96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

アルヒラル予習メモ:アジアにおける絶対強者。彼らに「思い出させる」戦いを。

いよいよとなったACL2022Finalに備えて、アルヒラルの予習をしたのでメモしておくものです。

アルヒラルのサッカーの基本構造

直近の試合を文脈込みで見ておこうということで4月のリーグ戦を一応全部観ました。以下はその感想です。ただ日程が厳しいせいかラモン・ディアス監督による豪華メンバーのマネジメントか、結構試合によってメンバーが変わり、強烈な個性を持つ選手が多いゆえに起用されるメンバーによってサッカーも結構変わるので、参考程度になってしまうかもしれません。

  • 基本フォーメーションは4バック+3トップ。中盤の3枚はたいていの場合逆三角形だが、展開によっては2ボランチに見えることも。
  • 得意な攻撃パターンはサイドでの2on2か、トップに当ててからの中盤の選手によるエリア内突撃。特にサイドでの2on2の重視はラモン・ディアス監督の色が濃く出ているように感じる。
  • 強さの根本は球際の強さ。単純にぶつかり合いに強いということだけでなく、ボールを隠す技術、足先でボールをコントロールして相手のチャージを躱す技術なんかも含めて、とにかくボールをめぐる対人攻防が本当に強い。しかもほぼ全員これが強い。感覚的に、全盛期のレオシルバくらい球際が強い人が常に7人はピッチにいる。つまり、相手からは簡単にボールを奪い、逆に自分たちのボールは簡単に失わないことが彼らのサッカーの根本的な前提となっている。
  • 普段のリーグ戦で何が起きているかと言うと、(そもそもサウジリーグのチームは前線に強力な外国人選手を擁するチームが多く、強度的にも気候的にもプレスが得意なチームがほぼないという事情もありそうではあるものの)ヒラル相手にプレスに行っても上記の球際の強さでボールを奪えない、しかも下手に最終ラインをヒラルの前線に晒すと、ロングボールやトランジション一発で最終ラインが化け物アタッカーに晒されて瀕死のピンチに陥ってしまう、従って対戦相手は下手なことはせずラインを下げる。結果的にヒラルがボールを保持して相手を押し込む。ボールと人が敵陣に揃えば、ヒラルは得意のサイドでの2on2もエリア内突入も安定して発動することが出来る。
  • 加えて、ボールロスト後のカウンタープレッシングは強くチームに意識づけられており、失ったボールに中盤の選手が襲い掛かるシーンが非常に多い。結果的に一方的なハーフコートゲームを多くの試合で実現し、極めて高いボール保持率を多くの試合で記録することに。
  • というわけで、アルヒラルはリスペクトされることにあまりにも慣れているチームと言える。相手が彼らをリスペクトするのはもはや彼らにとってサッカーをする上での前提とも言える。
  • こうした展開が多いからか、IHの選手は中盤の選手と言うにはあまりにも攻撃的なプレーをする。どのゲームでも前方へのプレーが非常に強く、迫力がある。特に相手のビルドアップへのプレッシングを行う局面では、選手の組み合わせにもよるがトップのイガロを追い越して第一プレッシャーラインを形成し相手ボールに向かっていく。IHを務める選手によっては2枚のIHがイガロと3トップを形成しているかのようなプレッシングを行うことも。その分、両WGの選手は低めのラインで相手のサイドの選手をケアしつつIHのプレッシングを眺めて休んでいる。
  • 当然、その裏には弱点となる部分もある。特に前に出たがる中盤の背後のスペースは傲慢な程に空いているように見える。ただしそれはヒラルも織り込み済みで、#20チャンヒョンスを筆頭にCB陣が3バック並みの迎撃を行う。そのためラインは基本的に高め。
  • このように観ていくと、中盤より前の超強力外国人選手が警戒されているものの、#20チャンヒョンスこそがこのチームの構造的な鍵を握っているように思える。フィジカルとアジリティのレベルが高く広大なエリアをカバーできる強みを活かしてスペースが空きがちな中盤の底をサポートしつつ、相手FWの裏抜け対応も請け負い、マイボールで押し込んだ状態ではアンカーと一緒にボール保持をコントロールできる#20チャンヒョンスの縁の下のユーティリティはこのチームに欠かせない。サウジ代表CB陣(サウジの吉田麻也こと#5アルブライヒ、24歳サウジ代表の次世代#4ハリーファ・アル=ドーサリ、青森山田のCBっぽい#70ジャフファリー)も強力ではあるが、#20チャンヒョンスの役割を代替するのは難しそう。
  • ヒラルの失点シーンのいくつかは、こうして迎撃に出るCBが相手FWを潰すのに失敗し、その裏のスペースをさらに突かれたもの。特に#20チャンヒョンスを引き出したうえで外せれば、それは文字通り千載一遇の大チャンス。その一発は確実に決めたい。
  • 中盤より前の選手たちは普段前方へのプレーばかりしていればよいゲームが多く、特に試合後半はネガトラ直後のカウンタープレッシングを外されるとあとは最終ラインにお任せモードになる傾向があるものの、さすがに経験豊富な選手が多いだけあって「ここを行かれるとヤバい」というシーンでは持ち前の球際の強度で思いっきりボールホルダーを潰してくる。ということで、アルヒラルは押し込まれてブロックを組むと普通に堅い。
  • 単純化して言えば組織力(戦術)の浦和、個人の質のアルヒラルと言いたくなるが、正直#19カリージョや#28カンノといったサボり屋が目立つのとヒラルが前向きにプレーするのが得意すぎるだけで、サウジ代表での頑張りをみてもヒラルの選手の多くはやろうとすればちゃんとできる選手たち。特にボール保持では強度や連続性は別にして取った方が強い場所はちゃんと取ってくる。ただ相手がヒラルをリスペクトして勝手に引いていくので、特に自陣の守備なんかはあまりちゃんとやる必要がないだけにも見える。とはいえ、基本的に自分たちが勝つと思っているので、相手のことは舐めているだろうけど。
  • なお、球際の強さとも関係するが、ファール数はかなり多い。ファールで試合が止まればまたセットして前向きにプレーできるので、ファールはヒラルがヒラルらしいゲームをする上で重要な要素の一つとすら言える。
  • セットプレーはあまり工夫しないように思う。シンプルに質で勝負。僕が観たのがリーグ戦だからかも?ちなみに0-3で完敗したアルシャバブ戦では、エリア内へのクロスと見せかけてバイタルに転がしてミドルを撃つパターンのデザインプレーにきれいに全員外されて失点していた。浦和もナンバープレーは用意しているはずで、どんどんカードを切っていく価値があるはず。前迫さんお願いします。

 

アルヒラルの主力選手

 まずは前線から。

  • #9イガロ:特徴はビンビンの睫毛。相手を背負ってのポストプレーが強くて上手い。サウジリーグの屈曲なDFも普通に背負われて時間を作られている。あまりサイドに流れたりはしない。クロスへの反応は普通?シュートはもちろん上手いのだけど、そもそもの役割はポストプレーヤーのように感じる。もちろんチームのトップスコアラーなので重要な警戒対象なのだけど、彼の得点を警戒するというよりは、高性能の動く壁として警戒すべきな気がする。彼が時間を作ったりゴール前に構えてマークを集めていることそのものがヒラルにとっては重要なのかも。ともかくこの役割をサウジ人選手は代替できないので、彼はなるべく外したくない。仕事柄ファールされることも多いが、あまりキレたりせず相手選手とコミュニケーションをとるシーンも多く、性格が良さそう。
  • #17マレガ:ビースト。身体の幅と厚みがおかしい。しかも速い。そしてポジショニングや走りこむ場所も良い。大外に張ってロングボールを引き出し起点になるだけでなく、内側に入ってのいわゆるチャンネルランも得意。とにかくこいつに走られると止められない。イガロの代わりにトップに入ったり2トップを組むこともあるようだが、どう考えても右WGでプレーされる方が嫌。普通のSBじゃ轢かれて終わる。唯一、静止から相手を外してどうこうするプレーはあまり得意でなさそうなので、スペースを消したい。ただそうするとラインを下げることになり押し込まれる。後述の右SBアブドゥルハミドとのコンビが凶悪。
  • #96ミシャエウ:小柄なドリブラー。アジリティ・スピードともにハイレベル。ボールが足にくっついてる系の選手で、ギザギザに方向転換しながら相手を振り回して抜いていくのが得意。彼もまた球際の鬼で、コーナーフラッグ付近に追い込まれてもギャギャっと躱してエリア内に入り込んできたりする。マジでなかなか止まらない。両サイドでプレーできるヒラルでは数少ない選手で、ラモン・ディアス監督は好んで使っている感もある。ここ一か月過密日程だったチームで好調を維持している数少ない選手だが、浦和の選手にとってはマレガよりは対応しやすそう。ただエリア内につっかけてきてファール、PKを取れる選手としても重宝されているので、その点は注意。普通に考えてイガロとマレガが優先だが、どちらかがコンディション不良なら選ばれるか。3人目の外国人に彼がなるかというと、どうだろう。
  • #10ビエット:ライン間の魔術師。両WGに加えてトップで起用される試合も。主戦場はどちらか(左が多い?)のWGだが、とはいえサイドに張っていることはほぼなく、だいたい中央に陣取ってイガロの後ろでシャドーっぽくプレーする。ライン間でボールを受けてトラップビタ止めからの素早いターンが得意技。浦和ファン的には武藤っぽい選手と言えばイメージが湧くはず。イガロに当ててエリア内に飛び込んでいくプレーが強い。狭いエリアでプレーできるので、相手がべた引きしてくる展開のゲームでは#29サーレム・アル=ドーサリと並んでヒラルの重要選手となっている。逆説的に言えば、#29サーレム・アル=ドーサリが使えるなら外国人枠の制限がある中でわざわざビエットを使うことはなさそう。
  • #11アル=シェフリ:ヒラルのロマン枠。左WGかトップで起用されていることが多い気がする。184cmの高身長ながら足元でボールを受けるのが好きそうで、左WGでプレーするときは特に魅せプっぽい時がある。ただドリブルや足元の技術は普通に高い。トップでプレーしているときの方がいい選手で、際どい所に飛び込んでくる。リーグ戦では後半60分以降に上記の外国人選手との交代で登場することが多いが、枠の関係があるので決勝では左WGでのスタメンもあり得るか。
  • #29サーレム・アル=ドーサリ:浦和との決勝での対戦も三度目となるヒラルのレジェンド。サウジアラビア代表の10番としても有名で、日本でもアル=ドーサリといえばこの選手を思い浮かべる人も多いはず。既に31歳になっているがトップコンディションなら動きのキレは目を見張るレベル。総合力の高いアタッカーで、特にトップの選手に一度ボールを当ててからエリア内に突っ込んでくるプレーが強力。起用されるなら左WGもしくはIHだが、左WGだとしても中盤に頻繁に降りてきてボールを一度さわり、ドリブルで少し相手を動かしながら展開orトップに当ててという感じでプレーするので、彼がやることはあまり変わらない。カウンタープレッシングの強度が高いのも需要なポイント。スペインで活躍できなかったのが不思議なレベル。2017年決勝は埼スタで退場したが、2019年の優勝で埼スタへの嫌なイメージはもはやないか。

誰も怪我をしていないなら左から#29アル=ドーサリ、#9イガロ、#17マレガが一番厄介ではないかと思いますが、どうなるか。#17マレガが無理なら#96ミシャエウの可能性もあるかも?#11アル=シェフリも少なくとも交代でゲームに出てくるでしょうね。

 

次に中盤。

  • #19カリージョ:言わずと知れた関根の因縁の相手。髪型がずっと変わらないので見つけやすい。最近の試合は全て右IHで起用されている。前回対戦した時よりも少しからが分厚く大きく、そして重くなったかも。とはいえ重要な一瞬では持ち前の機動力と身体の強さを発揮する。そうでない場面では引いてボールを受けて、やたら浮き球でパスをしている。#28カンノもそうだが、前へのプレーはめっちゃ強いが、保持でボールに寄る以外の後ろ向きのプレーは必要な時だけという感じ。特に非保持では最前線までプレスに出るが、行ったっきりとなることも多い。セットした状態の守備でも目の前の相手はケアするが、スライドはめんどいっぽい。普通に考えて後述の#6クエジャルの方が中盤の構造・安定のために重要な選手だと思うが、この選手の場合中途半端なプレスやチャージは全て無効化してボールを前へ運べてしまうので、浦和が対処できるかどうかという意味では相変わらずきわめて厄介な選手。対浦和ということや、ヒラルが押し込む前提でラモン・ディアスがあえて彼を起用する可能性は捨てきれない。
  • #6クエジャル:元コロンビア代表。イメージは赤ひげの遠藤航。主にアンカーとしてプレー。サイズはないが機動力と球際の強さ・そしてオンザボールの技術を併せ持ち、中盤の底でビルドアップなりプレスに行った選手たちの後始末なりをひたすらこなしている。ただおそらくダブルボランチの一角でプレーする方が得意で、アンカーとはいえIHたちのノリプレスについて行ってかなり高い位置まで平気で進出していくため根っからのアンカーというわけではないと思う。ヒラルの中盤の底はビルドアップがあまり上手くないサウジ人CBの介護をしつつ、前に行ったりボールに寄ったりするIHとのバランスを取る必要がある難しいポジションなので、彼はなかなか外せないんじゃないかと想像するところ。ただ前述の通り試合展開を見越してあえてカリージョを起用して、中盤の底は#8オタイフに任せてしまうという判断もあるかも。南米の選手らしく?相手を見ながらプレーできてずる賢さもあるが、わりとヒートアップしやすい性格。
  • #7アル=ファラジ:左利きのプレーメーカー。この人もヒラル歴が長く、2008年からずっとヒラル所属。埼スタでも何度もプレーしており雰囲気に呑まれることはないはず。4月の試合ではベンチスタートが多かったものの、チームで最も計算できる選手の一人であるはずなので外国人枠の制限がある中ではスタメン濃厚か。ビルドアップで降りるだけでなく前に出て行ってプレーすることも出来る。#19カリージョのような理不尽な前進はないが、より組織的な規律を持ってプレーできる選手なので、見方によってはこの選手が出場している方が良いチームに見えたりする。
  • #8オタイフ:#7アルファラジと並んで中盤の古株の一人。ヒラルの他の中盤の選手と比べると地味な印象だが、ボール保持を安定させるポジショニングやボールスキルは非常に巧。#7アルファラジと一緒にプレーしたときの阿吽もあるので、この二人を起用して外国人枠にカリージョを使い、浦和を殴り続ける作戦が出来るのがずるい。
  • #28カンノ:サウジアラビアのポグバ。でっかくて足が長くて技術がある。プレースタイルはカリージョと似ていて前へのプレーがめっちゃ強いが自陣向きに走るのはめんどい感じ。サウジアラビア代表ではダブルボランチの一角でもプレーしていた印象が強いが、ヒラルではIH専門?ボール保持時のプレー傾向としてボールにめっちゃ寄ってくるパターンと、パラレラ的にサイドに流れて深い位置を取りに行くパターンがある。特にサイドに流れていくパターンで彼にボールが入ると簡単に奪えないので、彼を起点に押し込まれるのが面倒。ガチャっとなっても足先で繋がれて次の選手がオープンになってしまうのが特に嫌。いくら傲慢なヒラルでもカリージョとカンノの同時起用はないのではないかと思うので、彼の出場は間接的に外国人枠をどう使うかに影響を受けそう。とは言えベンチには入るだろうし、無視できない存在。

中盤3枚のフォーメーションなのにこの選手層はただのズル。#29サーレム・アル=ドーサリをIHに使うパターンもあるので、スタメンを読むのは難しいところです。第1戦はホームなので押し込めると踏むのであれば#7アル=ファラジ、#19カリージョ、#8オタイフの3枚が一番浦和にとってやっかいか。これでもカンノをベンチに置いておけるわけで。全く違うパターンでは#29サーレム・アル=ドーサリ、#28カンノ、#6クエジャルというのも強いですね。

 

最終ライン。

  • #12アル=シャハラニー:激巧アフロ。個人的には#29サーレム・アル=ドーサリと並んでアルヒラルと言えば、という印象の選手。球際の技術がめちゃくちゃ高く、50:50のボールを絡めるようにマイボールにする印象。左利きにもかかわらず右足の使用頻度も高く、キープ力が高い。「預けて前へ」を積極的に狙い、高いクロス精度は何もないところからゴールを生み出すめちゃ面倒な選手。ただ大怪我から復帰している最中でコンディションは明らかに万全ではない。
  • #2アル=ブライク:ブレイクなのかブライクなのか自信がないけれど、この選手ももはやお馴染み。前は右SBだったと思うが最近は左で起用されている?#66アブドゥルハミドが非常に良い選手なので序列的に押され気味なのかもしれない。とはいえ高い攻撃性能に加えてサウジアラビア代表とアルヒラルでの経験値を持ち合わせており、ポジショニングやゲームの読みが上手い。これまでの浦和との対戦でもファールを誘ってゲームを止めたりといろいろやってくる曲者的な側面がある。
  • #66アブドゥルハミド:ヒラルのビーストその2。めちゃくちゃ身体が分厚く、171cmとは思えないほど大きく見えるうえに、加速力もトップスピードも魅力的。プレースタイルは柏時代の酒井宏樹を彷彿とさせるダイナミックな攻め上がりと鋭い右足のクロスが武器。基本的には大外を駆け上がってクロスが得意なはずだが、マレガと組んでいるためマレガの立ち位置に合わせてインナーラップも披露する。低めの位置でボールを引き取ってドリブルでタッチライン際を運んでいくこともできる。まだ23歳で将来性もあり、今回ヒラルの予習をして一番の発見となった選手。#17マレガと彼が組み、下手したら#19カリージョや#28カンノが流れてくるヒラルの右サイドは文字通り化け物の巣窟。
  • #20チャンヒョンス:基本構造のところで触れた通り、アルヒラルの構造上の肝。彼がいるから中盤より前で多少歪な選手配置をしても、IHがプレスでどこかに行っても成立している側面が大きいはず。打撲でコンディション不良の情報もあるが、基本的には出てくるものと考えておくべきか。もともとJリーグでプロデビューしており、2019年のACL優勝メンバーであることから日本人選手との対戦も明確にイメージできているはず。カバーエリアが広いことを逆手にとって彼を引っ張ってその裏を使いたい。

最終ラインは外国人枠対象選手がいないので、単純にコンディションでメンバーを決める感じでしょうか。4月の試合を観た感じでは過密日程の影響か最終ラインの選手もかなり変わっていたんですが、右SBの#66アブドゥルハミドは間違いない気がします。#20チャンヒョンスが使えるならこれも確定で、もう一枚のCBは直近連続スタメンの#70ジャフファリーか、経験をとって#5アルブライヒあたりが組むことになるかという感じ。左SBは第1戦#12アル=シャハラニー、第2戦#2アル=ブライクという使い分けもあるかもしれません。ちなみに#16ナセル・アル=ドーサリという24歳の左利きSBもなかなか良かったです。

 

浦和レッズとの噛み合わせと対策

で、結局戦ったらどうなんのよということで、思いつくままに書いてみます。

  • 浦和のスタメンはいつも通りで、酒井が先発復帰、明本が左に戻ってトップにはまず興梠を先発させると予想。ここまでスタメンを固定してきて、信用できる選手というのはある程度決まっているはず。またすこはACL決勝を、キングファハドスタジアムの雰囲気を知っている選手をまず使うのではないかと予想。
  • ヒラルは#1アルマユーフ、#12アル=シャハラニー、#5アルブライヒ、#20チャンヒョンス、#66アブドゥルハミド、#8オタイフ、#7アル=ファラジ、#19カリージョ、#29アル=ドーサリ、#9イガロ、#17マレガを予想。第1戦ホームということで押し込む前提で#6クエジャルではなく#19カリージョかもなと。
  • #96ミシャエウを左で起用し、#29アル=ドーサリや#28カンノを中盤に置くパターンもあるっちゃある。個人的には#19カリージョが出てくる方が嫌だけど。
  • やはり厳しいのはヒラルの右サイドと浦和の左サイドのマッチアップになりそう。#17マレガだけでも厳しいのに、#66アブドゥルハミドも強力で全く無視できない。しかもこの二人は連携も良い。ということで左サイドのディフェンスは敦樹にヘルプさせようとすると、今度はIHにスペースを与えることに。中盤でボールホルダーが前を向くと速攻で#9イガロに縦パスが入りエリア内突入コンビネーションを食らってしまう。#19カリージョまで出場していたら文字通りてんやわんやになるかも。
  • 逆にヒラルの左サイドvs浦和の右サイドはあまり心配が要らない気がする。#96ミシャエウが出てこない限り純粋なWGが大外で仕掛けてくることはなく、中央に入ってきたい選手が前にいて、後ろから左SBが大外を取る比較的単純な構造なので、酒井のコンディション問題があるとはいえヒラルの右サイドどうする問題よりは状況がだいぶましか。ただIHに#28カンノがいると左サイドに流れて起点になるパターンがあるので厄介ではある。
  • #9イガロに単独でやられることはあまり想定しなくてよいと思うので、右サイドの2on2とIHや#29アル=ドーサリを使った中央突破をまずケアしたい。そうなるとずっと4-4-2のブロックで戦うのはあまり効率的ではない。ヒントになるのはヒラルにシュート26本を撃たれながら13本のシュートを撃ち返して結局1-0の勝利を収めたアルバーティンのやり方で、4-4-1-1を基本にしつつトップ下が守備時IHとして中央を埋める変形4-5-1の形。中央に3枚用意しておけばSHがあまりスライドを気にせず自分のサイドの守備に集中できるのが強み。さらにヒラルのIH2枚を中央3枚でケアできるので#9イガロ当てからのエリア内突入攻撃に対してもまあまあ防御が効きそう。ただし、必然的に佳穂を守備時IH的に運用することになるので、プレッシングは諦めることになる。
  • もしくは、より浦和的なのは4-4-2をベースにミドルプレッシングを狙いつつ押し込まれたら右SHを落として5バック(5-3-2)化する形か。押し込まれたら明本を左WB的に運用し、マリウスにいわゆるポケットをケアさせればヒラルの右サイド2on2への対策になるはず。この場合カウンターを頑張ってほしい右SHの立ち位置が下がるのが懸念点だが、いざとなれば5-4-1で固めるところまで変形できるので特に第1戦には向いているかもしれない。
  • いずれにせよ、何かを得るためにリスクをかける必要があるとしても、自陣に穴を開けたら一発で終わる可能性が高いので、少なくとも非保持ではあまり無茶する必要がない構造を用意したい。
  • ヒラルのプレッシングは、誰が出場するかにもよるが前述の通りIHを最前線に出す傾向がある。セオリー通りにいけばIHの背中が空くのだが、ヒラルの選手は全員球際が鬼で相手ゴール方向にプレーするのは大得意なので、対峙する浦和の選手は引きつけるのがかなり怖いと思う。ビルドアップはボールホルダーがどれだけ次の選手に余裕を繋がるかが肝なので、ヒラルの選手の迫力や球際を恐れてしまうとただの爆弾ゲームになってしまうかも。西川を使ってボールをある程度逃がすことができたとしても、うまく外して相手の急所にボールを届けるまでいくかはわからない。ただ少なくともCB2枚だけでビルドアップしようすると簡単に枚数が合ってしまうので、当座のリスク回避で少なくとも岩尾を頻繁に降ろすことになるか。徹底的にやるなら佳穂をボランチまで落としてリカルド式でボールを動かすことになるが、事故ったら大会が終了する恐怖にどこまで立ち向かえるか、メンタルの勝負になるかも。最大の敵は恐れ。佳穂が上手く引き出してボールを逃がせれば、浦和のテンポアップをヒラルは嫌がるはず。
  • ヒラルの選手は自陣ゴール近くで危ないと思うと割と簡単に滑るので、局面の人数が一人か二人少ないくらいならキックフェイント一つで状況が変わる可能性は大。もしくはビルドアップでIHの選手を置き去りされるとその後バイタルのケアが0になりがちなヒラルなので、マイナスのボールから敦樹か佳穂あたりが主人公ミドルをぶち込むのを見るのが俺の夢なんだよ。
  • ヒラルの最初のプレッシングを上手く外せれば、ある程度中盤の底とCBでボールを持てるはず。ヒラルのもう一つの弱点はSBの背後のボールへの対応で、特に枚数が揃っているときは裏抜けに誰が対応するか曖昧になることも多い。基本的に相手ゴール方向に走ることしか考えてない人たちなので、自陣側に走るプレーの精度はそこまで高くない。特に枚数が揃っていると「お前やっとけよ」的なサボり方をする選手もいる。ということは、マリウスや岩尾のロングボールを相手サイド奥に落としていくのは低リスクなわりに面白いチャレンジかもしれない。ただ構えてるところに落としても難しいので、できればビルドアップで相手の中盤を動かしてヒラルのCBに迎撃を意識させてから(相手の最終ラインを少し乱してから)裏に落としたい。
  • とはいえ、押し込まれた展開からのポジトラで安易に繋ぎに行くのは非常に怖い。冒頭に記したようにアルヒラルの選手たちは相手にリスペクトされ、押し込み続けるゲームをすることに非常に慣れていて、カウンタープレッシングの意識と強度は非常に高い。自陣ゴールに近い場所で球際の攻防に持ち込まれるのはなるべく避けたい。特に第1戦はクリア優先でも全然問題ない。ただ、繋げるところも放棄してしまうとヒラルの得意なゲーム展開になってしまうのが悩ましい。
  • また、ファールをされてもあまり気にしないことも重要。ファールの多さは彼らの戦術的要素で、球際に強くいって相手に自由を与えないことが強さのベースであり、結果的にファールになってもゲームは止まるので自分たちはセットした状態からゲームを再開できるという二重にお得な構造になっている。逆にこっちもファール上等で戦って相手をイライラさせるくらいの闘争心を持ちたいところ。お前たちの中に眠る北関東を解き放て、今日がその時だ。
  • いや待て明本、喉輪はだめだ。
  • 最後にセットプレー。ファールは少なくない数を貰えるはずなので、何か準備しておきたい。エリア内にフィードと見せかけてグラウンダーからフリックのパターンなんかどうでしょう。逆にCKはあまり期待できないかもしれないけれど。

 

「思い出させる」戦い

最後に、ちょっとした独り言を。

  • 逃したタイトルに再び挑む時、スポーツの世界では「忘れ物をとりにいく」と言う言葉を使うけれど、では僕たちは2019年の決勝に何かを「忘れて」来たのだろうか?とよく思う。
  • 「忘れる」というくらいだから、「本当は持っていたはずだったものを」と言うニュアンスがそこにはあるはず。もしそうであれば、少なくとも僕にとっては2019年のアジア王者のタイトルは「忘れ物」ではない。
  • あのタイトルは逃すべくして逃したもの。当時の僕たちには相応しくなかったもの。悔しいけれどあの第2戦を観たときの記憶を呼び起こしても、今映像を見ても、そう思う。あの年の浦和にはアルヒラルを困らせる要素をほとんど持ち合わせていなかった。あの年のアジア王者のタイトルは「本当は持っていたはずだったもの」ではなかった。
  • では、「忘れ物をとりにいく」戦いでなければ、この戦いは何なのだろうか?
  • 上手く言えているかわからないけれど、「思い出させる」戦いではないかと僕は思う。「忘れた」のは僕たちではなく、彼らなのだ。
  • 簡単にアジア王者になれるわけではないことを、極東に粘り強く勇敢な赤い悪魔がいることを、埼玉スタジアムが彼らにとって世界で最も難しいピッチの一つであることを、彼らに「思い出させる」戦いなのだ。
  • とはいえ、客観的に観て彼らの方が戦力は充実している。戦力とは資金力だ。選手の市場価値は倍半分、チーム予算は何倍も違う。彼らはアジアにおける絶対強者だ。
  • とにかく彼らはリスペクトされ、支配することに慣れている。まるでサッカーが最初からそういうゲームであったかのように。当然、彼らにはリスペクトが足りない相手を叩き潰すだけの力がある。ゲームを支配するだけの根拠となる強さを持っている。だけれど、リスペクトされたうえで最後まで抵抗され、思い通りにいかない展開は好きではない。
  • 2017年のヒラルは油断し、驚き、焦っていた。逆に2019年のヒラルは、リベンジを期して完璧を求めていた。では今回は?彼らは経験豊富だが、勝てる気でいる。なぜなら彼らは強いから。
  • とはいえ彼らが万全ではないのも事実なのだ。普段使える外国籍選手が全員使えず、また4月の過密日程で疲弊し、何人かはそもそもトップフォームですらない。
  • したがって、ホームの第1戦で勝利のアドバンテージを取れなかった時、彼らは2017年の記憶を少しずつ思い出し始めるかもしれない。幸か不幸か、アルヒラルには2017年の決勝を戦った選手も多く残っており、特にサウジアラビア人選手はあまり主力が入れ替わっていない。
  • 2017年の嫌な記憶を気にしながら埼スタで2戦目を戦うのは嫌だろう。さらに前半堅い試合になれば、自ずと焦りも出てくる。
  • こうした展開に持ち込むために、浦和にとって何が大事になるか?それは、恐れないこと。彼らの破壊力と強さをリスペクトした上で、彼らにしっかりと抵抗したい。具体的には、ボールを保持したい。ビルドアップから華麗に崩すというわけではなく、ある程度彼らの中盤から後ろを動かすだけでもいい。2019年はボール保持の仕組みが0のまま気合いだけでぶつかったので、ヒラルの優位性だけがピッチに表出してしまった。
  • ヒラルはリスペクトされボールを持ち相手を押し込み続ける展開が一番心地よく弱点を隠せるので、浦和が自ら引いてしまうのは勿体無い。単純に破壊力がエグいアタッカーがいるのでその対策として後ろに枚数をかけるのは良いとしても、マイボールを放棄したら勝負にならない。幸い、ヒラルはネガトラでのカウンタープレッシングは強いもののポジトラから素早くカウンターでゴール前という選択肢の優先度が高くないので、カウンター一発でゲームオーバーになるリスクはそこまで高くない。
  • ただ、サウジリーグを観ていても繋げそうなところでも相手選手がヒラルの選手に寄せられると簡単にクリアしたりしていたので、対峙するとわかる恐怖感があるのかもしれない。この辺は我々による雰囲気作りで浦和の選手たちの闘争心をバキバキにキメきって浦和の男らしく立ち向かわせたいところ。
  • いや待て明本、喉輪はダメだ。

 

というわけで、楽しみです!