96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

宇賀神友弥の良いところ:Jリーグ2021第3節 vs横浜FC 分析的感想

 18時キックオフはスタジアムに行くのが大変ですけど終わりが早くて良い面もありますね。

 両チームのメンバーと嚙み合わせ

f:id:reds96:20210310202051p:plain

浦和ベンチ:彩艶、田中、金子、柴戸、武田、関根、興梠

横浜FCベンチ:六反、袴田、手塚、杉本、瀬古、KING-KAZU、ジャーメイン

浦和は鳥栖戦から一枚代えて明本がスタメン復帰。また怪我で出遅れていた関根と興梠がメンバー入りしました。横浜FCは前節から大きくメンバーを変更。おそらくやりたいサッカーが出来るのは手塚、瀬古が中盤の中央に入ったメンバーだと思うんですが、連戦故のプレータイムマネジメントがあるのかもしれません。また、浦和ユース出身で甲府から加入した中塩がJ1スタメンデビューで松尾とともに埼スタに凱旋となりました。

前節は対戦相手である鳥栖の配置に工夫がありましたが、今節は浦和の方がこれまでとは違う配置でゲームに臨んだようでした。明本を前線で使い、小泉が右サイドにポジションを取るフラットの4-4-2に近い配置でスタート。またCBの立ち位置を左右交換し、槙野が右、岩波が左というのも新鮮でした。4-2-3-1を基準に考えていた横浜FCは少し面食らったかもしれませんが、この新配置は横浜FC対策というよりはリカルドの「実験」の一環ではないかと思います。

配置を変えたことによるメリデメはいろいろあるわけですが、面白かったのはビルドアップの局面で、明本と小泉の起用ポジションを変えても人に紐づく役割はあまり変えていなくて、これまで通り小泉が降りる形が基本形だったようでした。

本当の狙いがどこにあるかはリカルドが明らかにしないとわからないのですが(試合後のコメントではプレッシングの強度がその理由の一つだったと明かしていますが)、小泉が右から落ちることで明本が最初から健勇の近くでプレー出来るようになったというのはその一つかもしれません。開幕節から指摘されていることですが、トップ下の小泉が降りてビルドアップを助ける分1トップの健勇の周囲でサポートできる選手がいなくなり、ビルドアップが詰まって前線に蹴りだした時や、ビルドアップから相手ゴール前に迫りたいところで前線の人数不足が起きてしまうという状況があったので、その対処ですね。その点この形では降りる小泉に対して大外を取りに行く宇賀神という前後のポジショニングの連関で済むので、空いているスペースを連動して埋めていくという面ではやることがシンプルになります。明本は最初から2トップの意識でプレーしていたのでしょうし、実際に健勇の近くでもう一枚の前線として絡むことが出来ていたので、ベンチの狙いはある程度実現していたのではないかと思います。

CBの左右交代は左側のCBがビルドアップで効果的な振る舞いが十分にできない、もっと言うと左利きのCBがスカッドにいないことの対処策の一つなんでしょう。最終ラインからのビルドアップを大事にする上ではもはや必須に近い扱いとなりつつある左利きのCBですが、何が有利なの、という話が最近タイムラインにあったので引用すると、

こんな感じです。「運ぶドリブル」の必要性なんかも同時に語られることが多いですが、そういったビルドアップに必要となるCBのスキルセットを、現状のメンバーで戦う中でどう最大化するかというところで、右利きの槙野を右に、槙野よりはビルドアップに自信がある岩波を左に、という配置を試したのかなと思います。

そんなわけで、シュンスケナカムラが最終ラインに降りて3バック化する横浜FC、ボランチが最終ラインに降りることに加えて右SHの小泉3列目に降りる形でビルドアップする浦和という感じで、お互い4-4-2の守備を自分たちのビルドアップでどう攻略するか、というのがこのゲームの大きなテーマだったように思います。

 お互いの実験⓵

立ち上がりは比較的落ち着いた展開。横浜FCは開幕節、第2節と立ち上がりに連続で失点してしまいゲームをかなり苦しくしてしまうことが続いていたので、試行錯誤の中で様子見ながらビルドアップを試していきたい浦和と立ち上がりを落ち着けておきたい横浜FC、両チームの思惑が噛み合った部分があったかもしれません。

浦和のビルドアップは相変わらずいろいろとパターンがあるのですが、今節見えた新しい形は以下の通り。

f:id:reds96:20210311233512p:plain

DAZNの画角が狭くてちょっと曖昧なところもあるけど、たぶんこう。

槙野が3バックの右CBとして幅をとり、岩波は中央、左のスペースに阿部が降りてきての3枚回しに、敦樹と小泉がCHの位置で最終ラインをサポートする3-2ビルドアップです。この時宇賀神がSHとSBのちょうど真ん中くらいの高さで大外レーンを埋めており、左サイドでは汰木と山中がお互いの立ち位置を見ながらレーン、高さを交換しています。前線には健勇の隣に明本がおり、2トップの関係で一人が降りればもう一人は裏を狙うという感じで連動しようとしている場面が見られました。このビルドアップ、正直すごく上手くいったというシーンはなかったのですが、人数のバランス的にはこれまでよりも良かったのかなという印象で、特に槙野は左でプレーするときよりもはっきりと幅を取れていたと思います。加えて左サイド、最前線の2枚のユニットが明確で連携が狙いやすい配置になっており、これまでの前線の枚数不足という課題へのアプローチを感じました。

上手くいかなかったのはやはり相手の第一プレッシャーラインを超えていく部分で、横浜FCはオーソドックスな4-4-2の組織(2トップがアンカーを消しつつSHと協力してビルドアップ隊にプレッシャーをかける4-2-4気味のプレッシング)だったと思いますが、それでもクリーンな前進が出る場面は数えるほどでした。やっぱり最終ラインの選手がボールを運んで相手の第一プレッシャーラインを越えられない場面が多いことと、ボールを前進させようという意識が強すぎて相手を引き込み切れていないシーンが目立つ気がします。結局のところボールを前進させたときに前線の選手がのびのびとプレーできるスペースが必要になるので、ある程度相手を引き込みつつ入れ替わるようにボールを前進させるのが良いと思うのですが、この部分はまだ上手くできているとは言い難いところです。岩波はパスは上手いんですがドリブルに自信がないからか相手を引き付けるのは怖いようで、相手の第一プレッシャーラインを引き込む前にパスを選んでしまう傾向がありますし、槙野はそもそも右だと居心地が悪いというか、しっくりきていない感じがしました。結局敦樹のパスや小泉のターンといった個人技で上手く剥がせるときに前進できる、という構造は変わらずで、後述するセカンドボール回収の仕組みなんかが機能した横浜FCの方がボール保持で優位を取った形になりました。

お互いのビルドアップ隊の働きがよくわかるのがパス本数で、前半終了時のスタッツでは横浜FCの上位はシュンスケナカムラ(47本)、中塩(43本)、CB田代(41本)、安永(24本)、浦和は岩波が34本、槙野が27本、続いて敦樹(22本)、阿部(21本)、小泉(18本)。両チームのビルドアップ隊がどういった選手で構成されているかの指標としてわかりやすい数字になっています。もちろんこの数字だけで良い悪いを断定することは出来ないのですが、横浜FCが主に4枚でビルドアップ隊を構成していたのに対して浦和はここに5選手使っているというあたりが特徴的だと思います。まあ別に数が多いから悪いというほどのことではないのですが、これが2-2もしくは3-1の3枚で出来るようになるとその分前の選手を増やせるはずなので、それが最終的な目標になるのかなという感じもします。立ち上がりは課題へのアプローチを見せたものの解決には至らないという感じの浦和でした。

お互いの実験②

前半の飲水タイム終了後、小泉をトップ下、明本が右サイドに入る開幕節の形に変更。ただ良い形を先に出したのは横浜FCで、24:35前後で前嶋から質の高いクロスからCK獲得。比較として横浜FCのビルドアップを整理しておくと、もはや特別というほどでもないですが、ボランチを1枚落としての3バック化からの両SBが高い位置、SHはハーフレーンから動き出し、サイドの深い位置を取れたらエリア内に4枚が突入してからのクロスという感じだったと思います。

f:id:reds96:20210311235056p:plain

もはや定番っちゃ定番。

昨年はもうちょっと中央でのコンビネーションなど細かいことをやっていた気がしますが、今節はメンバー構成もあってかシンプルなクロス攻撃が多かった印象です。試合後の下平監督のコメントでは競争のためにある程度メンバーをシャフルしターンオーバー的に戦っているという話があったので、彼らもまたいろいろと実験中なのでしょう。実際昨年よりCFのパワーや迫力は向上しているので、こういった戦い方を選んだことは合理的です。今季で言うと前節はまた違うメンバーでしたので、右SBのマギーニョがインサイドでプレーしたりとか、少し違うことをやっていました。

で、そういう戦い方なので当然ですが、横浜FCはクロスに入る枚数が非常に分厚くて、前線の4枚はもちろん、逆SBの選手もファーサイドのペナ角付近で待ち構えており、さらにセカンドボールのためにCHのうち一枚が高い位置に出てくるという感じ。

f:id:reds96:20210311235123p:plain

状況にもよるが、たぶんこれは設計。シュンスケナカムラはビルドアップで最終列に入った後に中盤に出て行ってプレーする結構大変な役割で、前半の横浜FCで一番走った選手だった

攻撃自体は比較的単純なクロス爆撃なんですが、その後ファーサイドとニアサイドにこぼれ球回収係が常駐しているので浦和がクリアした後のカウンタープレッシングが素早く、浦和としては押し込まれやすい状況になっていた気がします。そのうえ大外の両SBは切り返しが結構うまくてテンポを変えてクロスを入れる技を持っており、中の枚数もしっかり揃っているために浦和は2列目までエリア内に入って対応せざるを得ない状況が起きていました。結果的には無得点だった横浜FCですが、クロス攻撃ひとつとっても自分たちのスカッドの特徴に合わせて設計しているのかなと感じました。

中塩大貴の動揺

上手くいっていたのは横浜FCだったと思いますが、先制点は浦和に。押し込まれたこともあってか明本と小泉の位置をスタート時に戻すと、ペナ角崩しの形から宇賀神がシュンスケナカムラに倒され、VARの結果PKの判定に。敦樹のロングボールを明本がサイドに流れて収め起点となるプレーからでしたが、こうしてサイドに起点を作って崩しのフェーズに入るというのは浦和にとっては今後も重要になりそうです。本来であればクリーンな前進から中盤~前線にスペースを作って仕掛けていくのが良いと思いますが、今のところそうならない時間の方が多い以上こういった形から練習している崩しの形に持っていく必要があります。で、宇賀神が良いトラップで抜け出そうとしたチャレンジが素晴らしかったPK獲得ですが、その前に敦樹がペナ角、SBが明本について出て行ったスペースに走りこみ、小泉に一度戻し明本が大外で受けたやり直しのフェーズでももう一度縦に抜ける動きを繰り返したところがポイントだと思います。また、明本が大外で受けると同時に宇賀神が中にポジションをとっていくというのは今季選手が時折口にする「ローリング」を実践したということでしょう。後半でも触れるのですが、こういうベンチが用意したコンセプトをすぐに実践できる瞬発力が宇賀神友弥の良いところなんですよね。

f:id:reds96:20210312000913p:plain

まだこの程度のシンプルなものしか出てこないとも言えるが、とりあえずは良い形

ちなみに、このペナ角崩しに類似したシーンについて開幕節でも触れていましたね。

f:id:reds96:20210301221103p:plain

類似シーン

どちらの場面でもそうですが、敦樹の前線の崩しへの参加というのは結構ポイントになりそうですね。小泉はビルドアップに関わっていることもあって引き気味のポジショニングが多いので、誰が+1になるかのところが敦樹に求められていることなのだと思います。

阿部ちゃんが譲ったPKを健勇が冷静に決めて今季初得点を記録すると、浦和はスイッチが入ったようでプレスの強度がアップ。序盤は横浜FCのセカンドボール回収係の活躍もあって保持される時間が長かったのですが、浦和のプレッシングとともにゲームがオープン気味になっていきます。横浜FCのクロス攻撃をしのいだ39:35前後にパスカットからファストブレイクが発動し、明本がつぶれたボールを拾った敦樹から小泉へ、小泉が溜めて、先頭を走っていた汰木を囮にマイナスに折り返すと敦樹が冷静にゴールに突き刺しますが、VARでオフサイド。と思ったら取り消し後のファーストプレーで横浜FCのフィードをクリアしたボールがセカンド回収係の安永の背後にバウンドし、それを拾った明本が前へ。ファストブレイクへの反応は去年叩き込まれている汰木が再び反応しボールを受けてスピードに乗ると、エリア内に入られた中塩がたまらず滑って残り足をかけてしまい文句なしのPK。今度は阿部が蹴りこんで浦和が一気にリードを拡げることに成功しました。

横浜FCは開幕節から連続失点でゲームを0-2にしてしまう試合が続いているのですが、全体的に0-1になると追いつこうと焦ってしまうような感じがします。正直開幕節の札幌戦のように不運な失点も少なくないんですが、今節は中塩がミスのリカバリーを出来ずに連続でプレーしてしまったことが原因となっていて、VARで取り消されたシーンでは中塩のパスを小泉がカット、取り返そうとこぼれを拾った明本に深いスライディングをしたら入れ替わられ、VARに救われたものの次のプレーでフィードを蹴ったらそのままボールが返ってきて自陣ゴール前の対応となってしまいたまらずスライディング。2回目のPKの場面なんかは別に汰木にぶっちぎられても強いシュートがある体勢と角度ではなかったんですが、悪いプレー(と悪い結果)が続いてしまい冷静でいられなかったかなと言う感じです。J1デビューが浦和相手の埼スタで…というのもあったかもしれないですが、そこまで悪い立ち上がりでなかっただけにちょっと不憫な5分間でした。チームとしては、横浜FCは少なからず動揺していたはずの中塩にリスタートをさせない方が良かったでしょうし、そうするにしてもボールキープから初めて立ち上がりのようにじっくりやれば良かったと思うんですが、所詮は「たられば」なので難しいですね。残念ながら中塩は前半のみで交代となってしまいます。

右サイドを手当して左サイドが活きる

試合が壊れてしまった横浜FCは中塩に代えて袴田を、シュンスケナカムラに代えて手塚を投入。浦和も明本に代えて田中を投入し、またCBの立ち位置を元に戻して後半に入ります。

早めに一点返したい横浜FCはプレッシングの強度を上げて後半に入りますが、浦和は左のパス交換から山中の抜け出し→クロス、こぼれ球を拾って獲得したCK崩れから敦樹のシュートにファーサイド健勇が飛び込んで惜しいシーンと良い形でスタート。

浦和は全体的に後半の方がビルドアップが上手くできていて、それは横浜FCがあまり工夫なく前に圧力を掛けてきたので背中をうまく使えたのもあるでしょうし、CBが元の立ち位置になってしっくりきたというのもありそうな感じでしたが、もしかしたら右サイドを整理したことが大きかったかもしれません。これまでも言及してきた通りポジショニングに気を使って外に張ったり降りてきたりと気が利くポジショニングが出来る田中ですが、この試合では大外に張って幅と深さを取る役割が強かったように思います。横浜FCはなるべく前にプレッシャーを掛けたかったようでしたが、田中が張ることで横浜FCのバックラインはあまり高い位置に上がってこれず、結果的に中盤にスペースが出来て浦和はビルドアップの出口を見つけやすくなったかもしれません。また田中がはっきりとSHとしてプレーするからか、宇賀神が前半よりも最終ラインに近い位置でプレーしていて、岩波のサポートに入ってボールを一度受けたりと良い味を出していました。そんなわけで浦和は2枚のCBとCH、そして宇賀神と降りてくる小泉の6枚がビルドアップ隊としてボールを保持し、その間に山中が高めの位置を取って右下がり気味の形でボールをまわし、田中や健勇、左サイドのコンビがミドルゾーン以降の前進を担うという形を作っていた気がします。

これによって後半を通じてボールとゲームを支配することに成功した浦和。田中を投入したことがキーだったのか宇賀神をビルドアップに参加させる右下がりがキーだったのか、はたまたその両方かはわかりませんが、後半に入って右サイドを手当することで左サイドが活き活きと相手ゴール前で仕事をするようになるというのはサッカーの面白さかなと思います。

f:id:reds96:20210312012944p:plain

ビルドアップは右から、クロスは左から多かった印象。場合によっては宇賀神を落とす3バックになっていたので、このあたりはハーフタイムの整理だと思う

57:08前後なんかはこの形で良い形で田中に渡り、早めの仕掛けからクロスまで。直後に手塚のミドルシュートがディフレクションしてヒヤッとしますが、CKをやり過ごすと引き続き浦和の支配する時間帯。63:46前後では槙野の持ち運びチャレンジのサポートに入った敦樹がスペースで浮いた汰木を見つけて縦パスを通すと汰木が前進。健勇がサイド裏に流れて預けると折り返しに汰木が自ら合わせて惜しいシュート。結局オフサイドだったのですが間延びしている相手の隙間をうまく使ってフィニッシュまで持っていくという意味では良い形だったと思います。汰木がめっちゃ悔しがってましたが、本人もゴールネットを揺らす部分の仕事を大きなテーマとしているからこそだと思うので、次に期待です。

直後に阿部→金子の交代。金子はこれでリーグ戦デビューとなりました。続く67:35前後では敦樹のサイドチェンジから汰木、山中と渡ってクロス。健勇のすらしたボールに田中が合わせきれずでしたがこれも良い場面。この直前のビルドアップでは宇賀神が降りる3バックに加えて2ボランチ+小泉が相手の中盤に複数の可能性を提示し、横浜FC左SBの高木が小泉のケアに出て行くと、田中が微妙に降りることで松尾を引き付けて宇賀神が前進できるという感じで非常に良い駆け引きが出来ていたと思います。

f:id:reds96:20210312020639p:plain

こういった展開が安定して何度も出てくる形を前半15分で見つけるのが理想

非常に上手く左サイドへ展開し、クロスまでいけた場面でしたが、もしかするとこの67:35前後の一連のボール保持が今季ここまでで一番リカルドっぽい形だったかもしれません。このシーンの良いところはビルドアップで相手の第一プレッシャーライン+1の最低限の人数で前進できたこと(ウガの降りる場所とタイミングがgood)、小泉がCHより前でプレーすることで中盤中央に余りを作れたこと、そして余った敦樹が大きな展開で逆サイドのスペースを左サイドのユニットにプレゼントし、現状最大の武器である山中のクロスから中央、ファーサイドに合わせて3人がエリア内に入れたこと、と言う感じでしょうか。こういう形が出てくれば必然的に流れからの得点が生まれるはずで、これにはリカルドもにっこり(なはず)。

この直後に横浜FCは渡邉千真に代えてジャーメイン良を投入。南を丸焼きにする勢いでクロスを上げ続ける山中砲を連発するレッズに対して72:35前後に横浜FCのカウンターから小川のシュートも浦和はしっかり対応。その後はだんだんとオープンになりかけていく中で、浦和は76分に汰木→関根、小泉→武田の選手交代。小泉が下がったことで浦和は落ち着きどころが一つなくなり展開的にどうなるかと思いましが、金子が鬼の出足とトランジション強度を発揮して全体を引き締め、80分には一回り大きくなった興梠が最前線に復帰。84分には金子のネガティブトランジション対応でボールを奪いきり、武田が収めてターン、田中がスルーパスに反応し鋭いクロスを興梠の足元へ、という良いシーン。85分にはおそらく2007年最終節以来のレッズ戦となるカズがピッチに立ち、最後は2-0でゲーム終了。浦和が今季公式戦初勝利、そしてリカルド・レッズの初勝利を飾ることとなりました。

3つのコンセプトに対する個人的評価と雑感

f:id:reds96:20210312023516p:plain

「1.個の能力を最大限に発揮する」は6.0点。前半はなかなかうまくいきませんでしたが後半はボール保持が整理されたことで特に左サイドの強みが良く出るようになりました。小泉、敦樹のコンビは相変わらずこのチームを象徴するパフォーマンスで、お互いにJ1経験がまだ3試合とは思えない落ち着きがありました。PKでしたが健勇も点を取り、交代選手もそれぞれ持ち味を発揮したと思いますので、流れの中からの得点はなかったものの非常にポジティブな結果を得ることが出来たのではないかと思います。個人的には後半のビルドアップ改善に貢献した宇賀神のパフォーマンスが最も印象的で、小泉を降ろしすぎる弊害が心配な身としてはこの形が一番しっくり来たかなという感じです。前半は崩しの局面で、後半は最終列でビルドアップ隊として、右サイドでもチームのコンセプトをいち早く体現し、戦術的なタスクを遂行できる宇賀神友弥はやっぱり凄い選手です。両チームから浦和ユース出身選手が多く出場したゲームで、先輩の威厳を示したとも言えるパフォーマンスでした。ユニフォームはあんまり売れてないけど、やっぱり凄いんです。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は6.0点。どうしてもビルドアップに関する言及が多くなってしまうのですが、ゲームを通じてプレッシングの意識が高く、トランジションへの意識づけもリカルドのコーチング(というか吠えているに近い大声)からよくわかります。ビルドアップがうまくいかないとどうしても後ろ向きなプレーも増えますが、今節のファストブレイクのシーンのようにトランジションからの早い攻撃が昨年からの積み上げとして残っているのは「3年計画」の文脈でゲーム、クラブを追いかける上では安心材料と言えると思います。ただこのチームがサポーターをもっともっと乗せていく、うねりの様なスタジアムの雰囲気を作り出していくにはまだ勢いが足りなくて、ウインガーのドリブル勝負、シュートチャンスを作り出す設計、そうしたパフォーマンスを見せられる選手のコンディションアップがもう少し必要かもしれません。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は6.0点。昨年からの積み上げを一番感じるのはこの項目で、今季は平均点がかなり高くなりそうです。やはりボール保持が整理された分、プレッシングを90嵌めきらないとゲームを支配できないということがなくなり、またボールが持てないことから押し込まれて自陣でどうしようもなくなるという場面が激減したのが大きいですね。上述のトランジション意識も昨年から継続されていますし、今のところうまく昨年の土台に上屋が乗りそうな感覚があります

とはいえ気になるのは今季ここまでのすべての試合で前後半のパフォーマンスの振れ幅が大きいという点で、これはまだピッチ上で相手の形を見てプレーを変えるというところまでは出来ていなくて、ベンチの指示でやり方を変えることで対応している感じに見えます。ただこれは裏を返せばベンチが45分を踏まえた修正案をハーフタイムに提示できる、その選択肢を持っているということであって、それ自体が昨年からのバージョンアップですし、そういう意味でゲームを通じて同じ組み立て方で戦った横浜FCとの前後半のパフォーマンスの違いが分かりやすく出た今節だったかなとも思います。

というわけで、ついに初勝利を得たリカルド・レッズ。もちろん完成度の面ではまだまだこれからといったレベルですが、千里の道も一歩から。これから積み上げていくすべての勝利は、今節の勝利の上に積みあがっていくのです。

最後に、もう3節なんで記録用の順位表を貼っておきます。

f:id:reds96:20210312033921p:plain

浦和は1勝1敗1分けで開幕3節を消化。鳥栖が凄いのと、消化試合が多いとはいえその上をいく川崎がすでに遠くなりつつありますが、まだ始まったばかり。まずは実験を繰り返しつつ、目の前の相手から勝ち点を拾っていきたいところです。

と言うわけで、今節はここまで。今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。また次節。