96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

浦和レッズの「3年計画」およびフットボール本部とガチ対話する【時系列編】

3    【時系列編】

 「3年計画」について考えるにあたって、この3年間で何が起きたかをまずは確認していきます。記憶を掘り起こしながらなので濃淡は出てしまうと思いますが、なるべく丁寧にこの3年間のストーリーを追っていきましょう。

3.1    2019年オフ~2020年シーズン

フットボール本部の誕生

それでは、私の方から経緯についてご説明させていただきます。私は2年前のシーズンに副社長として浦和レッズに参りました。その際、4月に新しい強化本部というものの体制を構築して、副社長という立場で強化本部長を拝命いたしました。それ以降、今年からは代表になりましたけれども、クラブの一番大事な根幹である強化のところをずっと見てきた、という経緯がございます。そういった意味でも、責任をずっと感じて仕事をしてきたわけですが、代表といたしまして、これから浦和レッズを本当に強い、私が2年前に来たときに最大の目標として掲げたFIFAクラブワールドカップの優勝というものにチャレンジしていく、そういった強化の体制というものを考えたときに、今回、今までにない新しい発想で、新しいことをやっていける、そういったメンバーを集めることにしました。

(中略)

一番大事なのは、これまでのいろいろな歴史を踏まえて、我々ができなかったことを自覚して、それをどういうふうに実現していくんだ、というところを具体的にお示しすることだと思っています。それをこの何日間、何週間、もっと言いますと私自身はこの夏ぐらいから、来シーズンに向けた浦和レッズの新しい体制、そういったものを考えてまいりました。それは私だけではなく、浦和レッズの幹部が全員集まって議論をして、浦和レッズのサッカーってなんなんだ、ファン・サポーターのみなさまが求めているものはなんなんだ、どうやって実現するんだ、そういったことを考えてまいりました。それを実現していくのが、私の仕事です。

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 2019年12月12日、2020シーズン新体制発表記者会見での立花社長の言葉です。2008年のフィンケ氏招集以来、育成、継続性、そして「レッズスタイル」へのコンプレックスに苦しんできた浦和レッズの迷走のストーリーについては以前まとめましたが、いわばこれは、そうした歴史への現体制からの、クラブの迷走を最も知る人たちからのアンサーでした。

 ここから、浦和レッズのフットボール本部体制が始まりました。フットボール本部はトップチーム、レディースチーム、アカデミーまでの各カテゴリーを全て所管し、その中でもSDとTDはトップチームの強化を専門に扱う役職という建付けです。これまでは社長直下に強化部長(GM)を置く体制を取ってきた浦和レッズにとって、経営から分離したトップチーム強化専任担当を置くこの体制は全く新しいチャレンジでした。ここで最も強調されたのは、土田SDの言うところの「浦和レッズの抱える課題」への挑戦、「一貫したコンセプト」を持った強化です。

土田SD

「これからトップチームの方針を話す前に、浦和レッズの課題を話したいと思います。この現実を直視することが、まず我々に求められていると思います。我々が抱えている課題は、一貫したコンセプトの不在です。そのチームの柱となるべき一貫したコンセプトがないため、監督選び、選手選びの基準、サッカーのスタイルがその都度変わり、短期的な結果を求め、求められ、今まで来ました。『浦和レッズのサッカーは何なの?』と問われたとき、答えられない自分がいました。これからはチームの方向性を定めて、来シーズンからスタートすることが最も重要だと考えています。

この「一貫したコンセプト」の肝として謳われたのが、かの有名な「浦和の責任(浦和を背負う責任)」でした。これが一体何なのかはこの時点では曖昧であったものの、とにかく形としてはキーコンセプトの元にトップチームを一貫して強化していくという枠組みが示されました。そして同時にここから3年でJリーグ優勝を狙う、「3年計画」も併せて披露されました。

来季から、3年の計画をつくりました。基礎づくり、変革にはある程度の時間が必要となります。一方で、常に結果を求められるクラブであることも理解しております。しかしここで目先の勝利だけを追い求めると、今までと同じことの繰り返しとなります。ですので2020年は3年改革の1年目として、変革元年としました。キーコンセプト、チームコンセプトを浸透させながら、ACLの出場、シーズン終了後、得失点差プラス2桁以上が目標となります。

(出典同上)

 一方で、この新体制への船出が大きく歓迎されたとは言い難いのも事実でした。土田SDが示した「キーコンセプト」と3つの「チームコンセプト」、すなわち『個の能力を最大限に発揮する』、『前向き、積極的、情熱的なプレーをすること』、『攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること』への共感がどの程度あったかは別として、大きくは監督人事の問題でしょう。フットボール本部は、2020年シーズンの監督として前年途中から指揮を執っていた大槻監督の続投を示しました。一方で大槻監督は前年14位でのJ1残留を実現したもののサッカー的には大きな見どころがなく、基本的には前任のオリヴェイラ氏のフォーメーションを引き継ぎ、モチベーターとして戦うタイプの監督に思われました。しかも浦和での2度にわたる「暫定監督」以外はトップレベルでの監督経験がなかったので、ファン・サポーターとしては内容面への期待ができないことや経験不足を理由に、「優勝を狙うのにこの監督でいいの?」というリアクションになっていたのだと思います。こうした背景から、フットボール本部体制そのものや「3年計画」の是非は、とにかく結果が出るかどうかを重視して様子見する、といった受け入れ方をされていました。

 さらに輪をかけて期待感を削いだのがこのオフの編成オペレーションの物足りなさでした。新加入は新潟から完全移籍で獲得したFWレオナルドと能力不明のオーストラリアU-23代表トーマス・デン、伊藤涼太郎のレンタルバック、高卒で獲得した武田英寿のみ。毎年5人~10人の選手を獲得してきた浦和レッズの新加入選手会見にはレオナルドと涼太郎しか参加せず見たことがないほどスカスカで、取材する方も取材を受ける方も微妙な空気感だったのが印象的でした。これは新体制発表会見で示されたとおり既存の選手のほとんどが複数年契約を結んでおり、出せる選手がいないので新しい選手が獲れないという制約からきたものでしたが、新しい体制の船出としてはかなり寂しいものでした。

新しいレッズの戦い方と不自由な編成

 とはいえ、大槻監督はキャンプを経て、前年とは全く違ったチームおよび戦い方を構築していきます。土田SDの示したコンセプトに『攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること』とあった通り、4-4-2をベースにしたプレッシングおよびゾーンディフェンスの導入がその根幹で、さらに大槻監督は「主体的にプレーすること」をキーワードとして強調し、チームカラーの大きな転換を図りました。浦和はこれまで伝統的に3バックで戦うことが多く、特に5年半に及んだミシャ体制では一貫して3-4-2-1をベースにしたボール非保持時5-4-1の撤退守備を敷いていました。ミシャのサッカーの実現を最優先しミシャのリクエストに応えるばかりか、獲得選手の選定から交渉までミシャに頼っていた2017年までの浦和レッズは、当然ミシャの戦術に合う選手を獲得していました。その後堀監督によって4バックが一時導入されるも主力選手には大きな変化がなく、大槻監督の前任で鹿島では4バックベースで3連覇を達成したオリヴェイラをもってしても、選手に適性がないということで4バックの導入を諦め3バック(5バック)ベースでチームを構築することを選んだほどでした。こういった背景がある中での大槻監督による4-4-2ベースのプレッシングの導入はかなり新鮮でしたし、実際に2020シーズン開幕戦のルヴァンカップ仙台戦はプレッシングを積極的に仕掛け5-2で大勝。リーグ開幕戦の湘南戦も課題を露呈しつつも3-2で勝利を掴み、なかなかの滑り出しで「3年計画」をスタートさせました。ただ残念ながら、コロナ禍による緊急事態宣言・それを受けたJリーグの4か月間にわたる中断によって良い流れで試合を続けられないどころか、選手たちが集まってトレーニングを行うことすらできないような状況が訪れてしまいます。

 この期間にトレーニングを積んでプレッシングやビルドアップの連携を高められたらよかったのですが、大槻レッズにとってはむしろコンディション調整が難しい期間という側面が大きかったかもしれません。またこの中断によって夏場以降のスケジュールが詰まってしまい、連戦が増えたことでプレッシングをかけて試合を支配するという作戦を続けていくハードルも高まりました。第4節のホーム鹿島戦に1-0で勝利したまではよかった大槻レッズですが、続く第5節アウェーFC東京戦は先制点を許してしまったことでボールを握らされてしまい、注文度通りカウンターから失点し0-2敗戦。続くホーム柏戦でもクロスから先制点を許した後カウンターから崩れる形で0-4敗戦。この柏戦はピッチ上で声を掛け合う姿すらなく、戦術的に新しいチームとなり選手起用もミシャ時代からは変わったものの、リーダー不在で苦しい時間を耐えきれないチーム、といった感じでした。

 その流れが変わったのが続く第7節アウェー横浜FC戦で、ここで大槻監督はこのシーズン初めて槙野を先発起用。この試合でチームを鼓舞しつつ安定したパフォーマンスを見せた槙野は、その後の試合でもスタメン・レギュラーとして起用されるようになっていきます。槙野に関しては当初、4バックへの慣れやビルドアップ面での物足りなさから世代交代を意識する論調が強く、大槻監督もそういった意味でトーマス・デンや鈴木大輔、岩波に期待して彼らのプレータイムを伸ばしていきたいという思惑があったはずです。一方で、個人的にはこの経緯は彼の経験や守備者・ピッチ上のリーダーとしての振る舞いがチームに与える影響が戦術的な要素を上回った事例として印象深いものがありました。
 シーズン中盤にかけての浦和は爆発的に良いゲームができたわけではなかったですが、「3年計画」の初年度としてはそこそこのパフォーマンスを披露。ターンオーバーを試みたアウェー名古屋戦でCBの強度が足りずに2-6の大敗を喫するという謎の大事故がありましたが、1週間後のホーム広島戦ではPKで先制後80分間近くを5バックで守り切る振り切った戦い方で勝ち点3をゲットするなど、選手への負荷は大きかったもののなんとか踏ん張る戦いを続けていました。17節の川崎戦で0-3の敗戦をする直前の時点で16試合で勝ち点27の5位は初年度としては立派な成績でしたが、得失点差が-4であったことはゲームの内容が伴っていないにも関わらず勝ち点を得ていたという意味で歪だったとも言えるかもしれません。

 このシーズンの中盤でポイントになったのは第19節の横浜FC戦・第20節のFC東京戦、第21節の名古屋戦のホーム3連戦で、特に横浜FC戦では前半ボールを持たされたことに対して、このシーズン初めて大槻監督が柏木陽介をボランチ起用した後半が印象的でした(前半は右SH起用)。それまでの柏木はかたくなに右SHで起用されており、おそらくこれはプレッシングに出た際のカバーエリアの狭さや単純なスピード・インテンシティといった明確な弱点が大槻監督の目指す戦い方にフィットしていなかったことが主な理由だったと思われます。ところが露骨に「浦和にはボールを持たせておけばOK」という戦い方を選ぶチームが増えてきたことや、川崎戦に敗戦して以降中位に順位を落としたことで目標のACL圏から遠ざかる危機感もあったのか大槻監督がこの試合でついにボランチ柏木に手を付けたのでした。結果、これまで四苦八苦しながら取り組んできた、「正しい立ち位置を取る」とか「最終ラインからボールを運んでいく」とかそういった試みを全てぶっ壊し、彼のスペシャルな展開力・構成力に依存した柏木陽介のサッカーが展開され、結果的にボール保持の内容が大幅に改善するという、彼のあまりの影響・引力の大きさに僕は発狂したのでした。

 続くFC東京戦も同じような展開でゲームを落とし、名古屋戦はPKの判定に泣きビハインドを盛り返せないまま3連敗。続く鳥栖戦でマルティノス⇒汰木のスーパーカウンターが決まり勝利してからは良い流れだったので、この3連戦で勝ち点0に終わったのはかなり痛かったと思います。また、ここまで我慢して取り組んできた新しい浦和のサッカーが柏木陽介のCH起用一発でひっくり返った印象を与えたのもチーム作りを考える点では非常に興味深い出来事でした。

 その後27節にマリノスにまたも2-6大敗してしまいますが、それまでは-7あった得失点差を0に戻すなど上向きな試合を続けていました。ただ結果的にマリノス戦の大敗で目標としていたACL圏内・得失点差+10以上という定量目標が両方とも達成困難になってしまい、その後は選手のモチベーションを維持できずにプレッシングのキレがなくなり、対して強くもないブロック守備で相手の攻撃を受けてしまう展開となり、内容体に見せるものがほとんどない形で最後の5試合を1分け4敗。最終的な結果は勝ち点46の10位で得失点差は-13。フットボール本部が掲げた目標からは非常に遠い結果で「3年計画」の初年度を終えました。

最後の5試合はどうしてもシーズンの印象に強く影響してしまうので、この5試合の虚無感は大槻体制を評価する上では厳しいものになってしまいました。選手側としてもかなりキツい思いをして戦ったシーズンになったでしょうし、いくらフットボール本部のゲームモデルに近くとも、この戦い方でシーズンを戦い抜くのは厳しいという印象となってしまったことはシーズンを通した評価としても必然なのかもれません。

3.2    2020年オフ~2021年シーズン

理想的ではなかったバトンと政権交代

 そうした中で、フットボール本部は大槻監督の後任としてリカルド・ロドリゲスを招聘します。ただ実際には、一部報道に上がったように大槻⇒チョウキジェ氏のバトンタッチを当初から計画していたと思われます。ボール保持の局面にこだわらず、アグレッシブにボールを追いかけ、ダイナミックなプレーで見るものに訴える志向のサッカーこそ「ネオ・速く激しく外連味なく」のイメージに近いと考えるのが自然です。クラブ(土田SD)が理想と描くスタイルにマッチするサッカー観とそれを実現した実績を持ち、浦和レッズとも縁があるチョウ氏招聘をして3年計画を推進するというのが土田SDの青写真ではなかったかと思います。

 一方で、コンプライアンス上の問題があって(もしかすると、クラブそのものよりもスポンサーからのヘジテーションがあったのかもしれませんが)チョウ氏を招聘できなくなかったとすると、次点の候補があまり揃っていなかった可能性があります。あまりにもチョウ氏が完璧な候補だったために、次点の候補の選定が難しかったということかもしれませんし、このような事態を全く想定していなかったのかもしれません。そのような状況で、土田SDが休職状態にあったのも3年計画の方向性に大きな影響を与えたのではないかと思います。大槻監督の後継としてチョウ氏への監督打診が報道されたのは2020年11月初旬(4日)でしたが、その直後にクラブ外部(スポンサー企業等)からの懸念やある種の圧力を受けてチョウ氏から次点候補への鞍替えの意思決定をせざるを得なかったとすると、クラブが土田SDの休養を発表した11月20日という時系列はあまりにも示唆的です。整理すると、考えていた最高の候補者を招聘できなくなったその時には既に土田SDは職務を遂行できる状況になく、更に次点の候補者は不在か決め手なしという状況で、戸苅本部長と西野TDによって後任の選定が行われた可能性があります。もしくは、このポイントを転換点として土田SDとも合意の上でフットボール本部の意思決定を(一時的にでも)西野TD中心に進めていくという応急処置が行われたか。ここで無視できないのが、リカルドが退任時に話した「土田SDと西野TDのサッカー観に違いがある」という言葉です。

 土田SDが「ネオ・速く激しく外連味なく」を浦和のサッカーと定義する一方で、西野TDはもう少しモダンな(流行りの)ポジショナルプレー的アプローチに魅力を感じていたのかもしれません。近年のイングランドプレミアリーグの2強と言えるマンチェスター・シティとリバプールのサッカーが、真逆とも言える出発点からビルドアップとプレッシング、遅い展開と早い展開を使い分けるように収斂していったように、結局はプレッシングだけで90分を戦い抜くことはできないのだから、2020シーズンの課題であったビルドアップ関連の部分を構築できる監督の優先度を上げてみようという判断があったような気がします。つまり「ネオ・速く激しく外連味なく」を純粋にプレッシング+カウンター特化のスタイルとして解釈するか(土田流)、プレッシングだけでなくビルドアップも兼ね備えた万能型のチームを構築する中で「速く激しく」の部分を強調していくか(西野流)の違いと言えるかもしれません。実際に、ここで「西野流」と名付けた考え方はリカルド招聘時のリリースで明確に打ち出されています(コメント自体は戸苅本部長のものですが、リカルドのコメントを踏まえても、その後の発信量からしても西野TDが主導した、もしくは深く関わった考えであったと考えても大きな問題ではないと思います。)

【戸苅 淳フットボール本部本部長コメント】
「2020年の課題と、2022のリーグ優勝を視野に、監督の選定を行いました。2020年に掲げた『即時奪回』『最短距離でゴールを目指す』サッカーに、常に『主導権』を持ち、より『攻撃的』で、ハイブリッドなサッカースタイル(カウンタースタイルとポゼッションスタイル)を実現することを目的に、リカルド ロドリゲス監督を招聘することにしました。チームの成長とともに、選手の成長、チームスタッフの成長、クラブの成長、そして、監督自身の成長を、クラブ主導で、監督の力を借りて実現していきます」

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 ここにある「ハイブリッドなサッカースタイル(カウンタースタイルとポゼッションスタイル)を実現する」の文言はかなり象徴的です。「3年計画」立ち上げ時に土田SDが自ら「攻撃はとにかくスピード」と言い切ったものを、ポゼッションへの取り組みを以て塗り替えるものです。個人的には、こうした意思決定が行われた2020年11月初旬~下旬の3週間ほどの間に、フットボール本部は実質的に(そして一時期的に)静かなる政権交代をしていたのではないかと理解しています。

 こうした「政権交代」の直後から、クラブは2019年オフに実行できなかった大幅なスカッド改造を実施していきます。

ねじれる編成

 主な放出はマルティノス、エヴェルトン(レンタル終了)、岩武、鈴木、武富、長澤、青木、橋岡(レンタル放出)。さらにレオナルドが2月に中国からの高額オファーを受けて移籍、さらには柏木の電撃退団という事件もありました。若手では荻原のレンタル移籍に加え、石井、池高、大城のユース組も引き続きスカッドには加えないという判断。主力級だった選手を多く放出した一方で補強も大きく動き、金子、小泉、田中達也、塩田、明本、西を移籍市場で獲得したことに加え、内定していた大久保が正式加入、流経大からは伊藤敦樹、青森山田から藤原優大、さらにユースから福島竜弥を加えました。

 ここでポイントなのは、どうも選手獲得の路線が統一できていませんね?ということです。例えば明本や金子大毅はプレッシングに重点を置きトランジションが多発するサッカーを志向するのであればわかりやすく良い買い物ですが、リカルドを登用した最大の理由であるポゼッションスタイルとの融合というテーマに合っているとは思えません。田中達也は大分では逆サイドで作った攻撃(クロス)を大外からゴール前へ飛び込んで仕上げるプレーや、縦へのスペースがある中での突破に魅力がある選手でしたが、『状況に応じて適したプレーを繰り出す』サッカーを体現する器用さを持ち合わせてはいませんでした。小泉佳穂は少し難しくて、結果的には最前線のプレッシング要員としてチーム随一のパフォーマンスを出していますが、基本的にはポゼッション寄りの選手。西大伍も走り回るサッカーよりもしっかりと繋ぐサッカーで力を発揮する選手でしょう。

 もちろん目指すスタイルがあったとして、例えばプレッシングをやりたいから10人全員犬走りできる選手を集めようというわけではないと思いますが、どうもプレッシング最優先なのかハイブリッド路線でいくのか、選手獲得の基準が二つあるような、そしてそれらがねじれているような印象を受けます。とはいえこうした違和感の要因を推測するのは難しくて、前述した「政権交代」の時期が11月の下旬までかかっています。11月下旬にはもう現場では選手獲得のオペレーションが始まっているでしょうし、それまでに積み上げた獲得リストから大きく外れた選手補強が出来なかったのではないかいう見方もできれば、実際には「政権交代」はもっと前から予定されていて、もしくは「政権交代」の影響は選手獲得オペレーションにはあまりなくて、単にフットボール本部の積極的な意思としてハイブリッドなスタイルを実現するためにプレッシング寄りとポゼッション寄りの選手を意図的に両方獲得しておいたという見方もできます。この辺りは外側からはわからないので多くのことを言えないのですが、フットボール本部(戸苅・西野体制)の意図は別にしても、リカルドとしては最初からやりにくさやもどかしさがあったと考えるのが自然かなと思います。それを象徴するようなコメントが最後の最後で、2022年最終節に本人から出てきていました。

(今日の引き分けで今シーズン15引き分けとなり、これはサガン鳥栖と並んでリーグ最多だった。負け数は川崎フロンターレと1試合しか差がないが、勝てなかった試合の差で勝ち点差が開いている。どういうところが足りなかったと感じているか?)

「まず、ここまでチームを構築していく時間、プロセスが違うと思います。彼らはそもそもタイトル争いをしていて、そこに至るまでに年月をかけて細部を構築していったチームです。そこが違いだと思います。

選手たちのプロファイルで、チームを一つ構築していく上でどういったスタイルがあるのか、それに合ったプロファイルの選手はどういった選手たちなのか、というところからまずは始めていかないといけませんでした。実際に構築していく中で、いい選手か悪い選手かという話ではなく、適切な選手なのか、そうではないのかというところが非常に大事な点だと思っています。そういった点ではメンバー構成のところでシーズンのはじめに、我々がこのスタイルをやっていく上で適切な選手を見つけていけたのかどうか、今いる選手が悪いと言っているわけでは全くないのですが、そこが果たされていたのか、それに関しては、タイトルを獲る横浜F・マリノスや川崎フロンターレと、我々との差だと思っています。やはり、プロセスが最大の違いなのかなと感じます。

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 リカルドはこう言っていますが、実際のところフットボール本部としてはこれでもそこそこがんばったのかなとも思います。強度高くプレッシングを行い相手から時間を奪いカウンターを繰り出しつつ、マイボールになればゲームを落ち着けてコントロールもできると言えば聞こえが良いですが、「どのこだわりも捨てない」というのは要すれば「予算を用意する」ということです。リカルドが求めていくポジショナルプレーに対応しつつ、ボール非保持では激しくプレッシングに出ていくスタイルを体現できる選手はどう考えてもJリーグでは限られています。筆頭は例えば川崎時代の田中碧や同じく川崎の脇坂といった選手たちでしょうが、そうした選手を引っ張ってくるのは非現実的ですし、しかもコロナ禍で大打撃を受けた経営上の制約もあるわけです。そうした中で、制約から導き出されたのは、おそらくプレッシングかボール保持か、どちらかの能力を期待できる選手をうまく組み合わせようということだったのではないでしょうか。

スペインの風と完成度への焦り

 ともかく、こうして2021シーズンが開幕し、浦和はリカルド・レッズとしてシーズンを戦っていくこととなります。開幕戦となったFC東京戦が象徴的でしたが、前年にあれほど苦労したビルドアップの局面を敦樹や佳穂のボールプレーによって円滑化し、相手陣内まで整理されたプレーで前進していく姿は2020シーズンと比べて目覚ましい進化を予感させました。加えて、2021年4月1日に獲得を発表したキャスパー・ユンカーが26日に合流すると爆発的なスピードと決定力で得点を量産。さらに5月末にはアレクサンダー・ショルツが合流し懸念であったCBの質を大きく向上させました。プレッシングという点では大きな積み上げがなかったものの、自陣からボールを繋ぎつつ相手が前に出てきたスペースをSHの選手やキャスパーが爆走して一気に相手ゴール前に迫るこの頃のサッカーは純粋に魅力的であり、固まらないSBの人選や中盤でアンカーとして振る舞える選手の不足、ワイドアタッカーの質の不足を感じることがあったとはいえ、後から思えばこの時期のサッカーがフットボール本部の目指した「ハイブリッドスタイル」に最も近かったと言えるかもしれません。吹き抜けるスペイン由来の上昇気流に乗りたい浦和は夏の移籍市場でも積極的に補強に動き、6月には酒井と江坂の日本代表級のタレントを、8月にはほとんど一目ぼれで掘り出し物アンカーの平野と欧州帰りの秘密兵器木下を獲得。さらにスカッドを強化したわけですが、ここでも酒井はダイレクト志向・フィジカルに強みのある選手、江坂はともかくとして平野は完全にビルドアップスタイルへの適正が強い選手と2軸を感じさせます。木下はなんで獲得したのかよくわかりませんが、空中戦を得意とする前線の選手がいなかったので、そのあたりの補強を目論見たのかもしれません。

 夏の中断期間を挟んで2021シーズン後半の浦和は8月9日の札幌戦を落としたものの以降10月2日の神戸戦まで約2ヵ月間無敗。内容的には苦しい試合も多かったものの、ビルドアップの改善が進み、獲得した江坂が16戦で5ゴール1アシストという結果以上にゴール前での決定機創出に力を発揮したことで良いペースでポイントを積み上げていきました。一方で、リーグは圧倒的なペースで勝ち続ける川崎フロンターレの独壇場の様相を呈し、同じ競争をチームビルディングから始めている浦和には勝機なし。5位-6位を定位置として走り抜いたものの、ACL圏内となるリーグ戦3位以内には勝ち点10届きませんでした。

 ただ、チームにとって勝ち点の差よりも深刻な課題と捉えられたのは得失点差であったと思います。上位4チームの得失点差が軒並み+20以上、神奈川2チームにいたっては+50前後にまで到達しているのに比べ、浦和は7。特に得点数で上位2チームと40点近い差をつけられ、一般的な優勝ペースからも程遠い45得点という結果が2022シーズンに掲げる優勝の公約への焦りを加速させたような気がします。2018シーズン以来の天皇杯優勝とACL2022への出場権獲得で阿部ちゃんを送り出すという美しい終わり方の裏で、圧倒的な攻撃力への課題感は大きかったのではないかと思います。

3.3    2021年オフ~2022年シーズン

ポゼッションスタイルへの傾倒

 続く2021年オフの浦和はまたも積極的な補強を敢行。リカルド・ヴォルティスの核であった岩尾憲の獲得(レンタル)をはじめ、松尾、松崎、モーベルグのWG勢、馬渡、大畑、犬飼とビルドアップに対応できる・してきた実力者、左利きのCBとしてJ2で印象的な活躍をしていた知念、GKにサイズ・ポテンシャル大の牲川を獲得。新卒で安居、宮本、木原をポテンシャル採用。総勢13名の新加入とフットボール本部は狂ったように選手を貪りました。一方で放出も派手で、功労者の槙野・宇賀神を筆頭に出場時間が得ていた山中、汰木を放出し、加入したばかりの西大伍、田中達也、木下も容赦なく放流。レンタル中だった伊藤涼太郎、池高暢希、大城蛍の満了(橋岡は完全移籍)、現役引退を決めた阿部、塩田はともかくとして、興梠、健勇、石井(レンタル継続)、福島、藤原(レンタル継続)、武田(レンタル継続)、金子、荻原(レンタル継続)と期限付き移籍を含めると2021シーズンに浦和レッズでプレーした18選手を放出とスカッドの半数以上を入れ替えました。この中で、おそらく汰木と興梠はフットボール本部的にはチームに残す考えがあったのではないかと思いますが、とはいえ大半はフットボール本部の意思での放出であり、メンバーを見るとリカルドのサッカーへの親和性の薄い選手を思い切って放出し、よりビルドアップ耐性の高い選手をスカッドに集めようとした意思が読み取れます。その意味では西大伍の放出は若干雰囲気が違いますが、酒井の獲得でプレータイムが少なくなっていたので、本人の意思があったかもしれません。総合すると、2021年オフは前年オフとは打って変わってフットボール本部の意思として彼らのいうポゼッションスタイルへの傾倒が感じられるオフとなりました。この背景を推測すると、2021シーズンの目標であった「AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権獲得」と、「チームコンセプト、スタイルの浸透・成長」が十分に達成できなかったことを踏まえ、リカルドをサポートする意味でも監督の欲する選手をスカッドに集めようという考えがあったのかもしれません。また天皇杯決勝のメンバーが全て残留していうることを踏まえると、スカッドの厚みという部分を意識したとも受け取れます。

 実際に2022シーズンは各ポジションに比較的バランスよく戦力が配置されており、ボランチは岩尾を入れて5枚、SHは充実の6枚(モーベルグ、松尾、松崎、関根、大久保、シャルク)、CBもショルツを筆頭に岩波と犬飼が競争し、知念と工藤孝太が左利き枠で2ポジションに5枚と編成上のバランスは上々でした。懸念点はトップで、コンディション不良があったキャスパー以外に本職CFがいない状況でしたが、計画外と思われる興梠放出があったなかで、後にリンセンの獲得が半年遅れの2022年夏でしか実現しなかったが、それをわかっていて意図して決断したことがわかっています。

 こうして満を持して優勝を目標とするシーズンに臨んだ浦和でしたが、序盤から躓くこととなります。

コロナ禍と長引く答え探し

 川崎とのスーパーカップでは敦樹を左SH起用し中盤のディフェンスに参加させる作戦で内容が伴った2-0の勝利をあげて期待感を抱かせたレッズでしたが、直後にチーム内でコロナ感染者が複数発生し一気にピンチに。京都戦では使える人は総動員という形でユースの早川くんをベンチ入り、安居をトップ下でスタメン起用するといういきなりのスクランブルスタートとなってしまいました。この試合をウタカの一発で落とすと、その後も内容的には十分勝利の可能性を見せながらも神戸戦の明本、ガンバ戦の岩尾の連続退場で勝ち点を落とし続け勢いに乗れず、続く川崎戦にも力負け。湘南戦でやっと初勝利を果たしましたがその後は鳥栖に0-1でまたも勢いに乗れず。モーベルグのデビュー戦となった磐田戦は4-1で快勝しついしついに勢いに乗ったかと思えば、4月2日の第6節札幌戦からはACLを挟んで6月18日の第17節名古屋戦まで9試合・2ヵ月以上リーグ戦の勝利を掴めませんでした(7連続を含む8分1敗)。この序盤~中盤にかけてのレッズの戦いぶりには大きく2点ポイントがあったと思います。

 まずはこのチームの戦い方が見付けられていなかったことで、この時期の起用を見ると退場やコロナの影響もありますがボランチの選手を固定できていません。2022シーズンのリーグ戦総出場時間が1,166分だった柴戸は17節までで786分プレーしており、この時期に出場が固まっています。後半戦ほぼ固定だった敦樹・岩尾コンビがなかなか固まらず、リカルドの目指すゲームコントロールと質的・量的に十分な前線への選手配置という部分で問題を抱えていたことが推察されます。

 もう一点は前線の組み合わせに関するもので、根本的にはCFがいなかったということになるのですが、江坂が0トップのような形で中盤に降りつつチャンスメイクをする形で戦いつつも、それ以外の選手、つまり中盤前目の選手たちの得点が伸びなかったことが挙げられると思います。もっともこれは序盤~中盤に限らず、シーズン全体を通しての課題と言えるかもしれませんが、おもに1・2列目で出場していた選手のうち、関根、シャルク、江坂の90分あたりのゴール+アシスト数値はそれぞれ0.112、0.157、0.139となっており、つまりこの3人は得点に直接的に関わるのにリーグ戦9試合フル出場が必要というペースでした。こうした数字は、たしかにいろいろと考慮すべき状況や背景があるはいえ、比較的マシだった佳穂の0.271、明本の0.214、松尾の0.268という成績と併せて、前線を担った選手たちのクオリティ、特にゴールを奪う部分の質が足りなかったのではないか?と考えるのが自然なものだと思います。試合を見返すと実はチャンス自体は結構作れていたり、惜しいシーンはあったりするので、リカルドがシーズン中に何度か言及したように得点期待値という意味ではリーグ内で優秀な数字が出ていたのですが、それにしてはあまりにも得点数に繋がらなかったというのが現実的な評価になると思います。それが身長や体格の問題なのか、技術の問題なのか、それともチャンス自体の質なのかという議論はあるのでしょうが、リカルドのサッカーがゲームをコントロールし失点リスクを減らしつつ攻撃していく、つまりある種の均衡状態を意図的に作り出したうえで自分たちだけ勝とうとするやり方を取る中で、彼らがそんなに都合の良い結果をもたらしてくれるだけの選手であったのか?という疑問には向き合わなければいけないのだと思います。ちなみに、リーグ戦中盤には既にキャスパーも戦列復帰を果たしており、5月以降何度かまとまった出場機会がありました。キャスパーは当然ゴールに関わる部分では別格の質を持っていて、90分あたりのゴール数+アシスト数は0.573と高い数値になっています。言い換えれば2試合に1点は得点に関わってくれるということですね。とはいえもちろんこの数字はキャスパーがやっていない仕事を差し引いて考えなければならず、チームとして重視したいゲームのコントロールのためのプレッシングやビルドアップでの貢献は限定的でした。このように見ていくと、リーグ戦序盤はそもそも戦力が揃わない中で昨年のやり方を踏襲しつつ戦ったものの退場や決め切れないシーンが響いて出遅れ、中盤は求めたい仕事をしてくれるが決定力がない選手たちと、求めたいことは軒並みサボるけれども決定的な仕事だけはしてくれるキャスパーの融合やバランスに苦労し、それぞれのコンディションも上がり切らないまま、チームが迷走気味に引き分けを重ねてしまった時期と言えるかもしれません。

ドリブラーという答え

 その後、チームは第17節名古屋戦の3-0勝利以降、18節神戸戦に勝利し、続く19節・20節を引き分けたものの21節・22節・23節を3連勝とし6試合を5勝1分けで走り抜けます。この突然のペースアップにあるのは二人のドリブラーの存在で、モーベルグはシーズンで2回だけのフル出場を20節・21節で記録するなど存在感を高めました。また大久保もこの間にフル出場3試合を含む428分(平均61分)の出場と勝利に貢献。この間のリカルド・レッズは「自ら作り出す意図的な拮抗の中で都合の良い結果を引っ張ってきてくれる個の力」をモーベルグ・大久保の二人に見出し、安定したゲームコントロール+得点力という難しい課題を一時的に乗り越えることができていたのだと思います。ちなみに、モーベルグの90分あたりのゴール数+アシスト数は0.771でチームトップ、大久保は0.405とこちらはチーム3位・日本人選手トップとなっています。まあこういう数字は結果論なのでなんとでも言えるのですが、この二人を組み込む形を見つけたことでチームに安定感と勝ち切る強さを両立できたと言っても大きく間違ってはいないと思います。モーベルグは今季のリーグ戦通算出場時間の約60%が後半戦、大久保に至ってはなんと82%が後半戦に偏っており、二人ともそれぞれの事情があるとはいえ、結果が出なかった前半戦のグループを素早く改善できなかった、別の言い方をすれば固執してしまったことは2022年シーズンの結果に大きくつながっていると言えるのではないでしょうか。

 チームの形と言えば、ACLグループステージ前後で良いパフォーマンスを見せていた松尾の起用が前半戦にあまりにも伸びなかったことも気になる点でした。ACL後はシャルクとキャスパーを中心とした起用が続き、松尾は交代要員でした。7月6日のホーム京都戦でスタメンに定着するまでに、ACLのGS明けの5月から数えると9試合かかったわけですが、例えば5月28日のアウェー福岡戦でスタメン起用したタイミングから松尾をトップにした布陣に固定できなかったのかなという疑問があります。福岡戦から数えると4試合で、しかもその4試合は2勝2分なので勝ち点を落とした感覚はないですが、パフォーマンスの良さがスタメン変更にすぐに繋がらなかったのはリカルドの何らかのこだわりによるものかもしれません。結果論に過ぎませんが、松尾と佳穂の2トップによるプレッシングによるゲームコントロールは今季のポジティブな発見の一つでしたので、この形をもっと早く見出し、試すことができなかったのは残念でした。このあたりはキャスパーの得点力を活かしたいという思惑や、トレーニング中のパフォーマンス、松尾をSHでチームに組み込もうとした等いくつか考えられる要素がありますが、リカルドが退任決定後に「もっとはやく4-3-3の形を導入できていれば」と発言していた後悔に松尾のトップ起用が遅れたことも含まれるのかもしれません。

 ともかく、大久保とモーベルグをサイドに組み込み、敦樹と佳穂がIH役となる4-3-3ベースのボール保持と、松尾をトップとして佳穂との2トップをベースにした4-4-2プレッシングのボール非保持がチームの骨格として固まったのが7月10日のFC東京戦でした。酒井の戦列復帰も相まってこの前後からチームは8月25日のACL準決勝全北戦まで非常に安定したプレーを見せました(8月6日の第24節アウェー名古屋戦のみターンオーバーで0-3敗戦)。この間、24節名古屋戦を除くと全ての試合で得点し、複数失点は全北戦のみ。リーグ戦は名古屋戦以外の全ての試合に勝利し、ルヴァンカップとACLを含めるとこの間7勝2分1敗(全北戦を引き分け扱い)とリカルド体制最高の2ヵ月間を過ごしましたが、FC東京戦の時点で既に21節となっていたことを考えると、チームの基本となるやり方を見つけるのに20試合も必要だったのか、とも思ってしまいます。

再びのコロナとリカルド体制のターニングポイント

 ACL全北戦の激闘後、8月30日にスタッフ1名、9月1日、3日、4日、5日にそれぞれ選手1名、7日にさらに選手2名の合計7名が新型コロナウイルスの要請判定が出たことでチームにはかなり大きなダメージが出てしまいました。陽性判定自体は仕方ないのですが、全北戦後に4日連続のオフを与えたリカルドの判断は結果的にデメリットが大きくなってしまいました。オフのせいで陽性判定者が出たとは言いませんが、明確な区切りをつけたことで2ヵ月間の流れを切ってしまった感じはありました。たしかに全北戦は延長までもつれた激闘でしたし、中2日で3連戦を戦った負担は大きかったはずで、7月末~8月中旬も連戦だったことを考えれば選手側も連休を要求していたはずですが、ACL期間中は移動もありませんでしたし、最小限のオフで流れを切らないマネジメントもあった気がします。選手起用に制限が生じたこともあってかリズムが落ち、柏戦では4-1の大勝を収めたものの30節湘南戦までの4試合を1勝2分1敗。この間のトピックとしてはシャルクを試していることで、後半戦はこの4試合だけ出場がありました。リカルドとしてはここで停滞しつつあるチームの起爆剤となってほしいという期待があったのかもしれませんが、残念ながら不発。そんなこんなで、チームは今季のレッズの最後のターニングポイントとなるルヴァンカップ準決勝・セレッソ戦へと進んでいきます。

 このセレッソ戦、特に第2戦の0-4敗戦は単純な負けとは異なる、リカルド体制の継続に負の方向で大きなインパクトを持つものだったと考えています。

「この試合の敗戦は浦和レッズにとって非常にショッキングなものとなりました。それは単にルヴァンカップの決勝進出、タイトルの可能性を逃したと言うことだけではなくて、既にこの「3年間」の大目標である2022シーズンのリーグ優勝がなくなっている現実を見た時に、「ここまでやってきた道の先に優勝があるのか?リカルドにこの先も任せるべきなのか?」という疑念を具体的に抱かせてしまう内容の敗北であったという意味で、です。」

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 第2戦のレビューで僕はこのように書きましたが、ゲーム開始直後の噛み合わせが全くハマらず、それを修正できなかった点と、成績上のライバルクラブであり現行監督がリカルドよりも遅く就任しているセレッソに、今季の浦和が得意としていた4-4-2⇔4-3-3可変で完成度の高いゲームを披露された点において、この敗戦は非常に厳しかったです。

 これによってクラブ(フットボール本部)は「結果はともかく、リカルドはチーム作りをよくやっている」という現状維持方向の評価を続けにくくなったと思いますし、チーム内部でも最後に残されたタイトルを失ったことでリカルドのやり方への信頼というのが揺らいでしまったのではないかと感じています。僕としては当時、出来るだけ前向きな立場で「残り5試合で戦えることを示してほしい」という締め方をしましたが、正直、この時点でチームの結束は失われていたというか、リカルドの求心力という部分で修復不能な状況が生まれていたのかなという印象です。フットボール本部がどの時点でリカルドと袂を分かつことを決めたのかはわかりませんが、直後の広島戦で1-4大敗を喫してから、リカルドはキャスパーやリンセンを起用し、プレッシングの精度や貢献よりも単純な破壊力やスキルに期待しているような戦い方でスタートするようになりました(第33節マリノス戦は3バックでマンツーマンに近い形を採用)。これがどういう考えのもとの決断なのかよくわかりませんが、10月31日の「監督職を解除」というリリースの後、試合前の11月4日の会見で

「ゲームプランははっきりしています。浦和レッズが最も良い姿を見せたころの姿を取り戻すというところで、このスタイルに適した選手たち、しっかりと走って、努力し、このエンブレムのために頑張れる選手たちでいきたいと思っています」

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と発言し、最終節の福岡戦では松尾・佳穂の2トップに戻したことを考えると、セレッソ戦の0-4、広島戦の1-4大敗の後、自らの続投を賭して結果を求めに行く中で、「スタイルへの適正」だとか「しっかりと走って、努力し、このエンブレムのために頑張れる」という部分をある程度捨ててでも能力の高い選手を起用するやり方を選んでいたのではないかと邪推してしまいます。もしくは、チーム内で(コーチングスタッフの中で)リカルドが自らのやり方にこだわり、明らかに個人能力の高い選手たちをチームに組み込めていなかったことに対して意見がある勢力があったのかもしれません。このあたりは中の人にしかわからないことなので僕の妄想に過ぎないのですが、リカルド体制の継続の危機にあたってチームの戦い方がこれまでにないほどに大きくブレたことには何等かの示唆があるのだと思っています。もっと言えば、リカルド自身が最良と考えるやり方で戦っても最後の福岡戦に勝つことができなかったというのもまた、この体制での到達点がどこにあるかを示すものだったのかもしれませんが。

 ということで、2022シーズンは結局「3年計画」の目標は達成されず、それどころか初年度の成績を下回る勝ち点で終了となってしまいました。これにより「3年計画」で掲げた「2022年シーズンでのリーグ優勝」は達成されず、「3年計画」の夢は終わりました。やはり全体としては引き分けが多すぎ、リーグトップの15もの引き分けを積み上げています。得失点差がリーグ4位であることを踏まえても序盤の7連続引き分けやACL後に失速してしまった時期に苦しんだのがこの成績の要因で、スカッドが持つ強さを発揮する形を早く見つけられなかったこと、そしてその形を維持できなかったことが大きな課題であったと思います。

優勝との差、プロセスの長さ、ベースの高さ

 ここで、この3年間を俯瞰してみましょう。

 縦軸が平均勝ち点(左)及び累計勝ち点(右)、赤線は獲得勝ち点/試合数で、勝ち続けていれば3.0で天井に張り付きます。黒線は直近5試合の平均勝ち点を出したもので、短期の調子を表すものです。後ろの白いのは累計勝ち点ですね。オレンジの線2本は優勝ライン(平均勝ち点2.0)及び残留確実ライン(平均勝ち点1.3≒累計勝ち点40くらい)です。大きなところで言えば、短期的にでも優勝ラインを超えるペースのゲームが出来ていたのは2021年の夏前および秋ごろと2022年の夏ごろしかありませんでした。順位が順位なので当然ですが、優勝争いをするほどの最大出力を出せていなかった、出せても維持できなかったというのがこの図が示す純然たる事実です。また、すべてのシーズンで最終5戦の成績が悪く、右肩下がりで終わるシーズンが続いていることもファン・サポーターの心情としてはつらいものがあります。リーグ戦が消化試合となると全体的に緩むというか、熱量が出せないで微妙なゲームをしてしまうという傾向が浦和レッズにはあるのかもしれません。

 大槻体制とリカルド体制で特徴的なのは、チームの戦績の傾向が全く逆ということです。大槻体制はシーズン序盤に調子がよく、後半になるにつれてモメンタム(短期の調子・黒い線)が下がっています。これは大槻監督のゲームモデルが単純にタフなので、選手の体力が残っており・コンディションが比較的良い序盤に調子がよく、後半になるにつれて疲れていくということかもしれません。また、比較的単純なゲームモデルなので相手に対策されやすくなるということも言えると思います。最後の5戦が散々なのは、ここまで観てきた通り大槻監督の求心力の低下という面が大きいとは思いますが。

 逆にリカルド体制はシーズン後半に入ったところが最もモメンタムが高く、序盤~中盤にかけてのチーム作りの成果を後半にかけて発揮し、戦績が徐々に上向いていくのがわかります。これは西野TDがどこかで言っていた通り、リカルドのサッカーには時間がかかるというのが根本的な要因になると思います。とはいえ、降格ペースのスロースタートを2年連続で続けていることは見逃せません。特にリカルド2年目となった2022年シーズンの序盤の失速はフットボール本部にとっても予想外だったとは思います。2021年シーズンの夏までに大補強を済ませ、満を持して2022年シーズンに臨んだはずがシーズン中盤まで降格ペースを引っ張るようでは期待外れと言わざるを得ません。

 ちなみに、各年の優勝チームと戦績を比べると下図のようになります。

 2020年、2021年の川崎は論外の強さとしても、やはり優勝チームとはベースの強さが一段も二段も違ったことがわかります。短期の線(青)で見ても、優勝チームは降格ペースに足を突っ込むことはほぼありません。この差は根本的にはやはりミシャ体制が崩壊して以降なかなかチームとして戦い方を固定できず、ボール保持時のプレー原則などチームで共有されたものがほとんどない状態からの3年計画のスタートは苦しかったというのが大きな要素なのでしょう。

 正直なところ、浦和レッズが今タイトルを獲れるかと言えば、そうは思いません。タイトルを獲るために必要なプロセスがあった先に、タイトルはあると思います。では、タイトルを獲っていく上で、我々がどう進んでこられたか、はじめることができたかを、もう一度振り返らないといけないと思います。メンバーのところは先ほど話した通りですし、シーズンでのいくつかの問題点、アクシデントもそうです。そしてどういった選手が加入してくるか、いつ加入してくるかも、我々が届かない理由の一つだと思っています。

 まず、タイトルを目指すにあたって、我々が川崎フロンターレとの29ポイントの差、これを現実的にどう埋めていくのかが果たされたのかと言われれば、決してそうではないと思っています。もちろん、どういうふうにそこを縮めていくのかを分析し、それを遂行するべきなのですが、分析が正しくできていない、現実的ではないところだったと思います。もちろん掲げるにあたって、私もその場所にいましたし、どういうふうに目指していくかという話もしました。誰かではなく自分も含めて、一つ大きなクラブとしてのミスだった、その期待値設定がよくなかったと思います」

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 リカルド自身がこういうことを言うのがどうかという話を置いておけば、彼の指摘しているのはまさに今僕たちがみているものなのでしょう。別の言い方をすれば、今のJ1リーグはこうしたベースが無ければ、爆発力だけでは優勝できないようになっているということかもしれません。それはつまり、強豪チームが固定化する予兆がすでに出ているとも言えます。そうであれば、僕たち、そして浦和レッズは今の歩みを止めることはできません。目標の未達・失敗という事実を受け止め、トピックごとにさらにこの3年間と現体制の仕事ぶりを整理していきましょう。

この2年間、選手たちが見せてくれた努力に感謝します。そして初日から愛情を持って受け入れてくれたフロントを含めたクラブのスタッフに感謝しています。リーグで優勝することはできませんでした。しかし、それもプロセスの結果として勝ち取るものだと思っています。非常にいいチームがたくさんあり、成熟したチームが多いJリーグで優勝することは簡単ではありません。多くの正しい判断を下しながら勝ち取るものだと思っています。

今季は補強での不運も含めたさまざまな問題があったシーズンのスタートでした。そして、このプロセスを私も一緒に続けていきたいという気持ちはありましたが、クラブがこのように判断しました。受け入れていますし、尊重する判断です。そして、浦和レッズの将来の成功を祈っております。浦和での2年間は幸せでした。

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続く。

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