96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2021シーズン全選手振り返り(中)

(上)はこちら

www.urawareds96.com

まだまだいくぞ!

11 MF 田中 達也

f:id:reds96:20211226005852p:plain

片野坂監督の下大分で輝き、ポジショナルプレーへの理解もあるアタッカーということで浦和に辿り着いた今季、背番号11を与えられリカルドの下でプレーすることに対しモチベーションはマックスだったはずですが、リーグ戦1,024分の出場に留まってしまい期待とは違うシーズンになったかも。一方で途中出場22試合ながら公式戦41試合に出場とゲームには多く絡んでおり、リーグ戦における4ゴールは明本、汰木と並んでチーム3位タイと一定の貢献は出来ていたと思います。

この選手に関してはチームが特徴を十分に発揮させてあげられなかった気がしていて、ポジショナルプレーへの理解があるといっても彼が最も得意なのは大外レーンに陣取っての幅取り、仕掛け、そして大外からエリア内に爆走してのフィニッシュといったプレーで、誤解を恐れずに言えば彼はアタッカーというよりは大外レーンにいるフィニッシャーと言う感じ。もちろん大外レーンでの縦への仕掛けからのクロスも武器として持ってはいますが、今季の浦和のSHは大外に張っているだけでなく内側のレーンに入ってトップ下のように振る舞うプレーやビルドアップの出口やサポートとなるためにIH的な役割を担うことも求められており、そうした器用さを持ち合わせていないことからチームにとっても本人にとっても「思てたんと微妙に違う…」という感覚があったかも。とはいえ相手との嚙み合わせやゲームプランの関係で彼の前にスペースが広がっていて大外からの仕掛けを存分に発揮出来るゲームや、逆サイドで上手く相手のラインを突破して右サイドから中央に飛び込んだ田中がゴールを狙うというシーンでは大分時代と同様の輝きを発揮しており、要は彼が一番出来ることだけをさせてあげる状態に出来なかったなと。

「ファンだった」と公言していた元祖田中達也のクラブでのプレーは100%期待通りではなかったかもしれませんが、キャリアの最も良い時期に「浦和の11番」であったことには本人も満足しているはず。大分時代に8ゴールを奪った能力が今季突然落ちたわけではなく、成績が下降した原因もはっきりしているので、既に移籍が発表された地元福岡では大分時代に近い活躍が期待できるかも。そもそもやってほしいこととのミスマッチがあったにしては活躍してくれたと思いますし、短いキャリアの中での決断として個人的には移籍にも納得できるかなという感じです。ACL要員として残ってくれたら頼もしかったですが、福岡がJ1にいるうちに戻りたいという気持ちもあるんじゃないかと思います。最後の挨拶も誠意があったし、個人的には後腐れなし。また会おう。

12 GK 鈴木 彩艶

f:id:reds96:20211226010247p:plain

ついにヴェールを脱いだ浦和の至宝。19歳のGKがルーキーイヤーで公式戦15試合出場は本当に立派です。5月初旬のアビスパ福岡戦での西川のパフォーマンスの悪さからチャンスを掴み、J1では6月20日の湘南戦まで6試合に連続出場。約6週間の短い間でしたがスタメンGKとしてどのような準備が必要か、コンディショニングやメンタル面の準備をどのようにすべきかキャリアの早い段階で経験できたのは大きな財産になるのかなと思います。

プレーではセービングの際の身体の反応の速さに加えてビルドアップの面でも恐れずにボールをもらい相手の2トップの間を通すパスも出せていたので期待以上。単純に身体が大きいので威圧感もありますし、クロスに対する飛び出しの判断も改善の余地はありつつも他の若いGKに比べれば無茶なものは少なかったのではないかと思います。ただ依然壁として立ちはだかる達人西川との差はやはりコーチングや無駄のない動き、プレーの連続性の部分で、そうした経験値が出場試合の勝率に現れてしまった部分も多少あるかも。引き続き精進が必要でしょうが、そういった部分に絶対的な理論を有しているジョアン・ミレッのGKコーチ就任はかなり大きいかも。クラブも彩艶というとてつもないポテンシャル、そして後に続くであろう生え抜きGKの石井や川崎を潰してはいけないという覚悟があるのかもしれません。

なるべく多く実戦経験を積ませたいのでJ1で使ってくれそうなところがあればレンタルもあり得るかも。ただ来季はACLもあるので、基本は西川との競争を継続させるのでしょうか。

13 MF 伊藤涼太郎

f:id:reds96:20211226191434p:plain

ミスターポテンシャル山田暢久とミシャ・ロマンチスト・ペトロヴィッチがその才能に惚れ込み高卒で獲得した和製ファンタジスタ。これまでもレンタル移籍を繰り返し、そのたびに愛媛へのレンタルをきっかけに成り上った森脇にあやかって46番をつけていた健気な選手ですが、勝負の年と意気込んでいたであろう今季もシーズン途中から水戸へのレンタルという結果に。水戸ではそれなりに活躍しており、特にリーグ終盤戦は複数ゴールも決めて勢いに乗ってきた印象でしたが、来季は新潟に完全移籍となるとのことです。

各所で何度も話している通り涼太郎の最大の特徴は高いレベルのテクニックと身のこなし、そしてアイデアの豊富さとその実現力ですが、一方でゲームに入ったファーストタッチが乱れるとそのまますべてのプレーがガラガラと崩れていくというとんでもないムラッ気も持ち合わせており、浦和で活躍したい、このゲームが勝負だと意気込むが故なんでしょうがパフォーマンスの波が激しく、歴代監督としては守備での貢献の小ささもあって使いにくかったかもしれません。リカルドのサッカーではスタートの形がどうあれいわゆるシャドー的なポジションでボールを受ける選手は重宝される傾向があるので涼太郎もチャンスがあるかなと思いましたが、総合的には難しかったんでしょう。

僕は個人的に、「プロ選手として大成するには決めなければいけないゴールがある」と信じているのですが、残念ながら彼はそれを決めることが出来なかったかもしれません。思いつく最大のチャンスは昨年の第6節ホーム柏レイソル戦で、オルンガのゴールラッシュを食らってレッズが完全に沈黙してしまった試合ですが、後半途中から出てきた涼太郎がバイタルエリアに陣取ると山中からの縦パスをヒールで興梠にフリック、浮き球で返ってきたボールをボレーしたものの中村航輔のセーブにあってしまったというシーン。あれを決めていれば涼太郎の浦和でのサッカー人生が変わったんじゃないかと未だに思ってしまいますが、もしこれから涼太郎に「そういうシーン」が訪れるなら、次こそは必ずそれをモノにして這い上がってきてほしいと思います。間受けからのターンをビシバシに決めてからのドリブル、いつ見ていたのかわからないタイミングで出せるサイドへの展開、振りが小さく予備動作の少ないシュートと「漫画ですか?」と言いたくなるようなロマン溢れるプレーと「何か一発やってくれそう」感で全てのサッカーファンを魅了できる能力があるはずなので、新天地ではある意味でリラックスして、伸び伸びとえぐいプレーを連発して欲しいです。頑張って。

14 FW 杉本健勇

f:id:reds96:20211226114205p:plain

今季当初は興梠のコンディション不安もあってFWのファーストチョイスとして稼働。シーズン当初のビルドアップが安定しなかったチームにおいて浮き球のキープ力は緊急脱出の手段として非常に役立っていました。ただ重用されていた2月、3月のリーグ戦6試合で1得点と成績が伸びず、キャスパーが加入してからは一気にベンチ要員に降格。第8節の清水エスパルス戦でのセンセーショナルなゴールやルヴァンカップ横浜FC戦の2得点で存在感を増していくかと思われましたがその後はまとまった出場機会を確保できず、まさかのマリノスへのレンタル移籍となりました。

成績面を改めてみても出場試合数のわりにプレータイムが伸びておらず、その傾向はマリノスでも変わらないため「90分プレーするための移籍」という言葉を聞いても虚しさが募る感は否めず、これだったらレッズで頑張っても良かったんじゃないの?と思ってしまうところ。ただ本人の立場に立って考えると浦和に移籍して以来なかなかまとまった活躍が出来ていないし、どうしても水が合わない感じがしたのかもな、とも思います。浦和には彼が調子を掴むまで待っている暇はないし、そもそも契約期間の稼働と活躍具合を考えればすでに十分時間を与えていたわけで、本人がそういう感じならクラブとしても置いておいても仕方がないという考えもあったかも。クラブとしても興梠ら中心選手たちとしても健勇に爆発してもらって浦和のこれからを任せたいという期待があったはずなので、お互いにもどかしい感じがあったかもしれません。

来季浦和に残るかどうかは全く不明ですが磐田がレンタルでのオファーを提示したとのこと。浦和も木下がああいう感じなので仕事ができる日本人FWは確保しておきたいはずですが、今季途中でのマリノスへのレンタル移籍は「浦和を背負う責任」をキーワードに掲げるクラブとしては看過できなさそう。どのクラブであれプロファイルの良さとポテンシャルに見合う活躍が出来るといいんですが、今季開幕戦でも勢いに乗れそうな素晴らしいゴールにオフサイドがついたり、なんか風水的な何がかよくない気がするので、玄関の位置を変える、改名する、10万円の壺を南向きに置くなどの解決策をお勧めします。

15 MF 明本 考浩

f:id:reds96:20211226010456p:plain

もう最高です。昨季のJ2リーグで最も好きだった選手が浦和に加入し、さらにシーズンを通じて素晴らしい活躍をしてくれました。今季は公式戦47試合に出場し、昨季ルーキーながらエースとして大活躍した栃木での公式戦出場試合数を更新。リーグに限っては33試合2,581分のプレーで堂々のチーム3位。上には岩波と西川しかないので、定量的に言えば今季新加入選手の中で最もチームに貢献したと言っても過言ではないと思います。

リカルドのサッカーに合う特徴を持っている個人昇格選手の活躍が注目された今季ですが、明本の特徴はあきらかに小泉や平野とは違います。どちらかといえば昨季の浦和のサッカー、大槻監督の目指したネオ「速く、激しく、外連味なく」に近い特徴を持っており、ピッチ上の国道4号線を爆走しまくる無尽蔵のスタミナとバリ高いインテンシティ、何度倒れても関係なくプレーを続けてくれるガッツの申し子のような選手で、ビルドアップでの振る舞いで複雑なことが出来たりユニークなスキルを持っているわけではありません。こういうタイプをリカルドがどのくらい使うのだろう?という疑問もあったのですが、現実には上記の通りリカルドは明本を重用し、トップ、左SH、そして左SBの3つのポジションで起用されました。こうした複数ポジションでプレーできたことが彼のプレータイムをここまで押し上げた要因なんでしょうね。

で、基本的に彼が今季こなしていた役割ですが、トップもしくはSHであれば無限裏抜け作戦の決行とボールを奪われた際の強度マックスプレッシングの実行、そして前進されたらすぐに戻っての守備ブロック参加。左SBであればボール保持の度に前線まで上がってSHと連携してのサイド攻略とボールを奪われた際の強度マックスプレッシングの実行、そして前進されたらすぐに戻っての守備ブロック参加。…ほぼ同じことしかしていない!そう、別に器用な選手ではないのです。だがそれがいい。チームにエナジーを与えてくれる選手は大事です。酒井とともに両サイドにゴリゴリできる選手がいたことは非常に重要で、彼らがいなければ今季の浦和は肝心なところで戦いきれずに神経質にボールをこねるばかりのチームと言われていたかもしれません。

一方で来季は左SBに同じく球際で闘える上にモダンなサッカーへの相性も良い鳥栖の大畑が加入し、前目のポジションで勝負することができそう、というかそれを期待しています。どこがスタートポジションでも彼の良さは変わりませんが、無限裏抜けは今季のチームでは明本だけができるプレーでしたから、硬直しがち(江坂のレビューで後述)な前線を来季もバチクソに活性化して欲しいところ。アジアの舞台でのフィジカルバトル要員としても期待されることでしょうし、要するに来季も今季のパフォーマンスの継続が求められます。ただ逆に言えば彼の伸びしろはどこなの?というのが問題で、来季はそれが何なのかを探すシーズンになりそう。前線で使われるなら得点でしょうし、左SBであればクロスからのアシストなど、選手としての格を上げていくには各ポジションで求められる数字の面にもこだわっていきたいところです。ただもしかすると、槙野や宇賀神の後を継いでチームのムードメーカーとしてチームの雰囲気を作っていくことが最も重要かもしれません。

16 FW 木下 康介

f:id:reds96:20211226012038p:plain

夏加入の大型逆輸入FWということでロマンは無限大でしたが最終兵器は最終兵器のままシーズン終了。リーグ戦2試合17分の出場で何かを語るべきかどうかと思いますが、海外でのプレー、浦和でのプレーを観た感じ、そして育成年代では何も考えずに好き放題プレーしていたと本人が語っていたの踏まえても、日本のトップレベルでプレーする準備はできていなかった印象です。

生き残る道があるとすれば役割に徹する形でキャスパーがあまりやらないサイドに流れての起点作りにこだわることかなと思いますが、機動力があるようにも思えず難しそう。190cmの高さは魅力ですが、個人的にはレンタル移籍等も含めて出場機会を確保しコンディションを上げるとともに武器となるプレーを見つけていく作業が必要な気がします。リーグ最終節のMDPでは「戦うための身体づくりをしている」という趣旨のコメントを残しており、もしかしたらコンディション的に万全じゃなかった可能性もあるので、来季いきなり真の姿に覚醒して突如ハーランド化してくれてもいいです。

17 MF 伊藤 敦樹

f:id:reds96:20211226012415p:plain

今季公式戦53試合に出場で3ゴール、特にリーグでは36試合2,265分間のプレーと圧巻のデビュー。数字だけでなくプレー内容を見てもとてもルーキーとは思えず、当チラ裏では伊藤選手を実務経験7年目相当と認定し表彰致します。

特に素晴らしかったのは攻守におけるボール周辺のプレーの質の高さで、182cm78kgの恵体で球際のフィジカルバトルに勝利し、オンザボールでは質の高すぎる足元の基礎技術を活かして相手の出方を見ながら前進し的確にパスを繋ぐなど、もはや出し得状態。浦和JY時代から大学までのキャリアの中でトップ下→ボランチ→CBとポジションを下げながらピッチ中央あらゆる高さでのプレーを経験してきたこともCHとしてのプレーに落ち着きと質をもたらしているようで、必ずしも芽が出ていたとは言い難かった育成年代時代の苦労がプロデビュー後に報われるという美しい成長曲線を辿っているようにも思います。

チームのビルドアップが整理されたシーズン半ばには本来もっと前に人数を掛けられたにも関わらず必要以上に後ろに残ってしまう微妙なポジショニングが目立ち始め、盤面把握と立ち位置の取り方は前でも後ろでもプレーできる彼の良さを最大限発揮するには大きな課題になってしまうかなと感じることもありましたが、終盤戦にかけては徐々に前に出てビルドアップの出口兼チャンスメーカーとなる半トップ下ロールへのチャレンジを見せてくれるようになるなど、課題克服能力も高そうな感じ。また今季これだけの活躍をしてなお最適なポジションが未だ見つかっていない感すらあり、CB起用を期待する声もある様子。たしかに流経大3年・4年時にCBとしてプレーしていたことや、この敦樹を差し置いて流経大のCHに君臨していた安居海渡の来季加入もあるため可能性は0ではありませんが、個人的にはCHもしくはIHでなんでもやらせて体格・技術・戦術眼を兼ね備えたリーグ最強のミッドフィールダーとして大成してほしいところです。

これだけのスケールの能力を23歳の若さで見せているだけに当然海外のスカウティング網にも既に捕捉されており、海外記事では注目の若手としてスタッツが紹介されるなど現スカッドでは近い将来の海外移籍の可能性が最も高い選手の一人でしょう。とはいえ少なくともあと2年くらいは浦和レッズで、彼のぷにぷにのほっぺに詰まったポテンシャルとロマンを堪能させて頂きたく、多少なら痩せてもいいけど頼むから怪我だけはしないでください。

18 MF 小泉 佳穂

f:id:reds96:20211226013148p:plain

僕はJ1クラブのサポーターとしてはそこそこJ2もチェックしている方だと思うのですが、この選手は完全にノーマークでした。

大きくない、足も速くない、しかしまさかの完全両利きかつ鬼のボールキープ力。相手に体をぶつけられるのと同時にボールを自分が飛ばされる方向に逃がしてコントロールし、深追いしてくればターンで外す。プレー方向は360度で予測不可能、ボールが奪えないでいると浦和の選手がポジションを整えてプレスがかからない…。逆脚精度が高いだけでなく両足を使うための身体操作が左右遜色なく出来ているのが彼のスペシャルな特徴で、右回りのターンも左回りのターンも普通に出来てしまうのはちょっと異常です。利き手利き足があるように体を回しやすい向きもあるでしょ、普通。そして前を向けば元祖切替し(しかもどちらの脚でも切り返しが深い!)で相手を外し、パンチ力のあるミドルも両脚で撃てる。さすがにボール非保持では役に立たないかと思いきや攻守の切り替え意識が抜群に高く、パスコースを切りながらのプレスも上手い。極めつけは攻守に走り続け、球際バトルは大歓迎という心と身体のインテンシティ。何個特殊能力ついてんの?その特殊能力どのイベントでついたん?教えてくれ。お前のサクセスストーリーは俺のやつと違いすぎる。というわけで、リカルドサッカーへの高すぎる適正を開幕から示し、一気にこのチームの「論点」となったシーズン序盤はまさに衝撃的な印象を与えてくれました。

シーズンを通しても大きな離脱をせずにJ1初挑戦にして公式戦47試合出場、リーグ戦は34試合、チーム4位の2,408分のプレーで「J1の強度でやれるんか」論を一蹴し、本当に立派なパフォーマンスだった今季なのですが、これだけできるとさらに多くを求めてしまうのがサポーターの、いや人間の性。あえて課題を出すとすれば試合を決定づけるプレーの部分で、トップ下を中心として2,000分以上リーグに出場して2ゴール5アシストは優勝を目指すチームの中盤前目の選手としては不足しています。もちろん彼のトップ下やIHとしての仕事はビルドアップの逃げ場として3列目に降りていく役割も大きく、ボールが来るのを待って決定的なシーンを作るのが仕事という伝統的なタイプのトップ下とは全く違うのですが、彼が今後補強を重ねていくであろうチームで生き残っていくためには、自分で試合を決めていくという野心めいたプレーがもっと必要になると思います。シーズン中の疲労と相まってこの部分がフォーカスされた中盤戦~終盤戦の時期は小泉自身ある種の壁を感じていたかもしれません。

というのはおそらく、そうしなければ彼が守備的な使われ方をする選手になってしまうのではないかと思うからで、実際に今季終盤のリカルドは彼の良さを主にディフェンスに活かしていました。たしかにボールキープの上手さも攻守の切り替えの早さもプレッシングの上手さも自分たちに優位な形でゲームを安定させるのに非常に助かるポイントで、監督の立場からすれば、勝利を目前にしてオープンな展開にならないようにゲームを落ち着かせたいところで彼を投入したくなる気持ちはよくわかります。それが上手にできる選手がいるかいないかはチームにとって大違いで、それが序盤の衝撃そのものなのですが、こうした良さを監督に便利に使われてしまえば、彼ほどの選手が守備固め要員に成り下がってしまうかもしれません。つまり、そうならないためには彼が試合を決めていく、チームに不可欠な選手なんだと見せつける必要があるはずで、こういった考えから僕は彼がこのチームの主人公にならなければいけないと思っています。

インタビューを読んでいても自分に厳しく謙虚に思考を積み上げていくタイプのようですが、謙虚な思考と現実的な思考は別物なので、「現実的に」自分がチームを勝たせなければいけないという思考、そういった決意と野心から出てくるプレーが来季はもっと見たいです。今季我々に衝撃を与えてくれた彼の元々の良さに加えて、リスクをとってでも前に、ゴールにプレーする主人公の姿に期待してます。

19 MF 金子 大毅

f:id:reds96:20211226013529p:plain

個人的には明本と同じくらい期待していたのですが、ふたを開けてみれば公式戦19試合の出場に留まり、リーグ戦ではたった447分のプレーと相当悔しいシーズンになってしまいました。僕としてもこの結果はかなり残念でしたが、一方で思ったよりもリカルドのサッカーに染まれなかった、染まらなかったなという印象もあり、相性というか考え方の部分で馴染み切らないところがあったのかも、と思います。せめて出場機会がそれなりに確保できれば違ったと思うのですが、シーズン中盤からは柴戸がリカルドのサッカーにフィットしたことで苦しい立場に追い込まれてしまったかも。タイプが似ているので被るのではないかと心配されていた柴戸と金子ですが、結果論で言えばリカルドの求めるサッカー、自分の良さと必ずしも一致しないサッカーを求められたとしてもそれに染まってやり切ることが出来るかどうかがその後を分けたということもできるかもしれません。

2018年にはじめて観たときから彼のプレーが大好きだった僕としては彼のトランジション耐性、具体的に言えば局面が攻から守に局面が移った瞬間に強度高くボールに寄せられるところ、そしてボールを奪ってから自ら攻撃に転じることが出来るところにすごく期待していて、さらに大学を中退し20歳でプロデビューしていることからキャリアと印象に比べて若い選手というのが最大の魅力と思っていました。2018年のルヴァンカップ決勝で見せたような強度の高い展開への耐性に加えて、リカルドからボール保持時の振る舞いをじっくり学ぶことでパーフェクトに近いCHになれるのではないかと期待していたのですが、もしかしたら本人にはそんなに悠長にやっているつもりはなくて、試合に出られないくらいならもっとダイレクトなサッカーの中で自分の良さを活かしていくほうがイメージしやすのかもな、と思います。そういう意味では監督が大槻さんのままだった方が活躍したかもしれませんし、京都で恩師であるチョウキジェ監督の下プレーしようと思うのは自然かなとも思います。できればレンタルで浦和に籍を残してほしいんですが、難しいですかね。京都に移籍して1年、2年キャリアと経験を積んで、レベルアップした後に鹿島とか行かれるのが最悪なんですが、なんとか今から阻止できないでしょうか。なんなら海外に行ってもらってもいいんですけど。そのあたりだけ、よろしくお願いします。

と思っていたらレンタル移籍での京都加入が発表されてました。ナイス。必ず戻ってきてくれ。

20 DF トーマス・デン

f:id:reds96:20211226014036p:plain

怪我に泣かされることになってしまった今シーズン、出場は9試合のみ、リーグではたった2試合157分の出場と完全に不本意なシーズンでした。ただ自身にとって最大のテーマであった東京オリンピックにはオーストラリアU24チームのキャプテンとしてグループステージ全3試合に先発し、初戦アルゼンチン戦の金星に貢献しMOMを獲得。残念ながらグループステージ突破はなりませんでしたが、この大会に出場出来なければ何のために日本にチャレンジしに来たのか、となってしまうところでしたからその点はよかったのかなと思います。

CBとしてはスピードとカバーリングが持ち味でビルドアップにも問題なく関わることが出来る選手で岩波とはタイプが逆の存在ということで待望論もありましたが、グロインペインの影響でコンディションが整わず、母国メディアへのインタビューでは怪我への対処についてレッズのメディカルチームとの意見の対立があったことを明かしており、今季は出場機会を得られなかった以上に苦しい状況だったのかもしれません。昨年から出場したときのパフォーマンスは悪くなく期待も十分にされていたと思いますが、なかなか連続稼働が出来なかったことが大きかったか契約満了に。

満足のいく治療が出来ないままでの満了宣告ということでかなりショックだったようですが、一方で日本でのプレーを希望しているとのこと。良い選手なのでそれに見合うキャリアを歩んでほしいのですが、一方で脚が長すぎて日本人選手の細かいアジリティについていきずらそうなところもあり、本当にJリーグと相性が良いのかなと思う部分も。個人的にははやめに欧州挑戦した方がいいのでは、と思わなくもありませんが、これからも頑張って。

21 MF 大久保 智明

f:id:reds96:20211226014307p:plain

中央大学3年次に加入が内定し同時に特別指定、昨年も継続し特別指定に登録されていたため一応3年目。とはいえ過去2年は怪我やなんやかんやでほとんど合流していなかったので実質というか普通のルーキーシーズンとなった今季だったのですが、公式戦27試合に出場とまずまず。ただし先発は11試合、リーグ戦のプレータイムは725分で1ゴール0アシストと、10ゴールを目標にぶち上げていた本人にとっては物足りなかったことでしょう。

大学時代は左利きの右WGとして暴れていたこともあり関根と右サイドを争うのかなと思いきや、リカルドは左サイドで重用。例えば最近の統計データをベースにした戦術議論ではゴールポスト脇までサイドの選手が侵入してからのマイナスのクロスでシュートを狙う形のゴール期待値が高く、一つの狙いにしたいために順脚のアタッカーを置くべきという考え方があるなど、いろいろと理由はあるのでしょうが、もう少し右サイドで思うままにプレーさせてみてほしかったなとも思います。主にロマン的な意味で。

彼のプレーの功罪というか特徴は天皇杯決勝の最後の時間帯によく表れていて、守備時のボールへの寄せややりきる部分は甘いものの、前向きにプレー出来さえすれば果敢に仕掛けてFKやCKを獲得してくれるといった感じ。序盤から中盤にかけては緊張や遠慮もあったのかおっかなびっくり仕掛けていく感じがありましたが、終盤、特に初ゴールを獲ってからは相手に向かっていくプレーに自信が出てきたのかなという印象でした。川崎戦での0-5負けなど悔しい記憶が多かったシーズンだとは思いますが、ポテンシャルは大きく、特に36節の横浜FM戦など相手のSBが上がった背中を使って高いラインのCBに仕掛けていくという戦術的に求められた役割と彼の良さがマッチしたゲームでは良いプレーが出来ていたと思います。終盤になるにつれて無駄な動きも少なくなって攻守に頑張りが発揮できるようにもなっていました。

期待感は大きいものの、一方で来季は水戸のエースで大久保と同じく左利きの右WG松崎快の加入が決定的となっており、外国人選手の補強の有無や関根が左右どちらのサイドでプレーするかにもよりますがサイドの選手は全般的に仕掛けだけでなくゴールへの貢献を強く求められ、競争も激しくなりそう。いろいろなタイプの選手と競争することになるはずなので、左利きにプラスして彼だけの特性・特徴をアピールできるかが問われそうです。

 

まだまだ続く!

(下)はこちら

www.urawareds96.com