96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

些細な隙も許されない:Jリーグ第17節 vs川崎フロンターレ 分析的感想

 今季前半戦の締めくくりとなる第17節は早くも首位独走の感がある川崎をホームに迎えた対戦です。ゲームまで1週間空いたことと、今季最強とも言える圧倒的パフォーマンスを見せている川崎のサッカーには興味があったので、いつも最初のほうに書くような相手のスタイルやお互いの狙い、浦和のやり方みたいな部分は以下の記事にプレビュー的に書いています。

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こういう記事は初めて書いたんですが、相手を知ろうとすればすべての試合を観たくなるし、でもそんな時間はないし、キーパーソンだと思っていた三笘どころか橋岡も出ないし、毎回は絶対無理ですね。やりたくありません。記事は勢い余って14,000字くらいになってしまっているんですが結構たくさんの人に読んでもらえたみたいですし、この時点での川崎の強さを考察できたのはよかったような気がします。浦和がそういうサッカーをしないので「自分たちがボールを保持し川崎にボールを与えない」というやり方は考えませんでしたが、その他のポイントは濃淡あれど他のチームが川崎と対戦する際にもある程度参考になると思うので、今後も参照される記事になれば嬉しいです。もし時間があれば、このエントリの前に読んで頂けると僕がこのゲーム前後に考えていたことが追えると思いますが、長いのでおすすめはしません。

ゲーム前のリーグテーブルだけ確認しておくと、浦和は16試合で勝ち点27となかなかの成績。ここで勝利すれば4位グループの争いでも優位に立ち、シーズンの目標であるACL圏内がかなり現実的な立ち位置を確保できる、というゲームでした。ただそれ以上に、内容的にみんなが納得できるようなものがなかなか出てこない中で、圧倒的首位である川崎に対してどんなサッカーが出来るのか、という部分のほうが意識されたゲームだったかもしれません。

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両チームのスタメンと狙い

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細かいポイントだけれど、健勇が最初に右にいたのはキックオフは登里へのフィードからスタートしたことを考えても、ジェジエウとの勝負を避けるためだったと思う。いつも気になるCHの左右の並びの意図は、今のところいつもよくわからない。

浦和ベンチ:福島、岩武、マルティノス、汰木、長澤、興梠、武藤

川崎ベンチ:丹野、車屋、憲剛、田中、宮代、旗手、ダミアン

僕のスタメン予想は結構硬めに以下の通りでした。

柏木スタメンはさすがに読めませんね。川崎のプレッシングに対して西川のフィードで前進するためにレシーバーとしての健勇をスタメン起用することは理解できますが、トランジション(特にネガティブトランジション)が重要になるであろう試合で柏木の起用は予想外でした。このあたりは大槻監督のゲームプランニングと大きく関わってくる部分でしょうから、ゲームを観ていく中で考えたいと思います。

DAZNが15分番組で特集するほどわかりやすい注目ポイントだった橋岡vs三笘の対決は、両者ベンチ外というまさかの結末に。橋岡は今週の公開練習では普通にしていたと思いますから、もしかするとここ数日でアクシデントがあったかもしれません。三笘のほうは僕には全く情報なしですが、浦和用に何かを考えたというよりは川崎内部の事情ではないかと思います。川崎のチーム内競争がかなり激しいことは容易に想像できますが、あれだけ活躍している選手がベンチにも入らないっていうのはちょっと普通の選手層ではないですね。

川崎は大抵の場合どこのチームと対戦するにあたってもプレッシングから相手の自由を奪い、ボール保持から両幅を使って分厚く攻めるというやり方を変えるつもりはないでしょうし、実際今節もそのようにプレーしていたと思います。浦和のほうは引きこもっても川崎相手に勝ち点を取るのは難しいし、どうせなら自分たちの今季取り組んでいるトランジションを仕掛けていこうというのが大枠だったと思います。細かい局面における戦術は事前にチラ裏で予想したものが出ていた部分もあったと思いますが、大槻監督は僕が考えていたよりもボール保持でもチャレンジするという意図を持っていたかもしれません。

ハイテンションな入り

大槻監督が今季たびたび言及する「主体性」という言葉をどう解釈するかが今季の浦和を観ていくうえでは根本的に重要な気がしますが、圧倒的な完成度とボールプレーヤーの質を誇る川崎に浦和が(比較的)得意とするトランジションゲームを仕掛けたことはその「主体性」の意味を理解する上ではわかりやすいかもしれません。浦和はゲーム開始直後から前へ前へとプレーする意識が高かったように思います。ディフェンスにおいてはGKまでプレッシャーに行く機会こそ多くありませんでしたが、SBに入ったトーマスがハーフラインよりも前で斎藤学とマッチアップする機会が多かったように、引いて守りに入るというよりは自分のマークはしっかり潰して、奪ってから早く相手ゴール前に辿り着きたいというチーム全体の意識みたいなものが序盤のプレーによく出ていたのではないかと思います。これは今季の大槻体制に一貫して観られるコンセプトであり、特別な川崎対策をするというよりも自分たちのやり方でぶつかっていく、正面衝突を選んだなという印象です。

浦和はやろうと思えばSHを落として疑似的な5バックで自陣に構えることもできたはずですが、自陣では4-4-2を維持し、プレッシングに行く場合にはマッチアップを捕まえる感じで前に出て行っていました。マイボールになった際の振る舞いはなるべく前へボールを繋いでいくことで、特にアンカーに入る守田の脇のスペースにボールを入れながらSBのオーバーラップからのクロスを使うという狙いはあったと思います。この狙いの悪い面が出たのが柴戸がボールを奪われてカウンターを食らった小林悠のオープニングシュートの場面ですし、良い面が出たのは3:40くらいの山中のクロスを谷口がクリアした場面と言えると思います。ハナから浦和がポゼッションで相手のセットディフェンスを崩していくことには期待しにくいわけですが、そうであってもここまでハイテンションな試合の入りは今季では珍しかったと思いますので、チーム全体やスタメンの選手たちも首位川崎が相手ということで燃える部分があったのだと思います。

こういう浦和のハイテンションな入りに、川崎も付き合ったところがあったのではないかと思います。川崎のメンバー選考の部分やこの試合へのプランニングの細かい部分はわかりませんが、ここ数試合を観てきた印象からすれば川崎は今季の取り組みよりもかなり縦に早く攻めてきた印象です。浦和のボールへのアプローチがかなり積極的で速かったことが多少の影響を与えたと思いますが、それで浦和の最終ラインが空いているから狙いたくなったのか、簡単に下げてオフェンスのリズムを崩すことを嫌ったのか、それともこうした展開でも勝てるからいいやと考えていたのか、もしかするとその全てかもしれませんが、いずれにせよ川崎が序盤をコントロールしていたとは言い難い展開でした。7:30の川崎の左サイドの崩しなんかがそうですが、浦和が川崎のボールマンとその隣の選手にかなりアプローチするので、川崎が崩しにかかる場面でボールホルダーにほとんど時間がありません。こうした状況でも川崎はワンタッチを使いながら崩せるスキルと連動性を積み上げていますし、またこうしてプレッシャーにくる浦和の背中側で、川崎の選手には浦和の最終ライン周辺に崩しどころが見えていたのでしょう。川崎の判断は勝負ということで、サイドに複数選手が寄っての細かい崩しで打開を図る、またはラインブレイクを狙う選手を早めに使うという場面がよく見られました。

浦和がプレッシャーにくる中でも前やサイド、ボール周辺に人数をかける川崎がボールをロストすると、合理的に考えてやるべきことはボール奪還のカウンタープレッシングしかありません。ここを放置すれば浦和の2トップを中心としたカウンターを受けることになりますから、川崎にとってはこの局面が生命線になります。というわけで浦和が積極的なプレッシャーで勝負を仕掛け、それに乗った川崎がロストした場合はさらにカウンタープレッシングを仕掛けるという流れの中で、ハイテンションな序盤の流れが形成されたと思います。

戦術的なやりとり

僕がチラ裏で書いたような川崎の弱点を突くやり方は極端な提案なのでその通りにはならないとしても、浦和はいくつかのポイントで川崎の構造的な問題をつかえていたと思います。

中でも特に序盤によく形が見えていたのは川崎のセットディフェンスの不備で、今節の川崎はプレッシングは脇坂が高い位置を取ってミドルプレスを仕掛ける4-4-2を採用していましたが、その裏でセットした際や裏返されたところで両SH、特に家長の戻りや絞りが甘いために発生する脇坂の背中のポイントを使うことが出来ていたと思います。

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ただこのシーンはトランジション後の流れだったので、浦和が設計通り意図して使ったプレーではないと思う。

また川崎のプレッシングをはがす部分では事前に予想していた通り、西川からのフィードで川崎のプレッシングの第一波を外し、相手の最終ラインと浦和のトップの選手が勝負するという場面も同様にいくつかは作り出せていたと思います。最もゴールに近づいたのは14:00前後の場面で、西川から関根にフィード、一度は守田に引っ掛けられますがこぼれ球を槙野が浮き球で再び関根に届けると守田の背中側でオープンな状態を作り出し、スルーパスからレオナルドのシュートまで。浦和としては前述の山中のクロスのシーンかこのレオナルドのシュートの場面のどちらかでゴールを決めたかったですし、少なくともチョン・ソンリョンを脅かすプレーをしたかったところですが、このいずれでも枠内シュートを撃てなかったことはその後の流れを継続していく意味で重かったかなと思います。数は少ないですが、今節はそれを決め切らなければいけない相手との対戦でした。

川崎のボール保持、そして浦和のセットディフェンスについては、浦和はマリノス戦などいくつかの試合で見せてきた健勇が中盤のディフェンスに加わる4-4-1-1の形で臨みました。川崎のセットフェンスはIH、WG、SBが関わるボールサイドの3枚崩しと逆サイドに振っての素早い2枚崩し、そこに+αとして加わる脇坂のプレーという感じですが、中盤を5枚にすることで枚数を確保するとともに、両サイドへの中継役を担うアンカーの守田を健勇が見張るという形だったと思います。これで安定して守れていたかというとあれですが、試合展開としては拮抗に近いところまで持ち込めていたと思います。柏木が先発することによってSBがボールに高い位置まで出て行く等負担が大きくなる部分は相変わらずでしたが、トーマスの機動力と柏木本人の球際での頑張りなどもあってなんとか破綻しないところで耐えることが出来ていたと思います。

序盤のハイテンションなペースもあって川崎は普段ほどボール保持で自分たちのリズム―つまり相手も自分たちもほとんど止まって落ち着いているがボールという主導権は自分たちが握っている状態―を作っていなかったと思いますが、20分を過ぎるころには盤面を動かし、状況を安定させていきます。ボール保持で守田が下がり気味になる代わりに谷口がポジションを中盤に上げたことでボールの落ち着きどころが明確になり、ここから徐々に川崎の保持が安定していきます。

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こういう調整をピッチ内でやってしまうのが強いチームという感じがする。そして、自陣に残しているのがジェジエウとチョン・ソンリョンというのも憎らしい。川崎が使えるリソースの強みが最大限に活きる配置を作るのを止める術がないので、どのチームも川崎の土俵に引きずり込まれてしまうのかも。

こうなると浦和はボールマンにプレッシャーに行っても逃げられてしまいますし、これを阻止するためにはすべてのポジションでマンマーク(数的同数)を受け入れるか、レオナルドまで自陣に下げてブロックを厚くするかしかありません。どちらも受け入れられず(というか対応できず)にいた浦和は、ここからボールを川崎に握られることになりますが、これによって川崎は自分たちのボール保持で休みながら配置を整える時間を得て、今季の川崎らしいリズムを徐々に取り戻していったように思います。ただ浦和も、20分以降はなかなか前からプレッシャーをかけ続けることが出来なくなっていましたが、自分たちのブロックの中で川崎に起点を作られるというシーンはほとんどなかったと思います。

 些細な隙も許されない

柏木、脇坂のFKを挟んで飲水タイム、そこから30分を過ぎたあたりまでは、上記の戦術的なやりとりを根幹にしてゲームが進んでいきました。川崎がボール保持の仕組みを見つけたために重心こそ低かったですが、浦和はうまく守れていたと思います。ボール保持では数は少ないものの左サイド、特に関根にボールを入れてから山中が長い距離をサポートする形での前進が見られました。サイドに起点が出来てからの動き出しの少なさや連動性は相変わらずでしたが、守備が破綻しない限りは柏木の起用によってボール保持でも「何かが起こるかもしれない」という雰囲気を出せていたのも事実だったと思います。全体として、ゲーム前に誰もが予想したような力の差や一方的な支配を受ける場面が見られたわけではなく、浦和としては出来る範囲の中ではかなり良いゲームを展開出来ていた印象です。DAZN実況の西岡さんが語る通り、「緊張感のある展開」に持ち込むことが出来ていました。

それだけに、先制点を献上したシーンは残念でした。西川のフィードに競り合う選手がおらず、中央でのセカンドボールが大島に入る場面で寄せた柏木がターンで躱されたところが失点シーンのトリガーで、エヴェルトンがカバーに入ったものの大島に運ばれ、中央へのフリーランでうまくトーマスを外した斎藤へ。大島が再度引き取るとボールサイドに寄っていた柴戸の背後へ斜めのパスが入り、脇坂がフリー。ここまでの時間で関根には十分に戻る余裕があったはずですが、このトランジションで後手を踏むと脇坂のターンからの運び、大外の家長がエリア内、寄せきれずにいると背後から侵入してきた山根へ浮き球、鮮やかなボレー。山根のシュートしたエリアは本来CHが立っていて埋める場所ですが、ターンから中央に運んだ脇坂への対応で槙野が出ていた分柴戸が最終ラインを埋めていたので空いてしまいました。いろいろ考えるに、斎藤から大島にボールが戻った時点で柴戸があそこまでボールに寄る必要があるか、というのがポイントになると思いますが、4-4ブロックが出来ていればCHの立ち位置としては大きな間違いではないと思います。問題は4-4ブロックが出来ていなかったことで、脇坂のところは4-4ブロックの原則で言えば逆SHの関根が絞ってケアすべき位置であり、脇坂が前を向かなければ槙野が出て行く必要もなく、そうであれば山中も絞る必要がないので家長がエリア内でボールを受けることもなかったでしょう。

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書いてても思うけれど、じゃあ関根が戻らないのが悪いのか?と言われると、西川まで戻してロングボールでオフェンスを狙う、という浦和のオフェンス局面の直後で、ロングボールを拾って相手ゴールに迫るのは関根の役割だったと思うので、難しいところ。事実として、川崎はこうした役割の無理を見逃さずにゴールしてしまうということ。

この試合の関根はオフェンスでは家長や脇坂の裏、守田のケアするエリアで前を向き、距離があってもそこからゴール前に侵入していく役割を負っていたと思いますが、この場面では体力を使ってでも戻ってほしかったところです。それ以外の場面では健勇がオフェンスで降りたついでにトランジションでも中盤を埋めていたので多少戻りが遅くなっても大きな隙になりませんでしたが、この場面ではトリガーになった西川からのフィードを受けるために浦和の右サイド最奥まで出て行っていましたので、関根がしっかりと戻ってくるしか方法はなかったと思います。

川崎相手に一度はリードを奪いながら最終的には5-2の大敗を喫したセレッソもそうでしたが、川崎がサイドを変えてくるときに相手WGやIHといった選手がエリア内でプレーする状況を作り出されてしまうとかなり苦しくなります。セレッソのように不用意なファールでPKを献上することもあれば、今節の浦和のようにオンザボールで何でもできる選手にプレッシャーがかからず、選択肢を与えてしまうことにもなるわけです。家長の浮き球のパスと山根のボレーは素晴らしいプレーでしたが、序盤に見せていたようなトランジションでの集中力を発揮できていれば防げた可能性の高い失点ですし、逆の言い方をすればこの試合で初めて見せた浦和のトランジションでの些細な隙が、一回目で失点に直結するというのが今季の川崎との対戦ということになります。

気を付けなければいけなかった後半の立ち上がり

40分にも谷口がボール保持に加わる仕組みから川崎の右サイドに展開され、家長の浮き球から山根のボレーという場面がありましたがこれをなんとか凌ぐと、前半は0-1で終了。終了間際に大島のアクシデントで田中碧への交代が川崎にあったものの、それ以外のメンバー変更はなく後半に入りました。

川崎と対戦するうえで、そして勝とうとするのであれば、後半開始のタイミングは最も注意すべき時間帯です。それは今節でも例外ではないどころか、まさにポイントとなるべき部分でした。川崎が後半開始直後の選手交代等で一気にプレッシングの強度を高める傾向があることに加えて、浦和が後半開始直後の15分間の失点が多いチームであることを踏まえれば、ここを乗り切らなければオープンな展開になりやすい終盤の勝負に辿り着けないわけです。

しかし、結果は川崎に追加点。クリアのこぼれ球を斎藤が拾うと、抜かずにそのままファーへクロス。直前にファーを指さしていた小林悠が入り込んだ槙野の背後のスペースにドンピシャのクロスが入ったものでした。

戦術的には、1失点目と同じように逆サイドのSH、関根が戻り切れていないことに起因する失点だと思います。左サイドから作った川崎は守田からエヴェルトンの背後のスペースに立つ脇坂へ。ここで関根が、直前の柏木のアウトサイドスルーパスの流れでカウンタープレッシングを単独で仕掛けており、戻るのが遅れており脇坂に制限がかからず、大外の家長がエリア内でボールを受ける形に。そこからはクロス→こぼれ球を斎藤学が拾う→クロス→得点とすべてがエリア内の対応となり、浦和はボールに寄せきれないままゴールを献上してしまいました。

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関根がこのプレーの直後に交代したことを踏まえると、前半のハイテンポなサッカーの中で激しい上下動を伴うタスクで体力的にも精神的にもキツかったかも知れない。

ただこの場面ではボール周辺にも小林悠の周辺にも人がそろっている場面からの失点だったので、個人の対応の不備もあります。他のパスコースが消せていた中でトーマスはもっとボールに寄せるべきだったでしょうし、槙野の背後を取ろうとしていた小林のマークは山中がはっきりと受け持つべきでした。クロスが上がる前に槙野は小林が背後を狙うのを認知して、山中に背後をケアしろと指示しているのですが、山中がこれに反応していないというか、してるつもりだけど意味はない、みたいな状態になってしまい、結果的に小林がフリーになってしまいました。あそこで競り合えとは言いませんが、少なくとも小林に身体をつけていればあのボールに完璧に合わせるところまではいかせなかったのではないかと思います。

こう考えると、関根が前にパワーを使った後の戻りの部分は開幕戦の湘南戦で指摘していますし、エリア内での山中のマークの受け渡しの不備からの失点も開幕戦と同じような失点と言えます。人に紐づく課題は本人が意識してもなかなか変わるものではない(そういう人間の特性はサッカーに限らず簡単に治らない)と思いますので、ベンチ側でもう少しこうしたリスクへの対処が必要だったと思います。彼らを起用し、彼らの強みでメリットを取ろうとするのであれば、その弱点をケアするやり方はベンチから提供してほしかったところです。今節で言えば後半開始10分だけでも大きく間延びさせずにゴールを固めるところからゲームに入れれば、こうした失点のリスクは多少なりとも抑えることが出来たのではないかと思います。今季の力関係であれば、0-1ならまだしも0-2から浦和が川崎を追い立てるのが現実的でないことは想像に難くないでしょうが、0-1で終盤を迎え、お互いに間延びしてくれば「何か」が起こる可能性があったと思うのですが。いずれにせよ今季の川崎相手には、こうした隙を見せることも許されないのだ、というのを見せつけられた二つの失点でした。

自壊するプラン、リソースの不足

0-2となったことで前に出るしかなくなった浦和は、直後に健勇→興梠、関根→マルティノスの交代。何かアクションを起こす必要があったというのと、関根が川崎のセット守備の曖昧さの背中を突いて推進力を発揮する場面が後半に入ってでなくなっていたので、そのあたりをマルティノスに期待したのだと思います。

ただこの交代は浦和にとってはほとんどデメリットにしかなりませんでした。プレーの連続性や球際での勝負をマルティノスに求めることはそもそも間違っているような気がしますし、健勇が下がったことでロングボールで前進する道筋もなくなってしまいました。劣勢で手を打つ必要があったことは否定しませんが、今節に限って言えば大槻監督の交代策は試合を悪くする方向に働いたと思います。柏木を下げて長澤を投入するとか、ドリブラーを入れ替えるにしても汰木にしておくとか、ベンチに中盤より前の選手を多く入れていた通りこうした状況を想定していたであろう浦和ベンチにしては、最初に切るカードがそこだったか?という疑問は拭えません。

ゲームは0-2となった後は概ね川崎のコントロール下に置かれました。前半ほど人数をかける必要のなくなった川崎はバランスをみつつも密度とスライド、そしてマルティノスが前残りする分基本の枚数まで少なくなった浦和のブロックの間を取る攻撃を繰り出し、守備では攻め手を見いだせない浦和に対してブロックを組んで応戦。マルティノスが低い位置でボールを受けてから考えるレベルのオフェンスなので特に苦労はなかったと思いますが、この時間帯の川崎は相変わらずWGの帰陣が遅かったりと盤石な印象を受けるものではなかったので、浦和としてはなんとかして1点を返したかったところでした。

この時間帯に浦和が見せたサッカーはリンクマンの不在、動き出しのなさを痛感させるもので、レオナルド、興梠、マルティノス、柏木とフリーランを連発できるタイプではないいわゆる大駒選手が前線に張り、その割に最終ラインとCHだけでは相手を剝がしきれないという感じでした。川崎のディフェンスもあいまいなので一発逆を取って縦パスが入る場面もありましたが、その後にどうゴールに迫るのかの部分では共有されているものが見えず、2トップと柏木が最前線に張り付くもののボールが届かなかったり、せっかく裏返せたのにマルティノスが自陣向きにトラップするとか、チームとしてよりも個人としてプレーする場面があまりにも多くなってしまった印象です。川崎も完全にゲームをクローズにしてはいませんでしたが、浦和は前のめりにリスクを取る割にはメリットを享受できていませんでした。

今季前半戦の浦和を振り返ってもそうですが、ゲーム展開的にもう一段上げていきたい、ゲームの入りではできている強度の高いトランジションゲームをもう一度リブートしたいという場面で、リソース不足のためにそれが出来ないというのは大きな問題です。結果的にオープンな展開での殴り合いを制する試合もあるわけですが、オープンであることがゲーム戦略ですというのはなかなか納得しにくいわけで、やはり編成の不備がピッチ上の現象に影を落としているシーンが目につきます。「戦略の失敗は戦術では補えない」というクラウゼヴィッツの言葉の通り、3年計画をぶち上げたわりにリソース確保がうまくいかなかったことが、このチームのブレイクスルーを阻害している、という見方もできるかもしれません。こういう言い方をすると「今いる選手に合わせて戦術を組めばよいのではないか、それが監督の仕事ではないか」と言う反論が出てくると思いますが、そうして5バックを敷いたのが昨年であり、「3年計画」の初年度から今あるリソースでやれることに甘んじていたらその先の進歩はないわけで、試合ごとに限界を知り、それをどう伸ばしていくかという問題に戦いながら取り組んでいるというのが今季の浦和なのではないかと思います。もちろん、「3年計画」の方向性が気に食わないという意見は人それぞれだと思いますが。

というわけで、試合は終了間際にレアンドロ・ダミアンのトドメの一発をもらって0-3で終了。2失点目以降何とかゲームを動かそうとした浦和ですが、手持ちのカードを切れば切るほど当初のプランが瓦解してしまい、それによってゲームの秩序すら失ってしまうという展開となりました。

ただ、カードの切り方に不満はあれど、根本的にはリソースの問題を無視できません。二つの失点のように些細な隙は許されない相手に対して、既存のリソースと監督の方法論、クラブとして今季積み上げてきたものの現在地が炙り出されたという見方もできるかもしれません。結果をみれば大敗ですが、4失点以上をしていないという意味ではまだマシ(最悪ではなかった)でしょうし、無得点だったことを考えれば良いところなしという評価をする人もいるかもしれない、という試合だったでしょうか。

3つのコンセプトに対する個人的評価

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は5点。西川のフィードを使ってプレスをスキップし、そのレシーバーとして健勇を起用することでリスクオフで前進しようという考え方は正しかったと思います。実際健勇は空中戦勝利が6/8ですから、個性を十分に活かせていたと思います。川崎のIHやWGが前に出てきたところを裏返し、関根が広い空間をドリブルで使うことや、川崎のWGがついてこないことを利用して山中が積極的にオーバーラップからクロスを狙うというのも理に適っていました。後ろも、川崎の崩しの精度が最高ではなかったという側面はあれど、エリア内の勝負が多く発生する中でギリギリの対応をしていたことを考えれば非常に悪いという評価は出来ないと思います。一方でレオナルドが半端じゃないストレスを露わにしている現状はさすがにどうなんだろうと思いますし、特定の選手、特にSHのトランジション強度への要求がものすごく高いわりにそれに応えられる選手がいないというのも厳しいところで、こうした歪さには今季付き合っていくしかないとしても、川崎のような完成度の相手にはボロが出てしまうのは必然かなという気がします。柏木の起用は川崎のセットフェンスの曖昧さをうまく使おうという判断だったと思いますが、全体の収支で言えば若干マイナスでしょう。やはり守備とトランジションの部分で後ろ、特に直接的なカバーリングが求められたトーマスへの負担が非常に大きかったと思います。ただトーマスは、柏木云々の前に斎藤学への対処でかなり後手を踏んでいたというのもあって、スピード系には大丈夫かなと思っていましたがキレキレになりつつある斎藤のクイックネスにはさすがについていけなかったようです。そもそも脚の長さが違いすぎるから細かいステップについていけないのは仕方ないと思いますけど、それにしても斎藤学はオンザボールもオフザボールも、どの局面でも運動量とインテンシティが高く、プレーの連続性も発揮されていて素晴らしいパフォーマンスだったと思います。三笘がいて、長谷川達也がいて、斎藤学がいるっていうのは、ちょっと武器の充実度が違う感じがしますね。それでも逆サイドのWGは家長の居場所というのも、またエグいですが。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は5点。前半の戦いは相手の強さを考えれば今季ベストの一つに数えられるパフォーマンスで、チームの最大出力では川崎相手でも「緊張感のある展開」に持ち込めることを示していたと思います。個人的には前半30分くらいまで出来ていたサッカーが60分くらい続けられるようになれば、かなり印象は良くなるだろうと思っています。90分はそもそも不可能でしょうし、60分やるにしてももう少しコントロールは必要でしょうが、やはり強い相手に対してモチベーション高くゲームに臨み、チームとしてこういうゲームで戦うんだという姿勢を見せたことはポジティブだったと思います。チラ裏で書いた通り、どんなに良いサッカーをしていても川崎相手にリードを許せば勝ち目が薄いことは十分予想できていましたし、さらに気を付けるべき後半開始直後に失点してしまったことでゲームがかなり難しくなりました。選手が変わったことでやりたいことがほとんど出せなくなってしまったことも含めて、後半の浦和の戦いぶりに評価すべきポイントはあまりないので5点は甘いかもしれませんが、浦和が悪かったから0-3なのかと言われれば、完成度の差はそれ以上だったよね、という気がします。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は3点。上記の通り、浦和が序盤に見せたサッカーは川崎を休ませなかったと思います。ただ前半で71回、後半で58回のポゼッションロストは多すぎますし、前後半ともにデュエル勝利数でも川崎に負けているので、ポゼッションの質を問う前にミスを減らすことや目の前の相手に勝つ部分がもっと表現できなければこの項目の点数が上がっていくことはないのかなという気がします。ミスの前提には、設計不足から来るボールホルダーのアクション待ちや相互理解の不足などいろいろな要因があると思いますが、浦和の選手自身が浦和がやりたいハイテンポなサッカーに耐えられていないと思われる部分があって、このあたりは編成の問題も関わってくるので早期の改善は難しいだろうなという感じです。

今節柏木を起用したことからも、川崎相手でも引くつもりはなく、正面からぶつかろうというのが大槻監督の考えだったと思いますが、今節得る(もしくは失わない)勝ち点や得失点差を考えればこれは少しやりすぎだったかなという気がしています。今季の浦和を観ていると、本当にハイテンポなサッカーをやりたい場合にはトランジション耐性の低い、インテンシティの部分で周囲のサポートが必要な選手はピッチに送り出せて一人までかなという感じがするので、ゴール前でレオナルドを使いたいのであれば、そして川崎の強さを考えるのであれば右SHには違う人選が無難だった気がします。対戦相手にもう少しミスが期待できるとか浦和がもっとボールを持つような、トランジションがそこまで強調されない展開を想定できるなら、レオナルドと柏木を使うという判断もわかるのですが。さすがに後半にレオナルド、興梠、柏木、マルティノスが並んでいた時間帯は明らかに11人のトランジション耐性が足りていませんでしたし、これらの選手を並べてこなかったのが今季これまでだと思うのですが。

トランジション耐性全振り、強度マックスのメンバーであればもう少し良い時間帯を伸ばせたのではないかというのが僕の考えですが、チラ裏で僕自身が書いた通り、恐れずに正面からぶつかったという意味では、大槻監督の判断を僕が批判することは難しいかなと思います。最終的に優勝を目指すのであればこのレベルに辿り着かなければいけないということを考えれば、今節知った彼我の差をどう埋めていくのか、そのために何が必要なのか、悔しいだけで終わらせない何かを見出したいところです。

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というわけで、浦和は今節の結果を受けて8位に後退。浦和より順位の高いチームには1勝1分5敗、下のチームには7勝2分1敗と、非常にわかりやすい前半戦の結果となりました。個人的には妥当な範囲に収まったなという感じですが、それだけに後半戦を通じてどれだけ「妥当」の範疇を超えていけるか、もしくは「妥当」のラインを高くするかが求められます。 上位チームに負けた理由も下位チームに勝った理由もある程度はっきりしている中で、お互いに相手を理解し対策を講じあう後半戦の戦いでこそ、「積み上げ」が問われていくものと思います。

 

今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。