96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2023シーズン全選手振り返り(下)

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25 安居海渡

出場試合数はチームナンバーワンの56試合ということで最多出場と言われていますが、実はプレータイムは3,865分でナンバーワンというほどではありません。とはいえ、昨年の出場試合数・プレータイムからすれば大躍進であり、チーム内での評価の高さに出場記録が追いついたとも言えますね。

彼のキャリアを切り開いたのはセレッソ大阪戦でのミドルシュートで間違いないですが、ボール非保持時のカバーリングや単純な走力、ボール保持で簡単にボールを失わない手堅さはチームから大きく評価されたポイントだと思います。シーズン当初レギュラー格と目論んでいたメンバーが次々と離脱し結果として2列目のやりくりが非常に難しくなったチームにとって、安居がトップ下を中心とした2列目で計算できるようになったのはシーズンを戦い抜く上で欠かせないものでした。スコルジャ監督としても、トップ下の位置でプレーしつつもセットディフェンスではボランチを助けるように降りるカバーリングを行える選手として安居や佳穂は信用できただろうし、佳穂のメンタル・フィジカルの上下動を考えると安居は比較的パフォーマンスの波が小さかったと言えるかもしれません。

また、2列目でプレータイムを重ねたことで結果的に信頼されボランチでのプレーが許されるようになったのは本人のキャリアにとってもよかったと思います。柏木か誰かが前線でプレーした後にボランチに入るのはしんどすぎるのでなるべくやりたくない的なことを昔言っていたのですが、安居は今年一回もそういうことを言わなかったのでやはり若さは最強だと思いました。3月の時点ではボランチで入ってもボランチっぽいプレーにならず忘れちゃったのかな?という感じでしたが、4月、5月とプレーの精度が上がり7月にはボランチでのプレーもスムーズになっていたと思います。ボールを持った時に相手の矢印を見てプレーをキャンセルしたり一拍置いてみたり、相手と駆け引きしながらボールを運ぼうとするプレーはボランチ陣の中でもよく出ていました。

監督・フォーメーションの変わる来季はまずはアンカー争いに加わることになるかと思いましたが、どうやらIHとしてのほうが出場しやすいそうな気配。流通経済大学時代はアンカーでのプレーが多かったですが、プロでの経験はほぼなし。さらにヘグモ監督の申し子とも言えるグスタフソンの加入も決定しており、競争は厳しいはず。年齢的にも能力的にもベンチに座らせておくのは勿体無い選手なので、IHのポジション争いに参戦することになるのはよくわかります。そう考えると今季トップ下のレギュラー格でプレーしたことは来季のポジション争いに役立つ財産だとも言えそうです。大きなマイナスがない選手なので減点方式で評価していたっぽい感じのあったスコルジャ監督とは相性が良かったと思いますが、現時点では監督によって使いどころや信頼感が結構変わってきそうな選手なので、ヘグモ体制でうまくやれるかどうかは今後のキャリアにも大きく関わりそうな感じがします。

26 荻原拓也

レンタル修行を経て帰還した選手としては過去にない活躍をしたと言えるのではないでしょうか。安居と同じくプレータイム自体は長くないものの、公式戦53試合に出場し今季のクラブの戦いのほとんどに関わることとなりました。左サイドバックに加えて右サイドバック、左右の前線のポジションでプレーしましたが個人的には右サイドバックでのプレーが最も良かったかも。荻原のプレーの特徴といえば多くの人がクロスを挙げると思いますが、個人的には今季の荻原はドリブルが良かったなと思います。特に左足だけのボールタッチで相手に突っ込んで、ボディフェイントだけで突破していく仕掛けのドリブルは他の選手にはあまりないユニークな武器だった気がします。タッチが細かいわけではないので密集を突破できるわけではないのですが、多少のスペースがあれば縦にも中にも入っていける仕掛けはチームの貴重なオプションでしたし、アタッキングサードでの選択肢やパターンが多くなかったチームにあって自力で鋭いクロスまで持っていける荻原が大畑よりもプレータイムを伸ばしたのはある意味でチームにあっているとも言えました。

課題は多くの人が指摘するように守備の部分で、本人は対人強度に自信を持ってプレーできていると繰り返していましたが、1on1の対応はともかくアタックする場所の選択や埋めるべきスペースの判断はまだまだ課題があるよねという感じ。前方のSHがプレスにでた後ろのスペースに思いっきりアタックする時の反応速度は非常に速かったですが、「そこはステイして引き込んでほしい」というシーンも多々あったかなと。幸い横で組むマリウスがカバーリングできるスペースが広いためにそこで解決できる部分も多かったし、チームのやり方としてはそれでよかったのかもしれませんが。シーズンに何度かあった相手チームの逆サイドからの攻撃に対して絞りきれなかったり自分のマークを管理しきれずに動き出しに遅れ、ホールディングでなんとかしようとしてPK献上というのは彼の課題をよく示している現象なのかなと思いました。

来季はアキと左S Bを争いつつさらに高いレベルを目指す…というストーリーかと思いきや、12月31日未明にまさかの海外移籍報道。クロアチアの名門ディナモ・ザグレブへのレンタル移籍のオファーを受けて即移籍を決断しました。橋岡がシシンントトロロイイデデンに移籍した時はオギはもう追いつけないかもなあと思いましたが、追いつくどころか追い越してしまうほどのステップアップを実現させるあたりはそういう星の下に生まれているのかもしれません。彼を見ていると苦手をどうこうするより自分の武器を磨き続ける戦略の有効性を確認できる気がします。ヨーロッパでもがんばれ。そしていい感じの時に戻ってきてくれ。

27 エカニット・パンヤ

浦和レッズ史上初のタイ人プレーヤーとして半年間のレンタルで入団。浦和レッズとムアントン・ユナイテッドとの提携をベースに練習参加をした3選手のうちの一人で、提携による具体的な成果となりました。浦和側としても練習参加等を通じてある程度実力を把握できた上での獲得だったでしょうし、彼としてもチームの雰囲気がわかった上で加入できたのは初めての海外移籍ということも踏まえても良かったと思います。加入当初はなかなかゲームに絡むことができませんでしたが、デビュー戦となったACLグループリーグ第2節ホームハノイFC戦では初ゴールを押し込むなど上々な滑り出し。その後も「確かにこれはチャンスをあげてみたいかも」と思わせるプレーを随所に見せ、半年間のレンタルは一定の成果を挙げたと言えそうです。

プレー面で言えばやはりオンザボールの技術が高いのが最大の強みで、ターンから前を向いて逆サイドにボールを展開するプレーなんかはとてもスムーズ。タイに比べて展開が早くスペースのないJリーグではまだ彼のイメージ通りのプレーが多くでている感じではないですが、自分の間や感覚でプレーできるようになればもっと期待できそうだなと思いました。またレッズではまだクリーンに飛んだシュートがないですが、振りの速さやインパクトした音からしていいシュートが飛びそうな感じがあるので、ミドルシュートにも今後期待したいところ。

28 アレクサンダー・ショルツ

愛称とするにはどう考えても大げさな「神」呼びもグッズ制作の後押しかすっかり定着しました。チーム3位のプレータイムは4,519分。しかもリーグ戦は全試合フル出場に加えて7ゴールと獅子奮迅の大活躍。2022シーズンの振り返りで「彼に個人賞をとらせられなかったらクラブの恥」と書きましたが、余裕でベストイレブンに選出され、名実ともにJ1リーグ最強のディフェンダーとなり、日本はデンマークの実質的な支配下となりました。

他の選手とは明確に一段階違う総合力をもってあらゆるプレーをこなしてくれるショレですが、相棒にマリウスを得たことは本人にとってかなり大きかった気がします。CB同士のコミュニケーションとよく言いますが、コミュニケーションというより感じ合える、考え方が合う、同じロジックで展開を予測できる選手が横にいることでいろいろとやりやすくなっただろうなと。ただそのマリウスがやってきたことで得意の左CBでプレーできなくなり、ビルドアップ面では若干窮屈そうにしていたり、時々「右でもいいけど左のほうが…ね?いや右でもいいけど」的なアピールをしていたのもよかったです。

充実したシーズンだったはずですが、コメンタリーでは時折あまりに守備的な戦い方にちょっと窮屈さを感じている節を感じたりもしました。かなり言葉を選ぶタイプの人ですが、本当はもっとはっちゃけたサッカーが好きなのかなと思ったり。その点あたっキングフットボールを標榜し、文化的素養も備えるヘグモ監督はショレとの相性がかなりよさそう。日本でやり残したことはもはやJ1リーグ優勝とCWC2025の出場くらいしかなさそうですが、少なくともそれまではヘグモサッカーの屋台骨としてチームを支えて頂きたいです。よろしくお願いいたします。

29 堀内陽太

浦和ユース出身の新人は今季ルヴァンカップ1試合4分のみの出場。ユースでのプレーを見ると中盤真ん中の何でも屋という感じで明確な武器というよりは総合力で勝負するタイプに見えるので、最初は時間がかかりそう。レンタル移籍するといっても実績がない高卒ユース選手はそもそも行き場がありますかという問題もあるのでなかなか難しいですね。池田コーチとマンツーで練習する姿がよくピックアップされていましたが、この選手をどういう風に育てていくのか、クラブにロールモデルやビジョンがあると良いのですが。早稲田の通信に通う堅実派で取り組み態度は◎なので、クラブが適切な階段を設定・提供してあげることができればうまく育つんじゃないかと思います。本当はこういう選手にこそセカンドチームが必要ですね。

オフザピッチでは帯同外となったCWCを僕らと同じように夜更かしして応援する姿やあざとさを通り越してただの子供と思われる年賀メッセージでみんなのバーチャル甥っ子としてのポジションを確立。その生粋のあどけなさで誰彼構わずお年玉を集金して全部NISAでS&P500に突っ込むくらいの抜け目なさも見せてほしいところです。

30 興梠慎三

もう最近は毎年引退しようとしている気がしますが、そして我々も「今年はさすが慎三には頼れないだろうな」と思ってますが、結局今季も44試合に出場、プレータイム1,923分と普通に戦力として機能していました。リーグ戦4ゴール、公式戦6ゴールはかつての姿からすれば素晴らしいというほどではないですが、ピッチ上での味方選手からの信頼感はやはり別格のものを感じます。今季は開幕からてんやわんやしたチームを兄貴に代わる緊急登板で「教育」し、ピッチ上に落ち着きをもたらすことに成功。結果的には開幕連敗となりましたが、シーズンの早い段階で慎三を使えばある程度落ち着くとわかったことは非常に大きかったと思います。

そしてなによりもACL決勝での活躍。特にアウェーでのゴールはまさに値千金で、彼の好む相手を崩したゴールではなかったですが役者がしっかり仕事をしてくれたのには感無量でした。普段はだるがっていてもやるときはやる、最後には結局頼りになるというのは浦和の伝統に根付くある種のヒーロー像かもしれません。

今季終了後もいつも通り「もういいっしょ」状態だったようですが、クラブの要請によりまたしても現役続行。もうここまで来たらCWC2025までやってそうな気もしますが、年齢も年齢ですしさすがにネコ科的な身体の無理も利かなくなってきている感があるので、来季は本当に最後かもしれないなと思いながら応援したいと思います。

10点はさすがに頼めないかもしれないけれど、「この1点」を獲ってくれることを来季も期待したいです。

31吉田舜

出場無し。ベンチ入りもほぼなし。まあこれは仕方ないでしょう。わかってて移籍してきたはず。GKトレーニングは見てもいないし詳しくもないので何も言えないですが、着実にレベルアップを果たしている模様。背は低いですが武器のある選手ですし牲川とは違ったタイプで戦力的には良いと思います。佳穂、凌磨とともに前育同窓会の一角を担う来季はプレーが観たいです。

35 早川隼平

浦和レッズの選手で、2種登録としてトップチームの試合に最も出場した選手は誰なんでしょう?原口元気か山田直輝が早川隼平なのではないでしょうか。もしくは橋岡?ユースの活動にはほとんど参加せずほぼトップチーム帯同となった今季、非常に大きな経験を積んだと思います。特にACL決勝にも出場したのは素晴らしい。Jリーグではゴールを決めることができませんでしたが、ルヴァンではプロの舞台での初ゴールも決めています。

プレー面ではいわゆる止める蹴るの技術の高さとアジリティが際立つ選手で、特にワンタッチでのボールコントロールやパスの精度は今後武器になっていくと思います。近年の浦和ではあまり見ることのなかったビタ止めを何度か見せ、一部界隈を唸らせていたのは印象的でした。一方トップチーム昇格時の原口や関根のような相手に向かって行って1on1で抜きまくろうとする感じの選手ではなく、ドリブルで違いを見せた印象はありません。流れの中でスペースに入っていって勝負するトップ下と表現するのがしっくりくる感じで、偏見込みでいえば浦和っぽいというよりセレッソやガンバの下部組織から出てきそうな選手かなと思います。このまま突き詰めていくと南野みたいな感じの選手になるのかなと思いました。起用の妙なのかカンテの周りでちょこまかやっているとお互いにやりやすいようで、相手DFがカンテに注目した時にその隙とスペースを突くみたいなことは意識していたかもしれません。

フォーメーションの変わる来季は勝負するならIHでしょうが、プロレベルでIHとしてやっていくにはいろいろな局面でゲームに与えられる影響力がまだ足りないのかなという感じもあり、序列は低いところからスタートしそう。トップレベルでも落ち着いてプレーできた実績はすでに持っているので、ベンチを争うよりはトップ下やシャドーを置いているJ2クラブでじっくり修行をしてもよさそうな気がします。

浦和ユースからトップにはまる(そして海外へ旅立っていく)選手の例に漏れず、先輩をいじれる生意気かわいい弟キャラ。まずはミナミーノ師のUSB(うっさいんじゃボケ)並みのネットミームを生み出してドメサカ界隈での存在感を発揮してほしいと思います。

40 平野佑一

知念や馬渡などと同じくなかなか出場機会に恵まれず、今季はモチベーションを保つのが難しかったと思います。選手として総合力で勝負するよりも「でっこみ引っ込みがあるけれど俺にしか出せない良さを見てくれ」というタイプの選手なので、スコルジャ監督のボランチ像にあまりハマらなかったか、弱みの部分が足切りにあってしまったのかなという印象です。個人的には彼のような強みがユニークな選手が大好きなのでなんとかなれと思っていたのですが、ポジション的にも巻き返しで信頼感を得るのは難しかったかもしれません。

来季はセレッソ大阪に移籍し田中駿太や喜田陽、あるいは香川真司あたりとアンカーのポジションを争う模様。これはこれで厳しいポジション争いかもしれませんが、やりようによってはJ1でも十分輝ける選手だと思うので、簡単にJ2に沈まなかったのは良かったなと思います。浦和でのプレーを観れないのは残念ですが、サッカー選手平野佑一が表現する彼の世界観に触れるのを楽しみにしています。

66 大畑歩夢

こんなはずじゃなかった感の凄いシーズンになってしまいました。ライバルの中では一番の若手だったとはいえ明本、荻原、大畑の3人で最も左SBとして実績があるのは彼でしたし、他のポジションへのコンバートや兼任も考えられる二人に対して基本的に左SB一本の選手なのでポジション争いの軸になるのかなと思っていました。

出場機会をうまく掴めなかったのには怪我やコンディションの影響が大きかったと思われますが、彼もまた平野と同じように弱みの部分で足切りを食らってしまったような気もします。これまでも大畑はACL等で個人の責任と言わざるを得ないような失点への絡み方を見せていましたが、スコルジャ監督がSBに好んだのは1on1をしっかり守れる選手、少なくとも1on1で後手を取らないような信頼感のある選手。そういう意味で身長的にも気迫の面でも圧の弱さを感じさせる大畑をあまり信頼できなかったのかもしれません。とはいえ諸々の事情でSBが品薄状態だったシーズンでしたから彼の存在にはチームもスコルジャ自身も助けられたわけですが、本人にとっては期待の若手以下ともいえる扱いは不満だったでしょう。

2024年はオリンピックイヤーということで、これまで継続して招集されているU-23代表のほうも気になるところ。同ポジションのライバル二人が海外移籍したことで本人も次のステップまでの距離を具体的に掴んだことでしょうし、来季は「日本を代表する」にふさわしい選手となるべくスケールアップに期待したいところです。前線の選手を起点にしたスペースアタックやそこからゴール前への決定的なボールの供給は明確を明確な武器としつつ、それ以外でいかに目立てるか、相手選手や観客の目を引き付けられるかみたいなところに注目したいと思います。頑張れ。

監督 マチェイ・スコルジャ

誠実公正な受け答え、堅実な戦術、そしてアジアタイトル。僕の知る限り、たった一年間の指揮であることを踏まえるとこれまでで最も浦和サポーターに受け入れられた監督ではないかと思います。着任前から不透明だったACL決勝の開催時期をにらみつつチームを構成し、前任監督の築いた土台を上手く活かしながらより堅実に結果を持ってこられるようチームをアップデートさせ、明確な戦力差があるとされた中でシーズン最大のミッションであった三度目のACLタイトルを確保した手腕は母国でポーランド人で現役最高の監督と称されるだけのものがあったと思います。

一方で、5月に一度ピークを迎えるようなチーム作りをしつつ長いリーグ戦でも結果を出すというところまではたどり着けず、またシーズン序盤から選手選考にも偏りが観られたことで特に終盤戦は疲労困憊の主力を送り出すもののパフォーマンスの低下にはなす術なしといった感もありました。

個人的にはレフポズナンでのサッカーに大きな魅力を感じていたこともあり、特にある程度のリスクを許容しつつも盤面を動かしアクションを増やしていくアプローチがあるかどうかに期待していたのですが、結果的にそれがなかなか表現されなかったのは残念でした。

全体としては昨年に比べリスクを許容しつつチャレンジを多くする志向性の転換が肝になるのでは。ビルドアップとプレス重視、立ち位置がどうこうも工夫するという意味ではリカルド体制からの引き継ぎ事項は多いと思うが、プレー選択のメンタリティはだいぶ変わると予想、というか期待。

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当然これはACL決勝があるなかで、しかも相手が戦力的に差がありそうなアルヒラルと決まっている中で、守備からチームを構築することを優先した影響が大きいのだと思います。一方で。開幕2試合はかなり前向きの矢印を強調し、堅実とは程遠いバタバタしたサッカーでシーズンがスタートしたことを踏まえると、ACL決勝だけがその要因とは思えないのも事実です。個人的に腹落ちしている仮説としては、やっぱりポーランドの(もしくはスコルジャが経験してきたこれまでの)サッカーとJリーグのサッカーの違いに面食らったところがあるのかなと思っています。エクストラクラサのサッカーを観ると、どのポジションにもフィジカルで選ばれてそうな大柄の選手が多く、プレッシングを受けた相手チームが僕らの感覚ではあまりにも簡単に前線にボールを蹴っ飛ばしてくれるような傾向がありました。逆に技術のある選手がピッチに集うJ1ではもともとせわしなく早い展開が連続する傾向にあり、近年の戦術的・技術的なレベルアップから中途半端なプレスであれば普通に突破してくるチームが多いのが特徴です。ポーランドのサッカーを下に見るわけではないですが、ポーランド基準で十分なプレッシングを仕込んでもJ1ではポーランドほど相手がボールを捨ててくれない、従ってプレッシングを行うB/Cが比較的低く戦術骨子にならないというような状況があったのではないかと思います。

またボール保持においてはチームの軸となるCFの人選に苦労し、小粒な2列目の選手を含めて前線に時間を溜める機能が欠落していたこと、前線の迫力を補完するために酒井をビルドアップに関わらせずに早めに前線に上げておいておく戦術を採用したことで結果的にビルドアップの枚数・機能が不十分になったことが影響し、効果的にゲームを落ち着かせることが難しかったようにも思います。これによりプレーエリア(動的な自軍陣地でありトランジションの発生ポイント)を前に出せないとで相手を押し込めなかったことは90分のデザイン、ゲームプランの部分で影響が大きかったはずです。

プレッシングが思ったほど機能しないリーグだったことに加えて全体的に相手陣地でプレーすることが困難になってしまったことで、次第に今期の浦和の強みはミドル~ローブロックの強固さに集約されていくことになりました。ここにベストイレブン3人を擁するリーグ最強の守備組織が構築できたことは不幸中の幸いでしたが、それ以上の強みをチームに植え付けるに至らなかったことも事実。イレギュラーな与条件の中アジアタイトルをもたらしてくれたことに感謝は尽きませんが、内容面で期待外れの部分があったのは正直なところです。逆に言えば、浦和で達成できなかったB/Cが高く効率的なプレッシングと、バックスの高いビルドアップ能力に支えられて非常に高い位置に設定できていたプレーエリア(つまり相手を押し込めていたということ)の二つがまさにレフポズナンの強みであり、スコルジャ監督の理想のサッカーを表す方程式に欠かせない係数だったのだと思います。ではそれをJ1リーグの環境でどのように実現するのかというのを見てみたかったのですが、残念ながら個人的な理由で一年での退任となってしまいました。

さて、おまけ程度ですがいくつか数字も見ていきたいと思います。

まずはリーグ戦の勝ち点推移。赤色の棒グラフは浦和の累計勝ち点で、白は優勝した神戸の累計勝ち点です。赤と黒の折れ線グラフはそれぞれ浦和の各節時点の平均勝ち点と直近5試合の平均勝ち点を表しており、黄色と黄土色の折れ線グラフは神戸のそれに該当します。オレンジの点線は優勝ラインの累計勝ち点70/平均勝ち点2.0と、残留ラインの累計勝ち点40ちょっと/平均勝ち点1.0を示しています。

一目でわかるのが開幕2連敗ダメージの大きさで、ぐうの音も出ないほどの結果論ですがこの2試合で勝ち点6を積んでいれば残り5試合(30節)の時点まで神戸とほぼ同じ勝ち点でリーグを進められたことになります。結局32節の神戸との直接対決に負けてしまえば開幕2試合を連勝する世界線でも史実に収束してしまうのですが、そこに至るモチベーションは大きく違っただろし、それゆえに結果も別の方向に転がるかもなと思ったり。他の部分に注目すると、黒い折れ線グラフが示すように浦和が明確に調子を落としたのが20節~23節(8月上旬~中旬)と30節~33節(11月上旬)で、半ば燃え尽きていた11月はともかくとしても、第20節FC東京戦(△)、第21節セレッソ戦(●)、第22節マリノス戦(●)、第23節広島戦(●)の4試合で勝ち点1だった夏場の戦績は非常に痛かったかなと思います。この間に例の天皇杯名古屋戦も挟んでいますし、今振り返るとこの時期は試練でしたね。

次に毎年同じ項目で記録が残って年別比較に便利なFootball-Labのチーム単位の各プレー指標を並べてみました。相手と組み合う膠着状態を良しとし、試合をなだめながら進めるリカルド監督が率いていた2021・2022シーズンよりも攻撃回数の指標が悪い(まさかのリーグ最下位)あたりに僕の内容面のがっかり感の根拠がある気がします。チャンス構築率がそこまで悪いわけではないのですが、やっぱり「攻めている」感覚が少なすぎましたね。

一方で守備面の指標は軒並みリーグトップクラスで、守る時間が長かったはずなのにチャンス構築率でリーグ2位の成績は強固なブロックを、そして非シュート成功率リーグ1位の数字は最後まで相手を自由にさせない粘り強さと最後の砦となるGKの質を示していると思います。こう見ると結果的には「3年計画」の目指していた浦和レッズのサッカースタイルとは真逆の方向性にチームが積みあがったのがここ3~4年間であり、それなのに思わぬ方向に完成度が高まった結果三度目のアジア王者までたどり着いてしまったのがACL2022の優勝と言えるのかなと思います。少なくともつっちーが言っていた浦和レッズのスタイル、僕が「ネオ速く激しく外連味なく」と呼んだものの表現をピッチ上で観ることはできませんでした。尻よ浮け。

最後に選手起用の傾向です。別にあえてグラフから読み取ることでもないですが、選手固定の傾向が強まったことを各数値が示しています。まーざっくり言えば、2023シーズンのスコルジャ監督のパフォーマンスはオリヴェイラのアップデート版みたいな感じだったと言えるかもしれません。

グラフからも明らかなように、2019年~2021年の3シーズンはプレータイムをスカッド内でシェアし、いろいろな選手を比較的バランスよく起用する方針が続いていたんですが、またひと昔前の固定傾向が復活してきています。これはクラブ編成の実験期間が終わって主力として信頼できる(競争を生き残った)選手が多くの出場機会ともに再強化されてスカッド内の序列が明確化したこと、さらなる結果のために強力な選手が補強されたことで主力とサブの隔たりが深まり、悪循環的にサブの選手を使いにくくなる傾向が強まっているという感じで理解できる気がします。来季のヘグモ監督も結構序列を明確にするタイプみたいなので、この傾向は今後も数年続くかもしれません。ここ10年~20年くらいの経験を踏まえても、何年かこんな感じで主力を固定し、どこかで多くの主力選手が一斉に世代交代して数年間のスカッド実験期間入りというのが浦和の典型的な強化サイクルと言えそうです。まあ優勝クラブの主力依存度が高いのは普通のことで、それ自体が特別悪いとは思いませんが、これをいかに平準化しつつより良い結果を安定的に求めていくかみたいなところがフットボール本部の長期的な存在意義とも言えます。

というわけで全体的に見れば、2023シーズンはスコルジャ監督及びコーチングチーム、そしてフットボール本部がその存在価値を発揮し結果を得た良いシーズンだったと言えると思います(リーグであと一歩頑張れば素晴らしいシーズンだったと言えたのですが)。また主力選手を中心に非常に多くの試合、膨大なプレータイムを働いてくれた選手たちにも感謝をしたいです。みんな本当に疲れたと思います。お疲れさまでした。一方で2019年オフから続く浦和レッズさんの構造改革・サッカースタイル改革は内容的には後退し、抜本的なてこ入れが必要と言える状況だったという点は無視できません。スコルジャ監督の退任はあくまでイレギュラーな事情によるもので解任ではないはずですが、ここでよりピュアなアタッキングフットボールの信奉者を迎え入れるのは悪くない選択となったのではないかと期待したいと思います。

チラウラー 96

はよ書け。こまめに書け。定期的に書け。

 

終わりです。長文にお付き合い頂きありがとうございました。