96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

浦和レッズは強い。 第13節-柏レイソル戦

 快晴。風は少々強めですが、サッカーをするのに問題はなし。ゴール裏は最上段まで赤く染まりました。柏サポのチャントを掻き消す大声援で国立がどちらのホームなのかをしかと見せつけます。最高のサッカー日和に行われた柏vs浦和の一戦。さまざまな因縁のあるこのカードですが、個人的に今節最も熱かったのは両戦術家の手の打ち合いでした。

 柏は、ショートカウンターが得意なチームです。まずは守備から入り、コンパクトに保った守備陣形の中でダブルボランチを中心に相手を追い回し、ボールを刈り取る。ボールを奪うと相手が上がったスペースに連続して人を飛び込ませ、ワンタッチツータッチでポンポンとボールをつないでいく。速攻でそのまま攻めきれればそれでよし。そうでなければサイドに起点を作り、クロスを上げる。今季は真ん中にクレオがいますから、彼がターゲットになりますし、裏のスペースはリーグ最強ともいえる決定率でゴールを量産している工藤が常に狙っています。それに加えて、レドミとワグネルというスーパーなブラジル人が試合を決める能力を持っている。非常にバランスが良いうえにチームの約束事が明確なので選手も迷いのないプレーができる。 

 ネルシーニョは、浦和を倒しに来ていました。浦和のサッカーを分析し、ある程度の見込みをもって今節に臨んだはずです。彼は、最終ライン4枚すべてにCBタイプの選手を起用しました。サイドバックの位置にも本来真ん中を守っている選手を起用してきました。右に新潟から獲得した鈴木大輔。左には増嶋竜也です。話によると柏はこの4CB作戦を何度か試しているようですので、柏にとってはオプションの一つでこそあっても、決して奇策ではないのでしょう。ただし、一般的に非常に珍しい起用であることは確かです。前述のとおり柏は攻撃時にサイドに起点を作ります。センターバックがゲームを作るようなことはあまりせず、サイドバックサイドハーフ、そのフォローに両ボランチが走るというのが困ったときの基本の組み立てです。にも関わらず、ネルシーニョはそれを放棄しました。コメントなどを読む限りでは、ネルシーニョの考えは以下の通りです。浦和にはボールを持たれることだろう。前節の鳥栖戦での大量得点で勢いに乗っている危険なチームだ。まず、サイドバックに置いた屈強な二人が浦和の両WBを見張る。彼らが受けるロングパスや1対1のしかけを鈴木、増嶋の二人でシャットアウトし、浦和のサイド攻撃をケアする。真ん中では両CBが興梠を自由にさせず、シャドーの二人は柏の誇る有能な両ボランチが厳しくマークにつくことで前を向かせない。ここまでガチガチに守備を構築すれば、浦和は左右のストッパーが上がってくる。強引なまでに人数をかけて攻めをつくる浦和の弱点はまさにここにある。左右のストッパーにはジョルジワグネルと工藤をつけて数的有利を作らせなければ、どうしてもつなぎにミスが生まれてくる。我慢を続けさえすれば。我慢さえできれば、目の前の広大なスペースが代表初選出となった若きエースに用意されている。。。

 ネルシーニョは見落としていました。もしかしたら、見えていたのに見ないふりをしたのかもしれません。ボランチの位置から下がってゲームを組み立てる阿部勇樹と、昨年までは自らの手元でサイドバックとして起用し、今では浦和のCBとして水を得た魚のように躍動する那須大亮を。浦和の攻撃は、両ストッパーを止めたところで終わりません。阿部と那須の二人には、クレオ一人がプレッシャーに行くことになっていたのでしょう。長身ブラジル人のプレッシャーを冷静にかわし、二人は柏陣地に侵入していきます。ボールマンをフリーにするわけにもいかず、まずボランチがマークを捨ててケアに向かいます。空いてしまった選手のケアのため、一つ、また一つとマークがずれていく。この時点で、4CB起用の策は奇策から愚策へと姿を変えていくのでした。マークのずれから浦和の両WBをケアすることが難しくなったことに加え、浦和レッズのしたたかな試合運びが柏をさらに苦しめます。この試合、浦和はボールに固執しませんでした。前からのプレッシャーを自重し、自陣にどっしりと構えて敵を迎え撃つ。今季の浦和は流行りのゲーゲンプレッシャーに触発されたかのような前からのプレスを一つの武器として戦うことが多かったにも関わらず、この試合ではあっさりと主導権を柏に渡しました。柏はいつものように攻撃を組み立てます。そう、いつものように。サイドに起点をつくる普段の柏のやり方には、サイドバックの攻撃参加は絶対不可欠です。しかし、この試合の柏のメンバーにサイドバックは入っていません。ネルシーニョがそれを放棄したからです。両サイドバックはなんとか攻撃に参加しようとするものの、スピードもアイデアも本職に及ぶはずがありません。結果、柏は落ち着いた攻撃の起点をなかなかつくれないまま、ロングボールをクレオに合わせるのが精いっぱいというジリ貧状態に陥ってしまいます。さらにさらに、太陽王には大きな足かせがありました。ACLを勝ち進んだことによる過密日程です。アジアベスト8に残ったことで、今節を中3日で迎えなければなりませんでした。ピッチ上のキングたるレドミ不在のみならず、出場できる選手も満身創痍。監督の策を完璧に実行するコンディションになかったことは明らかです。一方の浦和は、勝ち点10をとりながら敗退する悔しさこそ味わったものの、日程的にはかなり余裕ができたうえに、メンバーもしっかりと揃った状態でこの試合に臨んだわけですから、ネルシーニョにとっては分が悪い戦いだったでしょう。こういったいくつかの要素が絡み、前半17分にはビルドアップが詰まってしまったあとのミスをついてボールを奪った原口から啓太がボールを持ちあがると、並走していた原口へ。素早い判断で興梠につけると、猛然とゴール前にダッシュした原口に柏の選手はついていけず。体が重かったのか、意識が足りなかったのか、原口・興梠の動きが良すぎたのか。いずれにしても、柏は先制点を早々と浦和に明け渡してしまったのです。ネルシーニョはその後すぐに増嶋に変えてSBが本職の山中を投入します。この時点で当初のネルシーニョのプランは脆くも崩れ去っていたと言えると思います。増嶋の体調不良説もあるようですが、もしそうだったとしても、後半開始時に何も仕事をできていなかった茨田に変えて右サイドにキムチャンスを投入し、浦和の選手をマンツーマンでなりふりかまわずハメにきていることから、4CBシステムを早々に諦めたことは事実と言えるでしょう。

 後半の試合内容に関して戦術面から取り立てて語ることはありません。浦和の攻撃は素晴らしく、柏の選手は窮屈そうでした。浦和レッズは強かった。昨日の今日やぶっつけ本番で浦和の土俵に上り込んできた対戦相手を、浦和が順当に食い散らしたということです。1対1をつくって追いすがる柏の選手たちでしたが、要所要所でコンディションの差がでていたのではないかと思います。3点目の柏木のFKはゴラッソですが、そのファウルも紙一重で柏木の体が相手より前に出たところでとったものですし、4点目の興梠の絶妙なワンタッチでのいなしの場面も、興梠のしなやかさと柏のCB2枚の鈍い動きの対比が残酷なまでに出ていました。5点目の森脇はびっくりするほどフリーでしたし、とどめの得点も元気が一瞬早く相手よりもボールに触れてコントロールしたところから、マルシオの機を見ての猛ダッシュに柏の選手は誰もついていかないという。。。前半の2得点は浦和レッズのチームとして目指す形が綺麗に出たゴール、後半の4得点は浦和の選手の個のクオリティ、コンディションの良さが出たゴールと言えるかもしれません。特に試合終盤になってもカウンターの切れ味は全く衰えることがありませんでしたし、前の3枚に関口・槙野あたりが飛び出して作り上げる攻撃には迫力がありました。柏の選手にとってはなかなか体験したことのないくらい嫌な時間だったと思います。そのくらい、圧倒的でした。

 さて、鳥栖戦と合わせて2試合で12得点を挙げた浦和レッズのオフェンスですが、僕は正直ここまでのものになるとは思いませんでした。この12得点の内訳をみると、槙野、森脇、那須、阿部ちゃん、柏木、マルシオ、元気、興梠、矢島と9人がゴールしてるんですね。どこからでも点を獲れる"赤い悪魔のオフェンス"が本番でも形になっているということでしょう。サイドをえぐってクロス、真ん中、カウンター一本にコンビネーション、アーリークロス。それに加えてセットプレーは合わせだけでなく直接まであるんですから、ほんとに手が付けられてません。このベストメンバーで臨む試合であれば、もはや得点力不足、決定力不足に悩む必要はないのかもしれません。真ん中をケアすればサイド、サイドにも人をつければ今度は後ろからと、どこからでもクリティカルな攻撃を展開できる上に、1対1で止めに止めにかかれば、個の能力差でちぎられてしまう。唯一僕が心配していたのはカウンターの鋭いチームへの対応だったのですが、それももはや杞憂で終わってしまうのかもしれません。というのも、記事にはできなかったのですが、柏・仙台とACL組かつカウンターに特徴があるという共通項を持ったチームとの対戦が続くことを、僕は少々不安に感じていました。フィンケ時代にはよくあった光景ですが、つなぐだけつなぐものの最後の局面を崩せぬままカウンター一本で崩れ去る展開があるのではないかと。まだ仙台とやっていませんから、ここで断言することはできませんし、フラグになるのは嫌なのですが、今節の柏にボールをあえて持たせたように、ポゼッションに拘らずとも試合を支配するという術をチームとして覚えれば、浦和はほとんどあらゆるチームに対応できるようになってしまうと思います。強烈な個、高さを活かしセカンドボールを拾うなど、一撃必殺や割り切ったサッカーをするチームには常にある程度の危険を感じることになるでしょうが、丸腰で挑んできた相手であればほとんど必ずその守備網をズタズタにできそうです。これはまさに前回の記事で書いた、赤い悪魔の目覚めなのかもしれないと思っています。

 ただし、そこに何の課題も無いわけではありません。この2試合の得点者の内訳を先ほど出しましたが、その一歩前、ゴールの起点やアシストに絡んだ選手も集計してみました。結果は、興梠6(4アシスト、PK奪取1、スルー1)、梅2、平川1、森脇1、元気1、関口1(スローイン)、柏木1(FK奪取)となりました。興梠やばすぎ。鳥栖戦でのスルーは空振りとの説もあるので、ちょっと盛り気味かもしれませんが、実に12得点の半分は興梠がらみなんです。これは素晴らしいことなのですが、逆にちょっとまずいと思いませんか?素晴らしすぎるのです。興梠の仕事ぶりのおかげで点が獲れているのは良いことなのですが、逆に興梠がいなくなれば文字通りレッズの攻撃力が半減するということなのです。今節の試合後のコメントで、「特に前半体が動かなくて個人的には不満、もっとキープしたい」と語っていた興梠ですが、これは大丈夫なんでしょうか。ほぼすべての試合でフル出場のうえ、各チームの屈強なCBと毎試合一人で戦ってボールを収めている興梠。なんだかもはや愛おしくなってきさえするのですが、これが異様なまでの30ユニの普及率の理由なのでしょうか。ともかく、興梠がケガをしたらヤバいです。レッズの攻撃には起点がいくつもあることを今までの記事でも、この記事でもひたすら書いてきました。ただ、その攻撃のフローは一度興梠というポイントに収束しているとも言えるのかもしれません。この重要な攻撃の経由点が潰れたとき、浦和はしっかりと攻撃ができるのでしょうか。もちろん、これが心配のしすぎであることは僕自身わかっています。昨年は興梠なしで3位になったわけですし、今までの興梠のプレーを観てても簡単にケガをするタマではなさそうです。とにかく僕は、興梠慎三がこのまま元気にプレーし続けてくれることを祈るばかりです。彼のプレーがこのままいけば、欲張ってもっと彼自身点を獲るようになれば、浦和レッズはまさに絶対的な攻撃力を手に入れることになるでしょう。

 最後に、レギュラー以外のメンバーについて。この試合では関口、マルシオ小島秀仁が途中交代でゲームに入りました。マルシオの安定感あるプレーはもはやレッズの絶対的な武器の一つで、相手チームからすれば1億クラスの助っ人外国人が後半70分から入ってくるのはもはや悪夢だと思います。関口に関しては次節の仙台戦での起用を視野にいれての途中出場だったかと思います。攻撃に関しては及第点、守備に関してはもうちょっとといったところでしょうか。1失点目のクロスを山中に上げられたのはよくなかったですね。あそこは確実に潰すくらいじゃないとアピールになりません。そのくらい平川梅﨑の両サイドのクオリティは高いのです。もちろん、難しいサッカーをするチームに移籍してきてまだ半年もたっていませんから、焦らず続けることが最も大事でしょう。ただ、途中出場するにも、何かしらの武器、クオリティを示さなければなりません。なにせ代表経験のある選手がベンチの6枠を争う選手層です。彼の強みである運動量や献身的な守備スピードをもっと積極的に見せてほしいですね。小島君に関しては、彼の実力とチーム事情を考えればあのパフォーマンスが妥当かな、という感じです。時間帯的にもじっくりていねいにビルドアップはできませんでしたし、だからといってもっと競った展開で使えるほどの信頼は得られていないのでしょう。ただだんだん体が大きくなっている感じもありますし、そろそろがっつりと実践経験を積む時期なのかもしれないな、と思います。