96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

リスクとリターン:Jリーグ2020 vsヴィッセル神戸 分析的感想

ガンバ戦に勝利し2連勝でホームに帰ってきた浦和。今節は「ビッグクラブ」ヴィッセル神戸埼スタに迎えての対戦です。

両チームのスタメンと狙い

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どうして小川は坊主になったんですか、何か悪いことでもしたんですか…。

浦和のベンチメンバーは彩艶、岩武、岩波、エヴェルトン、汰木、健勇、興梠。

神戸のベンチメンバーは飯倉、渡部、高徳、大崎、蛍、小田、ドウグラス

イニエスタ埼スタに来ないのは想定内として、水曜日にもゲーム(しかも圧倒的首位・川崎戦)のある神戸はメンバーを大幅に入れ替え。おそらく通常のスタメンクラスはサンペール、西、古橋くらいで、残りは期待の若手〜レギュラー未満くらいの位置づけの選手たちだったと思います。あからさまなターンオーバーを浦和側がどこまで想定していたかはわかりませんが、浦和としては神戸のメンバーどうこうでやり方を変えるつもりはなかったのではないかと思います。

ちなみに、大槻監督が前節のガンバ戦に続いて関根と長澤をSHに起用したのは個人的に興味深いところです。今季序盤は左サイドの汰木-山中のコンビは少なくともスタメンに選ばれるという意味では固定的に使われており、ゲームデザインやコンディションに応じて競争になっているのは右のSHの人選かなという印象でしたが、最近は山中と宇賀神のポジション争いに呼応する形なのか、関根の起用を優先し、関根と逆サイドに誰を置くのかという部分で長澤が評価を高めているような感じがします。割を食っているのは汰木ということになりますが、これが守備での振舞いや強度を見てのものなのか、単純にコンディションや直前のゲームでのパフォーマンスを重視してのことなのかはまだ見えてきません。

で、神戸との対戦にあたってお互いがどういう意図を持っていたのかを想像するところから始めましょう。

上記のスタメンが出る前の僕のツイートは、まあ神戸のターンオーバーを予想できていない時点で大して役に立たない感じですが、浦和が思惑として持っていたことはある程度指摘できていると思います。浦和側の思惑としてはここまでの戦い、特に名古屋戦での大敗から対3バックとの2連戦の内容と結果を踏まえて「やはり失点リスクを恐れたり相手に付き合ったりして安易に最終ラインを5枚で埋めても自分たちのやりたいことはできないし、相手の攻撃を4-4-2ブロックで跳ね返しつつ前から追い込んでいきたいね」という認識があったはずです。神戸がスタメンを多く入れ替えてもアンカーにサンペールを置いている時点で中央orサイドでの構築からの逆サイド飛ばしを狙ってくるであろうこと、つまり浦和の4-4-2ブロックの外側を使ってくるのだろうということはわかっていたと思いますが、強気な表現をすればそうした相手の狙いを受け入れてでも自分たちの表現すべきことにフォーカスしたいというのが浦和側の文脈だったと言えるのではないかと思います。

ゲームの構造①:意外だった序盤

4-4-2ブロックを敷いてからのファストブレイクを狙いたい浦和に対して、神戸はボール保持がゲームデザインの根底にあるというのは明らかですが、ゲームの序盤に見えたのはどちらかというと神戸の守備の部分でしょう。

神戸の基本配置を表現するのであればおそらく4-1-4-1だったのではないかと思いますが、神戸は守備時には4-5-1を基本として、中盤の5枚がそれぞれのレーンを消しつつもIHの選手が列から飛び出して浦和の最終ラインにプレスに行く形を取っていました。普段の神戸を観ていないのでわかりませんが、イニエスタを抱えるために攻守にアップテンポなゲームデザインは採用しにくいであろう中で、控え組が多く起用された今節の状況を逆手に取ったのか、かなり積極的な守備をしていたと思います。

特徴的なのは中盤の5枚、中でもSHとIHの役割で、5枚の中盤が5つのレーンを埋める立ち位置を取って浦和の最終ラインからの単純な縦パスを切ると同時に、多少の距離を厭わずに自分の担当レーンでボールを持った浦和の選手に迷いのないプレッシングをかけていました。浦和がプレッシャーから逃げるパスを出せば中盤5枚+藤本が一気に前のめり出て行って圧力をかけ、それに呼応して最終ラインも中盤に降りる浦和の選手をマンマーク気味に捕まえてハーフラインを超えて守備をする場面があるなど、かなり強気なディフェンスだったと思います。中盤の選手たちはそれぞれの担当レーンでボールを持った選手を追うのが基本ですから、状況によってはIHがトップの藤本よりも高い位置まで出てボールを追いかけてサンペールの脇に広大なスペースを作っていたり、トップの藤本+2枚のIHが3トップのような形でディフェンスをしていたりと、局面的には決してバランスの取れた配置ではありませんでしたが、安定したパターンや個人でボールを前進させたり展開させることができる選手を起用しない浦和のボール保持を問うという意味では面白かったと思います。

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毎試合ボールの落ち着きどころを探すのに苦労する浦和にボール保持を問う神戸

浦和のビルドアップは、5つのレーンを意識した立ち位置を取ることで、相手が追いかけてきても空いた場所に立つ選手にボールを渡していけば前進できるだろうという考えが色濃いように思います。大槻監督はこれまでのゲームでも中盤の空いた場所に選手が立つこと、そのためにポジションを取り直すことを求める声かけを続けており、特にCHの選手と内側に立つSBに対してはかなり頻繁にビルドアップを繋ぐ立ち位置を取るように求めています。一方で、それ以上のものが準備できていないというのが現状で、今節の神戸のやり方のようにすべてのレーンを封鎖され、そこからプレッシャーに出てこられるとボール保持からの前進は窮屈になります。

そもそも、ファストブレイク以外の攻撃戦術に綿密な仕込みが観られない現在の浦和において、SBを中に入れる立ち位置、レーンを意識させる指導だけがキャンプから強調されているのは、今節の神戸戦のようなやり方に対処する気がないからかもしれません。まずは守備から作るというチームの設計から言って、そもそもボールを繋いで相手ゴール前まで辿り着こうという発想ではありませんし、ビルドアップにおけるボール保持やターン、自ら運んでいくプレー、そして展開といったスキルセットよりも別の部分での特徴を評価するチーム事情もあるでしょう。もしくは守備面で求めるプレー水準とこうしたスキルセットを持ち合わせている選手を有さないリソース面の問題も考えられ、おそらくこれら全てが絡み合った事情から、入念なビルドアップを仕込む素地も余裕もないので、相手が追いかけてきたら空くであろうスペースに立つことだけは基本的な約束として用意することで最低限をカバーするという考えなのではないかと思います。

その完成度がまだまだなのは大きな課題なのですが、今節の神戸戦のようなやり方で相手が前に重心をかけるのであれば、一番後ろまで戻してもそこから蹴って勝負すればいいよね、そのための砲台は西川が持っているよね、ということも言えますし、実際西川にボールを戻してから前に出てきた神戸のIHの背中を取る位置に選手が立つことで前進できたシーンもありました。というわけで浦和は西川まで戻すことが多くはなったものの、スムーズに前進できない代わりにどうしようもないミスがあるわけでもなく、また神戸の2列目が前に出てくることで空くサンペールの脇を時々うまく使えたこともあり、若干浦和の方がボールを保持する意外な展開でゲーム序盤は進んでいきました。

ゲームの構造②:「最初の優位」を巡る攻防

子供の遊びに地域差がどれくらいあるかはわかりませんが、「1」から始めて交互に1つ〜3つの数字を積み上げ、相手に「20」を言わせた方が勝ちというゲームがあります。このゲームはその単純さなりにちょっと考えればわかる必勝法があって、相手に「20」を押し付けるためにはこちらは「19」を取る必要があり、「19」を自分が取るためには相手に「16」~「18」を言わせる必要があり、すると自分が「15」を取れば良いことになります(自分が「15」を取っておけば相手が「16」としか言わなくても「16」+3で自分が「19」を取れる)。同じ要領で論理を進めていくと、「19」や「15」のようにポイントになる数字-4を自分が取るべき数字として考えれば良く、ポイントとなる最小の数字は「3」であることがわかります。つまり自分が先攻でまず「3」を取れば、後は相手がルール内でいくつの数字を積み上げようとずっとこちらのペースでゲームが進められ、勝つことが出来るというわけです。

これと同じことをピッチ上で起こしたいのが論理的なビルドアップを信奉するチームであり、今季のJリーグで言えば今節の対戦相手である神戸が代表格の一つと言えると思います。サッカーは11人対11人のスポーツで、GKはお互い1名ずつしか使えない(逆に言えばGKを1枚使い、フィールドプレーヤーは10on10)というルールがある中で、最後に自分たちがゴールを取る状況から逆算した場合に取るべき最初の優位(上記のゲームで言う「3」)をまず掴み取る。あとはお互いに多少の不確実性を抱えつつも、それがルールの範囲で起こることであればコントロールできると考え、従って論理的にゴールが奪えるはずだと信じている、と言えるかもしれません。

このたとえ話が何の説明になったかはわかりませんが、要は神戸は「最初の優位」である「3」を取ることを非常に大切にするチームで、おそらくこれは大抵のチームと対戦する場合におけるルーティーンとなっていることでしょう。御多分に漏れず今節も神戸は浦和に対して「3」を取る、つまり浦和のブロックを攻略するための「最初の優位」を確保することを意識してゲームに臨んだのではないかと思います。

浦和のビルドアップに積極的なプレッシャーをかけ、いくつかゴール前に迫られるシーンを作りつつもボールを回収できると、神戸はポジティブトランジションでは速攻よりもボール保持を多く選択します。必要であればGKまでボールを戻し、お互いにセットした状態からプレーを再開。ここからは、神戸が「最初の優位」を取る仕組みを見ていきます。

まずGKにボールがある場合は、両CBが開きめにポジションをとって、アンカーとのダイアモンドを形成。左SBの初瀬は高めの位置を取り、右SBの西は比較的下がり目の位置で構えます。一方の浦和はこの時、ルヴァンカップセレッソ戦と同じく4-1-2-1-2の形で前に出ていくやり方を見せていました。浦和がやりたかったことはまず簡単にアンカーのサンペールを使わせないこと、そしてサイドにボールを逃がさせてSHとSBで奪うか、苦し紛れに中央に蹴らせて回収するか、という形でした。

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セレッソ戦ではある程度うまくいったプレッシングの形。後追いでもボールの行先を限定することで徐々に相手の時間を奪う。

ここから神戸に何の工夫もなければ浦和は少しずつ相手の時間を奪ってボールを回収する守備が出来るのですが、神戸は前線にも工夫があり、左WGの古橋が内側に絞るポジショニング、それに合わせて左IHの安井は浦和の4-1-2-1-2の逆三角形の脇を使うように降りていきます。

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左右にそれぞれ違う形で浦和のプレッシングに対して「最初の優位」を取れる神戸。非常にスムーズだったので特別浦和対策ではなく、普段からトライしていることではないか。

するとこの降りるIHを誰が捕まえるのかという問題が浦和に発生します。長澤は目の前に降りてくる相手をチェックしたいところですが、下手に前に出れば大外のSBを空けることになってしまいます。長澤はそれが分かっているのでディレイを選択することが多くなりますが、安井が前を向くと今度は橋岡の目の前でハーフスペースに立つ古橋と大外に立つ初瀬の二者択一が発生し、結果的にどちらにも強く行けないという状況に陥ってしまいます。また右サイドでも、こちらは最初から高い位置を取らない西の存在が結果的に関根に二者択一を突き付けており、結果的に浦和は狙った狩場を失ってボールを逃がしてしまうということになります。また嫌らしいのがサンペールで、一度彼にボールが入ればビルドアップに関係するスキルセットはレベルが違いますから、簡単にはボールを奪えません。神戸が左右のサイドで作る局所的な優位にサンペールが中央から加わることによって神戸は安定した前進を狙うという風に見えました。

ただし、このように書くと浦和は神戸のビルドアップを全く制限出来なかったように思われますが実際はそうではなくて、特に序盤は神戸の選手の足元のミスも誘発しながら何度かボールを奪うことも出来ていたように思います。それが試合序盤の浦和がボールを持つゲーム展開に寄与していましたし、浦和としてもこの4-1-2-1-2プレッシングが百発百中で成功するとは考えていないでしょうから、多少のリスクを負ってでも前川を含めた神戸のビルドアップ隊にプレッシャーをかけ、ファストブレイクに繋げやすい高い位置でボールを回収するというメリットを享受するためのチャレンジを行うこと自体は悪い判断ではなかったと思います。例えば前半39分にビルドアップから一気に裏返されてゴール前まで運ばれ、最後はスルーパスを橋岡がなんとかクリアしたというシーンがありましたが、その直前には4-1-2-1-2プレッシングから柴戸が前川へほとんど1on1でプレッシャーに行く場面を作っており、この場面では前川が切り返しで難を逃れたものの、浦和からすればああいうチャンスでボールをつつくことができれば即ゴールというチャンスを作ったとも言えます。

まとめると、GKを使ってビルドアップする神戸も、それを前から追いかける浦和も、お互いに望むリターンのためにリスクを差し出してプレーしていた、というのがこのゲームの大まかな構造だったように思います。

リスクとリターン:70%の納得と30%の疑問

神戸の先制点は予めデザインされていた形でしょう。これまで見てきた「最初の優位」をベースにサンペールがボールを持てば、神戸は安定してミドルゾーンに進行することが出来ます。浦和はミドルゾーンでは深く狭い4-4のブロックを敷いて中央を閉じてからサイドに出ていく形の守備をしますので、大外が広く空いていることはもはやリーグの常識となっているはずで、そうであればボールを失わず両サイドに展開できるサンペールを中心に逆サイドに展開して突破からクロスという形を狙った神戸の考えは極めてオーソドックスなものであったと思います。サンペールから突破力と質の高いクロスを持つ初瀬にボールを展開し、大外で1on1からのクロスという形は前半だけで5回以上観られましたので、そのうちの一本がゴールに繋がったというのは、まあ妥当な確率の範囲なのかなと思います。戦術的な狙いが先なのか、起用する選手をベースに設計したのかはわかりませんが、神戸の選手が試合後に語ったように、クロスを上げる際にはファーサイドで合わせることを意識したというのも浦和の弱点を的確についた攻撃でした。多くの場合ニアに飛び込んで潰れ役を担っていた藤本の動き出しもそうですし、先制点の場面のようにその裏に飛び込む意識があった小川と佐々木もそうですが、チームとして浦和のブロックからどうやって点を取るのかという部分に対して準備が出来ていたと思います。

浦和側の話をすると、特に浦和の右サイドの大外で勝負をしてくる初瀬のところをどうしてケアしないのか、ということになるのですが、大部分のファン・サポーターも広島戦を通じて理解している通り、相手のサイド攻撃が怖いから後ろに5枚並べますという選択を安易にしてしまうと、自分たちのやりたいこと自体が出なくなってしまうというジレンマが起きてしまいます。。従って大槻監督がこの試合でも頻繁にピッチに声をかけていた通り、まず中を締めて、大外はボールが出てから対応する、という原則を貫くことは今季の浦和にとっては必要なリスクテイクであり、わかっていてもあえて対応していないというのが現場の感覚なのだと思います。

もしこれが浦和側の現場感覚だとして、個人的には70%くらいは納得できるのですが、もちろん疑問がないわけではありません。中央を固めるのが最優先で、大外のケアはボールが出てから後追いで出ていくとしても、サンペールをはじめとした中央の選手からの大外の展開にはもう少し規制をかけることが出来たのではないでしょうか。これまでの浦和は、マリノス戦、鹿島戦など、特に健勇を起用した時には4-4-1-1の形でブロックを敷き、「トップ下」の役割を担う選手を相手のアンカーにぶつけることで自由にさせないディフェンスを構築していた前例がありますが、今節はあまりにも4-4ブロックの前で相手の舵取り役に時間を与えすぎていた印象です。「最初の優位」を巡る攻防で2トップがセットディフェンスに加わるまでに時間がかかることや、ボールを奪ってからのファストブレイクの起点になるためにあまり2トップを下げさせたくなかった等の理由は思い浮かびますが、同じ形をこれだけやられるのはやっている方もきついでしょうし、もう少し準備があっても良かったのではないかと思います。浦和のディフェンスの弱い部分がほぼ常識になっているとして、相手もそこを使わないわけにはいかないのですから、逆にその部分にしっかりと手当てを用意する、もっと強気に言えば罠を仕掛けるような仕組みを見せてくれると、こうしたわかりやすい弱点を持っていること自体が駆け引きに使えて面白いのかなという気がします。

ちなみに、サンペールに浦和のCHが出ていく守備はなかなか難しかったと思います。神戸の両ワイドの選手はセットオフェンスにおいても中に入るポジショニングをしていましたし、そもそも神戸のIHの2枚が浦和のCHの背中を使おうとしていましたので、柴戸にしても青木にしてもなかなか背中を開けて前に出る判断は難しかったでしょう。

他には、神戸が前半に見せていた4-5-1のセットディフェンスを採用するのも浦和にとっては面白いオプションになる気がします。ボールを展開されても中盤がスライドする距離を短くできるのでプレッシングを継続しやすくなるのではないかと思いますし、サイドの守備にもプレスバックでのサポートがしやすく、後ろ4枚は中央を固めることが出来るので中央を締めたい浦和の今の考え方にも合致する部分があると思います。ただしワントップの守備戦術なので相手の前進を外に追いやる制限をかけることが難しくなるうえ、中盤の選手の前後移動が大きくなること、中央レーンをふさぐアンカーの脇が狙われるので最終ラインは高めの設定、そして迎撃で前に対応することが求められることは念頭に置く必要がありますが。

というわけで、前半~両チームが3枚替えで配置を動かす57分まではこのような構造の下でお互いにリスクを取り合い、自分たちのやり方でゴールを狙うというゲームだったように思います。

3-4-3移行後

20分以降は神戸の4-5-1セットからのプレッシングも少し弱まり、右サイド奥での初瀬の不用意なファールから得たFKの流れから生まれたトーマスのスーパーウルトラミドルで同点に追いついた浦和は、これまで観てきたようなリスクと危うさを見せながらも、自分たちの狙うブロックでの守備と前からのはめ込みを中心にゲームを進めていました。ゲームの展開としては大外からのクロスでの、しかも前半12分という早い時間帯での失点だったためにFC東京戦や柏戦、そして名古屋戦といった今季の負けゲームのように崩れてしまうかなと思いましたが、失点後も致命的なミスを重ねることはなく、失点前と変わらずにやるべきことを続けていたのは良かったポイントでした。トーマスのミドルは何度も期待できるものではありませんが、やり抜くことで追いついたのは浦和にとっては自信になったのではないかと思います。

お互いに疲れもあってかゴール前を行ったり来たりする展開になってきた57分に浦和が3枚交代。興梠、エヴェルトン、汰木を投入。武藤、長澤、青木と右サイドに入っていた選手を丸ごと変えたのが偶然かどうかはわかりませんが、連戦を考慮してインテンシティの担保という意味合いが多かったでしょうか。その直後に神戸もたくさん選手を交代。

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神戸は3-4-3にシステム変更。何を気にして3-4-3にしたのかは、よくわからない。

神戸は3-4-3にシステムを変更してゲームの構造を変えに来たのだと思います。ゲームを観ている限りでは神戸の方からシステムを変えるような状況ではなかった気がしますが、リソースマネジメント面からの交代だったんでしょうか。結果的には、この3-4-3変更はあまり神戸には有利に働かなかった気がします。フィンク監督がサイドに出たボールを早めに選手に渡していたところを見ると、早く勝ち越し点を取るために主力級を入れてゲームを取りに行ったのかもしれませんが、サンペールがいなくなったことで中央からの展開の質と頻度は下がりましたし、何よりも配置を変えたことでサンペールに安定してボールを持たせていた「最初の優位」を手放した感がありました。これは、神戸は3-4-3ではビルドアップ時にWGが高い位置に張り出しておりビルドアップに使える枚数が一枚減っていることと、GKを含めたダイアモンドが作れなくなること等から、浦和の選手がマークを決めやすくなって出足が良くなったことが要因にあったかもしれません。またセットディフェンスにおいても、WGとWBがいるために最初からサイドに2枚の選手を置いている状態で、逆に中央で背後を取られるリスクが減った浦和の中盤のディフェンスは安定感が増したように感じました。

62分の前川のミスをレオナルドがカット、66分には神戸のビルドアップを圧迫して前川が蹴りだしたこぼれ球を拾ったレオナルドのスルーパスから興梠のシュート、 さらには70分に汰木の裏へのランニングを囮に中央の興梠へ完璧なフィード、こぼれ球を汰木が合わせるも菊池にブロックされた場面と、ゴールにこれ以上ないほど迫った浦和ですが、ギリギリのところで勝ち越し点が取れないでいると、やはりこういう展開には罰が当たるというもので、セットプレーから山口蛍にボレーを叩きこまれてビハインド、最後はパワープレーに出たものの追いつくことは出来ず、残念ながら敗戦となってしまいました。

蛍のボレーの場面は前節ガンバ戦の井手口のゴールと同じように浦和のセットプレーのブロックの外から撃たれたものなので、ペナルティアークの周りに人を置いてお置けば済むのに…という感想になりますね。個人的には井手口と山口蛍という代表クラスの選手にドンピシャでボレーを合わせられることがJリーグであと何回あるだろうという気はしますが(とか言いつつ84分には小田のミドルが枠に当たってるわけですが)、まあ一人置いておいて解決するなら中央を一枚削るのもアリかなという感想です。このあたりもセットディフェンスの大外対応と同じで、どこをやられたくないのか、そのために何を捨てるのか、もしくは何を得るために何をリスクとして差し出すのかと言う話なので、一概には言えませんけども、大槻監督の中でも自分のやりたいサッカーで勝ったり負けたりしているうちに、このあたりのリスクの感覚が整理されていくことになるのかもしれません。

3つのコンセプトに対する個人的評価

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は4点。ゲームとしては連戦の中で出せるものは出している感じがしましたが、ここ数試合で起用選手の序列、特にSHの人選がいろいろと動いている中で、まだまだうまくいくコンビを探しているのかなという印象があります。例えば最前線の2トップで言えばここ数試合、レオナルドと武藤のコンビは試合をこなすごとに良くなっている感覚があり、二人の距離感やボールがどちらかに入ったときの動き出しなど、連動と呼べるものが見え始めている感じがありますが、一方でここ2試合スタメン出場となった長澤と武藤が右サイドに並ぶと、特にセットオフェンスで使いたいスペースが被っている傾向があります。これは二人の特徴や出来ることから考えても仕方ない部分があるのですが、あまり良い連動をしているとは言い難いところです。例えば武藤が降りてくるならば右SHには裏を狙ってほしいわけですが、長澤も同じようにハーフスペースに立つことからプレーを始める傾向があり、そうすると後ろの橋岡としても上がっていくタイミング、使うべきポイントを見つけづらいのかなという気がします。明らかに序列を上げて左右を問わず起用されている関根は今節左に入りましたが、関根と山中の関係性もまた十分とは思えません。関根はレオナルドの特徴を意識したプレーはかなり多くなったと思うのですが、SBを使うという意味ではまだ引き出しが少ない感じがします。山中を使うのであれば彼の内外両方に走りこむランニングをうまく使いたいのですが、まだお互いにはまるタイミングは見えていないように思います。

こうした隣の選手との関係性の構築はこれだけ選手を使い分けなければいけない今季の環境を考えても難しいのだと思いますが、4-4-2を基本とする以上このあたりの連動なくしてゴールに迫ることは難しいため、向上を期待したいところです。というか、シンプルなものでいいので崩しのルールやフリーランのシークエンスを作るだけのような気もしますが。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は6点。目に見えるリスクを負っていたために評価は分かれるところだと思いますが、収支で言えばそこまで大損をしているような印象はありませんでした。前から嵌めていくこと、遅れ気味でもアプローチを続けて相手のボールホルダーから徐々に時間を奪うことは今季継続してチャレンジしている取り組みですから、継続性という意味で、そして前から行くチームを作るんだという長期目標に照らせば悪いゲームではなかったと思います。

ちなみに、「情熱的」という部分で言うと、現地で観ていて非常に印象的だったのが試合終了直後の神戸ベンチの喜びようで、しばらく勝利が無かったからなのかもしれませんが、ベンチがあれだけ喜ぶチームは久しぶりに見ました。だからどうこうはないのですが、勝ちたい気持ちや仲間を盛り上げるような雰囲気はもう少し作っていってほしいなあと思います。特に今季の浦和は、ただでさえ選手たちが疲れやすい戦術で戦っていますから、うまく行かない時に淡白なプレーが続いてしまうようになると、リズムを作っていくのも難しいのかなという気がします。まあ、橋岡に菊池のように気合を入れて叫びながらヘディングしろとは言いませんけど。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は4点。前から嵌めに行く4-1-2-1-2プレッシングは別としても、セットディフェンスにおいてサンペールにブロックの外から自在にコントロールされてしまったあたりは、チームとしてもう少し違うアプローチが出来た気がします。トランジションで大きく劣後していたとは思いませんが、「相手を休ませない」というテーマに守備から取り組むのであれば、やはりボール非保持の状態から相手に圧力を感じさせ、素早くゴールに迫ることで相手にボールを持つ恐怖心みたいなものを与えていけるようにならなければならないと思います。

 

というわけで、決して悪いゲームではありませんでしたが結果的に3連勝は達成できず、1週間休んでまた次節大分戦から仕切り直しとなりました。大分と神戸はまたスタイルの違うチームですが、大分はGKを使ったビルドアップで相手を誘い込んで裏返そうという明確な狙いを持っており、ゲームの構造としては今節に近い形になりそうな気がします。引き続き浦和を観てい行くうえでは、どんなリスクを差し出して何をメリットとして得ようとしているのか、そしてそのバランスは相手のやり方や実力、そしてこれまでのやり方と比べてどうなのか、という部分を観察していくことになりそうです。

 

今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。