96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

選手間のシナジー:Jリーグ2021第7節 vs鹿島アントラーズ 分析的感想

やっぱ鹿島戦は気合が入ります。

両チームのメンバーと嚙み合わせ

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浦和ベンチ:彩艶、宇賀神、工藤、敦樹、汰木、健勇、興梠
鹿島ベンチ:クォンスンテ、林、遠藤、松村、船橋、アラーノ、染野

この試合の最初のトピックは柴戸をアンカーに置いた4-1-4-1システムの採用でした。ボール非保持時は4-4-2で並ぶのでどっちを基本配置とすべきか悩みましたが、公式のスタメン発表の並び順(GK→右SBから最終ライン→右サイドの選手から中盤→...)の法則に乗っ取って、柴戸がアンカーの4-1-4-1が基本配置と判断しました。公式戦では初めて出てきた4-1-4-1フォーメーションですが、リカルドが試合後のコメントで明かしたように、これはいつかは試されるべき形だったようです。

--今日は[4-1-4-1]のような形だったが、このアイディアはいつから練っていたのか。また評価は。
こういった形は以前から考えていたことではあります。リーグ戦・札幌戦の前後でも(導入を)考えてたことではありますし、実際にエリートリーグでも札幌とこの形で戦いながら、ある程度のアイディアは持ちながらやれていました。ただ本当に重要なのはシステムのことではなくて、選手それぞれの特徴や組み合わせが絡み合うことなので、うまくかみ合って良かったと思います。

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エリートリーグのスタメンの中盤も(おそらく右から)関根、武田、阿部、涼太郎、田中なので、今節と同じ並びをテストしたのでしょう。エリートリーグでの活躍が認められて1トップで出場した武藤と同じく、関根、武田のセットもこの試合でのパフォーマンスが良くて今節そのままスタメンに抜擢されたようです。ちなみにエリートリーグでは阿部が43分で交代となっているのが気になりますが、そのためかアンカーにはルヴァンカップ柏戦でも前向きなパフォーマンスを見せていた柴戸が抜擢される形になり、全国に4、810団体約481万人の支持者を有すると言われる#急進的柴戸派は大いに沸きました。

で、なぜ4-1-4-1が必要かと言う話なんですが、これはおそらく2つの側面があって、まずは鹿島が4-4-2でプレーすることが予想しやすいので、噛み合わせを外せるフォーメーションとして4-1-4-1があったということ、そしてもう一つは自分たちの事情として前後のバランスを整えるためで、論点だったトップ下がビルドアップに参加することによる前線の枚数不足の解消を狙ったものではないかと思います。ちょうどIHに小泉が入ったのでわかりやすかったですが、トップ下から降りてしまうと1トップに対するサポートがいなくなってしまい前進した後に苦労していた今季の浦和ですが、今節は0.5列下げたIHに小泉と武田の2枚がいることでどちらかが降りてももう一枚がトップに近い位置でプレー出来るということと、全体が上手く押しあがれば1トップ2シャドーのような形で前線を分厚く出来ると言ことが言えそうです。これを可能にするのはIHが2枚ともビルドアップのサポートに降りてしまう状況を作らないようにする最終ライン+アンカーのところの作りで、今節は鹿島が4-4-2で構えることが分かりやすかったからか2枚のCB+アンカーに入る柴戸の3枚でビルドアップの初手を打つ部分がかなり意識されていたように思います。相手の2トップを最小限の数的優位である3枚で超えることが出来れば、その分ボールが進んだ段階のために人が用意できるし、そこで小泉が多少降りても武田が武藤の近くでプレー出来るという設計での4-1-4-1の採用だった気がします。

また、今季の浦和のスカッドを見ると中盤の前目が出来る選手、サイドが出来る選手が多く(小泉、汰木、関根、大久保、田中、武田、明本、涼太郎)、ボランチもアンカーを任せられるカバー範囲の広い選手が多いので、4-2-3-1でボランチに2枚、前目1枚とするよりも1-4で前目に人数を使う方が戦力を使いやすい気がしています。当然ですが左右の関係でもIHがいた方が大外の選手に近くて、サポートにも入りやすいのでうまくやれば前目の選手が孤立しないというのは4-1-4-1のメリットと言えます。

じゃあなんで4-1-4-1を最初からやらないのよというのがポイントで、このシステムの基本的なデメリットは成立させる難しさにあります。IHに入る選手が360°のプレー範囲でいろいろなところに顔を出してプレーするのが魅力のシステムなんですが、そもそもビルドアップがうまくいかないとIHが2枚とも降りることになって結局1トップが孤立したり、それならといわゆるシャドー的な選手を起用すると前に前に意識が行ってしまって中盤がスカスカになったりしてしまいます。安定したバックラインをベースに状況に応じてIHが周囲の選手のサポートに入りながら前進していくシステムなので、個々の選手に求められるバランス感覚とスキルの要求は結構高く、それが上手くいかなかったのが同じく4-1-4-1を好んでいた堀監督時代のレッズでした。そういう意味では今季の浦和は4-1-4-1に対応できそうな選手が揃っていて、小泉なんかはこの形と役割が最も彼の特性に合っているだろうし、西が最終ラインのビルドアップに質的な向上をもたらしていることも今節の4-1-4-1の成立には欠かせなかったと思います。また堀監督時代と違ってボール非保持では4-4-2で構えるということがこれまでの積み上げから出来るので、中盤3枚が長距離スライドで疲弊してしまう可能性も少ないのは紆余曲折を経た「今季の浦和」だからこそと言えるかもしれません。

柴戸の役割、解放される山中

ゲームの流れとしては、立ち上がりは浦和が若干有利か互角だったものの前半中盤以降は浦和ペースでそのまま先制。前半終了間際にFKから同点とされたものの、後半に追加点、その後2回ゴールネットを揺らしたものの得点は認められず、しかし流れを手放さなかった浦和が完勝というゲームでした。鹿島は正直出来があまりよくなくて、戦術的に味付けを加えてどうこうというのは少なかったと思うので、いつもよりも浦和が何をやっていたかというところを整理しておこうと思います。今節はこれまでのゲームとは少し違う形を採用したこともあって、浦和のサッカーの構造が少し変わっていて言及すべきポイントが多いのですが、このシステムややり方は今後も見られると思うので、根本点的なところをいくつか書き残せればいいのかなと思います。

基本的に、システムが変わってもチームのコンセプトが変わるわけではないので、まず大事なのはビルドアップの最初の一歩でどのように優位を作るかと言うことになります。アンカーを置くことのメリットの一つはタスクが整理しやすくなることで、基本的には2枚のCBとアンカーの3枚が相手の2トップをいかにクリーンに超えていくか、もしくはオープンになっている味方にボールを渡して前を向かせるか、ということになります。それをサポートするのが主に小泉で、彼の特徴である降りる動き、ボールを受けた後のコントロールでボールの循環を安定が期待できるわけですが、これが2ボランチ+トップ下から小泉が降りてくる形だとボランチのどちらがどこに降りるか、どうやってその次のプレーに備えるか等の判断は少し複雑になります。ミシャの時のように型を決めてもいいのですが、そうすると「相手を見る」コンセプトから外れますし、分析が緻密で研究されるスピードが速くなっている今の時代ではすぐに対策されてしまうでしょう。

で、開始直後の00:53前後に早速その形が出来ました。浮き球を柴戸と小泉で処理して岩波へ落とすと、縦パスを武田へ。武田がワンタッチで柴戸へ落とすと、柴戸は鹿島の2トップを超えた位置でフリーで前向き。鹿島の中盤の4枚は自分たちのライン上でプレーするIHやその背後のSH、トップの武藤を気にするので前に出れず、この瞬間に武藤は最終ラインから浮き出してライン間で足元への楔を要求しています。

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今思えば鹿島は柴戸の役割を舐めていたのかもしれないし、噛み合わせの悪い浦和のフォーメーションに少し面食らったのかもしれない。

柴戸は左サイドの内側のレーンで浮いている山中へ展開し、そこから一列前の明本、そしてボールサイドのIHである小泉が絡んでの崩しとなるわけですが、例えばトップ下の小泉がビルドアップを助けに降りてくる場合はこの場面で言う柴戸の役割を小泉がやっているので、SHのサポートへ走りこむ動きは出来ません。じゃあ誰がやるかというと、例えば敦樹が3列目からペナ角へ走りこまないといけないというのがここまでの浦和でした。そりゃ時間もかかるしこういう場面になる頻度も少なくて当然です。遠いところから来るのはリスクですし、そもそもその時間を作るのも大変ですから。

で、この攻撃では小泉のところは上手く使えず、明本から柴戸を経由して逆サイドへ。ここでも同じことで、柴戸の横のサポートに入った西から一列前の関根、ボールサイドのIHの武田の3枚のユニットプレーに移行し、武田が自然なタイミングでペナ角を取るわけです。で、やり直しにまた柴戸が顔を出して…と無限に展開できそうだったんですが、このオフェンスは柴戸のパスミスで終わってしまいます。ただ奪われたボールに柴戸が素早く寄せて、武田のリカバリーでまたマイボール。自作自演なんですが、トランジションで危ない場面でもボールに寄せて粘れるのは柴戸の良さで、パスミスしてるから柴戸が悪いというのは自由なんですが、でもアンカーとしてこうしたリカバリーを「ほぼ必ず」やってくれるのも柴戸なわけで、トータルのバランスが取れていれば彼を採用する価値は十分にあると思います。

それで、こうしたアンカーを起点に左右を行ったり来たりされるのは昨年のマリノス戦なんかで浦和がやられたことと同じです。その時浦和(大槻さん)がどうしたかと言うと、押し込まれることを許容してでも健勇を一列下げてアンカーをマークさせ、中継点の自由を奪ったわけです。今節の鹿島もそうすれば浦和を制限することが出来たと思いますが、そうしなかったのはこうした形を予想していなかったか、柴戸だから困らないと思ったか、2トップにそういうタスクを任せられないか、どれかなのかなと思います。

03:45前後も面白いシーンで、柴戸が右サイドの3枚ユニットのフォローで右サイドに流れてボールを逃がし、最終ラインから左サイドへと展開していく場面なんですが、こういう場面で顔を出してくれるのが小泉です。で、小泉を中盤の底に使った分はどうするのかなと思ったら、その分は山中が前にどんどん絡んでいきます。さらにIHとして武田も前に残っているので、また逆サイドで3人のユニットを形成でき、このシーンでは槙野が小泉からの落としを受けた後にドリブルを挟んだことで荒木を引き付け、その分山中がフリーでラインブレイクを狙うという形になりました。結局ボールは出なかったんですが、この山中のフリーランの対応に鹿島は関川を大外に出しているのでエリア内の枚数が減っており、崩しのセオリーとしては単純なクロスでも勝負が出来る場面を作れているので良い形だったと思います。図で見るとすごく浦和の選手の人数が多く感じるのですが、これこそが適切なリスクをどこで誰がかけるかということで、後ろの人は少なくなるものの槙野が簡単にボールを離さずにエヴェラウドのラインを超えたことで相手を動かし、4-1-4-1の配置上前に人を使いやすい構造を活かすことが出来たシーンと言えると思います。

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こうして山中が前線に絡んでいくことで鹿島はCBを動かされる。鹿島はCBが広く対応することを許容する傾向があるので気にしていないかもしれないが、CBをエリア内から動かしたくないチームであればサイドでフリーを作れるはず。

要するに、浦和の今節の4-1-4-1の機能性はビルドアップの入り口の枚数を適切に減らせたことが一つ目のポイントで、噛み合わせ上浮きやすいアンカーのポジションで柴戸が仕事を出来たことが二つ目、そして柴戸が使えない時には小泉が降りてボールの循環を担保し、これらをベースに山中がビルドアップから解放され、ビルドアップの出口もしくはサイドを崩すユニットの一部として積極的に前に関わることで相手の最終ラインを動かすことが出来たというのが3つ目かなと思います。鹿島が無策だったということもあるんですが、整理すればするほど選手の特性と配置のバランスや仕組みが合っていることがわかるので、選手たちもやりやすかったのではないかと思います。

逆に上手くいかなかったシーンでは4-1-4-1の難しさが出る場面もあって、03:58前後のシーンでは柴戸が最終ラインに入って3バックを形成、サポートに小泉と武田のIH2枚が降りてきて5枚回しに。こうなると鹿島の2列目は背後を気にする必要もないので前に前に圧力がかかり、岩波から西へとサイドにボールを逃がすもののその後の動き出しの枚数が足りない(3枚のユニットが作れない)状況で結局はGKまでボールが戻りました。こういうことがあるので両方のIHをなるべくビルドアップに組み込まないことが4-1-4-1では重要で、せめて小泉が降りて山中を前に出すくらいにしておく必要があります。やっぱり根本は最終ラインと柴戸のところで前を向けるかどうか、になるわけですね。で、この直後、05:02前後からのビルドアップのやり直しではGK+CBで3枚のラインを作り、その前に柴戸、左に降りる小泉の形。エヴェラウドが追い込もうとするのですが浦和のビルドアップが深すぎるために他が連動せず、岩波が簡単にフリーとなると、運び出し。

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この辺りのビルドアップはまさにやりたい通りに出来ていたと思う。

西が岩波のドリブルに合わせてバックステップでパスコースとなり続けると白崎は対応せざるを得ず、岩波にさらに時間が出来ると、白崎が動いたコースに関根が降りてきてパスを受け、ターンでレオシルバを外し、さらに浮いた武藤がボールを繋ぐと、初手で小泉が降りることで連れてきた荒木が戻り切れずに、大外で解放された山中へ。

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これも決定的なシーンには繋がりませんでしたが、最終ラインがクリーンに前進し、それに応じて人数の揃った前線が反応することでボールが繋がり、小泉が降りる分山中が解放され、最終局面で左足を発揮できる局面を作り出したという意味でこのチームに合った「ビルドアップ」でした。

ということで、概ねこうした組織としての狙いを持ってゲームに臨んだのだ今節という説明が出来るのではないかと思います。ただもちろんこうした組織的な狙いだけではゲームは語れなくて、後はピッチの上での味付けを誰がどのようにしてくれるのか、という部分に目を向ける必要があるでしょう。

「消える9番」武藤雄樹

26分前後のCKから永戸が直接狙ったシーンで少しヒヤッとしたものの、浦和はトランジションや球際での頑張りもあって鹿島に流れを渡すことなく戦うことが出来ていたと思います。柴戸を簡単に最終ラインに入れてしまったり、IHが下がり過ぎてしまうと出しどころを失って難しくしてしまう場面もありましたが、局面では武藤が関川を手玉に取ったことで疑似カウンターのようにゴールに迫れた30:50前後のシーンのような形もありましたし、悪くない戦いが出来ていたと思います。33:50前後のビルドアップでは中央でボールを持つ柴戸から鹿島の2列目のライン上でボールを受けた武藤の展開、関根と武田のワンツーで突破。武藤は1トップに入りましたが積極的に列を降りて関川や町田の守備範囲から消えてボールを引き出し、また最前線に入る仕事をたくさんしていましたが、0トップ風味のこのやり方は左サイドに入った明本がガンガン裏抜けを狙ってフリーランをすることと相まってよく機能していたと思います。鹿島のCB陣は降りていく武藤をどうするか決まらないうちに時間が経ってしまった感じがあって、武藤がボールを受けてから対処しようとするものの視界に入ってくる明本も気になるし、サイドに入るとIHのサポートも早く前進されてしまうのでラインを下げるしかない、という状況が頻発していました。明本が中に入っていくことで鹿島の右SBの常本が絞って対応せざるを得ず、山中が大外でフリーになるという構造にも貢献していたと思います。

ゲームは関根の抜け出しから得たCK崩れからボールが西川まで戻ると、鹿島が人数をかけてプレッシング。一度は鹿島ボールになりますが荒木のクロスを槙野が跳ね返してルーズボール。これを小泉が窮屈ながらボールを収め、山中、明本が関わって保持すると、大外で一人浮いていた西へサイドチェンジ。鹿島の選手の視野が裏返ったところで浦和の中盤の選手たちが一気にスピードアップし、西に入った瞬間から裏へのボールを要求していた明本の下へ完璧なフィードが通ると、流し込んで久しぶりの、そして今季初の流れからのゴールが文句なしに決まり、浦和が先制します。このシーンの鹿島の対応は、裏返された瞬間の反応が鈍いことに加えて、西がフィードを蹴る瞬間に関川が武藤を気にして中央に絞っており、サイドチェンジの瞬間に前へと反応しスプリントをかけた柴戸のマークについた町田との間でラインのズレを生んでしまいました。ここまで鹿島のボランチの裏でボールを受け、なかなか捕まえられなかった武藤に対して関川が注意を向けた瞬間に西のボールが裏に入り明本がフリーになったという意味では、武藤らしいプレーの積み重ねがジャブのように効いていたのかもしれません。西のオンザボールでの落ち着きと深いところを見ることのできる視野、そしてフリーとはいえ完璧なボールを通す技術の高さも素晴らしかったですし、明本も冷静にトラップからゴールに流し込んだのはナイスでした。万が一GKに当たってこぼれても柴戸がフリーで詰めていましたし、比較的シンプルでダイレクトな攻撃でしたが厚みがあり、ゴールに向かえるときはゴールにプレーするという意味でも良いゴールだったと思います。

直後の38:00前後にはトランジションから武藤が三竿を抜き去りゴールへ突進、戻った上田が後ろから倒してイエローカード。タイミング的にも武藤なら寄せられる前にシュート出来そうなシーンでしたけど、赤は出ませんでした。ただカードを提示された直後の上田の表情を見ると珍しくかなり不安そうにしていたので、選手の感覚的にも赤相当のプレーだったということでしょう。鹿島の選手がああいう表情をするのはあまり観たことがないので、たぶん相当上手くいっていない感覚があったんじゃないかと思います。ただここで得たFKを武田が直接狙うものの沖のナイスセーブで追加点ならず。その後のFKから関川のヘディングがゴールに吸い込まれてしまい、内容的に鹿島にほとんど何もさせなかったもののスコアは1-1で後半へ。

トランジションが多くでる後半の立ち上がりでしたが、46分のエヴェラウドの抜け出しを岩波と西川でなんとか防ぐと、ゲームは一進一退の展開へ。鹿島はエヴェラウドが左サイド大外に攻め残る形でトランジションで西の裏を取る形が多くなり、そこを起点にファストブレイクを仕掛ける意図があったと思います。一方の浦和は柴戸が危険なエリアをカバーしつつ、前線の選手もボールホルダーの足元に身体を寄せて対応。鹿島の右SB常本が前半よりも積極的に高い位置を取ってきましたが明本のプレスバックでの対応もあり、また2トップへのロングボールは前半同様に岩波と槙野でしっかりと跳ね返す守備で大崩れすることなく鹿島の圧力を受け止められていました。

61分に鹿島が交代。白崎に代えて松村を投入した直後、沖のゴールキックを西が関根へ繋ぐと、降りてきた武藤へ縦パス。鹿島のボランチのライン上でボールを受けた武藤は関川からフリーとなり素早くターン、それに合わせて明本が常本の内側へ走り込み、スルーパスを受けた瞬間に常本に倒されてPK獲得。VARによる確認で時間がかかったもののキャプテンマークを巻く槙野が冷静に蹴りこんで勝ち越し。飲水タイムを挟んで浦和は武田に代えて敦樹を投入。69分には沖のフィードを深い位置で回収すると山中のクリアを拾った明本が胸トラップで前を向き、寄ってきた武藤へ。武藤との狭い場所でのパス交換の間にタッチラインを爆走した山中が抜け出すと、ファーサイドでは小泉と関根が反応。フルスプリント後とは思えない完璧なクロスに関根が飛び込み3点目、と思いきやこれはVARで繋ぎのところでの武藤のハンドがとられて取り消しに。最後は残念でしたが、0トップとして人に強くいきたい鹿島の最終ライン、特に関川を翻弄し間受けからのターン、展開、連続したプレーでチームにエナジーを与えた武藤のプレーは最高でした。シーズン当初はコンディションもチームのやり方もあまりフィットしていませんでしたが、こういう形で近くにサポートを置けるなら武藤の0トップは十分オプションになりそうです。

浦和は73分に興梠・健勇を同時投入。武藤・小泉を下げて4-4-2に近い形にしたのではないかと思います。直後に上田が惜しいヘディングを放ちましたが、この場面のようなSHが浦和のSBの裏に走りこんで浦和のCBを動かし、エリア内で勝負という形を本来鹿島は多く作りたかったし、作るべきだったと思います。この場面では敦樹が素早く最終ラインを埋めていましたが、良いボールが入ってくれば上田は怖さを発揮できるわけですが、今節の鹿島は予想以上にボールが循環し、そして球際にアグレッシブに寄せてくる浦和のプレーに気圧されて何をすべきかが整理されないまま時間を使ってしまった感じに思えました。76分に3枚替えで三竿・レオシルバの両CHを両方交代させましたが、鹿島としてはこの2枚が中盤やセカンドボールを支配してくれないと思った通りのゲームはなかなかできないでしょうし、78分までの出場でレオシルバが9.143km、三竿は8.808kmしか走れていないことを踏まえても鹿島はピッチの中央で主導権を全く握れなかったと言って良いと思います。本当はビルドアップから前進していく形と最前線をダイレクトに使う形をうまくミックスしたいのでしょうが、今節はどっちも中途半端で、やりたいことはほとんど出来なかったというゲームだったのではないでしょうか。

終了間際の87分に興梠が鹿島のビルドアップをつっかけて健勇がエリア内でGKと1on1になるものの決め切れずというシーンがあったものの、その後大きなピンチもなくゲームをクローズし、宿敵鹿島に勝利、そしてシーズン2勝目をあげて中位へジャンプアップする貴重な勝ち点3を浦和は手にしました。

3つのコンセプトに対する個人的評価と雑感

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は6.5点。武藤を筆頭に持てる能力をチームに還元できた選手が多く、それぞれの個性が表れたプレーを見ることができたゲームだったのではないかと思います。その根底にはリカルドの采配があって、4-1-4-1を採用し小泉と武田のIHがトップ、サイドの選手に近い位置でプレーできるようになったことや、山中を高い位置で使いたいという意図と小泉が降りることでビルドアップを助けられるという良さの噛み合わせ、武藤の0トップムーブと左サイドから積極的かつパワフルに裏を狙う明本の噛み合わせといった選手間のシナジーがうまく表現できていたように思います。これまでの4-2-3-1はどちらかと言うとシステムに選手が頑張って合わせようとしているという感じが否めなくて、5レーンを埋めるために両SBが高い位置まで上がり、そこから相手の最終ラインにアタックしなければならないというような歪なバランスでプレーしていることもありましたが、今節のシステムと選手の配置はそういった型に合わせた歪みのようなものがかなり軽減されて、選手が得意なプレーを出せばそれが自然と噛み合っていくようなバランスの良さが感じられました。相手が4-2-3-1だったり5バック気味に守ってくる場合でもこのシステムを採用するかはよくわかりませんが、少なくとも鹿島のようにオーソドックスな4-4-2からプレッシングに出てくるチーム相手であれば結構使えそうな気がしますし、アンカーでプレーさせても問題ない守備的なMF、IHで前後に関われそうな選手、サイドプレーヤーもスカッドに用意できているので、今後も4-1-4-1は有力なオプションになっていきそうな気がします。そうなるとメンバー争いは選手個人の質にフォーカスが当てられていくようになり、例えば今節の柴戸役、武田役、関根役、明本役をもっとうまく出来る選手はいますか?というところを見ていくことになるような気がします。「相手を見る」という意味ではこの4-1-4-1に加えて4-4-2、4-2-3-1を使い分けることで3バックの相手や2トップの相手にはこれ、と言う感じで戦い方の幅もある程度出てくるのかもしれません。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は7.0点。チームトップとなる11.202kmを走った明本を筆頭に、多くの選手が積極的なフリーランやチャレンジを見せていたと思います。配置の噛み合わせやゲームの展開に左右されることはなかなか避けられませんが、この項目を体現してくれる選手が多く使えるのはスカッド構築が上手くいっているということではないかと思います。個人的にはクレバーでスマートなプレーをする小泉や西がネガティブトランジションで身体を張ってくれるところや、柴戸が積極的にボールを受けて展開したり、ゴールキックをエリア内で受けてビルドアップの起点としてプレーしたり、CB陣と一緒になって相手をなるべく自分に引き付けて次の選手をフリーにしようというチャレンジをしていたりと、各選手が「得意なこと以外のプレー」に取り組んでいる姿はこのチームの特徴かなと思っていて、そういう文化や雰囲気づくりがチームの中で出来ているというのは監督のキャラクターが反映されているのかなと感じます。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は6.5点。4-1-4-1をベースにしたビルドアップの良さが注目されやすい今節ですが、この項目に関してはまず両CBを褒めるべきだと思っています。鹿島は苦しくなったら上田とエヴェラウドにダイレクトに預けて押し込もうという考えがあったと思いますし実際にそうしてきましたが、ハイボールに競り勝ち、トランジションの起点になるポストプレーを許さず、2トップの動きに対して2枚のCBで対処することが出来ていました。ここで余計な枚数を使わないことが中盤の厚みに繋がるし、こうした最終ラインのベースの上に柴戸のボールへの反応の良さと前線の選手のプレスバックが繋がることで鹿島の大黒柱であるはずのCHが思うように仕事が出来ない展開を作り出せたのかなと思います。またアンカーシステムを採用することで両SBが内側に絞る余地が大きく、中盤の底に選手が多すぎて必要な場所に選手が確保できないという状態が出来にくかったこともこうした厚みに貢献したかもしれません。必要な時に必要な場所に立つという意味では西のポジショニングはほぼ満点で、非常に高いボールスキルも含めてチームに安定感をもたらし、一段完成度が高まったように見せるのだから凄い選手です。そんなわけで、全体が噛み合ったことで鹿島にほとんど何もさせずにスタッツ以上の完勝をしたことはチームにとっては非常に大きく、待ちに待った成功体験の一つとして今後の成長に繋がるゲームが出来たのではないかと思います。

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というわけで、ゲーム後の順位表。中位への生き残りを賭けた今節を落とした鹿島はなんと16位へ後退、浦和は12位に順位を上げて、勝ち点3差に一桁順位を捉える位置につけることが出来ました。ガンバは別としても下3チームがかなり苦労している今季序盤ですが、まずは降格圏に消化試合数くらいの勝ち点差をつけるところまで行けば上を目指す戦いにスイッチ出来るのではないかと思っています。従って、シーズンが続く限りいつもそうですが、次の勝ち点3をいかに早くとるか、勝利を次の勝利に繋げられるかということが求められる4月になるのではないかと感じています。次節は水曜日の清水戦ということでリカバリー以上のことは難しそうですが、ロティーナ監督のチームということで4-4-2ベースであることは間違いないので、そういう意味では今節の良いイメージをうまく維持しつつ、ロティーナ監督のチームらしく最終ラインを堅く埋めてくるブロックをどう攻略するかという部分に注目したいと思います。

今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。また次節。