96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

なんとかならんのか:J1リーグ2024第2節vs東京ヴェルディ1969 分析的感想

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文脈とメンバー

J1第2節では唯一の日曜開催となったこのゲーム。他の試合では第1節に勝利した有力チームが軒並み足踏みで全勝チームが消え、J1は早くも混沌とした展開となっています。開幕戦に敗れた浦和はこれに乗じて順位を上げていきたい一方で、5万人を超える大入りの埼玉スタジアム、相手は昇格組、OBが来場しトークショー開催と浦和レッズつらい的に考えれば敗戦率90%以上間違いなし(当社調べ)の嫌なジンクスが重なるゲームでもあります。

新監督の下のチーム作り、特に戦術的な部分でいえば、前節はマンマーク気味に人に来るプレッシングに手を焼きました。一方、今節対戦するヴェルディは4-4-2ベースのハイラインミドルブロック型のディフェンス。浦和としては開幕戦とは違いアンカーの不遜様を明確に消されることは予想しにくく、その意味でビルドアップ隊に多少の時間があると思われるところ、開幕戦とは少し違った現象が表れそうなゲームです。

対するヴェルディは今節こそ久々のJ1での勝ち点、白星を狙うゲーム。開幕戦でみせた4-4-2ディフェンスは浦和と同じく4-3-3を採用するマリノス相手に十分に機能した一方で、先制後なかなか追加点を奪えずに最後はJ1の質と圧力に屈するといった展開でした。特に後半マリノスが4-4-2にシステム変更しがっぷり配置がかみ合うゲーム構造となってから押し込まれ逆転を許したのは気になるところ。若手ばかりのメンバー構成でフィールドの10人はよく走り戦えるメンバーですが、特にCH2枚より前の選手にかかる攻守の負荷が大きく、耐えるばかりでは長期的に難しくなることは十分理解しているはず。今節の浦和は比較的対策のしやすいチームであったはずなので、前節マリノス戦の経験と教訓を活かしつつ勝ち筋を手繰り寄せるのがテーマだったと思います。

緑背景だと色が潰れてしまう緑チームであった。

メンバーは図の通り。浦和は開幕戦のパフォーマンスを踏まえて前田直輝が先発かと思われましたがベンチ外。発熱とのことでした。古巣ヴェルディとの埼スタデビュー戦ということで昂りすぎたんでしょうか。「秘密兵器」ソルバッケンがどーーーせいないことは覚悟というかわかってましたが、前田までいないというのは予想外でした。ここまで十数年にわたって浦和レッズさんに関するありとあらゆるバリエーションのつらさを経験してきたつもりでしたが、まだまだ未経験のつらさが世の中にはあるということです。精進します。

ということで浦和は前節とまったく同じメンバー。違いはWGの左右で、松尾を左、関根を右でスタートします。ちょっと面白かったのは浦和のベンチで、興梠に加えて高橋利樹がベンチイン。前節マリノスが4-4-2で嚙み合わせてからヴェルディがゲームをコントロールできなくなったところをヘグモ監督が現地で観ていたはずなので、そういうインスピレーションがあったのかもしれません。また戦術的な役割をいろいろと任せられる安居ではなく中島翔哉が2試合連続でベンチ入りしているあたり、ヘグモ監督の選手評価やベンチワークの考え方が垣間見える気がします。

一方のヴェルディは前節から両SBを変更。左SBが翁長⇒OKBの同期深澤に、右SBはボランチが本職の稲見⇒山越に。どうも稲見は怪我で離脱みたいで、宮原とともにヴェルディとしては重要な選手が使えないのは痛いところ。翁長と深澤のところはちょっと不明ですが、翁長はもともと攻撃的な特徴が強く前への走力が魅力の選手で、深澤のほうがバランスを取るタイプだと思うので、殴り合い・走りっこをするというよりは浦和の攻撃をしっかり受け止めてから、ということだったんでしょうか。よくわからず。ヴェルディは今季のスカッドにいわゆるドリブラーがおらず、一人でヤードゲインしてくれる選手がいないので、交代による味変に一番向いてそうな選手を切り札的にベンチに置いたということも考えられるでしょうか。

ゲームの構造

今節は概ねシンプルなゲーム構造となりました。すなわち浦和がボールを保持し、ヴェルディが構えるといった形ですが、浦和が意図的にボールを長く保持したかというと必ずしもそうではなく、かといってヴェルディにあえて持たされたかというと必ずしもそうではなく、強いて言えばボールが流れ着く場所が浦和のCBの足元だったという感じでしょうか。

ワイドのWGと内側に立つIHをポイントにサイドの奥を起点に相手ゴールに迫りたい、そのためにビルドアップにあまり人数をかけず、バックラインの4枚+アンカー(とGK)でボールを前進させていくことになっている感じの浦和レッズさんですが、前節に続いて今節もビルドアップで苦労することに。ヴェルディは4-4-2のCHが浦和のIHをケアするような立ち位置をベースに、2トップはナナメの関係を作ってアンカーを消しつつ浦和のCBの横に面をつくって片方のサイドへボール展開を追い込んでいくやり方。両SHは4-2-4になるほど高い位置ではなく、浦和SBにすぐアプローチできる距離感を保ちつつ浦和CBから中央へのパスを消すような立ち位置でミドルブロックを構え、浦和バックラインからの配給がブロックの中に刺さらないように意識している気がしました。

SHが浦和CB→IHのパスコースを狭めつつSBにすぐ寄せられる立ち位置なのが肝。
その代わり、CH2枚の間はわりと割れやすい。

浦和としては2CBとアンカーのところでヴェルディの2トップに対して基本的な数的優位がありますので、前節広島戦のように思いっきり嵌められて選択肢を失う感じはなく、基本的にはCB同士のパス交換でボールは落ち着き、真横まで下がって待つ隣のSBへのパスコースも確保されてはいます。一方でSB以外のパスコースを探すのは結構難しく、自分のところでリスクを取らないのであれば監視されていようとなんだろうとアンカー不遜に任せるか、SBにボールを流していくことになります。

大外深い位置でボールを持つことになる浦和SBの視点でゲームの構造を考えると、目の前には近いところで構えている相手SHが迫ってきます。アンカー不遜には多くの場合マークがついており、同サイドのWGは大外に立っているのでパスコースは狭いうえに、浦和WGに対するヴェルディのSBのマークは明確なので最初からWGがフリーで待っていることはありません。前節の反省を活かしてなるべく高い位置で待つIHに差し込んでターンさせるのが理想ですが、ヴェルディのCHコンビが浦和の攻撃面のキモとわかりきっている佳穂・敦樹を見失うわけもなく、そもそもライン設定が高めでコンパクトなブロックの中にパスを付けるのはリスクが高そうです。自分のところでボールを失いたくない浦和のSBとしてはGKなりCBに戻すパスを選択することでこの窮屈さから解放されますので、そういう選択肢をとることになります。

逆サイドでもほぼ対称の構図。たぶんSHが出てきたスペースを使うために、SB→CBに一度戻してワンタッチでWGかIHに刺してみろとか、やり方はあるんでしょうけど。

ここで、最初の状態に戻ります。重要なのは上記のシークエンスを一巡したところで、ほとんどヴェルディのブロックが動いていないことです。従って二週目のシークエンスを開始したところで前提条件が変わりません。従って浦和のバックラインは同じような選択肢をとることになります。そして3週目、4週目、n週目と続きます。このシークエンスの連続の中で、浦和としては動く点Pを用意してヴェルディのブロックをなんらか変形させ、ポジションをずらし、その余波により空いたスペースを活用してボールを前進させることが理想ですが、この試合では動く点Pは見つかりませんでした。両監督に言わせれば、以下のようなコメントになります。

ヘグモ監督:インサイドハーフの裏抜けという重要なプレーが少し欠けていたと思います。また、ウイングも背後に向けて相手の脅威になるという場面が少なかったと思います。なので、相手にとって少し守りやすいプレーになってしまったのかなと思います。

城福監督:基本的にはわれわれが崩された感覚はなかったです。われわれのブロックの外でサッカーをやらせていて、相手に進入された感覚はありませんでした。

(中略)

前半、ボールを持たれた時間はあったが、できるだけ高いラインを引きながら、ペナルティーエリアに入らせない中で、そこで耐えていたらわれわれの時間になると思っていました。

(中略)

前から後ろまで20メートルくらいで守る時間もかなりあったと思う。CBに持ち出されてもラインを下げない。方向を限定させて奪うイメージがあった。

【公式】浦和vs東京Vの試合結果・データ(明治安田J1リーグ:2024年3月3日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

上記の通り、昨季のスコルジャ・レッズが強みとしていたミドル~ローブロックの考え方とほぼ同じことをヴェルディに表現され、それを崩すことができなかったというのが浦和目線のこのゲームの基本的な構造でした。こんな単純なことなのに…って感じですが、この単純な構造をなかなか解決できなかったのが今節の浦和でした。

浦和レッズは何をしようとしていたのか

置いている選手の特徴が違うので当然ながら、左右のサイドで狙いとその表現力に違いがあります。左サイドではビルドアップで如何に気を利かせるかが生命線の佳穂が強めの要求を出し、バックラインから自分に直接入れるか、SBの凌磨にボールを付けてから佳穂、松尾の3人の崩しを意図していたようです。佳穂の狙いは簡単に言えば昨年のサッカーと同じもので、凌磨にボールが入ったところで大外の松尾が引いて相手SBを引き出し、自分がそのスペースに流れる(外側へのランニング)か、ハーフレーンでパスを受けてターン、近くのコンビネーションか逆サイド展開を狙うかという感じ。典型的なのは例えば05:30前後のシーンで、マリウスから松尾へ展開するのに合わせて佳穂が素早く裏抜けを画策。結果的にボールは出てこず、凌磨も上手く絡めたわけではないのですが狙いの一端が出たシーンでした。05:41には左サイドの3人に不遜が絡み、大外の凌磨からパスを受けて松尾とのワンツーからクロス(意図したキックにならず)。他には25:47前後、相手2トップの間を通すパスを受けてターンした不遜から佳穂→松尾に入り、凌磨がフリーラン。若干ぎこちないランニングでしたが松尾の前を佳穂が、後ろを凌磨が追い越し、最後は凌磨のクロスまで。32:11前後にも凌磨がオンボールで松尾が降りたスペースに佳穂の外側へのラン。凌磨は難しい浮き玉を供給したが佳穂が上手く受け、逆サイドフリーの敦樹→酒井へ。他にも左サイド起点でファイナルサードに迫ったシーンは結構多く、特に凌磨、佳穂、松尾の3人で何かしようと言う意図は良く出ていたと思います。ただマークがきれいに外れて思いっきりクロスなりフィニッシュなりに脚を振れる状況というのはなくて、ファイナルサードに辿り着くのがやっとという感じもありました。

右サイドのビルドアップはもっと厳しく、敦樹が消されたまま酒井が関根の足元につけ、前を向く余裕のない関根が苦し紛れに何かやるというようなことが起きていました。その中で何かありそうだったのは27:40前後のシーンで、酒井から関根にボールが入る→敦樹がチャンネル抜けから外側へローテ→敦樹のポジションに不遜が前ズレし中盤中央で数的有利(酒井が余り)という形。ただ関根⇒不遜⇒大外の敦樹に入ったところで酒井は反応せず、敦樹はクロスを選択もディフレクトという場面でした。

両サイドに共通して言えることが2点あります。一つ目はWGにボールが入ったところを起点にIHが裏に抜けるアクションを狙っていたことで、これは後に回しますが結果的には良くない方向に作用したかなと思います。二つ目はSB、IH、WGの3枚に不遜が絡んだところから比較的何かありそうなシーンができているということで、現在のチームではビルドアップの起点である不遜様がさらに崩しにも関わる必要がある模様。CFが降りてきて+1枚になったり、SBがビルドアップに関わった後に崩しにも参加したり、逆サイドのIHやWG(というか川崎における家長)が出張してきて4枚目になるというのはまあまあありがちですが、アンカーが出てくるというのはちょっとユニークです。良いか悪いかと言えばあまり良くないのかもしれませんが、今節の時点ではこれしか引き出しがなさそうなので仕方がありません。ちなみに不遜が前に出るときは逆サイドのIHがアンカーポジションを埋めに行くことになってるはずで、少なくとも佳穂はそんな感じの振る舞いでした。なお、基本的に崩しに関わっていないチアゴは普段何してるのという疑問は持ってはいけません。実際には健気に粛々と裏抜けを画策してヴェルディのCBを引き連れてみたりしていましたが、その影響は誰にも活用されていませんでした。

試合展開①:エネルギーのある立ち上がり

前半立ち上がりは浦和がわりと良く、しょっぱな敦樹がこぼれ球を拾ってそのままバイタルに突進したシーン(勢いよく踏み込んだところで足がもつれてましたが)や、01:20前後のショレの縦パスを敦樹がダイレクトで関根にはたいたシーン、01:56前後の酒井の大外からのチャンネルランの狙い、02:10の凌磨⇒佳穂ヒール⇒凌磨前進など、なんかいい感じのボール回しが発生していました。キックオフ直後の時間帯は浦和のモチベーションが非常に高く、一方でヴェルディ側はちょっと噛み合わせを見つけるのに苦労していたというか、浦和のプレーを受けるところから始まった印象で、これはもしかしたら埼スタの浦和レッズ戦初体験の選手が多かったからかもしれません。ただヴェルディの最初のポゼッションで普通に数本パスが繋がってからは全員いい感じでゲームに入っていったような気がします。04:40の浦和ボールのポゼッションでは既に凌磨がヴェルディの右SH山田フーキの寄せに捕まっており、さっそく怪しい感じが出てきます。5分台および08:40前後、09:10前後に左サイド起点のオフェンスがありましたがこれはチャンスにならず。佳穂、松尾のクロスがそれぞれエリア内に合いませんでした。10:27前後にはマリウスの対角フィードに合わせて縦に抜けた関根の鬼トラップからのクロスが無人のファーへ。12:41前後にも左サイドの3枚に不遜が絡んでいって、パス交換を経て佳穂からエリア付近の敦樹へ繋ぐもチアゴへのワンタッチは通らず(ハンド疑惑もOFRは入らず)。13:00のシーンはこの試合では珍しくショレから中央の佳穂へ縦パスが入り、スルーからチアゴの落としで佳穂が前向き、浮き球をスペースへ落とす選択をしますが通らずでした。結果的に全くシュートには至っていませんが、浦和は比較的ファイナルサードにボールを届ける回数があり、球際のバトルでは互角以上に戦えていたことに加えてヴェルディ側も浦和に失点を意識させるような精度あるプレーを見せていたわけではないため、立ち上がり15、6分までのゲームの入りの時間帯は浦和ペースだったと言えると思います。

試合展開②:前半15分~後半70分くらいまでの膠着

何か明確なポイントがあったようには思わないのですが、16分すぎから浦和のビルドアップ不全からのボールロストが数回続き、徐々に浦和のCB2枚およびSBにボールが入ったところからの展開が苦しくなってくるとゲームが硬直気味に。ヴェルディ側が驚異的なプレーを見せたわけではないのですが、だんだんとヴェルディのやりたい内容のゲームに収斂していきます。20:40にスローイン崩れからのプレッシングでショートカウンターが発動し松尾のシュートに繋がりますが浦和のチャンスはそのくらい。ヴェルディのポゼッションの回数が増えていきます。

ヴェルディのボール保持は両SB上げ+中央4枚の形。CBは開き、GKマテウスを間に挟むかCHの一枚が降りてビルドアップに関わります。SHとSBのどちらが内側を取るかはその時々で、特に左SBの深澤は高い位置を取る傾向が強かったような気がします。右の山越は選手のキャラクターか気持ち後ろに残り気味でした。

シンプルだが整理されている攻め筋。押し込むと技術のあるCHが絡んできて厄介。

24:00には押し込まれたところから見木の強烈なミドルが飛ぶもディフレクト。佳穂を上げて4-4-2に近い形から前に人を出したい浦和のプレッシングですが、ヴェルディのビルドアップをなかなか制限できず、だんだん浦和のプレーエリアが低くなっていきます。それに伴い中盤でトランジションが発生せず、浦和のボール保持はお互いセットした状態のビルドアップが増え、ボールがマリウス・ショレのところで長く滞留するようになり、満足に前に進めない印象が強まっていきます。気持ちよくボールを動かせない中でも25:47前後、27:15前後、27:40前後、28:50前後、31:20前後と形を作ろうとしますが決定機には至らず。特に28:50前後のシーンは流れの中で高い位置に残った凌磨をヴェルディの右SH山田フーキが気にしたことでヴェルディの2トップ脇が空き、そこに不遜が入ってボールを受けて前進⇒凌磨へ展開することで左サイド高い位置に起点が出来ました。凌磨の右アウトサイドでのテクニカルなスルーパスから松尾が勝負の場面は不発でしたが、SHとSBのちょうど間に人が立っているとどうしても対応が曖昧になりがちな4-4-2ブロックの泣き所を突けそうな場面でした。浦和はこういうのを次々のプレーのヒントにできると良かったかなと思います。一方で流れの中で左IHの位置に残った不遜とのローテでアンカー役をやっていた佳穂が潰されてえぐいカウンターを受けた35:01前後のシーンなんかも出たわけですけど。

で。38:00前後、森田がコンタクトレンズの付け直し?をしていてヴェルディが一人少ない状態になったにも関わらず浦和がプレスに行かずヴェルディに十分な時間を与えていたシーンから試合は動きます。なんとなく守っていると一枚少ないヴェルディに中央を繋がれ、高い位置に出てきた左SB深澤にクロスをもらう浦和レッズさん。プレーエリアがかなり下がってしまいクリアボールが拾えず、そのまま連続クロスを浴びる浦和レッズさん。右サイドでボールを奪いかけたにも関わらずトランジション失敗で一転あわやのピンチを迎える浦和レッズさん。そのまま連続CKの流れで失点する浦和レッズさんなのでした。切ねえ。まあそもそもゴール一本前のCK対応で敦樹がハンドだった疑惑もありますけど。なんでOFR入らなかったんでしょうね(2回目)。というわけでボール保持のわりに決定機が生まれないもやもやと切なすぎる失点に風邪をひきかけながら前半終了。

なんか変えるのかなと思いましたがメンバー変更はなく佳穂と関根のポジションを入れ替えて後半開始。佳穂がWGの位置に入ったことでボール保持局面で佳穂が後ろに降りたり内側に入ったりと少しアドリブをつけるようになりました。佳穂をWGに置いてまで残す意味はよくわかりませんでしたが、キャラクター的に張ってても仕方ないのでこれは佳穂の良い判断。結果的に酒井が前線へ出張ってエリアに近いところでプレーし、迫力を出す効果はあったと思います。49:32前後ではそんな形が表出。佳穂が降り気味で前にスペースを作り、不遜から酒井へスルーパスからクロスでしたが中には合わず。一方IHに入った関根は佳穂よりは足を止めずにプレーしていた印象。51:56の凌磨からのパスに降りた松尾の裏で反応したプレーなんかは意識していたものが出たのでしょう。ただこれも森田がついてきてケアし、特にチャンスにはならず。結局この後の時間帯はしばらく停滞し、CB・SBから先が見つけられない状況は変わりませんでした。

浦和は60分に選手交代。チアゴ、関根、佳穂を下げて興梠、岩尾、大畑を投入。ヘグモ監督、開幕戦もそうでしたが後半頭から選手交代するよりは少しやらせてみてからカードを切りたいタイプなのかもしれません。岩尾は左のIHに、大畑が左SBに入るので凌磨が右WGにという変更。ゲームの構造がこの交代で動いたわけではないのですが、大畑が前節に続いて積極的なプレーを見せたのは印象的でした。62:40~には山田フーキを股抜き⇒右足スルーパスで興梠を走らせ、溜めを作った興梠にすぐさま追いついて岩尾からボールを引き取りニアの興梠に低い弾道の左足クロス。ボールは興梠に届きませんでしたが左利きというのも含めて前の選手を使いながら自分も前に出て行く彼のオフェンススタイルはこのサッカーで活かせる特徴なのかなと思います。

一方で3人の選手交代やポジション担当の変更で浦和は守備のバランスが曖昧になった部分もあり、ヴェルディも具体的なチャンスを増やしていく展開に。凌磨が今季あまりやっていなかったであろう右WGに入ったこと、左サイドのユニットが松尾と大畑となって守備的な強度が落ちたことでヴェルディサイドからすればサイドに起点が作りやすくなった感覚だったかもしれません。また中央も敦樹を前に出すのか岩尾が出るのか、プレスのスイッチを誰にするのかなどが曖昧だったかも。左サイドのカバーリングをするにしてもIHの位置からチャンネルランをケアしてくれと言われる岩尾さんへの無茶ぶりには無理があるなという感じがしました。

試合展開③:不遜と右サイドの解放

72分に浦和は中島翔哉を投入。ここからようやくゲームの構造が動いていきます。といっても中島の投入というよりはそれと同時にベンチから岩尾に声がかかったことのほうが影響としては大きく、浦和は岩尾と不遜を並べるダブルボランチシステムに移行。敦樹をトップ下に出します。この交代の意図がオフェンスにあるのかディフェンスにあるのかはよくわかりませんが、結果的にはどちらにも良い影響がありました。オフェンスでは74:09に早速一つ形があり、酒井が高い位置をはやめに取って不遜が右SBの位置へ落ちる動き。連動して岩尾が中央アンカーの位置に入ります。凌磨が内側を取ってトップ下の敦樹も前へ入り、ヴェルディの4バックに対して4枚が張り付き、両サイドにSBが余る形を形成。不遜⇒岩尾の中央のパス交換から大外酒井に展開してアーリークロス。結果的にはクリアされてしまうのですが、ニア~中央に3枚、大外に大畑、バイタルに中島、セカンドボールには岩尾が反応できるポジションに立てていましたので厚みのある構成だったと思います。

酒井と敦樹のやれることとやるべきことがマッチして迫力が出るの図

ただこれ、完全に去年の形なんですよね。ボールスキルのあるボランチを右SBの位置に落として酒井を上げるのは昨年の右サイドで敦樹が死ぬほどやっていた(そして僕は敦樹がそのまま後ろ残りするのが気に食わなかった)形です。ダブルボランチにして一発目の保持で全体的に良いバランスができたのはたぶんこの形がなんとなくチームに根付いている部分があるのだと思いますが、それよりもこのシーンを現地で見た瞬間あまりに酒井にできることをさせる使い方として妥当過ぎて(すこは正しかったのだ…)とふるふるしてしまいました。すこを信じろ。あと、ダブルボランチになった瞬間に高い位置を狙った酒井のスタートポジションの空白を瞬時に認知しサイドに流れ、当然のように展開を構成してみせる不遜も信用できます。不遜を信じろ。

77:18には右サイドに出たところから前残りした不遜に対して岩尾が縦パス⇒華麗なヒールで敦樹の抜け出し。これもクロスが相手に引っ掛かるのですが、盤面構成と個性の発揮の面ではここまでの時間帯よりもかなり良くなりました。部門間調整業務を岩尾に任せ、解放された状態でふらふらプレーするほうが不遜の質は出しやすいし、敦樹はトップ下スタートで最終ラインに張り付いたほうがポジショニングや相手を引きつけて云々みたいなことをごちゃごちゃ考えなくていい、ということなのでしょう。あとは酒井を後ろに置いておいても意味ないので、ついでに酒井も相手最終ラインにぶん投げとけみたいな。ボランチ2枚ならカバーもなんとかなるやろみたいな。

80:18前後のシーンでは不遜が今度は左SBの位置に降りつつハンドサインで大畑を押し出し、ヴェルディの右SHと右SBの間に起点作り。SBが釣れれば中島が内側からSB裏へ抜けるランニングが出るし、その戻しを不遜が受けて逆サイドへ展開しヴェルディを押し込んでいくビルドアップ。この辺りを見ても不遜はゲームがどういう構造なのか、その構造に自分がどんなアクセントを加えられるかを理解してプレーしているのが読み取れます。

ただ、直後の81分に不遜が交代。ベンチは利樹を投入し2トップ組成に踏み切ります。個人的にはもう少し4-2-3-1を見たかった気もしますが、プレータイム管理もあるでしょうし仕方ないか。不遜がいなくなったことでビルドアップはまた何もない感じになってしまったのですが、86:18には中島の強引なミドルのこぼれ球が大畑に飛び込んで決定機。右足で撃てればゴールしたと思うのですが、左利きなので仕方ない。ただその流れのスローインから中島クロス、跳ね返りがまたしても大畑に転がり、PK獲得。これをショレが蹴りこんでなんとか同点に追いつき、勝ち点1をかろうじて拾うこととなりました。ヴェルディは最初の大畑のチャンスで動揺したのか直後のスローインへの反応が遅れた感じがします。ボールアウトした瞬間に集中が切れたというか、なんか変な感じに全体が止まってしまいました。前節に続く終盤のピンチで、どうしようヤバいかも!って思ったのかもしれません。

感想
  • ゲーム全体を見ていくとこのやり方でファイナルサードに迫りたいという形はいくつか披露されていたものの、配置があからさまに4-3-3でギミックも少なく対策されやすい、準備されているところに対してプレーしなければいけない苦しさは各所で指摘されている通りだと思います。
  • ヴェルディはまずはアンカー不遜を消し、IHを消し、SBにマークを付けて浦和のバックラインにボールを持たせてブロックを構えるという別に特別でもなんでもない作戦でしたがそれで問題なかったし、よく機能していました。ただダブルボランチや気の利く運べるSBを擁するチームに2トップ脇を上手く使われると押し込まれそうな感じはあります。これはある程度仕方がないですが。
  • ヴェルディの4-4-2はマリノス戦でもそうでしたが4-3-3に対してSB-CB間のスペースが広く空く傾向にあります。浦和はもしかしたらわかっていた分そこを意識しすぎたかも。佳穂も敦樹もWGに入れてチャンネルに裏抜け、という頭が強すぎたのかなと思います。それ以外の種類の動き出しが少なかったです。あと、同サイドのSB・WGとの関係性を強く意識していることは伝わるのですが、両サイドの三角形がそれぞれ独立してなんとかしようとしている感じはあまり良い印象ではありません。あんなに健気にCBと駆け引きしてみたりしているチアゴのこと、誰か思い出してあげて欲しい。このあたりは監督から言われていることをまず守ろうという意識があるんでしょうけど。本当はいろんな形で三人の関係が作れるはずなのにな、と思いました。
  • 特に前半、佳穂がCBからボールが出ないこと、ほしいところで受けられないことにいら立っていましたが、気持ちはわかるんですが、目指すべきところを考えると、たぶんどっちかというと佳穂がまず走って相手を動かしたほうがいいのではという気が。前述の通り、敦樹も含めてWGにつけたらチャンネルを抜けるという意識が強い(そしてよくやっている…これは昨年の仕込みが効いているのだと思いますけど)のですが、どっちかと言うとまずWGにスペースを与えるためにIHが動いてヴェルディのSBを動かさないといけなかったかも。ヴェルディ側としてはSB-CB間が空いていること、そこに走られることは想定内で、CHが頑張ってついてくるところとかもしっかり共有されていたでしょうし、ちょっと違うアプローチがあった方がヴェルディにとっては面倒だったかも知れません。なんなら裏に走るではなく、最初からSB-CB間に立ってしまうという手もあったかもしれません。そうするとSB-IH-WGの3枚でミドルサードを前進する形はなくなりますが、プレーエリアは前に出せるわけで、それはそれでいいのでは。そうなるとほぼミシャの時の415ですけど。
  • 前節も書きましたがWGに前を向かせるのがこのサッカーの重要なマイルストーンなので、どの選手もまずはそこにコミットすべきだと思います。方法はロングボールでもなんでも可。佳穂の中にこうやって前進していきたいというイメージがあるのはとてもよくわかるのですが、それが監督の作りたい盤面を実現することに繋がっているのかなというのはちょっと疑問。松尾を下ろして佳穂がSB裏に走って奥を取るのはいいけど、本来は松尾(WG)が相手サイド奥で1on1が第一の選択肢では。これは敦樹も同じで、敦樹に関してはIHの位置でスタートするとそもそも何を基準にどうプレーしたらいいのかよくわかんない感じみたいなので、まだ時間がかかりそうです。できれば同サイドにガイド役が欲しい。
  • ヴェルディのブロックをどうにかするという意味では、一度IHにつけた時に思いっきり寄ってくるヴェルディのCHの食いつきを、落としを受けたバックラインの選手が使いたいというのもありました。ヴェルディのCHが中央にいないならチアゴに縦パスとか。この点は技術というよりもハナからその意識がないような感じなのがつらいところで、バックラインの選手がテンポを変える意識は重要かなと思います。多少組み立てで苦労するのは良いとしても、よっこいしょでやり直して同じ盤面をループするというのは戦術的にもエンタメ的にも良いことがないです。
  • 関連して、ヴェルディのミドルブロックの弱みを突くところでラインアップの瞬間はかなり狙えそうでした。例えば28:32前後のシーン、ヴェルディ2トップの正面まで降りて受けた不遜から大外松尾へボールが入るのですが、山越のマークがタイトで前を向けず、後ろ向きのドリブルからバックパスでマリウスへ。現実はここで浦和の保持シークエンスが停滞してしまうのですが、このバックパスの直後ヴェルディの最終ラインはラインアップが揃わずガタガタで、裏にアクションできそうな浦和の選手は少なくとも4人。この瞬間に裏に落とすボールを蹴るだけでヴェルディはかなり困ったような気がします。

松尾にボールが入って後ろ向きにドリブルしてマリウスに戻しただけの場面。裏に落としたらめちゃくちゃコスパの良い状況なのに。
  • そういえば、WGの裏にボールを蹴ったらよいのでは作戦は今節ほぼ発生しませんでした。相手のやり方もあるとはいえこの点はがっかり。一本マリウスから関根に良いのがありましたが、4-3-3をやるならサイドチェンジを含めたダイナミックな展開は欲しいところです。
  • それと、シンプルにクロスがファーに流れまくっているのですが、そこになにかあるのでしょうか。僕には誰もいないように見えます。ニアか中央に蹴りこめないもんですかね。それだけでも印象がかなり違うんですが。ファーポスト付近に良いボールが何回か落ちていたのでチームの狙いな気がするんですが、そこに間に合って飛び込んでくれる人はあまりいないという。そもそもクロスが相手に当たり過ぎ問題は、崩しでもっと相手を外せないといけませんねということなのでわかるのですが。
  • 74:09前後の不遜と岩尾のダブルボランチにした瞬間に酒井が上がり、右SBのスペースに不遜が下りてビルドアップ隊を構成、最終的に酒井のアーリークロスに到達したシーンが個人的には強烈でした。ヘグモ監督も2節にしてスコの答えに辿り着いたかもしれません。これが天啓となり次節から4-4-2ミドルブロック+ボール保持4-2-3-1で裏抜け連発シュート連打の2022シーズンのレフポズナンサッカーになっても僕はOKです。なんか今季のメンバーならできそうだし。それは冗談としても、4-3-3でずっとやるのかと思ったら最後の方は4-2-3-1や4-4-2を使っていましたし、リーグの環境と選手の得手不得手を踏まえてヘグモ監督のアダプションが少しずつ始まっていくのかもしれません。選択肢にあるなら60分から4-4-2でいいじゃんよとも思いましたけど。とはいえ次節は俺たち青春マンツー野郎ーレ札幌戦なので、少なくとも次節は運用コスト重めのヘビー級スタメンを維持した方が良いのかもしれません。下手に環境に合わせて気の利いたメンバーを選んだ結果、札幌の一人一殺人間魚雷と出合い頭で事故って死の世界線は避けたいところです。
  • 前節のチラ裏で今節までヘグモ監督は様子見と書きましたが、結論としてはこの感じのままではそりゃまあ厳しいと思います。ただ今節局面局面でトライしていた選手同士の関係性の作り方や、72分~81分のダブルボランチの時間帯のプレーをみると、固定的な配置と役割にこだわらず、選手たちに「自分ができることはやってもええで」と言えるのであればあまり時間をかけずとも内容がそこそこ改善する感じもします。ただそうすると今よりさらにネガトラに弱くなりそうでもありますけど、CBが保持してその先はまだありませんというよりはよいでしょう。駅だけ作ってみたけど線路はまだない発展途上国の鉄道じゃないんだから、まずはもう少しサッカーがやりやすいようにしてあげるべきなのかなと思ったり。
  • 最後に、あまりに浦和側に言いたいことが多すぎてヴェルディへの言及が少なくなってしまった気がしますが、良いチームだと思います。せこさんのやつの順位予想では軒並み最下位予想になってましたが、予算規模はそうだとしても組織として表現できることの精度がビリだとは思いません。ただ時間を作れるドリブラーがいないのは苦しいのでなんとかなってほしい。あと純血の英雄森田がいるからなんでしょうけど見木選手は絶対に本性を隠しているのでもっと偉そうに、千葉時代のプレーをみせて欲しい。森田をはじめレギュラー組に何人か怪我が出たら苦しそうですが、頑張ってください。
試合評価・個人評価

毎回思うんですがこの3つのコンセプト、MECEじゃないので使いにくいです。

細かい要素をみれば意図がわかる部分も多いのですが、全体としては解決策を見いだせない時間が長すぎて印象が悪いですね。バイブスが足りない。赤点です。いろいろ見聞きしてるとキャンプで課題がうまく出なくて云々という話みたいですが…えっそういう感じ?という。もっとこう…なんとかならんのか。

最後に年末用メモ。

というわけで、今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。