96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

なすすべなしの10分間:J1リーグ2024第1節vsサンフレッチェ広島 分析的感想

【公式】広島vs浦和の試合結果・データ(明治安田J1リーグ:2024年2月23日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

メンバーと文脈

2024シーズン開幕!今季は大規模な補強の評価が高く優勝候補としても名前の挙がるレッズですが、開幕戦は同じく評判の高い広島との対戦。今季から広島の新ホームとして使用されるエディオンピースウイング広島に乗り込みました。

浦和が左・広島右でスタート。

浦和のメンバーで意外だったのはWGの配置で、右に松尾、左に関根でスタート。そのほかは左SBに入った渡邊凌磨も含めて事前情報通りかと思います。期待されたソルバッケンは前週あたりから練習をセーブしているような情報が出ておりベンチ外。キャンプでは右WG前田・左WG松尾の序列が高かったようですが本番では関根が抜擢されました。これは直前の練習でのパフォーマンスが高かったことに起因するようです。

予想が最も難しいのがウィング(WG)だ。左右のWGをこなす新加入のノルウェー代表MFソルバッケンは、20日の練習で別メニュー調整。ベンチスタート、もしくは大事を取って欠場する可能性があるとみる。右にMF前田直輝、左に松尾佑介がまず考えられるが、今回はあえて左に関根、右に松尾をチョイスしたい。20日の紅白戦でこの形を試した際、右サイドの好連係で崩して相手ゴールに迫り、ヘグモ監督が「エクセレント!」とシャウトした。

hochi.news

 

一方の広島はオフに補強した大橋がスタメン。そのほかは昨季と変わらないメンバーですがチームとしての積み上げのレベルは高いメンバーでした。

ゲームの構造

広島の守備隊形は基本的にマンツーマン。アンカーの不遜に対して左シャドーの加藤りくつぎきが張り付き、3-4-1-2に変形します。レッズの3トップは広島の3バックがそのままマーク。自陣の数的同数を受け入れ、序盤から殴り合い上等のプレッシングで勝負を仕掛けます。

対して浦和はビルドアップでは手前を使うことを第一の選択肢としつつ、危険であれば3トップに大きく蹴ることも辞さないという形。これはヘグモ監督の前任チームであるBK Häcken(以下「ヘッケン」)の試合でも観られたやり方なので方法論に違和感はありません。自陣で3トップvs3バックの構図になるのは基本的に守備側不利と考えられるので、手前でリスクを負うならば相手陣地でリターンを享受しようというのは狙いとして問題なし。一方で、ロングボールを蹴った先で3トップがそれをマイボールにできるかというのは全く別の問題になるわけですが。

今節の浦和はまずここで躓きました。3トップにいくらかボールをつけてもほとんどマイボールに収まらない。広島の塩谷、荒木、佐々木の3バックは全員が国内トップクラスのパワーと守備技術を持つ実力者であり、最初からマークが決まっている単純さも相まって簡単には余裕を与えてくれません。ロングボールで相手を押し込むことが出来なかったことでプレーエリアが低くなり、相手のプレッシングからの逃げ道を失ったことで圧力をもろに受けることになってしまったのがこの試合の根本的な構造だったように思います。逆にいえばここで勝てていれば試合展開は大きく変わったはずです。

そもそも、チアゴがそこまで収まらないのはある意味で計算内で、清水時代もめちゃくちゃポストが上手いという印象はありません。ヘグモ的なサッカーという意味でもヘッケンでトップの選手がポストプレーヤーだったわけではないので、トップに収まるならそのほうがいいとしてもそれが必須要素とは思いません。ただ苦しかったのは両WGへ直接出るボールが繋がらなかったことで、例えばヘッケンではトップよりもWGの選手にロングボールを蹴って、そこで収まれば一気にプレーエリアを上げて相手を押し込んでいくという展開が多く見られていました。この点で今節の浦和は関根・松尾の両WGのところに直接入るボールが少なかったし、入っても強力な広島の3バックを抑えてマイボールを確保するというところが出ませんでした。ここで多少ボールが収まらなくても、例えば裏に蹴り続けてワンチャンを狙うとか、そもそも根本的にもう少し収まりの良い選手をWGに配置するとかといったことができれば今節のようなゲームにはならないはずで、相手の最終ラインに直接圧力をかけることが出来れば相手のプレッシングは空転しやすくなるし、そうなればIHやSBが攻撃に関わる時間もできて多彩なアタックが出てくるようになるはず。WGに長いボールが収まる確率とそれを武器にできるかどうかは、今季の浦和がこのやり方を貫くのであれば、どのゲームでも一番最初に確認すべきポイントになるような気がします。今節はなかなかうまくいきませんでしたが、後半は前田が出てきて多少マシになったし、ソルバッケンにも期待できるので今節の出来だけで絶望するものでもないとは思います。

浦和のセットディフェンスは4-5-1っぽい形。予想していた通り佳穂がIHの位置から前に飛び出してプレッシングを行う形が良く見られます。昨季はミドル~ローブロックでかなり強固な組織的守備を見せていた浦和ですが、この点も予想通り今季は大幅にパフォーマンスが変わりそう。ミドルブロックを組む際、昨年に比べてセンターバックが左右に飛び出してSBの裏をケアする意識が強く、最終ラインのスライドはかなり大きそうです。基本的にはWGはプレスで前に出るだけで深い位置まで戻ることはなく、相手SBのケアくらいでしょうか。サイド奥の守備はIH、SB、そしてCBのカバーリングで守っていく感じがします。これによってCBがゴール前から大きく動くということは、最も重要な自陣ゴール前の密度やマークの受け渡しに隙が生じやすくなるということなので、基本的には守備強度は落ちるし、失点も増えることになるでしょう。とはいえそのために去年のOKB並みにWGに自陣守備をさせて体力を消耗させるのは本末転倒なので、このリスクの対価は基本的にはWGの攻撃面でのパフォーマンスでペイしてもらうことになります。広島は攻撃時は1トップ2シャドーの形で前線を構成し、シャドー2枚は降りたり相手のSB裏に走りこんだりしてボールを引き出すのが基本的なプレーパターン。従って浦和のCBのサイドへのカバーリングが誘発されやすい戦術だったとも言えるかもしれません。

また4-5-1もしくは4-3-3のセットディフェンスはIHの後ろのスペースが肝ですが、今節はここに広島の1トップ2シャドーが上手く入り込んでいて対処が難しかったように感じます。特に加藤が降り気味のポジションにいることが多く、意図的にか結果的にか敦樹の背後で目障りだったシーンが目立ちました。大きな展開で大外のWBへ展開⇒SBが対応のため外へ⇒開いたCBとのスペースにシャドーがランニングのパターンは右でも左でも良く見られ、昨年まではボランチが献身的について行くことで埋めていたチャンネルが広く開いてしまい観ている方としては慣れないリスクに背筋が寒くなるシーンがしばしば。

チャンネルラン対応

浦和がこれを嫌ってWGにWBをマークさせるようにすると一応チャンネルは埋まるのですが、今度は広島の左右のCBに制限がかからなくなるので無制限サイドチェンジのターンになってしまうのが面倒なところ。相手を押し込む意図のフォーメーションなのに自陣にブロックが張り付くのも本末転倒なので、長い目でみればこのリスクはある程度受け入れて、CBの対応力を信じつつCBが流れた分を中盤が頑張って埋めることでケアしていくしかないかもしれません。

前半45分 - 激しく鋭い攻防と構造的不利

ファーストシュートは広島・加藤りくつぎぎ。浦和陣地で発生したトランジションから素早く振り抜いてのミドルシュートでした。広島は昨年も非常にシュート数が多いチームで、戦術的にミドルシュートを多用し、トランジションからの素早いシュートで相手に圧力を掛けていくのがスタイルです。

一方の浦和は広島の前への圧力を受けて苦労しつつも、中盤の3枚のテクニカルなボール回しやショレの持ち上がりを使って相手の第一プレッシャーラインを超えることが出来ればチャンスありという感じ。5:13前後のシーンではショレの持ち上がりから相手の最終ライン手前を横切るパスでボールが左に流れると左WGの関根と左IHの佳穂のコンビで近いパス交換。一度は相手に引っ掛かるもののこぼれ球を繋いでエリア内で佳穂が強烈なシュート。広島GK大迫にセーブされるもののこれがこのゲーム最初の決定機となりました。広島の守備は前述の通りほぼマンツーマンなので、チアゴがファーに逃げればCB中央の荒木はそれについて行く他ありません。従ってこの場面のようにWB中野と左CBの塩谷を2o2で剥がせれば相手のヘルプが間に合わない可能性が高く、よりオープンなシュートチャンスが生まれややすいはず。このプレーで得たCKの流れで、素早いネガトラの反応から松尾のシュートが生まれるなど試合序盤はお互いに好戦的ながら互角の試合という雰囲気でした。

広島のディフェンスは序盤加藤のマークがすこし曖昧で、浦和GKからのセットしたビルドアップでは不遜をみるものの流れの中では敦樹をみることがあり(2シャドーのイメージ?)、その場合にはボランチの川村が不遜をマークすることも。ここでどっちがどっちをマークするかで不遜が空きやすいのか敦樹が空きやすいのかといった選択肢があったように思います。ただ展開の中で敦樹が前を向いてアクセルを踏めそうなところでソティリウがプレスバックしてきて挟まれるなど、ポイントポイントで自由になる選手ができなかったのは厄介でした。このあたりが広島のクオリティでしょうし開幕戦でモチベーションが高かったというのもあるかもしれません。

不遜の圧倒的なボールスキルをベースに圧を受けながらもパスを繋いで前進を図るレッズでしたが、ミドルサードを超えたあたりのパス交換や前進が上手くいかないパターンか、浦和の両SBにボールが入った際に広島のWBのプレッシングを正面から受けてしまいボールを戻すか蹴とばすかを選択せざるを得ないパターンの二つに展開が収斂していくように。普通SBに対してWBがアプローチするにはそれなりの距離を走らないといけないので、時間的な余裕が比較的あるものですが、今節の広島は最初からマンツーマンで後ろの3on3を受け入れているのでWBの初期ポジションが高く、浦和のSBは最初から捕まっているようなイメージだったと思います。さらに広島が序盤ボール回収後早めに浦和のサイド奥(特に右サイド凌磨の裏)に放り込むようなボールを重ねてきたのも厄介でした。これはもしかしたらプレス残りで浦和陣地奥に立っているWBをそのまま活かそうという発想だったかも。別にパス成功率は高くなかったですが、結局浦和陣地奥深くからリスタートなので浦和としてはなかなかプレーエリアが押し上げられなくなります。

浦和はCK守備の流れでサイドを変えた松尾が佳穂のパスを受けて左サイドで塩谷との1on1を制し、関根が逆サイドから走り込んでニア合わせたシーンが24:20前後にありましたがこれを大迫がセーブ。続く25:00には相手ミスから得たCKにショレがニアで合わせますがこれも大迫。浦和に流れが傾きそうになると今度は広島がプレッシングから素早い攻撃を見せ、連続CKから浦和ゴールに迫るなど流れを渡さない展開。お互い切り替えが早く球際の強さ・上手さともにレベルの高い展開が続きますが、上記のような流れからセカンドボールを多く拾い、アタックできるポイントも明確な広島に徐々に流れが傾く展開に。33分すぎからは前3枚とWBが攻守に走り回り浦和の最終ライン~中盤に余裕を与えず、こぼれ球を拾ったボランチ2枚に日本代表級の攻撃力がある広島の良さが組織的にかみ合い始め、違う引き出しを開けられない浦和を明確に上回るようになっていきます。

浦和は37:36前後に佳穂の上手いタッチから敦樹⇒酒井とつないで中盤の密集を抜け出し、酒井が中に入れたボールを関根が繋いで敦樹にシュートチャンスがありましたが迫力のあるシュートに張らなず枠外。その後もこの試合のテンプレ的な展開が続き、苦しいながらもなんとかHTまで逃げ切れるかなと思った矢先に失点。44分~広島がボール保持で浦和を押し込む展開で、松尾が広島の右WB東の対応で最終ラインまで戻ったところから。一度戻したボールが左CB佐々木に再び戻り、松尾が出られないので敦樹がケアしに飛び出すも、東を経由したパス交換で満田に敦樹の背中を使われ対角のアーリークロス。これに凌磨が対応するもこぼれ球を川村に拾われ、川村⇒塩谷⇒川村のパス交換で川村がフリーに。近くには関根と佳穂が戻っていたものの塩谷から右サイド大外へのパスを予測した二人が二人とも逆を突かれてしまいました。不遜と敦樹でバイタルを埋めていたものの前が開いた川村に寄せることは出来ず、30m超の左足ロングシュートが西川を強襲。西川がなんとか反応したものの弾いたボールは無常にも大橋へ。寝ていた西川も素早く反応しましたが大橋が上に決め、新スタ初ゴール。苦しいながらも拮抗を保っていた浦和には厳しい先制点となってしまいました。

後半45分 - なすすべなしの10分間と前田直輝による改善

後半も大きな構造は変化せずにスタート。浦和陣営が何か変えてくるかなと思いましたが、特にやり方を変えず、むしろ「もっと繋ごう」の指示が出ていたようです。これは前半終了間際の先制点で気分よくセカンドハーフに入った広島にとっては好都合この上なく、広島は前半同様プレッシングでプレーエリアを浦和陣地に押し込んでくる戦い方を継続。浦和は47分あたりのボール回しなど完全にハマった状態で打開策がなく厳しい展開となります。不遜がうまくマンマークから逃れてアクセントを入れられると前進できるのですが、ファイナルサードの崩しが不発でゴール前に良い形で到達できないといった感じ。唯一良かったのは50:50の不遜のシュートシーンくらいでしょうか。この場面では佳穂が降りてかなり苦しい場面を捌き、落としを受けたショレが前進⇒敦樹を経由して松尾の仕掛けから折り返しの形でした。

ただ佳穂の頑張りも二度は実らず。52:00前後の浦和のゴールキックからのビルドアップが失敗し、自陣エリア内で強いプレッシャーを受けてコントロールが大きくなった佳穂がこぼれ球を拾った大橋を倒してPK。このPKはソティリウが失敗してくれますが、ゴールキックをそのまま広島に拾われ広島左サイドからのクロスが大橋に合ってゴールを献上。PKのピンチを回避しながらも結局流れをつかみ切れないまま点差は2点に広がってしまいました。失点シーンは流れで不遜が加藤のマークについていましたが、ボール保持者への守備と考えると対応が軽かったと思います。それと個人的には、加藤が仕掛ける前にボールラインに戻れていた酒井がダブルチームで囲んでいればクロスが上がらなかったのではないかという気がします。後ろから東が走りこんでいましたが敦樹がついてきていたし、加藤のキャラクターを考えても不遜が抜かれたカバーリングに入るよりは利き足の面を潰してしまった方がリスクが小さかったかなと。まあこれは結果論です。ゴールエリア内ではマリウス・凌磨に対して大橋、ソティリウの2on2ができていましたが、ファーからマリウスの前に入ってきた大橋への対応が上手くいかずでした。このシーンのみならず加藤がサイドに流れて酒井の裏を使うシーンが結構あったのですが、不遜が対応せざるを得なかったりショレがサイドまで引っ張り出されたりと非常に厄介でした。セレッソ時代(というかおそらくその前)から中央からサイドに流れてのプレーを得意としている加藤ですが、システム上の噛み合わせと相まって浦和にとってはかなり面倒な選手であったと思います。

勢いに乗る広島は56:52にも大橋に決定機。こぼれ球をソティリウが詰めますが西川が何とか身体に当ててセーブ。その後浦和は58:27前後の浦和ゴールキックからの右サイドでのビルドアップが捕まり、次のゴールキックは右サイド松尾に蹴ってみたものの何も起きず回収され、59:48は左サイドでビルドアップをしてみたもののこちらでもしっかり捕まってしまい、61:15のゴールキックは左サイド関根に蹴ってみたものの合理的に跳ね返され広島ボールともはや打つ手なし。この2失点目から始まる約10分間の非常に悪い印象がゲーム全体の印象に大きく影響している感じがします。

どげんかせんといかん浦和は、佳穂がターン一発で作り出したチャンスを経て66分に選手交代。関根に代えて前田を、敦樹に代えて岩尾を投入します。岩尾はアンカーの控えだけをやるのかと思ったらIHに入ったので、これは少し意外な起用でした。一方の前田はCKのこぼれ球をヘディングでバックパスしようとして満田にプレゼントする極めて浦和的な浦和デビュー。即死級のミスでしたがなぜか助かると、これで完全にフィットした前田が少しずつゲームの空気を変えていきます。68:08には行ってこいの展開で広島の1トップ2シャドーのトランジションが遅れ、瞬間的に解放された不遜からのパスを受けてカットインシュート、71:18にも不遜の裏へのロビングに反応し佐々木に緊急クリアを強いて浦和のプレーエリアを前へ。その後いくつかのピンチを迎えたものの、続く74:40はハーフライン付近からのドリブルでの持ち上がりから仕掛けで鋭いクロスを中へ。期待していたほどきれいに前田までボールをつけられたわけではないですが、やはり一度ボールが入れば迷いなく仕掛けられる圧のある選手というのはこのサッカーには必要だなと思いました。得点には繋がりませんでしたが、広島のペースダウンと相まって50分台の非常に悪い時間帯を抜け出すのには貢献したと思います。

76分にさらに交代。凌磨に代えて大畑、チアゴに代えて興梠。77:10には前田の仕掛け⇒クロスから興梠のヘディング。枠外でしたがかなり惜しいシュートでした。このシーンになる前にも2回前田の仕掛けがあったので、彼は投入されてから10分間で5回は仕掛けていることになります。こういう感じでプレーエリアを前に置いてWGが仕掛けまくる展開と言うのがヘグモ監督の目指す姿なのでしょうね。3プレーほど継続して相手を押し込みセカンドボールを拾って攻撃を続けていたこともあり、このシーンではクロスに浦和の選手がエリア内に5枚入っていました。サイドに流れた岩尾のクロスに酒井が飛び込んだプレーを挟んで81分にさらなる交代。松尾に代わって中島を投入。中島が左IH、佳穂が左WGという起用でした。佳穂はWGとはいえプレー自体は中に入ってシャドーのような感じで、中島と中央高めの位置をシェアする感じだったように思います。88:26にはカウンターからドウグラス・ヴィエイラの強烈なシュートを受けますが西川がナイスセーブ。だいぶ強度の落ちた広島を相手にオープンな展開が続く終盤となりましたが、得点も失点もなくそのまま試合終了。A.T.の佳穂クロスからの興梠の合わせ、これで得たCKに対する岩尾のニアヘッドなどかなり惜しいシーンもありましたが、どちらも実を結びませんでした。これで浦和は3年連続で開幕戦を落とし、優勝候補とされる前評判の高いクラブ(浦和、広島、神戸、マリノス、川崎)のうち唯一の黒星スタートとなりました。

感想
  • 基本的にはシンプルな構造のゲームでしたが、シンプルゆえに練度の差が出た形のゲームでした。浦和としては第1節で広島と対戦するのは不運だったか。ハイプレス型3バックで、前三枚+WBがあれだけ頑張れて、後ろ3枚全員がめっちゃ強くて、ボランチに攻撃的タレントが置けるチームというのは他にいないので、噛み合わせ的な相性が最も悪いチームが最初に来たのかも。
  • とはいえ、後半立ち上がりに選手交代も含めてもう少しゲームの構造を動かすような采配があっても良かった気がします。プレス回避が全然出来ていない状況を踏まえて「もっとしっかり繋ごう」の判断がHTになされるのは今後に向けて一抹の不安あり。ただキャンプでも引き出しを小出しにしながら、守破離のごとく形を落とし込もうとしていた感じもするので、今後この辺は動きが変わってくるかも。継続審議でしょうか。
  • 戦術的な練度に加えて、広島はここ数年主力選手が大きく入れ替わっていないこともあり、各選手のプレー選択に対する選手同士の理解が深いのだろうなという印象。左右のWBの特徴を活かした攻め筋や加藤のサイド流れを上手く使った前進など、選手の特徴や得意なプレーが戦い方に織り込まれているあたりに完成度を感じました。
  • この点、浦和は戦術的なフレームワークと選手の特徴、得意なプレーやできるプレー、近い選手同士の相性・リンクといった要素の噛み合わせがまだまだ大雑把で、一つのシークエンスの中でもアイデアやいわゆる「画」が一致していないように思えるシーンもしばしば。攻撃時ミドルサードは素早く通過する方がよしとされるサッカーだと思うので、自陣のビルドアップとファイナルサードでの崩しのイメージがそれぞれ醸成されてくれば一段二段と良くなる期待はあります。例えば凌磨なんかはいっそ内側に入れて偽SBをやらせた方が良さが出そうな気がしますし、結果的にはチームにとってもプラスなのでは。監督の持つアイデアを選手の特徴に併せて成型するフェーズが早く来てほしいものです。
  • 例えば今節はチアゴが流れの中で良いプレーを見せることがありませんでしたが、WGに一発でつけて収まり前を向ける形があれば彼の決定力やゴール前の存在感ももう少し出てくるはず。エリア内では相手も激しくチャージできないので彼の身体の分厚さがもっと役立つようになりそうです。前田の登場以降酒井の迫力が当社比2.5倍になったことを踏まえても、どちらかのWGに収まりどころを見つければ芋づる式に良さが出てくる感じもします。他クラブで言えば川崎における家長の偉大さを知るみたいな話に繋がるかも。前田で事足りるのかソルバッケンが必要なのか(そもそもソルバッケンがプレーしてくれるのか)わかりませんが、関根だとこの点すこしきついかも。ボールが収まり仕掛けられるWGというのはまた難しいオーダーですが探していく必要がありそうです。ゴリラウインガー急募です。
  • システムの噛み合わせ的な話で言うと、今節の広島のようなプレッシング型3バック(特に全部噛み合わせ3-4-1-2)との対戦ではセオリー通りサイドの枚数的な噛み合わせの影響が強く、相手のWBがこちらのSBに出てくるならビルドアップ勝負(ミドルサードを超えれば浦和のWGが相手WBの背後で3バックに仕掛けられる)、そうでないなら浦和が押し込んでいく形に収斂すると思います。IHが絡めば相手はボランチを動かすしかなく、それが中央での数的優位に繋がるはずなので、そういう意味でもやはりビルドアップの質とWGにいかに収まるかがポイント。対4バックでどうなるかは次節わかるのだと思いますが、4-4ブロックを前提とすればアンカーに一枚つけてくるなら浦和のCBどちらかが一枚余る計算になるので、もう少し落ち着くのかなと予想。
  • 一方で、90分を通して負荷がめちゃくちゃ大きいCBのパフォーマンスがどれだけ継続するかはちょっと心配。昨季に比べてボール非保持で運動量的にかなりハードですし、晒されることが増えて精神的にもストレスが多いシーズンになりそう。エースを擁するポジションに大きめの戦術的負担を任せるのはリソース配分としては正しいと思いますが、比較的ゲーム数が少ないとはいえショレとマリウスだけで走り続けるのは厳しいような気もします。不遜のボール保持の質が代えがたいのは言わずもがな、佳穂の役割やレギュラーCBの質を考えると、ビッグスカッドになったとはいえ選手が変わった時に機能性が大きく落ちそうな感じがするのは開幕前にキャスで話した通りの印象がぬぐえません。
  • 後は単純に、マンマーク気味に嵌められることが多くなるということは選手個人個人の解決力が試されるわけで、マークが近くにいる状況で各選手がどれだけ解決策を持ち発揮できるかは重要なポイントですね。ポジショニングを含めた技術的な部分もそうだし、今節の広島のように激しくぶつかってくる相手に対する強さも必要かと思います。たとえばショレは、ドリブルでの持ち上がりは別としてビルドアップでハイリスクな選択肢は取らず、わりと相手を引き込む前にパスを捌く印象ですが、このサッカーをやる上ではそこそこのリスクであれば彼が引き受けた上で外し、両脇の選手が相手のプレスの標的にならないようにしてあげないといけないかも。
  • というわけで、実戦を見て確認できた部分が多くあり個人的には収穫大。不安もありますがやりたいことの片りんは見えているので次節までは様子見とします。
試合評価・個人評価(あとがき)

今季はこれまでよりもフットボール本部が設定したコンセプトを押し出していくものと思いますので、昔やっていた達成度評価を復活させます。

1.と3.については監督の指向もあって、敗戦の割にはやりたいことが見えたのではないかと思います。2.が実質的に戦術的試合展開を左右するポイントになるわけですが、これは広島に軍配。ただ広島程のプレス強度やその後の素早い攻撃を繰り出すチームが他に何チームもあるかというと、…まあ三つ四つはありそうなので、道のりは楽ではないですね。いきなりばちっとハマるとは思っていませんが、優勝するなら早めに成功体験と勝ち点を積み上げるフェーズに入らないといけません。少なくともやりたいことはコンセプトに合っているし、方向性は明確です。昨季の経験を踏まえると開幕2連敗は何としても避けて、ホーム開幕戦で結果を出したいところです。

最後に、選手評みたいなものをつけときます。年末の全選手振り返りの材料です。ご参考まで。

というわけで、今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。今季何試合書けるかはわかりません(まったく自信なしです)が、今季も楽しみましょう。