96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

均衡への耐性:Jリーグ2021第6節 vs川崎フロンターレ 分析的感想

 濡れたよ。ずぶ濡れだよ。

両チームのメンバーと嚙み合わせ

f:id:reds96:20210323173228p:plain

浦和ベンチ:彩艶、田中、大久保、阿部、柴戸、武田、明本

川崎ベンチ:丹野、車屋、三笘、橘田、塚川、家長、知念

川崎はあまり見たことのない小林悠とダミアンの同時起用。左のWGも三笘ではなく長谷川が先発。連戦でしたが比較的メンバーを大きく変えずにゲームをこなしてきた印象のある川崎ですが、今節は家長、三笘のプレータイム管理がひとつのテーマだったのかもしれません。とは言え中盤の3枚とバックラインは現状のベストだと思いますから、1.5軍で臨んだとも言い難いとは思います。今季の川崎の試合をたくさん見たわけではないですが、印象としてはプレッシングが強調されているのかなという感じがして、特にIHの田中碧、脇坂の運動量が昨年よりも目立つ気がします。今節の序盤もそうでしたが、田中碧は普通にトップのダミアンを超えてプレスに出て来ていました。川崎は守田が抜けてシミッチがアンカーになったことでセットディフェンスのカバーリング範囲が狭くなったと思うんですが、プレッシングを最前線で牽引しつつセットディフェンスでも広大な範囲をカバーリングするIHの二人の活動量は川崎にとって生命線と言えるほど重要で、チームを機能させる強力なエンジンとなっているのではないかと思います。

浦和の方は宇賀神がスタメンに戻り、関根が右SHで先発。前節CHだった小泉がトップ下に戻り、敦樹と金子の2枚が中央に入ります。マイナーチェンジはいろいろとありますが、相手が川崎であるということを含めて、このメンバーが今後のベストに近いのかなという気がします。今節は阿部の代わりに金子がスタメンを飾りましたが、ルヴァンカップ湘南戦以降の金子のプレータイムの伸びを見ていると、リカルドは金子の成長余地とそのスピードを結構高く評価しているような気がします。もちろん年齢的に阿部をフルで使い続けることが現実的ではないため、プレータイム管理の面もあるでしょうけど。

噛み合わせについて確認すると、川崎はおなじみの4-3-3。3トップによるプレッシングは(実際の形は4-3-3とは少し違いましたが)マリノス戦で経験済みですが、川崎はいわゆる逆三角形の中盤なので浦和の中盤(2ボランチ+トップ下)と噛み合い、基本的には人が捕まりやすいと言えそうです。浦和は繋ぐのであれば川崎のプレッシングを外して前進できるか、川崎はそれを引っ掛けてショートカウンターから決定力の高いFWを活かせるかというのが最初のポイントでした。逆の局面では、浦和の4-4-2ブロックに対して川崎がどのようなアプローチを見せるのかは結構試されるところで、普段であれば両WGが幅を取りつつ仕掛けられることに加えてSB、IHが高い位置でスタンバイして素早いサポートからエリア内を攻略していくという形が川崎らしさですが、ゴール前で勝負したい小林悠の起用によってその方法論が変わるのか、またSHによる守備のサポートが意識づけられている浦和のブロックがそうした川崎のアタックに耐えきれるかというのが論点でしょうか。

逃げずに繋ぐ

キックオフ直後、浦和はパスを繋ぐところからスタート。らいかーるとさんの本によれば、キックオフの挙動はそのゲームに臨むにあたってのテーマを代弁するということでしたが、それに従えば今節の浦和のテーマは逃げずに繋ぐということだったでしょう。割り切った戦いをした前節は敦樹がベンチスタート、逃げない「宣言」をした今節はスタメンで起用というあたり、リカルドの敦樹への信頼度が見える気がします。ゲームプランに合わせて起用を考えているのかプレータイムのマネジメントがゲームプランの選択に影響を及ぼしているのかはわかりませんが、我々がそうであるように、当然リカルドも誰が出来て誰が出来ないかというのは良く見ているし、そこには現実として客観的でシビアな評価があるんだなというのを最近感じます。

 で、浦和が繋ぐのであればそれを狩りたい川崎は浦和の最終ラインから大外への展開をWGで切りつつ積極的に人を捕まえてプレッシング。特に田中碧は最終ラインに降りるボランチ(主に敦樹)について前に出た後、戻しを受けたCBにもアプローチする積極性で、トップのダミアンを超えて、左WGの長谷川とともに浦和の最終ラインにアプローチに出ていました。

f:id:reds96:20210323175212p:plain

田中碧は世代別代表でレジスタをやっている印象が強かったんですが、この活動量はモンスタークラスですね。それでいてボール保持でも安定したプレーが出来るので、別格の選手へと成長しつつある気がします。

同数でゲームをする以上、田中碧が素晴らしい活動量でプレッシングをすることは良いことだけではありません。彼が出てきた背後のスペースはシミッチと脇坂が主に埋めることになるのですが、シミッチはアンカーとしての役割か本人の特性か立ち位置を左右に大きく動かさない傾向が、そして脇坂は田中碧と同じく前線にプレッシングをかけいに行く長谷川の背後で空くことになる浦和の右SBやボランチを見ておく仕事があるのでケアが十分とは言えない場面があります。ここに健勇なんかも降りてきて密度の高い中盤の繋ぎに参加するというのが今節の浦和だったんですが、そうすると川崎の両CBがガンガン前に出てきて人を潰しに来るというのが川崎のボール非保持時の挙動でした。

浦和はいくつかロストもしたのですが、特に序盤はネガティブトランジションでの敦樹や金子をはじめとした中盤の選手の反応もよく、川崎がボールを奪った後の最初のパスを引っ掛けて回収という形が良く出ていました。それによって重心を下げ過ぎずにプレーできたことは浦和に有利に働き、小泉が降りる距離を短く保ちつつ繋ぎに参加させ、プレッシャーはそこそこ厳しいものの小泉のところでターンして展開、という今最も信頼できる形でのパス交換が出来ていたのではないかと思います。9分には敦樹と宇賀神ンのパス交換がずれて最後は山根にミドルを食らいますが、ここは西川が落ち着いて対処。その後のCK崩れで最終ラインの並びが直せないまま守備をする場面があり少し怖かったですが、川崎もWGに起点が出来ないのがやりにくいのか即死攻撃は飛んでこず、なんとか切り抜けることができました。

浦和としては問題はその後で、川崎が前からボールを狩りに来るために出来る田中碧のスペース、そしてそれを埋める最終ライン、特にCBが動いたところを使えれば一番良かったと思います。例えば最前線へのプレッシングに出る田中碧が外されてしまっている場合や浦和がサイドに人数をかけられる場面ではジェジエウがかなりSBに寄ってサポートする場面があるのですが、そうしてジェジエウをおびき出して健勇が谷口とエリア内で勝負をするというのは一つの方法です。これが上手く出たのが先ほどのCK崩れの守備の直後で11:40前後。西川のフィードを健勇が受けて山中へ。クロスを中央で健勇の豪快なボレーというシーンでした。同じようなシーンは20:05前後、25:35前後などよく出てくるので、川崎のやり方としてある程度CBをサポートに出そうというのは織り込まれている気がします。ただシミッチがあまり空いたところを埋めないので、結構狙い目だと思っているのですが、意外とこの形から失点していないのはプレッシングが効いてしまうからなのかもしれません。

f:id:reds96:20210323182844p:plain

このシーンでは汰木のところで繋がらずに失敗。右で作って左に持ち出し勝負のパターンは多く出そうだったが、ことごとくパスミスやパスのズレで良い形にならず、もったいなかった。

14:20前後、15:33前後と2度ビルドアップを狩られてゴール前でそれぞれ小林悠、ダミアンにチャンスを与えてしまいますがこれを凌ぐと、川崎は構造を維持しつつも少しペースダウン。浦和がビルドアップする時間が増えていきます。19:14前後にはワンタッチが2回入って小泉がオープンになったシーン、21:23前後には川崎の縦パスを奪ってから関根に入り、汰木が裏を狙って惜しいパスを引き出したシーンなどが印象的でした。25:30前後もビルドアップから左サイドにつけて、山中のカバーにジェジエウを引っ張り出すところまでは出来た場面。その後も川崎のビルドアップミスがあったことも手伝って、浦和が川崎からボールを取り上げつつ前進を探る意外な展開でゲームの最初の1/3を過ごしました。

お互いの課題感、均衡への耐性

現象としては浦和ペース、決定機としては五分五分か川崎優位という感じの序盤でしたが、この時間帯の過ごし方は川崎の方が上だったというか、こういう状況で崩れない川崎は強いなという感じがしました。川崎は前半開始直後からボールの運び出し、勝負のシーンを作る段階ですごくやりづらそうにしていて、チームとしての意思もあまり統一されていなかったように思います。川崎ボールのビルドアップでは、田中碧が頻繁に右SBの位置に降りて山根を動かすということをやっていました。そういう質問は試合後に出ていなかったと思うので真相はわかりませんが、田中碧の挙動からするとおそらく山根vs山中のマッチアップを作り出したかったのではないかと思います。

f:id:reds96:20210323190108p:plain

川崎は小林を起用しているので広く幅をとる役割を山根が担います。ここで田中碧が降りて汰木を引き出せば、必然的に大外を見るのは山中になり、ここの1on1を制することでサイドをえぐることが出来るという考えだったかもしれません。一方で浦和は汰木があまり田中碧に食いつかず、ある程度田中碧に時間を与えてでも汰木が山根を見るような形を維持していました。これは昨季から意識的に取り組んでいるセットディフェンスにおける左サイドの約束事のようなもので、汰木は低い位置でプレーすることになるものの、セットディフェンスが破綻する回数は明らかに減らせています。で、田中碧は何度か自分がボールを持つことで汰木を引っ張り出そうとしていたのですが、そもそも汰木が思ったように出てこなかったり、ジェジエウやシミッチが川崎にとっての右サイドへの展開を簡単に選んでしまったことでちょっとしたフラストレーションがたまっていたようでした。強風の影響か今季の川崎がそうなのか大きなサイドチェンジもほとんどなかったので、どちらのサイドにしろ浦和は大きくスライドすることで良く守れていたと思いますし、大外の1on1やSB、IHが絡んでの素早い崩しでクロスが上がる場面を川崎はあまり作れていませんでした。

一方の浦和はこれまでと同じくビルドアップの出口でいかにスピードアップし、さらにゴール前に人を掛けてビッグチャンスを作り出すかという部分が難しかったという印象です。35:09前後、上手く西川を使って金子がフリーになり、その金子にアプローチに来た田中碧を金子が外すところまでは出来て、関根に展開。健勇を経由してビルドアップから崩しに入ろうという場面で動きがなく選択肢と時間を浪費してしまい、そのまま戻されて最後は宇賀神が蹴りだしてボールを捨てる、というシーンなんかがそうですが、これまでよりも進歩して一つずつ外し、後ろで簡単にボールを離さずに相手を寄せつつ出口にボールを付けるというところまでは出来ていたのですが、その先に連動がまだない、共通認識が出来ていないのかプレーの優先度が定まらないという感じがありました。

で、ゲームとしてはどっちも完璧とは言えない展開の中で、浦和のスローインのミスから川崎が先制点を取るわけですが、こういう自分たちが望まない均衡の中でミスをせずプレーし続けられるのはどちらですか?というのが出てしまった感じがあります。川崎はこの先制点のシーンまで山根と山中の1on1からクロスに小林が飛び込むという形は出来ていなくて、ビルドアップからはなかなか狙い通りの攻撃が出来ない中でも、致命的なミスをせずにゲームを進めてきていました。浦和も今の成熟度と相手の強さからすれば良くやっていたと思うのですが、前半を終わり切れずにミスが出てしまったことはやっぱり差で、こういうじれったい展開に耐性があったのは川崎の方だったのかなと思います。ミシャ・レッズを通じて形成された僕の持論なのですが、やっぱり強いチームは嫌な展開への耐性があると思います。なかなかやりたいことができない、相手が予想以上によくやっている、ゴールだけが足りないというゲームで、致命的なミスをせずにゲームを終盤のリスクを掛け合う時間帯まで運べるかというのが強さなのかなと。そういう意味では浦和にはこの課題はまだ早すぎて、まずはビルドアップから相手を剥がして前進し、ゴール前のシュートシーンを増やしましょうということをやっている段階なので、相手が川崎と言うこともありますがこういう展開になると脆いのは浦和というのは仕方のないことかなと思います。

あとは技術的というかチームの連携として、ゲーム中に最もよく起きるセットプレーのひとつであるスローインは安全に打開できるやり方をいくつか用意しておいてほしいですね。ここ数年興梠の動き出しと超人的な収まり方に依存してスローインを切り抜けてきた(武器にもなっていた)ので、同じことが出来ない健勇ではどうするか?は準備しておかないと、同じような失点をまた観ることになりそうで、それはさすがに嫌なので。

前半ロスタイムにはビルドアップで川崎がプレッシングに6枚使ってきたところを山中が凄いパスを通して小泉をオープンにさせるも、最後はシュートまでいけず。浦和としては内容が良い中非常に悔しい0-1で前半を終了します。

悪夢の4分間

後半両チーム交代なしでスタート。キックオフ直後にジェジエウのパスミスを小泉が拾うもシュートまで行けず。その後浦和のGKからのビルドアップで敦樹が運ぼうとしたところを川崎の選手たちにうまく制限されてしまい、前線につけたところをジェジエウがインターセプト。トランジションに対応できなかった浦和はエリア内でダミアンに胸トラップからのバイシクルボレーをぶち込まれて0-2。

f:id:reds96:20210323190553p:plain

敦樹じゃないとこの状況で運ぶプレーを選べないという意味では、敦樹だからこそ失点に繋がったとも言える。ただ敦樹のオンザボールは彼の良さなので、これでやめるのではなくこれを上回るのが正しい挑戦。

このシーン、敦樹はまずダミアンのプレスバックを感じて逃げる形でドリブルを開始したんですが、小林悠に外のルートを切られ、前方はシミッチが塞ぎ、中のルートや関根へのパスは脇坂が邪魔で、仕方なく前へ前へ出たところで田中碧に蓋をされてしまい、選択肢が健勇へのパス以外にない状態に追い込まれてしまいました。うまく逃げるとすれば健勇の足元ではなく裏へ蹴りだして走らせるか、いっそ槙野まで戻してしまうというルートもありましたが、他の選手が敦樹のサポートに入る動きも少なく、後半立ち上がりの時間帯ということもあって前半の緊張感が維持できなかったのかもしれません。特にネガティブトランジションに入ってからの対応は残念で、ルーズボールを田中碧が拾おうとする瞬間に山中は敦樹がボールを拾うと思ったのかパスを貰おうとその場にとどまって小林がフリーに、小林にボールが入ったところでダミアンがエリア内にスプリントしますが金子は身体を付けてコースを邪魔できず、槙野はボールに寄せられずに小林にフリーでクロスを上げさせてしまいました。ダミアンにボールが入ってからは相手を褒めるしかないと思いますが、昨年圧倒的な成績で優勝したチャンピオンチームと均衡した試合をしたいのであれば許されないネガティブトランジションの対応だったかなと思います。最初の失点もそうですが、ネガティブトランジションの反応が悪くて失点をするのはこのチームのダメなパターンになっていくと思います。ビルドアップでかけているリスクをその後の頑張りでケアできなければ、必然的に失点は増えていくでしょう。

ただ槙野のポジショニングには同情の余地があって、ボールもフリー、中も危険という場面ではああいう中間ポジションに立ちたくなる気持ちはよくわかります。ただ、たしかにどっちも同じくらい危険なので選べないという場面なんですが、サッカーにおいてはパスやドリブルの成功率を考えると思い切ってボールに寄せて、結果的に抜かれてもその場でフリーのクロスを上げられるよりは守備者として一回チャレンジする権利を行使した方が仕事が一つ多くなるので良いのかなという感じでした。

で、立て続けに3点目。浦和ボールのスローインを奪われると、ボールは川崎の左サイドへ。脇坂が一度シミッチに戻すと旗手が猛然とインナーラップ。岩波-宇賀神の間のスペースに完璧なスルーパスが通り、最後は旗手が西川の股を抜いて3点目。この失点に関してはパスが凄すぎるとは思うんですが、前半に比べたらボールにプレッシャーがかからなくなってしまって、2点目と同じくボールを奪われてから奪い返そうとする、もしくはゴールを守ろうとするリアクションが出なかった瞬間にクオリティを発揮されてしまいました。川崎相手に0-2の時点でかなり厳しいだろうという感覚は選手たちにあったはずで、その直後の3点目で選手のメンタル面は完全に切れてしまったかなという感じがします。で、3失点目のゴールキックからの繋ぎを失うと、そこからの流れで4失点目。浦和の左サイドでボールをロストすると田中碧のキープから小林へ。逆サイド脇坂に展開されるとそこから4on5を崩され、左右に揺さぶられて最後は小林が触ったボールをクリアしきれずゴールイン。まあ難しいですけど、脇坂がボールを持っていた場面で長谷川にボールを出すタイミングを宇賀神が駆け引きしたんですが、岩波が残っていてオフサイドを取れなかったのは不運でした。そしてその前の脇坂がボールを運ぶ段階で金子がもう少し制限を掛けてくれればなという感じだったでしょうか。金子は前向きに相手をターゲット出来ているときはものすごく強いんですが、自分が後ろに下がりながらの対応だったり、自陣ゴール前が数的同数だったりするとトランジションですごく緩い対応をすることがあって、この試合はその悪いところが複数回失点に繋がってしまいました。マリノス戦も含めて間接的に失点に絡んでいる回数が多くなってきているのは気になります。ボール保持のところとか、良い部分は物凄い勢いで伸びているしポテンシャルも非常に高いものがあると思うんですが、油断なのかディレイのつもりなのかわかりませんがこういうネガトラ対応が続くと税金のように失点しなければいけないので、早めに改善してほしいところです。

で、この3失点は全て浦和のボールロストからの流れで失点してしまったわけですが、共通点は人が揃っているところに突っ込んでしまったことでしょう。川崎が戦術的にやり方を変えたというよりは流れの中でそうなったということだと思いますが、田中碧がプレッシングのために最前線までくる前に浦和の方からボールを運んでいき、4-5-1気味に枚数が十分の川崎のブロックに引っ掛かってロスト、という流れが続きました。これは前半の先制点のおかげで川崎が前から行く必要がなくなったと説明することも出来なくはないし、川崎はやり方を変えなかったが単純に田中碧が前に出てくるタイミングより先に浦和が突っ込んでいったという説明も出来ると思うのでどっちとは言えないのですが、結果的に同じような形で失点を招いてしまったのは浦和としては最悪でした。

2回改善のチャンスがあったのに3回同じ失敗をしたわけなので、このパフォーマンスには「良くなかった」「ダメだった」よりも深刻な形容詞が必要だと思います。10年以上レッズを観ていますが4分間で3点取られたのはたぶん初めてで、さすがに4失点後は一度FPが集まって話合っていましたが、それは2点目を取られた時にやるべきことだったよね、と。敦樹のロストにしろ、3点目のスローインからのロストにしろ、4点目の汰木のロストの一つ前の槙野の縦パスにしろ、相手が揃っているところにボールを運んでしまって奪われる展開を続けていて、「相手を見る」というリカルドのサッカーのコンセプトからかけ離れたプレーをしてしまっていました。ホームの試合で、川崎相手に前半は良いプレーが出来ていたのではやく追いつきたいのは分かるんですが、自分たちが前にボールを置いておきたいからといって相手に関係なく、もしくは相手に誘導されるままに突っ込んでいくのはだめですね。まあそれにしても、3回チャンスがあって3回ゴールに入れる川崎のクオリティは凄いですけど。

忘れてはいけない言葉

で、失点後にリカルドは3枚替え。武田、大久保、そして阿部を投入し、もう一度チームをブーストしようとします。敦樹を阿部に変えたのはプレータイム管理の他に、相手のブロックに突っ込んでいくような失点が続いてしまったことが要因な気がしました。この時間帯、2失点目の起点になってしまったこともあってか、敦樹はボール保持を通じたゲームコントロールが出来なくなっていましたので、そこを締めなおすというか、攻守において落ち着きどころを阿部に作ってもらおうということだったのかなと。で、その後10分くらい拮抗したゲームを取り戻したのですが、ゴール前の対応で槙野のクリアがミスになったこぼれ球を大久保が自陣ゴール前で脇坂に狩られてそのままスーパーミドルをぶち込まれ5失点目。

 まあこれだけ厳しい展開なら誰でもそうなるとは思いますけど、後半は立て続けにやられたこともあって前半出ていた声の掛け合いがほとんどなくなり、浦和はほとんど死に体まま残りの20数分を進めた形になってしまいました。前半は割とうまくいっていることもあって、ピッチ全体から周囲を鼓舞する声やコーチングの掛け声(特に07:30前後で追い込まれ気味だった槙野に金子が「マキ、ターン!」のコーチングをして前を向かせていたのは素晴らしかったです)が聞こえていて感動したんですが、後半は時々槙野の声が響くだけで、昨年と同じ感じになってしまいました。メンタルのせいで5失点したとは思わないですが、2失点目以降ゲームの流れに飲まれてしまって、一度相手の形を見るとか、危険な形になりそうなら一回ゲームを切るとか、そういうことが出来るといいんだけど、とも思います。また点差がついた後に出てきた武田や大久保はそういうチームの雰囲気を単独で変えていけるようなパフォーマンスを期待されていると思うのですが、性格的なものもプレーの面も含めてこの部分でのアピールは少なかったのは残念でした。武田はワンタッチで捌くとかプレッシャーから逃げるのは上手いんで、それをいなして前に推進力を出せるといいですね。

試合は結局0-5で終了。浦和の選手たちには相当きつい敗戦だったと思います。開幕節のFC東京戦は相手のゆるさも含めてこの出来で30点くらいにしておきたいなあと思ったんですが、今節は素晴らしいサッカーが川崎相手に出来ていた時間が40分くらいだったので、90分+αの40%くらいはやりたいサッカーが出来たということで40点くらいの出来だったかなと思います。この合格点を上げたくなるような時間帯をなるべく長く、60分、70分と続けられるようになるというのが浦和のサッカーが成熟していくうえで非常に大事だと思います。点を取れるストライカーが欲しいというのももちろんあるのですが、まずは試行回数を増やせる仕組みを成立させるのが先で、何度もサイドからクロスが上がるとか、アタッカーがオープンに1on1が出来る状況が安定して出来るようになってから、そうした崩しに関わる個人のクオリティを問題視すべきではないかと。そうしてビルドアップを含めたゲームコントロールが安定してきて、60分、70分と今節の前半のようなサッカーが出来ていれば先制点がとれて、点が取れれば良い時間をより長く続けられるという好循環が生まれるのかなと感じています。そういう意味で均衡した時間をいかにミスなく続けられるか、そしてミスがあったときに全力でリカバリーをすることがこのチームの文化になるのかどうかがクリティカルで、そういう意味ではリカルド体制になって戦術的な部分が注目されるようになっても、大槻さんのあの言葉は忘れてはいけないし、あの言葉は「責任」として根付いていってほしいと思います。

勝っていても負けていても同点でも、どんなに苦しい状態でも戦いなさい、走りなさい。そうすれば、この埼玉スタジアムは絶対に我々の味方になってくれる。そういう姿勢を見せずして、応援してもらおうと思うのは間違っている。ファン・サポーターのみなさんは、選手たちが戦うところを見に来ているし、浦和レッズのために何かをやってくれるところを見に来ている。埼スタが熱く応援してくれているのは、我々が戦っている証だ、それだけは絶対に忘れてはいけない、と。

3つのコンセプトに対する個人的評価と雑感

「1.個の能力を最大限に発揮する」は4.0点。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は5.0点。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は4.0点。

良いところも悪いところもあった試合なので、評価は難しいですね。結果はともあれコンセプトに対して忠実にプレーしたという意味では前節よりもポジティブに点数をつけるべきかと思います。

で、順位表。

f:id:reds96:20210323171422p:plain

ついにガンバを除けば最小タイとなってしまった得点数が深刻ですね。FC東京戦から課題として表れていた前線の人数不足、ビルドアップに人数を使い過ぎてしまう点は得点力不足に直結していると思います。一方でリカルドはMDPにて今後の2週間で崩しの局面に力をいれて整理することを明言していますので、負傷していた戦力も戻ってくるであろう2週間後のゲームが非常に重要になってくると思います。

また、この試合が終わると2週続けてミッドウィークに試合がない日程となります。この期間にしっかりとしたトレーニングを積みたいと考えています。まず攻撃について、今までやってきたことをさらに深めると同時に、相手を押し込んだ状況の中からどうゴールを奪うのか、新たなコンセプトを浸透させたいと思っています。そして、ケガ人が回復することにも期待しています。

www.urawa-reds.co.jp

で、こういうターニングポイントで対戦するのが鹿島と言うのが良く出来ていて、毎度毎度大事なところで目の前に現れるタイミングの良さ(悪さ)はまさに宿敵。鹿島は鹿島で一部で優勝予想をされながらも勝ち点4と浦和より苦しんでいて余裕はないはず。降格候補のチームがはやくも暗い連敗トンネル入りするなか、残留争いグループを抜け出し中位グループに生き残るのはどちらか、もしくは相手を残留争いグループに蹴り落とすのはどちらか、次節は早くも今季のポイントとなる戦いになるのではないかと思います。

と言うわけで、今節はここまで。今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。

また次節。