のミスからゴールを重ねることが出来たわけですが、実はこういうやり方でゲームを運べたのは久しぶりで、僕が覚えている限りではアウェーガンバ戦以来ではないかと思います。あの試合も1-3と快勝することが出来ましたが、今季の浦和のやり方であればこういう展開に持ち込むのが得失点差を稼いでいくには一番良い方法なのでしょう。

ゴールラッシュと未来への芽

仙台は前半のうちに左SBを蜂須賀に交代、さらにHTに椎橋→松下の交代で後半をスタート。浦和は大きなリードでしたが交代はせず、そのまま後半に入りました。最初のチャンスは仙台。49分に道渕がハーフスペースでボールを受けると、浦和のプレッシャーを受けながらピッチを横断。大外から蜂須賀が攻撃に関わり、最終的にはエリア内でシュータリング。ゲデスにはうまく合いませんでしたが、こういう攻撃は狙いの一つだったとは思います。しかし、その直後に浦和が決定的な追加点。スローインのボールを興梠が逆サイドへ展開すると、大外で待っていた汰木がドリブル開始。それに呼応するように宇賀神がスプリントでサポートし瞬間的に2on1を作ると、その宇賀神を囮に汰木がカットインから右足でアーリークロス。ボールに寄る形で仙台の最終ラインの目の前に動き出した武藤と内側にカットインした汰木の動きに仙台の選手全員の視野が固まってしまい、背後から走りこんだ興梠がフリー。汰木のバックスピンのかかった絶妙なボールをミートすると、スウォビクの反応もむなしく仙台の心を折る興梠のJ1通算154得点目が決まりました。

このゴールを受けて浦和は選手交代。2ゴールの興梠を下げてレオナルドを、次節出場停止が決まった宇賀神に代えて山中を投入。この辺りからは浦和はもはや勝ち点よりも次節以降にどれだけ良いイメージを繋げるか、という部分にフォーカスしていたと思います。その後も仙台のセットオフェンスを受け止めてからファストブレイクに出て行く浦和は、点差が開いたこともありトランジションの強度が下がり続ける仙台を叩き続けます。56分にファストブレイクからレオナルドが抜け出してGKと1on1となるものの決め切れないというシーン、64分エヴェルトンのリフティングからの惜しいシュート、そして65分にも切り替えからマルティノスのミドル、それで得たCKのこぼれ球を生かしてマルティノスがエリア内に侵入からクロス、いつも通りマイナス気味に待っていたレオナルドが押し込んでで5-0。58分にクエンカに代えて投入した長沢を使ってなんとかゴールに迫りたい仙台を寄せ付けず、切り替えから決定機を連発しゴールに結びつけるという狙い通りの展開でゲームを進めることが出来ました。

で、ゴールシーンがこれだけ観れればゲームとしては十分満足なわけですが、個人的にグッと来たのはそれ以外の部分だったので記しておこうと思います。このゲームで6-0という結果と同じくらい記録に残しておきたいのは、レオナルドがこの試合、少なくとも42回は後ろを振り返ったということです。

今まであまり気にしていなかったので比較が出来ないのが残念なんですが、今節、最前線で相手のビルドアップにプレッシャーをかけ始めるタイミングで、レオナルドがしきりに後ろの状況を確認していたのがとても印象的でした。これはおそらく大槻監督の意識づけの延長線上にあるもので、今季の前半戦によく見られたレオナルドだけ相手最終ラインにアタックして後ろが無理について行くためにズレが大きくなりすぎることの修正の一環ではないかと思います。この試合のレオナルドは相手GKに無理にプレッシャーをかけずに、そこから出てくるボールの行き先、つまりCBにアプローチに行ける範囲に立ち続けることを(少なくとも6-0になる前までは)意識していたと思いますが、それと併せて最前線に立つ自分の背後の状況を見ながらプレッシャーを掛けるプレーに取り組んでいたと思います。

オフェンス時に最前線から降りてきてハーフスペースを取り、スペースを作ったうえでゴール前に入り込むという、ここ数試合の2トップに求められている動きに対する取り組みについてははっきりとしたものを観察することは展開的にも難しかったのですが、少なくとも守備時のこの振る舞いは非常に良い兆候だと思います。シーズンを戦う中で2トップに求められるものが変わってきた中で、チームナンバーワン、リーグでも屈指の決定力を誇る彼がゴール以外の部分で求められるプレーに取り組んでくれていることは極めて心強いです。前節の柏戦のエントリで2トップの人選について以下のように書きましたが、彼がこうしたプレーに取り組んでくれるのであれば話は全く変わってきます。

「最後の瞬間に仕事をするためにゴール前に居座る」というタイプのFWを使うには相性の悪い戦い方にシフトしているのは事実だと思います。「崩しが貧弱になるけれど高い決定力が発揮できるやり方」と「崩しは豊富だけどゴール前に人数とパワーが足りなくなりがちなやり方」の二律背反があるとすると、ここ最近は後者を選んでいるのは明らかです。ちなみにこれが何を引き金にしてこうなっているかというのは今の時点では難しくて、それはマルティノスの活躍かもしれないし、SHを中に入れて崩しに関わらせるには最終ラインのビルドアップがまだまだ貧弱で難しかった、ということなのかもしれません。おそらく横浜FC戦の後半~FC東京戦がターニングポイントだったのではないかという気がしますが、いずれにしろこのやり方を選ぶのであればレオナルドにはゴール前の勝負だけではないプレーが求められるでしょうし、彼が自分のスタイルに固執すれば今後の出場は限定的になるかもしれません。これはやり方と個性の話なので誰かを批判するわけではなく、10人でボールをエリア内に届けられるのであればレオナルドは今のままでも20ゴールを狙えるでしょうし、もしくは興梠や武藤の動き出しをしながらゴール前の決定力を維持できればこのやり方でもエースとして君臨出来る、という話ではないかと思います。というわけで、名古屋戦では「守備時に計算出来ない選手はピッチにひとりまで」という考えでレオナルドの出場が減っているのかも?と書きましたが、今節を観た限りではボール保持時の全体のやり方の変化と2トップの評価軸の変化の割を食っているという部分も要素としてあるんだろうなあという印象です。

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浦和の将来を考えても、レオナルドがこうしたプレーを身に着けてチームとしての機能性を果たしながら圧倒的な決定力とエリア内での個人技を発揮するようになることが理想的です。シンプルな原則とハードワークの上に選手の個性を乗せて戦う今のサッカーにおいては、個人能力の高い選手がチームの機能性を落とさずに働いてくれることがそのままチームの最大出力を押し上げていくことに繋がります。この日結果的に2ゴールを挙げ、あわよくば4ゴールを奪えたかもしれないほどチャンスに恵まれたレオナルドですが、今節のプレーに手ごたえを感じ、この方向性で良い意味でチームに組み込まれるのであれば、それは瞬間的な6-0という結果よりも大きな収穫をもたらす未来への芽、さらなる伸びしろになるのではないかと期待しています。もちろん、すぐに劇的に変わるということはないのでしょうけど、良い守備を続けることが自分により多くのゴールチャンスをもたらすのだと思えるようになれば、元来努力家のレオナルドなのでチームのやり方に沿ったレベルアップが期待できるのではないかと考えています。

というわけで、最後はビルドアップを中途半端に嵌めに来た仙台を裏返し、橋岡のクロスからレオナルドが押し込んで6-0。途中長沢のヘディングがバーを直撃するシーンもありましたが守備陣も0で抑え、いつぶりかわからないほど久々の大勝で浦和が勝ち点3を手にしました。

3つのコンセプトに対する個人的評価と雑感

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は8.5点。要所でスプリントを繰り返し、ボール保持においてもボール非保持においてもチャンスクリエイト出来るアタッカーに進化しつつある汰木や、中盤のダイナモとしてトランジションの強度を支える長澤とエヴェルトン、ボールラインまで戻って守備参加したうえで決定的なシーンを作ってくれるマルティノス、最前線からボールを引き出し、ファストブレイクを機能させ続ける武藤、そしてゴールを決め切る興梠にレオナルドと、特に中盤から前線の選手の個性がいかんなく発揮された試合だったと思います。毎試合こういうゲームなら、自信をもってファン、サポーターに観るべき試合があると言えるようになるのではないでしょうか。あわよくば、今節も勢いに乗り損ねた感じのある健勇や山中にも継続した活躍を期待したいのですが、それを今後の楽しみと思えるくらいにはポジティブな気持ちを持つことができるゲームでした。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は8点。前半の先制後の時間帯など、全体としては仙台の流れに傾いた時間帯もそこそこあるゲームだったのですが、特に終盤の一番きつい時間になってもボールを奪ってからのファストブレイクを狙い続け、前線に加えて後ろから選手が湧いて出てくるようなプレーを見せられたことは、「3年計画」のコンセプトに照らしても素晴らしいプレーだったと言えると思います。

仙台がかなりリスクの高いやり方でこのゲームに臨んだこともありますが、浦和が目指すべきサッカーのロールモデルとして非常にわかりやすく、なにより勢いのつく勝利になりました。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は7.5点。わざわざケチをつけるような試合ではないですが、前線からの追い込み方、サイドに出たボールの閉じ込め方など、ボール非保持、特にセットディフェンスでのプレッシャーのかけ方はまだまだ改善できる部分があると思いますし、ボール保持にこだわらないにしても前半30分までのビルドアップは不十分だったかなと思います。

破壊力のあるカウンターをチラつかせながら、相手がボールを持ちながらも恐怖を感じるようなセットディフェンス、リスクを恐れて縦パスを躊躇するようなシーンを多く作り出せるようになれば、そしてボール保持を問われる場面においても裏を狙う攻撃と後ろから運び出す攻撃の両方を使い分けて相手ゴール前に迫れるようになれば、ここからもう一段怖いチームになっていけるのではないかと思います。

とはいえ、今季20試合近くこの項目に高い点数を付けられなかったことを考えれば、これだけの点数を付けられるゲームが出来ていること自体が今季の取り組みの一つの成果と言えるものです。試合終了後に仙台の選手以上に浦和の選手が倒れこんでいたように、体力的な消耗はどうしても激しくなると思いますが、充実感と手ごたえがそれを凌駕するようなゲームを続けていくことが今後重要でしょうし、そうすることでしか、残り10試合となった今季の目標、「3年計画」の一年目のマイルストーンであるACL圏内と得失点差+10以上は達成できないでしょうから、今後もこの項目に良い点数がつくような試合を続けて欲しいと思います。

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23節を終了し順位に変動はなかったものの、大勝で得失点差は-3まで改善。4位のガンバとは勝ち点差が大きいですが、5位の名古屋とはわずか5差と上位に食い込んでいくのが現実的な立ち位置にいることはポジティブです。

残りの10試合はまさに順位を決めていく対戦となるわけですが、特に重要なのは次節のセレッソ戦でしょう。今節の仙台のようにトランジションのリスクを無視して戦ってくるようなチームなら別ですが、今季のJリーグにおいてそうしたリスクを最も排除しようとし、実際にそれができるチームがセレッソです。今節と同じようなゲームになるとはなかなか想像出来ないですが、逆に言えば一番相性が良くないであろう相手と一番勢いのついた状態で戦えるというのを力に変えて、今季何度も跳ね返されてきたブレイクスルーの壁を突き破ってほしいと思います。

 

今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。