96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

目に見える向上:Jリーグ2021第8節 vs清水エスパルス 分析的感想

両チームのメンバーと嚙み合わせ

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浦和ベンチ:彩艶、宇賀神、工藤、敦樹、汰木、健勇、興梠

清水ベンチ:大久保、エウソン、立田、西澤、河井、鈴木、後藤

浦和は前節と同じスタメン。ベンチメンバーも前節と同じと言うことで、「勝っているチームは変えない」の法則を踏襲したとも言えるし、前節から今節の間に前節ベンチ外だった選手に一度コロナの陽性判定が出てしまった(その後当該選手を含めて全員が陰性判定)こともあって、前節のスカッドとベンチ外メンバーをなるべく混ぜないようにしようというオペレーションが影響したのかもしれませんが、そのあたりはわかりません。ともかく同じメンバーということで浦和が今節も4-1-4-1を採用することは明らかなので、前節上手くいったポイントを継続できるか、そしてさらに継続することによる積み上げを見せることが出来るのかという部分が浦和側のポイントだったと思います。ちなみにどうでもいいことですが、このメンバーはバックラインの背番号が全員一桁なのが個人的に好みです。なんとなく後ろに小さい数字が置いてあるとしっくりくる感じ、ありません?

一方の清水は前節徳島に0-3で敗れたこともあってスタメンを6人変更。このスタメン変更は前日にロティーナ監督が示唆していた通りですが、セレッソ時代にはリーグ戦で大きなメンバー変更をあまりしていなかった印象が強いので、いろいろ理由はあると思いますがメンバーが固まっているとは言い難い状況なのかもしれません。今季の清水についてはオフの積極補強が話題になりましたが、重要なのはロティーナ監督らしいサッカーを体現できるかどうかということで、どのくらいのものか前節徳島戦を少し観察しました。ロティーナ監督のサッカーを上手く表現した言葉としてはakiさんの『今になって思い返すとロティーナのサッカーは局面の積み重ねではなく盤面を支配することで不確定要素を排除していこうという考え方』というのが印象的です。

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「不確定要素の排除」というのはキーワードとして優秀だなと思っていて、守備的とか攻撃的という切り口ではなく、どういった状況を好むかという切り口で見ていくとその志向がよくわかるということだと思っています。つまり、ロティーナ監督にとってはどちらのチームがボールを持っていようともお互いが意図した陣形や配置でプレー出来ている限りは、そしてルール通りにプレーできれば基本的に大きな不確定要素は排除できるわけで、それがボール保持だろうとボール非保持だろうと優先順位は「不確定要素の排除」と理解すると良いのかなと思います。じゃあ逆に一番嫌な状態はなんですかというと、お互いの選手が入り乱れることになるトランジションで、「不確定要素」だらけのトランジションが続くような展開はなるべく避けたいということになります。そうするとセレッソ時代に見せていたようなラインを低くしてゴール前を徹底的に固めていくようなセットディフェンスの採用にも納得がいくし、守備的と言われることもある割に整理されたボール保持からのビルドアップを丁寧に行おうとすることも理屈に合う、というわけです。

何が言いたいかと言うと、ロティーナ監督のサッカーを観る上ではセットオフェンスとセットディフェンスの完成度をまず見る必要があるということです。特にセットディフェンスの完成度がそこそこであれば、一番嫌なトランジションが連続する展開を排除でき、(ボールは持てないかもしれないけれども)ゲームとしてはある程度安定した状態を維持することが出来るのでロティーナ監督のサッカーという意味ではまあOKと言えるのではないかと思います。一方で例えばリカルドのサッカーはボール保持とネガティブトランジションでの即時奪回が肝なので、浦和がセットディフェンスで多少のリスクを負った危なっかしい対処をしても、そこに好き嫌いはあるとしても、ボール保持とネガティブトランジションが機能している限りはある程度許容すべきかなということになります。で、そういう意味で前節の清水を観ると、どうもロティーナ監督っぽさがあまり感じられないセットディフェンスをしていることに気づきます。

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昨年のセレッソの場合、基本的にCBはゴール前から動かさない。自分たちの囲いを維持し「不確定要素」を排除することで自陣に押し込まれても守り通すというやり方。

上図は昨年のルヴァンカップGS第2節で使ったものなんですが、ちょっとわかりにくいですが言いたいことは、ボランチがシームレスにで最終ラインの隙間を埋めて、ボランチがいた場所はSHなりが埋めて…と言う風にどんどん後ろを埋めることで守りを固めていくロティーナ・セレッソの守り方が特徴的だということです。その分セカンドボールは浦和が拾えた試合でもあったんですが、結果としてはペナルティエリアを閉められたことで浦和は得点できず、敗戦しています。これを踏まえて前節の清水を観ると、ボランチがセレッソほど最終ラインを埋めないことに気づきます。前節のボランチは河井と竹内がスタメンで、二人ともどちらかというと守備よりも攻撃のほうに特徴がある選手だったということもあるのかなと思いましたが、いずれにせよ自陣深い位置で最終ラインに大きな隙間が出来てしまうというのはロティーナ監督のチームらしくない、と言う印象でした。で、さらに、ビルドアップに特徴のある徳島に対してプレッシングで対抗する構えを見せる前節の清水なんですが、中途半端に2トップと中盤が出て行ったところにGKからの長いボールが通り、中盤の選手全員が裏返され、最終ラインの4枚が徳島の前線5人に晒されて失点…ということが起きていました。これもまた、ロティーナ監督のチームらしくないところです。もちろん、浦和でリカルドがそうしているようにチームやスカッドによって監督のコンセプトや戦術的なアプローチは違ってくるはずなので、セレッソ時代がロティーナ監督の清水にとっての正解ではないのですが。

というわけで長々とロティーナ監督のチームについて書きましたが、簡単に言えば清水が今やっているサッカーはロティーナ監督らしいというところまでは行っていなくて、試行錯誤を繰り返している状態ということです。それは3月の浦和も同じだったんですが、状態としては前節良い形を発見して結果が出た浦和の方が少し良いと言えると思います。4-1-4-1システムは難しさもありますが、成立すれば最終ラインに隙間が出来てしまう清水のセットディフェンスを攻略することに期待が持てそう、というわけです。

 それぞれの取り組み

ゲームはキックオフを得た浦和がロングボールを蹴り、清水がビルドアップを試みるところからスタート。1分ほどボールを保持した清水ですが、プレッシングに出た浦和がボールを回収すると、以後は浦和がボールを保持する展開。連戦で準備期間が短い中で、そして相手の対策というよりも前節結果が出たメンバーを継続したという中で、どの程度スカウティングの影響があったかは正直図れないんですが、今節の浦和は清水の最終ラインに出来る隙間を攻略しようという意図があったのかなと感じました。

例えば01:31前後、西からのアーリークロスに逆サイドから明本が飛び込んだシーンでも最終ライン3枚はボールサイドに大きく寄っていて逆サイドのSBである原が明本と1on1の状態になっていましたし、その後の02:43前後のシーンでも西がボールを持つと左SBの奥井がボールに対応して大外に出て、その背後に走りこむ武田を鈴木がエリア外まで出てマークし、中央に構えるヴァウドとの距離が凄く空いています。

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空中戦に強い明本がヴァウドの背後で原と勝負というシーンがいくつかあったが、おそらくデザインされていたのではないかと思う。

でこのスペースを見逃すわけがない武藤がポジションを取るわけですが、西がサイドの深い位置を取りに行った武田を使ったので武藤にはボールが入らず、その間に宮本がこのスペースをケアして一応事なきを得た、という場面でした。特に失点に絡んでいるわけでもないし、こういう見方をしなければ何でもない場面なんですが、個人的には清水はこれでいいのかな?と感じてしまいます。局面によってどうしても最終ラインに隙間が出ることはあるとはいえ、ロティーナ監督のチームとしてはちょっとCBが簡単にゴール前を空けすぎな気もしませんか?みたいな。これは同じようなシーンが19:20前後でも出ていました。

で、クリアボールを拾ったところから浦和のビルドアップがスタート。前節と同じく柴戸が相手の2トップの背後にポジションを取り、相手の第一プレッシャーライン+1の最小限の枚数でここを超えていくというのが最初のミッションでありチャレンジになります。ここで、前節浦和の兄弟チームとも言える(もちろん彼らが兄ですが)徳島に対してビルドアップを規制できずに先制点を献上した清水は対策を見せ、右SHの中山が一列高い位置を取って、3人で第一プレッシャーラインを形成するような形で規制をかける形を披露。マンマークと言うほどではありませんでしたが、たぶんチアゴサンタナが真ん中で柴戸を消そうという意図だったと思います。ここで非常に良かったのが、浦和が西川を使った4枚(3+1)の形にチャレンジしたことでした。西川は自陣ペナルティエリアを飛び出してボールを保持し、左右にCBを従えて相手の出方を伺います。

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今季これまでさんざん確認してきた通り、ビルドアップに枚数を使えば使うほど前線に人が足りなくなるわけですから、GKを使うことで前の人数を節約することはこれまでの浦和の取り組みと課題への対処からして大正解です。これが出来た(というか取り組めた)ことがまずこの試合の浦和優位に繋がる重要なポイントでした。とはいえおそらく、ここにもスカウティングがあって、前節の徳島戦でも清水は相手GKにはほとんどプレッシャーに行かず、あえて捨てるというやり方をしていましたので、セットオフェンスでの狙いと同様に「GKに強いプレッシャーは来ないので勇気をもって西川を使おう」という指示が事前にあったかもしれません。たぶん清水は清水で相手GKまでプレッシングすると本当に固めておきたい自陣の守りが整う前に裏返されるリスクがあるので、チームとしてはあまり優先度が高くないのでしょう。でもそうすると、中途半端にプレッシングするくらいならハーフコートまで引き込んで整えた囲いで迎え撃てば良いのに、とも思うんですが、プレス自体は結構やりたそうなんですよね。

で、浦和が次に試したのは06:00前後の柴戸がCB間に降りる形で、その分2枚のIHが清水の3枚の第一プレッシャーラインの背後にポジションを取っていました。ただこれは4-1-4-1的に言うと良くない形で、前節整理した通り、IHが前に絡まなければトップが孤立するのは目に見えているので、岩波から西へ良いパスが通り、西の高い技術で一発で前向きにトラップして時間を作るものの、これはやり直しに。その後左右を試して結局右サイドから細かいパス交換で前進しようとしますが、すかさず鈴木がインターセプト。これ以降は柴戸があまり降りずに2枚のCBとビルドアップを行う形を意識的に作っていて、小泉のサポートを受けつつ最少人数で前進していくだとか、トラップ一つで相手のFWを外して縦につけるだとか、そういう最終ラインのチャレンジが前節に続いて多く見られたのは引き続き非常に良かった部分だったと思います。岩波なんかは前へボールを運んでいくプレーだとか、一歩でも二歩でも前目にポジションを取ってボールを受けるだとか、今までどうしても意識が後ろを消すことに向きがちだったのが前にプレーする意図を感じる場面が多くて、上手くなったというよりは考え方の変化に合わせて「普通のプレー」が変わってきたような印象を受けました。

12分ごろまでに浦和がいくつか形を作ったのち、清水がボールを持つ時間帯が続くものの浦和がうまく中閉め・サイドへの追い込みを実行できたこともあり大きなピンチにはならず。小泉が前目に出て行く分中盤の底を見るのは柴戸だけなんですが、今節の清水はトップ下のように振る舞う選手がいなかったこともあって、浦和のCBが相手の2トップとの数的同数をマネージ出来ている限りは問題ありませんでしたね。危なかったのは20:45前後のシーンくらいで、この場面では柴戸の脇に入った中山にうまくフィードが通ったことで一気にスピードアップしてチアゴサンタナのシュートまで行かれてしまいましたが、素直に柴戸の脇に人を置いてボールを出し入れ…みたいなことを狙ってくるチームと当たった時にどうなるかは要確認で、今後は浦和の4-1-4-1も研究されてくるでしょうが、例えば3-2-4-1とか3-3-2-2みたいな形をぶつけられた時にどんな挙動になるか、うまく対処できるのかが上位進出のポイントかもしれません。もちろん、そうなりそうな相手の時はわざわざ4-1-4-1で戦わない、という選択肢の多さにも期待できそうなのがリカルド・レッズなのですが。

清水のボール保持では、最終ラインから繋ごうとする清水に対して浦和は武藤、武田の第一プレッシャーラインに加えて関根が最前線に出るような立ち位置、そして小泉がその背後でアンカー役の選手をマークする3-1のプレッシャーをかけていたのが印象的でした。中盤の底を柴戸が幅広くカバーできることが当然この土台になっているのですが、意外と明本が下がり目だったのは汰木の役割と同じく左サイドの大外をカバーするように言われていたのかもしれません。最近は山中自身のがんばりも目立っていますが、守備時に彼をあまり晒さないようにサポートを置いておくとか、大外の対応をSHに任せるといった工夫は起用される選手が変わってもコンセプトとしては引き継がれているような気がします。

清水のほうは2トップをサイドに流して浦和のCBを一枚は引き出すのが狙いだったようで、ディサロにしろチアゴサンタナにしろよく左サイドに流れていました。たしか二人とも左利きだったと思うのでそうなったと思うのですが、浦和は2トップに対しては2枚のCBが同数でなんとかする傾向が強く、今節は31:59前後のシーンのようにCBが2枚ともエリア外に引っ張り出されて、柴戸、山中、小泉あたりがゴール前をケアしなければいけないシーンを何度か作られていました。清水としてはこれは狙い通りなんですが、浦和の2枚のCBを引っ張り出した後に誰がエリア内に飛び込むのかとか、そこに良いクロスを早い段階で放り込むという部分で物足りないことが多くて、浦和のゴール前が危険な状態で勝負を仕掛けきれなかったことがリズムをつかみ切れなかった要因だったんじゃないかと思います。大きなピンチは少なかったですが、潜在的に失点の可能性が高い状況を作ることは出来ていたので、それを顕在化させる次の一手が出なかった印象です。清水は全体的にロティーナ監督のチームとしての完成度が高いとは言えず、監督としては攻守それぞれにあと一つ二つ必要な役割をこなせる選手を見つけられていないという感じがしました。

目に見える向上

で、全体としては浦和がゲームを優位に進めていたと思うのですが、具体的な決定機が多かったかというとそうでもありませんでした。浦和が今節やっていたことは前節とメンバーが同じこともありほとんど変わりませんでしたが、前節の鹿島よりも武藤を捨てられた分、相手の最終ラインが動かしにくかったというのが一つの要因だったかもしれません。清水は鹿島や浦和と違ってそもそもCBをあまり動かしたくないチームですし、武藤がゴールから離れるなら放っておこうという割り切りもあったかもしれません。それで多少押し込まれてもゴール前を固めれば良いというのがロティーナ監督のコンセプトですし、実際のところ完璧にゴール前を固められなくても(CB間の距離が大きくなりすぎたり、ボランチによる最終ライン埋めが十分でなくても)その隙間をピンポイントで浦和が突くというシーンもなかなか出ませんでした。

とはいえ浦和はボール循環という点においてはかなりの向上を見せていて、今節は前節よりもさらに選手間の連動やスムーズなポジション取りが出来ていたと思います。特に開幕のころと違うのはボールの移動によって変わる最適なポジション取りへの対応で、最終ラインであれ中盤であれ、ボールの移動に対応して次の局面で適切となるポジションへ自分の身体を動かすという部分が良くなっていました。結構わかりやすいのが30:17前後から始まるビルドアップで、西川から槙野へボールが出た瞬間に全体が大きく動きます。またボールが西川に戻って今度は岩波サイドへ展開していくのですが、例えば柴戸は岩波にボールが届く前に岩波が持つであろうパスコースを探しているのがDAZNの映像でもわかります。柴戸がやろうとしているのは岩波が次にパスするであろう選手(この場合は西、武田、関根あたり)のパスコースに自分がなるためにはどこにいるべきかを判断するための情報収集で、実際にこの場面では関根がハーフスペースに降りることで清水の左SH中村を引き付け、大外で西がフリーになっており、ボールが前進することを見越した柴戸は岩波を見ずに前方へ走り出しています。で、西から関根にボールが落ちたときには結果的に関根の横のサポートに入ることが出来ているわけです。浦和の攻撃はこの後左サイドのトライアングル→中央を経由して右サイドのトライアングルからの西のクロスと続くわけですが、このあたりも前節確認した4-1-4-1の機能性をベースにペナ角を3人で崩そうというコンセプトが各選手に浸透していることが伺えるスムーズさでした。ビルドアップの初手が安定したことでボールを持っていない選手が次の展開を予測するための情報を集める時間が出来、それが中盤の選手にボールが入った時の選択肢を増やし、崩しに十分な人数を掛けられることとどこを崩すか、誰のユニットで崩すかが明確になったことで崩しが連続するというのがこの4-1-4-1の機能性で、決定機はなかなか作れなかったもののこういったところがゲーム全体の印象の良さに繋がっているのではないかと思います。

32:50前後のシーン、37:37前後のシーンなど、ビルドアップでミスが出るシーンもありましたが、その後も概ね浦和ボールで試合を進めると、40分に山中の左CKから岩波が合わせて先制ゴール。ボールは支配しつつも決定機はあまり多くなかった中で、こうやってセットプレーで点が取れると非常に助かります。CKは山中が大外で仕掛けたことで取ったものなんですが、トランジションに反応して明本が降りたスペースに素早く上がっていったことで1on1の局面を作り出せたもので、全体の流れの良さに呼応して積極的に高い位置が取れていた山中の充実ぶりがうかがえますし、ボールを奪ってからそこまで時間をかけていませんが、浦和はゴール前に3枚入っていたことも結果が出ていなかった時期と比較すれば改善された部分だと思います。

全体的に、浦和のパフォーマンスが素晴らしかったとまでは言いにくいのですが、それでもチームとしてのベースアップは明らかで、細かい局面を見ても目に見える形の向上を再確認できたのが今節の前半だったように感じます。

我慢と引導

後半立ち上がりも浦和優位の展開。小泉が相手をいなしまくり、西は無限に時間を作り、明本は競り合いやトランジションの強度を発揮するなど各選手が個性を発揮しながら主導権を握ってゲームを進めるスタイルを体現できていたと思います。流れが良いからかもしれませんが、ミスをした後のリカバリーが非常に早く、攻め切られる前にボールを回収できていました。

53分に清水はエウシーニョ、後藤を投入。この二人が投入されてからの方が清水としてはやりたかったことが表現できていたかもしれません。バックラインのビルドアップでも権田が積極的にエリアを出てボール回しに加わり、中盤絞り目の位置にエウシーニョが入ることで前半になかった最終ラインと前線を繋ぐパスコースやプレーがより多く出ていたように思います。55:35前後のシーンも、奥井の縦パスは正直雑なんですが、こぼれ球を中央に絞っていたエウシーニョが拾うとスピードアップ。トップ下のような役割で入った後藤が左に流れると起点となり、奥井がオーバーラップからクロス…と、精度は別として良い形が出てきました。

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4-2-3-1でプレーしていた試合の浦和と問題は似ていて、最終ラインからボールが前進してこないので、中盤の選手が降りてくる。ただ降りてきても状況を打開できず、前に蹴るが枚数が足りないのでボールロスト…というのが前半の清水だったが、エウシーニョが中央に入るとさすがに後ろと前を繋いでくれる。ただこの場面も配置のバランスが良いというわけではなかった。

流れを変えたい清水は61分にさらに選手交代。鈴木唯人と河井を投入し、早くも4枚の交代カードを使うと、中盤に人数が増え、ボールを持てる選手が増えたこともあって清水が少しずつ押し込んでいく展開に。63分にはチアゴサンタナの強烈なシュートが飛ぶなど、ゲームの流れが清水に移っていきます。これを受けて浦和は66分に武藤に代えて興梠を投入。ただ流れは変わらず、68:50前後には右サイドのクロスに後藤が反応してあわやゴールのシーン。この時間帯、浦和が特別悪かったというほどではないのですが、清水のビルドアップの改善と相まって疲労感は少し出ていたかもしれません。

流れを取り戻したい浦和は、75分に選手交代。関根を下げて宇賀神、武田に代えて健勇を投入。この段階ではっきりと4-4-2にシステム変更して、中央を少し固めようという意図もあったかもしれません。ただこの交代で浦和は引いてブロックを組む傾向が強くなり、76:54前後のエウシーニョのスルーパスのような危険なシーンをゴール前で作られてしまうようになりました。システム論のほかに、武藤・武田・関根がボール非保持の追い込みの面で貢献していた部分が健勇・興梠の2トップに西のSHだと薄れてしまうというのはあったかもしれません。77:49も同様に最終ラインでボールを保持する清水へのプレッシングが無いので余裕をもってエウシーニョに縦パスを通され、後藤の落としに鈴木唯人が3人目として反応しシュートまで。シュートコースは切れていましたがブロックを組んでいる割に中央に通されてしまうのは良くない傾向で、この時間帯は浦和にとって苦しい展開となりました。ラインが低い浦和はボールを引っ掛けてもなかなか前に繋がらず、中盤で奪い返されて81:36前後には後藤のシュート。畳みかけたい清水は攻撃面の貢献が少なかった奥井に代えて西澤を左SBに投入し、浦和も83分に敦樹、汰木を投入してお互いにカードを使い切ります。

その後はお互いに具体的な決定機の無いまま時間が過ぎ、このままロスタイムに突入するかと思われた89分、宇賀神のスローインから健勇が競ったこぼれ球を汰木が粘って興梠が収めると、後ろから敦樹が素晴らしい反応で前線へ。一瞬だけ中を見てエリア内に入る前に中へ折り返すと、健勇がジャンピングボレーでこれを完璧にミートして貴重な追加点。交代選手全員がボールに絡んでのトドメの2点目で、終盤苦しかった浦和が清水に引導を渡し、そのまま試合終了。浦和は前節に続いて4-1-4-1をベースに流れの中から得点を奪い、さらにゴールに恵まれず苦しんでいた健勇にゴラッソが生まれ、チームに大きな勢いがつく今季初の連勝達成となりました。

3つのコンセプトに対する個人的評価と雑感

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は6.5点。4-1-4-1を採用して以来、山中の特徴をチームとして発揮させられる回数が非常に増えているのがとても印象が良いですね。また明本、小泉、武田、関根の中盤もそれぞれに適性のあるポジションと役割が見つかった感があり、背後でそれをサポートする柴戸と西、そしてビルドアップの初手を打つCBとGKとそれぞれのポジションの役割やチームに還元すべきプレーがかなり明確になった感があります。今のところ左サイドからの攻撃が主力となっている浦和ですが、このシステムでゲームをこなしていけば右サイドのユニットも形を作れそうな感じがしますので、相手との噛み合わせもありますがやはりこの形はスタンダートにしていきたいところです。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は6.0点。今節は非常に良かった前半と苦しかった後半に大別できる試合だったと思います。連戦による疲れ、清水の選手交代によるビルドアップの改善等の理由もあったとは思いますが、柴戸に中盤の底を任せて第一プレッシャーラインに3+1を使えているときは非常に良い制限が出来ていたので、この形をどこまで維持できるかが今後の浦和のボール非保持を見る上ではポイントになりそうです。そういう意味では、ここ2節はトップ下を置かないチームとの対戦で良い結果を残しましたが、次節の徳島はトップ下にキープレーヤーがいるチームなので、その場合にどんな形を浦和が見せるかは少し楽しみです。簡単に引くことはないと思いますが、ビルドアップが上手いチームにいなされたときには最終ラインが晒される形を作られてしまいそうな感じもあるので、4-4-2以外の形のチームに対してどういった追い込み方をするかは要観察かと思います。自分たちが良い形でビルドアップが出来る時間帯はそもそも走らされることが少ないので良いと思いますが、今節の終盤のように我慢の展開になるとミスも増えるので、そういった時間を減らすか、うまく前線の選手の個性を使ってそういった展開から逃げる術も見つけたいところです。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は6.0点。上記と同じく、このシステムは上手く回っているときは相手にほとんど何もさせない支配力を持つものの、押し込まれると結構苦しくなるという良し悪しが両方出たゲームとなりました。上手くいく時間を90分に近づけるなり、選手交代も使いつつ割り切って形を変えるなり、上手くいかない時に我慢する形を用意出来るのかが今後のポイントになりそうです。とはいえ、ここ2試合を観ただけでも選手間の連携や次の次の展開に備える予測とポジショニング、トランジションでの強度の発揮など今後強みにしていきたい要素の向上は多く見られるので、多少の失敗、例えばこのシステムではまだ許していない先制点を奪われるような展開でもそういった良さを押し出してゲームを支配していけるかというところにも注目したいと思います。

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書くのが遅くなってしまってすでに9節を消化しているチームもいるのですが、浦和は勝ち点8同士の清水との対戦を制して勝ち点11の10位に浮上。次節も同じ勝ち点11同士となる徳島との対決ということで、ここで連勝すれば一気に中位争いを通過して上位争いに顔を出せそうなところまで来ました。リカルドの古巣対決ということでここ2試合のように素直に自分たちのやりたいことをやらせてもらえるかはわかりませんが、今掴みかけている上昇気流にしっかりと乗って、「いるべき場所」を争う戦いに名乗りを上げたいところですね。

今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。また次節。