96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2020シーズン全選手振り返り(中)

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10 柏木 陽介

今季は9試合643分の出場とプロデビュー以来ワーストの出場試合数、プレータイム。昨年から怪我、コンディションに悩まされている印象で、長く浦和の攻撃の起点を一手に担ってきた存在感からすればここ2年感の存在感の無さは寂しいばかりです。もともと4-4-2でトランジションゲームを仕掛けたいサッカーの中で自分のポジションがあるのかどうか、と不安を吐露していた通り、今季は右SHで起用されたり中央で起用されたりと背番号10を中心にしたチーム作りは行われておらず、攻守のトランジション、プレッシング、周囲との連携などの面でやりにくさを感じていたシーズンだったと思います。
一方で、ホーム横浜FC戦後半にボランチ起用されると圧倒的な存在感で浦和のサッカーを一変させ、まるでミシャの時代に戻ったかのようにピッチに君臨。柏木に預けることでオフェンスがスタートし、彼のボールの持ち方に合わせて周囲がランニングをしかけ、縦に横に、パスを散らしまくりボールを握るサッカーを一人で成立させるなどコンダクターとして無二の存在であることを示したのは印象的で、僕はその時初めて「自分がミシャのサッカーだと思っていたものは柏木陽介のサッカーだったんだな」と気づいたのでした。

一選手の与える影響がクラブの目指す方向性と並べて議論されること自体が異常なのですが、それだけの存在感を発揮できるというのはやはり特別で、単純なランニングやトランジション強度、浮き沈みの波などの使いにくさはあれど、彼の特別な能力はやはり活かしたいところ。リカルドのサッカーは今季よりも相当ポゼッションを整理するはずなので、個人的には彼の復活をひそかに期待しています。特にリカルドのサッカーにおけるボランチは4バック→3バックの可変をするとしてもポジションを動かさない、中心軸としての役割が求められ、展開力やオフェンスのペースアップ・ダウンをコントロールするコンダクターが必要になるのではないかと思います。来季在籍する選手の中でこのニーズに圧倒的に適正がある選手なので、そういった役割で、フルタイムの出場でなくとも彼の能力が発揮されることがあればいいなと思います。陽キャと陰キャがぐちゃぐちゃに混ざったナイーブな選手なのでピッチ内外のあらゆる面で賛否両論ですが、ここで引退したいと公言する浦和愛は本物のはず。世代交代を進めるクラブにあって、再び認められ生き残る方法はピッチで圧倒的な違いを見せつけることのみ。新監督を迎える来季、浦和の太陽は再び昇ることが出来るでしょうか。

 

2020シーズンMIP

1)横浜FC戦後半の圧倒的影響力
2)熱愛スクープ!「浦和レッズ」柏木陽介が原幹恵と妻に内緒で9時間デート!

 

11 マルティノス

2年半の沈黙を経てついに訪れたマルティノス・イヤー。特に第20節のホーム名古屋戦以降はチームの戦術的根幹として機能し、使われれば使われるほどハードワークを見せるようになるという好循環でチームを牽引。大槻監督が「双子の弟に入れ替わったのかと」と言うほどのインテンシティを見せつけました。ただ外国人助っ人として23試合1,308分の出場が十分かというとなかなか難しく、さらに言えば3年契約に対する稼働率、浦和が投じた費用からすれば契約更新は現実的ではなく、早々に契約満了が発表されることに。本人は日本でのプレー継続を希望しているようですが、浦和での3年間でネタキャラとしての地位が確立されまくっているのと、稀有な突破力に見合ったお値段なのでなかなか難しいかもしれません。

ただ今季示したパフォーマンスは助っ人レベルそのもので、1,308分しか出場していないのに4ゴール5アシストを記録。かなり惜しかったシュートを含めて決定機創出回数はチーム随一、出場分数に対する割合はリーグでもトップクラスになるのではないでしょうか。34試合×90分=3040分がマックスとして、実績の倍の2,600分程度プレーしても不思議ではないので、ポテンシャルとしてはJ1で得点とアシストのダブルダブルを狙える選手ということになります。特に今季終盤以降は守備の場面でスペースを埋めにスプリントで戻ってくるなど、攻め残って後ろ任せということもなくなったので、使い方を整理すれば十分戦力として計算できる選手と言っていいと思います。

球離れが悪いことや後ろからサポートしようとする味方右SBをも困らせる往復フェイント、独特過ぎる間合いの取り方などの正直使いにくいと思わせる点も含めて、めちゃくちゃキャラが立っていてわかりやすく、また人間性はまっすぐで礼儀正しく、サポーターに愛される選手ではあるので、Jクラブの強化担当者さん、いかがでしょうか。

 

2020シーズンMIP

21節アウェー鳥栖戦、決勝弾を決めた汰木を褒める「KOYAAAAA!!!!!SUPER RUN!!!!!!SUPER!!!!」

いや、スタメン出場の終盤にスーパーランしてたの自分やんけ。いい奴か。

 

12 ファブリシオ

今季浦和では2試合116分の出場とほとんど出場機会を得られず、シーズン途中にポルティモネンセへと期限付き移籍。戦術的にもリカルドのサッカーに必須の存在とは言えず、このままお別れになりそうな今季となりました。浦和では第3節仙台戦にスタメン出場。大槻監督はファブリシオをSHで起用しインサイドに入り込んで3人目のストライカーとしてプレーすることを期待したようでしたが、ブロックの中で素早くターンをしてどうこうという選手でもなく、かといって大外からスピード勝負と言う選手でもないので、本人としても求められるものを表現するのは難しかったでしょう。かといってトップの人材は豊富で、プレッシングのタスクも含めて2トップの競争に入れなかったことが彼のシーズンを難しくしたのかもしれません。

そもそも左膝前十字靭帯損傷・内側半月板損傷の大怪我を経てプレーのキレと言う意味でもベストコンディションとは言えなかったのではないかと思いますが、ポルティモネンセではチームは勝てていないながらもファブリシオは主に3トップの中央で使われているようで、本人にとっては心機一転のレンタル移籍は悪くなかったのではないかという気がします。

 

2020シーズンMIP

期限付き移籍リリースでのめっちゃ良い奴なコメント

がんばれ。

 

13 伊藤 涼太郎

今季の出場は5試合85分と今季のFPでは荻原、武田に続いて下から3番目の出場時間。抜群のテクニックと身体のキレ、フリックやコンビネーションを感じることのできる創造性など素晴らしい点を持ちながら、好調、不調の波やゲームへの入り、プレーの強度や連続性、試合勘などがネックになって出場できなかったのかな、という印象でした。6節のホーム柏戦での惜しいシュートや、30節のアウェー鹿島戦の終盤にCHで出場した際には最初のターンが決まって勢いに乗ると惜しいFKで鹿島ゴールを脅かすなど攻め手のなかったチームを活性化したプレーなど、J1でも十分に通じる攻撃センスを見せたプレーは間違いなくあったのですが、一方で鹿島戦で負った打撲の影響で若手を起用しやすかった残り試合を棒に振ったり、20節の名古屋戦ではファーストタッチがずれたところからリズムをつかめずにゲームから消えてしまったりと、平たく言えばチャンスをつかみ切れない、勢いに乗り切れない歯がゆいシーズンになってしまった印象です。

チームとしてはセカンドトップを主戦場として攻撃にアクセントをつけるアタッカーとしてみているのではないかと思いますが、2トップの2枠を争うにはライバルが多く、まだまだゲームから消えてしまう局面が多いなど、もう一つ殻を破ってほしいところ。来季の去就にはっきりとした情報はこのエントリを書いている時点では出ていませんが、来季はセカンドトップ/シャドーの人材が非常に多く激戦ポジションとなりそうなので、涼太郎にとってはプロ6年目、24歳になる来季は本当の意味で崖っぷち、勝負の年になりそうです。

2020シーズンMIP

鹿島戦の惜しいFK

 

14 杉本 健勇

出場時間は1,284分とチーム16番目ながら、出場試合数は33試合で西川について2位と、チームの軸にはなれなかったもののレギュラーメンバーとして大槻監督に重用されたシーズンでした。プレー内容では、J1屈指の空中戦勝率や4-4ブロックの前で相手チームのアンカー/ボランチを監視する役割をこなすボール非保持での貢献などを見せたものの、最も重要なゴールの部分がついてこず、アウェー札幌戦の2ゴールのみで今季は終了。今季の浦和がチームとして攻撃の仕組みを構築しきれなかったのは事実ながら、少なくない決定機でゴールを決め切れなかったことでチームも彼自身も波に乗れないまま、消化不良のシーズンとなってしまったという感じでしょうか。

興梠、レオナルド、武藤といった同じポジションを争うライバル選手にはない体格の優位と柔らかいボールタッチで彼にしか出来ない仕事をこなしていたことは間違いないのですが、2トップをこなすうえで相方との連携・関係性の構築に苦労していたような気もします。特にレオナルドとの関係は最後まで、外から観ていてわかるほどぎこちなく、お互いの信頼関係を積み上げるようなパス交換すらほとんど見えなかったことは残念でした。おそらく早くひとつ良いゴールが欲しい健勇と、常にエリア内でのフィニッシュワークを狙うレオの間でお互いにボールを預けにくいような部分があったのかもしれませんが、健勇→レオはあってもレオ→健勇がほとんどなかったのは残念でした。

来季、リカルドのサッカーをこなすうえでは今季徳島の垣田が見せていたような最前線で裏にも左右にも動き回るポスト役が必要になり、その意味で最もプレーがイメージしやすいのは健勇なので、本人も歓迎するであろう組み立てに関わるプレーを出しつつ、良質なチャンスを決め切る部分を表現して欲しいと思います。

 

2020シーズンMIP

16節アウェー札幌戦の2点目からの咆哮。

 

16 青木 拓矢

今季は21試合1,119分のプレー。21試合出場はこれまでの浦和での成績を見ても特別少ないわけではないですが、プレータイム1,119分は本人にとっては物足りないはず。とはいえシーズン序盤は柴戸、エヴェルトンとともにタスクの多い中盤を支え、中盤は怪我で出場できなかったので、チームで評価されていなかったわけではないでしょう。フラットな4-4-2でシーズンを通じて戦うのは青木にとっては大宮時代以来だったのではないかと思いますが、さすがに当時とはプレースタイルも変わっており、当時のようなBox to Boxで暴れまわる攻撃的な姿はあまり見られませんでした。浦和に来たばかりの頃はヤヤ・トゥーレを参考にしていると語っていた青木ですが、2017年ごろにはアンカーとしてのプレーに目覚めたとも語っており、今季も柴戸と組む場合は彼をボールに押し出して自分はバイタルを埋めるポジションを取るなど、どちらかと言えばアンカー的な振る舞いをしていたのではないかと思います。2018年の左ひじの骨折以来球際で見せる激しさや一瞬の寄せのキレが少し落ちたかな?という印象がありますが、それでもボール保持、非保持の両面で見せるプレーはJ1で十分に通じるレベルで、経験値も含めて貴重な戦力だったと思います。

来季はFC東京への移籍が濃厚となっており、本人もこだわりを見せているアンカー候補として考えられている模様。今季のFC東京戦ではパスミスから失点してしまいましたが、そういったマイナス面を補うほどこのタイプの選手がJリーグにはなかなかいないということでしょう。サイズと体格がありながら動き回れ、球際で戦った直後に前線、裏にパスを届けられる、それでいてゴール前に侵入していくプレーも元来持っているということで、個人的には大宮時代からロマンを感じていた選手でしたので移籍してしまうのであれば寂しいですが、一方で浦和のサッカースタイルとの兼ね合いで真価を発揮しきったのかというとそうでもない気がしますので、新しい環境でのプレーを楽しんでほしいと思います。

 

2020シーズンMIP

16節アウェー札幌戦、健勇への裏フィード一発アシスト。

 

20 トーマス デン

今季突如加入したオーストラリア五輪代表のキャプテンは、初めての海外移籍+コロナ禍でのリーグ中断、過密日程と厳しいシーズンながら19試合1,685分の出場。初めてのシーズンとしては上場のプレータイムを確保したのではないかと思います。シーズン前の町田とのTMでは迎撃への反応よし、裏のカバーよし、ビルドアップでは安定した繋ぎと対角フィードを連発とセンセーショナルなデビューを果たしました。CBとしてプレーする機会が多かった今季ですが、J1レベルでも特筆すべきカバーリングの早さが最大の武器で、来季リカルドの下で今季よりも明確にハイラインを意識するであろう浦和にとっては今後も重要な戦力となるのではないかと思います。

一方、9節名古屋戦で金崎に幾度となく背負われてしまったり、17節川崎戦では斎藤学にアンクルブレイクを決められてしまったりと、Jトップクラスのタレントとの1on1には苦労した様子。シーズン中に本人が語っていた通り、今季は全ての対戦相手が未知の選手だったこともあり、アジャストに苦労した部分は否めませんでした。今季はスタメン出場を数試合続けた後に突然数試合メンバー外になっていた印象なので、おそらくコンディション的にもアジャストに苦労した部分があったかもしれません。

とはいえ総合力が高く、年齢的な将来性も十分ということで、来季以降もレッズを支える存在になってほしいところ。性格、人間性も評価されておりチーム内での人間関係にも問題なさそうなので、来季はさらに進化したトーマスに期待です。

 

2020シーズンMIP

12節ホーム神戸戦でのスーパーミドルからのバク宙。

 

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22 阿部 勇樹

在籍通算13年目となった今季は長く怪我とコンディション調整に苦しみ、プロキャリアでは1998年以来となる出場一桁、3試合103分の出場。しかしシーズン終盤にはなんとか間に合わせ、32節、33節、34節と3試合続けて出場。代名詞とも言えるボール非保持時のスペース管理では全く衰えの無いことをプレーで示し、40歳を迎える来季に向けても不穏な報道は一切なく、少なくとも来年もレジェンドとシーズンを戦うことが出来そうです。

 

2020シーズンMIP

33節アウェー川崎戦、前半に見せたサイドチェンジに対応して最終ラインを埋めるリポジショニングのスムーズさ。カバーリングの芸術。

 

24 汰木 康也

今季は昨年の8からジャンプアップの30試合出場、プレータイムもチーム9位の1,771分と存在感を発揮したシーズンとなりました。本人も「自分の適性」と語る左SHのポジションが出来たことで躍動。ワイドアタッカーといってもいろいろタイプはありますが今季の汰木はポジティブトランジションでのスプリント+ボール保持時のカットインが特徴的だったかなと思います。単純に足が速いタイプのアタッカーである汰木がファストブレイクに素早く反応し先頭を走ることで成立した攻撃も少なくなく、守備の強度、特に左SBが大外で晒される場合のサポートなどの改善点を差し引いてもアタックの場面での貢献は大きかったのではないでしょうか。

ただ、30試合出場したアタッカーが1ゴール3アシストという成績は物足りなく、本人も自覚するところでしょうが来季は数字へのよりいっそうのコミットが求められます。汰木はもともと山形時代もクリエイトする良いシーンの数とゴール・アシストの数が合わないタイプの選手でしたが、そこを脱皮してこそJ1で主力を張れる選手へと真の意味でステップアップできるのかなという気がします。来季リカルドのサッカーでどのような役割を担うのかはまだ定かではありませんが、サイドアタッカー、トップ下が適正の2列目でプレーできる選手が増える中で競争に晒されることは必至で、如何に目に見える数字を出していけるかがポイントとなりそうです。

 

2020シーズンMIP

第10節広島戦の抜け出しからのPK獲得&21節アウェー鳥栖戦の決勝ゴール

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25 福島 春樹

浦和所属5年目となる今季はルヴァンカップ1試合のみの出場となり、来季は京都へのレンタル移籍が決定済み。かつての大学ナンバーワンGKは日程変更に泣かされたシーズンだったかもしれません。2019シーズンはシーズン終盤に西川のまさかの累積警告による出場停止で出番が訪れ、リーグ鹿島戦でJ1デビュー、直後にサウジアラビアでACL決勝のゴールマウスを守るという怒涛の展開でしたが、今季は日程変更でルヴァンカップ予選が2試合のみとなり出場はアウェーセレッソ戦のみ。西川に勝るとも劣らない良質なキックとディストリビューション性能を持ち、最後方からのコーチングの声も大きいポテンシャルのあるGKなのですが、その一方で試合経験の不足がどうしても目立ってしまう部分があり、セレッソ戦で重心の置き所の判断ミスからニアサイドを抜かれてしまった失点は非常にもったいなかったと思います。

来季は京都でプレーしますが、能力的にはJ1で十分に通じるGKだと思いますので、J2では飛びぬけたパフォーマンスを期待したいところ。ルーキーイヤーにレンタル移籍でプレーした鳥取時代以来のファーストGK候補として継続して試合に絡めば、選手としてもう一段のステップアップが見えてくるはず。不動の守護神である西川の下に20歳前後の若手GKを抱える浦和にとっては来年28歳になる「これからが本番」のGKはスカッド構成的にも簡単に手放せないはずで、試合経験を積んで有無を言わさず浦和に帰還するような活躍に期待です。

 

2020シーズンMIP

ルヴァンカップセレッソ戦で見せた美しい軌道のフィードたち。

 

 (下)に続きます。

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