96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2023シーズン全選手振り返り(中)

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12 鈴木彩艶

浦和が手塩にかけて育てた未完の大器は今季途中から戦い場をベルギーに移すことに。現在はシントトトトトトロイデンの守護神としてまあまあの活躍を見せているようです。今季のレッズではやはり2番手GKとしてシーズンをスタート。ポテンシャルは誰もが認めるところですが、結局のところ課題は安定感であるというのは変わらずで、出場はルヴァンカップの予選と天皇杯の1試合のみ。ルヴァンカップでは5試合で3失点とまずまずのパフォーマンスでしたが、飛び出し対応の不安定さやキャッチング・フィスティング関係のミスなどは昨年から大きくアップデートされたというほどのものではなかった印象でした。ただ今季を振り返ると選手としての振る舞いはこれまでにも増して堂々としたものになったように思いましたし、ゴールを守るプレーやビルドアップへのチャンレンジに加えて勝ちに行くためのアクションというのは今までよりも出ていた気がします。夏にはマンチェスター・ユナイテッドからのオファーがあったのではないかということで全世界のサッカー界隈を盛り上げ、最後は断ったようですが、彼の夢であるプレミアでのプレー、その過程にあるべき欧州挑戦や代表選出というところを踏まえると、あれは彼なりに浦和の正GKになるための覚悟の振る舞いだったのかなと思います。

結局在籍期間中に西川周作の壁を越えることはできませんでしたが、大きな夢のために21歳にしてベルギー移籍を選ぶこととなりました。移籍前の最後の挨拶では彩艶らしく四方のスタンドへ完璧なお辞儀をかまし、非の打ち所がない優等生的作文を披露。欧州挑戦前の挨拶でお世話になった人にまさかの恋人を並べた浦和ユースの大先輩へのリスペクトはないのか、もっと面白くしてくれと僕の中で一瞬話題になりましたが、この人間のでき方こそ彩艶の魅力であります。

移籍先のシントトロロロロロイデンでは現役日本代表のシュミット・ダニエルを差し置いて正守護神として構想され移籍直後から順調に公式戦出場数を伸ばしているようで、チラッと観た限りは相変わらず怪しい飛び出しが時々出ているものの、フィジカル攻撃の迫力があるヨーロッパの舞台でも堂々とゴールを守れている様子。クロス対応を数で磨いていくにも、市場価値を高めてステップアップを狙うにも彩艶ほどのスケール感であればあっちの方がいいのかもしれません。不慣れな土地で生活するとはいえ彩艶の場合人間的な心配は一切しなくていいですし、彼ならいつか日本人歴代最強のGKとなって浦和へ帰還してくれルト100%信じられるので、今はこのまま見果てぬ道を突き進んでほしいと思います。アジアカップでも不安定なプレーがいろいろと話題になっていましたが、そんなものはすべて日本人GKとして歴代最高到達点に達するまでの過程になればいいのです。頑張れ。

13 犬飼智也

昨季負ってしまった左膝蓋骨骨折・膝蓋腱部分断裂の大怪我からの復活を目指す今季でしたが、結果的に浦和ではルヴァンカップに3試合出場したのみ。夏のマーケットで柏への期限付き移籍となり、その後は柏の守備の要として同クラブの残留に大貢献したシーズンとなりました。

選手としての特徴やキャリアを通じての経験値なんかは全く問題なかったと思うのですが、フットボール本部は今季プレシーズンに二人目のスカンジナビアンCBとなるマリウスを獲得。この補強はどちらかというと中東移籍が実現間近と報道されていた岩波の移籍を念頭に置いたものだったはずですが、結果的に岩波の移籍は直前で破談となり急転直下の残留、さらにマリウスがチーム加入直後からがっつりフィットしショルツとの最強CBコンビを形成したことで、結果的に犬飼の立場が苦しくなってしまったという感じだったかと思います。フル出場したルヴァンカップ3試合は最少失点で乗り切りましたし、確かに試合勘の欠如を感じなかったわけでもなかったものの全く試合に絡めない状況というのはベテランと呼ばれる年齢に差し掛かった選手にとっては厳しいものがあったと思います。今季の浦和は5月のACLに向けて序盤からチームを固めていく必要がありましたし、スコルジャ監督も結構メンバーを固定して戦うタイプだったので、犬飼にとっては何から何まで自分に流れが来ない状況を感じていたかもしれません。

とはいえ柏へのレンタル移籍後はその実力を発揮し、来季は柏への完全移籍となりました。浦和では思ったような地位を築くことができませんでしたが、移籍金を払ってでも柏が獲得したいと思った実力の一端は我々にも見せてくれました。息子さんも生まれたことですしキャリアの集大成はまだまだこれから。来季以降は浦和戦以外で頑張ってください。

14 関根貴大

在籍通算10年目となる今季は公式戦52試合3,178分に出場。リーグ戦でも32試合に出場とほぼ全ての試合に関わりました。今季序盤は控えが多かったのですが、終わってみれば中盤に加えて右SBでも起用され、結果的には序列を固定的に運用した監督から重宝された選手の一人となりました。

リカルドが監督だった2年間を通じてすでにそうだったのですが、最近の関根はもはやステレオタイプなドリブラーではなく、立ち位置やコンビネーションで局面を打破するアタッカーとなっています。浦和のアタッカーの中では内側・外側を器用に、頻繁に使い分けてプレーする選手ですし、トラップやボールコントロールの技術の高さがさまざまな場所、さまざまな状況、さまざまな体勢でのプレーを可能していることも含めて、ドリブラーに見られる我の強さやある種身勝手な決断よりも、気が利いて誰とでも比較的うまくプレーできる選手という印象を強めている気がします。とはいえ、Football-Labの数字を見るとドリブルチャンスの数字が高いので、要所で発揮するドリブルの効果はよく発揮されているのかもしれません。

今季のアタッカーとしての関根の印象は決定力がほしいよねの一言に尽きます。32試合で3ゴールはチーム最低というほど悪くもないのですが、訪れたシュートチャンスやシュート数の数字を見てももうすこし決められたのではという感じ。特にシュート数は2015年のキャリア最高である44本に近い43本。同年に6ゴールを決めていることを考えても、もう少しゴールを取れたのでは。すっごい簡単なシュートを外しまくった印象はないですが、シュートに力がなかったよねというシーンは結構あったと思います。

総じて、こういうところが今後のキャリアに関わってくるだろうというのが僕のここ数年の関根論です。サイドでプレーする際は相方を選ばず、内側でも外側でもそれなり以上にプレーでき、ボールを扱う技術があり、ただ試合を決めるほどのパワーはない。エースとして前線に置くには正直迫力不足だけれども、非常に信頼できるのでピッチには置いておきたい。こうした彼の現在の特性を踏まえると、やっぱりSBとしてキャリアを積めるかどうかは彼のキャリアにとって非常に大きなポイントになるのではないでしょうか。実際にSBとして出場した試合では、たとえばルヴァンカップ決勝とリーグ戦で比較しやすかった終盤の福岡戦を例にとると、今季苦戦したビルドアップがスムーズでゲームが安定したのがよく思い出されるところ。ビルドアップでチームを助けつつ、押し込んだらアタッカーの一枚として崩しに参加するSBの存在は近年のフットボールでは非常に重要ですが、簡単に見つけられるわけでもない中で、A契約に数えなくてもよい生え抜き選手がこの役割をやってくれるのは中期的なチーム強化を考えるとめちゃでかいです。当然守備の基本がなってないとか逆サイドからのクロス対応が厳しいとか弱点もありますが、本人が「あんまりやりたくない」と公言するくらいですからそんなのはあって当然。今浦和レッズに必要なのは、スコルジャ監督がそうしたように、なだめすかしておだてながらSBとしての実績を積ませ、そのうち本人が自覚した時に備えておくことなのだと思います。来季以降もSBでもよろしくな。

PS:と思ったらIHでもプレーさせられてるようなので。IHでもよろしくな。

15 明本考浩

怪我の影響もあって欠場した試合が多いなあという印象でしたが、終わってみれば公式戦41試合2,945分と主力としてまずまずの働き。彼なら55試合4,500分くらいは出場して当然と無意識に思ってしまっているが故に3,000分弱出場しても物足りない感じになってしまうのかもしれません。

ただ全体を通してみれば、アキの持っている能力や彼が発揮できる戦術的重要性を踏まえると大成功のシーズンとは言い難いというのもまた事実。今季はSBの一番手としてスコルジャ監督の信頼を得た一方で、ゴール前に絡んでいく良さはこれまでのシーズンほど見ることが出来ませんでした。前線で自ら動き出し周囲と関わりながらゴールにアタックする良さを知っているだけに、後ろのほうでプレーしている姿にもどかしさを感じることもありました。ただACLやCWCでのプレーでも見られたように、相手アタッカーを始末する守備者としての活躍は浦和加入以来最高のパフォーマンス。特にアルヒラル戦でのvsミシャエウやマンチェスター・シティ戦でのvsフォーデンは見応えのあるマッチアップで、完勝とは行かないまでも一度やられてもそこから学習して食い下がることができるメンタル的な強さと身体能力・技術的なポテンシャルの高さは十分見せてくれたと思います。こういう「戦いの中で成長している」的な能力を持つ選手というのは記憶に残るもので、直近では三苫に食い下がった橋岡なんかがこの能力を持っていました。こういうタイプの選手は舞台が大きく、相手が強くなればそれだけ成長してくれるので挑戦させやすいしなんやかんやで頼りになります。

ということで2024年はがっつりリーグ優勝に貢献してくれやと思っていたら、まさかの海外移籍。ベルギーのOHルーヴェンは残留を争う下位クラブという立ち位置ですが、逆境でもタフに戦えるアキには逆にやりやすいチームかもしれません。移籍期間が2024年6月末までとなっていることを考えると、まずは半年間でどこまで力を示せるかの挑戦という感じでしょうか。加入直後から一応出場機会を得ているようですので、彼らしい適応力を発揮してほしいと思います。もし夏以降に日本に帰ってくることになれば浦和にとっては強力な補強となりますが、せっかく与えられた挑戦権なのでここはしっかり2024-25シーズンの契約を勝ち取ってほしいと思います。本来J1内定クラスの選手だったのを古巣でデビューするためにあえて栃木に入団したとはいえ、大卒でJ2で一年、J1で三年やってからの海外移籍というのは日本人選手及び北関東地域一帯の地位向上を感じさせる移籍だなと思いました。

16 牲川歩見

今季は公式戦3試合に出場。西川の影に隠れながらの存在であることは相変わらずでしたが、公式戦に出場できたことは良かったと思います。プレーの部分では今季見た限りでは別にJ1クラブのGKとしてプレーしていてもおかしくないな、という感想。大柄195cmでありながら足元に来るボールの対処に質がありトラップも柔らかいのがいいですね。パスミスは出るもののSBへのロビングも蹴れるので、J2上位の繋ぎを捨てたくないチームにとっては非常に面白い選手でしょう。J1でもチャンスがあっておかしくない選手に成長しているのかなと思います。

ただこれを浦和レッズのGKとしてどうか、という視点でみると全く別の評価になってしまうのが難しいところ。J1ベストイレブンにも選ばれた西川と比較してどうか、という視点でみると、技術もさることながら身体能力の部分で西川に明確に劣るのだなというのがわかります。シュートストップの反応だけでなくクロス・ハイボールへの対応でも反射速度が若干遅く感じますし、それが細かいポジショニングや反応にも影響するのではないかと思います。体勢の立て直しのスピードもジョアン式では非常に重視しているポイントだと思いますが、こういう部分で身体能力オバケの西川周作の壁が高いのではないかと想像します。まあでも195cmの身長とひときわ長い四肢を持つ日本人が180cmの人と同じクイックネスで動けというのは一般的にかなり難しいので、これは致し方ないことかもしれません。一昔前の僕はGKは190cm以上マストでしょ~派だったのですが、西川があれだけハイボールに機敏にアタックできるとなると、身長は185cmもあれば十分で、それよりもクイックネスや反射、空間認知力なんかのほうが重要なのかもなと思ったりします。

とはいえやはりスケールのデカさは夢。もう「牲川って大丈夫なのかなあ」という評価ではないと思いますので、来期も来る出番に備えてしっかりと中島翔哉くんの保護者として活躍してほしいと思います。

17 アレックス・シャルク

ブレダの爆撃機兼浦和の秘密兵器はついに秘密のまま去ることに。今季をもって契約満了による退団が発表されています。

今季はプレッシングを頑張るチームになるということでシャルクの活躍の場が広がりんぐするのではと期待が高まりんぐしたプレシーズンからのスタートでしたが、キャンプではやる気があり過ぎて単独プレスをかけた結果背後ががら空きで「そんなプレスじゃ意味ねーだろ」と兄貴に指導されてしまうことも。兄貴も大して変わらないんじゃ疑惑がありますが、そんなことは兄貴には関係ありません。さらにはシーズン中複数回にわたって怪我での離脱があったようで、本人が思い描いた活躍はおろか出場機会を掴むことすらできず、今季も厳しいシーズンとなってしまいました。

特に今シーズンは戦線離脱を余儀なくされる期間が長く、前述のG大阪戦でもゴールを奪ったあとに負傷し、しばらくピッチから離れることになった。

「今シーズンは、本当に不運でした。自分にとって良い流れになってきたときに限って怪我をしてしまった。怪我をしたら、またゼロから作り直さなければならなくなる。チームを助けることができず残念でした。

 もしシーズンを通してプレーできていたら、7、8点は取れていたのではないかと思います。そうしたら今ごろは、まだリーグ優勝を懸けて戦えていたかもしれません。自分にとっても、チームにとっても残念だったと思います」

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本人が言っていますが、上手く稼働していれば7,8点取れた可能性は十分にあります。というのも、今季は公式戦出場分数603分で5ゴールの成績なのですが、90分あたり直すと0.746点。これは今季のチームで断トツの数字で、2位のカンテ(0.574点)、3位の兄貴(0.504点)以下全然点が取れなかった皆様を大きく引き離しており、出場した試合の相手との力関係云々を置いておけば、チーム随一のスコアリング性能の片りんは見せていたわけですね。ということでこのペースで単純計算するともしシャルクが844分リーグ戦に出場していれば7ゴールした可能性があるし、さすがにこのペースは続かないとして倍の時間がかかっても1,700分弱ですから十分に現実味のある数字です。まあこれはただの数字遊びなのですが、コレクティブでポジショナルとは言い難いもののシュートが上手くゴールが出来そうなポジションにいつの間にか入り込んでいる得点感覚には特筆すべきものがあったと思います。そういえばそれは決めとけというシュートミスが少なかった気がしますし、チームとしてはプレッシングの時に上手く首輪を嵌めるなり仕事の分担を上手く整理するなりして彼のスコアリング性能を活かしたかったところでした。

来季は母国オランダに戻るようで、良いキャリアを祈りたいところ。外国人助っ人としての成績は残念ながら及第点とは言えないものの人柄の良さや豪快なゴールと熱いセレブレーションで我々を沸かせてくれた良い選手でした。願わくばもう少し若い年齢で来てくれていたらという気もしますが、それも含めてめぐり合わせですかね。さらば。

18 髙橋利樹

2022シーズンにJ2を沸かせたロアッソ熊本から今季加入の利樹ですが、今季はなかなか難しいシーズンとなってしまいました。公式戦出場数は26試合とそこそこですが、プレータイム1,061分は今季の公式戦試合数を考えると寂しい数字。特に3月8日のルヴァンカップ第1節アウェー湘南戦に先発しながら開始15分で負傷交代となってしまったのが痛かったように思います。この時期は兄貴と慎三を中心としたCFの序列争いが行われていたものの、兄貴は大黒柱に据えるほどのパフォーマンスを見せておらず、慎三は体力的にフル出場を考えにくい、しかもカンテはちょうど追加登録をしたところで実績もコンディションもまだまだという感じで、実績の面ではライバルに大きく劣るもののフル稼働できる状態の利樹には他にない強みがあり、まずはルヴァンでパフォーマンスを見て選択肢に入れるかどうかという有利ではないもののポジティブな状況だったはずです。それが試合序盤の怪我で吹き飛んでしまい、公式戦に復帰したのが5月24日のルヴァンカップ第5節ですから、キャリアの勝負となる大事な時期を2ヵ月半も飛ばしてしまいました。この間に興梠が3ゴールを決めてチームを助け、強固な守備をベースとしてプレッシングを若干自重するような戦い方にシフトし、一人でなんとかできてしまうタイプのカンテがプレータイムを徐々に伸ばしながらJリーグとレッズにフィットしていくこととなりました。

プレーの内容面では走れる選手であること、クロスに身体ごと飛び込めること、また熊本時代に磨いた近い距離でのパス交換に対応できるスキルがあることは彼の特徴としてJ1でも評価できるのではないかと思います。ただそういった点が評価されたのが逆に災いしたのかSHで起用されることが多くなり、大外でボールを受けても単独突破の選択肢の無い利樹はチームのオフェンスに逆にブレーキをかけているような印象に映ることも。スコルジャ監督としては利樹と逆サイドで攻撃を組み立てた際にファーからゴール前に入り込んで第2・第3のストライカーとしてプレーさせる狙いがあったものと思いますが、兄貴にしろ利樹にしろこれはあまり機能していませんでした。熊本のプレーを観ていても、最終的には中央からニアに飛び込んで勝負したいタイプの選手ですし、ちょっと自分の型と役割がマッチしなかっただろうなと思います。とはいえCFで使うにはフィジカルの部分で軽いというか無理を効かせてボールを収めてくれるようなプレーがあったわけではなく、周りの選手も利樹の活かし方をじっくり模索するような余裕もなくという感じで、最前線には独力で何とかしてほしい戦術を採用していった時点でCFとしては努力ではどうこうならないほど難しい立ち位置に置かれてしまったのだろうという印象。ガンバ戦で素晴らしいゴールを決めて以降、秋口からプレータイムを伸ばしたのですが、シーズン最終盤はACL武漢戦の脳震盪でまたも戦線離脱しCWCも経験できず、悔しい想いが募ったことでしょう。

監督が変わる来季もスタート地点はあまり変わらず、兄貴、慎三との競争に加えて補強があればどうなるかという感じになりそう。ヘグモ監督のサッカーが上手く機能すればクロスが上がってくる本数は増えるでしょうし、CFはボールを収めるよりも真ん中で相手CBと駆け引きしゴールを狙う仕事が強く求められそう。となると利樹がその仕事一番うまい!というわけではないのですが、年齢的にも働き盛りでハードワークできるCFはなんぼあってもいいので、上手くチームの選択肢に入ってプレータイムを確保して欲しいです。ちゃんと彼らしくプレー出来れば10点は獲れる選手だと思います。

19 岩尾憲

公式戦53試合4,176分出場!寿命縮んでないですか?大丈夫ですか?今季はマリウス、西川、ショレに続く絶対的主力として4,000分オーバー四天王を形成。この4人の形成するダイヤモンドが文字通りチームの核となっていました。

普段の言動や徳島時代のイメージから知性派と思われることの多い岩尾選手ですが、経歴を見れば北関東の誇る灼熱の都館林市出身で日体大卒⇒湘南とゴリゴリの物理攻撃育ち。特技が封じられるダーマ神殿攻略でも活躍できるモンクとしての本質を示したACL決勝でのパフォーマンス、特にアルヒラルの絶対的バンディエラであるサーレム・アルドーサリを場外送りにした必殺の帯落としには講道館から表彰が贈られるとの噂もあったほどです。噂アカウントが言ってました。またサッカー選手としては単なるビルドアップというよりも浦和レッズのボール保持全般における精神的・戦術的な基準として振る舞い部長不在のビルドアップ統括部を全力で支えたことに加え、個人的にはボール非保持時のカバーリング、特にバイタル周辺を二人のCBとともに埋め続けた働きは素晴らしかったと思います。マリウス・ショレのベストイレブンは二人にふさわしいし彼らの実力あってこそだと思うんですが、多くの場合で二人に加えて岩尾がバイタルをしっかり埋めていたことで自陣ゴールエリア内の強固な密集が維持されていたと思います。あまり言及されませんが、ボール非保持時の働きは彼の選手としての価値を構成する大きな要素の一つだと思います。

さて、自由な日陰者の立場を利用して忖度なしで何でも書けるチラウラーとしては、一部界隈を賑わせていた「岩尾それでいいんか」問題について触れないわけにはいきません。要約すると、ビルドアップにおいてなんでもかんでもCBの間に降りて行ってしまう、降りた結果相手のプレッシャーを正面で受け、またチームとして(また岩尾本人もまた)自力で運んでいくプレーに乏しいためにボールが自陣深くで停滞してしまっていた現象の根源が岩尾のプレー選択もしくは実力の限界にあるのではないか、というのが論点だったと思います。個人的にはあの現象は岩尾だけのせいではないと思っていて、例えばマリウスが運んでいけるスペースを使えていましたか、近くの味方に任せていませんでしたかとか、降りるなら降りるでその後の盤面変化を上手く利用するための戦術やガイドラインがベンチから提供されていましたか、とか、もっと言うとSBがもうちょっと後ろに残ってビルドアップに関わるだけでボール回しの枚数的に余裕が出たんじゃないですか、SBさんどこにいましたか等々というポイントは掴んでおくべきなのかなと思います。そういった状況の中で、本人の能力や立場、役割や責任を総合して岩尾が良かれと思って、もしくはそうする以外の選択肢に思い至らずに多くの場面で顔を出していたのが実態であり、その結果ボールを引き取ったはいいが自分で解決する能力はなかったというのが現実なんじゃないかというのが僕の考えです。

じゃあやっぱ岩尾のせいじゃんと言われればプロの世界ではそうなのかもしれませんが、考えてみてほしいのは社内外の様々な圧的やディコミュニケーションを繋いで走る一般企業の課長たちの姿です。他の社員は自分の立場ばっかり主張し誰も解決を図ろうとせず、部長はどっかに行ってしまい、気付いて動けるのは自分だけとわかっているので仕方なくボールを拾いに行く、そんなことを5年も10年もやっていれば自らのスキル向上の時間は確保できず、ハナから解決できるなんて思っていない課題の責任者ポジションを与えられ、残業してたら知らないうちに子供は育ち来年から中学受験に挑戦するとか言い出す…これです、これが岩尾がピッチ上で体現していたリアルすぎる課長の姿なのです。こんな会社に長くいても自分の人生が消費されて終わりなのではないかと考えてもおかしくないところ、また転職エージェントがいろいろとスカウトメールを送ってきていたであろうところ、覚悟と愛社精神を持って残留を選んでくれた岩尾課長に感謝です。お疲れ生です。

20 知念哲矢

知る人ぞ知る僕の個人的に気になるリストから加入した選手の一人で、個人的にはすごく期待していて好きな選手だったんですが、まさかの公式戦出場なし。浦和レッズは競争が激しく、またスコルジャ監督が主力とサブを明確に仕分けたとはいえさすがにかわいそうというか残念でした。危なっかし所がありつつもリカルドは結構使っていたんですけどね。まあ完全上位互換と言えるマリウスが入団しちゃったどころか合流即フル稼働でチームナンバーワンのプレータイムを稼いでしまったら立つ瀬なしとなるのも仕方ないでしょうか。

来期はJ2仙台に迎えられ主力としてプレーできるはずなので、寒いところは大変だと思いますが頑張ってほしいです。

21 大久保智明

9月及び終盤は怪我による欠場や時間限定出場がありましたが、46試合3,245分の出場と立派に主力としてプレー。浦和内定選手として中央大学に在籍したころから長い怪我と付き合ってきた選手であることを考えるとかなり働いたほうなのかなと思います。シーズン全体としては主に4-2-3-1(4-4-2)の右SHとしてプレーし得意のドリブル突破を武器に多くのチャンスをクリエイトしました。OKBが使えるなら基本的にOKBを使うというところまでスコルジャ監督から信頼され重用されたのは、公式戦通算1得点という圧倒的物足りなさを考えれば立派なことです。シーズン当初は2列目の選手の得点をかなり計算していたであろうスコルジャ監督が(他の選手も大して振るわなかったとはいえ)ここまでOKBを起用しまくった要因を見ていきましょう。

ドリブル突破の技術や相手と入れ替わるセンスは言わずもがなの彼の特徴ですが、もう一つの特徴が献身的なランニングです。この二つを掛け合わせると今季のOKBのユニークネスが見えてきます。J1リーグのみの記録になりますが、まずドリブル数はJ1リーグで4位タイの99回成功。上位には156回成功の金子拓郎をトップとして132回成功のカピシャーバ、116回成功のエウベル、OKBと同じく99回成功の紺野和也と続きます。この5人の中で最も走行距離が長いのがOKBで、291.1kmを記録。そのほかドリブル成功数ランキング上位20人の走行距離を調べてプロットすると以下のようになります。

ドリブル回数80回以上に加えて330km以上と別格の走行距離(浦和トップは岩尾の332.9km)をたたき出している森下&武藤の走力とプレー強度には驚きますが(簡単に言えばこれが日本代表海外組レベルの強度ということでしょうか)、ドリブルと走行距離のバランスではOKBもかなり良い線いっています。ドリブルを何度も成功させながら長距離を走り続ける人間の体力的限界を考えると、自身より右上にプロットされる選手がいないOKBはJ1の中ではトップクラスの献身的ドリブラーであると言えるのではないでしょうか。当然、チームのやり方がどうだとかただ走ってればいいってもんじゃないとかそもそも恣意的な数字の紐づけに過ぎないとかといった反論はあるでしょうけど、素人がざっくりと彼の特徴を理解するには面白い試みと思って頂ければ。で、定性的な部分でOKBのプレーを思い出すとこの数字を裏付ける印象はたしかにあって、4-4-2プレッシングの先鋒の一人として相手ビルドアップへのプレッシャーをかけつつ、撤退守備時には4-4ブロックの維持に参加し、場合によっては酒井のヘルプのために5バックを形成したりとたしかにピッチを走り回っていました。味方のカバーのために長距離を走ることをいとわず、それでいて攻撃面では対面の相手を抜き去ってのチャンスメイクを求めるというのはシンプルに要求過多だと言ってしまえばそれまでなのですが、まあここまでやってくれる選手がいれば監督も重用しますよね。逆に言えば、ここまでやる選手がいないと持続しない組織だったんじゃないのとも言いたくなりますけど。

ところで来季はCWC前後から引きずっている怪我で出遅れが確定しており、しばらくは調整に専念することになりそう。また攻撃的な4-3-3フォーメーションで固定しそうなヘグモ体制においてはソルバッケンや前田直輝などOKBの攻守にお置ける総合的貢献を全く考慮しないかの如くフィニッシュに関われる攻撃こそ最大の防御系WGが補強されており、厳しい戦いになりそうです。また地味にもったいないのはトップ下のポジションがなくなってしまったことで、個人的には実はOKBはサイドで使うよりも中央で使ったほうがいいのではないかと思ったりしていて、裏抜けの頻度なんかもあって極めて行く価値がありそうだったので残念です。もしかしたらIHでしれっとプレーしているかもしれませんが。

イップス的な何かを心配したくなる拒点力になにかしらの改善が必要なことは明らかですが、それ以外の部分ではいわゆる欧州クラスの選手にも引けを取らない魅力を既に発揮できていますので、来季も良いポジションと役割を見つけて活躍してほしいところです。とりあえず怪我治してください。

22 柴戸海

いやあ、なんでこんなことになったんでしょうか。スコルジャ監督のサッカーと柴戸海のユニークすぎるプロファイルはばっちりフィット間違いなしだと思っていたのですが。今季は24試合出場701分間のプレー。5万分は出場すると信じていた僕が700分(期待の1.4%)のプレータイムで満足できるわけがありません。当然、一番満足できなかったのは本人でしょうけど。痛々しい膝のテーピングをみるに、大事なところでコンディションが上がらずアピール不足となり序列が低下⇒短いチャンスに賭けるもチャームポイントである想像の斜め上を行くポンコツミスで信頼を得られず⇒敦樹の日本代表になるまでの台頭と唯一の中間管理業務(庶務)をこなす岩尾が鉄板となり…という感じだったでしょうか。ポンコツミスがなんだ!ほかに十分良いところを見ろ!と急進的柴戸派が国会議事堂前で座り込みをしたニュースも記憶に新しいところですが、冷静になって考えるとスコルジャ監督は特にボランチの選手を減点方式で採用していたような節があって、柴戸のプレースタイルは許容範囲に収まらなかったのかなと思います。
あまりに短い時間しか柴戸のプレーを見ることができなかったので、この僕としたことが今季の彼のプレーがほとんど思い出せません。ただなんとなく思っていたこととして、コンディションの良かった2020年、2021年シーズンに比べてプレーにかなり迷いが見られるのかなというのがあります。中盤に入ってきたボールに対して尋常ではない下半身の推進力から生み出されるキレキレの寄せで音よりも早く相手をぶっ潰すのが彼の真骨頂ですが、今季は一度もこうした寄せが決まらなかったのではないでしょうか。ボールが入ってくるシーンでも寄せが中途半端でしたし、下半身の圧倒的推進力を感じることもできませんでした。ボール保持はどうでもよいとして(どうでもよくない)、彼の最大の武器がピッチでうまく発揮されていなかったのが非常に気になっています。というのも柴戸海という選手は元来、鬼の鋭さの寄せで数的・位置的に不利な状況を球際で強引に解決し、背後や周囲に広大なスペースを空けながらも目の前の相手を100%ぶっ潰しボールをこぼれさせることで未来のリスクを無にしてきた超能力者です。そんな選手が最大の武器である寄せで相手を圧倒できないとなると、単にボールに食いついてピッチ中央でスペースを空けてしまう守備の穴になりかねません。ボール非保持でこそ輝いてきた選手なのに、守備の穴になるとはどういうことやという感じで、下手したら仕事がなくなります。もちろん今季のパフォーマンスは間違いなく怪我の影響であり、コンディションさえ戻ればまた超能力者として飯を食っていけるはずなのですが、他の誰にも真似できないプレースタイルの選手なので、逆に言えば彼もまた普通の選手にはなれないのではないかという心配もあります。

そんなこんなで来季は町田に期限付き移籍とのこと。浦和以外のユニフォームを着る柴戸を見るのはめっちゃ寂しいですが、もともと町田JFC出身なのでまったく縁のないクラブに行くことにならなかったのは良かったです。培ってきたJ1経験はもちろんのこと、J1屈指のボールハンターとしての能力が評価されてのオファーだと思いますので、マジでマジでコンディションを戻して上場の活躍をして浦和に戻ってきてください。浦和レッズvs柴戸海には正直興味がありますが、観るのは今年だけで十分です。

24 宮本優太

どうして…。

 

(下)に続く。