96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

「戦術的間延び」なのかどうか:J1リーグ2024第3節vsコンサドーレ札幌 分析的感想

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文脈とメンバー

開幕2試合で勝利なしの両チーム。さらに今季浦和はPKの1ゴール、札幌はゴールなしとお互いにチーム作りが思い通りに進んでいない中でのゲームです。

札幌はマンマーク強めのディフェンスをすることがリーグ内でも広く認知されていますが、浦和は開幕節で広島と対戦しており、ある意味では対応は予習済み。前節ヴェルディ戦では攻撃面での連携不足が目立ったところ、今節はこれまでの2試合の反省と教訓を活かしてそろそろ攻守のバランスや戦術の表現度を向上させていきたいところ。

一方の札幌は前節鳥栖戦で4-0の大敗を喫しており、攻撃面の向上もさることながら、ホーム開幕戦での守備崩壊は避けたいところだったと思います。

浦和は前節から先発メンバーを2枚変更。前節ボールタッチ一桁に終わったチアゴをベンチに置き、大ベテラン興梠が昨年に続いて第3節でスタメン入り。衰えが否めないとはいえボールキープの技術が高く落ち着きをもたらしてくれる部分に加え、動き出しの豊富さ、タイミングの取り方の上手さ、それらを総じてチームメートからの信頼度の高さがあります。昨年の兄貴からのスタメン変更の時もそうでしたが、チームが上手くいっていない時に頼りたくなる存在なのでしょうし、本人もそのあたりの役回りは自覚しているようで、毎年引退をにおわせつつもこういったところで仕事をしてくれるのはベテランの本懐といったところでしょうか。加えて今節は右WGに前田、左に関根でスタート。前節は発熱の影響でプレーできなかった前田ですが、今節には間に合いました。なんとなく左は松尾を使うのかなと思っていましたが関根をスタメン起用した意図は気になるところです。例えば交代で出てきた時に爆発力を期待できるのは松尾の方だと思いますが、それ以外の部分などなど。

対する札幌は先週からミシャが嘆いている通り故障者が多い模様。個人的に近藤友喜に注目しているので出てきてほしかったのですが怪我とのこと。トップに鈴木武蔵、シャドーに小林祐希と帰国選手が前線に並び、左WBに青木・右WBに浅野弟と攻撃的な選手が並ぶ構成となっています。なおGKは菅野・高木の両看板が負傷でJ1初出場となる阿波加が抜擢されました。

ゲームの構造:

札幌はマークを明確にするためボール非保持時は小林がトップ下の2トップとなり浦和の2CB+アンカーに枚数合わせする形。おそらく浦和はこれをわかっていて、ボール保持時にはオフザボールの動きを大きくすることで札幌の守備陣形を動かそうという意図があったと思います。01:35前後に関根が左から右のハーフレーンまで動いて裏抜けを図ったプレーなんかはそのわかりやすい例ですし、興梠も真ん中で我慢するというよりはサイドに簡単に流れていた印象でした。興梠が流れれば岡村はついていくしかないし、関根のようにサイドを変えるような大きな動きにどこまでついていくべきか馬場が逡巡するようなそぶりを見せるシーンもあったので、こうした動き出しはそれなりに効いていたものと思います。また敦樹や佳穂が深めに降りて札幌の3バックを引き出し、スペースを空けたうえでWGや興梠が裏のボールに走りこむという設計もあったかもしれません。

3バックベースで4-3-3にマークを決めるにはサイドのマーク決めが最も重要で、札幌で言えばWBの青木・浅野が浦和のWGをみるのかSBをみるのかで大きく話が変わってきます。開幕戦の広島もそうでしたが、好戦的なプレッシングを掛けたいのであればWBは相手のSBまで出て行く形(=マンマーク)、そうでなければWGのマークに入って5バック気味に守っていく形となります。今節の札幌は一応WBが浦和のSBをマークする意図だったと思いますが、広島に比べればスタート位置が低めかつボールへの反応も緩く、広島戦程浦和のSBがプレーを制限される苦しさは感じなかったという印象でした。こうなると浦和は自陣でのボール保持が安定して相手陣地内で3on3ができる恩恵を享受しやすくなり、浦和のWGに入った時に1on1の勝負が仕掛けやすくなるばかりか、札幌の3バックが大きく割れるので相手の最終ラインに仕掛けるランも出やすくなります。今節は敦樹も佳穂も裏に動き出すことの意識が高かったようで、ゲーム構造と選手の意識の噛み合わせも良かったかもしれません。

プレスが難しいとなると早めにWBが浦和のWGをケアする5バック体制をとっていたので、同数プレッシングはむしろ行けそうなときだけのオプション扱いだったかもしれない。

札幌ボール保持時の噛み合わせについて。浦和のプレッシングは意図してか結果的にか左右非対称の形。前田が高めの位置をとって積極的にプレッシャーをかける一方で、関根は下がり目の位置でブロックの一員として振る舞う挙動だったように思います。前節まではIH(特に佳穂)を前に出してボールを追いかけまわすディフェンスをやっていたと思いますが、今節は興梠がスタメンだからか追い回すというよりもミドルブロックで構える形が優先されていた気がします。特に興梠は相手CBをマークするというよりはアンカー役を消すような挙動に終始しており、その分前田が菅⇒岡村と順番に二度追いを仕掛けてCFのような位置まで出て行く動きが多かったです。結果的に浦和のプレッシングは前田と佳穂を2トップにした4-1-2-1-2の形に見えるシーンが目立ちました。

どこまで狙いなのかは不明。
興梠の運動量をセーブしたいという思惑は間違いないと思いますけど。

札幌は駒井がいわゆるミシャ式サリーダで最終ラインに落ちてCB、WBを押し出す形が多かったと思います。荒野と駒井がボール回しの起点になりつつ、小林が若干低めの中間ポジションでボールを引き出す狙いがあった模様。サイドは右WBの浅野がはっきりと高い位置を取る一方で青木はなんとなく低めの位置からプレーをスタートすることが多かったのですが、ミシャ的に考えればもっとはっきり5トップを作る意識のほうが狙いが出しやすかったのではと思います。小林が落ちる⇒浅野が内側に走る⇒大外馬場が高い位置へ出るといった基本的なローテーションも右サイドで多く見られました。左サイドはシャドーがスパチョークであることも含めて連携があまり成熟していないのかもしれません。とはいえ浦和のディフェンスも大した堅さではなく、構造的にチャンネルランに物凄く弱いという懸念点があります。中盤がセットされた状態であればIHが頑張ってついて行くことでなんとかできていた部分もありますが、トランジション起点で浦和のIHがサポートに間に合わない場面ではどうしようもなく無防備です。09:38前後のシーンはまさにトランジション起点のシーンで、セカンドボールを収めた武蔵から浅野にわたって大外に凌磨を引っ張っての1on1。そのまま武蔵がチャンネルに飛び込んだプレーに関根が追いつききらず、不遜も中央のケアのみしていたところをきれいに割られて折り返しからスパチョークがフリーでシュートも枠外という展開でした。札幌としてはこの崩しにはかなりの再現性を期待できたと思います。浦和は基本4-5-1からIHを前に押し出して4-4-2っぽくなるやり方を今季採用していますが、その後ろでチャンネルランに誰がついていくかを決める作業が難しいですね。不遜は中央に下がってCB間を埋める動きが多いですが、そうするとボールサイドのチャンネルランはWGかIHが死ぬ気で下がるしかないので、どっちが対応するにしろ体力的な消耗が激しいし精神的にもつらいタスクになります。普通に考えれば全チームここを狙ってくると思うので対応を用意したいですが、今のところ気合しかなさそうです。今節は敦樹、関根、佳穂がなんとかする形が多かったかと思います。

全体としては、先ほど取り上げた09:38以降の時間帯で既に後半ロスタイムみたいなスペースが空いているなど、札幌・浦和ともに間延び傾向があり、前節のヴェルディ戦と比べれば中盤に大きなスペースがありました。その分行ったり来たりの展開は多くなりましたが、結果的には浦和の選手はプレーがしやすそうで恩恵の方が大きかったかなと思います。個人個人の質では浦和に利があるでしょうから、普通に考えればコンパクトでごちゃごちゃしていない局面は浦和有利という理解です。これが浦和の戦術的な狙いだったかかというと断定はしきれないのですが、札幌は最終ラインの設定が低めかつラインの押し上げ意識が低いことに加えて浦和の選手のフリーランの影響を大きく受けており、さらに前線の選手3枚が攻め残り気味、さらにマンマークベースにしては寄せやプレッシャーがどうも緩い…とさすがにボール非保持でのコントロールと規律に問題があり、その恩恵を浦和が受けたのは事実でしょう。札幌はボール保持率で圧倒できていないのにボール非保持の時間帯を軽視し過ぎているという印象で、マンマークだからどうこうのレベルではないのかなと思いました。ミシャの浦和時代はボール保持がかなり安定していたことに加えて撤退守備を採用していたのでここまでカオスになってしまうことはなかったのですけどね。浦和のオフェンスに要所でミスが多く助かっていましたが、もうちょっとちゃんとチャンスをものにできるチームであれば前半で3-0とか4-0が見えてしまうような守備だったと思います。

というわけで、一言で言えばあまり締まりのないゲームだったかなと思います。構造としては脆い守備は攻撃で隠したいのに攻撃に迫力がない札幌vsスペースはたくさんもらえるし戦術的な狙いも持っているけど得点を重ねるほどの精度・練度がない浦和という感じだったでしょうか。

試合展開①:先制までのすったもんだ

ゲームは開始一分、前田の単騎突破からスタート。3人抜きでゴールに迫るものの左シュートは惜しくも枠外でした。このチャンスは関根が逆サイドから右ハーフレーンに大きな動きで抜け出してボールを引き出しキープしたところからでした。続く03:00前後には敦樹のボールカットから前田へ。菅がオーバーラップを仕掛けたタイミングでのトランジションで前田がドフリー。唯一残っていた岡村に向かって興梠とツーマン速攻を仕掛けたものの興梠へのパスコースは上手く切られており最後はシュートで終わるもGK正面。浦和はこの二本のチャンスでさっさと先制したかったですね。

対する札幌は大外のWBにボールを入れる⇒浦和のSBが出てくる⇒CB-SB間にシャドーか誰かが入っていくというシンプルな配置攻撃で反撃。08:20前後で青木⇒スパチョークに入ったシーン(敦樹がプレスバックでなんとか追いつきCKへ)、09:38前後にマイボールのトランジションから武蔵⇒浅野vs凌磨の1on1⇒そのまま武蔵がチャンネルに飛び込んだプレーに関根が懸命に戻ったもののついて行けず折り返しからスパチョークがフリーでシュートも枠外となったシーンなど。続く10:30前後にもトランジションから浅野にボールが入り凌磨を引き出したところに駒井が猛然と走りこんでサポートしますが、これは凌磨がめっちゃがんばって足を残してインターセプト。そのまま前方関根に渡して馬場を振り切り、3トップで3on2カウンターとなりますが中央興梠へのパスは通らず。さらに間延びしたままゲームは続き、11:13には佳穂がターンで二人の間を割って前を向き、前線へのロビングを蹴るも通らず。札幌はピンチをやり過ごすと馬場からロングフィード一本で武蔵が落とし、こぼれ球をスパチョーク⇒小林へ。ミドルもあるかと思いましたがここは佳穂が戻ってちょっかいを出し、小林のファール。お互いボールを奪って前線へ、こぼれ球を拾ってさらに仕掛けるという展開で最初から中盤は省略気味、両陣地ゴール前でのプレーが続きます。13:05前後の浦和のビルドアップでも不遜が溜めて敦樹が降りる⇒前田が裏へランの展開。不遜のロビングは阿波加にはじき返されるもののセカンドボールを敦樹が拾って再び前田へ。岡村との1on1から得意のカットインでゴールを脅かします。浦和はここまでのチャンスで(以下略)。16:00前後のシーンもすごくて、その前のトランジションの流れの中で駒井が前田のマークについたのですが、札幌はマークの修正ができず、中央の佳穂をフリーで放置。佳穂から関根⇒凌磨と渡ってクロスを狙うも馬場が気合で何とかしてCK。これをやり過ごした札幌は18:45前後、大きなサイドチェンジで浅野へパス⇒ヘディングでハーフレーンに小林に落としたところを関根がファールし良い位置でFK獲得も枠外でした。

浦和のボール保持をなんとかはめ込みたい札幌ですが、なかなか狩りどころを見つけられず、一方の浦和もボールはまあまあ繋げるものの肝心なところで札幌の粘りを振り切れず。すったもんだあったとしか言いようがない展開を10分くらい続けた後、セットプレーで浦和が先制。ショレから前田への裏のパス一本でCKを獲得すると、前田が意表をついたクイックスタート。不遜が受けるとペナルティエリアすぐ外で少し時間を作り、中央に走りこんだ酒井へ。宙を舞う150kgの質量が乗せられたボールに人類は無力。ドンピシャヘッドが決まりました。その直前のシーンでも不遜キッカーのFKで札幌のFPが9人エリア内に構えた隙を凌磨がついてシュートまで行っていましたし、浦和レッズさんとしては珍しくセットプレーで上手をとった良いゴールだったと思います。

先制後勢いに乗りたい浦和は引き続きプレーエリアを前方に置いて攻撃。31:55前後のシーンでも西川から前田へロングボールを蹴っ飛ばし、セカンドボールに敦樹が絡んでヒールから前田がエリア内へ。右足での折り返しは引っ掛かりましたがこのゲームを象徴するようなチャンスメークでした。札幌も34:20前後にこの試合の典型的なチャンスメーク。浦和を押し込んで菅から右サイド大外の浅野へ。ボールが入った瞬間に小林がハーフレーンでフリーでしたので危なかったのですが、ここは使わず降りてきた小林とワンツー。ここも凌磨がなんとか対応して難を逃れます。38:10前後にも札幌。今度は左サイド大外の青木から内側へのスパチョークへのパスから折り返しでした。41分にショレが負傷交代し佐藤が投入されるアクシデントはありましたが、その後は特筆すべきこともなくすったもんだして前半終了。

試合展開②:後半のすったもんだ

同点に追いつきたい札幌が浦和を押し込んでいく形で後半スタート。ただ浦和も47:42前後の関根の仕掛けからのクロスに興梠が飛び込んだシーンなど見せ場を作ります。さらに48:46前後では西川のフィードを収めた関根が2バックになっていた札幌の最終ライン裏へボールを送り、興梠へ。菅の対応でシュートには至りませんでしたが攻め手としては悪くなかったと思います。札幌は岡村、菅のギリギリの守備対応で何とかしている部分が多く、この二人の貢献は多大でした。特に菅は49:45前後のシーンで見せたチャンネル突撃(これを囮に青木がカットインして惜しいシュートまで)など、攻守にかなり重めのタスクをこなしてくれる存在でリーグ全体でも希少価値が高いと思います。

この直後に前田が倒れこんで浦和は2枚交代。前田に代えて松尾を、興梠も下げてチアゴを投入します。この交代は戦術的な理由というよりもコンディションやプレータイムの問題での交代でしょう。ショレが前半で下がっていたので、交代回数の制限の影響もあったはずです。

これでWGが右関根、左松尾になると、松尾のターン到来。静止状態からボールを蹴り出して一気に入れ替わった60:53前後、単純なかけっこで馬場を置き去りにした62:30前後の仕掛けなど、前半からスピード勝負の対応に難が見えていた馬場に対して無慈悲な優位を見せつけました。65:00前後のシーンでは佳穂がひたすら松尾に勝負させてましたが、4-3-3を採用する以上相手陣地奥でWGが勝負している状況が一番安定する形なので良かったと思います。69:53前後には得点にならなかったものではこの日最大の決定機。凌磨とのパス交換から抜け出した松尾が切り返して右足クロス⇨チアゴのゴール正面でのヘッドは枠外。これが決まってればチームとしてもチアゴ個人としても乗っていけそうなシーンだったんですが…決めなないとダメでしたね。

これをやり過ごした札幌は直後に3枚交替。長谷川竜也(右WB)、田中克幸(右シャドー)、原康介(左WB)がピッチへ。長谷川竜也は髪型が今まで見た中で一番似合ってました。以後、長谷川のところで時間ができる札幌が徐々に浦和を押し込む展開に。長谷川を起点に前の田中、後ろの馬場、さらには駒井あたりが関わって浦和の左サイドを突破しようというプレーが増えたかと思います。これに対し体力的な問題もある浦和は潔くローブロックで対応していくことになりますが、4-5-1ベースでバイタルを埋めるとさすがにポジティブトランジションが厳しく、クリアで逃げるのがやっとという感じに。残り15分さらに攻勢を強めたい札幌は荒野にかえて田中宏武を投入。長谷川竜也がシャドーへ、田中克幸がボランチへ。対する浦和もゲームの締めとして81分に岩尾と大畑を投入。敦樹と佳穂が限界だったようで両IHを下げ、不遜、岩尾、関根の逆三角形に。大畑は左WGに置きました。

交代で少し押し返せるようになった浦和ですが、全体的には札幌が押し込んで同点を狙う展開。83:55前後にはエリア内で鈴木武蔵にボールが収まりかけますがここは佐藤が見逃さずにナイスカバーでマリウスとハイタッチ。この流れのCKでエリア内からシュートを撃たれますがラッキーにも枠外。浦和は中盤でボールを受けた凌磨から鋭い縦パスがチアゴに刺さった85:32前後のプレーがありましたがトラップが決まらず。90:23の田中克幸の25m直接FKには少し肝を冷やしましたが、その後はこの試合らしく最後までわちゃわちゃすったもんだして試合終了。浦和レッズは今季初勝利、コンサドーレ札幌は未勝利未得点を継続となりました。

感想
  • 端的に言えば、浦和が勝ったというより札幌が負けた試合でした。ゲームの構造で言及した通り、札幌がかなりスペースをくれたので中盤であまり悩まずにファイナルサードへ到達できたという感じがしました。というわけで、浦和のビルドアップ問題に目に見えるような改善があったのかどうかの評価は次節以降に持ち越しとすべきかと思います。
  • 一方で、WGの選手も含めてIHが裏へアクションする意識というのはピッチ上に確かに還元されており、札幌が勝手に下がって中盤を空けてくれただけでなく、浦和の選手のアクションによって札幌の最終ラインを下げさせたということも言えるはず。前線の選手たちのアクションで相手最終ラインを押し下げ、中盤に広いスペースを作るようなゲームができれば、どんなチーム相手が相手であっても中盤に大きくスペースがあるように見えるゲームが多くなっていくのかもしれません。それは単なる間延びではなく、戦術的なアクションによって得られたスペース、「戦術的間延び」と言うこともできます。その影響がどこまでの範囲だったかを見極めるかは観ている方にはちょっと難しいのですが、相手を間延びさせ自軍の攻撃的選手が躍動するスペースを作り出すのがまさしくヘグモ監督のサッカーだと思うので、この点は重要なポイントです。
  • こうした前提があったうえでロングボールで相手をさらに押し込んだり、そのセカンドを前向きに拾って攻撃を仕掛けていくプレーが出れば、チームとして「プレーエリアを前方に置いて相手に圧をかけていく、いわゆる攻撃的なサッカー」のための戦術的基盤を見つけられつつあると評価できそうです。実際に今節の敦樹や佳穂は結構セカンドボールを拾っていた印象で、特に敦樹はオンザボールのプレーが多くなればなるほど迫力が出ますね。
  • IHのパフォーマンスといえば今節は佳穂と敦樹のパス交換など、両サイドのWG-IH-SB以外の三角形の繋がりが意識されていた印象。中盤にかなりスペースがあったのもあると思いますが、例えばIHとSBで作って縦パス⇨興梠が降りてきて受けて、逆サイドのIHに落として前向きで前進という一連のプレーは効果的だったと思います。WGにボールが入るのを待たずにIHから裏へのアクションを始めるところも出ていたし、前節よりも今季っぽい感じにはなっていたと思います。
  • あとは前田が自分から距離のある動き出しをしてくれて、ボールホルダーに「パスを出させる」プレーをしていたのもダイナミズムやバイブスを生み出していくのに交換していた気がします。関根や松尾もマークがついてくるなら逆サイドまで大きく動き出したりしていて、チームとしてマンツー気味のマークへの対応を「学んだ」感じがしたのもポジティブではないかと。
  • あとはとりあえずチアゴがハマればというところですが、今節の興梠の動き出しの頻度やスペースの見つけ方と後半チアゴが出て来てからの動き出しの質を比べると、まあ…という印象。興梠に比べて身体が重たいのはわかりますけど、それにしてもどういうボールを入れたら活きてくるのかまだよくわかりません。まあこれは去年のカンテもそうだったので、早いうちに自己紹介プレーを見せてもらう必要がありますね。カンテもバイタルから意味わからんシュートを決めることでチームメートが「ああこんなかんじね」とわかっていった経緯がありましたし。後半松尾からのクロスがドンピシャで合ったシーンを決めていればチームとしても個人としてもかなり雰囲気が違ったと思うんですが、決められずでした。コメントで興梠本人も言っていましたが、大ベテランがスタメンで60分前後プレーできる試合というのは多くてもあと10試合くらいだと思うので、その間に解決策を見つけたいところです。いや僕は利樹スタメンでもいいですけど。
  • ボール非保持の整理については正直まだよくわからない部分があるのですが、今節のやり方をみるに選手に合わせたタスクを与えているのかなという感じもします。興梠の使い方とか、前田が前に前に出て行くのは彼が攻め残っていた方がカウンターに迫力が出るという意識なのかもしれないとか。
  • こうした中でタスクの隙間を埋める役割として関根や佳穂の存在というのは非常に大きいので、今後も二人はスタメンが続くのかなと思いました。特に関根はIHに入ってからも効果的なプレーを見せていたように思いますし、頼れる選手になったなあという印象。凄く身体が重そうだった2018年からだんだんパフォーマンスが良くなってきて、今季は一番良い関根を観られるのかなと期待したくなります。デビュー時とはもはや違う選手ですが、そこがまたいい。
  • 凌磨もパフォーマンスが上がってきている印象ですが、頑張ってクリアして自陣内(何度かは自陣エリア内)に中途半端なボールを落として相手にわたるのが3回4回あったのが怖かったです。ああいうプレーの評価は結果論になってしまうところがありますが、何回も続けているとバチが当たりそうなプレー選択ではありました。攻撃面では頼りになるところが見えてきているので、まだまだ期待。
  • 芝のコンディションが非常に悪かったことで浦和の選手だけでなく札幌の選手もプレーがしづらそうでした。芝の育成はどうしても自然や天候相手なので難しいところがあるのだと思いますが、怪我が怖いですね。お互いミドルレンジのボールや浮き玉が多くなったのは芝のせいでしょう。
  • 結果的にショレが負傷交代となってしまったのは浦和にとっては非常に痛いですが、昨年4,000分以上プレーしており疲労の蓄積があっただろうし、そうでなくとも今季の守備のやり方を観ていると前後左右に動かされて厳しい局面に晒される回数も多かったので負荷は大きいだろうなと思っていました。なのでショレ・マリウスのコンビだけでは戦いきれないだろうという意味では想定内。これが長引くと問題ですが、ショレなら上手く早めに交代を申し出てくれたと思いたいところ。
  • 交代で出場した佐藤は望外に早いレッズデビューとなりました。加入以来ほとんどの試合に出場してきたショレの負傷交代はチーム・サポーター全員にとってショックな出来事だったのですが、佐藤だけはウキウキでピッチに登場してきたので笑ってしまいました。何か具体的に注目すべきプレーがあったわけではないのですが(緊急出場のCBであればそれでOKですが)、空中戦の競り合いはほとんど負けていなかった印象。どこかで一回なぜかマリウスと酒井にも競り勝っていましたが、強みがわかりやすくていいですね。メンタル的にも頼りになりそう。その分の弱点は必ず出てくるはずなので、そこで事故らないかどうか。
  • 札幌は今季かなり大変そうなパフォーマンスでした。マンマークで頑張ろうというのはいいのですが、戦術的にも個人の部分でも強度があまり出せていない印象なのが良くないです。開幕戦でやる気マックスの広島を体感したからなのか、札幌の選手の寄せの甘さと間延び感は悪い意味で印象に残りました。最大の特徴とすべきであるオフェンスでも縦パスの入れどころやコンビネーションの発動など狙いがチームとして定まっていない印象。攻守のバランスが悪かったりびっくりするようなリスクオンをするのはミシャの通常運転なので別に心配することではないですが、ミシャが一番大事にしたい魅力的なオフェンスとその構築の部分で完成度がぜんぜんだったのはさすがに厳しいのかなという感想。試合後のコメントでもなんとなくしおらしかったですし、どうしたでしょうね。1トップ2シャドーのところが難しくて全体に迷いが生じてしまっているのでしょうか。
  • その中でも岡村と菅のパフォーマンスは非常に良かったと思います。菅は左利きの武闘派左SBということで希少種なので、海外からも声がかかりそうな気がします。あとシャドーはスパチョークよりも長谷川の方が何か起こせそうな感じがしますが、怪我とかコンディションもあるんですかね。
試合評価・個人評価

札幌の方に要因があるような気がしなくもないですが、個の能力や前向きなプレーというのは前節に比べれば格段によく表現されていました。「相手を休ませない」については試合中盤まで、特にスタメンIHが元気なころはプレスバック等球際の攻防で迫力が見えることが多かったですが、いかんせん一発でいって入れ替わられるのが多いのが個人的にどうなのと思ってしまうのと、終盤クリアボールをマイボにできず、ローブロックで防戦一方になってしまったのはマイナス評価です。

この評価を考えていて思ったんですが、前田はこのコンセプトにドハマりしている選手なので、彼が目立てばコンセプトの達成度が上がるという話かもしれません。それはそれでいいことなんですけど。チーム戦術的なところでいうと、①相手の最終ラインに影響を与えてラインを下げさせ、②「戦術的間延び」を利用して中盤で自由を得るとともにプレーエリアを前方に置き、③WGの仕掛けを起点にさまざまな選手が入れ替わり立ち替わり相手ゴールにアタックする局面をなるべく多く作り出す、というのが今季の戦術的な方向性と言えるかと思います。ここまでの2節では①、②のところで苦労していましたが、今節は札幌側の問題もあってこの部分の内容が良くなり、③が課題となったという感じでしょうか。今後、どんな相手にも①②の部分を表現しつつ、③の精度も上げていくのがテーマになるかと思います。

まあともかく、勝ったことが重要な試合でした。普段文句言いまくってる僕がいうのもアレですが、酒井の得点時のリアクションなんかはチームや彼自身が産みの苦しみに陥っていたであろうことを想起させるものでした。ひとつ前に進めて良かった。

最後に、選手別感想は以下の通りです。

今節も長文にお付き合いいただきありがとうございました。