96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2022シーズン全選手振り返り(上)

自分、毎年恒例の全選手振り返り、行きます!

例年通り背番号順、出場記録は例のごとくSoccer D.B.さんのデータを主に参照です。また、既に2023年になってしまったので昨季=2022年シーズン、今季=2023年シーズンのつもりです。誤字や記録の間違いがあればそれとなく教えてください。

1 西川周作

ほぼ全試合に出場。注目された彩艶との正GK争いに勝利した形となりました。最も注目すべきはジョアンGKコーチのもとで進化したクロス対応で、シーズン開幕直後からこれまではステイしていた場面でクロスにアタックするアクションを多く見せ、これまでよりもシュートを打たせる前にボールを処理することができるように。これまでの西川は2021年の天皇杯決勝の失点のようにクロスにアタックせずにゴールを守ろうとした結果ノーチャンスのシュートを撃たれて失点することが多かったのですが、たった1年間、GKコーチが変わっただけでこれだけ対応が変わるのかという驚きを与えてくれました。もちろん決定的なピンチでのセービングはこれまで通りで、ゴールを守るという部分においてはキャリア晩年にして正当進化を果たしたと言えそうです。

一方でビルドアップの部分はジョアンが重視していないこともあってかこれまで通りで、回数としては深刻ではないもののアウェー広島戦のビルドアップミスからの失点など時折不安定さを見せることもありました。技術的な部分もそうですが相手のプレスにはまっている時でも繋ぎ倒しにいってしまう判断の部分が大きな課題で、これはもう何年もかわっていないのですが、クロス対応の劇的な改善を見るとこの点もどうにかなるのではないかと期待してしまうところです。というか、一年でこれだけ変わることを見せつけられると、今までのGKトレーニングはどうだったんだろうと思ってしまいます。

GKとしての技術的な部分以外では、やはりキャプテンを務めたことで苦労が多かった一年になってしまったといえると思います。本人もいう通り先頭に立って引っ張るタイプではないですし、そもそもGKがキャプテンをやると最後尾からフィールドの10人を統率するのは簡単ではないのだと思います。基本的に昨季のチームは輪を乱すような人はおらず、どちらかというと真面目くんばかりのチームでしたが、そうであるが故に「後ろから支える」系のキャプテンは合わなかったのかもなと思います。練習でも頻繁に別メニューになりますし、やっぱり個人的にはGKをキャプテンにするのは微妙だなと感じました。まあそもそもクラブが他に候補になりそうなまとめ役の選手を放出してしまったというのが根本的な部分で、本人も仕方なく受け入れたという感じでしょうから、キャプテンとしての振る舞いについて西川を強く批判するのは本人にとっては酷かなとも思いますけど。

37歳にして選手としての進化を果たした西川ですが、今季もレッズでプレーすることに。現在554試合出場で歴代5位となっているJ1出場ランキングはどこまで伸ばせるでしょうか。立ちはだかる歴代4傑は590試合出場の阿部ちゃん、593試合出場の中澤佑二、631試合出場の楢崎正剛、672試合出場の遠藤保仁となっています。4位はギリギリいけそうでしょうか。ていうかヤットのJ1だけで672試合ってなんなんだよ。平均32試合出場を21年連続ペースだぞ。

2 酒井 宏樹

シーズンの出場記録にFIFAワールドカップの記録があるのは新鮮ですね。たぶんこの企画で初めて出ました。おめでとう。

昨季はリーグ戦20試合1,534分出場。出場した試合では持ち前のパワーと気合いを発揮し、ACL準決勝のスーパータックルからのアシストを決めるなど印象的な活躍をしてくれました。特に夏場にモーベルグが合流してからは酒井ーモーベルグの右サイドは浦和の明確な強みとなり、ボール保持によるゲームの安定を志向するけれどもパンチ力に欠けた今季のチームにあっては特異なほど個人の力で相手を上回り状況を打破する迫力を見せてくれました。

とはいえ、さすがに出場時間が少なすぎるかなという感じ。そもそもケガを押してでもプレーするタイプの選手ではありますが、特に大きな試合、何かがかかった試合では「俺は今なんだよ」という感じであからさまに負荷の高いプレーや体勢的にかなり無理のある相手ボールへのチャレンジを繰り出す印象があり、大事な試合に間に合わせ、勝負どころでパワーを出してはくれるものの、その後はまたケガによる欠場を繰り返してしまうという稼働率の低さは評価が難しい部分。クラブからは唯一日本代表をほぼ確約された立場としてワールドカップを迎えたわけですが、ここでも初戦ドイツ戦で肉離れとなってしまいGS残りの2試合を欠場。本人としては残り少ない現役人生でできる勝負は全てするということなのでしょうが、見ている方としては選手生命をあからさまに削りながらプレーする姿は複雑でもあります。とはいえ日本サッカー界では現在のところトップクラスのキャリアを築いてきたベテランですから、そんな選手が「俺はプレーする、プレー出来る」と言ってしまったらもはや誰にも止められないのでしょうけど。

戦術的な働きとしては、上記のようにモーベルグとのコンビでサイドを攻略することに加えて、3枚回しをする際の右CB役としてプレーすることも多かった印象。基本的には頻繁な上下動はもう厳しいのでしょうから、もしかすると本人も3バックの右が一番心地よかったかもしれません。ただ守備者としてのプレーについては僕個人的には納得できないことが多く、特に瞬間的に状況が悪くなった際に無理目のタックルで危険な位置でのファールを献上することがしばしばあったのは印象が悪かったです。体格的にもオーラ的にも多少不利でもボールホルダーに寄せているだけである程度プレッシャーはかかるのではないかと思うのですが、なぜか一発でボールを狩りにいって躱されたり、引き倒したり。それが欧州スタンダードだと言われればそうですかというしかないのですが、実は守備対応がかなり怪しかったよねというのは指摘しておきたいところ。もちろんこれも上記のコンディションとの兼ね合いなのでしょうが、来年はワールドカップも終わって少し落ち着くのではないかと思うので、しっかり休むところから始めてほしいと思います。

今季のスコルジャ体制では少しサッカーがシンプルになり、リスク許容度も上がり、酒井の魅力であるパワーや迫力を発揮することが歓迎されそうな雰囲気。従ってコンディションに問題がなければ右SBのファーストチョイスとして君臨してくれるのではないかと思います。

3 伊藤 敦樹

大卒2年目の昨季はリーグ戦28試合2,112分に出場。2021年シーズンにルーキーでありながら36試合全てに出場するという大活躍をしたことに比べればインパクトは薄いですが、先発25試合は昨年の24を上回り、ゴール数も昨年の1から4に増加。全体的にはチームの中心としてキャリアの階段をまた一段登った印象のシーズンとなりました。

プロデビュー以来リカルドには重用されていた選手でしたが、昨季途中からボール保持時4-3-3のIH役を任されたことでチームにとっては一層重要な選手となり、特にゴール前での崩しに関わる部分での仕事がはっきりしたことでルーキーイヤーに気になったビルドアップ時に無駄に自陣側に残ってしまうポジショニングはほとんど見られなくなりました。清水戦のデュエル勝利からの惜しいミドルなど、敦樹らしい強さ+技術を発揮するシーンが多かったことで選手としての注目度もさらに上がり、時折海外からの関心を示されることもあったようです。

一方で出場試合数ベースで10試合近くの減、出場時間数でも微減と昨季はコンディション調整で苦労した感があり、おそらくコロナ罹患の影響だったと思いますが序盤に欠場した試合が多かったほかリーグ終盤には疲労の影響かあからさまに迫力が落ちていた試合もあったので、チームの屋台骨となるには若干物足りなかったとも言えます。昨季の浦和は敦樹が中盤中央〜相手ゴール前で出す迫力が大きなポイントとなっていたために敦樹のコンディションやパフォーマンスとチームの成績が連動していた感もあり、そういう意味では彼のせいとまでは言わないもののチームを優勝させる、優勝争いに導く選手となれていたかどうかという面で来季以降の成長余地を感じさせたシーズンでもあった気がします。清水戦での彼の退場からの同点ゴールを奪われた流れなんかはその典型的な部分でした。

デビュー以来常に高い基準のプレーを示し、それに応じて大きな期待を背負っている敦樹ですが、今季のスコルジャ体制でも基本的には評価されそうで、4-3-3ではないもののビルドアップに関わるよりもゴール前の崩しに関わるタイプのCHとして一番手となりそう。昨季の4ゴール3アシストという成績はまずまずといえるものですが、大学の後輩である広島・満田の昨季の活躍を見てももっと決定的な仕事ができておかしくないはず。今季は昨季よりもトランジションが多く出る試合展開になることが予想される中で、敦樹のボックストゥーボックスのパフォーマンスは今季以上にチームのエンジンとして重要度が増すのではないかと思います。

4 岩波 拓也

本当に本当に本当によく働きました。昨季の全公式戦合計の出場時間はショルツに次いで2位の4,001分。岩波は昨年も4,425分出場しており2年連続の4,000分越えです。過去5年間をみても4,000分越えは西川、岩波が2回ずつ、槙野、ショルツが1回ずつの延べ6人しか達成されていないので、いかにプレータイムが長いかがわかります。昨季は犬飼が加入したことでレギュラー争いが厳しいのではないかと思われましたが、犬飼が大怪我で早々にシーズンアウトしてしまい、結局ショルツと2人で最終ラインを支え続けることとなりました。僕の記憶では岩波は浦和加入以来ほとんど大きな怪我による離脱をしていないのではないかと思いますが、頑丈さは本当に価値です。ビルドアップがどうのとかスピードのないとかボールウォッチャーになるとか言いますけど、いつでも使える状態を維持できる選手はマジで重要ということだけは強調しておきたいです。

ショルツがあまりにも素晴らしい性能なので大いに助けられているのは事実だと思いますが、今季はビルドアップで苦し紛れにボールを蹴る回数が少なかった印象。おそらく2021年シーズンと比べてもボールを受けるポジショニング調整は素早く、効率的になっていると思いますし、そもそも苦しい体勢でボールを受ける回数を減らせていたのかなという気がします。昨季はショルツと並びの左右を変えながら2枚、3枚、4枚回しに対応していましたし、中盤への縦パスも随所に見られたのでビルドアップ面の成長があったと言ってよいのではないかと思います。

守備面では得意のシュートブロックに加えて、縦パスへの迎撃の部分でも今季は安定していた印象で、縦パスを収められターンされてなすすべなくプレーされてしまうシーンはチーム自体が崩壊気味だった第33節のマリノス戦くらいだったかなと思います。浦和に来た当時の自分の能力を出しきれずに控えめ、中途半端なプレーをしていた頃から比べると3バックと4バックの対応分け、球際、ビルドアップなどさまざまな面で成長したのかなと思います。

そんな岩波ですが、今オフでの海外移籍が濃厚でカタールのアルサッドへの移籍が取りざたされています。クラブ内の立ち位置としては実績的にもチームでの経験年数的にも浦和の最終ラインを支える大黒柱的な役割を担っていくべき選手だと思いますが、一方でクラブの目指すコンセプトをゲームモデルに落とし込む作業を突き詰めていけばいくほど求める選手像とは特徴がズレていることが明確になってしまうジレンマもあり、貢献度と反比例するように処遇が難しい選手になっている部分があるかもしれません。使えば使えるのはわかってるんだけど、理想とは違うというか。そういうものが条件提示を通じて選手側に伝わるのかもしれないし、そういうのとは別に岩波本人が海外経験を求めているのかもしれません。そもそも浦和に来た頃は2~3年で海外へステップアップという考えがあったでしょうし。おそらく移籍するんでしょうが、どんな道を行くにしても頑張ってほしい選手。もう十分浦和レッズOBを名乗れるだけのプレーはしてくれたと思います。

6 馬渡 和彰

岩尾とともにリカルドサッカーを知る選手として加入したSBはリーグ戦19試合982分の出場。シーズン全体で公式戦29試合出場はそこまで悪い数字ではないですが、いかんせんプレータイムが伸びなかったのが痛かったですね。おそらくコロナ罹患と左膝?の怪我の影響があったのだと思います。どこかでコロナの後遺症に苦しんでいたという話もあった気がするので(未確認)、本人としても不本意なシーズンだったことでしょう。特に後半戦のプレータイムが180分、全体の18%しかなく、チームが完成していく過程で消えて行ってしまったシーズンとなりました。

プレーの内容面では攻撃的なSBとして魅力を発揮していたと思います。特に内側に入って前線の崩しに関わる部分、ボール保持時にポジションを移して前線5枚、6枚を形成するプレーがチームで一番上手かった印象。ビルドアップは普通ですが、とにかく前に関わっていくプレーが上手かったです。SHのポジションを見つつ前線で仕事ができるSBがいなかったのが昨季のチーム全体の破壊力の物足りなさの主要因だったと思うので、この選手がフル稼働していたらリカルド体制2年目の昨年の印象もかなり違ったかもしれません。右でも左でもプレーできることも含めて重要な選手になる素養があったはずだし、そういう意味ではフットボール本部が彼を獲得したことは間違ってはいなかったと思います。フル稼働していたら自分で4点くらいは取っていた気がします。広島戦のロングFKを直接ネットに入れたプレー(結果オフサイドでノーゴール)なんかも武器になりそうでしたし。

ただあまり僕自身意識していなかったのですが、かなり厳しい怪我の履歴を持っている選手なのでフィットネスには今後も苦労しそう。ツエーゲン金沢時代には少なくとも2度の大けがを、川崎時代にも左膝を負傷し手術しており、おそらく膝がボロボロなのではないでしょうか。PSG戦でメッシにスっ転ばされて悪い意味で目立っていましたが、あれ以降どうも足腰がグラついてしまい体勢を大きく崩しているシーンが多かった印象です。なんというか弱いとかではなくそもそも力が入っていない感じがしたので結構深刻なんじゃないかと思ったり思わなかったり。この辺が移籍を繰り返している遠因だったりするんでしょうか。フィットネスの状態を知っていると評価が難しくなるし、1年契約が多くなるのも理解できます。とはいえ、2022年シーズン限りで移籍かという噂もあったようですが今季も無事浦和でプレーするようで、まずはフィジカル面で良い準備ができることに期待です。

7 キャスパー ユンカー

良くも悪くもみんなが話題にするのがスターの要件だと思うのですが、そういう意味では間違いなくスター選手としての立場を確立したプリンス。ラーメン屋さんをRBC会員に引き込んだ決定力は本物です。ピッチ上でも持ち前の決定力でプレータイムを考えれば効率よくゴールを決めたと言えると思います。特にACL準決勝延長後半でのゴールはクラブにとって大きな価値があるゴールでした。

来日以来圧倒的なスピードと左脚での決定力、裏抜けの上手さが目立っていたキャスパーですが、全北戦のゴールなんかを見てもステップの上手さはもっと注目されても良かったのかなという気がします。ボールに自分の形で合わせられるように歩幅を調整したり、蹴り足を合わせるために早めに0.5ステップ挟んだり、そういう細かい技術が凄く上手くて、それがシュートの瞬間にミスしない要因なのかなと。そうやってシュートの形に入るまでの準備がいいので、シュートの直前にGKと駆け引きする余地が残せて、駆け引きにしても身体が開いた状況からニアに転がすとか、全く同じ体勢で今度はファー上に流し込むとか、GKが反応できないようなゴールを連発できるということかなと。同じようにシュートに関わる一連のプレーが上手い選手では最近はレオナルドがいましたが、レオよりもキャスパーの方が洗練されているというか、来たボールに対して最小限のロスで自分の形を合わせていく上手さがありました。レオはどちらかというとボールを呼び込む段階の準備、スペーシングが上手かったのと、相手の体勢を崩すフェイントが上手かったですね。

というわけでストライカーとしては別格の上手さがある選手でしたが、来季は名古屋へのレンタルが決定済み。詳しいことはわかりませんが、出し方を見ても契約切れを待って放出するパターンでしょうね。こういう状況なのでレンタルフィーや給与負担も結構足元を見られたのではないかという気がします。そうまでして放出しなければいけなかった理由はやっぱり「浦和のためにどんな時も走り、闘う」の部分なのでしょう。グロインペインの影響で小回りが利きづらくなったことでプレッシングの頻度や強度にはかなり不満が残りましたし、そうでなくても小さな怪我で途中交代・離脱することが多かったのは事実です。フットボール本部のコンセプトからゲームモデルを落とし込んでいくとどうしてもFWの選手には幅広くタフな仕事を求めることになるので、本質的にはレオと同じくボックスストライカーで「俺の輝く舞台までボールを持ってこい」タイプの選手はどうしても使いにくいところがあります。昨季はなかなかボールが来なかったりリスク回避的に展開が止まるゲームが多くなりあからさまにモチベーションが低下している態度をとることもありましたが、そういう部分も浦和レッズのクラブ理念的には残念なポイント。こういった複合的な理由とスコルジャ監督のスタイルに合わない(監督から残してほしいという要求がない)ことが早めの放出で外国人枠を空けるという判断に繋がるのかなという印象です。こうなるとなんでキャスパーを獲得したのよという話になってしまうのですが、まあわかんなかったんでしょうね。

ところで浦和のホーム戦のみ出場不可という珍しい条件をつけたあたりクラブとしてもキャスパーの人気やファン感情はわかっていての決断のはず。本人は見返すしかないし、クラブは彼なしでも点を獲れることを証明するしかないということで、もう簡単には引き返せない決別になりそうです。他のJクラブのユニフォームは着てほしくなかったので残念ですが、これもサッカーですかね。

8 小泉佳穂

加入2年目となった昨季は背番号を8に変更。リーグ戦27試合1,662分出場はちゃんとレギュラーの数字ですが、2021年シーズンの34試合2,408分からすると物足りないか。昨季の浦和は前半戦と後半戦で全くプレータイムが違う選手(例えば馬渡や柴戸、大久保など)がいるのが特徴だと思うのですが、佳穂の場合はちょうど50%:50%とシーズンを通じて堅実にプレータイムを確保したと言えます。基本的にはリカルドの好きなタイプの選手というかリカルドと最も志向が合う選手で、ボールキープが上手く、リスク回避的で、論理的に一手ずつ詰めていく選択を好むという意味で監督の理想である「コントロールされたゲーム」の体現者と言える存在でした。

プレータイムがあまり伸びていないのは公式戦でのスタメン28回のわりにフルタイム出場が少ないからで、例えばリーグ戦は18回中6回のみ。簡単に言うと75分になる前に交代となることが多いシーズンとなりました。これは体力的な部分というよりもトップ・トップ下の選手の組み合わせの中でプレータイムを分け合うこととなったというべきかなと思います。シーズン中盤以降は佳穂・松尾、江坂・キャスパーのコンビが明確になっていきましたが、どちらかと言えば佳穂・松尾のコンビがゲームの序盤~中盤を安定してスタートさせる役割、江坂・キャスパーのコンビは試合がある程度オープンになる中で決定力を発揮する役割という運用だったかもしれません。これ自体はプレッシングの上手さやビルドアップの循環など、10番の位置でプレーする6番という彼のプレースタイルを効率よく活かせる起用法だったと思いますが、問題は監督が変わる今季でしょう。

簡単に言えば昨季の起用法を見ても佳穂にはまだ得点、ゲームを決めるプレーという部分での信頼がありません。2021年はリーグ戦2得点、2022年は3得点という数字が物語る通り「主人公」にはまだなり切れていないのが現状です。僕が加入以来彼に「主人公」という言葉を使うのは、小さくて細い、そして遅い彼が生き残るにはある意味で彼がいないとチームが回らない状況を作らないとやっていけないのではないかと思うからで、志向が合っていたリカルドはいわば守備的な10番としてロールプレイヤー(特定の役割のみを期待する選手)的に重宝していましたが、スコルジャ監督は10番にダイレクトに得点能力を求めそうな感じ。チーム随一のプレッシングの上手さを持っているとはいえやはり序列を決めるのは得点能力、決定機に関わってゲームを決める能力になりそうで、こうした点で勝負できることを早めに見せて行かないと、簡単に言うと守備固めに使われるような選手になってしまいそうで少し心配です。守備固め程度の役割しか果たせないようではフットボール本部が補強を続ける中で居場所がなくなっていくかもしれません。いっそボランチに降りるのも一つの選択肢ですが、そもそもフィジカルのハンデがある上にボランチはボランチで競争が激しいですし、特にセットディフェンスでかなり運動量とタフネスが求められそうなので対応が厳しいかも。

一つポジティブな要素になりそうなのはミドルシュートで、両足で強いシュートが蹴れる佳穂のミドルシュートはスコルジャにも気に入られそう。ただ佳穂は以前から「とにかくシュートを撃って終わればOKとは思わない、しっかりとセレクションしたい」という趣旨のコメントを残しており、この点も監督の求める攻撃性とどれだけ合うかという感じでしょうか。プレッシングの上手さは確実に評価されると思うので、これに加えて彼がプレーしないといけない攻撃的な要素を見せたいところ。2023年は思い切ってはっちゃけて今までとは違う好戦的でギラギラしている佳穂に期待してみたいと思います。

9 ブライアン リンセン

10 ダヴィド モーベルグ

チェコの名門スパルタ・プラハから加入した左利きのスウェーデン人右WG。デビュー戦となったホーム磐田戦でいきなり単独突破で3人の間を縫ってゴールを決めると続く札幌戦でもゴール。華々しいデビューとなったもののその後はチームが引き分け地獄に苦しむ中で若干トーンダウン。ただ6月26日のアウェー神戸戦では後半終了アディショナルタイムに直接FKをぶち込んで勝利をもたらすと、7月10日のFC東京戦以降チームとして戦い方を見つけた後は絶対的な武器として君臨。終わってみればリーグ戦20試合1,050分のみの出場ながら8ゴールを決めチーム得点王となるなど決定的な仕事ができる存在としてレベルの違いを示したのでした。

シュート本数とプレータイムあたりのゴール数はリーグ最上位クラスで、特に左脚を振れる状態にさえ持ち込めれば高確率で枠に飛ばす技術の高さがあります。また1on1であれば確実にズレを作って相手を外すところまでは持ち込めるので、少なくとも一人をヘルプに引っ張り出して相手の守備陣に隙を作り出すことができるのが非常に強く、基本的には出しておけば相手が困るという素晴らしいアドバンテージ性能。SBは特に酒井とのコンビネーションがやりやすそうで、お互い欧州でのプレー感覚があるからなのか酒井のはっきりした動きが合わせやすいようです。これだけの攻撃性能があると守備はサボるのかと思いきや、ブロックに参加すれば相手のSB対応のために5バック気味に帰陣することも厭わないというおまけつき。プレッシングがあまり上手くないのとネガティブトランジションの反応はイマイチですが、勝負を決めるドリブラーとして有能過ぎるのである程度体力をマネージしてもらわないといけない部分もあり、全体的には非常に優秀なアタッカーで戦術兵器と言えるレベルだと思います。

問題は稼働率でACL後の怪我?でリーグ戦最終盤の9試合はわずか133分のみの出場とプレータイムを伸ばせませんでした。日本の夏への適応であるとか最後まで頑張ってくれる献身性から来る疲労感とかいろいろと理由はあると思いますが、浦和としては使えればこれだけのアドバンテージを提供してくれる選手にはフル回転して欲しいところ。今季はマークがさらに厳しくなるとは思いますが1,700分くらい出場できれば10桁ゴール+5アシストくらいは目指せるのではないかと思いますので、10番としてはそのくらいの活躍を期待したいところ。スコルジャ体制ではプレッシングの強度が高くなりそうで、わりとオープンな展開が増えそうなので、じっくり休んでから仕掛けるようなプレーが難しくなるかもしれず、どうなるかはわかりませんが。

ちなみに家族とともに来日しており奥さんも二人の息子さんも日本を楽しんでくれているようでほっこりします。

11 松尾 佑介

仙台大学から横浜FCを経てついに「帰還」したユース出身快速アタッカー。シーズン序盤は出場機会に恵まれず、4月まで出場ゼロ。デビュー戦となった4月2日のアウェー札幌戦も34分の出場にとどまり、この札幌戦を含む5月25日のアウェーセレッソ戦までの8試合は連続で出場したものの231分のプレーと完全にサブ扱い。この間にACLのグループステージがタイで開催され、そこでは相手のレベルがあるにせよ良いプレーでゴールを量産していたのでリーグでなかなか使われないのは不思議なほどでした。結局5月28日のアウェー福岡戦でトップ起用されポジションを変えながらもフル出場。ここでうまくボールを収めつつ最前線からプレッシングを仕掛けていくプレーがハマったことで潮目が変わり、出場時間を延ばすとともにリカルド・レッズの完成版とも言える11人の形が決まったことでチームは7・8月の連勝・ACLへの激闘へと進んでいくことになりました。

横浜FC時代は左サイドの大外からグングン加速しつつゴールに向かって直線的に仕掛けるドリブルが最大の魅力でしたが、浦和では少し違った形で能力を発揮することとなりました。持ち前の加速力は裏抜けへのスピードに還元され、ドリブルテクニックはライン間に降りてのプレーに活用されていたと思います。結構意外だったのはワンタッチの落としからのワンツーであるとか周囲とのコンビネーションが結構上手いことで、トップでのプレーは本人も予想外とのことでしたが縦に縦にいくだけのプレーではない選手としての幅を見せられたのは本人にとっても良かったのではないかと思います。

ただしリーグ戦1,300分でのプレーで4ゴールというのは本人も満足できていないはずで、シーズン中はつぶれ役、囮役にならざるを得ない現実を自嘲気味に語るシーンもありました。そのせいかシーズンオフのさいたまシティカップでのフランクフルトとの一戦ではターンから中央をドリブルして自らシュートに持ち込むなど本来の松尾らしいプレーをあえて強く見せていた印象で、スコルジャ体勢となる今季は拡げた幅を活かしつつ本来のギラギラした一面をまた見せたいと意気込んでいるかもしれません。

実際、スコルジャ体制ではトップにはそれなりに身体を張れる選手が好まれる印象で松尾を最初からトップには数えなさそうな雰囲気があります。おそらく主戦場を左SHに戻し、リカルド体制よりもかなり自由に中央と左サイドを行き来しながらゴールに関わるプレーが好まれそう。松尾の本来的な志向には合っている監督だと思うのでチャンスは大きいですが、他にも関根やシャルク、明本、もしかするとリンセンなんかも左SHの候補となりそうな予感なので競争自体はかなり厳しいはず。左SHを基本にトップ下も含めて前線のポジションを勝ち取るには間違いなくゴールへの脅威とプレッシングをどこまで見せられるかが重要になりそうなので、野望である欧州挑戦を実現させるためにも2023年は勝負の年となりそうです。

ってこれで締めようと思ったらベルギーに期限つき移籍とかいう記事が出てきたんですけど大丈夫ですかね????せめて夏、ACL決勝を戦いきるまではプレーしてくれませんか??????え?????

 

(中)に続く。

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