96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。 twitter: @urawareds96

浦和レッズの作文を久々に味わってみる。- 「二度目の2011年」の受け止め方

東アジアの舞台における最高の好敵手(と書いて「とも」と読む)のひとつ、上海上港をアウェイゴールの差で破り、2度目の優勝を果たした2017年以来となるアジア4強の座に辿り着いたその直後でした。浦和レッズ公式サイトは「浦和レッズを支えてくださる全ての皆さまへ」と題した文章、(以下「作文」と言う)を発表。突如として発表されたこの作文の主旨は、これまでの浦和レッズの戦いを振り返るとともに残りのシーズンへの意気込みを表明するものでした。

ということで、2019年9月17日の作文をじっくりと味わってみたいと思います。

 

完璧すぎるタイミング

まず注目すべきはそのタイミングです。1ヶ月以上に亘り勝利から遠ざかっている難しい状況の中で、久々に手にしたポジティブな結果。厳密に言えば勝利ではないものの、浦和サポーターとしてはここ数ヶ月で最も前向きな感情に浸れているその瞬間を狙ったリリースは、これまで数々の作文を世に送り出してきたクラブの有する独自の知見とノウハウに裏打ちされたものであり、これまで数多の作文に触れてきた歴戦のサポーターも「今かよ」と苦笑いを禁じ得なかったことでしょう。謝るなら相手の機嫌が良いときに限るという古今東西世渡りの鉄則を踏まえた完璧なタイミングでの発表そのものが味わい深く、作品そのものだけでなくその作品が置かれた環境までもが作品との境界を失い鑑賞の対象となるという点ではもはや現代アートの一種と認められるべきでは?との主張が関連学会では叫ばれているとかいないとか。

もちろん、万一(というか五分五分くらいで)突破できなかった時のための「ただひたすら不甲斐ない結果を平身低頭謝り倒すバージョン」が同じフォルダに名前をつけて保存されていたことは疑うまでもありませんが、報道によると「そのような文章の存在は承知していない」とのコメントが関連筋から伝えられている模様です。

 

目標の下方修正

さて注目の中身ですが、作文は概ね以下の構造で綴られています。

  1. ACL準々決勝の結果報告とお礼
  2. リーグやルヴァンカップでの予想を下回る結果へのお詫び
  3. 課題への現在の対処状況と今後への意気込み

この中でクラブ側が主旨としたかったのは3.の部分だと思いますが、

更にチームは、これからも天皇杯JリーグACLの闘いが続きます。

そしてJリーグでは是が非でもJ1残留を果たすとともに、1つでも上の順位をめざします。残りの試合を「一戦必勝」の気持ちで闘ってまいります。

チームは、監督・コーチ・全ての選手一人一人が、一試合一試合、浦和のために最後まで走り、闘い、貫きます。

浦和レッズを支えてくださる全ての皆さまへ」

http://www.urawa-reds.co.jp/clubinfo/%e6%b5%a6%e5%92%8c%e3%83%ac%e3%83%83%e3%82%ba%e3%82%92%e6%94%af%e3%81%88%e3%81%a6%e3%81%8f%e3%81%a0%e3%81%95%e3%82%8b%e5%85%a8%e3%81%a6%e3%81%ae%e7%9a%86%e3%81%95%e3%81%be%e3%81%b8/

と、良い感じに熱く意気込んでいる決意表明の中で、リーグ優勝を掲げたシーズン当初の目標を「J1残留を果たすとともに、1つでも上の順位を目指します。」と、しれっと下方修正しています。まあ中位グループがかなり詰まっているとはいえリーグでは現在15位と全く振るわないどころか思いっきり残留争いに頭からダイブしてるところをスロー再生されているみたいな成績となってしまっていることは紛れも無い事実なので、ここから「リーグ優勝はまだ諦めていません!」と元気いっぱい爽やかに宣誓されてもリアクションに困るだけではあるのですが。関連学会において「このような作文はその存在からして根本的に切ない構造にあることが多い」との研究結果が得られている通り、「僕たち残留争いしてますけど頑張ります!」と言われても「知ってるよ!」となる一方で、こういうわかりきった事をあえて宣言しないと「あいつら何も考えてないんとちゃうか」という無神経な批判も出てきてしまうのが世の常というもの。リーグ優勝を掲げたまま残留争いをするのもどうかと思いますので、茶番ではあるもののこれも必要な儀式ということなのでしょう。

そう考えると、日本のサッカー文化、というかJリーグ界隈においては試合前に審判団の名前が発表された時に誰の名前がでてもとりあえず「えーーーっ」と言っておくサポーターの習性とほぼ同じくらいにスタンダードとなっているこの作文文化ですが、海外のプロクラブもこういう作文を書くんでしょうか。日本の商習慣における「お客様は神様です」的な、フレーム化された結果明らかに行き過ぎている顧客第一主義の影響みたいなものからこういった習わしを考えてみるのも面白そうですが、たぶん誰も興味がないのでやめておきます。海外ではむしろ、サポーターグループがクラブの経営的決定やフーリガン対策等に対して「古き良きサポーター文化を毀損するものであり何ならいくとこまでいったるけ」的な声明文を出している印象があるのですが、たぶんこれは僕の偏見ではないかと思います。

 

今後の強化を見直すことの暗示 – 2011年の記憶

クラブが主旨としたかったのが3.の部分である事に対して、ファン・サポーターの立場から見過ごすことができないのは2.と3.の橋渡し的な役割を果たしている下記の一文でしょう。

日々行っている検証に加え、今シーズンのJリーグにおける低迷の原因や改善策を追求することの重要性も強く感じております。

浦和レッズを支えてくださる全ての皆さまへ」

http://www.urawa-reds.co.jp/clubinfo/%e6%b5%a6%e5%92%8c%e3%83%ac%e3%83%83%e3%82%ba%e3%82%92%e6%94%af%e3%81%88%e3%81%a6%e3%81%8f%e3%81%a0%e3%81%95%e3%82%8b%e5%85%a8%e3%81%a6%e3%81%ae%e7%9a%86%e3%81%95%e3%81%be%e3%81%b8/

クラブの中の人たちからすればこの部分をどういった表現にするかは最大の悩みであったのではないかと思いますし、修正履歴と上司からのコメントが集中した結果wordファイルがクラッシュし、もちろんバックアップなど取っていないので最初から作り直した結果全体のニュアンスがなんか最初と違う感じになってしまってしっくりこなくなってしまった担当者の苦悩は想像に難くありません(最近のofficeは自動バックアップが以前に比べてだいぶ優秀だと思いますけど)。上記の文章は現状をよく反省して次のシーズンに向けて対策を練っていますよ〜的なことを暗に示したいのだと思いますが、「低迷の原因や改善策を追求することの重要性を強く感じ」るのは会社として当然の営みであって、問われているのはその質なんですよ!?問題はフロント自身じゃないんですか!?!?!?わかってる!?!?、と大真面目に公式ツイッターアカウントにリプライを飛ばすのはやめておいた方が無難でしょう。これは「言わないわけにもいかないけど細かい内容は言えるわけないから、「残留争いで大変ですが頑張ります」くらい誰も否定できないことを言っておこう」的な文章(これこそが「作文」の本質なのは言うまでもありません)であり、極めて政治的なニュアンスを含むこの文章へのアンサーは、「日々行っている検証に加え、今シーズンのJリーグにおける低迷の原因や改善策を追求することの重要性が認識されたことにつき、了解した。」となります。

とはいえ、「了解した。」だけでしゃんしゃんでは身も蓋もないので、個人的な印象を共有するのであれば、これはまさに2011年の再来ですね、ということでしょうか。レッズサポーターの多くは2011年の記憶がないことがWHOの研究にて報告されていた気がするという説もあるため念のため確認すると、2011年の浦和レッズは…全く思い出せません。僕が無造作にネットで調べたところによると、どうやら2011年の浦和レッズはシーズンをリーグ15位で終えており、第33節で辛くも実質的な残留を決めるほどに不振のシーズンを過ごしたようです。全く覚えてませんけど。どうやら当時の浦和レッズは第26節終了時点で6勝10分10敗の勝ち点28、得点31、失点33の得失点差−2で15位であり、ちょうどこの時期はリーグ戦で5戦連続勝ちなしの3連敗中だったようで、これ今シーズンの話ですかね?

さて、記録上もどうやら2019シーズンと2011シーズンは酷似している状況のようですが、僕が話したかったのはもう少し定性的な話です。しばらく前に投稿した浦和レッズというクラブとその歩みについて考えたこと - 96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたことでも触れていますが、2011年というのは単に降格危機に陥った悪夢のシーズンというだけでなく、その不甲斐ない成績への反省から当時の強化部が後々のクラブのあり方に大きな影響を及ぼす大決断をするに至ったシーズンでもありました。シーズンオフの総括としてリリースされた当時の作文をこの記事でも引用します。

浦和レッズ 2011シーズンの総括

浦和レッズは2011シーズンの総括をまとめましたので、その概要をお知らせ致します。
(中略)
[チーム]
今シーズンは、2008年シーズン終了後に掲げた「レッズスタイル」を次の段階に進めることを目指しました。「本当の意味で強くて魅力あるチーム」を構築し続けることを目的に、クラブと監督の目標や役割を共有する等チームマネジメントを育みながら長期的にチーム作りに取り組んでいくことを「レッズスタイル」と表現してきました。実際のピッチ上での戦術は、チームや試合の状況によって柔軟に対応するものの、勝利への執念をベースにイニシアチブ(主導権)を重視した闘いを目指すものです。
新たに監督にペトロヴィッチ氏を迎え、昨年までに築いたものをベースに反省点を加味して、よりアグレッシブなサッカー、フェアプレーの追求、勝利への執念、チームマネジメントの強化等を掲げ臨みました。リーグでは、開幕ダッシュに失敗し、夏場には昨シーズンと同レベルの勝ち点まで挽回したものの、その後勝ち点を稼げない状況に陥りました。トレーニングで修正を続けましたが、戦術面等で昨シーズンまでに蓄えたものからの進化がなかなか見えず、厳しい内容のゲームも目立ちました。失点が少ないことは収穫でしたが、アグレッシブさが不足し、得点力がアップしない状況が続き、当初掲げた狙い通りのチームに成長したとは言えない状況でした。
(中略)
シーズン途中でチームを担う責任者2名を交替したこと自体大きな反省点です。監督選任、補強といったチームの編成機能に課題があったことが大きな要因と捉え、9月以降は強化部を中心に据えながらクラブ内で合議の上でこれらの作業を進める体制に急遽移行しました。
(中略)
[おわりに] 
ここ数年は世代交代や長期的に「強くて魅力あるチーム」をつくろうとしてきましたが、結果を残すことはできませんでした。
2012シーズンは、クラブの信認回復とともに、チームの立て直しを進めることが最大の目標です。近い将来、再び優勝を争えるよう、クラブ・チームを再建・再生させて参ります。
編成機能を強化し、可能な限り強化費用を確保します。成長が続く若手を登用しながらもその周りを実力ある選手が囲むようなバランスあるチームとなることを目指します。2012シーズンの監督をはじめチームの編成につきましては、決まり次第順次お知らせさせて頂きます。
浦和レッドダイヤモンズ

多くの皆様に夢・希望・幸せを提供するアジアを代表するような「地域の誇りとなるクラブ」を目指し続けるというビジョンを掲げながら、実現に向けた方向性がはっきり見えない現実を反省し、お詫び致します。
このビジョンへの推進役となる「強くて魅力あるチーム」づくりを、クラブの最優先事項として明確に掲げ、中・長期的視点で、肝となる監督を選任し、チームの再生を図ります。
残留争いで苦しいリーグ戦を終えた今シーズンでした。この経験を無駄にすることなく、終盤の横浜F・マリノス戦やアビスパ福岡戦で見せた「浦和レッズの執念」を種火として、再び燃え盛る勢いを取り戻すよう結束して挑戦し続けます。
浦和レッドダイヤモンズ

代表    橋本 光夫

浦和レッズ 2011シーズンの総括
http://www.urawa-reds.co.jp/topteamtopics/%E6%B5%A6%E5%92%8C%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%BA%E3%80%802011%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%B7%8F%E6%8B%AC/

当時の作文から読み取れる2011年当時の状況を強引に要約すると以下の通りにまとめられるでしょうか。

  1. 補強が期待外れに終わり、世代交代が進まなかった
  2. 実績を持つ監督を用意できなかった
  3. 「レッズスタイル」を表現できず、しかも勝てず、ヤバい

これ、本当に今シーズンの状況と酷似していないでしょうか。もちろんこの状況に至った背景とストーリー、そして舞台に立つ演者には違いがありますが、まとめてしまえば、「主力選手の世代交代が迫る中、目指すべき浦和レッズのサッカーを曖昧に定義し追求しようとした結果、勝てなくなると同時に迷子になっちゃいました」というもの。つまり我々は今、文脈的には「2度目の2011年を過ごしている」と位置付けられないでしょうか。

ご存知の通り、「前回の」2011シーズンの顛末は、ギリギリでの残留という散々な結果に大反省した当時の浦和フロントが苦難の末にJリーグでの経験が豊富で浦和を指揮することに極めて前向きな反応を示していたミシャとの契約にこぎつけ、その後は(強引に言えば)ミシャ・サッカーをレッズのサッカーと定義する論理の下、彼のチーム作りを全面的にサポートすることでチームは生まれ変わり、リーグの強豪として優勝争いに加わっていく…というものでした。

それでは、「2度目の2011年」である2019シーズンの先に、浦和は「次のミシャ」に出会うことになるのでしょうか。

 

拭いきれない疑念と、僕たちが出来ること

答えは誰にもわかりません。というかその前にまず残留しないと始まりません。その上で、2019年を「2度目の2011年」、そして2020年が「二度目の2012年」であると考えるとき、浦和は今シーズンのオフに、「前回の2011年」オフシーズンに先送りした宿題に直面することになります。言い換えれば、根本的に浦和の課題は変わっていないと言えるのかもしれません。それはフロントの主体性とも言えるし、実行能力とも言えるもの、つまり、フロント自らが浦和のサッカーのあるべき姿を描くことができていないというものです。

もちろん、「次のミシャ」を見つけてきて、7年前(!)にはじめたのと同じように全面的に「次のミシャ」をサポートすることで結果を出せるチームはできるかもしれません。ミシャに全てを任せ、彼を信じ二人三脚の末に勝ち点74を積み上げた2016シーズンなどは浦和の成功体験とも言える実績であり、これはこれで財産であるとも言えます。もっと言えば、「次のミシャ」を連綿と引き当て続けることができれば(そして「次のミシャ」と「次の次のミシャ」の間のギャップをもしもフロントが主体的にマネージできるのであれば)、それはそれで強化戦略になり得るとも言えます。

一方で、2011年のオフにミシャを見つけて以来棚上げされた問題がミシャとの別れとともに徐々にその頭をもたげてくるというこの感覚を、はたして無視して良いのでしょうか。

全てのことは濃淡であり、チーム作りをどの程度監督に投げるのか、どの程度クラブが握るのかはケースバイケースとしか言いようがありません。しかしどうしても目を逸らしきれないこのひっかかりは、その濃淡をクラブが主体的にマネージできていないのではないかという拭いきれない疑念(さらにこれが浦和レッズというクラブが組織として構造的に抱える持病ではないかというのは例の記事に書いた通りです)であり、さらに言えばこの根源的な課題に対してプロのGMとして中村氏を再招聘したにも関わらず明確な回答を見いだせていないという純然たる事実なのです。

こうした状況の中で、僕たちファン・サポーターが出来ることは限られていることは言うまでもありません。僕たちはおそらく、理想の浦和のサッカーというものに民主的な最大公約数を見つけることはできないし、プロフェッショナルの世界で僕たち素人の意見がどこまで意味を持つのか、誰も答えは持ち合わせていません。

一方で、出来ることがないわけでもありません。クラブを信じられる限り、選手を信じられる限り可能な範囲でスタジアムに駆けつけること、立ち上がり歌うこと、頭の上で手を叩くこと、僕たちがどこに座っていようと、埼玉スタジアムを悪魔の巣たらしめること。そして、浦和レッズの取り組みに素直に反応し、浦和レッズと浦和のサッカーを語り続けること。良いと思えば結果に関わらず支え、悪いと感じれば叱咤激励するか、静かにスタジアムから距離を置く。そうした一つ一つの反応が、リーグ戦の平均入場者数が全盛期から1万人近く減って尚チケット収入とグッズ販売収入でリーグダントツの規模を誇る浦和を導くのであり、リーグ最高のロイヤリティを示し続けてきたサポーターの反応こそが浦和フロントにとっての生命線であることに疑いの余地はないのです。

であれば、僕たちファン・サポーター自身が浦和のサッカーたるものに対する良し悪しの判断基準を出来るだけ、自分なりに磨き続けることこそが重要ではないかと思います。もしかすると、ファン・サポーターの反応一つ一つが、「2度目の2011年」をどのようにして浦和レッズが乗り越えていくのかの鍵を握るのかもしれません。

 

今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。