96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

噛み合わせのズレをうまく使うには:Jリーグ第26節 vsサンフレッチェ広島 分析的感想

書くのが遅くなったのは忙しかったからというのもありますが、単純に気持ちが乗らずにサボっていただけです。

で、今節を振り返ると、大分戦から中2日、浦和は大分→広島のアウェー連戦ですが、一度浦和に戻る遠征コースを選んだことが若干話題になった試合でした。感染リスクを抑えるということもそうでしょうけど、練習場の確保とか飛行機と新幹線の移動時間を比べると直接広島に行くのも浦和に帰るのも変わらないという判断だったでしょうか

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ここ5試合負けのない浦和は、一時期-10に近いところまで悪化した得失点差も0に近づけており、今季をトップハーフで終える可能性が高い位置につけています。ただ目標であるACL圏内にはかなり厳しい状況となっており、前節の大分戦の引き分けもあって、残り試合は7勝1敗、6勝2分けのような成績で走り抜けるようなペースが求められます。

両チームスタメンと狙い

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浦和ベンチ:彩艶、トーマス、山中、青木、関根、杉本、武富

相手ベンチ:大迫、伊林、エゼキエウ、土肥、藤井、永井、ドウグラスヴィエイラ

連戦でどうするかと思いましたがメンバー変更は山中→宇賀神のみ。大分戦はドローに終わりましたが、悪い試合であればメンバーをスパッと変えてきた今季の起用傾向からすれば、やはり前節は悪い試合ではなかったという評価をしたのでしょう。

浦和は大分戦の反省を生かして3バック(5バック)の相手を崩すために何を用意できるか、というのがポイントになる試合だと思いますが、そもそも愚直な継続でチームを作ってきた今季を考えれば中2日で何か秘策を用意するとも考えにくく、基本的には大分戦と同じような振る舞いで、結果だけをうまく変えていきたいという意識だったのではないかと予想します。やりたいことはいつも通り、リスクと体力を賭けてでも前から嵌めこんでいってファストブレイクを狙う展開です。

広島側の最近の事情はよく勉強出来ていないのであまり語れることはないのですが、浦和との前回対戦を思い出すと不意に先制を許し、その後は引きこもる浦和を打開できず、西川のスーパーセーブもあって1-0で敗れるというものでしたので、城福監督の性格を考えても絶対にやり返したいという想いは強かったでしょう。

 先制したものの…

で、そんな意気込みを打ち砕くかのように浦和がいきなり先制。右サイド、マルティノスが内側にドリブルしてからのアーリークロスを興梠が完璧なトラップから林の股下に叩き込んで今季9点目となるゴールを決めました。だいたい2分30秒くらいで先制しているわけですが、ここまで早い失点は事故か最初から機能的におかしい部分があるかのどちらかのパターンでしょう。今節の場合はこの2分半の間に広島の守備の良くない点というか、怪しい部分がしっかり出ていたパターンで、浦和が対広島として狙っていたかはわかりませんが、それをうまく突くことが出来ました。

広島の守備の原則がどういう風になっているか細かくは分かりませんが、大きなところでは自分の対面のマークには思い切って距離を詰めて、それで空いたところは近い選手がカバーに入るという感じに見えました。例えば先制の直前の2分11秒のシーンではボールを奪った浦和が繋ぐわけですが、トランジションで前線に残っていた右WBの茶島が宇賀神に突撃。もちろんその後ろが空くわけですがそこは後ろの野上が相手陣地まで前に出て降りていく汰木について行くという感じで、目の前の相手に次、次、と出て行きます。でこれ自体は悪いことではなくて、浦和もそうするようにやり切ってボールを奪えば戦術としてはまあ良いというか、そういうリスクとリターンのバランスを受け入れてるんですねという話なんですが、それが裏返された後の戻りが遅いというのと、全体のブロックのバランスを考える人があまりいなさそうなのがつらいところだなと思いました。失点シーンなんかはそもそも柏がマルティノスのカットインに対してボールマンを捨ててどこかを埋めに下がっていく謎ムーブをかましているのですが、それを置いておいても全体が低すぎる(ボールが前にこない状態で誰もラインを上げない)、目の前の相手について行くためにエリア内で1on1が出来てしまうというあたりは明らかに広島の守備の機能性の弱点と言えると思います。

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浦和の形を見ると、相手の1トップに対して2CBを残し、中盤の底もエヴェルトンと宇賀神で2枚フィルターを用意できている理想的な状況。長澤を前に使って3on3を作るこの形を多く出せれば良かったと思う。

たぶんチームとしては前に前に圧力をかけていくことを意識づけられているのだと思いますが、結果としてエリア内での1on1を簡単に受け入れるなら5バックの良さはあまり活きないのではないかと思いますし、もし前向きの守備を意識づけるなら全体を押し上げていくこともセットにしておかないとこういう風に致命傷になる死角を晒しながら相手に飛び込むことになってしまいます。まあこの場面は興梠のエリアワークが上手過ぎましたけど。

で、一気に浦和の試合になるかと思いきや、ここからは広島の時間帯。3-4-2-1と4-4-2のズレをベースに、浦和のブロックの間に複数のプレーヤーが顔を出しながら細かくボールを繋ぐ広島は、WBにボールを預けてからのチャンネルランを中心に浦和ゴールに迫り、ボールを失った瞬間には近い選手が突撃する形でボールを奪いとることで浦和に圧力をかけていきます。

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これを嫌うとWBのマークにSHを使いたくなるが、そうすると全体がかなり押し下げられるので大槻監督はリスク込みでも前向きに対処しようとしている感がある。なので、少なくとも今季のサッカーを評価する上では危ないシーンが多くてもゴールを割られなかった以上、リスクをとっても結果をコントロールできたという評価をすべきな気がする。

5分半の右サイド茶島のクロスがまず良い形。続けて左サイドをワンツーで崩しての浅野のシュート気味のボールがエリア内に入ったのが6分40秒のシーン。10分には右WBの茶島にボールが渡り、パスを出した川辺がチェンネルランでエヴェルトンをバイタルから剥がし、茶島からペレイラ、落としを青山のシュート。

このあたり、実況の江本さんが言っていた通り、「広島のシャドーをボランチが見るのかCBが見るのか」というのが一つのポイントで、浦和は上下左右に移動するシャドーが作るリンクに翻弄されていた部分があったように思います。

その後も13分の西川の謎のミスから、続けて17分には高い位置をとった野上のクロスからペレイラのヘディング、19分には右サイドからのチャンネルランからバイタルを開ける10分と同じパターンで川辺のクロスから柏がフリーになるシーン、22分には長澤のミスから佐々木のミドルを許すなど非常に流れの悪かった浦和ですが、この時間帯はポジティブトランジションもGKからのビルドアップも両方機能しておらず、かなり難しい時間帯でした。ゲーム後の監督コメントで城福監督が「先制したら浦和が引くのは当たり前」と言っていましたが、個人的には広島に完璧に嵌められてしまっていたと思います。ポジティブトランジションのミスはチームとしては許容できるものだと思いますが、ビルドアップで6on5が出来る場面でボールを落ち着けることが出来なかったことでゲームが苦しくなってしまったと思います。

 リスクを負う場所

先制したこと以外はレッズにとって非常に厳しい立ち上がりとなったゲームでしたが、ウォーターブレークを経てゲームが一変。29分にビルドアップのパスミスを奪って長澤のシュート、30分には降りてきた森島をエヴェルトンが捕まえてボール奪取、長澤から汰木への縦パス、最後はヒールでの落としを興梠のシュート。ただこれ、見返した感じでは浦和が何か良くなったというよりも広島のビルドアップの際のボランチの立ち位置と技術的なミスの要素が大きい気がします。29分のシーンは相手を外しきっていないのに青山が中盤へ突如全力疾走で上がっていった直後に荒木がパスミスをしていますし、30分のシーンでは今度は安全に行こうと思ったのか青山が最終ラインに降りる形で4バック化したことで浦和の4-1-2-1-2と枚数が合ってしまいプレッシャーを受ける、ということが起きていました。先制シーンもそうですが、全体的には良い感じなのに局面局面で謎の動きが出るのが不思議な広島でした。やたらテンポも速かったですし、先制されたことで冷静さを少し失っていたのでしょうか。

33分のシーンは浦和が良かったシーンで、バックパスに興梠がスイッチを入れたところからボールを回収するわけですが、このシーンでは佐々木が高い位置に立って実質2バック化していた広島の最終ラインにうまく枚数が合い、浦和のCHが思い切って前に出ることで全体を押し上げることが出来ていました。

おそらくポイントは浦和のCHまわりの攻防で、ウォーターブレーク前の時間帯は広島のボランチ2枚が縦関係になった時に出来る中央での2on3が気になってCHが前に出れず、トップの選手も数的不利で捕まえきれない中でボールを運ばれてしまい、チャンネルを取っていく広島の狙いとトランジションでの思い切りの良さが広島側に良い流れを作っていたのだと思います。

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それがウォーターブレークを経て、浦和は降りてくるシャドーを気にするよりもある程度CBに任せるかいっそ捨ててしまって前に出て、広島のボランチをCHで捕まえようという風にやり方をはっきりさせ、そこに広島のビルドアップのミスも重なって流れを取り戻したという感じに見えました。

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シャドーが降りてくれば運ばれるが、その時は前進の枚数が減っておりディレイは容易なので、 運ばれたらブロックを組めば良いという考えだったか。立ち上がりに上手く嵌っていない時に、しかも先制している中で、僕だったら一回ブロックで構えてリスクオフしようと思うけれど、ここで前に行くためにリスクを負うぞ、と言えるのは結構すごいと思う。

もちろん降りてくるシャドーにボールが入ると危険ですし、前に出たところを裏返されると35分のシーンのように最終ラインが晒されるわけですが、中盤での数的不利から論理的に押し込まれるよりは、なるべく枚数を合わせて前に圧力をかけることで広島の最終ラインのビルドアップ能力を問う方が浦和にとっては良い流れになったということでしょうか。今季の浦和は最終ラインである程度リスクを取った方が上手くいく感じがしますが、今節のウォーターブレークを挟んだ流れの移り変わりにもリスクを負う場所を整理できたことが関係している気がします。

で、これ以降はビルドアップで同数が出来た時に圧力をかけられる浦和と、ボールを前進させられればチャンネルを取るところからチャンスメイクが出来る広島の攻防、そして浦和のボール保持では序盤ほどの勢いでプレッシングに出られなくなった広島とビルドアップがいまいち洗礼されない浦和の攻防という感じで、どちらのボール保持かでゲームの質が変わるような展開でゲームが推移していくことになります。ただどちらが優勢だったかと言えば、38分にはトランジションでボールを奪った野上のクロスにペレイラ、41分にも汰木がWBの茶島を見ることで空くスペースに上がってくる野上のクロスからペレイラとボールを前進させたところからシュートチャンスを作る形と機能性があった広島が優勢だったと言える前半でした。浦和は前半の最後の時間帯になって岩波のフィードでボール周辺に枚数を合わせてくる広島のプレッシングの開けているスペース、一つ飛ばした逆サイドのポイントを使えたシーンなどは良かったですが、全体としては広島にシステムのズレをうまく使われて苦しんだ前半でした。

 よく言えば拮抗、悪く言えば…

両チーム交代なく後半へ。広島としては失点以外悪くない展開、浦和としては難しさはあるもののやりたいことは変わらないという感じだったと思います。ボールが落ち着かない立ち上がりでしたが、48分に浦和にビッグチャンス。立ち上がり全体を押し上げて前から来る広島に対してなかなかボールを前進させられない浦和でしたが、スローインの流れからマルティノスが抜け出すとマークの佐々木を置き去りにしゴール前まで独走。GK林と1on1になるもののシュートを決め切れませんでした。このシーンでも広島は降りていく武藤にCB荒木がついて行った裏を取られており、相手選手を基準に守るが故の弱点が露呈したわけですが、これを決め切れなかったのは浦和にとっては痛恨でした。たらればに意味はありませんが、このシュートが決まっていれば浦和が勝ち点3を取るゲームになったのではないかと思います。

後半の浦和は前半の立ち上がりほど噛み合わせのズレからチャンスメイクをされていたわけではありませんでしたが、やはりマークが定まらない感じがあり、それなりにやりにくさを感じていたように思います。本来であれば正面から来るのであればWBの対応にSBを押し出して前へ前へと圧力を掛けたかったのだと思いますが、シャドーが大外のレーンに絡んでプレーするとCBがついて行くわけにもいかずサイドで数的不利が出来てしまい、SHがケアに戻れば全体が下がってしまうという感じで、前にも出にくいしSHの体力は消耗するしでやりたい展開に持ち込めていたとは言い難い時間帯でした。

追いつきたい広島は59分に浅野に代えてドウグラスヴィエイラを投入。それを受けて?浦和も交代。疲れが出ていたマルティノスに代えて関根を、武藤に代えて健勇を投入。健勇の投入は、ポジティブトランジションでボールが収まらずに簡単にボールを失ってしまう場面が続いていたので、もう少しボールを保持したいという考えだったでしょうか。ただ選手を変えてもゲームの構造は大きく変わらず、噛み合わせのズレ、特に広島のシャドーをどう捕まえるかという部分で浦和が後手を踏んだ感がありました。おそらく今季の浦和のやり方を踏まえると、シャドーをある程度捨てるかCBを前に出してしまって失点リスクを負ってでも前からプレッシングをかけていくのが良いのだと思いますが、SHの体力的な問題やリードしているゲーム展開もあってなかなかそうしたやり方を選ぶのは難しくなっていた後半という感じだったでしょうか。

一方の広島はヴィエイラが出てきた時点で前半よく狙っていたチェンネルランからクロス攻撃へと舵を切った感がありましたが、相手陣地の最奥を取りにランニングを繰り返すチャンネル攻撃をするにはトランジションが多い試合になっていたし、浦和のカウンター一発を警戒してよりシンプルな攻撃を選んだのかもしれません。前半と同様に浦和のボール保持、特にポジティブトランジションの局面では広島の早いプレッシングの前にコントロールが出来ていなかった浦和は守備の時間帯が長くなりましたが、西川が晒されるようなシーンはほとんどなかったので守備に大きな問題があるという認識でもなかった気がします。よく言えば拮抗した展開で、悪く言えば面白味のない時間帯とも言えたかもしれません。

ウォーターブレークの直後に浦和はエヴェルトンに代えて青木を投入するも、その青木が絡む形で失点。75分、広島左サイドからのクロス対応からクリアが甘くなりボールをエリアから出し切れなかったところでペレイラに上手いシュートを蹴りこまれてしまいました。どこにたらればがあったかと言えば、槙野のクリアが甘くなった後にヘディングをした青木のところだったかもしれません。相手陣地方向にクリアしたことでヴィエイラに拾われてエリア内にボールを戻されてしまったのですが、はっきりボールを切るという意味ではサイドライン側にヘディングしてスローインに逃げても良かったかなと思います。ただ落下点と自分の体勢からしてボールを落とせる方向が選べないこともあるので、対応がまずかったというほどではない気がします。良いシュートを撃てる選手にエリア内でボールが入ってしまって、良いシュートが飛んできたという感じでしょうか。ゴールへ向かうアーリークロスが入った瞬間は相手選手2枚に対して逆サイドは汰木まで戻って4枚で対応できていましたし、最終ラインの一列前で青木がバイタルを埋めるポジションに入っていたので、クロス対応という意味では悪くないというか、良い対応が出来ていたと思います。ペレイラに拾われた直後に青木がもう少し深く足を出せたかなという気もしますが、まあエリア内なので。自分たちが上手く守っていてもゴールを決められることはあるので、あまり気にする失点ではないかなという印象です。それよりも立ち上がりの先制以降相手の圧力を受け続けたことのほうが改善したい部分ですね。

噛み合わせのズレをうまく使うには

追いついた広島が79分、81分とゴールに迫る一方で、浦和はなかなか思い通りのゲームを作ることが出来ませんでした。79分に関根が交代で下がるわけですが、勝ち越しに向けてギアを上げていきたかった浦和としては想定外の形でカードを切ることになってしまったかもしれません。久しぶりにまとまった出場機会を得ることとなった関根としてはアグレッシブなプレーでアピールしたい試合だったと思いますが、シュートブロックで足首を持っていかれた後はパワーが出せなくなっていたようです。ただ交代で入った武富がこのチームのSHに求められる要素を持っているかというと、それもまた難しく。終盤は疲労もあってパワー不足が露呈してしまいました。

この試合の浦和のボール保持の質が上がり切らなかったことの要因をざっくりとまとめると、疲労もあって前線の動き出しが少なかったこと、動き出しても3バックで守る広島は最終ラインにスペースが出来にくいこと、そしてそれをベースに降りる選手にマークがはっきりとついてくるのでフリーの選手が出来にくいこと、そうなると3バックが余らないように前線を3枚にして、2枚を動かしてゴール前の1on1を用意した先制点のようなシーンを作るために前線にもう一枚を使うか、ボールマンが対面の相手を剥がすか、ビルドアップから一枚ずつ剥がしていく必要があるものの、それがなかなか出来なかったことが挙げられるのではないかと思います。また健勇と興梠の2トップが降りて受けようとする場面が多く、裏への動き出しを入れて広島の最終ラインの高さに影響を与える狙いが少なかったのも停滞感の一つだったと思います。健勇はプレーの特性からして降りる選手ですし、興梠は試合終盤になって裏→表とか表→裏という動き出しを繰り返すにはきつい時間帯だったでしょう。

その後も全体的には広島ペース。エリア内での対応を迫られるシーンを多く作られたものの、最後の対応では事故なく耐えきった浦和はなんとか90分+5分をやり過ごし、1-1の引き分けで試合終了。浦和としては対3バックの連戦を2分けで終えるということになりました。勝つチャンスがあったかと言えばありましたが、内容的には噛み合わせのズレをうまく使われた感じで、勝ち点3を判定で分け合うなら2-1で負けているような内容だったかもしれません。

浦和対策をぶつけてきた大分に対して、広島は普段自分たちがやっていることを押し出して浦和と対戦したと思いますが、それゆえに嚙み合わせのズレをうまく使われた感があるのは今節の方かもしれません。このズレの主導権を握っていくのに必要なことを考えてみると、配置的に相手が優位を持っている部分(例えば浦和の2トップに対する広島の3バック)に、どうやって+αを持ち込めるかということなのだと思います。そういう意味で広島は1on2になるサイドの攻防にシャドーとCBのサポートを用意して3on2が出来るような仕組みを用意していたし、それを実現するためにボールを前進させる術、つまりビルドアップの部分で浦和に勝っていたと思います。その裏側では、3バックの一枚が高い位置を取る分最終ラインの同数を受け入れているわけで、そうしたリスクの取り方もポイントなのでしょう。では浦和の場合はどうなるかというと、2トップに加えてもう一枚を3バックと対峙させるのが最初の狙いで、そのためにSHを中に入れるのか、先制点のシーンのようにCHに高い位置をとらせるのか、いずれにしてもその局面に辿り着くまでにビルドアップをどう整理するのかという課題に向き合う必要があると思います。

ボール非保持においては、広島は最終ラインが同数になるリスクを積極的に受け入れて人を捕まえに行くリスクを負っており、浦和はシャドーを気にするよりも広島のビルドアップ隊を捕まえにいくことを選びました。この点では今節の両チームは似たような志向を持っていたと言えますが、たぶん浦和はこうした最終ラインの同数勝負において質で勝っていく、90分の中で2,3回は訪れる勝負のシーンを決めていくというのが現実的に期待できるポイントのような気がします。そういう意味ではSHやトップに独力で勝負できる人材を全面に押し出したいし、そういう選手をベンチに置いた方が期待値は上がるのではないかと思いますが、そういう質的なプレッシャーで相手にリスクを感じさせ、相手が同数を受け入れずに全体を下げることで洗練されているとは言えないビルドアップを隠し、CHなりSHを中央に関わらせることで前輪駆動の崩し、ネガティブトランジションにおけるカウンタープレッシングで相手を狩っていくというのが噛み合わせのズレが起きる相手への勝ち筋になるのかもしれません。

3つのコンセプトに対する個人的評価と雑感

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は5.0点。先制点のマルティノス→興梠のゴールは周囲のオフザボールの動きも含めて素晴らしかったですし、狙いとして広島の地に持ってきたものが出た形だったと思います。ただ、そうしたシーンがいくつかはあったものの、全体的に攻撃面で個性を発揮したと言える場面が多く出なかったことを踏まえると、相手のCBを動かすことでプレーエリアを確保するという前輪駆動の仕組みが3バックを相手にすると構造的に出しにくいんだね、と再確認できたゲームだったとも言えます。今季の浦和はシーズン中にいろいろとやり方や形を変えながら、その時々の選手のコンディションなんかも踏まえながら戦っていて、今季ずっとそうだとは言えないと思うのですが、少なくともホーム名古屋戦の前後から形になってきた現在のやり方は4バック相手に戦いやすく3バック相手には苦労する性質があると明確にわかったこの2試合でした。とはいえ、バックラインや4-4ブロックで(少なくとも最後の場面は)耐え切るという部分はそうした攻め筋とは関係なく向上していると思います。今節は割られてしまいましたが、だからといって悲観するような構造的な問題は起きていないでしょう。もちろんこれから対戦するチームがすべて3バックをぶつけてくるということになれれば、結構ピンチだと思いますが。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は5.5点。うまくいったとは言い難い試合で、疲労も大きかったと思いますが、今季ずっとそうであるように消極的だったり姿勢の面で不満に思うようなことはありませんでした。ゲームによっては噛み合わせで難しいことがあるのは当然ですが、こういう部分でがっかりさせないゲームが出来ているというのは大槻監督のチーム作りというか、求心力の面でわりと評価できることなのではないかと思います。ただ最近はゲームに出る選手が固まってきているので、サブの選手をどこまで使えるか、今節メンバー外だったレオナルドのような選手のモチベーションコントロールをうまくできるかというのは今季終盤も注目していきたい点です。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は4.0点。ここまで観てきた通り構造的な難しさがあったのでチームや選手を叱咤すべきとは思いませんが、結果として、もしくは現実として相手のペースに呑まれる試合になってしまったことは事実です。じゃあ大槻監督が3バック対策を用意すればいいじゃないかという意見はその通りで、中2日で準備はできないよという今節の結果をある意味で受け入れる現実論をとりあえず置いておけば、何かしらやり方を変えるというのも一案だと思います。ただ大槻監督が今季構築してきたサッカーを考えると、立ち位置とボールの動かし方のパターンを仕込んで対応していくということはあまりしないのではないかと思います。理想的には先制シーンのようにビルドアップにおいて最終ライン+CHでオープンでクリーンな運び出しを多く作りだし、SBともう一枚のCHが前線に加わることで3バック(5バック)に対しても数的同数で相手を動かし、最後に質の勝負を仕掛けるという話に持っていきたいのだと思いますが、そこまでやるなら使う選手から変えていく必要があると思いますし、全体のバランスを考えるとドラスティックな変更はあまり期待できません。よく思いますが、比較的シンプルな4-4-2を採用している以上、このあたりは選手の個性で色付けしていきたいところです。例えば2トップでも裏抜け専門家をカードとして持っていればこうしたゲームに変化を付けられるかもしれませし、そういう意味でSHと2トップにはいろいろな特徴のある選手、一芸が見せられる選手を揃えていくのがチームの幅を広げていくことになるのだと思います。

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このエントリを書くのが遅くなってしまったのでゲーム直後のテーブルではないですが、順位は9のまま。勝ち点1を積み上げたことで11位以下との差はさらに大きくなりましたが、目標目安である3位以内の達成にはさらに厳しいペースが求められることとなりました。幸いこのゲーム以降は長いインターバルがありチームをもう一度整えることができるので、その成果を以て4バックであっても3バックであっても自分たちのやりたい前向きに圧力をかけるサッカーを見せ、終盤の台風の目になるような戦いを期待したいところです。

次節のマリノスは、基本的には出入りの激しいアップテンポなゲームを志向するチームなので、今の浦和とは比較的気が合うチームと言えると思います。一方でフォーメーション的には4バックも3バックも採用するチームなので、ここ2試合を見て噛み合わせをどう設計するかは見ものです。ACL圏内への道のりは厳しいところですが、噛み合った相手にしか、気持ちよくゲームが出来るときしか勝てないチームではアジアの舞台にはたどり着けないわけですから、前節、今節に出た噛み合わせの悪さへの対応、それを上回る積み上げに期待したいところです。

今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。