96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2022シーズン全選手振り返り(中)

(上)はこちら。

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12    鈴木 彩艶

世界に誇る未完の大器は昨季も西川とのハイレベルなポジション争いに晒されることに。浦和ではリーグ戦2試合とACL4試合、ルヴァンカップ2試合の8試合にフル出場しゴールを守りましたが、本人としても期待していた出場機会を勝ち取ることはできなかったというのが正直なところでしょうか。クラブとしても彩艶を大成させたいという願いと責任感からジョアンを招聘したと思いますが、それで弱点を改善した西川の壁がさらに高くなってしまうという若干皮肉めいた結果となりました。

彩艶のプレースタイル、特徴を西川と比べると、シュートストップの迫力や反応の速さ、届く範囲の広さはサイズの違いもあって彩艶に魅力がありますが、ビッグセーブを繰り出す集中力、1on1に陥った時の駆け引きのうまさや落ち着きは西川に素晴らしいものがあり甲乙つけがたい感じ。ビルドアップでは近いところを使うのは彩艶の方が得意そうというかスムーズにやれていますが、パントキック、フィードを武器にしているのは西川の方でしょう。キックの飛距離は彩艶に軍配が上がりますが、さすがにトッププロのレベルで飛距離が出るだけでどれだけの魅力になるのかという感じは正直あります。昨季差が出たのはクロス対応や前方への守備対応で、西川がこの部分を大きく改善したことに対して彩艶はまだチャレンジしすぎという印象。ゴールにへばりついているよりもサイズとフィジカルを活かしてハイボールにチャレンジすべきだとは思いますが、チャレンジしたのに目測が合っていなかったり無謀なチャレンジになっていたりと言うシーンが目につきました。

ただ彩艶の凄いところはメンタル面で、ミスした後のリカバリーの早さ、メンタル的にブレない部分は彼の大きな特徴だと思います。U-23の試合でも飛び出しの判断を間違えながらもすぐにシュートストップに切り替えてセーブを稼ぐなど、局面でみてもゲームを通してみてもミスしっぱなしということがないのは結構凄いことだと思います。若いGKは一発目が良くてもミスをリカバリーができない選手って結構いると思うのですが、さすがにJ1でプレー機会を掴むような選手はリカバリーが上手いし早い。そういう意味では彩艶も良い資質を備えていると思いますし、本人もインタビューでたびたびミスしてもリカバリーが上手くいけば大丈夫と話しているのは頼もしい限り。

今季はGKに吉田舜を加えて4人体制となる浦和のGKチームですが、彩艶はレンタル移籍はせずにあくまで浦和で勝負する模様。スコルジャ監督のゲームモデルを素直に解釈すれば高い最終ラインの背後のケアはGKの重要な仕事になりそうなので、シュートストップやビルドアップに加えて単純な機動力、飛び出しの判断なんかも重要な要素になりそう。この部分はリカルド体制ではあまり強調されなかった部分なのでまだなんとも言えませんが、こうした高い要求に応えることができれば彩艶は現代的な素養を備えたGKとして評価も高まるはず。キャリアの到達点としてプレミアリーグでのプレーを目指すと公言している彩艶なので、高い要求にも前向きに取り組んで特大のポテンシャルを開花させてほしいところです。

13    犬飼 智也

鹿島から昨季加入のCB。年齢的に岩波と被りクラブとしては岩波の競争相手としてかなりメッセージのはっきりした獲得だったと言えそう。ショルツ不在の開幕節アウェー京都戦は岩波とともに左CBでスタメン出場、前倒しでシーズン2試合目となった第9節ホーム神戸戦〜5試合目となった第10節鳥栖戦にかけては岩波がショルツと共にスタメンを張ったものの、続く3月19日の第5節磐田戦では犬飼がスタメンを奪いショルツとともにプレーしました。ただスタメンを奪った直後の4月2日の第6節札幌戦の後半終了間際に左膝蓋骨骨折・膝蓋腱部分断裂の大怪我で即手術。全治6ヶ月となり公式戦の出場はわずか3試合で早くもシーズンアウトとなってしまい、その後はめっちゃオサレな私生活を見せてくれるインスタが主戦場となりました。そもそもこれまでのキャリアでも大きな怪我をしている選手でクラブもリスクは把握していたと思いますが、シーズン序盤でチームを離脱することになったのは本人にとってもクラブにとっても大きな痛手だったと思います。

プレー面の特徴は大きく三つで、ボール保持での落ち着き、ラインコントロールとカバーリングの上手さ(守備戦術)、そしてヘディングの強さ。ボール保持においては岩波に比べてボールを持ちながら体の向きを柔軟に変えられることが印象的で、自分のところでボールを落ち着かせて相手を引きつけられ、ターンも上手いのでボールを循環させボール保持を安定させることができるのはリカルドのチームにとって大きなポイントでした。ライン設定は若干高め。特別スピードがあるという印象はありませんがカバーリングが上手いので味方をボールにぶつけておいて背後をケアする守り方に自信があるのだと思います。そしてヘディングの強さは本人も何度か強調していた通りで、磐田戦ではコーナーから完璧にニアに合わせて浦和での初得点をマークしました。

こうした特徴はどれも岩波とは少し違っていて、岩波ほどのフィードやシュートブロックの上手さはないものの総合的には岩波よりもチームに特徴がフィットしていてリカルドは使いたい選手だったはず。若いチームの中では経験も豊富で期待されていた部分は大きかったと思います。クラブとしてはショルツ、犬飼で回しつつ岩波をバックアップに置ける主力級CB3枚の布陣は結構自信ありな編成だったと思いますが、犬飼の怪我でショルツ、岩波がそれぞれシーズン4,000分以上プレーすることになったのは大きな誤算だったでしょう。

今季は新監督のもと新たな競争に挑むことになりますが、CBの重要性というか求められるレベルの高さはリカルド体制よりもさらに高く責任も大きくなりそう。なるべく高い位置に組織をセットするので裏のケアは重要ですし、相手の2枚、3枚でのアタックを同数または数的不利の状態でケアしなければいけないシーンも多くなりそうです。そういう意味で編成的にはCBにはお金をかけて質の高い選手を集めておく必要があり、犬飼にスピードを足して左利きという特徴も持たせたような選手であるホイブラーテンが新加入決定。こうなると、昨季クラブが岩波に求めたであろう「実力ある3番手」の立ち位置を今度は犬飼が務めることになるのかもしれません。

まずは大きな怪我を連発させないことが何より重要なのであまり急ぎすぎず調整してほしいですが、玄人受けするプレースタイルでファンからも期待されているはずなのでチームに貢献する姿を見せて欲しいところ。頑張って。

14    関根 貴大

公式戦45試合出場、合計2,421分のプレーは主力としてまずまずの数字でしょうか。シーズン最後に右膝の遊離体を取り除く手術をしましたが、今季以降のことを考えれば良い判断だったと思います。浦和はこれまでも遊離体の痛みと付き合ってプレーしていた選手が何人かいましたが、悪化するとあからさまにプレーに出るほど影響があるわりに手術するまで怪我として公表されずに見ている方からはわからず、プレーが落ちたとか衰えたとかという批判につながりがちで厄介でした。今季も遅れることなくスタートできるということで、タイミングよく早めに解決できたのはラッキーだったかも。

ここ数年、浦和に復帰してからの関根はとにかくずっと悩んでもがいてという印象で、それは今季もあまり変わらず。そもそもデビュー時のチーム状況が非常によく、森脇や武藤のサポートを得て右サイドでの1on1要員としてチーム大きく貢献できていたことでデビューから数年のイメージが良すぎるというのが根本にある気もしますが、欧州挑戦を経て筋肉が増えたからなのか怪我のせいなのか近年は一瞬のキレ、相手の重心をハックして静止からズレを作る独特の1on1もあまり見られなくなり、チームメンバーも大きく入れ替わったことで万能系アタッカー的な立ち位置に収まっている感じがします。こうした悩みというかプレースタイル探しについては本人もたびたびインタビューで口にしており、昨季も以下のような赤裸々なコメントを残しています。

「以前よりもパスワークを重視するサッカーになり、自分に足りなかった要素を、自分のものにしたいと思って取り組んできました。その結果、周りを見て適切なポジショニングが取れるようになったと思っていますし、相手のやり方を見て自分のプレースタイルも変えられるようになったと感じています」

(中略)
「試合に関わっていないように見えてしまうことも多いかもしれないですが、周りを動かすプレーやチームをうまく機能させるプレーができるようになってきた。自分が今、スタメンで試合に出られている意味を考えたとき、そこが強みだとすら思っています。周りを活かすプレーが成長したからこそ、監督に評価してもらえている実感があります」

(中略)
「今までの自分になかったものを得たぶん、今まで自分が持っていたものを失うじゃないですけど、なくしてしまっているのではないかということに気付いたんです」

(中略)
対戦相手やファン・サポーターが自分に対してどういうイメージを持ってくれているかを考えたことはありましたけど、チーム内でどう見られているかは考えていなかった。ここ最近、周りを活かそう、活かそうということばかりを考えてプレーしてきた結果、自分を活かしてもらおうとなったとき、個で相手をはがせる選手というイメージの共有ができていなかったのではないかと思ったんです」

(中略)
「できることが増えたことによって、チームのためにという意識が、自分の頭の中でも大きなパーセンテージを占めていましたが、それを逆転させるくらいのつもりでプレーすれば、周りにも伝わると思うんですよね。イメージを変える作業は、決して簡単なことではないと思いますが、やり続けていかなければ変わらない。」

「パスが出てこないのは自分の問題」今一度、魅せるために関根貴大が強く決意「イメージを変える」(浦和レッズニュース)u.lin.ee

さらにシーズン終了後のインタビューでは

「僕が前でプレーしているとき、逆にみんなにそう思われているかもしれませんね。『サイドバックのほうが生き生きしているんじゃない?』って。それはそうなんですよ。違うポジションで少しうまくいったら勢いに乗れるし、長年やってきたポジションでうまくいかなかったら、つらい。だから、ミヤへのアドバイスは、自分へのものでもあるんですよ。自分に返ってくるんです」

(中略)

「こんなんじゃよくない」

「落ち着いてしまうのはよくない」

「ピッチ上のことは成長していない」

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と話していたり。この3年間で内側、外側それぞれのレーンでの立ち位置の取り方やボールの受け方、周りの選手との関わり方はかなり向上したし、左右のサイドで違和感なくプレーができ、切り替えや球際の頑張り、クラブの歴史を知っており埼スタが伝統的に求める熱量の出し方を知っている、これだけでも十分クラブにとって貴重な存在で、なかなか代替できる選手はいないのですが、それでもやはり観る側としても本人としても、ドリブラー関根貴大の残像は無視できないのでしょうね。

こうしたある種のエモさとは別に、現実としてはたしかに局面を動かす個人の勝負の部分で物足りなさはありました。Football Labのドリブルポイントは松尾、大久保、もやんに次ぐ4番手。攻撃ポイントは9番手となっており、ゴールポイントにいたっては圏外と攻撃面でインパクトを残したとは言い難い状況。スカッド事情やリカルドの構想する可変システムの中でSBでのプレー機会を与えられたのも、前目の選手として拮抗したゲームを変えられる選手ではないという評価が透けて見えます。

とはいえ僕は個人的に関根がSBをやることにはポジティブで、本人が後ろ向きでないなら今後も試していく方がいいのかなと思っています。ボールを保持して相手を押し込んだ際にゴールを奪い切りたい場面では6枚目のアタッカーとしてSBがエリアの近くで直接得点に関われるかどうかは非常に重要で、そうしたSBがスカッドにいるかどうかはマリノスやフロンターレといった攻撃力自慢のクラブとその他のクラブとの違いとなっていると思います。どんなサッカーをするかにもよりますが、こうした役割をこなせる選手は今のところそうたくさんいるわけではないので、浦和としてはパフォーマンスの良し悪しだけで簡単にカットしたくない人材である関根にこうしたタスクを任せるというのは理にかなっているというか、やってくれるなら助かるのではないかと。当然関根のドリブルでの突破力が今後発揮されていけばそのままアタッカーとして活躍してもらえばいいのですが、もしそうならなかった時に、手詰まりになってただただ出場機会を失っていくよりはポジションを下げて新しい役割を手にするというのは彼本人のキャリアを伸ばすという意味でも便利だと思いますし。当然サイズや守備対応の問題はありますが、少なくともオプションとして持てると面白いのかなと思います。

ちなみに、6月26日の第18節アウェー神戸戦でJ1通算200試合出場を達成(まさかのSB出場)。欧州挑戦前の最初の100試合は超特急で達成し、楽しくサッカーをしていたら100試合過ぎていましたという感じでしたが、復帰後の100試合は苦労が多かったかもしれません。ユース出身者の括りで言えばJ1最多出場の記録は宇賀神の297試合が最高。昨今の欧州移籍へのハードルの下がり方を見ていても大台となる300試合達成、さらにその先の400試合に挑めそうなのは今後10年で関根くらいではないかと思いますので、是非とも達成して欲しいところ。次の100試合でどんな関根を見せてくれるのか、彼のキャリアを語る上で非常に重要な挫折である2019年のACL決勝の雪辱を果たす舞台もある今季、サッカー選手として完成されていく関根貴大の活躍を期待したいと思います。

15    明本 考浩

昨季は47試合3,059分の出場でフル稼働。2021年シーズンも47試合3,461分の出場だったので、出ずっぱり傾向のあるGK・CBを除けばこの2年間チーム内で最も働いた選手と言えます。明本の場合はたくさんのポジションで起用されるのがやはり大きくて、シーズン最序盤はトップもしくは左SHで出場し、ACL前後からは大畑が離脱した穴を埋めて左SBに回りました。5月はほぼ左SBとして稼働し、6月に入ったあたりでまた左SHや右SHでもプレー。他の選手のコンディションや起用に左右されながらとは言え、リカルドがかなり信頼していたことがわかります。色々なポジションで使えることに加えて、タフな選手なので試合途中の無茶振りも効くのが強いところ。つらいと言いながらやってましたが、トップでプレーした後にSBなんてできないでしょ、普通。これがあるから試合途中のフォーメーション変更もかなり柔軟になるし、ポジションが違う選手同士の交代が可能に。守備的なメンバーから攻撃的なメンバーへの味変をするのにすごく役に立っていたと思います。

一方で、7月10日のFC東京戦以降リカルドはベストメンバーとなる11人とシステムを見つけたわけですが、それに応じて明本はベンチスタートが多くなった印象も。大畑が使えない時に左SBで先発する試合もあったのでずっとベンチスタートというわけではないのですが、前線のメンバーが固まったことで若干序列を落とした面はあるかもしれません。こうした競争の厳しさの原因は明らかで、トップやSHで出場していた序盤に決定機をモノにできなかったことに尽きます。後ろのポジションもやっていたとはいえリーグ戦2,099分プレーしてノーゴールなので、前線の選手としてはやっぱり物足りません。京都戦、神戸戦、川崎戦と序盤の勝ちきれなかった試合であともう少しのゴールを決めていてくれたらシーズン全体の情勢もかなり違った気がします。

昨季序盤のパフォーマンスで言えば、喉輪事件もありました。正直あの退場で勝ち切れるはずだった神戸戦に引き分けてしまって、メンバー不足で不本意な戦いとなった開幕節京都戦の変な雰囲気を引きずってシーズンを始めてしまった感は否めません。ゲームを見ていれば明本に対するファールのジャッジが相当不利だったことも直前のシーンであからさまに身体に絡みついてイエロー相当のプレーをされていたこともわかるのですが、喉輪で反撃は国道4号線の文化が出過ぎて社会では受け入れられなかったですね。

というわけで、明本は出場機会も多かったし貢献度も大きいのですが、チームを一つ二つ上の段階に導くプレーはできなかったという結論になりそう。厳しいですがこれは仕方なくて、やっぱりたくさん出場した選手が責任を負うのは当然のこと。それだけ重要な役割を期待されていたとと言うことでもあります。逆に昨季5点6点と取れていれば代表にどうかって声もあっただろうし、そういう高みに踏み入っていけるかどうかの壁に挑戦できるという意味では充実しているかもしれません。

で、来季。スコルジャ監督がどう使うかまだ想像できませんが、どうなるでしょうか。タフでアグレッシブな選手なので基本的に監督が好きそうなタイプではあります。単純に出し得というか出しておけばエナジーを発揮できる便利な選手だし、昨季と同じくいろんなポジションで使われる可能性もありそうです。前線で言うと左SHは松尾が戻りそうだったりで結構競争が激しそうなので、本命不在にも感じるトップ下という手もあるかも。ただそうなるとやっぱり得点に関わる部分で結果が欲しいので、そこは課題になりそうです。なんとなく外国人選手との競争に晒されそうで、一つ一つのプレークオリティの面で要求が一段高くなる年になりそう。ハマればチームの目玉に、ダメなら便利屋に。かなり勝負の年かもしれません。トップでの起用もあるかもしれませんが、どうなるか。

16    牲川 歩見

昨季新加入の195cm大型GK。なんとなく若手感がありますが既に28歳で浦和が7チーム目と結構いろんな経験をしている選手です。ユースから昇格したジュビロでローンに出されまくっていたからなのですが。

今季はACLのGS山東泰山戦で後半に28分間出場したのみとほぼ出場なし。ACLでの出場機会も既に大差がついた展開で28分間でまともにプレーしたのは1回か2回だった気がします。たしか試合中に半端ないスコールが降ってほぼ雨に降られただけの人になっていた気がします。

と、公式戦ではほとんど見せ場がなかった牲川ですが、PSG戦、フランクフルト戦にはちゃっかり出場し今季日本のチームとは一切対戦していないのにメッシ、エンバペ、ネイマールとは対戦した不思議な選手に。フランクフルト戦は相手のコンディションがかなり微妙でしたが、PSG戦は彼らが来日2戦目だったこともあって壊滅的なコンディションではなく、わりとワールドクラスの攻撃に晒されたと思うのですがしっかり無失点で45分をプレーしました。普通に良いセーブもあったしビルドアップの繋ぎも思ったよりぎこちなくはなかったのでPSG戦を観ていた人は結構好印象だったのではないかと思います。

厳しい競争に晒されることがわかっていて浦和に加入した理由はやはりジョアンの指導が魅力だったからのようで、出場機会はなかったものの本人は成長を感じている様子。シーズンオフのイベントでジョアンが加入直後の牲川のことを「これは冗談なのか?」と言っていたのは基礎のなってなさに絶句したという意味合いだったようですが、逆に考えればこんなぶっちゃけ話をしてもらえるくらいには認められたということでしょうか。彩艶に比べればプレーは安定していると思いますし、このクラブの競争がハイレベルなだけで普通に良いGKなのだと思います。年齢的にもGKとしてはまだまだこれから。日本の公式戦でしっかりプレーを観る機会があればいいなあと思います。

17    アレックス シャルク

こちらも昨季新加入。「ブレダの爆撃機」の異名をとったアタッカーで、エネルギッシュなランニングとシュート力が武器。浦和デビュー直後のACL・GS第2戦山東泰山戦で2ゴールを決めたときには逆サイドの展開・折り返しにシームレスに反応しゴール前に飛び込んでゴールを奪い、続いてFKを直接ぶち込んで2ゴールを挙げ大きなインパクトを残しました。一方でリーグ戦では12試合575分の出場と振るわず、ゴールも1つのみ。コンディションの問題もあったようですが正直言ってJリーグへの適応に苦労したシーズンだったように見えました。

本人の武器はグリグリとゴールに迫っていくエネルギッシュなランニングと、意外にも?精度が凄い右脚の一振り。そしてACLで見せたようなシュート前の動き出しの良さの部分だと思います。一方で結構トラップが大きめでタッチが細かくないあたりはザ・ヨーロッパの選手という感じ。走りや動き出しはあると思いますが細かい方向転換やアジリティが抜けている感じはなく、全体的に細かい展開が連続するJリーグのサッカーとの相性は微妙なんじゃないかな?というのが個人的な印象でした。実際、ある程度スペースがある局面ではゴールに向かって効果的に動き出してシュートまで持ち込むような姿が見られましたが、狭い局面を任せてもあまりできることはありませんという感じでしたし。

スペースと時間がある程度あれば、もしくはファーストタッチがいい感じに決まれば、周囲を使いつつ自分の動き出しの良さも活かしながらプレーできるし、右脚が振れさえすれば高精度のシュートを飛ばせる選手なので活躍のポテンシャルは感じるのですが、リカルドのサッカーではそもそも監督がオープンな展開を嫌う志向でしたのであまり活躍できるシチュエーションが試合の中になかったんじゃないかと思ったり。そういう意味ではスコルジャ体制ではもう少しオープンな状況でスペースを享受できる場面もあるんじゃないかと期待です。ポジションは左SHかトップ下が合っている気がしていて、流動的に中央にポジションを移しながらゴールにアタックするのは最も得意とするところ。昨季はもどかしかったでしょうが、今季はもう少しフィットしやすく、武器を発揮してレッズの攻撃オプションになってくれるのではという期待があります。

ちなみに、キャリア晩年は古巣のNACブレダに戻ってプレーしたいようで、NACブレダも同様にシャルクの帰還に期待している様子。引退の準備をする前にぜひにJリーグで一旗あげてください。よろしくね。

19    岩尾 憲

リカルドの「求める全てを持った選手」・リカルドサッカーの伝道師として33歳にして浦和レッズへとたどり着いたピッチ上の哲学者。ビルドアップにおける論理性の高い組み立て、特に味方を使って自分が3手目にオープンになるようなボール回しを一人で実現していく様はまさに異能。中距離・長距離のパス精度に加えてセットプレーでのキッカーもこなし、気づけばリーグ戦29試合2,396分のプレー、全公式戦では43試合3,531分と完全なる大黒柱となりました。

僕もそういう傾向があるのでなんとなく感じるのですが、岩尾はたぶん好き嫌いではなくて脳みそが自動的にいろんな事象や経験、観察して見えたものを繋げて無限に思考が続いてしまうタイプの人なんだと思います。それを支えるのはやはり高い言語能力で、徳島時代は岩尾節どころか岩尾ハラスメントと呼ばれていた長文インタビューは浦和でも名物に。常識人らしくうまく言葉を選んだりぼかしたり抽象化したりしているのですが、それでも僕たちのようなチームの状況に少しでもリーチしたい人々にとっては非常に興味深い餌を撒いてくれました。

とはいえすべてが上手くいったわけではなく、本人が警戒していたように序盤は「徳島時代のリカルドサッカー」と「浦和のリカルドサッカー」の在り方、ギャップに悩むことに。徳島でやってきたことを知っているから呼ばれたのに、いざ来たら徳島の時と違うことやってんじゃん!という悩みは確実にあったはず。本人も言葉では「徳島と浦和では当然違う」とは言いつつも、彼が経験してきたことを活かしてもらうために呼んだのですからベースは徳島での経験だと思いますよね。いや結構違うんですよじゃないがって感じだったと思います。お疲れ様です。

――監督が言うように、チームに慣れるのに時間がかかった、という感覚はあるんですか?

「ありますね」

――それは、チーム自体に対してですか、それともサッカーのスタイルに対してですか?

「すべてですね」

(中略)

「リカルド監督のサッカーは遅攻で、ボールを繋いで相手を崩していくスタイルですが、それはファン・サポーターから求められているんだろうか、こだわり続けることが正しいのだろうか、と考えさせられた時期がありました」

 岩尾がさらに言葉を続ける。

「レッズに来るにあたって、『自分はこういうことを求められているんだろうな』とある程度考えを固めてきたんですけど、蓋を開けてみたら、『これはちょっと違うかもしれないな』って。自分が考えていたことと周りが自分に求めていること、自分の特徴や仕事を整理するのにすごく時間がかかったというか、もがく時期がありました……簡単にまとめてしまったので、なんのこっちゃ分からないですよね(笑)」

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シーズンを消化するにあたって岩尾の中でも「浦和レッズの選手としての自分像」というのが出来上がったようで、それがだんだんとプレーに還元され、そうして新しい岩尾憲が形作られ、そうして結局リカルドが退任するにあたっても浦和でのチャレンジを続けるという決断に繋がったのかな、という気がします。

「自分が一人の選手として、浦和でどうありたいかが僕の中でばしっと固まったというのが大きな要因としてあります。だからこそ、勝ち続けたい意欲がいま強いんです。それはACLでもJリーグでもルヴァンカップでも同じで、まずは次の試合に勝ちたいし、勝つためにどうするか自分で考えて準備しなければいけないので、そこにウエートを置いています」

soccermagazine.jp

具体的なプレーの面ではやはりビルドアップにおける解決策・引き出しの数は他の選手とは明らかに違いがありました。またリカルドが好むゆっくりとした、時間をかけた前進が出来るのは浦和では岩尾だけだったのかなと思います。平野にしろ柴戸にしろ安居にしろ、岩尾ほど時間をかけて前進できる選手ではなかったのでリカルドとしてはこれまでの経験も含めて信頼感が違っただろうなと。そんなわけで特にシーズン後半は前に出る敦樹とアンカー役をこなす岩尾のコンビが固定され、それにつれて岩尾はかなりタフなシーズンを戦うことに。ACLのタフな戦いはかなりきつかったようですが、それでも大きなけがなくシーズンを走りぬいたことは称賛に値すると思います。

こうした経緯や誰もが知ることとなった岩尾のキャラクターや責任感を踏まえると、名実ともにリーダーシップのさらなる発揮が求められそうな来季ですが、スコルジャ体制では監督のサッカーとの圧倒的親和性という大きなアドバンテージを失うことに。彼のプレースタイルの場合年齢は技術や経験である程度カバーできるのでしょうが、明確な弱点としてそもそも足が遅いというのがあるので全体をがっつり押し上げてプレッシングに出る戦術にどこまで対応できるかは未知数。高いポテンシャルを有する安居や無理めな仕事をさせたら日本代表級の柴戸との争いは結構激しくなりそうです。

岩尾本人のキャリアに目を向けると、そもそも湘南でプロデビューした際に走るサッカーと特徴が合わず怪我も多く全く目が出なかったという苦い記憶があるはずで、まさかこのキャリア晩年でこういうサッカーをやることになるとは思っていなかったかもしれません。とはいえリカルドが退任する時点で、またフットボール本部が本来目指したいサッカーを実現させる中でこうした齟齬があるのは明らかだったはずで、こうした歪を飲み込んででも岩尾に期待するものがあるからこそ、同時に本人も感じる部分があるからこその完全移籍なのでしょう。ぜひ自信をもって、部長への昇進を狙ってほしいと思います。

20    知念 哲矢

昨季FC琉球からめんそーれした中堅左利きCB。2021年シーズンの僕の注目選手の一人だったこともあり、個人的にはわくわくの新加入でしたが、ふたを開けてみれば公式戦出場はたった12試合、603分のプレーに留まり悔しい結果に。ACLで2ゴール、リーグでも1ゴールと謎の得点感覚を発揮しインパクトを残したものの、特にシーズン前半はリーグ戦のプレータイムが1分のみと全く試合に絡むことができず、犬飼の怪我でCBの選手層が早々に薄くなってしまったチーム状況を踏まえると彼にとってはかなり悔しかったはずです。本格的に出番が回ってきたのはショレが不在だった7月30日の第23節ホーム川崎戦、続く第24節アウェー名古屋戦で、それぞれフル出場。初先発となった川崎戦では若干危なっかしく、また緊張していた感じながらも無難にゲームをまとめましたが、名古屋戦ではエリア内で股を通され失点、前半終了間際に浮き球の処理ミスからカウンターを受けて失点と2失点に絡んでしまい勢いに乗ることが出来ませんでした。

本来の彼の特徴はビルドアップの上手さ、特にサイドへの展開の大胆さ・精度の高さと、力強い対人守備なんですが、昨季のプレーは緊張なのかJ1対応に苦労したのか、能力を100%発揮したとは言えないパフォーマンスでした。僕の感覚では70%くらいしか出せていないのではないでしょうか。特にビルドアップにおいてサイドにつけるボールは今季一度も見せることがなかったので個人的には残念でした。コメントではリカルドのサッカーで必要なビルドアップのボールの回し方が琉球時代と結構違ったということを言っていたので、そのあたりの対応力は今後問われるかもしれません。

というわけで本領発揮を目指したい2023年シーズンですが、相変わらずセンターバックの競争は知念にとって厳しいものとなりそう。今季新加入となるホイブラーテンは同じ左利きでサイズもスピードも経験も上と完全な上位互換となりそう。クラブとしては左利きCBに質の高い助っ人と中堅日本人選手を擁する陣容は充実していますが、知念にとっては完全に蓋をされる形。ホイブラーテンの稼働率がわかりませんが、場合によっては2023シーズンも出場時間の確保は難しいかも。ショルツが右も左も関係なくできてしまうので、ホイブラーテンどうこうがなくてもショルツ-犬飼のコンビが立ちはだかるというのがただでさえ厳しい競争の難易度を上げています。個人的には期待している選手なので、少ないチャンスを活かして監督の信頼を掴んでほしいところ。

21    大久保 智明

プロ2年目となった昨季は公式戦出場35試合総プレータイム1,993分とまずまず。2021年シーズン同様ゴールは物足りないものの、印象的なアシストや突破は多く定性的にはブレイクスルーと言っても良いほどプレーに自信を持てたシーズンだったのではないかと思います。昨季の大久保はプレータイムに大きな特徴があり、リーグ戦のプレータイムの82%が17節以降の後半戦に固まっています。具体的には5月18日の第11節ホームマリノス戦でキャスパーの3点目をおぜん立てした突破(凄く昔のことに感じます)が彼の評価を一段上に押し上げ、6月18日のホーム名古屋戦に初先発、6月26日の第18節アウェー神戸戦でドリブル突破が完全にチームの武器になることを印象付け初めてのフル出場。5月~6月にかけて一気に信頼を掴み、昨季のベストメンバーが固まる中に滑りこんでプレータイムを伸ばしました。

面白いのは大学時代の主戦場だった右サイドではなく左サイドでプレーする機会を多く得たことでしょう。リカルドは控え組を多く使う場となったACL・GSの連戦あたりから大久保を左サイドで試しており、地道に左サイドでの起用を続けていました。リカルドにどんな意図があったのか知ることはもはや難しいのですが、こうした起用があったおかけげで大久保はもうやんと共存することが一時的にも出来たわけで、本人がよく言うようにリカルドのおかげで幅が広がったということが言えると思います。ちなみに数試合・限られた時間だけトップ下でも出場していましたが、この経験は今度はスコルジャ体制で生きるかもしれず、右サイドからカットイン主体で仕掛けるだけのドリブラーにならなかったのは彼のキャリアにとっては非常に重要なことだと思います。

プレーの面ではやはり最大の武器であり生命線のドリブルがJ1レベルでも十分通用するという自信を得たことが大きいと思います。股抜きや二人の間を割って突破するドリブル、重心の乗っている足のすぐ横にボールを通してすり抜けていくドリブルなどテクニカルにキワキワを攻めていく挑発的なスタイルは面白いように相手選手を引き付けてくれ、しかもうまくいけば集まった相手を一人で料理してエリア内に侵入していけるのは大きな魅力です。

逆に課題は突破した後のプレー、特にフィニッシュワークの部分で、今のところプロレベルではインパクトのあるフィニッシュは見せられていないと思います。サイド深い位置からエリア内に侵入して相手守備組織を破壊した後にアシストを供給するというのは海外挑戦前の関根を思い出させますが、ここからさらに一段上に行くには自分でゲームを決めていく能力、フィニッシュワークに残すパワー不足という現実と向き合わなければならないかも。また今季のスコルジャ体制のことを考えればプレッシング強度・攻撃時だけでなく守備時のポジショニング・戦術理解の部分でも後れはとれません。

左利きのドリブラーということでもうやんや松崎との競争とみられがちですが、彼の場合は右サイドにこだわらずにプレーできるのが強み。中央でもプレーできる存在として松尾とどちらが価値を示せるかという競争もあるのかなと思っていましたが、報道通り松尾が欧州挑戦を決断する感じになるなら、大久保の爆発への期待感、やってもらわないと困る感は今後も高まるばかりとなりそうです。

22 柴戸 海

全世界に4,810万人の構成員を擁するとされる#急進的柴戸派が激推しする世界で唯一無二の魅力を持つポテンシャルと夢、ロマン、やさしさと愛、戦争のない世界への願いの塊。昨季は公式戦33試合出場1,596分出場となりました。数字が示す通り全く使われなかったかと言うとそこまでではないですが、阿部勇樹の背番号22を受け継いだ生え抜きの26歳としてはリーグ戦1,166分の出場は物足りないところ。2021年シーズンはなんやかんやでリーグ戦30試合1,971分もプレーしているので、期待に反して立場を悪くしたシーズンだったというのが正確な振り返りになると思います。昨季が始まる前の時点ではしっかり主力を張ってくれると思ったのですが、結果的には岩尾がチームとクラブにフィットするにつれて敦樹-岩尾のコンビが明確となり、またリカルド・レッズのベスト布陣が固まると8番として敦樹と勝負するのか6番として岩尾に挑むのか、どちらも柴戸にとっては良い勝負にならなさそうな競争を強いられることになってしまいました。

とはいえシーズン序盤はリーグ戦でもスタメン出場を多く勝ち取っており、リーグ戦プレータイムの67%が前半17節に固まっているのが特徴。5月25日の第15節アウェーセレッソ戦あたりから立場が悪くなり始め、7月から調子を上げていくチームとは裏腹にプレータイムを失っていってしまいました。根本的には柴戸どうこうよりも岩尾がフィットしたあおりを受けてしまったということだと思いますが、昨季は全体的に調子が上がらなかったというか、コンディション調整や試合勘の部分で上手くいかなかったのではないかなと言う印象で、2021年シーズン継続的に出場する中で減っていた意味不明なミスや印象の悪い決定的なファール、ミスが今季は出てしまっていました。例えば第10節アウェー川崎戦で川崎の逆転ゴールの起点となった脇坂のターンに一発で置いて行かれてしまったシーンとか、第23節ホーム川崎戦で橘田を倒してしまったPK献上とか。こう見ると両方とも川崎戦なのはただの偶然だと思いますが、ビルドアップや攻撃参加で特徴ある選手たちと競争している状況で失点に直接絡むミスがあったのはリカルドにとっては印象が悪かっただろうなと思います。

また、チームのベストメンバーが固まっていくにつれてサブとして出てくる柴戸がレギュラー組にフィットできなかったという話もありそうです。そもそも柴戸のサッカー選手としての最大の特徴は異常な予備動作の少なさで、普通勢いをつけたり重心をスイングさせて身体を運ぶようなシーンを足腰だけで解決することができるのが彼独特の寄せのキレ、そして良くも悪くもガチャガチャした身体操作に繋がっていると思います。この予備動作の少なさは相手からボールを狩る上では凄く大きな武器ですが、なんか最近パス交換とかボール保持で味方に自分のプレーを感じてもらうには不利なんじゃないかと思い初めました。一言でいうと予備動作が少ないが故に味方にもプレーの意図が伝わってないのではないかと。もともと「自分にしか見えてない系」のパスコースを狙うことがある選手でしたが、今季のプレーをみてるとあまり柴戸のプレーは理解されていないのかなと思ってしまうシーンが多くて気になりました。

気を取り直して今季に目を向けると、スコルジャ体制で求められる強度の高さやボランチの負担の大きさを考えると無理が効く柴戸はそこそこ評価を受けそう。特にプレッシングに前の選手を出した後に4-2ブロックで相手を凌がなければいけないシーンが結構ありそうで、もっと細かく言えば相手のチャンネルランへの対応はボランチに頑張らせるみたいなところもあるようなので、チームの約束事に忠実な柴戸の良さは発揮しやすそう。問題はビルドアップでの大きな展開や攻撃参加の部分だと思いますが、まだCHをどういう組み合わせにしていくのかははっきり見えない部分もあるので、それはおいおい。

個人的には阿部ちゃんの22番は阿部ちゃん以外の選手がつけても上手くいかない印象があるので、柴戸にはぜひこれを打破して柴戸の22番を確立してほしいところ。敦樹が欧州挑戦をするのは時間の問題だと思うので、そういった意味でもボランチの軸となることに期待です。

 

(下)に続く。

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