96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

心機一転。ルヴァンカップ第3節 vsサンフレッチェ広島 分析的感想

ついに堀監督が解任されました。後任はまたもユースからの昇格人事となった大槻暫定監督。また同時に上野コーチもユースからトップコーチに就任しています。暫定とはいえ新監督は交渉中ということで先行きは不透明で、場合によっては大槻監督がW杯中断前後までチームを率いる可能性があります。

 

そんな最中のアウェー広島戦。大槻監督は「野心的な選手」を起用し11人全員を入れ替えてこの試合にのぞみました。

f:id:reds96:20180405081609p:image

控え:岩舘、マウリシオ、平川、柏木、長澤、武富、ズラタン

 

これまでルヴァンの若手枠には荻原が使われてきましたが、今節は荻原に加えて橋岡も先発投入。さらには柴戸も公式戦デビューと非常に若い顔ぶれとなりました。また、前節復活かと言われた森脇が満を持して古巣戦での復帰となりました。ちなみに、キャプテンは山田直輝。なんだか顔が細くなって?凛々しくなった気がしました。一方の広島も若い選手を積極的に起用。大黒柱の川辺はスタメン出場するも、中盤中央は20歳の森島、19歳の松本と非常に若いコンビ、左SBの川井は1999年生まれとなっています。

ということで、両チームの積極的な若手起用に加え、お互いが4-4-2を採用していることもあり、明確なマッチアップが生まれるとともに結構ポロッとマークが外れ大チャンス当来という、リーグカップ予選らしい?試合となったことは事実だと思います。

 

同じ4-4-2、違う狙い

今節、両チーム同じ4-4-2を基準の並びに採用していますが、そのギミックが結構違っているのが面白かったゲームではないかと思います。4-4-2では、相手の2ラインの間、味方FWの後ろのスペースをどのように攻略していくがでチームの色が結構出ると思いますが、この点に関して両チームは異なるアプローチを見せていました。

浦和は、両SHのマルティノスと荻原が幅をとってWGのようなポジショニング。中央に密集しないように位置取りをしたうえで、李とナバウトの2トップのいずれかがボールを引き出す為にポジションを下げ、下がったFWが空けたスペースに残りのFWが裏を取る。それに連動して両SHも可能であれば中央へ斜めのランニングで中央のスペースを突いて行く、という考えだったようです。非常にシンプルな整理ですが、大槻監督就任からわずか2日での初めての公式戦、しかもリーグ戦からは全員を入れ替えたゲームとあっては、逆に狙いが明快で選手もプレーしやすかったかもしれません。なお、李やナバウトが頻繁に降りてきましたが、広島のDHに入った松本、森島がいずれも若手選手ということもあってかフィジカル的にもボールの反応でも比較的優位に立てていました。彼らがあまりボールを失わなかったことで、チーム全体がゲーム当初から前への意識を保つことができ、積極的なゲーム展開を維持できていたのではという印象です。

f:id:reds96:20180405212316j:image

また、浦和の第二の狙いとして、右SBに入った森脇を高い位置に押し上げ、マルティノスと連携しての同サイドからの前進、アタッキングサードでの崩しに積極的に参加させていました。森脇はもともと「この高さ」を取ることに選手としての特徴があり、ミシャ時代もそのようにプレーしていましたが、今節の位置取りは彼の独断ではなく、チームとして彼の良さを引き出そうとした結果だと思います。これは直輝の試合後のコメント「相手の2トップの脇に入れという指示だった」からも見て取れます。浦和の2枚のCBに対して広島の2枚のFWのプレッシングを想定し、DHの1枚が最終ラインで相手2トップの脇もしくは間に落ちることで高い位置でボールを進められる森脇への道を確保する狙いだったのかなと想像します。実際、広島のマルティノスとのマッチアップは若い川井だったこともあり、同サイドの松本らが川井へのフォローを強く意識してマルティノスを包囲しようとしていましたが、森脇が近い位置でフォローすることで逃げ場を作り、度々右サイドから押し込んでクロスまたはシュートまで持っていくシーンを作っていました。大槻監督としては、選手の特徴に合わせて最低限のルールだけ組み上げ、あとは気持ちよくやってほしいという感じだったでしょうか。森脇を高い位置で使い、マルティノスとともにサイドを制圧させる作戦は今節では非常に有効だったと思います。また引き出しの多いナバウトが降りて前を向き、李が裏に走るという狙いもまたうまく機能していました。そしてこの4人+直輝が中央で絡んで行く形もまたチャンスを多く生み出していました。急造イレブンゆえに細かい部分はハマりませんでしたが、それでもたった2日での準備ということを踏まえれば良い出来だったと思います。

f:id:reds96:20180405212335j:image

前半最大とも言っても良かったチャンスは、やはり右サイドから生まれました。自陣でのボール奪取から中央で縦パスを受けた柴戸が身体をつかってボールキープから前を向き、右サイドを走るマルティノスへ。ポジティブトランジションにおいてスペースとボールを享受したマルティノスは危険レベルマックスなので、広島の選手はなんと5枚で襲い掛かりました。マルティノスがボールを戻すと、完全にエアポケットとなったエリア内へ走り込んだ直輝へダイレクトでスルーパス。ボールの足が長くなり惜しくもシュートまで持ち込めませんでしたが、非常に良い崩しが見られたと思います。他にも右サイドからは、押し込んでからバイタル中央へ侵入する森脇がこぼれ球をダイレクトシュートで中林を脅かしたシーンもあり、よく機能していたと言えると思います。

f:id:reds96:20180405212418j:image

一方で広島は、浦和とは違った狙いで中央の攻略を狙っていました。キープレーヤーは右SHに入った川辺で、川辺は自軍がポゼッションする局面では頻繁に、そして自由に中央にポジションし、両チームのDHが2枚ずつ対峙する中央のエリアに入り込んでいました。同時に、川辺が中に入ることで開けた右サイドのスペースには右SBの馬渡が非常に高い位置を取ることで浦和の最終ラインに幅を作らせようと狙っていたようでした。突破力とクロスに優れる馬渡の幅取りと、数的同数になっていることで質の勝負に陥りやすかった中央エリアへの川辺の侵入は、浦和の守備に度々大きな危険をもたらしていました。試合中、直輝や柴戸が最も潰すべきエリアを度々離れてしまうことがあったのは、時には逆サイドのフェリペシウバと被るようなエリアまで侵入する川辺が気になるというのも一つあったのかなと想像します。ちなみに、逆サイドのフェリペシウバもまた中央に入ってくることがあったので、川辺と馬渡のコンビだけの整理ではなく、チームとしてそのようにSBを上がらせる狙いはあったのだと思います。

f:id:reds96:20180405213114j:image

これに対して浦和の守備は結構怪しい場面もありましたが、なんとか食い止めることは出来ていました。中央での数的不利は両FWのプレスバックと4バックの幅をペナ幅に揃えることで対応していました。浦和は渡やティーラシンに大外へ走られてCBを外に泳がされ、中央のギャップを突かれるとなかなか厳しかったと思いますが、幸いにして広島の2トップは中央に留まりボールを待っていたため、岩波、橋岡が対人の強さを発揮できる状態だったのが良かったのでしょう。

 

「気持ち」の後半

前半は総じてお互いが狙いを持って攻めるも決めきれない、最後が合わないような展開。どちらかが点を取ったところから大きく動きそうでしたが、後半も同じような展開が続いた試合になりました。浦和は特に前半と狙いを変えているような素振りはなく、広島も川辺が一度中に入った後に菊池の大外に走り込むなどしてスペース攻略を狙うなど個人の工夫こそありましたが、それ以外は目立ったプランBは無かったように思います。15連戦の最中の平日のルヴァンカップで両チーム選手を大幅に変えていたということもあり、戦術的な狙いというよりは最後の質でどちらが上回るかという感じだったのでしょうか。

後半はお互いがよりスペースを享受するものの質が伴わずバチっと合わないシーンが多くなり、試合勘の問題か若干ゆるい対応が目立つ中互いの陣地を行ったり来たりという展開でした。ハイライトは浦和はマルティノスの右サイドからの高精度クロスに李が飛び込み決定機、そのクリアボールを橋岡が後ろにすらしてしまい広島の選手が抜け出しますが、福島が飛び出し1対1をセーブ。お互い惜しくもチャンスを活かせずという一連の展開。試合が進むにつれて終盤は広島の選手の運動量が落ちたこともあり、途中出場の長澤、武富がナバウト、マルティノスに絡んでチャンスを作りましたが、決め切ることは出来ませんでした。結局、両チーム交代枠を消化しつつ先制点を狙ったものの試合はドロー。大槻監督の初陣は敵地での勝ち点1を得る結果となりました。

戦術的な取り組みは薄かったとはいえ、浦和サポーターの視点では、選手たちの姿勢に心を奪われるような試合だったのではないでしょうか。李、ナバウト、マルティノスは攻めてはゴールに積極的に向かいつつも、しっかりとプレスバックし守備にも貢献していました。直輝、柴戸のDHも川辺のフリーランに引き出されつつも球際で負けないという気持ちが強く見えていました。最近の浦和の試合は後半に息切れが起きるとそのまま力負けするか、ミスで失点という展開が多かったため、この試合に勝ちたい、流れを変えたいという気持ちをプレーで見せてくれた今節のイレブンの姿勢は見ていても気持ちが良かったです。広島のメンツとレベルを差し引いても、選手たちの姿勢に対する評価を低く見積もることはできません。

 

印象に残った選手

新体制の初戦に気持ちを見せた今節の選手たち。大槻監督は試合後のコメントでフレッシュさ、野心、責任という3つの軸で選手を選んだと明かしており、落ち込みつつあったチームにエネルギーが少し戻ったような感覚は嬉しい限りです。リーグ戦を戦ってきたレギュラー組は今節ほとんど出場していないため次の仙台戦の選手起用はまた大きく変わると思われますが、良い印象を残した選手たちについて最後に触れておきたいと思います。

・福島

公式戦デビューとなった試合でビッグセーブを連発。無失点に大きく貢献しました。キックも質が良く飛距離が出るため、西川と比べても見劣りしない素質があることを示したと思います。今後もルヴァンカップでの出場が掴めるのではないでしょうか。

・森脇

流石の一言。今節のメンツでは別格の質を示した一人だと思います。マルティノスのサポートに後半になっても猛然と上がっていく姿はコンディションの良さを示しており、やはり攻撃構築では遠藤を上回る「本職」の質を持っていると思いました。ただし、今節は守備面での苦労がなかったことも影響したかもしれません。

・岩波

良くも悪くも大きく目立つことは無かったですが、無難に最終ラインをまとめたと思います。セットプレーでの強さを発揮してほしいところ。

・橋岡

対人の強さという自身の特徴を存分に発揮したと思います。ただ、ビルドアップはかなりのおっかなびっくりだったのはデビュー戦のご愛嬌でしょうか。試合経験をガンガン積んでほしいです。

・菊池

毎試合ですが守備のポジショニングがかなり独創的で怪しい。ただ本職でないポジションで周りが若手の中起用され、うまく使ってもらえないのは彼の苦悩かもしれません。できれば前で思いっきり走らせたい選手。

・柴戸

デビュー戦としては十分な出来。身体の強さ、前に出て行く部分など守備専じゃないぞという部分が見えたのが面白かった。

・直輝

直輝は直輝という感じのプレーで、良くも悪くもたくさん動いていた。特に守備時に川辺を結構気にしていたか。オンザボールで質が出せるので、今日のゲームを作った一人。たぶんレギュラー組でも使われるでしょう。

マルティノス

右は窮屈そうに見えますが、結局押し込んでクロス、持ち替えてアーリークロスと中にボールを供給できるのは強み。広島・城福監督の試合後のコメント「マルティノスを脅威に感じた」は本音でしょう。でも一瞬だけ見せた左サイドでのプレーのほうがスムーズに感じました。できればレギュラー組で左のプレーが観たいです。

・荻原

馬渡との攻防でなかなか質を出せず。個人昇格レベルの選手では分が悪かったか。守備や球際はしっかりやっていました。

・李

豊富に動き回りボールを引き出し、裏に走り、クロスに飛び込む。最後の一瞬が合えばゴールできていたかも。

・ナバウト

これくらいのスペースがあればなんでも出来るよという感じでしょうか。リーグ戦はもっとスペースがないはずなのでもう少し苦労しそうですが、このプレーであればサイドに置くよりも真ん中からある程度自由に動かすのが面白そうです。2トップで興梠と組ませてもほとんど問題なく出来そうなので、頼もしい助っ人という印象です。キック力があるので見ていて気持ち良かったです。

・大槻監督

暫定監督として時間がない中でもシンプルなルールでチームを構築した手腕は前評判通りと言えると思います。リーグ戦ではまたメンバーがレギュラー組中心に戻ることが予想され、また今節は広島も非常に若いメンバーだったことは注釈となりますが、なんとか彼の元で上昇気流を掴みたいところです。

 

今節もお付き合い頂きありがとうございました。