96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。 twitter: @urawareds96

正面衝突を制したことの意味。 Jリーグ第16節 vs名古屋グランパス戦 分析的感想

みなさま、お久しぶりです。W杯の中断期間を経て、日常にJリーグが戻ってきました。W杯はとてもとても面白かったのですが、感想はまた別にまとめられたらな〜と思っています。それにしても、暑い中平日の夜に再開しなくても良いのになと思います。あいかわらず日程はなかなか難しいですね。おかげさまでリアルタイムでは全然観れませんでした。それは自分の仕事を片付けられない自分のせいでもあるのですが。

 

両チームスタメンと狙い

スタメンは下記の通り。

f:id:reds96:20180721093741p:image

浦和控え:福島、荻原、岩波、森脇、武富、阿部、李

 

浦和は中断中のキャンプはかなり激しい練習をしたとのことで、今シーズンの沖縄キャンプでの負荷が少なかったのでは、という反省がフロントにもあるみたいです。堀さんのせいにするわけじゃないけど、怪我予防の意味があるとはいえ、追い込む時は追い込んだ方が良いということですね。で、オリヴェイラらしく4バックを浸透させるのではという予想が多くありましたが、結局は3-4-2-1を採用。選手が慣れている3バックの安定感が必要と考えたのでしょうか。

一方の名古屋は4-4-2。後で観ていきますがこの4-4-2は結構しっかりしたギミック(約束事)があるようで、「目を揃えて」云々等選手の即興によるコンビネーションの印象がある風間サッカーですがその実はミシャサッカーに近いのかなという印象です。

 

浦和の攻撃と名古屋の守備

この試合、結局はセットプレーが明暗を分けたわけですが、試合の内容としては戦術的に整理しておくべき内容が比較的多かった試合ではないかと思います。そのためにも、お互いの監督が中断期間に仕込んだであろう基本隊形の構造を序盤の展開から読み取ってきたいと思います。

浦和はビルドアップの際には両方のWBが比較的高い位置を取っており、簡単に降りてくることはありませんでした。その分、3バックと2枚のボランチでボールを前進させていきたいわけですが、この際ミシャ式のようにボランチが1枚最終ラインに降りてストッパーを押し出す動きが見られました。ただ、チームとしてミシャ式ビルドアップをスタンダードに据えたというよりは、ボランチの自己判断で最終ラインをサポートした結果という感じに見えました。槙野や遠藤がハーフラインを超えてWBやシャドーとの連携を狙いに行く場面はほとんどありませんでしたので、やはり3-4-2-1といえどこれはオリヴェイラの3-4–2-1ということでしょう。

名古屋の守備はミドルサードに入ったところから。前線のジョーとシャビエルはあまり深追いはせず、浦和最終ラインへのプレッシャーは強くありません。それでも浦和のビルドアップが上手くいっていた印象がないのは、名古屋の中盤以降4-4のラインの選手が浦和のボールホルダーに近い選手へのパスコースやボールを受ける動きに対して非常に意識的にチェックを効かせていたからだと思います。また、前の2枚が偶然であれ良い態勢になったと判断すると意識的に浦和のボール回しを片側サイドに追い込んでいたことも効果的でした。再現度は高くなく、気分でやっていたレベルではないかと思いますが、こういったファーストディフェンダーによる方向付け(ディレクション)は後ろを非常に助けます。まあ規格外の年俸と能力を持つ協力な助っ人2枚に対して、日本の暑い夏に求めることのできる運動量はこの程度というところではないでしょうか。必然的にその分守備をがんばる人が必要で、名古屋においては両SHということになります。

f:id:reds96:20180721101228j:image

浦和は前述の通りWBを簡単に落としません。かといってミシャ式ほど高い位置にも張らせません。この中間ポジションでボールを受けることで、相手の守備を広げたり、サイドに起点を作らせるのが一つの狙いと言えます。WBにボールが入れば名古屋のSBが開いて対応しますので、SBとCBの間、ハーフスペース上にチャンネルが生まれます。ここをマルティノスや武藤が裏抜けに使うことで突破を測ろうという狙いが(主に健気すぎるマルティノスのランニングから)よく観て取れました。なので、名古屋はここを止めなければ行けません。門番役は両SHの玉田と児玉。この二人は攻撃でも重要な役割を担っていますが、守備でもサボれないタスクをよくこなしていたと思います。浦和は狙いのコースを切られている上に近いパスコースのマーキングは名古屋ががんばっているため、なかなか近くで繋ぐことが出来ず、単純な裏抜け一発かマウリシオが名古屋のファーストディフェンダーを個人技で外して前進という形が多くなりました。これが浦和の前半が良くなかったという評価になる一因かもしれません。一方で展開の一つ一つを見ると上述のハーフスペースでのマルティノスのランニングや、マルティノスがサイドに流れて宇賀神や柏木がハーフスペースを使うパターンなど、いくつか仕込んできたものは見えたのではないかと思います。ただ、最終ラインからミドルサードファイナルサードへの前進と侵入はどうしてもミシャ式の流麗な連動を覚えていますので、物足りないのも確かです。

 

名古屋の攻撃と浦和の守備

一方名古屋の攻撃はどうでしょうか。これについては自分自身誤解があったので、とても興味深く観ました。風間サッカーというと、「受けてはたく」や「相手の背後を取る」といった、オフザボールの動きまでを含めた個人技が印象的です。それは名古屋のサッカーのコンセプトにも息づいていて、基本的にはポゼッションしながらボールを引き出し(降りながら受ける)、はたき(戻す)、ディフェンダーを引きだしたところから裏を取るという狙いがよくわかります。

f:id:reds96:20180721163407j:image

ボールホルダーに寄りながらパスを受け、リターンしつつディフェンダーを動かし、その背後を取る。少しずつ少しずつディフェンダーをおびき寄せ、本来いるべきポジションから誘い出し、3人目、4人目と絡みながら背後を取っていきます。ボール回しの中心はアーリア、小林、そして最前線から降りてくるシャビエルで、この3人が中央でトライアングルをつくりながらパス交換して他の選手の動き出しを待ちます。すると、浦和の中盤の選手を誘うことは出来るものの、最前線ではジョーが一人で待っている状態です。これをサポートするのが、両SHの玉田と児玉の役割でした。

f:id:reds96:20180721164151j:image

玉田と児玉、特に前半は児玉が、後半は玉田も、躊躇なくトップ下の位置に入り込み、そのまま流れで逆サイドのライン裏に走り込むような動きもありました。こうなると、浦和の中盤の選手が名古屋の中央の3枚のパス交換に迂闊に「目を奪われる」と、その背後で児玉、玉田という狭いスペースでプレーの出来るドリブラーバイタルエリアを使われてしまいます。それは困るので橋岡が児玉を気にすると、大外から和泉が駆け上がって橋岡の背後を狙う。このように、名古屋は相手の背後を取る個人技に加えて、ダイナミックにデザインされた攻撃を持っていました。実際に、9分にはサイドチェンジで大外の和泉が受けると中央からハーフスペースに飛び込んだ児玉に落とし、児玉がエリア内で勝負という場面や、18分、26分
には上の図の通りの和泉の走り込みにシャビエルの高精度なサイドチェンジが通り、ヘディングで中に折り返されるという場面、また21分にはジョーの落としを中央に入り込んだ児玉が拾って、自ら走り込んだシャビエルがポスト直撃のミドルを放つなど、再現性の高い攻撃を仕掛けていました。

浦和の守備はどうだったでしょうか。浦和の守備は5-4-1とも5-2-3とも取れる立ち位置で、武藤とマルティノスが少し高めにポジションしていました。いずれにしろファーストディフェンダーは興梠なのですが、名古屋は彼を取り囲むようにCBとボランチの4枚がパス交換し、さらにそこにシャビエルまで落ちてきて圧倒的な数的優位を築いています。この状態で、暑さもある中で興梠が追い回してもほとんど名古屋の攻撃を追い込んでいくことは出来ず、自由にボールを回されてしまう状態になっていました。一方で良かったことは、全員で守備をする、セットの守備ではしっかり構える、という共通認識が見えたことです。前述の通り名古屋は中盤にトライアングルを作ってパス交換しつつ他の選手の動き出しを待ちますが、これに焦れずに監視しつつ、自分の背後を簡単に使われないように我慢する意識がありました。時々、柏木が我慢できずにボールにアプローチしていく以外は。

 

キープレーヤーとなった柏木とアーリア

このように、自分たちの形で試合を作れていたのは名古屋だったと思います。浦和はビルドアップの最初(ストッパー→WBのパスコースが切られる)で詰まってしまうことが多く苦労しましたが、一方で柏木に良い形でボールが入るとマルティノスの裏抜けや武藤のダイアゴナルラン、興梠の裏抜けなど受け手のアクションを見逃さずにチャンスに出来ていたのではないでしょうか。特にマルティノスをハーフスペースランナーとして愚直なまでに裏に走らせる戦略は、単純ですが相手チームにとっては驚異になりそうです。3バックで最終ラインの安定性を取るのであれば、マルティノスの活かし方はこの形が一つの発見ではないでしょうか。

さて、試合が動いたのはセットプレーから。CKを遠藤が合わせて先生。中断明けの天皇杯でも松本相手にセットプレー二発で勝ち切った浦和は、またもセットプレーを活かすことに成功しました。その後の2点も含めて、浦和のCKの攻撃、名古屋の守備はほぼ同じでしたので、下記にまとめてみます。

f:id:reds96:20180721171646j:image

名古屋はニアゾーンとゴール正面にストーン部隊(黄色)が3枚構え、その他の選手はマンマークで対応します。(赤)。浦和側のポイントはGKの前に陣取る興梠で、彼がGKの飛び出しを妨害するとともに、ゴール前のこぼれ球に反応する役割でしょう。人選もふくめてよい役割だと思います。で、4on4になるマンマークのところですが、だいたい役割が決まっていて、橋岡はニア、マウリシオはファーでした。槙野と遠藤は、毎回違う所に飛び込んでいきます。これ以上詳しくは見ていきませんが、今節のコーナーからの3得点はナンバープレー(決まった動きによる作戦)ではなく、この4on4に勝ったことと、柏木のボールが素晴らしかったことが要因と見て良いと思います。事実、先制点も2点目も3点目も、得点にはならなかった最初の CKでも、アーリアと遠藤のマッチアップでアーリアが完全に遠藤を離してしまっていることが確認できます。名古屋としては先制された時点、遅くとも2点目が入るまでに、CKの守備のマッチアップを考え直したほうがよかったかもしれません。

また、名古屋の攻撃時でも、アーリアを中心にパス交換が行われるわけですが、風間監督としてはもう少しアーリアにサイドチェンジや相手の目線を変えるパスを期待していたのではないでしょうか。テクニックがあり近い所のパス交換を確実にこなくしてくれる一方で、前述の和泉を使った大きな展開がシャビエルの左足からばかりだったことが気になりました。この辺がエドゥアルド・ネット獲得に繋がっているのかもしれません。

一方で素晴らしいボールから3アシストを決めた柏木も、守備面ではオリヴェイラ監督の泣き所となるかもしれません。先制した浦和ですが、前半終了間際に失点。原因の一端は柏木がジョーに不用意に寄ってバイタルを空けてしまったことで間違いないのでしょう。名古屋相手故に相手のボール回しへの我慢強い対応が必要でしたが、時折柏木が我慢できずに持ち場を離れてプレッシングに行くシーンが散見されました。

ただ、この失点シーンに限っては、先制したことからか浦和がそれまで以上に待ち構える守備になってしまったこと、上述のように名古屋の中央のトライアングルを全く制限できていなかったこと、青木がサイド裏に走り込む小林についていかざるを得なかったこと、2分以上も名古屋にボールを回されていたので、柏木としては視野が制限されているジョーのところでダブルチームを仕掛けて流れを切りたかったことは理解できます。また、柏木が剥がされてシャビエルが侵入してきた際に、武藤がバイタルを埋めることも出来たのですが、武藤がシャビエルのミドルよりも大外裏に走り込んだ和泉のケアを選んでいます。これも、それまでの展開を考えると非常に論理的で、シャビエルから大外の和泉、和泉の折り返しにジョーが合わせる形を危険だと判断したのでしょう。シャビエルのミドルはマウリシオに当たって入ってしまいましたが、その瞬間瞬間の選手の判断を考えると、時間帯は嫌だったものの仕方ない失点かな、という感じです。

f:id:reds96:20180721174403j:image

 

後半の展開

後半も、両チームの狙いや動きはほぼ前半を踏襲したものでした。名古屋は玉田がより積極的に中央に入り込んでプレーし、シャビエル→和泉の大外への展開からの和泉のシュートなど、良いシーンは多かったです。一方浦和はマルティノスの裏抜けや柏木→興梠のホットラインで名古屋の背後をつく構えで落ち着いてゲームを進め、セットプレーでアーリアvs遠藤の勝負に三度勝ち切って得点を重ねました。面白かったのは両チームの采配で、宇賀神に変えて阿部とオリヴェイラ監督が名古屋の中央でのパス交換に対応するための中央固めのための手を打ったのに対し、名古屋は守備時SB、攻撃時大外裏抜けランニングというブラック部活もびっくりの仕事量を課されていた和泉、そして攻守に隙間を埋めるべく休む暇のなかった両SHを交代と、あくまで当初の戦い方を継続していました。このあたりは監督の性格も現れるところで、風間監督としては攻撃時のギミックに手応えを感じていたのでしょう。一方でオリヴェイラ監督は名古屋のやり方を見極めた上で自分たちの形を調整したと言えます。

実際、阿部を投入して5-3-2にすると、浦和の中盤3枚のマークは名古屋が中央で作り出すトライアングルに対応します。しかも両方のSBを上げて攻撃する名古屋にたいして、2トップを残すことで名古屋の最終ラインに2on2を仕掛け、カウンターの威力も増しました。このあたりからやり方が明確になり、後半67分以降は浦和が名古屋に圧力をかけながら優位に試合を進めていたと思います。というわけで、ダイナミックな攻撃をしかけた名古屋は美しく散り、重心の低い守備からセットプレーで得点を重ねた浦和が勝ち点3を手に入れた試合となりました。

 

オリヴェイラ・イズムが垣間見れた試合

中断期間を活用して4バックを浸透させるかと思われた浦和ですが、蓋を開けてみれば3バックを継続し、ミシャサッカーの3-4-2-1に戻ってきてしまいました。ただし、ここまで観てきたように、その戦い方とフィロソフィーはミシャのそれとは全く異なります。やはりオリヴェイラとしては最終ラインに良い選手が揃う浦和のスカッドを十分活かしたいと考えているのでしょう。実際、槙野、マウリシオ、遠藤の3バックの質はリーグでも随一ではないでしょうか。また、サイズのある橋岡がサイドのファーストチョイスのため、ここに阿部まで加わるとセットプレーの驚異は必然的に高まります。柏木という良いキッカーがいることもあり、セットプレーに力を入れるのも非常に合理的です。最終ラインの質を基盤にどっしりと構える守備ができるが故に、マルティノスを裏抜けマシーンとして使うという発想も面白かったです。マリノス時代とは違うプレーですが、ロングカウンターで威力を発揮できる選手を放置せずにチームに組み込む合理性、マルティノスに文句を言わせずにタスクを全うさせるコミュニケーションもオリヴェイラ監督の手腕なのかもしれません。

一方で、ビルドアップには工夫が少なく、どうしてもマウリシオや柏木の個人の能力が必要となっています。これまでの戦いを見てもこの辺りの構築に特別なものを持った監督ではないのでしょう。観る方も、試合を組み立てるのではなく、相手の攻撃を受け止めて刺し返すサッカーに変わっているのだという理解が必要かもしれません。そういう意味では、名古屋の良いところを受け切った上でこちらの強みを活かした今節はオリヴェイラ流・正面衝突で勝つ、ということなのかもしれません。

柏木が気にしていた流れからの得点は、今後のテーマだと思います。このサッカーではマルティノスに多くシュートチャンスがあるはずなので、彼の得点力が試されるかもしれません。新戦力のファブリシオがどこで使われるかわかりませんが、場合によっては今節終盤のような5-3-2もオプションになっていくのかなと思います。形にこだわりがある監督かと思いましたが、現状の戦力を活かす考え方の合理的な監督というのがよくわかりました。今後、ボールを保持させられた時の回答をどのように準備するのか気になりますが、取り敢えずはこの勝利で11位となったチームが、再び崩壊に向かうというシナリオを心配する必要は薄まったのではないかと思いました。

 

今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。